(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
サーマルヘッドとプラテンとの圧接位置である熱転写ポイントを通過する印刷対象物に熱転写プリント処理を行う印刷部と、外周面に微少突起を有する搬送ローラとピンチローラとの間を通過する印刷対象物を搬送する印刷対象物搬送機構と、少なくともこれら印刷部及び印刷対象物搬送機構の作動を制御する制御部とを備え、印刷対象物のうち熱転写プリント処理が施される被プリント領域の始端が前記熱転写ポイントに一致する熱転写プリント開始可能位置まで印刷対象物を搬送した状態から熱転写プリント処理を開始する熱転写プリンタであって、
前記制御部が、
前記ピンチローラを前記搬送ローラの外周面との間に印刷対象物を挟んで圧接し得るピンチ位置から印刷対象物を前記搬送ローラとの間で挟まない非ピンチ位置に移動させたピンチ開放時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合に、前記サーマルヘッドを前記プラテンとの間に印刷対象物を挟まないヘッド退避位置に位置付けるとともに、前記ピンチローラを前記ピンチ位置に位置付けた状態で、印刷対象物のうち熱転写プリント処理時に前記搬送ローラと前記ピンチローラとの圧接位置であるピンチポイントを通過する被ピンチ領域を、熱転写プリント処理前に前記ピンチポイントを通過させることによって、前記被ピンチ領域に突起痕を形成する突起痕形成手段と、
前記ピンチローラを前記ピンチ位置に位置付け且つ前記サーマルヘッドを前記ヘッド退避位置に位置付けた状態で、前記突起痕形成手段によって前記被ピンチ領域に突起痕を形成した印刷対象物を前記熱転写プリント開始可能位置まで搬送するプリント開始可能位置搬送手段とを有し、
前記突起痕形成手段によって前記被ピンチ領域に突起痕を形成する処理と、前記プリント開始可能位置搬送手段によって印刷対象物を前記熱転写プリント開始可能位置まで搬送する処理とを連続して行うように構成し、且つ少なくとも前記被プリント領域に形成するプリント内容に関する情報を含むプリントコマンドに基づいて、同一の前記被ピンチ領域に対する前記突起痕形成手段による突起痕形成処理回数を決定するように構成していることを特徴としている熱転写プリンタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、外周面に微少突起を設けた搬送ローラを備えた搬送機構によって用紙を搬送しながら印刷部により熱転写プリント処理を施した場合においても、プリントされるべき位置から若干ずれた位置に熱転写プリント処理が施され、プリント品質が低下することがあった。特に、リボンの長手方向に沿って複数色のインクを所定の順番で塗布したインクリボンを用いて、1色目のインクを熱転写した用紙をバックフィードして、1色目のインクが熱転写された画像上に2色目のインクを熱転写してカラー画像を形成するいわゆる重ね印刷の場合には、1色目のインクを熱転写する位置と2色目のインクを熱転写する位置とがずれる現象(色ずれ)が生じれば、プリント品質は著しく低下してしまう。なお、単色のインクを用紙に熱転写する場合にも、上述したように、プリントされるべき位置から若干ずれた位置に熱転写プリント処理が施されれば、プリント品質は低下する。
【0006】
本発明者は、上述した不具合の原因を究明すべく、鋭意研究した結果、熱転写プリント処理時におけるサーマルヘッドと用紙との相対位置がプリントされるべき位置から変位してしまうケースが、給紙部に用紙をセットした時点以降において最初に熱転写プリントを行う時や、前回の熱転写プリント処理終了時点から所定時間経過後に再開した熱転写プリント処理時に比較的起こり易いことを突き止めた。そして、これら用紙セット後の最初の熱転写プリント処理時の直前や、熱転写プリント処理再開時の直前では、何れもピンチローラを搬送ローラとの間で用紙を挟まない位置に退避させている点に着目し、これまでに着想されることのない斬新な技術的思想を採用した本発明を想到するに至った。
【0007】
本発明の主たる目的は、熱転写プリント処理時に、搬送ローラとピンチローラとの圧接位置を通過する用紙等の印刷対象物に対してグリップ力を増大することで、プリントされるべき位置からずれた位置に熱転写プリント処理が施される位置ずれの発生を防止・抑制可能な熱転写プリント、及び熱転写プリンタの制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、サーマルヘッドとプラテンとの圧接位置である熱転写ポイントを通過する印刷対象物に熱転写プリント処理を行う印刷部と、外周面に微少突起を有する搬送ローラとピンチローラとの間を通過する印刷対象物を搬送する印刷対象物搬送機構と、少なくともこれら印刷部及び印刷対象物搬送機構の作動を制御する制御部とを備え、印刷対象物のうち熱転写プリント処理が施される被プリント領域の始端が熱転写ポイントに一致する熱転写プリント開始可能位置まで印刷対象物を搬送した状態から熱転写プリント処理を開始する熱転写プリンタに関するものである。
【0009】
ここで、本発明の「印刷対象物」は、印刷部のプリント方式に応じた各種印刷媒体を包含するものであり、狭義の「紙」に限定されず、印刷部によって印刷可能なものであれば紙以外のものであってもよく、ロール状に連続するものや、予め所定サイズに成形されたもの(例えばカット紙)であってもよい。また、微少突起は搬送ローラの外周面全体に形成されたものであってもよいし、搬送ローラの外周面の所定領域(例えば搬送ローラの軸方向両端部領域など)にのみ形成されたものであってもよい。「被プリント領域の始端」は、被プリント領域のうち、熱転写プリント処理時の印刷対象物搬送方向における下流端を意味する。
【0010】
そして、本発明の熱転写プリンタは、制御部として、突起痕形成手段及びプリント開始可能位置搬送手段を有するものを適用し、以下に詳述するように、制御部が、突起痕形成手段による突起痕形成処理と、プリント開始可能位置搬送手段によるプリント開始可能位置搬送処理とを連続して行うように構成
するとともに、少なくとも被プリント領域に形成するプリント内容に関する情報を含むプリントコマンドに基づいて、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理回数を決定するように構成していることを特徴としている。
また、本発明の熱転写プリンタは、制御部として、突起痕形成手段及びプリント開始可能位置搬送手段を有するものを適用し、制御部が、突起痕形成手段による突起痕形成処理と、プリント開始可能位置搬送手段によるプリント開始可能位置搬送処理とを連続して行うように構成するとともに、少なくとも印刷対象物の個体情報に基づいて、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理回数を決定するように構成していることを特徴としている。
また、本発明の熱転写プリンタは、さらに、印刷対象物の温度を直接的又は間接的に検出する温度検出部を備え、制御部として、突起痕形成手段及びプリント開始可能位置搬送手段を有するものを適用し、制御部が、突起痕形成手段による突起痕形成処理と、プリント開始可能位置搬送手段によるプリント開始可能位置搬送処理とを連続して行うように構成するとともに、温度検出部による検出情報に基づいて、同一の前記被ピンチ領域に対する前記突起痕形成手段による突起痕形成処理回数を決定するように構成していることを特徴としている。
【0011】
突起痕形成手段は、ピンチローラを搬送ローラの外周面との間に印刷対象物を挟んで圧接し得るピンチ位置から搬送ローラとの間に印刷対象物を挟まない非ピンチ位置に移動させたピンチ開放時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合に、サーマルヘッドをプラテンとの間に印刷対象物を挟まないヘッド退避位置に位置付けるとともに、ピンチローラをピンチ位置に位置付けた状態で、印刷対象物のうち熱転写プリント処理時に搬送ローラとピンチローラとの圧接位置であるピンチポイントを通過する被ピンチ領域を、熱転写プリント処理前にピンチポイントを通過させることによって、被ピンチ領域に突起痕を形成する手段である。ここで、「突起痕」とは、ピンチポイントを通過した印刷対象物のうち搬送ローラに密着した面に微少突起が食い込む(突き刺さる)ことによって生じる痕(食い込み痕)のことである。また「ピンチローラをピンチ位置から非ピンチ位置に移動させたピンチ開放時点」としては、直近の熱転写プリント処理を終了した時点(直近プリント処理終了時点)や、印刷対象物を給紙部にセットした時点(印刷対象物セット時点)を挙げることができる。
【0012】
また、プリント開始可能位置搬送手段は、ピンチローラをピンチ位置に位置付け且つサーマルヘッドをヘッド退避位置に位置付けた状態で、突起痕形成手段によって被ピンチ領域に突起痕を形成した印刷対象物を熱転写プリント開始可能位置まで搬送する手段である。
【0013】
本発明の熱転写プリンタでは、印刷部による熱転写プリント処理が、ピンチローラをピンチ位置から非ピンチ位置に移動させたピンチ開放時点以降において最初に行う熱転写プリント処理である場合であれば、その熱転写プリント処理を行う前段階において、サーマルヘッドをヘッド退避位置に位置付けるとともにピンチローラをピンチ位置に位置付け、印刷対象物のうち被ピンチ領域に対して突起痕形成手段で突起痕を形成するようにしている。ここで、印刷対象物のうち熱転写プリント処理時にピンチポイントを通過する領域である被ピンチ領域は、例えば制御部に入力されるプリントコマンドに基づいて特定することが可能である。そして、本発明の熱転写プリンタは、このように突起痕形成手段によって被ピンチ領域に突起痕を形成した処理に引き続いて、サーマルヘッドをヘッド退避位置に位置付けるとともにピントローラをピンチ位置に位置付けたまま、プリント開始可能位置搬送手段により印刷対象物を熱転写プリント開始可能位置まで搬送する。本発明において、突起痕形成処理時の印刷対象物搬送方向と、プリント開始可能位置搬送処理時の印刷対象物搬送方向は、同一方向であってもよいし、逆方向であってもよい。
【0014】
このように、突起痕形成手段による突起痕形成処理と、プリント開始可能位置搬送手段によるプリント開始可能位置搬送処理とを連続して行い、このプリント開始可能位置搬送処理に続いて熱転写プリント処理を行えば、熱転写プリント処理時にピンチポイント(搬送ローラとピンチローラとの圧接位置)において搬送ローラの微少突起が、突起痕形成手段によって形成された突起痕に確実に突き刺さる(食い込む)。その結果、本発明に係る熱転写プリンタであれば、熱転写プリント処理時に、サーマルヘッドとプラテンとの間に挟まれる印刷対象物に対して、それらサーマルヘッド及びプラテンとの摩擦抵抗(接触圧)よりも大きなグリップ力をピンチポイントで作用させることができ、熱転写プリント処理時の印刷対象物搬送精度が向上し、印刷対象物とサーマルヘッドとの位置が、プリント処理が施されるべき正規の位置から変位してしまう位置ズレの発生を防止・抑制することができ、プリント精度の向上を図ることができる。
【0015】
以上に述べた技術的思想を想到するに際して、本発明者は、位置ズレが発生する要因として、ピンチローラをピンチ位置から非ピンチ位置に移動させた後に、再度ピンチ位置に移動させて熱転写プリント処理を行う場合、印刷対象物のうちその熱転写プリント処理時に初めてピンチポイントを通過する部分に対して微少突起が適切に突き刺さらず、印刷対象物とサーマルヘッドとの接触圧よりも高いグリップ力を印刷対象物に作用させることができない点を見出した。そして、本発明者は、この点に着目して、ピンチローラをピンチ位置から非ピンチ位置に移動させた後に、再びピンチ位置に移動させて熱転写プリント処理を行う場合には、印刷対象物のうち熱転写プリント処理時にピンチポイントを通過する領域である被ピンチ領域がピンチポイントを通過するように印刷対象物を搬送することで被ピンチ領域に突起痕を予め形成しておき、且つその突起痕形成処理から熱転写プリント処理までの間、ピンチローラをピンチ位置に維持し続けておくことで、熱転写プリント処理時には、突起痕に微少突起が突き刺さることで印刷対象物に対する適切なスパイク機能を発揮し、印刷対象物搬送精度の高い本発明に係る熱転写プリンタを想到するに至った。
【0016】
また、本発明者は、印刷対象物の被プリント領域に形成するプリント内容によって、印刷対象物とサーマルヘッドとの接触圧が大きくなり易く、より一層強力なグリップ力を印刷対象物に付与する必要があることを突き止めた。しかしながら、印刷対象物に対するピンチローラの押圧力を過度に増強すれば印刷対象物に作用するダメージも当然大きくなり、適切であるとは言い難い。そこで、本発明では、制御部が、少なくとも被プリント領域に形成するプリント内容に関する情報を含むプリントコマンドに基づいて、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理回数を決定するように構成することができる。このような構成であれば、プリントコマンドに含まれる情報に基づき、印刷対象物とサーマルヘッドとの接触圧が大きくなる所定条件に該当するプリント内容である場合には、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理を複数回行うように決定することで、印刷対象物に対するピンチローラの押圧力を過度に増強することなく、熱転写プリント処理前に印刷対象物の被ピンチ領域に突起痕を適切に形成することができ、熱転写プリント処理にピンチポイントでこれら突起痕にそれぞれ搬送ローラの微少突起を確実に突き刺すことによって、印刷対象物に高いグリップ力を与えることが可能になり、印刷対象物搬送の精度ひいてはプリント品質の精度を向上させることができる。
【0017】
さらに、印刷対象物の種類や特性によっては一回の突起痕形成処理だけで被ピンチ領域に十分な突起痕を形成し難い場合が想定される。そこで、本発明の熱転写プリンタでは、少なくとも印刷対象物の個体情報に基づいて、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理回数を決定するように構成した制御部を適用することができる。このような構成であれば、印刷対象物が、その個体情報に基づき、一度の突起痕形成処理だけで被ピンチ領域に突起痕を形成し難い所定条件に該当する場合には、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理を複数回行うように決定することで、熱転写プリント処理前に印刷対象物の被ピンチ領域に突起痕を適切に形成することができ、上述と同様の効果を得ることが可能である。印刷対象物の個体
情報は、予め制御部に入力されていてもよいし、例えば印刷対象物に付帯させたRFタグ等に記憶された個体情報をプリンタに設けられるリーダで読み取り、その情報を制御部で利用するようにしてもよい。
【0018】
また、熱転写プリンタ内の温度に依存する印刷対象物自体の温度によっても、一回の突起痕形成処理だけで被ピンチ領域に十分な突起痕を形成し難い場合が想定される。そこで、本発明の熱転写プリンタでは、印刷対象物の温度を直接的又は間接的に検出する温度検出部を備え、制御部が温度検出部による検出情報(温度情報)に基づいて、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理回数を決定するように構成することもできる。このような構成であれば、温度検出部の検出情報に基づき印刷対象物の温度が、一度の突起痕形成処理だけで被ピンチ領域に突起痕を形成し難い所定温度以下に該当する場合には、同一の被ピンチ領域に対する突起痕形成手段による突起痕形成処理を複数回行うように決定することで、熱転写プリント処理前に印刷対象物の被ピンチ領域に突起痕を適切に形成することができる。その結果、熱転写プリント処理にピンチポイントでこれら突起痕にそれぞれ搬送ローラの微少突起が確実に突き刺さることによって、印刷対象物に高いグリップ力を与えることが可能な熱転写プリンタを実現することができ、印刷対象物搬送の精度ひいてはプリント品質の精度を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の熱転写プリンタの制御プログラムは、サーマルヘッドとプラテンとの圧接位置である熱転写ポイントを通過する印刷対象物に熱転写プリント処理を行う印刷部と、外周面に微少突起を有する搬送ローラとピンチローラとの間を通過する印刷対象物を搬送する印刷対象物搬送機構と、印刷対象物のうち熱転写プリント処理が施される被プリント領域の始端が熱転写ポイントに一致する熱転写プリント開始可能位置まで印刷対象物を搬送した状態から熱転写プリント処理を開始する熱転写プリンタに搭載されるコンピュータ又は熱転写プリンタに接続されたコンピュータに、ピンチローラを搬送ローラの外周面との間に印刷対象物を挟んで圧接し得るピンチ位置から印刷対象物を搬送ローラとの間で挟まない非ピンチ位置に移動させたピンチ開放時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合に、サーマルヘッドをプラテンとの間に印刷対象物を挟まないヘッド退避位置に位置付けるとともに、ピンチローラをピンチ位置に位置付けた状態で、印刷対象物のうち熱転写プリント処理時に搬送ローラとピンチローラとの圧接位置であるピンチポイントを通過する被ピンチ領域を、熱転写プリント処理前にピンチポイントを通過させることによって、被ピンチ領域に突起痕を形成する突起痕形成処理と、ピンチローラをピンチ位置に位置付け且つサーマルヘッドをヘッド退避位置に位置付けた状態で、突起痕形成手段によって被ピンチ領域に突起痕を形成した印刷対象物を熱転写プリント開始可能位置まで搬送するプリント開始可能位置搬送処理とを連続して実行させることを特徴としている。
【0020】
このような制御プログラムで熱転写プリンタの作動を制御することによって、上述した効果と同様の作用効果を得ることができ、熱転写プリント処理時にサーマルヘッドに対する印刷対象物の位置がプリントされるべき正規の位置からずれてしまう不具合を好適に解消することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ピンチローラを非ピンチ位置からピンチ位置に移動させた時点以降において最初に行う熱転写プリント処理の前段階で、その熱転写プリント処理時にピンチポイントを通過する印刷対象物の被ピンチ領域を、非ピンチ位置からピンチ位置に移動させたピンチと搬送ローラとの間、つまりピンチポイントを通過させて突起痕を形成し、その突起痕形成処理開始から熱転写プリント処理終了までの間、ピンチローラをピンチ位置に留めておくことによって、熱転写プリント処理時に突起痕に微少突起が寸分の狂い無く刺さり、印刷対象物に高いグリップ力を付与することができ、サーマルヘッドに対する印刷対象物の位置ズレを防止・抑制してプリント品質の低下を回避可能な熱転写プリンタ、及び熱転写プリンタの制御プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0024】
本実施形態に係る熱転写プリンタPは、
図1に示すように、給紙部1と、給紙部1から供給された印刷対象物たる用紙Sの表面(プリント面)に対して熱転写プリント処理を施す印刷部2と、排出口31を有する排出部3と、用紙Sを給紙部1と排出部3との間に形成される印刷対象物搬送路たる用紙搬送路L(搬送パス)に沿って搬送する用紙搬送機構4と、用紙搬送路L上において印刷部2よりも排出口31側に配置され且つ用紙Sをシート幅方向に切断可能な横切断部5とを備えたものである。
【0025】
用紙Sは、例えばインクリボンRの各色インク層やオーバープリント層が熱転写可能なシート状のものであれば特に限定されるものではなく、例えば用紙としてシール紙を適用することも可能である。なお、このプリンタPは、少なくとも給紙部1、印刷部2、用紙搬送機構4及び横切断部5を共通の筐体内に設け、排出部3を構成する排出口31や排出トレイ32を筐体外へ露出可能に構成している。
【0026】
また、本実施形態の熱転写プリンタPは、
図2に示すインクリボンR、すなわち、長尺のベースフィルムB上にイエロー・マゼンダ・シアンの各色インク層Y,M,Cとオーバープリント層OPとを長手方向に所定の順番で剥離可能に付帯させたインクリボンRを、用紙Sに重ねた状態で、相互に圧接可能な状態に対向配置したサーマルヘッド21とプラテン22との圧接点である熱転写ポイント2Pを通過させることによって、インクリボンRの各色インク層Y,M,C及びオーバープリント層OPを用紙Sに熱転写して、所望の画像をプリントすることが可能なものである。
【0027】
本実施形態で適用するインクリボンRは、
図2に示すように、ベースフィルムBにイエロー・マゼンタ・シアンの各色インク層Y,M,C及びオーバープリント層OPをそれぞれ塗布処理等によってベースフィルムBの長手方向に一定の順番で繰り返し付帯させたものである。具体的には、ベースフィルムB上に、熱転写処理時のインクリボンRの搬送方向Rt(以下「熱転写処理時インクリボン搬送方向Rt」と称す場合がある)下流側からイエローインク層Y・マゼンタインク層M・シアンインク層C・オーバープリント層OPをこの順番で繰り返し付帯させており、印刷部2による熱転写処理時には、イエローインク層Y・マゼンタインク層M・シアンインク層C・オーバープリント層OPの順番で用紙S上に熱転写可能に構成している。すなわち、ベースフィルムB上では、イエローインク層Y・マゼンタインク層M・シアンインク層C・オーバープリント層OPを1サイクルとして捉えることができ、各サイクルのオーバープリント層OPの上流側(熱転写処理時インクリボン搬送方向Rt上流側)には、次のサイクルのイエローインク層Yが塗布されている。
図2では、説明の便宜上、後述する剥離部24を省略しており、インクリボン搬送機構23の繰出用ガイドローラ232と巻取用ガイドローラ234との間における各色インク層Y,M,Cやオーバープリント層Roの数やサイズも実際のものとは異なる。なお、各色インク層Y,M,Cとしては、例えばそれぞれ熱によって昇華する染料又は顔料を用いて形成されたものを挙げることができる。
【0028】
給紙部1は、熱転写される面(プリント面)を外側に向けてロール状に巻回した用紙Sを収容し得るものである。なお、給紙部1として、熱転写される面(プリント面)を内側に向けてロール状に巻回した被転写シートを収容し得るものを適用してもよい。プリント面を外側に向けたロール状か、内側に向けたロール状かに応じてサーマルヘッド21と給紙部1との相対位置(プリント面にサーマルヘッド21の発熱体が対向し得る相対位置)を適宜設定すればよい。
【0029】
このような給紙部1と排出部3との間で用紙Sを搬送する用紙搬送機構4は、
図1に示すように、例えば給紙部1側から排出部3側に向かって順に配置された給紙側送りローラ41と第1ピンチローラ42との組、搬送ローラ43とメインピンチローラ44(本発明の「ピンチローラ」に相当)との組、排出側送りローラ45を用いて構成したものである。本実施形態では、搬送ローラ43とメインピンチローラ44との組を、印刷部2よりも給紙部1側に配置している。
【0030】
搬送ローラ43は、
図3に示すように、外周面に微少突起43aを形成した円筒形状又は円柱形状をなすものである。本実施形態では、搬送ローラ43の外周面うち軸方向両端部分に微少突起43aをそれぞれ多数設け、搬送ローラ43の外周面うち軸方向中央部分は平滑な面に設定している。
図3では、微少突起43aを不規則なパターンで形成した態様を例示しているが、微少突起43aを規則的に形成することも可能である。また、搬送ローラ43における微少突起43aの形成領域は適宜変更することができる。この搬送ローラ43は、用紙Sを給紙部1側から排出部3側に向かって搬送可能な方向と、用紙Sを給紙部1側に向かって搬送可能な方向に正逆回転可能な駆動ローラである。この搬送駆動ローラ43は、若干の撓み変形な金属部材(例えばステンレス鋼等)であることが好ましく、全体又は少なくとも表面部分が例えばエラストマー等の樹脂材料を併用したものであってもよい。
【0031】
メインピンチローラ44は、微少突起等が形成されていない平滑な外周面を有する円筒形状又は円柱形状をなし、若干の撓み変形な金属部材(例えばステンレス鋼等)であることが好ましく、全体又は少なくとも表面部分が例えばエラストマー等の樹脂材料を併用したものであってもよい。このメインピンチローラ44は、制御部6によって、搬送ローラ43との間に用紙Sを挟み得るピンチ位置(c)と、搬送ローラ43との間に用紙Sを挟まない非ピンチ位置(d)との間で移動可能に制御されている。そして、ピンチ位置(c)に位置付けたメインピンチローラ44は、搬送ローラ43の回転駆動に従動して回転する。なお、
図1では、ピンチ位置(c)に位置付けたメインピンチローラ44を実線で示し、非ピンチ位置(d)に位置付けたメインピンチローラ44を二点差線で示している。ピンチ位置(c)に位置付けたメインピンチローラ44が搬送ローラ43に接触する位置が、搬送ローラ43との間で用紙Sを挟むピンチポイント4Pになる。なお、ローラ自体の数、或いはローラとピンチローラとの組数や配置箇所は仕様等に応じて適宜設定することができる。
【0032】
印刷部2は、
図1に示すように、発熱体を有するサーマルヘッド21と、このサーマルヘッド21と対向する位置に配置され且つサーマルヘッド21との間で用紙Sを挟んで用紙搬送機構4の機能の一部を担うプラテン22と、インクリボンRをサーマルヘッド21とプラテン22との間に搬送するインクリボン搬送機構23と、サーマルヘッド21とプラテン22との間を通過して相互に密着した状態にある用紙SとインクリボンRとを剥離する剥離部24とを備えたものである。
【0033】
サーマルヘッド21は、プラテン22に直接圧接し得る部分に発熱体を備えたものであり、制御部6によって、プラテン22に圧接し得るヘッドダウン位置(a)(以下では「ヘッド圧接位置」と称する場合がある)と、プラテン22から離間して発熱体がインクリボンRに接触し得ないヘッドアップ位置(b)(本発明の「ヘッド退避位置」に相当)との間で移動可能に制御されている。なお、
図1では、ヘッドダウン位置(a)に位置付けたサーマルヘッド21を実線で示し、ヘッドアップ位置(b)に位置付けたサーマルヘッド21を二点差線で示している。ヘッドダウン位置(a)に位置付けたサーマルヘッド21の発熱体がプラテン22に接触する位置が、インクリボンRを用紙Sに熱転写する熱転写ポイント2Pになる。また、本実施形態では、プラテン22として、搬送ローラ43の回転動作に同期して正逆方向に回転可能なプラテンローラを適用している。
【0034】
また、インクリボン搬送機構23は、インクリボンRをロール状に巻回した状態で保持可能な供給側リボンコア231と、供給側リボンコア231に巻回しているインクリボンRを用紙搬送路L(搬送パス)に向かって繰り出す繰出用ガイドローラ232と、熱転写処理時の用紙Sの搬送方向St(以下、「熱転写処理時用紙搬送方向St」と称する場合がある)において上述の熱転写ポイント2P(サーマルヘッド21とプラテンローラ22との圧接位置)よりも下流側に配置され、熱転写処理に供されたインクリボンRを巻回した状態で保持可能な巻取側リボンコア233と、インクリボンRを巻取側リボンコア233に向かって搬送する巻取用ガイドローラ234とを備えたものである。
【0035】
このようなインクリボン搬送機構23により、熱転写処理時において、インクリボンRは、供給側リボンコア231から巻き出されて繰出用ガイドローラ232によって用紙搬送路Lに向かって案内され、用紙Sに密着した状態で熱転写ポイント2Pを通過した後に剥離部24を通過することによって用紙Sから剥離され、そのまま巻取用ガイドローラ234によって巻取側リボンコア233に向かって搬送され、巻取側リボンコア233に巻き取られる。この熱転写処理時のインクリボンRの搬送方向Rtは、熱転写処理時用紙搬送方向Stと同一方向である。なお、本実施形態では、熱転写処理時用紙搬送方向Stを、給紙部1から排出部3に向かう搬送方向Su(この搬送方向を「排出搬送方向Su」と称す)とは逆の方向に設定しているが、熱転写処理時搬送方向を排出搬送方向Suと同じ方向に設定した熱転写プリンタPであってもよい。
【0036】
剥離部24は、熱転写処理時用紙搬送方向Stにおいてサーマルヘッド21より下流側に設けられ、サーマルヘッド21とプラテン22との間を通過したインクリボンRを用紙Sから剥離する剥離ポイントを規定するものである。本実施形態では、相互に重なった用紙S及びインクリボンRを熱転写処理時用紙搬送方向Stにおいて熱転写ポイント2Pよりも下流側の位置でインクリボンR側からプラテンローラ22に向かって押し付ける剥離用ローラを用いて剥離部24を構成している。ここで、剥離部24は、印刷部2の一部を構成するものであるが、インクリボンRの搬送経路を規定する機能に着目すれば、インクリボン搬送機構23の一部を構成しているものと捉えることもできる。また、本実施形態では繰出用ガイドローラ232と巻取用ガイドローラ234との間に剥離部24を設け、インクリボンRのうち繰出用ガイドローラ232と巻取用ガイドローラ234との間の部分をプラテン22側に押圧し、張り付いたインクリボンRと用紙Sとを剥離させている。
【0037】
排出部3は、
図1に示すように、排出口31と、排出口31から排出された用紙Sを受け取って収納する排出トレイ32とを備え、印刷部2により所望のプリント処理が施された用紙Sを所定サイズに切断したカット紙(用紙片)として排出口31から筐体外に排出し、排出トレイ32上に積み重ねた状態で載置し得るものである。
【0038】
横切断部5は、
図1に示すように、用紙Sのプリント面(オモテ面)側に配置した第1カッタ51と、用紙Sの背面(ウラ面)側に固定配置した第2カッタ52とを備え、制御部6の制御に従って第1カッタ51を第2カッタ52に摺動させて用紙Sの幅方向に走査させることで、用紙Sを幅方向に切断するものである。
【0039】
また、本実施形態に係るプリンタPでは、給紙部1、印刷部2、排出部3、用紙搬送機構4及び横切断部5の作動を制御部6によって制御している。そして、本実施形態に係る熱転写プリンタPは、以下の手段を有する制御部6によって印刷部2及び用紙搬送機構4の作動を制御するその制御仕様に特徴を有するものである。
【0040】
この制御部6は、熱転写プリンタP内に設けた内部メモリ又は外部記憶装置(熱転写プリンタPに有線または無線で接続した記憶装置)に記憶されたプログラム(本発明の「熱転写プリンタの制御プログラム」に相当)に従い、熱転写プリンタP内に設けたマイクロプロセッサのCPU等の各構成部品や各要素を作動させることによって、
図4に示すように、熱転写プリント処理よりも前の時点で、用紙Sのうち熱転写プリント処理時に搬送ローラ43とメインピンチローラ44との圧接位置(ピンチポイント4P)を通過する被ピンチ領域S1に突起痕を形成する突起痕形成手段61と、突起痕形成手段61により被ピンチ領域S1に突起痕を形成した用紙Sをプリント開始可能位置まで搬送するプリント開始可能位置搬送手段62と、プリント開始可能位置搬送手段62によりプリント開始可能位置まで搬送した用紙Sに対して熱転写プリント処理を行う熱転写手段63を少なくとも有するものである。ここで、「プリント開始可能位置」とは、用紙Sのうち熱転写プリント処理が施される被プリント領域S2の始端S21(具体的には被プリント領域S2のうち熱転写処理時用紙搬送方向Stにおける下流端)がプラテン22のうちヘッドダウン位置(a)に位置付けたサーマルヘッド21との間で用紙Sを挟み得る位置(熱転写ポイント2P)に一致する位置である。
【0041】
さらに、本実施形態における熱転写プリンタPの制御部6は、
図4に示すように、少なくとも形成すべきプリント画像に関する情報であるプリント画像情報を含むプリントコマンドを受け付けるプリントコマンド受付手段64と、プリントコマンドに含まれるプリント画像情報に基づいて用紙S上におけるプリント画像を形成すべき領域(以下「被プリント領域S2」と称す)を特定する被プリント領域特定手段65と、プリントコマンドに含まれるプリント画像情報に基づいて熱転写プリント処理時に搬送ローラ43とメインピンチローラ44との圧接位置(ピンチポイント4P)を通過する被ピンチ領域S1を特定する被ピンチ領域特定手段66と、突起痕形成手段61による突起痕形成処理を行う回数を決定する突起痕形成処理回数決定手段67を有している。
【0042】
突起痕形成手段61は、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)から非ピンチ位置(d)に移動させたピンチ開放時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合に、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けるとともに、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)に位置付けた状態で、用紙Sのうち被ピンチ領域特定手段66で特定した被ピンチ領域S1が熱転写プリント処理前にピンチポイント4Pを通過するように用紙Sを所定方向へ搬送させることによって、用紙Sの背面(ウラ面)のうち被ピンチ領域S1に相当する領域に搬送ローラ43の微少突起43aの食い込み痕(突起痕)を形成するものである。なお、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)から非ピンチ位置(d)に移動させたピンチ開放状態であるか否かは、例えばメインピンチローラ44の位置を検出するピンチローラ位置検出部(図示省略)から出力された検出情報を制御部6が受け付けることで特定することができる。また、「ピンチ開放時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合」としては、1つのプリントコマンドに基づく熱転写プリント処理終了後において最初に熱転写プリント処理を行う場合を挙げることができ、さらに具体的には、給紙部1に用紙Sをセットし終えた時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合や、1つのプリントコマンドを受け付けたタイミングから所定時間内に次のプリントコマンドを受け付けなかったと判断した時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合を挙げることができる。
【0043】
プリント開始可能位置搬送手段62は、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)に位置付け且つサーマルヘッド21をヘッドアップ位置(b)に位置付けた状態で、突起痕形成手段61によって被ピンチ領域S1に突起痕を形成した用紙Sを熱転写プリント開始可能位置まで搬送するものである。なお、「用紙を熱転写プリント開始可能位置まで搬送する」処理自体は「用紙の頭出し処理」とも称されるが、本実施形態でのプリント開始可能位置搬送手段62は、突起痕形成手段61によって被ピンチ領域S1に突起痕を形成した用紙Sを頭出し処理する点で、従来の用紙頭出し処理とは異なる。
【0044】
また、本実施形態における熱転写手段63は、複数色のインク層及び単一のオーバープリント層を有するインクリボンRを用いて熱転写プリントを行うものであり、被プリント領域特定手段65で特定した被プリント領域S2にインク層Y,M,Cを熱転写してカラー画像を形成するインク層熱転写手段631と、インク層熱転写手段631により形成したカラー画像上にオーバープリント層OPを熱転写するオーバープリント層熱転写手段632を有するものである。
【0045】
突起痕形成処理回数決定手段67は、被プリント領域S2に形成するプリント内容に関する情報(プリントコマンドに含まれるプリント画像情報)、用紙Sの個体情報、又は用紙Sの温度の何れか1つの情報に基づいて同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理回数を決定するものである。本実施形態では、プリントコマンドに含まれるプリント画像情報、用紙Sの個体情報、及び用紙Sの温度の全ての情報に基づいて同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理回数を決定する突起痕形成処理回数決定手段67を採用している。
【0046】
具体的に、突起痕形成処理回数決定手段67では、プリント画像情報に基づいて最初に熱転写する色インクの転写量が所定値よりも少ない場合に突起痕形成処理回数を複数回行うように決定する。これは、インクの転写量が多いほどサーマルヘッド21とインクリボンRとの接触圧が低く、用紙Sを熱転写時搬送方向Stへより小さい搬送力で搬送できる一方で、インクの転写量が少ないほどサーマルヘッド21とインクリボンRとの接触圧が高くなり、用紙Sを熱転写時搬送方向Stへの搬送により大きな搬送力が必要となる点を考慮し、突起痕形成処理回数を増やすことで、熱転写処理前の時点で被ピンチ領域S1に確実に突起痕を形成し、熱転写処理時には微少突起43aが突起痕に適切に突き刺さるように構成して、ピンチポイント4Pにおける用紙Sのグリップ力を増強することを目的とした処理である。
【0047】
また、突起痕形成処理回数決定手段67では、用紙Sの個体情報に基づいて用紙Sの硬度が所定値よりも高い場合に突起痕形成処理回数を複数回行うように決定する。これは、用紙Sが硬いほど微少突起43aが刺さり難く、突起痕を形成し難い点を考慮し、突起痕形成処理回数を増やすことで、熱転写処理前の時点で被ピンチ領域S1に確実に突起痕を形成し、熱転写処理時には微少突起43aが突起痕に適切に突き刺さるように構成して、ピンチポイント4Pにおける用紙Sのグリップ力を増強することを目的とした処理である。なお、用紙Sの個体情報は、ユーザが入力する用紙Sに関する情報に基づいて得ることが可能であったり、或いは各用紙Sに付帯させた記憶手段(RFタグなど)から用紙Sの特性情報を読み取ることで把握することが可能である。
【0048】
さらに、突起痕形成処理回数決定手段67では、用紙Sの温度が所定値よりも低い場合に突起痕形成処理回数を複数回行うように決定する。これは、用紙Sの温度が低いほど用紙Sの硬さが増し、微少突起43aが刺さり難く、十分な突起痕を形成し難い点を考慮し、突起痕形成処理回数を増やすことで、熱転写処理前の時点で被ピンチ領域S1に確実に突起痕を形成し、熱転写処理時には微少突起43aが突起痕に適切に突き刺さるように構成して、ピンチポイント4Pにおける用紙Sのグリップ力を増強することを目的とした処理である。本実施形態では、熱転写プリンタPの筐体内に用紙Sの温度を間接的に検出する温度検出部(図示省略)を備え、制御部6が温度検出部による検出情報に基づいて、同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理の回数を決定するように構成している。なお、用紙Sの温度を直接的に検出する温度検出部を備えた熱転写プリンタPであってもよい。
【0049】
次に、本実施形態に係る熱転写プリンタPの動作及び作用に関して、特に突起痕形成処理から熱転写プリント処理までの動作及び作用について
図5などを参照しながら説明する。
【0050】
本実施形態に係る熱転写プリンタPは、まず、ユーザの操作などによって入力されたプリントコマンドを制御部6のプリントコマンド受付手段64により受け付ける(プリントコマンド受付ステップ101、
図5参照)。プリントコマンドにはプリント画像情報が含まれている。このプリントコマンドのうちプリント画像情報に基づき、本実施形態に係る熱転写プリンタPは、制御部6の被プリント領域特定手段65により被プリント領域S2を特定する(被プリント領域特定ステップ102)。また、本実施形態に係る熱転写プリンタPは、制御部6によりプリントコマンドを受け付けたタイミングで、メインピンチローラ44が非ピンチ位置(d)にあるか否かを例えば位置センサなどのピンチローラ位置検出部によって検出し(ピンチローラ位置検出ステップ103)、その検出情報に基づいてメインピンチローラ44が非ピンチ位置(d)にある場合(Yes)には、当該受け付けたプリントコマンドに基づく熱転写プリント処理が、ピンチ開放時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合であることを特定して、被ピンチ領域特定ステップ104に進む。被ピンチ領域特定ステップ104は、プリントコマンドのうちプリント画像情報に基づいて被ピンチ領域S1を制御部6の被ピンチ領域特定手段66により特定するステップである。
【0051】
引き続いて、本実施形態の熱転写プリンタPは、プリントコマンドのプリント画像情報、用紙Sの個体情報、及び温度検出部の検出情報に基づいて被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理回数を決定する(突起痕形成処理回数決定ステップ105)。なお、プリントコマンドのプリント画像情報、用紙Sの個体情報、及び温度検出部の検出情報に基づいて被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理回数を決定する際、内部メモリ等の適宜の記憶部に、プリントコマンドのプリント画像情報、用紙Sの個体情報、温度検出部の検出情報、これら各情報ごとに突起痕形成処理回数をそれぞれ対応付けたテーブル情報を記憶させておき、このテーブル情報を個別に参照することで突起痕形成処理回数を決定するように構成してもよいし、プリントコマンドのプリント画像情報、用紙Sの個体情報、温度検出部の検出情報、これら各情報に対して重み付けを行い、突起痕形成処理回数を決定するように構成することもできる。以下では、突起痕形成処理回数を例えば2回に決定した場合について説明する。
【0052】
突起痕形成処理回数決定ステップ105で突起痕形成処理の回数を決定した後、本実施形態の熱転写プリンタPは、突起痕形成手段61により被ピンチ領域S1に突起痕を形成する(突起痕形成ステップ106)。この突起痕形成ステップ106は、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けておく一方でメインピンチローラ44を非ピンチ位置(d)からピンチ位置(c)に移動させた状態で用紙Sを所定方向に搬送することで、メインピンチローラ44と搬送ローラ43との圧接点であるピンチポイント4Pを通過する用紙Sに搬送ローラ43の微少突起43aを突き刺して、被ピンチ領域S1に突起痕を形成する処理である。突起痕形成ステップ106では、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けているため、突起痕形成処理中に用紙Sがプラテンローラ22上を通過した場合にもインクリボンRのインクが用紙Sに熱転写されることはない。また、前回のプリントコマンドに基づく熱転写プリント処理中にピンチポイント4Pを通過した用紙Sには突起痕が形成されているが、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)から非ピンチ位置(d)に移動させると、その時点までの微少突起43aと突起痕との相対位置関係は一旦解消される。つまり、ピンチ位置(c)から非ピンチ位置(d)に移動させたメインピンチローラ44を、再び非ピンチ位置(d)からピンチ位置(c)に移動させた場合に、その時点までに形成されている突起痕に搬送ローラ43の微少突起43aがぴたりと突き刺さる可能性は極めて低く、メインピンチローラ44を非ピンチ位置(d)からピンチ位置(c)に再び移動させた時点で微少突起43aによる新たな突起痕が用紙Sに形成される。
【0053】
図6以降の図面を参照しながら本実施形態の突起痕形成ステップ106について具体的に説明すると、例えば直近の熱転写プリント処理の終了後においてメインピンチローラ44をピンチ位置(c)から非ピンチ位置(d)に移動させた状態で(
図6参照)、本実施形態における突起痕形成処理を行わずに、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けるとともにメインピンチローラ44を非ピンチ位置(d)に位置付けた状態で、用紙Sを単純にプリント開始可能位置(被プリント領域S2の始端S21が熱転写ポイント2Pに一致する位置)に位置付けた場合(
図7参照)、この搬送工程中に用紙Sの背面(ウラ面)に突起痕が形成されることはない。この状態で、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)からヘッド圧接位置(a)に移動させるとともに、メインピンチローラ44を非ピンチ位置(d)からピンチ位置(c)に移動させて、用紙Sを熱転写方向Stへ搬送しながら熱転写ポイント2Pを通過する用紙Sに対して熱転写処理を行った場合、ピンチポイント4Pにおいて用紙Sに搬送ローラ43の微少突起43aが突き刺さり得るが、この時点で初めて突き刺すことになるため、適切に突き刺さらなかった場合には、用紙Sに対して十分なグリップ力を付与することができず、熱転写プリント処理時における用紙Sの搬送距離がずれてしまい、プリント品質の低下を招来し得る。なお、
図6以降の各図は、サーマルヘッド21及びメインピンチローラ44の動作や用紙Sの搬送処理を説明するものであり、インクリボンRやインクリボン搬送機構23、剥離部24等を省略している。
【0054】
上述の不具合は、本実施形態の突起痕形成ステップ106を経ずに用紙Sをプリント開始可能位置まで搬送する処理を、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けた状態でメインピンチローラ44をピンチ位置(c)に移動させた状態で行った場合にも生じ得る。つまり、
図6に示すように、例えば用紙Sの一端SA(用紙排出方向Suの端部)がプラテンローラ22よりも用紙排出方向Su側に位置付けられ、プリントコマンドに基づいて特定した用紙搬送方向St,Suにおける被プリント領域S2の寸法が、熱転写ポイント2Pとピンチポイント4Pとの離間寸法よりも大きい場合、
図8に示すように、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)に移動させ、その状態で
図9に示すように、プリント開始可能位置まで用紙Sを搬送すれば、用紙Sの背面(ウラ面)のうちピンチポイント4Pを通過した領域S10には突起痕が形成されるものの、その状態でサーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)からヘッド圧接位置(a)に移動させて用紙Sを熱転写方向Stへ搬送しながら熱転写ポイント2Pを通過する用紙Sに対して熱転写処理を行った場合、ある時点までは用紙Sのうち突起痕が形成された領域S10がピンチポイント4Pを通過するため、このピンチポイント4Pでは用紙Sに形成された突起痕に搬送ローラ43の微少突起43aが突き刺さる。しかしながら、ある時点を越えると、直前の用紙頭出し処理(用紙Sをプリント開始可能位置まで搬送する処理)によって直接突起痕が形成されていない領域に微少突起43aが初めて突き刺さることになる(
図10参照)。そして、熱転写プリント処理時に、直前の頭出し処理によって形成された突起痕に微少突起43aを突き刺すことができない領域が発生する事象に起因して、微少突起43aが用紙Sに適切に突き刺さらなかった場合には、ピンチポイント4Pで微少突起43aによる有効なスパイク機能を発揮することができず、用紙Sに対して十分なグリップ力を付与することができない結果、熱転写プリント処理時における用紙Sの搬送距離がずれてしまい、プリント品質の低下を招来し得る。
【0055】
そこで、本実施形態の熱転写プリンタPでは、上述のケース(突起痕形成ステップ106の開始前において用紙Sの一端SA(用紙排出方向Suの端部)がプラテンローラ22よりも用紙排出方向Su側に位置付けられ、プリントコマンドに基づいて特定した用紙搬送方向における被プリント領域S2の寸法が、熱転写ポイント2Pとピンチポイント4Pとの離間寸法よりも大きい場合)において、突起痕形成手段61により被ピンチ領域S1がピンチポイント4Pを通過するように用紙Sを搬送して、被ピンチ領域S1に突起痕を形成する。具体的には、
図11に示すように、被ピンチ領域特定手段66によって特定した被ピンチ領域S1のうち、突起痕形成ステップ106開始時においてピンチ位置(c)に位置付けたメインピンチローラ44と搬送ローラ43との間に挟まれる部分を初期ピンチ位置Siとすると、
図12に示すように、用紙搬送方向St,Suにおいてこの初期ピンチ位置Siを境界とする一方側の領域(例えば排出側領域S1x)がピンチポイント4Pを通過するように用紙Sを所定方向(例えば給紙部1側に向かう方向St)へ搬送する。これによって、被ピンチ領域S1のうち初期ピンチ位置Siから一方のエンド位置(例えば排出側エンド位置S11)に亘る領域(例えば排出側領域S1x)に突起痕を形成することができる(第1次突起痕形成ステップ)。次いで、
図13に示すように、被ピンチ領域S1の一方のエンド位置(例えば排出側エンド位置S11)から初期ピンチ位置Siを越えて他方のエンド位置(例えば給紙側エンド位置S12)に亘る領域がピンチポイント4Pを通過するように用紙Sを第1次突起痕形成ステップ106時の搬送方向とは逆方向(例えば排出部3側に向かう方向Su)に搬送する。これによって、用紙搬送方向St,Suにおいて初期ピンチ位置Siを境界とした一方側の領域(例えば排出側領域S1x)と、他方側の領域(例えば給紙側領域SPy)の両方に突起痕を形成することができる(第2次突起痕形成ステップ)。つまり、第1次突起痕形成ステップと第2次突起痕形成ステップを経て、被ピンチ領域S1の一方のエンド位置(例えば排出側エンド位置S11)から他方のエンド位置(例えば給紙側エンド位置S12)に亘って突起痕を形成することができる。もちろん、第1次突起痕形成ステップによって被ピンチ領域S1のうち給紙側領域SPyに突起痕を形成して、第2次突起痕形成ステップによって被ピンチ領域S1のうち排出側領域S1xに突起痕を形成するように設定することも可能である。
【0056】
なお、上述したケースは、初期ピンチ位置Siが被ピンチ領域S1の中途位置である場合に適用される突起痕形成処理であり、第1次突起痕形成ステップと第2次突起痕形成ステップの2段階の突起痕形成処理が必要であるが、初期ピンチ位置Siが被ピンチ領域S1の何れか一方のエンド位置と一致する場合(例えば排出側エンド位置S11と一致する場合)には、その初期ピンチ位置Siから、被ピンチ領域S1の他方のエンド位置(例えば給紙側エンド位置S12)に亘る領域がピンチポイント4Pを通過する用紙Sを所定方向へ搬送する一度の処理によって被ピンチ領域S1に突起痕を形成することができる。また、初期ピンチ位置Siが被ピンチ領域S1から外れた位置となる場合であっても、被ピンチ領域S1の一方のエンド位置(例えば排出側エンド位置S11)がピンチポイント4Pに到達する位置まで用紙Sを所定方向に搬送し、さらに他方のエンド位置(例えば給紙側エンド位置S12)がピンチポイント4Pに到達する位置まで用紙Sを同一方向へ搬送することによって被ピンチ領域S1に突起痕を形成することができる。
【0057】
そして、本実施形態では、突起痕形成処理回数決定ステップ105で決定した回数に応じて突起痕形成ステップ106(
図5参照)を繰り返して行う。したがって、突起痕形成処理回数決定ステップ105で決定した回数が「2」である場合には、突起痕形成ステップ106を2回行う。ここで、最初の突起痕形成ステップ106終了時点では、被ピンチ領域S1の何れか一方のエンド位置(例えば給紙側エンド位置S12)がピンチポイント4Pと一致しているため(
図13参照)、2回目の突起痕形成ステップ106は、そのエンド位置(例えば給紙側エンド位置S12)状態から他方のエンド位置(例えば排出側エンド位置S11)に亘る領域、つまり被ピンチ領域S1がピンチポイント4Pを通過するように用紙Sを所定方向へ搬送する(
図14参照)。ここで、2回目以降の突起痕形成ステップ106における用紙Sの搬送方向は、直前の突起痕形成ステップ106時(例えば3回目の突起痕形成ステップ106であれば2回目の突起痕形成ステップ106時)の搬送方向とは逆方向となる。
【0058】
このように、突起痕形成ステップ106を続けて複数回行うことにより、熱転写処理前の時点において用紙Sの被ピンチ領域S1に突起痕を確実に形成することができる。
【0059】
本実施形態の熱転写プリンタPは、
図5に示すように、突起痕形成処理回数決定ステップ105で決定した回数に応じた突起痕形成処理を行った否かを判断し(突起痕形成処理回数カウントステップ106)、突起痕形成処理回数決定ステップ105で決定した回数に応じた突起痕形成処理を行ったと判断した場合(Yse)、
図15に示すように、プリント開始可能位置搬送手段62によって、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)に位置付け且つサーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けた状態で、突起痕形成手段61によって被ピンチ領域S1に突起痕を形成した用紙Sを熱転写プリント開始可能位置まで搬送する(プリント開始可能位置搬送ステップ108)。
図14に示す例では、2回目の突起痕形成処理終了時点において、プラテンローラ22のうち熱転写ポイント2Pとなり得る位置に、用紙Sのうち熱転写プリント処理が施される被プリント領域S2の終端S22が一致している。したがって、プリント開始可能位置搬送ステップ108では、用紙Sのうち被プリント領域S2の始端S21をプラテンローラ22のうち熱転写ポイント2Pとなり得る位置に一致させるように用紙Sを所定方向(排出方向Su)へ搬送することになる。なお、
図15に示す例では、プリント開始可能位置搬送ステップ108の実行時に用紙Sの被ピンチ領域S1がピンチポイント4Pを再び通過するため、プリント開始可能位置搬送ステップ108が、複数回目の突起痕形成ステップ106を兼ねることになる。このことは、複数回目の突起痕形成ステップ106により、プリント開始可能位置搬送ステップ108を実現していると捉えることができる。
【0060】
そして、本実施形態の熱転写プリンタPは、プリント開始可能位置搬送ステップ108に続いて、被プリント領域特定ステップ104で特定した被プリント領域S2に対して熱転写手段63により熱転写処理を行う(熱転写ステップ109、
図5参照)。この熱転写ステップ109は、制御部6のインク層熱転写手段631によるインク層熱転写ステップと、制御部6のオーバープリント層熱転写手段632によるオーバープリント層熱転写ステップとからなる。
【0061】
インク層熱転写ステップは、被プリント領域S2に各色インク層Y,M,Cを熱転写してカラー画像を制御部6のインク層熱転写手段631により形成するステップである。(インク層熱転写ステップ)。本実施形態では、上述したように熱転写処理時用紙搬送方向Stが、給紙部1から排出部3に向かう排出搬送方向Suとは逆方向であるため、インク層熱転写ステップを実行する前の時点で、特定したプリント画像のサイズ(被プリント領域S2のサイズ)に応じて用紙Sをプリント開始可能位置搬送ステップ108によって熱転写ポイント2Pよりも排出部3側に搬送しておく必要がある。
【0062】
このインク層熱転写ステップでは、
図16に示すように、メインピンチローラ44をプリント開始可能位置搬送ステップ108終了後から継続してピンチ位置(c)に位置付けておく一方で、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)(ヘッドアップ位置)からヘッド圧接位置(a)(ヘッドダウン位置)に移動させて、被プリント領域特定ステップ104で特定した被プリント領域S2のサイズに応じて用紙Sを熱転写処理時用紙搬送方向Stへ搬送するとともに、インクリボン搬送機構23によってインクリボンRを用紙Sと同一方向へ搬送する。すると、サーマルヘッド21とプラテンローラ22との圧接位置である熱転写ポイント2Pにおいて、発熱体からの熱で先ず1色目の色インク層(本実施形態ではイエローの色インク層Y)を昇華させて用紙Sの被プリント領域S2に熱転写することができる。次いで、サーマルヘッド21をヘッドダウン位置(a)からヘッドアップ位置(b)に移動させて用紙Sを被プリント領域S2分だけバックフィード(排出搬送方向Suへ搬送)して、再びサーマルヘッド21をヘッドアップ位置(b)からヘッドダウン位置(a)に移動させた状態で発熱体からの熱で2色目の色インク層(本実施形態ではマゼンタの色インク層M)を昇華させて第1色目の画像の上に2色目の画像を重ねて熱転写する。このような動作をインク色の数に応じて繰り返すことにより、イエロー・マゼンタ・シアンの各色インク層Y,M,Cをこの順番(熱転写時のインクリボン搬送方向Rt下流側から上流側に並ぶ順番)で昇華させて、用紙Sのプリント面における被プリント領域S2に所望のカラー画像を形成する(印刷する)ことができる。この際、サーマルヘッド21の発熱体の温度を調整することにより印刷濃度のレベルを変化させた階調印刷を行うことができ、用紙Sの被プリント領域S2に高品質なカラー画像を印刷することが可能である。発熱体の温度調節や作動はプリントコマンドに含まれているプリント画像情報に基づいて制御部6によって制御される。
【0063】
引き続いて、本実施形態の熱転写プリンタPは、インク層熱転写ステップ形成したカラー画像上にオーバープリント層OPを制御部6のオーバープリント層熱転写手段632により熱転写する(オーバープリント層熱転写ステップ)。オーバープリント層熱転写ステップは、インク層熱転写ステップに準じた制御を制御部6が実行することによって実現できる。
【0064】
そして、本実施形態に係る熱転写プリンタPは、これらインク層熱転写ステップ及びオーバープリント層熱転写ステップからなる熱転写ステップ109を実行する前の時点で、突起痕形成手段61により用紙Sのうち熱転写ステップ109実行中にピンチポイント4Pを通過する被ピンチ領域S1に予め突起痕を形成しておき、突起痕形成ステップ106から熱転写ステップ109までの間、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)に継続して位置付けておくことによって、熱転写ステップ109実行中にはピンチポイント4Pにおいて搬送ローラ43の微少突起43aがそれら予め形成しておいた突起痕をなぞるように次々と突起痕に突き刺さり、良好なスパイク機能を発揮する。その結果、熱転写ポイント2Pにおいて用紙Sに作用する接触圧よりも大きいグリップ力をピンチポイント4Pにおいて用紙Sに作用させることでき、熱転写ステップ109の実行中に用紙Sを被プリント領域S2に応じた距離だけ適切に搬送することができる。したがって、ピンチポイント4Pにおいて用紙Sに対して適切なグリップ力を作用させることができないことに起因して生じる不具合、つまり、熱転写ステップ109実行中に用紙Sを被プリント領域S2に応じた距離だけ搬送することができず、用紙S上に位置ズレや色ズレが出現するという不具合を防止・抑制し、プリント品質の向上を実現することができる。
【0065】
本実施形態の熱転写プリンタPは、このような制御下で熱転写ステップ109を行い、オーバープリント層熱転写ステップに引き続いて、熱転写ポイント2Pを通過したインクリボンR及び用紙Sを厚み方向に積層した状態で熱転写処理時用紙搬送方向Stに沿って剥離部24まで搬送し、剥離部24に到達したインクリボンRを剥離部24の押圧作用によって用紙Sから剥離する処理(剥離ステップ110)を行う。次いで、本実施形態の熱転写プリンタPは、剥離部24を通過して用紙Sから剥離したインクリボンRをインクリボン搬送機構23の巻取用ガイドローラ234で巻取側リボンコア233に向かって搬送して、巻取側リボンコア233に巻き取る(インクリボンR巻取ステップ111)一方で、剥離部24を通過した用紙Sを排出部3側へ搬送して、横切断部5によって横切断処理(横切断ステップ112)を行う。なお、横切断ステップ112では、用紙Sの厚さ方向に対向配置した横切断部5の第1カッタ51と第2カッタ52を用紙Sの幅方向に走査させることで、用紙Sを幅方向に切断する。
【0066】
最後に、本実施形態の熱転写プリンタPは、横切断部5による横切断処理を終了すると、給紙部1でロール状に巻回されているロール状の用紙Sから分離した用紙(用紙片)を排出口31から排出して、排出トレイ32上に収容する(排出ステップ113)。
【0067】
以上の処理を経て、ユーザは所望のプリント画像が形成された(プリント処理された)用紙片を得ることができる。なお、ピンチローラ位置検出ステップ103において、メインピンチローラ44がピンチ位置(c)にある場合(No)には、当該受け付けたプリントコマンドに基づく熱転写プリント処理が、ピンチ開放時点以降において最初に熱転写プリント処理を行う場合ではないことを特定して、プリント開始可能位置搬送ステップ108に進み、熱転写ステップ109以降のステップを経ることで、ユーザは所望のプリント画像が形成された(プリント処理された)用紙片を得ることができる。
【0068】
このように、本実施形態の熱転写プリンタPでは、メインピンチローラ44をピンチ位置(c)から非ピンチ位置(d)に移動させたピンチ開放時点以降において最初に行う熱転写プリント処理である場合に、その熱転写プリント処理を行う前に、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けるとともにメインピンチローラ44をピンチ位置(c)に位置付け、用紙Sのうち被ピンチ領域S1に対して突起痕形成手段61で突起痕を形成するようにし、引き続いて、サーマルヘッド21をヘッド退避位置(b)に位置付けるとともにメインピンチローラ44をピンチ位置(c)に位置付けたまま、プリント開始可能位置搬送手段62により用紙Sを熱転写プリント開始可能位置まで搬送するように構成しているため、熱転写プリント処理時にピンチポイント4Pにおいて搬送ローラ43の微少突起43aが、突起痕形成手段61によって形成された突起痕をなぞるようにして確実に突き刺さる(食い込む)。その結果、本実施形態に係る熱転写プリンタPは、熱転写プリント処理時に、サーマルヘッド21とプラテン22との間に挟まれる用紙Sに対して、それらサーマルヘッド21及びプラテン22との摩擦抵抗(接触圧)よりも大きなグリップ力をピンチポイント4Pで作用させることができ、熱転写プリント処理時の用紙搬送精度が向上し、用紙Sとサーマルヘッド21との位置がプリント処理を施すべき正規の位置から変位してしまう位置ズレの発生を防止・抑制することができ、プリント精度の向上を図ることができる。
【0069】
また、本実施形態の熱転写プリンタPでは、制御部6が、被プリント領域S2に形成するプリント内容に関する情報を含むプリントコマンドに基づいて、同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理回数を決定するように構成しているため、用紙Sとサーマルヘッド21との接触圧が大きくなる所定条件に該当するプリント内容である場合には、同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理を複数回行うように決定することで、用紙Sに対するメインピンチローラ44の押圧力を過度に増強することなく、熱転写プリント処理前に用紙Sの被ピンチ領域S1に突起痕を適切に形成することができ、熱転写プリント処理にピンチポイント4Pでこれら突起痕にそれぞれ搬送ローラ43の微少突起43aを確実に突き刺すことによって、用紙Sに高いグリップ力を与えることが可能になり、用紙搬送の精度ひいてはプリント品質の精度を向上させることができる。
【0070】
さらに、本実施形態の熱転写プリンタPでは、制御部6が、用紙Sの個体情報に基づいて、同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理回数を決定するように構成しているため、一度の突起痕形成処理だけで被ピンチ領域S1に突起痕を形成し難い所定条件に該当する用紙Sである場合には、同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理を複数回行うように決定することで、熱転写プリント処理前に用紙Sの被ピンチ領域S1に突起痕を適切に形成することができ、上述と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
加えて、本実施形態の熱転写プリンタPでは、制御部6が、用紙Sの温度を直接的又は間接的に検出する温度検出部の検出情報(温度情報)に基づいて、同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理回数を決定するように構成しているため、用紙Sの温度が一度の突起痕形成処理だけで被ピンチ領域S1に突起痕を形成し難い所定温度以下に該当する場合には、同一の被ピンチ領域S1に対する突起痕形成手段61による突起痕形成処理を複数回行うように決定することで、熱転写プリント処理前に用紙Sの被ピンチ領域S1に突起痕を適切に形成することができ、上述と同様の作用効果を得ることができる。
【0072】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、搬送ローラとピンチローラ(メインピンチローラ)との組を、印刷部よりも給紙部側に配置した態様を例示したが、搬送ローラとピンチローラとの組を、印刷部よりも排出部側に配置した態様を採用することもできる。
【0073】
また、突起痕形成手段による突起痕形成処理時の印刷対象物搬送方向と、プリント開始可能位置搬送処理時の印刷対象物搬送方向は、同一方向であってもよいし、逆方向であってもよい。
【0074】
さらに、上述の実施形態では、突起痕形成処理の開始前において印刷対象物の一端(印刷対象物排出方向の端部)がプラテンよりも印刷対象物排出方向側に位置付けられている第1条件と、プリントコマンドに基づいて特定した印刷対象物搬送方向における被プリント領域の寸法が、熱転写ポイントとピンチポイントとの離間寸法よりも大きいという第2条件に該当するケースにおいて本発明の熱転写プリンタの作動及び作用効果を詳述したが、これら第1条件及び第2条件を満たさないケースにおいても、本発明の熱転写プリンタであれば上述の同様の作用効果を得ることができる。
【0075】
また、イエロー・マゼンダ・シアンの各インク層に加えて、又は代えて他の色のインク層を付帯させたインクリボンや、1サイクルにおけるインク層が1つであるインクリボン(単一色のインク層を付帯させたインクリボン)を用いる熱転写プリンタであっても構わない。
【0076】
さらに、印刷対象物を印刷対象物搬送方向に沿って切断して印刷対象物幅方向に分割可能な縦切断部を備えた熱転写プリンタであっても構わない。
【0077】
また、給紙部から供給される印刷対象物として印刷対象物搬送方向に予め所定サイズに切断されたカット紙を適用することも可能である。また、印刷対象物として、紙以外の素材(例えば樹脂製など)からなるものを適用してもよい。
【0078】
本発明の技術的思想は、印刷対象物の一方のみの面に熱転写プリント処理を施す片面プリンタは勿論のこと、印刷対象物の両面に熱転写プリント処理を施す両面プリンタにも採用することができる。
【0079】
また、上述した実施形態では、印刷部や印刷対象物搬送機構などのハードウェアを制御する制御部(コントローラ)を備えたプリンタを例示したが、プリンタの外部機器(プリンタに有線または無線で接続した演算機械など)が備えた制御部からの制御指令に基づいて印刷部や印刷対象物搬送機構などのハードウェアの作動を制御する態様であっても構わない。
【0080】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。