(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記紡糸内管が、紡糸を前記紡糸室から排出するための下流側紡糸内管開口部を有し、該下流側紡糸内管開口部の付近の内壁面に、加熱気体を前記紡糸室から排気するための加熱排気口を備える請求項2又は3記載の乾式紡糸装置。
前記二重管構造の加熱気体の流路が、紡糸走行方向上流側に配される加熱気体の供給流路と、紡糸走行方向下流側に配される排気流路と、を備える請求項2〜4の何れかに記載の乾式紡糸装置。
前記二重管構造の冷却気体の流路が、紡糸走行方向上流側に配される冷却気体の供給流路と、紡糸走行方向下流側に配される排気流路と、を備える請求項3〜5の何れかに記載の乾式紡糸装置。
【背景技術】
【0002】
近年、世界のリン鉱石資源は数十年で枯渇することが懸念されており、リン鉱石に代わるリン資源の確保は重要な課題となりつつある。リン鉱石に含まれるリン酸等は、リン酸肥料等の肥料原料として利用されている他、界面活性剤等の工業用原料としても利用されており、リン鉱石資源の枯渇は、農業のみならず、電子部品製造、金属加工、化成品・食品製造など広範な産業分野への影響が懸念されている。
【0003】
一方、リン資源は、例えば、半導体工場の基板処理廃液、アミノ酸製造工場の発酵廃液、食用油脂の精製排水等各種の工場排水や生活排水等に含まれており、適切に下水処理が行われてはいるものの、種々の要因により河川、湖沼、海に流出して、富栄養化等による環境汚染の原因にもなっている。
【0004】
以上の観点から、各種の排水等からリン資源を回収することで、環境汚染の防止を図りつつ、リン資源を確保する方策が各種検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、回収して得られるリン含有物の安全性や純度、リサイクルコスト等の観点から、必ずしも実用化されているとはいえない状況にある。
【0005】
この対応策として、河川等や工場排水等からリン資源を高純度に容易に回収するリン捕集方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、特定の金属化合物(架橋剤)をポリビニルアルコール(PVA)などの高分子化合物と複合化させて不溶化したリン捕集材が開示されている。しかし、当該リン捕集材は、金属メッシュ等の担体表面に被覆した構造やペレット状として用いられるものであり、排水等に含まれているリン資源を捕集することは相応に可能ではあるものの、回収効率の面で改良の余地があった。
【0006】
この改善策としては、排水等とリン捕集材との接触面積を拡大すること、例えば、リン捕集材の担体をより微細にしたり、リン捕集材自体を繊維状にすることが考えられる。しかし、担体を微細にするには限界があり、また、担体を用いずにリン捕集材自体をより微細な構造にする方が有利ではあるものの、ペレット状にした場合は、リン捕集処理が煩雑化する懸念がある。更に、特許文献1に記載のリン捕集材に使用される高分子化合物は、主として水溶性高分子化合物であるところ、例えば、PVAを用いて繊維状にした場合、特定の金属化合物とPVAとの混合液を用いて繊維状に成形することになるが、この混合液を紡糸原液として用いて繊維状に成形しようとしても、紡糸口金から吐出するまでの間に紡糸原液がゲル化して紡糸することが困難になることが従来より知られている(特許文献2、[発明が解決しようとする課題])。特に、乾式紡糸を行う場合は、紡糸原液に含まれる溶媒を加熱気体を用いて除去するため、一般的な乾式紡糸装置を用いた場合、紡糸口金も加熱されることになる。その結果、紡糸口金部分で紡糸原液のゲル化がより促進されるため、特許文献1に記載のような上記混合液(紡糸原液)を用いて乾式紡糸を行うことは困難であるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の問題点に鑑みて、本願発明の目的とするところは、架橋剤と溶媒を含有する紡糸原液を用いて乾式紡糸が可能な乾式紡糸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前述の課題解決のために、鋭意検討を行った結果、紡糸口金の周囲で加熱気体より低温の冷却流体を流動させ、加熱気体が紡糸口金に接触することを抑制することで、架橋剤と溶媒を含有する紡糸原液を用いても、紡糸口金の温度を紡糸原液のゲル化温度未満に保持して紡糸が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0011】
(1)架橋剤と溶媒を含有する紡糸原液が吐出される紡糸口金と、該紡糸口金の吐出方向下流側に配され、紡糸が走行する紡糸室を有する紡糸筒と、該紡糸筒の紡糸室内に給気され、紡糸口金から吐出される紡糸に含まれる溶媒を除去するための加熱気体を供給する熱風発生装置と、前記紡糸口金の周囲で前記加熱気体より低温の冷却流体を流動させ、前記加熱気体が紡糸口金に接触することを抑制して、前記紡糸口金の温度を前記紡糸原液のゲル化温度未満に保持する冷却手段と、を備える乾式紡糸装置。
(2)前記紡糸筒が、前記紡糸室を形成する内壁面を有する紡糸内管と、該紡糸内管の外周面を囲んで前記加熱気体の流路を形成する紡糸外管とからなる二重管構造を有し、前記紡糸内管は、前記紡糸口金の先端部分を受け入れる上流側紡糸内管開口部を有するとともに、前記紡糸口金の先端部分よりも下流側の内壁面に、前記加熱気体を紡糸室内の吐出方向下流側に向けて給気するように加熱気体給気用スリットを設けてなり、前記冷却手段が、前記紡糸口金の先端部分の外周面と前記上流側紡糸内管開口部の内壁面との間に間隙を形成してなり、前記加熱気体給気用スリットから加熱気体を紡糸室へ給気することで、ベンチュリー効果により前記間隙から紡糸室内に吸込まれる外気を冷却流体として作用させる前記(1)記載の乾式紡糸装置。
(3)前記紡糸筒が、前記紡糸室を形成する内壁面を有する紡糸内管と、該内管の外周面を囲んで前記加熱気体の流路を形成する紡糸外管とからなる二重管構造を有し、前記冷却手段が、前記紡糸口金から吐出される紡糸原液が通過する緩衝室を形成する内壁面を有する冷却内管と、該冷却内管の外周面を囲んで冷却気体の流路を形成する冷却外管とからなる二重管構造の冷却筒を前記紡糸口金と紡糸筒との間に介装してなり、前記冷却内管は、前記紡糸口金の先端部分を受け入れる上流側冷却内管開口部と、当該冷却内管の紡糸方向下流側に配される前記紡糸筒の紡糸室に連通する下流側冷却内管開口部と、を有するとともに、前記上流側冷却内管開口部の近傍部の内壁面に前記紡糸口金の先端部分に向けて前記冷却気体を緩衝室内に向けて給気するように設けられた冷却給気口と、前記下流側冷却内管開口部の近傍部の内壁面に前記緩衝室内から冷却気体を排気するための冷却排気口とを備える前記(1)記載の乾式紡糸装置。
(4)前記紡糸内管が、紡糸を前記紡糸室から排出するための下流側紡糸内管開口部を有し、該下流側紡糸内管開口部の付近の内壁面に、加熱気体を前記紡糸室から排気するための加熱排気口を備える前記(2)又は(3)記載の乾式紡糸装置。
(5)前記二重管構造の加熱気体の流路が、紡糸走行方向上流側に配される加熱気体の供給流路と、紡糸走行方向下流側に配される排気流路と、を備える前記(2)〜(4)の何れかに記載の乾式紡糸装置。
(6)前記二重管構造の冷却気体の流路が、紡糸走行方向上流側に配される冷却気体の供給流路と、紡糸走行方向下流側に配される排気流路と、を備える前記(3)〜(5)の何れかに記載の乾式紡糸装置。
(7)前記加熱排気口を介して紡糸室内から前記加熱気体を排気するための排気装置を備える前記(4)〜(6)の何れかに記載の乾式紡糸装置。
(8)前記冷却排気口を介して緩衝室内から前記冷却気体を排気するための排気装置を備える前記(3)〜(7)の何れかに記載の乾式紡糸装置。
【発明の効果】
【0012】
本願発明に係る乾式紡糸装置によれば、紡糸口金の温度を前記紡糸原液のゲル化温度未満に保持することが可能なため、架橋剤と溶媒を含有する紡糸原液を用いても、紡糸原液がゲル化することなく、乾式紡糸が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る乾式紡糸装置は、架橋剤と溶媒を含有する紡糸原液が吐出される紡糸口金と、該紡糸口金の吐出方向下流側に配され、紡糸が走行する紡糸室を有する紡糸筒と、該紡糸筒の紡糸室内に給気され、紡糸口金から吐出される紡糸に含まれる溶媒を除去するための加熱気体を供給する熱風発生装置と、前記紡糸口金の周囲で前記加熱気体より低温の冷却流体を流動させ、前記加熱気体が紡糸口金に接触することを抑制して、前記紡糸口金の温度を前記紡糸原液のゲル化温度未満に保持する冷却手段と、を備える。
【0015】
このように、本発明に係る乾式紡糸装置は、所定の冷却手段を有しており、この冷却手段が、前記紡糸口金の周囲で前記加熱気体より低温の冷却流体を流動させることが可能であるため、この冷却流体により、加熱気体と紡糸口金とが直接接触することが抑制又は防止され、紡糸口金が加熱流体により加熱されることが抑制又は防止される。その結果、紡糸口金の温度を紡糸原液のゲル化温度未満に保持することが可能となり、架橋剤と溶媒を含有する紡糸原液を用いても、乾式紡糸による紡糸が可能である。
【0016】
上記の冷却手段の構成としては、紡糸口金の周囲で前記加熱気体より低温の冷却流体を流動させることが可能で、加熱気体が紡糸口金に接触することを抑制して所定温度に紡糸口金の温度を保持できるものであれば、特に限定はない。また、紡糸口金の周囲で所定の冷却流体を流動させる態様としては、紡糸口金の外周面に冷却用の液体を循環させるための配管等を設けて加熱気体が紡糸口金に接触することを抑制しても良いし、後述するように、冷却用の気体が紡糸口金の外周面に直接接触するように流動させて加熱気体が紡糸口金に接触することを抑制しても良いし、その他の構成を採用しても良い。
【0017】
上記の紡糸口金や紡糸筒の構成としては、本発明の効果が得られる範囲で、従来のものを用いることができる。また、本発明の効果をより好適に発揮させる観点からは、紡糸筒としては、後述する実施形態のものを採用するのが好ましい。
【0018】
以下に本発明に係る乾式紡糸装置の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る乾式紡糸装置の第1実施形態の長軸方向の断面を模式的に示したものである。本実施形態の乾式紡糸装置1は、紡糸原液が吐出される紡糸口金10、紡糸筒20、加熱気体を供給する熱風発生装置3を備える。また、本実施形態では、加熱気体、紡糸原液から気化した溶媒を排気するための熱風排気ブロア(排気装置)4と、引き取りロール5とを備える。尚、熱風発生装置3、熱風排気ブロア(排気装置)4、引き取りロール5は従来公知のものを適宜採用することができる。また、図示しないが、引き取りロール5により引き取られたフィラメント9を延伸するための延伸装置を設けることができる。
【0020】
紡糸口金10は、本実施形態では円柱状の外部構造を有するとともに、1個又は2個以上の孔(図示せず)を有しており、当該孔から紡糸原液が吐出される。孔の数、大きさは、得られる繊維の用途、付与すべき機能を考慮して、適宜選択することができる。例えば、リン捕集材用途の場合では、通常得られる一般的な繊維であれば、特許文献1記載のようなリン捕集材よりもリン捕集機能の向上が図れるため、紡糸口金の孔数、大きさは、乾式紡糸において一般的に用いられる紡糸口金を採用することができる。
【0021】
紡糸筒20は、紡糸口金10の吐出方向下流側に配される。紡糸筒20の内部には、紡糸8が走行する紡糸室21が設けられている。また、紡糸筒20は二重管構造を有しており、この二重管構造は、紡糸室21を形成する内壁面28を有する紡糸内管22と、紡糸内管22の外周面を囲んで加熱気体の流路を形成する紡糸外管23とからなる。更に、紡糸内管22と紡糸外管23とは、長軸方向(紡糸走行方向)の両端部で、加熱気体が漏出しないように連続しており、本実施形態では、上流側端部及び下流側端部において、それぞれ平坦で環状の上流側端面42及び下流側端面43が形成されている。
【0022】
紡糸内管22の外周面と紡糸外管23の内周面との間に形成される加熱気体の流路は、加熱気体の供給流路24と排気流路25とを備えた構造を有しており、供給流路24は、紡糸走行方向上流側に配され、排気流路25は、紡糸走行方向下流側に配される。供給流路24と排気流路25とは、それぞれ独立するように仕切り板26で仕切られている。仕切り板26は、紡糸内管22と紡糸外管23と連続するように連結されており、供給流路24と排気流路25とは紡糸室21を介してのみ連通している。
【0023】
紡糸外管23には、外部の熱風発生装置3にて発生させた加熱気体を供給流路24内へと送気するための給気口33と、排気流路25から加熱気体や気化した溶媒を外部へ排気するための排気口34とが設けられている。排気口34には、排気流路25を介して紡糸室21から加熱気体を吸引、排気するめの熱風排気ブロア4へと接続されている。給気口33は、紡糸方向下流側で、加熱気体が供給流路24内を紡糸方向下流側から上流側に向かって流動するように配置するのが好ましく、例えば、仕切り板26に近い位置に配する場合などが挙げられる。これにより、紡糸内筒22の下流側の内壁の方がより高温状態の加熱気体により加熱されるため、紡糸内筒22の上流側から下流側にかけての温度分布をより均一にする効果がある。尚、排気口34の配置は、効率的に紡糸室21から加熱気体等を吸引、排気できれば、特に限定はない。
【0024】
紡糸内管22は、紡糸口金10の先端部分11を受け入れる上流側紡糸内管開口部27を有するとともに、紡糸口金10から吐出された紡糸8を紡糸室21から排出するための下流側紡糸内管開口部30を有し、上流側紡糸内管開口部27から下流側紡糸内管開口部30に亘り連通している。また、本実施形態では、紡糸内管22は、紡糸口金10を受け入れる直管状部分35と、直管状部分35の下流側端部から下流側方向に向かい漸次縮径するテーパー部36と、テーパー部36の下流側端部部分から下流側方向に一定内径で連続する直管状部分37と、直管状部分37の下流側端部部分から下流側方向に向かい漸次拡径するテーパー部38とを備える。テーパー部36には加熱気体給気用スリット29が、テーパー部38には、加熱気体排気用スリット39が、設けられている。加熱気体排気用スリット39は、下流側紡糸内管開口部30の付近の内壁面28に設けられており、加熱気体や紡糸原液から気化した溶媒を紡糸室21から排気するための加熱排気口(39)として機能する。
【0025】
加熱気体給気用スリット29は、紡糸口金10の先端部分11よりも下流側の内壁面28に、加熱気体を紡糸室21内の吐出方向下流側に向けて給気する(
図1の矢印A参照)ように設けられる。本実施形態では、加熱気体給気用スリット29は、直管状部分35と連続して内壁面28側から紡糸室21側へ向かって内壁面28の周方向全体に亘り突出した傾斜部分31と、傾斜部分31に対応するように、直管状部分37と連続して内壁面28側から供給流路24内へ向かって内壁面28の周方向全体に亘り突出した傾斜部分32と、で構成される。即ち、傾斜部分31と傾斜部分32との間に加熱気体給気用スリット29が形成される。これらの傾斜角度は、加熱気体を紡糸室21内の吐出方向下流側に向けて給気できれば、特に限定はない。また、傾斜部分31と傾斜部分32との間隔(スリットの幅)は、後述するベンチュリー効果が期待できる流速を確保できるように設定すればよい。また、ベンチュリー効果を確保する観点から、傾斜部分31及び傾斜部分32には、紡糸室21とスリット29とを連通する貫通口を設けないのが好ましい。本実施形態では、加熱気体給気用スリット29は、内壁面28の周方向全体に亘り設けているが、部分的に設けても良い。また、スリット29の構造は、本実施形態に限らず、その他の構造を採用してもよい。
【0026】
加熱気体排気用スリット39は、直管状部分37と連続して内壁面28側から排気流路25内へ向かって内壁面28の周方向全体に亘り突出した傾斜部分40と、傾斜部分40に対応するように設けられ、下流側端面43と連続して紡糸室21側へ向かって内壁面28の周方向全体に亘り突出した傾斜部分41と、で構成される。即ち、傾斜部分40と傾斜部分41との間に加熱気体排気用スリット39が形成される。これらの傾斜角度は、加熱気体や紡糸原液から気化した溶媒を紡糸室21内から吸引、排気できれば、特に限定はないが、上流側から流れてくる加熱気体等をスリット39を介してより効率的に吸引、排気する観点からは、上流側に向かって開口するように傾斜させるのが好ましい(
図1の矢印B参照)。また、傾斜部分40と傾斜部分41と間隔(スリットの幅)は、加熱気体等を吸引、排気できる流速を確保できるように設定すればよい。本実施形態では、加熱気体排気用スリット39は、内壁面28の周方向全体に亘り設けているが、部分的に設けても良い。また、スリット39の構造は、本実施形態に限らず、その他の構造を採用してもよい。
【0027】
第1実施形態における冷却手段は、紡糸口金10の先端部分11の外周面と上流側紡糸内管開口部27(直管状部分35)の内壁面との間に間隙44を形成し、加熱気体給気用スリット29から加熱気体を紡糸室21へ給気することで、ベンチュリー効果により間隙44から紡糸室21内に吸込まれる外気(
図1の矢印C参照)を冷却流体として作用させるものである。より詳細には、熱風発生装置3により発生させた加熱気体を所定の流量で供給流路24へと供給し、加熱気体排気用スリット39から紡糸室21内へ給気する際に、供給流路よりもスリット39を通過する加熱気体の流速が増加して、間隙44部分の圧力が外部よりも低下し、外気が間隙44を通過して紡糸室21内へ吸込まれることになる。この時、外気が紡糸口金10の外周面に接触しながら勢いよく通過していくため、紡糸室21内の加熱気体が紡糸口金10側に流れていくことが抑制され、加熱気体が紡糸口金10に接触することを抑制することができる。外気を加熱気体よりも低温にすることで、紡糸口金の温度を前記紡糸原液のゲル化温度未満に保持することができる。加熱気体は、紡糸原液に含まれる溶媒の沸点以上の温度を有するが、通常、乾式紡糸装置が設置されている環境中の外気は加熱気体の温度よりも低くなっているため、外気を冷却流体として機能させることができる。外気をより低温にするためには、乾式紡糸装置が設置されている環境の空調温度をより低温にしたり、より低温に調整した気体を紡糸口金10の周辺部に供給してもよい。
【0028】
紡糸口金10の先端部分11の外周面と上流側紡糸内管開口部27(直管状部分35)の内壁面との間に間隙44の幅は、紡糸室21内の加熱気体が間隙44側に流れてくることが防止できる程度に、間隙44を通過する外気の流速を確保できるように設定すればよい。また、紡糸口金19の先端部分11の最先端は、ベンチュリー効果によって吸込まれる外気の流速を確保できるように、上流側紡糸内管開口部27の端部から所定の長さになるように配置するとよい。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明に係る乾式紡糸装置の第2実施形態の長軸方向の断面の一部を模式的に示したものである。本実施形態は、所定の冷却筒を冷却手段として用いる点で、第1実施形態と実質的に異なるが、紡糸筒、熱風発生装置、熱風排気ブロアの構成は実質的に同一のものを採用することが可能である。そこで、以下では、主として第1実施形態とは異なる部分について説明する。
【0030】
本実施形態では、冷却手段として、冷却筒50を備えるとともに、冷却筒50へ冷却気体を給気する冷風発生装置6と、冷却筒50から冷却気体を排気する冷却装置(冷風排気ブロア)7とを備えるものである。冷却筒50は、紡糸口金10と紡糸筒80との間に介装される。この場合、冷却筒50と紡糸筒80とが接するように配置されていても良いし、一定の間隔を有するように配置されていても良いが、冷却筒50内の冷却気体の影響が紡糸筒80に、或は、紡糸筒80内の加熱気体の影響が冷却筒50に及ぶのを抑制する観点から、冷却筒50と紡糸筒80とは、一定の間隔を有するように配置されるのが好ましい。
図2は、冷却筒50の下流側端面73と紡糸筒80の上流側端面102との間に隙間を設けた概念図であり、冷却筒50と紡糸筒80とは、上記の隙間の効果が得られる範囲で、任意の方法で連結していても良い。
また、冷却筒50の内部には、紡糸口金10から吐出される紡糸原液(紡糸)8が通過する緩衝室51が設けられている。また、紡糸筒50は二重管構造を有しており、この二重管構造は、緩衝室51を形成する内壁面58を有する冷却内管52と、冷却内管52の外周面を囲んで冷却気体の流路を形成する冷却外管53とからなる。更に、冷却内管52と冷却外管53とは、長軸方向(紡糸走行方向)の両端部で、冷却気体が漏出しないように連続しており、本実施形態では、上流側端部及び下流側端部において、それぞれ平坦で環状の上流側端面72及び下流側端面73が形成されている。
【0031】
冷却内管52の外周面と冷却外管53の内周面との間に形成される冷却気体の流路は、冷風発生装置6により発生させた冷却気体の供給流路54と排気流路55とを備えた構造を有しており、供給流路54は、紡糸走行方向上流側に配され、排気流路55は、紡糸走行方向下流側に配される。供給流路54と排気流路55とは、それぞれ独立するように仕切り板56で仕切られている。仕切り板56は、冷却内管52と冷却外管53と連続するように連結されており、供給流路54と排気流路55とは緩衝室51を介してのみ連通している。
【0032】
冷却外管53には、外部の冷風発生装置6にて発生させた冷却気体を供給流路54内へと送気するための給気口63と、排気流路55から冷却気体を外部へ排気するための排気口64とが設けられている。排気口64には、排気流路55を介して緩衝室51から冷却気体を吸引、排気するめの冷風排気ブロア7へと接続されている。給気口63は、後述する緩衝室51側に開口する冷却給気口59から紡糸口金10の先端部分11の全周に均一に冷却空気が接触可能なように、冷却給気口59から離れた位置に配するのが好ましく、例えば、仕切り板56に近い位置に配する場合などが挙げられる。また、排気口64は、後述する緩衝室51側に開口する冷却排気口69から極力均等に冷却空気を排出可能なように、冷却排気口69から離れた位置に配するのが好ましく、例えば、仕切り板56に近い位置に配する場合などが挙げられる。
【0033】
冷却内管52は、紡糸口金10の先端部分11を受け入れる上流側冷却内管開口部57を有するとともに、紡糸室81に連通して紡糸口金10から吐出された紡糸原液(紡糸)8を緩衝室51から排出して紡糸室81へ送るための下流側冷却内管開口部60を有し、上流側冷却内管開口部57から下流側冷却内管開口部60に亘り連通している。また、本実施形態では、上流側冷却内管開口部57にテーパー部を設けているが、設けなくても良い。また、下流側冷却内管開口部60の径は、緩衝室51の径よりも小さくしているが、同じでも良い。
【0034】
冷却給気口59は、上流側冷却内管開口部57の近傍部の内壁面58に紡糸口金10の先端部分11に向けて冷却気体を緩衝室51内に向けて給気するように設けられる。本実施形態では、冷却給気口59は、上流側端面72と、上流側端面72に対応するように、内壁面58と連続して内壁面58側から供給流路54内へ向かって内壁面58の周方向全体に亘り突出した突出面62と、で構成される。即ち、上流側端面72と突出面62との間に冷却給気口59が形成される。上流側端面72と突出面62との間隔は、紡糸口金10の先端部分11の外周面の周囲を冷却気体が流動できるような流速を付与できれば、特に限定はないが、冷却効率の観点から、スリット状の給気口が形成されるようにするのが好ましい。また、突出面62の端部75と冷却外管53との最短間隔は、冷却気体を冷却給気口59から紡糸口金10の先端部分11の外周面全体に向けて極力均等に放出させる観点から、冷風発生装置6にて発生させた冷却気体を供給流路54内に短時間滞留させることができる程度に近接しているのが好ましく、例えば、上流側端面72と突出面62との間隔以下とするとよい。
【0035】
冷却排気口69は、下流側冷却内管開口部60の近傍部の内壁面58に緩衝室51内から冷却気体を排気するように設けられる。本実施形態では、冷却排気口69は、下流側端面73と、下流側端面73に対応するように、内壁面58と連続して内壁面58側から排気流路55内へ向かって内壁面58の周方向全体に亘り突出した突出面70と、で構成される。即ち、下流側端面73と突出面70との間に冷却排気口69が形成される。下流側端面73と突出面70との間隔は、緩衝室51内から冷却気体を排気できれば、特に限定はないが、緩衝室58を流れる冷却気体を緩衝室の周方向により均一に吸引させるという観点から、スリット状の排気口が形成されるようにするのが好ましい。
また、突出面70の端部76と冷却外管53との最短間隔は、冷却排気口69から内壁面58の全周方向に亘り極力均等に冷却気体を排気する観点から、冷却外管53に設けられた排気口64に近い部分は小さく、遠い部分は大きくするのが好ましい。
【0036】
本実施形態では、このように冷却筒50を、紡糸口金10と紡糸筒20との間に介装しており、かつ、冷却筒50の緩衝室51内に冷却気体が給気されるため、紡糸口金10の周囲で加熱気体より低温の冷却気体を流動させることができる。そのため、加熱気体が紡糸口金10に接触することを抑制することが可能である。これにより、紡糸口金10の温度を紡糸原液のゲル化温度未満に保持することが可能であり、架橋剤と溶媒を含有する紡糸原液を用いても、乾式紡糸することが可能となる。
【0037】
本実施形態における紡糸筒80は、第1実施形態で用いた紡糸筒20をそのまま採用しても良いが、冷却筒50の緩衝室51から冷却気体が紡糸筒80の紡糸室81内に吸込まれることを抑制する観点から、第1実施形態の紡糸筒20における上流側端部近傍部分の構造において、直管状部分35を設けない構造にし、加熱気体給気用スリット89を第1実施形態の場合よりも大きくしたものであり、その他の構造は、第1実施形態の紡糸筒20と実質的に同じものである。本実施形態では、加熱気体給気用スリット89は、上流側端面102と連続して紡糸室81側へ向かって内壁面88の周方向全体に亘り突出した傾斜部分91と、傾斜部分91に対応するように設けられ、直管状部分97と連続して内壁面88側から給気流路84内へ向かって内壁面88の周方向全体に亘り突出した傾斜部分92と、で構成される。このように、傾斜部分91は上流側端面102と直接連続し、第1実施形態の直管状部分35を設けない構造となっている。また、傾斜部分91、92の傾斜角度は、冷却筒50へ加熱気体が向かうことを抑制する観点から、加熱気体を紡糸室81内の紡糸8の走行方向下流側に向けて給気できれば(
図2の矢印D参照)特に限定はない。傾斜部分91と傾斜部分92との間隔(スリットの幅)は、紡糸8に含まれる溶媒の気化を促進できる程度の流速が確保できれば良く、第1実施形態のようにベンチュリー効果が実質的に発生しない間隔とするのが好ましい。
尚、第2実施形態における紡糸筒80の構造は、前記の相違点を除き、第1実施形態における紡糸筒20の構造と同じであるため、
図1に示す第1実施形態における符号20〜34、36〜43で示す部分を、前記の相違点を除き、それぞれ第2実施形態における符号80〜94、96〜103に対応させ(
図2に示していない符号を含む)、詳細な説明は省略することとする。
【0038】
本発明に係る乾式紡糸装置は、本発明の効果が得られる範囲で、各種の高分子化合物を含む繊維を製造する際に採用することができる。即ち、架橋剤を用いて架橋される高分子化合物を含む繊維を製造するに際して、加熱により架橋反応が促進されて紡糸原液がゲル化する特性を有する各種の高分子化合物を用いることができる。このような高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系高分子化合物、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸系高分子化合物、ポリアクリルアミド、ポリアリルアミン、カルボキシメチルセルロース、及び、これらの共重合体などの水溶性高分子化合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、これらは、1種又は2種以上用いても良い。
【0039】
本発明に係る乾式紡糸装置により乾式紡糸する際に用いる紡糸原液に含まれる架橋剤及び溶媒は、上記高分子化合物の種類により適宜変更すればよい。例えば、高分子化合物としてポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール系高分子化合物を用いる場合は、架橋剤としては、アルデヒド類、アミノ系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、アンモニウム塩、金属塩などが挙げられる。また、導電性やリン酸吸着性を付与する場合は、金属塩が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム、チタン等の多価金属の塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、等の塩で、具体的には硫酸銅、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、キレート系ジルコニウム、アミノカルボン酸系ジルコニウム、水酸化ジルコニウムゾル、ジルコニアゾル等の水溶性又は水分散性のZr化合物、三塩化チタン、四塩化チタン、硫酸チタン、酸塩化チタン、ペルオキソチタネート、キレート系チタネート、チタニアゾル等の水溶性又は水分散性のTi化合物等が挙げられる。また、溶媒としては、水、アルコール類、グリコール類、アセトン、ホルムアミドから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
本発明に係る乾式紡糸装置は、各種用途の繊維の製造に用いることができ、機能を付与した繊維の製造に好適に用いることができる。このような機能性繊維としては、例えば、導電性繊維、リン酸イオンなどの金属系イオン吸着性繊維などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【実施例】
【0041】
以下、本発明に係る乾式紡糸装置を実施例に基づき説明する。
【0042】
(製造例:紡糸原液の調製)
溶媒である水に、平均重合度1700、けん化度88mol%のポリビニルアルコール(PVA)を添加し、10重量%PVA水溶液を得た。この水溶液に、オキシ塩化ジルコニウムを、PVAとジルコニウム原子との重量比(PVA/Zr)が9/1となるように添加した後、濃縮してPVAの濃度が28重量%の紡糸原液を得た。
【0043】
(実施例)
製造例で調製した紡糸原液、
図1に示す乾式紡糸装置(紡糸口金:孔径0.1mm、孔数10個)を使用し、紡糸口金から紡糸原液を吐出して、150℃の加熱気体(空気)が給気されている紡糸室内を通過させたところ、巻取りローラーに巻き取ることが可能な繊維を得ることができた。この時紡糸口金の温度はゲル化温度より低い温度(60℃)に保持することができた。
【0044】
(比較例)
製造例で調製した紡糸原液、
図3に示す従来の乾式紡糸装置110(紡糸口金:孔径0.1mm、孔数10個)を使用し、紡糸口金から紡糸原液を吐出して、150℃の加熱気体(空気)が給気されている紡糸室114内を通過させようとしたが、紡糸口金が直ちに閉塞し、紡糸することができなかった。
尚、
図3に示す乾式紡糸装置110について簡単に説明すると、乾式紡糸装置110は、紡糸口金111、紡糸筒112、引き取りローラー113を備えており、紡糸筒112の紡糸走行方向下流側には、加熱気体を紡糸室114内に供給するための給気口115、紡糸筒112の紡糸走行方向上流側には、紡糸室内114内から加熱気体や紡糸原液に含まれる溶媒を除去するための排気口116が配されている。また、紡糸筒112は、紡糸口金111全体を覆う構造となっており、給気口115から直接紡糸室114内に給気された加熱空気が紡糸口金111と直接接触する構造となっている。符号117は、理解を容易にするため、実際には吐出できなかった紡糸を仮想線で示したものである。