特許第5924158号(P5924158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924158
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】揺動型歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20160516BHJP
   F16H 3/72 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   F16H1/32 C
   F16H3/72
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-145501(P2012-145501)
(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-9725(P2014-9725A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】山谷 知也
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−216166(JP,A)
【文献】 特開2000−205351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転可能にかつ同心状に配置された入力軸および出力軸と、前記入力軸の外周に配置されてモータによって回転させられるロータと、前記入力軸に結合された入力側部材と、前記出力軸に結合された出力側部材と、転がり軸受と歯車とが一体化されたベアリングギヤとを備え、前記入力側部材の端面に設けられた入力側固定歯車と前記出力側部材の端面に設けられた出力側固定歯車との間に、前記ベアリングギヤがその軸心が前記入力軸および前記出力軸の各軸心に対して傾斜するように配置されて、前記入力軸および前記ロータの回転を前記入力側固定歯車、前記ベアリングギヤおよび前記出力側固定歯車を介して前記出力軸に伝達する揺動型歯車装置において、
前記ベアリングギヤは、内周面に複列の外輪軌道を有する一体型の外輪と、それぞれの外周面に内輪軌道を有する1対の内輪と、両外輪軌道と両内輪軌道との間に転動自在に配された複数の玉と、前記外輪の一端面に形成されて前記入力側固定歯車に噛み合わされる入力側揺動歯車と、前記外輪の他端面に形成されて前記出力側固定歯車に噛み合わされる出力側揺動歯車とを備えており、前記ベアリングギヤの前記1対の内輪は、軸心が前記入力軸および前記出力軸の各軸心に対して傾斜した円筒面が外周面に形成された略円筒状内輪保持部材の前記傾斜した円筒面に嵌め合わされるとともに、前記内輪保持部材の一端部に設けられたフランジ部と前記内輪保持部材の他端部に設けられたおねじ部にねじ合わされた前記ロータとによって挟持されていることを特徴とする揺動型歯車装置。
【請求項2】
前記内輪保持部材の内周面と前記入力軸の外周面との間に、針状ころ軸受が配置されており、前記内輪保持部材は、前記針状ころ軸受の外輪を兼ねており、前記内輪保持部材の前記針状ころを受ける面に、硬化処理が施されており、前記内輪保持部材の前記おねじ部に、硬化処理が施されていないことを特徴とする請求項1の揺動型歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揺動型歯車装置に関し、より詳しくは、差動変速機としての使用に適した揺動型歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
差動変速機としての使用に適した揺動型歯車装置として、転がり軸受と歯車とが一体化されたベアリングギヤを揺動させ、入力側部材の回転を入力側固定歯車、ベアリングギヤの入力側揺動歯車および出力側揺動歯車、ならびに出力側固定歯車を介して出力側部材に伝達するものが知られている。(特許文献1および特許文献2)。
【0003】
図5に、この発明が対象とする従来の揺動型歯車装置の具体例を示す。
【0004】
従来の揺動型歯車装置(51)は、ハウジング(52)に回転可能にかつ同心状に配置された入力軸(53)および出力軸(54)と、入力軸(53)の外周に配置されてモータ(55)によって回転させられるロータ(56)と、入力軸(53)に結合された入力側部材(57)と、出力軸(54)に連結部材(59)を介して結合された出力側部材(58)と、転がり軸受と歯車とが一体化されたベアリングギヤ(60)とを備えている。ベアリングギヤ(60)は、入力側部材(57)の端面に設けられた入力側固定歯車(61)と出力側部材(58)の端面に設けられた出力側固定歯車(62)との間に、ベアリングギヤ(60)の軸心が入力軸(53)および出力軸(54)の各軸心に対して傾斜するように配置され、入力側固定歯車(61)の回転を出力側固定歯車(62)に伝達する。
【0005】
ベアリングギヤ(60)は、内周面に外輪軌道を有する外輪(71)と、外周面に内輪軌道を有する内輪(72)と、外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に配された複数の玉(73)と、外輪(71)の一端面に形成されて入力側固定歯車(61)に噛み合わされる入力側揺動歯車(74)と、外輪(71)の他端面に形成されて出力側固定歯車(62)に噛み合わされる出力側揺動歯車(75)とを備えている。ベアリングギヤ(60)の内輪(72)は、軸心が入力軸(53)および出力軸(54)の各軸心に対して傾斜した円筒面(63)が外周面に形成されたロータ(56)の傾斜した円筒面(63)に圧入固定されている。
【0006】
入力側固定歯車(61)は、ベアリングギヤ(60)に設けられた入力側揺動歯車(74)に周方向の所定箇所で噛み合わされ、出力側固定歯車(62)は、入力側固定歯車(61)と入力側揺動歯車(74)との噛み合い箇所から周方向に180°離れた箇所でベアリングギヤ(60)の出力側揺動歯車(75)に噛み合わされている。これにより、入力軸(53)およびロータ(56)の回転は、入力側固定歯車(61)、ベアリングギヤ(60)の入力側揺動歯車(74)および出力側揺動歯車(75)ならびに出力側固定歯車(62)を介して出力軸(54)に伝達される。
【0007】
詳細な図示は省略するが、各固定歯車(61)(62)は、該歯車(61)(62)の回転方向において等間隔に放射状に形成された半円柱形状の凹溝(61a)(62a)と、該凹溝(61a)(62a)に転動可能に支承された略樽型形状の転動体(61b)(62b)とを備え、該転動体(61b)(62b)を凸歯として用いたものとされている。そして、入力側揺動歯車(74)および出力側揺動歯車(75)は、入力側固定歯車(61)および出力側固定歯車(62)の転動体(61b)(62b)と噛合する半円柱形状の凹溝(74a)(75a)を備え、該凹溝(74a)(75a)を凹歯として用いたものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−190677号公報
【特許文献2】特開2010−209977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2に示されている揺動型歯車装置ならびに上記図5に示した揺動型歯車装置においては、凸歯としての転動体と凹歯としての凹溝との噛み合いによって回転(トルク)を伝達するフェースギヤによる伝達となっているので、トルク入力によりギヤ反力がモーメントとしてベアリングギヤに負荷され、ベアリングギヤが傾いて、ギヤに歯飛びが発生し、これにより、トルク容量が低下するという問題があった。
【0010】
また、上記図5に示した揺動型歯車装置においては、ベアリングギヤの内輪が圧入固定されているので、その固定力を超えるモーメント荷重が負荷された場合、内輪にずれが発生することで歯飛びが発生しやすいという問題もあった。
【0011】
この発明の目的は、歯飛びを防止して、トルク容量を確保することを可能とした揺動型歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明による揺動型歯車装置は、ハウジングに回転可能にかつ同心状に配置された入力軸および出力軸と、前記入力軸の外周に配置されてモータによって回転させられるロータと、前記入力軸に結合された入力側部材と、前記出力軸に結合された出力側部材と、転がり軸受と歯車とが一体化されたベアリングギヤとを備え、前記入力側部材の端面に設けられた入力側固定歯車と前記出力側部材の端面に設けられた出力側固定歯車との間に、前記ベアリングギヤがその軸心が前記入力軸および前記出力軸の各軸心に対して傾斜するように配置されて、前記入力軸および前記ロータの回転を前記入力側固定歯車、前記ベアリングギヤおよび前記出力側固定歯車を介して前記出力軸に伝達する揺動型歯車装置において、前記ベアリングギヤは、内周面に複列の外輪軌道を有する一体型の外輪と、それぞれの外周面に内輪軌道を有する1対の内輪と、両外輪軌道と両内輪軌道との間に転動自在に配された複数の玉と、前記外輪の一端面に形成されて前記入力側固定歯車に噛み合わされる入力側揺動歯車と、前記外輪の他端面に形成されて前記出力側固定歯車に噛み合わされる出力側揺動歯車とを備えており、前記ベアリングギヤの前記1対の内輪は、軸心が前記入力軸および前記出力軸の各軸心に対して傾斜した円筒面が外周面に形成された略円筒状内輪保持部材の前記傾斜した円筒面に嵌め合わされるとともに、前記内輪保持部材の一端部に設けられたフランジ部と前記内輪保持部材の他端部に設けられたおねじ部にねじ合わされた前記ロータとによって挟持されていることを特徴とするものである。
【0013】
ベアリングギヤの転がり軸受部分は、複列の玉軸受とされ、これにより、転がり軸受のモーメント剛性が向上し、歯飛びの発生が防止される。ここで、内輪を圧入固定した場合には、大トルク時に内輪がずれることで、歯飛びが発生する。そこで、内輪保持部材のフランジ部とロータとによって内輪が挟持されているものとされ、これによっても、歯飛びが防止される。こうして、歯飛びの発生が防止され、トルク容量が確保される。
【0014】
上記において、前記内輪保持部材の内周面と前記入力軸の外周面との間に、針状ころ軸受が配置されており、前記内輪保持部材は、前記針状ころ軸受の外輪を兼ねており、前記内輪保持部材の前記針状ころを受ける面に、硬化処理が施されており、前記内輪保持部材の前記おねじ部に、硬化処理が施されていないことが好ましい。
【0015】
内輪保持部材の針状ころを受ける面に硬化処理が施されることで、内輪保持部材が針状ころ軸受の外輪を兼ねることが可能とされる。そして、内輪保持部材のおねじ部に、硬化処理が施されていないようにすることで、おねじ部に割れが発生することが防止される。これにより、内輪保持部材は、内輪を確実に保持する機能に加えて、針状ころ軸受の外輪を兼ねるものとなり、部品数を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の揺動型歯車装置によると、ベアリングギヤの軸受部分を複列の玉軸受とすることでモーメント剛性が上がり、玉軸受の内輪を圧入固定ではなく、ねじによる固定(予圧付与)としたことで、内輪の固定が確実なものとなり、内輪が動くことに伴う歯飛びの発生が防止される。したがって、歯飛びを防止して、トルク容量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、この発明の揺動型歯車装置の1実施形態を示す縦断面図である。
図2図2は、図1の要部の拡大縦断面図である。
図3図3は、ベアリングギヤ、入力側固定歯車および出力側固定歯車を示す正面図である。
図4図4は、ベアリングギヤ、入力側固定歯車および出力側固定歯車の要部を示す分解斜視図である。
図5図5は、従来の揺動型歯車装置の1例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、図1の左右を左右というものとする。
【0019】
図1に、この発明による揺動型歯車装置(1)の実施形態の全体を示し、図2にその要部を示している。
【0020】
揺動型歯車装置(1)は、図1に示すように、ハウジング(2)に同心状に配置された入力軸(3)および出力軸(4)と、入力軸(3)の外周に配置されてモータ(5)によって回転させられる略円筒状のロータ(6)と、入力軸(3)に結合された略円筒状の入力側部材(7)と、出力軸(4)に略円筒状の連結部材(9)を介して結合された略円筒状の出力側部材(8)と、転がり軸受と歯車とが一体化されたベアリングギヤ(10)とを備えている。
【0021】
入力軸(3)は、右端部(図示略)をハウジング(2)から右方に突出させてハウジング(2)に回転可能に配置されている。出力軸(4)は、左端部をハウジング(2)から左方に突出させてハウジング(2)に回転可能に配置されている。出力軸(4)の右端部には、フランジ部(4a)が一体に設けられており、フランジ部(4a)は、右端部が入力側部材(7)に固定された連結部材(9)の左端部に固定されている。
【0022】
モータ(5)は、ハウジング(2)の内周に固定されている。ロータ(6)は、モータ(5)に対向し、その左端部は、出力側部材(8)の径方向内側にある。
【0023】
入力側部材(7)は、入力側部材(7)の右側に配置されたベアリングギヤ(10)を介して、さらにその右側に配置された出力側部材(8)に対向している。入力側部材(7)の右端面に、入力側固定歯車(11)が設けられている。出力側部材(8)の左端面に、出力側固定歯車(12)が設けられている。後述するように、入力側固定歯車(11)は、ベアリングギヤ(10)に設けられた入力側揺動歯車(26)に周方向の所定箇所で噛み合わされ、出力側固定歯車(12)は、入力側固定歯車(11)と入力側揺動歯車(26)との噛み合い箇所から周方向に180°離れた箇所でベアリングギヤ(10)の出力側揺動歯車(27)に噛み合わされている。図1において、入力側固定歯車(11)と入力側揺動歯車(26)とは、矢印Aで示す部分(図の左上)で噛み合わされており、出力側揺動歯車(27)と出力側固定歯車(12)とは、矢印Bで示す部分(図の右下)で噛み合わされている。
【0024】
入力側部材(7)および入力側固定歯車(11)は、入力軸(3)の軸心上に軸心を有しその軸心の回りに回転可能とされている。また、出力側部材(8)および出力側固定歯車(12)は、出力軸(4)の軸心上に軸心を有しその軸心の回りに回転可能とされている。
【0025】
ロータ(6)のモータ(5)に対向している部分の外周面とハウジング(2)の内周面との間に、玉軸受(13)が配置されている。ロータ(6)の左端部外周面と出力側部材(8)の内周面との間に、玉軸受(14)が配置されている。ハウジング(2)の内周面と連結部材(9)の右端部外周面との間に、玉軸受(15)が配置されている。連結部材(9)の左端部内周面と入力側部材(7)の外周面との間に、玉軸受(16)が配置されている。ハウジング(2)左端部の内周面と出力軸(4)のフランジ部(4a)との間に、玉軸受(17)が配置されている。
【0026】
ベアリングギヤ(10)は、入力側部材(7)の端面に設けられた入力側固定歯車(11)と出力側部材(8)の端面に設けられた出力側固定歯車(12)との間に配置されている。ベアリングギヤ(10)は、内周面に複列の外輪軌道を有する一体形の外輪(21)と、それぞれ外周面に内輪軌道を有する1対の内輪(22)(23)と、両外輪軌道と両内輪軌道との間に転動自在に配された複列の複数の玉(24)(25)と、外輪(21)の左端面に形成された入力側揺動歯車(26)と、外輪(21)の右端面に形成された出力側揺動歯車(27)とを備えている。
【0027】
ベアリングギヤ(10)の転がり軸受部分は、複列のアンギュラ玉軸受と同じ構成とされており、複列の玉(24)(25)には、背面組み合わせ型の接触角が付与されている。1対の内輪(22)(23)は、入力軸(3)に回転可能に嵌め入れられてロータ(6)と一体に回転する略円筒状の内輪支持部材(28)に支持されている。
【0028】
図3および図4に示すように、入力側固定歯車(11)および出力側固定歯車(12)は、該歯車(11)(12)の回転方向において等間隔に放射状に形成された半円柱形状の凹溝(31)(34)と、該凹溝(31)(34)に転動可能に支承された略樽型形状の転動体(32)(35)とを備え、該転動体(32)(35)を凸歯として用いたものとされている。そして、入力側揺動歯車(26)および出力側揺動歯車(27)は、入力側固定歯車(11)および出力側固定歯車(12)の転動体(32)(35)と噛合する半円柱形状の凹溝(33)(36)を備え、該凹溝(33)(36)を凹歯として用いたものとされている。
【0029】
図2に拡大して示すように、ベアリングギヤ(10)の1対の内輪(22)(23)を支持している内輪支持部材(28)は、円筒部(41)と、円筒部(41)の左端部に設けられたフランジ部(42)とを有している。円筒部(41)の外周には、同図における右上がりの軸心を有する(すなわち軸心が入力軸(3)および出力軸(4)の各軸心に対して)傾斜した円筒面(41a)が形成されている。フランジ部(42)の右面は、傾斜した円筒面(41a)に直交するように形成されている。円筒部(41)の外周には、傾斜した円筒面(41a)に連なって傾斜した円筒面(41a)の外径よりも外径が小さい円筒面(入力軸(3)および出力軸(4)の各軸心に対して傾斜していない円筒面)(41b)が形成されている。円筒部(41)の右端部外周には、円筒面(41b)に連なって円筒面(41b)の外径よりも外径が小さいおねじ部(41c)が形成されている。
【0030】
1対の内輪(22)(23)の内周面は、図2における右上がりの軸心を有する傾斜状に形成されている。左の内輪(22)の左面および右の内輪(23)の右面は、傾斜した円筒面(41a)に直交するように形成されている。1対の内輪(22)(23)は、傾斜した円筒面(41a)にすきまばめで嵌め入れられている。
【0031】
内輪支持部材(28)のフランジ部(42)の右端部の外周面には、環状の凹所(42a)が形成されており、ここに、左側のスペーサ(43)が嵌め入れられている。環状の凹所(42a)の底面は、円筒面とされ、側面は、底面に直交する面とされている。左側のスペーサ(43)の内周面および左面は、環状の凹所(42a)の底面および側面に沿うように形成され、左側のスペーサ(43)の右面は、内輪支持部材(28)の傾斜した円筒面(41a)に直交するように形成されている。内輪支持部材(28)の傾斜した円筒面(41a)には、右の内輪(23)の右側から右側のスペーサ(44)が嵌め入れられている。右側のスペーサ(44)の内周面は、内輪支持部材(28)の傾斜した円筒面(41a)に沿う傾斜した円筒面とされている。右側のスペーサ(44)の左面は、傾斜した円筒面(41a)に直交するように形成されている。右側のスペーサ(44)の右面は、入力軸(3)および出力軸(4)の各軸心に対して傾斜していない円筒面に直交する面とされている。
【0032】
ロータ(6)の左端部は、内輪支持部材(28)の円筒部(41)の右部の外周面に対応する形状とされている。すなわち、ロータ(6)の左端部には、内輪支持部材(28)の円筒部(41)の円筒面(41b)にすきまばめで嵌め合わされる円筒部(6a)と、内輪支持部材(28)のおねじ部(41c)にねじ合わされるめねじ部(6b)とが設けられており、内輪支持部材(28)のおねじ部(41c)にめねじ部(6b)がねじ合わされることで、ロータ(6)と内輪支持部材(28)とが結合されている。左側のスペーサ(43)の右面が左の内輪(23)の左面を受け、ロータ(6)の左端面が右側のスペーサ(44)の右面に当接し、この状態で、ロータ(6)のめねじ部(6b)を内輪支持部材(28)のおねじ部(41c)に締め付けていく大きさが調整されることにより、左右の内輪(22)(23)は、所要の軸方向の力(予圧)を付与されて左右のスペーサ(43)(44)間に挟持されている。
【0033】
外輪(21)は、内輪(22)(23)と同心、すなわち、その軸心が入力軸(3)および出力軸(4)の各軸心に対して傾斜するように配置されている。したがって、ベアリングギヤ(10)を構成している外輪(21)および内輪(22)(23)は、図2において右上がりに傾斜した軸心を中心軸として回転する。これにより、外輪(21)に一体に設けられた入力側揺動歯車(26)は、入力軸(3)の軸心に対して傾斜した偏心軸線上に軸心を有しその軸心の回りに回転(入力軸(3)に対して揺動)する。同様に、外輪(21)に一体に設けられた出力側揺動歯車(27)は、出力軸(4)の軸心に対して傾斜した偏心軸線上に軸心を有しその軸心の回りに回転(出力軸(4)に対して揺動)する。
【0034】
ベアリングギヤ(10)の揺動に伴って、入力側固定歯車(11)と入力側揺動歯車(26)との噛み合い位置および出力側揺動歯車(27)と出力側固定歯車(12)との噛み合い位置が変化しながら、入力軸(3)およびロータ(6)から出力軸(4)に回転(トルク)が伝達される。入力側固定歯車(11)の歯数と入力側揺動歯車(26)の歯数とは異なるものとされており、この間で1段階の減速が行われる。また、出力側揺動歯車(27)の歯数と出力側固定歯車(12)の歯数とは異なるものとされており、この間で1段階(すなわち2段階目)の減速が行われる。
【0035】
内輪支持部材(28)は、入力軸(3)に対して相対回転可能とされており、相対回転を可能とするために、入力軸(3)の外周面と内輪支持部材(28)との間に、針状ころ軸受(18)が設けられている。針状ころ軸受(18)は、複数の針状ころ(45)および複数の針状ころ(45)を保持する保持器(46)を有しており、内輪支持部材(28)の内周面に設けられた環状凹所(47)内に嵌め入れられている。すなわち、内輪支持部材(28)は、針状ころ軸受(18)の外輪を兼ねている。
【0036】
内輪保持部材(28)の針状ころ(45)を受ける環状凹所(47)に、硬化処理(例えば浸炭処理などの熱処理)が施されており、内輪保持部材(28)が針状ころ軸受(18)の外輪を兼ねることが可能とされている。これに対し、内輪保持部材(28)のおねじ部(41c)には、硬化処理が施されていない。このようにすることで、おねじ部(41c)における硬度アップによる靭性の低下が防止され、おねじ部(41c)に割れが発生することが防止される。これにより、内輪保持部材(28)は、内輪(22)(23)を確実に保持する機能に加えて、針状ころ軸受(18)の外輪を兼ねるものとなり、部品数を低減することができる。
【0037】
上記揺動型歯車装置(1)においては、各固定歯車(11)(12)に設けられた凸歯としての転動体(32)(35)と各揺動歯車(26)(27)に設けられた凹歯としての凹溝(33)(36)との噛み合いによって回転(トルク)が伝達されるフェースギヤによる伝達となっている。したがって、トルク入力によりギヤ反力がモーメントとしてベアリングギヤ(10)に負荷され、ベアリングギヤ(10)が傾いて、ギヤ、すなわち転動体(32)(35)と凹溝(33)(36)との噛み合いに歯飛びが発生し、これにより、トルク容量が低下する可能性がある。
【0038】
そこで、上記実施形態では、ベアリングギヤ(10)は、従来、単列の玉軸受であったものが、複列とされている。これにより、転がり軸受のモーメント剛性が向上し、歯飛びの発生が防止される。ここで、内輪(22)(23)を圧入固定した場合には、圧入により固定力よりも大きい力が作用する大トルク時に内輪(22)(23)がずれることで、歯飛びが発生する。そこで、内輪(22)(23)は、内輪保持部材(28)の左端部に設けられたフランジ部(42)と内輪保持部材(28)の右端部にねじ合わされたロータ(6)とによって挟持されているものとされ、これによっても、歯飛びが防止される。こうして、歯飛びの発生が防止され、トルク容量が確保される。
【符号の説明】
【0039】
(1):揺動型歯車装置、(2):ハウジング、(3):入力軸、(4):出力軸、(5):モータ、(6):ロータ、(7):入力側部材、(8):出力側部材、(10):ベアリングギヤ、(11):入力側固定歯車、(12):出力側固定歯車、(21):外輪、(22)(23):内輪、(24)(25):玉、(26):入力側揺動歯車、(27):出力側揺動歯車、(28):内輪支持部材、(41a):傾斜した円筒面、(41c):おねじ部、(42):フランジ部
図1
図2
図3
図4
図5