(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924085
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】レアアースの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20160516BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20160516BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20160516BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B3/24 101
C02F1/28 B
B01J20/34 G
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-85321(P2012-85321)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-213272(P2013-213272A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年3月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年10月10日にhttps://user.spring8.or.jp/apps/ja/expreport?act=detail&experimentReportId=10030のアドレスのウェブサイトに掲載されたSPring−8 User Experiment Reportにて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年10月10日にhttps://user.spring8.or.jp/apps/ja/expreport?act=detail&experimentReportId=10915のアドレスのウェブサイトに掲載されたSPring−8 User Experiment Reportにて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 嘉夫
(72)【発明者】
【氏名】宮地 亜沙美
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和博
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−172232(JP,A)
【文献】
高橋嘉夫ら,バクテリア及びDNAによるレアアースの吸着機構とそのレアアースの分離・回収への応用の可能性,BIO INDUSTRY,2011年 7月12日,Vol.28,No.8,p.42-49
【文献】
宮地亜沙美ら,バクテリアやDNAを用いたレアアースの分離・回収,第20回環境化学討論会講演要旨集,2011年 7月 1日,p.344-345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00,
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レアアースを含む溶液と白子とを混合して、前記レアアースを前記白子に吸着する吸着工程と、
前記吸着工程において作製した混合液から白子を回収する回収工程と、
回収した前記白子に酸性溶液を加えることにより、前記レアアースと前記白子とを分離する分離工程とを備えているレアアースの回収方法。
【請求項2】
前記吸着工程において、前記レアアースを含む溶液と前記白子との混合液を酸性にすることにより、前記レアアースを前記白子に吸着し、
前記分離工程において、前記白子に、前記混合液のpHよりも低いpHを有する酸性溶液を加えることを特徴とする請求項1に記載のレアアースの回収方法。
【請求項3】
前記吸着工程における前記混合液のpHは、3以上であることを特徴とする請求項2に記載のレアアースの回収方法。
【請求項4】
前記吸着工程よりも前に、前記白子を凍結乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレアアースの回収方法。
【請求項5】
前記回収工程において、遠心分離によって前記白子を前記混合液中に沈殿させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレアアースの回収方法。
【請求項6】
前記吸着工程において、2種以上のレアアースを含む溶液と前記白子とを混合して、前記2種以上のレアアースを前記白子に吸着し、
前記分離工程において、前記白子に前記酸性溶液を加えることにより、前記レアアースのうちの少なくとも1種を分離することを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のレアアースの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レアアースとレアアース以外の元素とを含む溶液からレアアースを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レアアース(希土類元素)は、周期表のランタンからルテチウムまでのランタノイド15元素と、スカンジウム及びイットリウムとからなる性質が類似する17元素の総称である。レアアースは、ハードディスク及び携帯電話等をはじめ、種々の製品の製造に不可欠な金属資源であり、需要に対して安定的に供給され得る必要がある。例えば、ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)及びサマリウム(Sm)は永久磁石等に用いられ、セリウム(Ce)は研磨剤及び触媒等に用いられている。また、イットリウム(Y)、ユウロビウム(Eu)及びテルビウム(Tb)は蛍光体等に用いられ、ランタン(La)は蛍光ガラス等に用いられている。
【0003】
しかしながら、レアアースは、その産出量が少なく、今後の需要の増加に伴う供給不足が懸念されている。また、レアアースは、その用途に応じて、用いられるレアアースがそれぞれ選択されるが、自然界において、鉱石の中に多くのレアアースの混合物として含まれているため、所望のレアアースを得るには目的の元素だけを分離する必要がある。但し、レアアースは、上記の通り、互いに化学的性質がよく似ているため、化学的性質の違いを利用した分離が困難である。
【0004】
このため、レアアースを安定的に供給できるようにするためには、既に使用された製品からのレアアースの回収、すなわちリサイクルも重要となる。レアアースとレアアース以外の物質とを含む混合物からレアアースのみを回収するためにも、レアアース同士の分離と同様の技術が必要となるため、レアアースの分離及び回収につながる技術の開発が求められている。
【0005】
レアアースの回収技術として、例えば特許文献1及び特許文献2には、レアアースを含む溶液に硫酸を加えることにより、レアアースを硫酸に溶解し、そのレアアースを硫酸塩として析出させて、レアアースを回収する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、レアアースを含む水溶液と抽出試薬を含む非水系の有機溶媒とを混合することにより、レアアースを有機溶媒に移動させ、有機溶媒中のレアアースを逆抽出して得る方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、イオン交換樹脂を用いたカラム法により、レアアースを分離及び回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−50168号公報
【特許文献2】特開2007−231378号公報
【特許文献3】特開平11−100622号公報
【特許文献4】特開2012−30139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のレアアースの回収方法では、強酸性の試薬及び有機溶媒等を用いるため、大量に処理を行うと環境に対して強い負荷がかかるという問題が生じる。また、レアアースを吸着又は抽出するための高額な試薬等が必要となるため、レアアースを大量に回収するには多大なコストがかかることとなる。
【0010】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境への負荷を低減すると共にコストを低減でき、簡便且つ高い効率でレアアースを回収できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究した結果、レアアースが白子に吸着することを見出して本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明に係るレアアースの回収方法は、レアアースを含む溶液と白子とを混合して、レアアースを白子に吸着する吸着工程と、吸着工程において作製した混合液から白子を回収する回収工程と、回収した白子に酸性溶液を加えることにより、レアアースと白子とを分離する分離工程とを備えている。
【0013】
本発明に係るレアアースの回収方法では、上記の通り、白子を用いている。白子は、フグ等の特定の魚のものは食品とされ、その他の用途として化粧品等にも用いられているが、その多くは産業廃棄物となっている。このため、本発明に係るレアアースの回収方法によると、高価な試薬等を用いることなく、コストが小さい白子を用いるのでコストを低減できる。また、本発明では、レアアースを回収するために、有機溶媒等を用いずに白子を用いるため、環境負荷を低減でき、さらに、簡便に高い効率でレアアース含有溶液からレアアースを回収することができる。
【0014】
また、本発明者らは、所定のpHを示す酸性条件下においてレアアースが白子に吸着すること、及びレアアースが白子に吸着したpHよりも低いpHの条件下においてその吸着が解かれて、レアアースと白子とを分離できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明に係るレアアースの回収方法では、吸着工程において、レアアースを含む溶液と白子との混合液を酸性にすることにより、レアアースを白子に吸着し、分離工程において、白子に、混合液のpHよりも低いpHを有する酸性溶液を加えることが好ましい。このとき、吸着工程における混合液のpHは、3以上であり、分離工程における酸性溶液のpHは、前記の混合液のpHよりも小さいことがより好ましい。
【0016】
また、本発明に係るレアアースの回収方法では、吸着工程よりも前に、白子を凍結乾燥することが好ましい。
【0017】
このようにすると、白子を長期保存することが可能となり、また、白子の処理が簡便となる。
【0018】
本発明に係るレアアースの回収方法では、回収工程において、遠心分離によって白子を混合液中に沈殿させてもよい。
【0019】
このようにすると、容易に混合液から白子を回収することができる。
【0020】
本発明に係るレアアースの回収方法では、前記レアアースを含む溶液には、2種以上のレアアースが含まれている場合、吸着工程において、2種以上のレアアースを白子に吸着し、分離工程において、白子に酸性溶液を加えることにより、レアアースのうちの少なくとも1種を分離してもよい。
【0021】
本発明に係るレアアースの回収方法によると、各レアアースの白子に対する吸着率のpH依存性の差を利用して、所定のpHを有する酸性溶液を用いることにより、レアアース同士を分離することも可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るレアアースの回収方法によると、環境負荷及びコストを低減することができ、簡便に且つ高い効率でのレアアース含有溶液からレアアースを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例におけるpH2及びpH4の条件下での白子に対する各レアアースの吸着率を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例における白子及び比較物質とに吸着したDyのEXAFSの動径構造関数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0025】
本発明に係るレアアースの回収方法は、レアアースが白子に吸着することを利用した方法である。すなわち、本発明に係るレアアースの回収方法は、レアアースを含む溶液と白子とを混合して、レアアースを白子に吸着する吸着工程と、吸着工程において作製した混合液から白子を回収する回収工程と、回収した白子に酸性溶液を加えることにより、レアアースと白子とを分離する分離工程とを備えていることを特徴とする。
【0026】
ここで、「レアアース」とは、希土類元素であり、周期表のランタンからルテチウムまでのランタノイド15元素と、スカンジウム及びイットリウムとの17元素をいう。
【0027】
また、「レアアースを含む溶液」とは、溶液中にレアアースを含んでいれば、その溶媒及び溶液中に含まれる他の溶質は限定されない。例えば、レアアースを用いる工場から排出される廃液等であっても構わない。
【0028】
本発明において、「白子」は、いかなる種類の魚類から得られたものであってもよいが、コストの観点から食品等に用いられていない安価で入手が可能な白子であることが好ましい。
【0029】
また、白子は、凍結乾燥されたものを用いることが好ましい。すなわち、吸着工程の前に、予め、白子を凍結乾燥しておくことが好ましい。このようにすると、白子の長期保存が可能となり、また、白子に対する種々の処理が簡便となる。
【0030】
本発明に係るレアアースの回収方法では、吸着工程において、レアアースを含む溶液と白子との混合液を酸性にすることによりレアアースを白子に吸着し、分離工程において、白子に混合液のpHよりも低いpHを有する酸性溶液を加えることが好ましい。また、吸着工程におけるレアアース含有溶液と白子との混合液のpHは、回収しようとするレアアースにより適宜変更でき、最適なpHを選択することができる。但し、混合液のpHは、酸性であって、特にpH3以上であることが好ましく、pH4程度であることがより好ましい。
【0031】
このようにすると、後に詳細に説明するが、レアアースは、pH4前後の条件下において白子に対する吸着率が極めて高く、多くのレアアースはpH2程度でその吸着率が顕著に低減するため、レアアースの吸着及び分離を容易に行うことが可能となる。その結果、レアアース及びレアアース以外の元素を含む溶液から、レアアースを容易に回収することができる。
【0032】
また、分離工程における酸性溶液のpHは、上記の通り、吸着工程におけるpHよりも低くする必要があるが、このときのpHも回収しようとするレアアースにより適宜変更でき、最適なpHを選択することができる。但し、調製のしやすさ等の観点からpH2程度であることがより好ましい。また、このようなpHを有する酸性溶液としては、例えば塩酸又は硝酸等を用いることができるが、これらに限られない。
【0033】
回収工程において、吸着工程で作製した混合液から白子を回収するには、例えば遠心分離器を用いることができる。白子が沈殿し且つ他の微細粒子が沈殿しない程度の回転数で混合液を遠心分離することにより、白子を混合液から回収することが可能となる。但し、ここで濾過等による他の回収法を用いても構わない。また、原理の異なる方法として、カラムクロマトグラフィーの充填剤に白子を直接用いることも考えられる。
【0034】
本発明に係るレアアースの回収方法は、例えば原子番号が小さいレアアースと大きいレアアースのように、白子に対する吸着率が異なるレアアース同士を分離するために用いることもできる。この場合、例えば、吸着工程において2種のレアアースを含む溶液と白子を混合することにより、上記と同様に、2種のレアアースを白子に吸着する。続いて、回収工程において、上記と同様に白子を回収する。その後、分離工程において、所定のpHを有する酸性溶液を白子に加える。ここで、酸性溶液のpHは、2種のレアアースのうちの一方を白子からより多く分離することができるpHである必要がある。例えば、2種のレアアースのうち、白子から一方がより多く分離し、他方はほとんど分離しないpHを予め選択し、そのようなpHを有する酸性溶液を白子に加えることにより、2種のレアアースを分離することが可能となる。なお、3種以上のレアアースを含む溶液を対象とする場合も同様に行うことが可能である。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明に係るレアアースの回収方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0036】
(白子の前処理)
まず、下記の試験に用いる白子の前処理について説明する。
【0037】
白子としてサケの白子を用意し、これを超純水により洗浄した後、セラミック包丁を用いて細かく切り、48時間凍結乾燥した。凍結乾燥後の白子を、めのう乳鉢を用いて20分間すり潰して粉末状にし、これを冷凍保存した。この粉末白子は、使用前に室温(約25℃)に戻した後に用いた。なお、このようにして得られた粉末白子は、常温でも5ヶ月以上腐敗することなく保存できた。
【0038】
(白子とレアアースとの吸着及び脱着試験)
次に、上記の白子を用いて、各種のレアアースと白子との吸着率のpH依存性について検討した。なお、本実施例では、プロメチウム(Pm)及びスカンジウム(Sc)を除く15種のレアアースを用いた。
【0039】
まず、超純水に20mgの白子と各2.0ppmの15種のレアアースを加えた混合溶液に、2.0MのNaCl(50μl)を加えて、イオン強度を0.01Mに合わせ、全量が10mlになるように溶液を調製した。また、この溶液のpHを少量のHCl及びNaOH溶液を用いて、pH4又はpH2に調整した。その後、この溶液を25℃で1時間振とうし、孔径が0.45μmのメンブランフィルタを用いて濾過した。濾液中のレアアースの濃度を誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)質量分析計を用いて定量した。定量した濾液中のレアアースの濃度と、pHの調整及び振とうを行う前の溶液の濃度(初期濃度)とを用いて、pH4及びpH2における各レアアースの白子に対する吸着率を次式から算出した。
【0040】
吸着率(%)=100×([REE]
init−[REE]
fil)/[REE]
init
ここで、上記式において、[REE]
initはレアアースの初期濃度であり、[REE]
filは濾液中のレアアース濃度である。上記のように定量して算出した各レアアースの吸着率の結果を
図1に示す。
【0041】
図1は、各レアアースに対して、上記振とうの条件として、pH4で1時間振とうしたもの、pH2で1時間振とうしたもの、及びpH4で1時間振とうした後にpH2で1時間振とうしたもの(図中のpH4→pH2)の3種の条件における結果を示している。
【0042】
図1に示すように、各レアアースは、pH4の条件下において、白子に対して約80%以上の吸着率を示した。また、pH2、及びpH4の後にpH2にした条件下においては、多くのレアアースがpH4の場合よりも白子に対する吸着率が低減した。特に、ランタン(La)及びセリウム(Ce)は、吸着率が約20%前後にまで低減した。このため、これらのレアアースは、pH4の条件下で白子と吸着し、pH2の条件下で白子と分離することにより、多量に回収することが可能となる。一方、ルチチウム(Lu)及びイッテルビウム(Yb)は、pH2の場合もpH4の場合と同等の吸着率を示した。このため、これらのレアアースは、pH2にすることにより白子から分離することは困難であるが、例えばLa及びCe等と共に所定の溶液に含まれている場合、これらと分離することは容易となる。
【0043】
(レアアースの回収試験)
次に、上記の白子を用いて、レアアース以外の金属とレアアースとを含む溶液からレアアースのみを分離する試験を行った。
【0044】
まず、超純水に鉄(Fe)並びにレアアースとしてネオジム(Nd)及びジスプロシウム(Dy)を含む溶液(Fe:Nd:Dy=11ppm:6ppm:3ppm)と2.0MのNaCl(50μl)とを加えて、イオン強度を0.01Mに合わせた溶液を調製した。この溶液に少量のHCl及びNaOH溶液を添加してpH4に調整し、全量を10mlとした。この溶液を、20mgの粉末白子が入っている遠沈管に加えて、25℃で1時間振とうすることにより、Fe、Nd及びDyを白子に吸着させた。その後、遠心分離(2000rpm×10分)により白子と上澄み液とに分けた。その上澄み液をPTFE(polytetrafluoroethylene)フィルタによりろ過して、白子に吸着されなかったFe、Nd及びDyをICP質量分析計を用いて定量した。
【0045】
Fe、Nd及びDyが吸着した粉末白子が入った遠沈管にpH2の塩酸を10ml加えて、25℃で1時間振とうすることにより、粉末白子に吸着した元素を白子から分離し、溶液中に回収した。その後、上記と同様に、白子から溶液中に脱着したFe、Nd及びDyをICP質量分析計を用いて定量した。
【0046】
2回目のサイクルとして、この回収した溶液に少量の塩酸やNaOH溶液を加えてpH4に調整し、新しい粉末白子を加えて再び吸着を行った。その後、上記と同様の工程を行い、粉末白子に吸着した元素を白子から分離し、溶液中に回収した。その後、上記と同様に、白子から溶液中に脱着したFe、Nd及びDyをICP質量分析計を用いて定量した。各元素が白子から分離して溶液に脱着した割合を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、1回目のサイクル及び2回目のサイクルの両方において、FeよりもレアアースであるNd及びDyのほうが、白子から分離して溶液中に脱着した割合が極めて高かった。その結果、最終的な回収率もレアアースであるNd及びDyが極めて高かった。この結果から、本発明に係るレアアースの回収方法によると、レアアースとレアアース以外の元素とを含む溶液から、レアアースを選択的に回収することができることが示された。
【0049】
(X線吸収微細構造(EXAFS:extended X-ray absorption fine structure)測定)
次に、レアアースと白子との吸着機序についてEXAFS法を用いて検討した。本実施例では、白子の他に比較物質(リン酸基を模擬した物質)として、官能基に単座リン酸基を持つセルロースであるCellulose Posphate(CP)と、ジエチルヘキシルリン酸を含む疎水性支持体に覆われた樹脂であり、官能基に多座リン酸基をもつLn resinとを用いた。これは、現在、レアアース同士の相互分離に使われている溶媒抽出剤であり、高い分離能を有する。また、レアアースとしてDyを用いた。
【0050】
まず、白子、Dyを0.01M含む溶液(10mM/g)及び2.0MのNaCl(50μl)を混合し、イオン強度を0.01Mに合わせた溶液を作製した。作製した溶液に対して、微量の塩酸又はNaOH溶液を用いて目的のpHに調整し、全量を10mlとした。具体的に、白子20mg、0.01MのDy溶液0.2mlを含みpH3に調整した溶液を試料として作製した。また、比較物質においては、CP60mg、0.01MのDy溶液0.6mlを含みpH4に調整した試料、及びLn resin20mg、0.01MのDy溶液0.1mlを含みpH4に調整した試料を作製した。これらの溶液を25℃、1時間振とうさせた後、PTFEフィルタでろ過して白子と上澄みを分けた。回収した白子又は比較物質を数回超純水で洗浄した後、EXAFS分析を行った。EXAFSの測定は、SPring−8ビームラインBL14B2及びBL01B1を用いて行った。その測定結果を
図2に示す。
【0051】
図2に示すように、白子、CP及びLn resinのいずれを用いた場合でも、R+ΔR=1.9付近とR+ΔR=3.4付近とにピークが見られた。
【0052】
これらのピークは、非経験的実空間多重散乱法を使って与えられたクラスターにおける電子状態とX線吸収スペクトルを同時に計算するプログラムであるFEFFにより得られたパラメータを用いたフィッティングにより、それぞれの散乱は酸素(O)とリン(P)とであることがわかった。
【0053】
この結果から、レアアースは白子に含まれるリン酸基に結合していることが示唆され、特に、DNAに結合していることが示唆された。さらに、DyはpH3の条件下であってもリン酸基を介して白子と吸着することも示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るレアアースの回収方法は、環境負荷及びコストを低減することができ、簡便に且つ高い効率でレアアース含有溶液からレアアースを回収することができるため、工場廃液等のからレアアースを回収する方法として有用である。