(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
〔トナー〕
本発明のトナーは、ポリエステルセグメントにビニル系重合体セグメントが結合されてなるビニル変性ポリエステル樹脂を有する結着樹脂を含有するトナー粒子よりなり、当該トナー粒子は、所望に応じて、さらに、着色剤、磁性粉、離型剤、荷電制御剤などを含有するものとすることができる。
そして、本発明においては、ビニル変性ポリエステル樹脂を構成するビニル系重合体セグメントが、上記一般式(1)で表される構造単位(以下、「特定のビニルフラン系構造単位」ともいう。)および/または上記一般式(2)で表される構造単位(以下、「特定のビニルフェニルケトン系構造単位」ともいう。)を有するものとされている。
以下、このような特定のビニルフラン系構造単位および/または特定のビニルフェニルケトン系構造単位を有するビニル系重合体セグメント(以下、「特定のビニル系重合体セグメント」ともいう。)を含有するビニル変性ポリエステル樹脂を、「特定のビニル変性ポリエステル樹脂」という。
【0018】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂は、ポリエステルセグメントと特定のビニル系重合体セグメントとの2種類のセグメントが化学的に結合されているものであればよく、具体的には、例えば、ポリエステルセグメントの末端に特定のビニル系重合体セグメントが結合されてなるブロック共重合体構造を有するものや、ポリエステルセグメントによる主鎖に特定のビニル系重合体セグメントによる側鎖が結合されたグラフト共重合体構造を有するものなどが挙げられる。
【0019】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位は、それぞれ、NMR測定によって確認することができる。
【0020】
トナーを構成する結着樹脂に特定のビニル変性ポリエステル樹脂が含有されていることにより、従来のスチレンアクリル変性ポリエステル樹脂によるトナーに比較して極めて優れた低温定着性が得られる。この理由としては、以下のように推測される。
すなわち、従来のスチレンアクリル変性ポリエステル樹脂は、比較的疎水性の高いスチレンに由来の構造単位(スチレンユニット)を含有しており、当該スチレンユニットの高い疎水性のために、表面に親水基を有する転写紙との接着強度が十分に得られなかったが、以上のような特定のビニル変性ポリエステル樹脂においては、特定のビニルフラン系構造単位中のフラニル基、あるいは、特定のビニルフェニルケトン系構造単位中のエステル結合またはアルコキシ基と、転写紙の表面に存在するヒドロキシ基との間に水素結合が形成されることによって、転写紙との間に高い接着強度が得られるために、低い定着温度においても十分な定着性を得ることができると推測される。
【0021】
また、トナーを構成する結着樹脂に特定のビニル変性ポリエステル樹脂が含有されていることにより、従来のスチレンアクリル変性ポリエステル樹脂によるトナーに比較して優れた帯電立ち上がり性が得られるが、この理由としては、以下のように推測される。
すなわち、特定のビニルフラン系構造単位を含む場合は、当該特定のビニルフラン系構造単位中に含まれるフラニル基の酸素原子は炭素原子と同じくsp
2 混成軌道を有すると共にフラニル基の構造部分が双極性の共鳴混成構造を有するのでトナーの帯電立ち上がり時間が短縮され、これにより、長期撹拌における過剰帯電とそれに伴う画像濃度の変動を抑制することができるものと推定される。
また、特定のビニルフェニルケトン系構造単位を含む場合は、理由は定かではないが、フェニル基の置換基が上述のように規定されることでトナーの帯電立ち上がり時間が短縮され、これにより、長期撹拌における過剰帯電とそれに伴う画像濃度の変動を抑制することができるものと推定される。
【0022】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂における特定のビニル系重合体セグメントの含有割合(以下、「ビニル変性量」ともいう。)は、1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。
ビニル変性量は、具体的には、特定のビニル変性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる全単量体の合計質量に対する、特定のビニル系重合体セグメントを形成するために用いられる単量体(以下、「ビニル系単量体」ともいう。)の合計質量の割合をいう。
【0023】
ビニル変性量が上記の範囲にあることにより、優れた低温定着性および耐ホットオフセット性を両立して得ることができる。一方、ビニル変性量が過小である場合は、耐ホットオフセット性に劣るものとなるおそれがあり、ビニル変性量が過大である場合は、特定のビニル変性ポリエステル樹脂が軟化点の高いものとなるため、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
【0024】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂は、低温定着性および耐ホットオフセット性を得る観点から、ガラス転移点が30〜60℃であることが好ましく、より好ましくは40〜60℃であり、かつ、軟化点が80〜110℃であることが好ましい。
【0025】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂のガラス転移点は、測定試料として特定のビニル変性ポリエステル樹脂を用いて、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)によって測定された値である。
【0026】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂の軟化点は、以下のように測定されるものである。
まず、20℃±1℃、50%±5%RHの環境下において、特定のビニル変性ポリエステル樹脂1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cm
2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製し、次いで、この成型サンプルを、24℃±5℃、50%±20%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度T
offsetが軟化点とされる。
【0027】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたスチレン換算分子量による分子量分布から得られるピーク分子量は、1,000〜40,000であることが好ましく、より好ましくは3,000〜20,000である。
なお、ピーク分子量とは、分子量分布におけるピークトップの溶出時間に相当する分子量である。分子量分布におけるピークトップが複数存在する場合は、ピーク面積比率の一番大きなピークトップの溶出時間に相当する分子量を指す。
【0028】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂の分子量分布は、具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(特定のビニル変性ポリエステル樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出することにより、測定される。
【0029】
〔特定のビニル系重合体セグメント〕
本発明に係る特定のビニル変性ポリエステル樹脂を構成する特定のビニル系重合体セグメントは、特定のビニルフラン系構造単位および/または特定のビニルフェニルケトン系構造単位を有するものである。
特定のビニル系重合体セグメントは、特定のビニルフラン系構造単位のみを有する単独重合体からなるものであってもよく、また、特定のビニルフェニルケトン系構造単位のみを有する単独重合体からなるものであってもよく、特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の2者のみよりなる共重合体からなるものであってもよく、さらに、特定のビニルフラン系構造単位および/または特定のビニルフェニルケトン系構造単位と、その他のビニル系重合性単量体に由来の構造単位とを有する共重合体(以下、「特定の共重合体」ともいう。)からなるものであってもよいが、本発明に係る特定のビニル系重合体セグメントは、特定の共重合体からなるものであることが好ましい。
【0030】
〔特定のビニルフラン系構造単位〕
特定のビニルフラン系構造単位を示す上記一般式(1)中、R
1 は、水素原子、−CH
2 OH、−CH
2 OR
2 または−CH
2 O(C=O)R
3 である。R
2 、R
3 は、各々、炭素数1〜8のアルキル基である。
【0031】
特定のビニルフラン系構造単位は、R
1 が−CH
2 OR
2 、R
2 が炭素数1〜4のアルキル基のものであることが好ましく、特に、R
2 が炭素数2〜4のアルキル基のものであることが好ましい。
【0032】
特定のビニルフラン系構造単位としては、具体的には、例えば、下記式(1−1)〜(1−6)で表されるものなどを例示することができる。
【0034】
特定のビニルフラン系構造単位は、後述するように、ビニル系単量体である下記一般式(3)で表される重合性単量体(以下、「特定のビニルフラン系単量体」ともいう。)を用いてラジカル重合反応を行うことにより、特定のビニル系重合体セグメント中に導入することができる。
【0036】
〔一般式(3)中、R
1 は、水素原子、−CH
2 OH、−CH
2 OR
2 または−CH
2 O(C=O)R
3 (R
2 、R
3 は、各々、炭素数1〜8のアルキル基である。)である。〕
【0037】
この特定のビニルフラン系単量体は、例えばおがくずや、バイオアルコールのアルコール発酵時の副生成物などから取得することができる非可食性の植物を出発原料として、合成することができる。
例えば、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を出発原料として、必要に応じて−CH
2 OHを−CH
2 OR
2 または−CH
2 O(C=O)R
3に変換した後、Witting反応を行うことにより、特定のビニルフラン系単量体を合成することができる。一例を挙げると、下記反応式(A)で示されるように、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)をp−トルエンスルホン酸中でメタノールと共に加熱することにより、5−メトキシメチルフルフラール(MMF)へ変換させ、その後、水が混合された1,4−ジオキサンなどの有機溶媒中において炭酸カリウムの存在下、メチルフォスフォニウムブロマイドとWitting反応を行うことにより、メトキシメチルビニルフラン(HMVF)を合成することができる。
一方、上記一般式(3)におけるR
1 が水素原子である特定のビニルフラン系単量体は、出発原料としてヒドロキシメチルフルフラールに代えてフルフラールを用い、これに対して同様のWitting反応を行うことにより、合成することができる。
【0039】
特定のビニルフラン系単量体としては、具体的には、例えば、下記式(M1−1)〜(M1−6)で表されるものなどを例示することができる。
【0041】
〔特定のビニルフェニルケトン系構造単位〕
特定のビニルフェニルケトン系構造単位を示す上記一般式(2)中、R
4 〜R
8 は、各々、水素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、−OCOR
9 であり、R
4 〜R
8 の少なくとも2つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数1〜4のアルコキシ基または−OCOR
9 である。R
9 は炭素数1〜8のアルキル基である。
【0042】
特定のビニルフェニルケトン系構造単位は、R
4 およびR
7 が、各々、炭素数1〜4のアルコキシ基または−OCOR
9 であるもの、または、R
4 およびR
5 が、各々、炭素数1〜4のアルコキシ基または−OCOR
9 であるものであることが好ましい。
【0043】
特定のビニルフェニルケトン系構造単位としては、具体的には、例えば、下記式(2−1)〜(2−8)で表されるものなどを例示することができる。
【0045】
特定のビニルフェニルケトン系構造単位は、後述するように、ビニル系単量体である下記一般式(4)で表される重合性単量体(以下、「特定のビニルフェニルケトン系単量体」ともいう。)をラジカル重合反応することにより、特定のビニル系重合体セグメント中に導入することができる。
【0047】
〔一般式(4)中、R
4 〜R
8 は、各々、水素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、−OCOR
9 (R
9 は炭素数1〜8のアルキル基である。)であり、R
4 〜R
8 の少なくとも2つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数1〜4のアルコキシ基または−OCOR
9 である。〕
【0048】
この特定のビニルフェニルケトン系単量体は、例えば非可食性の植物である木材などに多量に含まれるリグニンの分解によって得られる、アニソール、フェノール、グアヤコール、2,6−ジメトキシフェノールなどの芳香族化合物や、グルコースから遺伝子改変微生物により2−デオキシシロイノソースを経て化学合成により合成されるハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、ピロガロールなどのキノン誘導体を出発原料として、合成することができる。
具体的には、例えば「大津隆行、後根壌二、井本英二、化工、69、516、(1966)」に開示されるように、芳香族化合物を出発原料として、β−クロロプロピオン酸塩化物を用いてフリーデル−クラフツ アシル化反応を行うことにより、β−クロロプロピオフェノンを合成し、さらに酢酸カリウムを用いて脱塩化水素反応を行うことにより、ビニルフェニルケトン誘導体が合成される。
また例えば、「G.A.Kraus, P.Liu, Tetrahedron Let., 35, 7723, (1994)」および「G.A.Kraus, H.Maeda, Tetrahedron Let., 35, 9186, (1994)」に開示されるように、芳香族化合物の中でもキノン誘導体を出発原料として、アクロレイン(CH
2 =CHCHO)と共に可視光線を照射し、フリーデル−クラフツ反応を行うことにより、ビニルフェニルケトン誘導体が合成される。
【0049】
得られたビニルフェニルケトン誘導体が置換基にヒドロキシ基を有さない場合は、そのまま特定のビニルフェニルケトン系単量体として用いることができる。
得られたビニルフェニルケトン誘導体が置換基にヒドロキシ基を有する場合は、当該ヒドロキシ基を、(a)R
9 −COOH(R
9 は炭素数1〜8のアルキル基である。)で表されるカルボン酸またはカルボン酸無水物を用いてエステル化反応を行うことによって−OCOR
9 とする、(b)硫酸およびp−トルエンスルフォン酸およびメタノールの存在下で反応させることによってメトキシ基とし、これを特定のビニルフェニルケトン系単量体として用いることができる。
また、得られたビニルフェニルケトン誘導体が置換基に炭素数2〜4のアルコール基を有する場合も、上記(b)と同様にして、当該アルコール基を、硫酸およびp−トルエンスルフォン酸およびメタノールの存在下で反応させることによって炭素数2〜4のアルコキシ基とし、これを特定のビニルフェニルケトン系単量体として用いることができる。
【0050】
特定のビニルフェニルケトン系単量体としては、具体的には、例えば、下記式(M2−1)〜(M2−8)で表されるものなどを例示することができる。
【0052】
〔その他のビニル系重合性単量体〕
特定の共重合体を形成することができるその他のビニル系重合性単量体は、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものであり、具体的には、例えばスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体などを挙げることができる。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸n−ブチルまたはアクリル酸2−エチルヘキシルを用いることが好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
スチレン系単量体の具体例としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレンなどおよびその誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
特定の共重合体としては、特に、特定のビニルフラン系構造単位および/または特定のビニルフェニルケトン系構造単位と、アクリル酸エステル系単量体に由来の構造単位を有する共重合体を用いるものを用いることが好ましい。
【0056】
この特定の共重合体における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量(共重合比率)は、60〜90質量%とされることが好ましく、より好ましくは70〜85質量%である。
特定の共重合体における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量が上記の範囲にあることにより、トナーに優れた帯電立ち上がり性を確実に得ることができる。一方、特定の共重合体における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量が過少である場合は、初期画像濃度が低いものとなるおそれがある。また、特定の共重合体における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量が過多である場合は、ハーフトーン画像の均一性が低下したものとなるおそれがある。
【0057】
特定のビニル系重合体セグメントにおける各構造単位の相対的な含有割合は、下記式(ア)で表されるFOX式で算出されるガラス転移点(Tg)が35〜80℃、好ましくは40〜60℃の範囲となるような割合とされることが好ましい。
【0058】
式(ア):1/Tg=Σ(Wx/Tgx)
〔式(ア)において、Wxは単量体xの重量分率、Tgxは単量体xの単独重合体のガラス転移点である。〕
なお、本明細書においては、後述する両反応性モノマーはガラス転移点の計算に用いないものとする。
【0059】
特定のビニル系重合体セグメントは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたスチレン換算分子量による分子量分布から得られるピーク分子量が、3,500〜40,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜30,000である。
特定のビニル系重合体セグメントのピーク分子量は、測定試料として当該特定のビニル系重合体セグメントを形成するための(共)重合体を用いたことの他は上述の通りに測定されるものである。
【0060】
〔ポリエステルセグメント〕
本発明に係る特定のビニル変性ポリエステル樹脂を構成するポリエステルセグメントは、多価カルボン酸モノマー(誘導体)および多価アルコールモノマー(誘導体)を原料として適宜の触媒の存在下で重縮合反応によって合成された未変性のポリエステル樹脂から形成されるものとすることができる。
【0061】
多価カルボン酸モノマー誘導体としては、多価カルボン酸モノマーのアルキルエステル、酸無水物および酸塩化物を用いることができ、多価アルコールモノマー誘導体としては、多価アルコールモノマーのエステル化合物およびヒドロキシカルボン酸を用いることができる。
【0062】
多価カルボン酸モノマーとしては、例えばシュウ酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p′−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸などの2価のカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などの2価以上のカルボン酸などを挙げることができる。
【0063】
多価アルコールモノマーとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどを挙げることができる。
【0064】
上記の多価カルボン酸モノマーと多価アルコールモノマーの比率は、多価アルコールモノマーの水酸基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
【0065】
ポリエステルセグメントを形成するための未変性のポリエステル樹脂を合成するための触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。
【0066】
ポリエステルセグメントを形成するための未変性のポリエステル樹脂は、用いる多価カルボン酸モノマーおよび/または多価アルコールモノマーとして、カルボン酸価数またはアルコール価数を選択することなどによって、一部枝分かれ構造や架橋構造などが形成されていてもよい。
【0067】
ポリエステルセグメントのガラス転移点は、40〜70℃であることが好ましく、より好ましくは50〜65℃の範囲である。ポリエステルセグメントのガラス転移点が40℃以上であることにより、当該ポリエステルセグメントについて高温領域における凝集力が適切なものとなり、加熱定着の際にホットオフセットを生じることが抑制される。また、ポリエステルセグメントのガラス転移点が70℃以下であることにより、加熱定着の際に十分な溶融を得ることができて十分な最低定着温度を確保することができる。
ポリエステルセグメントのガラス転移点は、測定試料として当該ポリエステルセグメントを形成するための未変性のポリエステル樹脂を用いたことの他は上述の通りに測定されるものである。
【0068】
また、当該ポリエステルセグメントの重量平均分子量(Mw)は、1,500以上60,000以下であることが好ましく、より好ましくは3,000以上40,000以下の範囲であり、さらに好ましくは10,000以上40,000以下の範囲である。
重量平均分子量が1,500以上であることにより、結着樹脂全体として好適な凝集力が得られ、定着の際にホットオフセットを生じることが抑制される。また、重量平均分子量が60,000以下であることにより、十分な溶融を得ることができて十分な最低定着温度を確保することができながら、定着の際にホットオフセットを生じることが抑制される。
ポリエステルセグメントの重量平均分子量(Mw)は、測定試料として当該ポリエステルセグメントを形成するための未変性のポリエステル樹脂を用いたことの他は上述の通りに測定される分子量分布から算出されるものである。
【0069】
〔特定のビニル変性ポリエステル樹脂の作製方法〕
以上のような特定のビニル変性ポリエステル樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、以下の(A)〜(C)の3つの方法が挙げられる。
【0070】
(A)ポリエステルセグメントとなる未変性のポリエステル樹脂を予め重合しておき、当該未変性のポリエステル樹脂の存在下で、特定のビニル系重合体セグメントを形成するためのビニル系単量体を反応させる方法。
【0071】
具体的には、先ず、ポリエステルセグメントとなる未変性のポリエステル樹脂を形成し、次に、当該未変性のポリエステル樹脂に、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体並びに両反応性モノマーを加えて混合し、これらをラジカル重合反応させることによって、特定のビニル系重合体セグメントを形成させ、これにより、両反応性モノマーを介して特定のビニル系重合体セグメントとポリエステルセグメントとが結合した構造の特定のビニル変性ポリエステル樹脂を形成することができる。
【0072】
〔両反応性モノマー〕
ここに、両反応性モノマーとは、カルボキシ基(−COOH)またはヒドロキシ基(−OH)と反応し得る基からなる一方の反応基と、エチレン性不飽和結合を有する基からなる他方の反応基とを有するモノマーである。
両反応性モノマーとしては、具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸および無水マレイン酸などを用いることができる。
このような両反応性モノマーを用いて得られた特定のビニル変性ポリエステル樹脂は、未変性のポリエステル樹脂におけるカルボキシ基(−COOH)またはヒドロキシ基(−OH)に両反応性モノマーの一方の反応基が結合すると共に、当該両反応性モノマーの他方の反応基がビニル系単量体と共にラジカル重合反応に供されて特定のビニル系重合体セグメントに結合された構造を有する。
【0073】
〔重合開始剤〕
特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体並びに両反応性モノマーのラジカル重合反応は、ラジカル重合開始剤の存在下で行うことが好ましく、ラジカル重合開始剤の添加の時期は特に制限されないが、ラジカル重合の制御が容易であるという点で、未変性のポリエステル樹脂、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体、並びに両反応性モノマーを混合する工程の後で添加することが好ましい。
【0074】
重合開始剤としては、公知の種々の重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、例えば過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化−tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ブチルヒドロペルオキシド、過ギ酸−tert−ブチル、過酢酸−tert−ブチル、過安息香酸−tert−ブチル、過フェニル酢酸−tert−ブチル、過メトキシ酢酸−tert−ブチル、過N−(3−トルイル)パルミチン酸−tert−ブチルなどの過酸化物類;2,2′−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、2,2′−アゾビス−(2−アミノジプロパン)硝酸塩、1,1′−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール−2,2′−アゾビスイソブチレート)などのアゾ化合物などが挙げられる。
【0075】
〔連鎖移動剤〕
また、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体並びに両反応性モノマーのラジカル重合反応においては、特定のビニル系重合体セグメントの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばアルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
連鎖移動剤は、未変性のポリエステル樹脂、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体、並びに両反応性モノマーを混合する工程において樹脂材料と共に混合させておくことが好ましい。
【0076】
連鎖移動剤の添加量は、所望する特定のビニル系重合体セグメントの分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体、並びに両反応性モノマーの合計量に対して、0.1〜5質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0077】
未変性のポリエステル樹脂、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体、並びに両反応性モノマーを混合する工程においては、加熱することが好ましい。
加熱温度としては、未変性のポリエステル樹脂、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体並びに両反応性モノマーを混合させることができる範囲であればよく、良好な混合が得られると共に、重合制御が容易となることから、例えば80〜120℃とすることができ、より好ましくは85〜115℃、さらに好ましくは90〜110℃である。
【0078】
上記の(A)の方法においては、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体を加える前に、両反応性モノマーのみを加えて未変性のポリエステル樹脂に結合させておき、次いで、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体を加えて混合して、これらをラジカル重合反応させてもよい。
【0079】
(B)特定のビニル系重合体セグメントとなる(共)重合体を予め重合しておき、当該(共)重合体の存在下で、ポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマーおよび多価アルコールモノマーを重縮合反応させることにより、ポリエステルセグメントを形成する方法。
【0080】
この方法においては、先ず、特定のビニル系重合体セグメントとなる(共)重合体を形成する。次に、当該(共)重合体に両反応性モノマーを加えてラジカル重合反応させることにより当該(共)重合体に両反応性モノマーを結合させ、さらにポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマーおよび多価アルコールモノマーを加え、両反応性モノマーを結合させた(共)重合体の存在下で、これらを重縮合反応させることにより、当該両反応性モノマーを介して特定のビニル系重合体セグメントとポリエステルセグメントとが結合した構造の特定のビニル変性ポリエステル樹脂を形成することができる。
【0081】
(C)ポリエステルセグメントとなる未変性のポリエステル樹脂および特定のビニル系重合体セグメントとなる(共)重合体をそれぞれ予め重合しておき、これらに両反応性モノマーを反応させることにより、両者を結合させる方法。
【0082】
この方法においては、先ず、ポリエステルセグメントとなる未変性のポリエステル樹脂と、特定のビニル系重合体セグメントとなる(共)重合体とをそれぞれ別個に形成する。次に、ポリエステルセグメントとなる未変性のポリエステル樹脂と特定のビニル系重合体セグメントとなる(共)重合体とを共存させた系に両反応性モノマーを投入して反応させることにより、当該両反応性モノマーを介してポリエステルセグメントと特定のビニル系重合体セグメントとが結合した構造の特定のビニル変性ポリエステル樹脂を形成することができる。
【0083】
未変性のポリエステル樹脂、特定のビニルフラン系単量体および/または特定のビニルフェニルケトン系単量体を含むビニル系単量体および両反応性モノマーのうち、両反応性モノマーの使用割合は、用いられる樹脂材料の全質量を100質量%としたときの両反応性モノマーの割合が0.1質量%以上5.0質量%以下とされることが好ましく、特に、0.5質量%以上3.0質量%以下とされることが好ましい。
【0084】
〔結着樹脂〕
本発明のトナーを構成する結着樹脂は、特定のビニル変性ポリエステル樹脂のみよりなるものであってもよく、特定のビニル変性ポリエステル樹脂とその他の樹脂との混合物であってもよいが、当該結着樹脂における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量が25〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜77質量%である。
結着樹脂における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量が過少である場合は、十分な帯電立ち上がり性が得られないおそれがあり、また、環境負荷を十分に低く抑制することができないおそれがある。
【0085】
結着樹脂中における特定のビニル変性ポリエステル樹脂およびその他の樹脂の含有質量比は、特定のビニル変性ポリエステル樹脂:その他の樹脂で77:23〜30:70とすることが好ましい。
【0086】
本発明のトナーを構成する結着樹脂は、ガラス転移点が30〜60℃であることが好ましく、より好ましくは30〜50℃である。また、軟化点が80〜110℃であることが好ましく、より好ましくは90〜100℃である。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたスチレン換算分子量による分子量分布から得られるピーク分子量が3,500〜20,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜20,000である。
結着樹脂のガラス転移点、軟化点およびピーク分子量は、測定試料として結着樹脂を用いたことの他は上述の通りに測定されるものである。
【0087】
本発明に係るトナー粒子における結着樹脂の含有量は、トナー粒子における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量が27〜70質量%とされる量であることが好ましい。
トナー粒子における特定のビニルフラン系構造単位および特定のビニルフェニルケトン系構造単位の合計の含有量が27質量%以上であることにより、環境負荷を低く抑制することができる。
【0088】
〔着色剤〕
本発明に係るトナー粒子が着色剤を含有したものとして構成される場合の着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、染料、顔料などを任意に使用することができる。
カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどを用いることができる。
磁性体としては鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、マグネタイトなどの強磁性金属酸化物などを用いることができる。
また、顔料としてはC.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、中心金属が亜鉛、チタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料などを用いることができ、これらの混合物も用いることができる。染料としてはC.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などを用いることができ、またこれらの混合物も用いることができる。
【0089】
着色剤の含有割合は、例えば結着樹脂に対して1〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜20質量%である。
【0090】
〔磁性粉〕
また、本発明に係るトナー粒子が磁性粉を含有するものとして構成される場合において、磁性粉としては、例えばマグネタイト、γ−ヘマタイト、または各種フェライトなどを使用することができる。
磁性粉の含有割合は、トナー粒子中10〜500質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜200質量%である。
【0091】
〔離型剤〕
また、本発明に係るトナー粒子が離型剤を含有するものとして構成される場合において、離型剤としては、特に限定されるものではなく、公知の種々のワックスを用いることができる。ワックスとしては、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスのような炭化水素系ワックス類、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、クエン酸ベヘニルなどのエステルワックス類などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
離型剤としては、トナーの低温定着性および離型性を確実に得る観点から、その融点が50〜95℃であるものを用いることが好ましい。
離型剤の含有割合は、結着樹脂全量に対して2〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜18質量%、さらに好ましくは4〜15質量%である。
【0092】
〔荷電制御剤〕
また、本発明に係るトナー粒子が荷電制御剤を含有するものとして構成される場合において、荷電制御剤としては、公知の種々のものを使用することができる。
荷電制御剤としては、水系媒体中に分散することができる公知の種々の化合物を用いることができ、具体的には、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩あるいはその金属錯体などが挙げられる。
荷電制御剤の含有割合は、結着樹脂全量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%とされる。
【0093】
〔トナーの平均粒径〕
本発明のトナーの平均粒径は、例えば体積基準のメジアン径(D
50)で3〜10μmであることが好ましい。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、例えば1200dpi(dpi;1インチ(2.54cm)あたりのドット数)レベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することができる。
【0094】
トナーの体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。
具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー粒子の分散液を調製し、このトナー粒子の分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。
ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を50μmにし、測定範囲である1〜30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0095】
〔トナー粒子の平均円形度〕
本発明のトナーは、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、転写効率の向上の観点から、下記式(T)で示される円形度の算術平均値が0.850〜0.990であることが好ましい。
式(T):円形度=粒子投影像と同等の投影面積を有する真円の周囲長/粒子投影像の周囲長
【0096】
ここで、トナー粒子の平均円形度は「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定される値である。
具体的には、トナー粒子を界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散した後、「FPIA−2100」を用い、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000〜10000個の適正濃度で測定を行う。この範囲であれば、再現性のある測定値が得られる。
【0097】
以上のようなトナーによれば、特定のビニルフラン系構造単位および/または特定のビニルフェニルケトン系構造単位を有する特定のビニル変性ポリエステル樹脂が含有されていることによって、極めて優れた低温定着性および優れた耐ホットオフセット性が得られ、さらに、優れた帯電立ち上がり性が得られる。
また、トナー粒子に含有される樹脂として、特定の構造単位を有するビニル系重合体セグメントを含有する樹脂が用いられており、当該特定の構造単位を形成するための単量体は植物由来の原料から得ることができるので、石油由来の原料の使用からの脱却が図られ、その結果、環境負荷を低く抑制することができる。
【0098】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーは、混練・粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、乳化重合凝集法、その他の公知の種々の方法によって製造することができるが、高画質化、高安定性に有利となる粒子径の均一性、形状の制御性、コアシェル構造形成の容易性の観点から、水系媒体に分散された特定のビニル変性ポリエステル樹脂による微粒子を凝集、融着させてトナー粒子を得る乳化凝集法によって製造することが好ましい。
乳化凝集法は、水系媒体中に特定のビニル変性ポリエステル樹脂による微粒子が分散されてなる水系分散液を、必要に応じて結着樹脂を構成するその他の樹脂による微粒子の分散液や、着色剤による微粒子などのトナー粒子構成成分の微粒子の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナーの粒子径となるまでこれらの微粒子を凝集させ、その後または凝集と同時に、樹脂による微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー粒子を製造する方法である。
ここで、結着樹脂を構成するその他の樹脂による微粒子を、任意に離型剤、荷電制御剤などの内添剤を含有したものとしてもよく、組成の異なる樹脂によりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。
トナー粒子をコアシェル構造を有するものとする場合は、凝集時に、異種の樹脂による微粒子を添加すればよい。
【0099】
特定のビニル変性ポリエステル樹脂による微粒子の水系分散液の調製方法としては、特定のビニル変性ポリエステル樹脂を、界面活性剤が添加された水系媒体中に超音波分散法、ビーズミル分散法などにより分散させる水系直接分散法や、転相乳化法などが挙げられる。
【0100】
結着樹脂を構成するその他の樹脂による微粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、またはいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。樹脂微粒子に内添剤を含有させる場合には、中でもミニエマルション重合法を用いることが好ましい。
【0101】
〔外添剤〕
上記のトナー粒子は、そのままで本発明のトナーを構成することができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加して本発明のトナーを構成してもよい。
【0102】
後処理剤としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などよりなる無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、あるいは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これら無機微粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、耐熱保管性の向上、環境安定性の向上のために、光沢処理が行われていることが好ましい。
【0103】
これらの種々の外添剤の添加量は、その合計が、トナー100質量部に対して0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部とされる。また、外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0104】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
キャリアとしては、例えば鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中ではフェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリアなどを用いてもよい。
キャリアとしては、体積平均粒径が15〜100μmのものが好ましく、25〜80μmのものがより好ましい。
【0105】
〔画像形成装置〕
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して転写材に転写する転写手段と、転写材上のトナー像を定着させる定着手段とを有するものを用いることができる。このような構成を有する画像形成装置の中でも、複数の感光体に係る画像形成ユニットが中間転写体に沿って設けられた構成のカラー画像形成装置、特に、感光体が中間転写体上に直列配置させたタンデム型カラー画像形成装置に好適に用いることができる。
【0106】
また、本発明のトナーは、定着温度(定着部材の表面温度)が100〜200℃とされる比較的低温のものにおいて好適に用いることができる。
【0107】
さらに、本発明のトナーは、静電潜像担持体の線速が100〜500mm/secとされる高速機に好適に用いることができる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂の合成例1〕
上記式(M1−1)で表されるビニルフラン系単量体(VF系単量体)140質量部と、n−ブチルアクリレート(BA)40質量部と、両反応性モノマー:アクリル酸10質量部と、ラジカル重合開始剤:過酸化−tert−ブチル38質量部とを滴下ロートに入れた。
一方、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物500質量部を、窒素導入管、脱水管、撹拌機および熱電対を装備した10Lの四ツ口フラスコに入れ、付加重合温度:160℃まで昇温した後、撹拌下において上記の滴下ロートから原料単量体およびラジカル重合開始剤を1時間かけて滴下した後、1時間熟成を行った。その後、230℃まで昇温し、エステル化触媒:オクチル酸スズ2質量部、テレフタル酸125質量部およびフマル酸85質量部を加え、常圧下にて所定の軟化点に達するまで重縮合反応を行うことにより、ビニル変性ポリエステル樹脂〔1〕を得た。
【0111】
〔ビニル変性ポリエステル樹脂の合成例2〜29〕
ビニル変性ポリエステル樹脂の合成例1において、ビニルフラン系単量体140質量部の代わりに、表1の処方に従ってビニルフラン系単量体、ビニルフェニルケトン系単量体(VFK系単量体)および/またはスチレン系単量体を用いたことの他は同様にして、ビニル変性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔29〕を得た。
【0112】
【表1】
【0113】
〔実施例1:トナーの製造例1〕
(1)結着樹脂微粒子分散液の調製
ビニル変性ポリエステル樹脂〔1〕100質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(株式会社徳寿工作所社製)によって粉砕し、これを0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(株式会社日本精機製作所製)を用いて、V−LEVEL、300μAで30分間超音波分散した。これにより、体積基準のメジアン径が250nmである結着樹脂微粒子が分散された結着樹脂微粒子分散液〔1〕を得た。
【0114】
(2)離型剤微粒子分散液の調製
マイクロクリスタリンワックス(融点80℃) 100質量部
ドデシル硫酸ナトリウム 5質量部
イオン交換水 240質量部
を丸型ステンレス鋼製フラスコ内でホモジナイザー「ウルトラタラックスT50」(IKA社製)を用いて10分間分散した後、圧力吐出型ホモジナイザーを用いて分散処理し、体積基準のメジアン径が550nmである離型剤微粒子が分散された離型剤微粒子分散液〔W〕を調製した。
【0115】
(3)着色剤微粒子分散液の調製
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に撹拌溶解し、この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック「モーガルL」(キャボット社製)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子が分散されてなる着色剤微粒子分散液〔Bk〕を調製した。この分散液における着色剤微粒子の粒子径を、マイクロトラック粒度分布測定装置「UPA−150」(日機装社製)を用いて測定したところ、117nmであった。
【0116】
(4)トナー粒子の作製
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、結着樹脂微粒子分散液〔1〕288質量部(固形分換算)、離型剤微粒子分散液〔W〕30質量部(固形分換算)、イオン交換水2000質量部を投入し、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
その後、着色剤微粒子分散液〔Bk〕40質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて凝集粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになった時点で、結着樹脂粒子分散液〔1〕を固形分換算で72質量部を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、トナーの平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.945になった時点で30℃に冷却してトナー粒子の分散液を得た。
この分散液を遠心分離機で固液分離し、トナー粒子のウェットケーキを形成し、これを遠心分離機を用いて濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥した。
乾燥させたトナー粒子に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)1質量%および疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合することにより、トナー〔1〕を作製した。
【0117】
〔実施例2〜26、比較例1〜3:トナーの製造例2〜29〕
トナーの製造例1の結着樹脂微粒子分散液の調製工程において、ビニル変性ポリエステル樹脂〔1〕の代わりにビニル変性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔29〕を用いたことの他はトナーの製造例1と同様にして、トナー〔2〕〜〔29〕を作製した。
【0118】
〔現像剤の製造例1〜29〕
フェライト粒子(体積基準のメジアン径:50μm(パウダーテック社製))100質量部と、メチルメタクリレート−シクロヘキシルメタクリレート共重合体樹脂(一次粒子の体積基準のメジアン径:85nm)4質量部とを、水平撹拌羽根式高速撹拌装置に入れ、撹拌羽根の周速:8m/s、温度:30℃の条件で15分間混合した後、120℃まで昇温して撹拌を4時間継続した。その後、冷却し、200メッシュの篩を用いてメチルメタクリレート−シクロヘキシルメタクリレート共重合体樹脂の破片を除去することにより、樹脂被覆キャリアを得た。
この樹脂被覆キャリアを、上記のトナー〔1〕〜〔29〕の各々に対して、トナー濃度が7質量%になるよう混合することにより、現像剤〔1〕〜〔29〕を調製した。
【0119】
(1)低温定着性
市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)において、定着装置を、定着上ベルトの表面温度を140〜220℃の範囲で、定着下ローラの表面温度を120〜200℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、評価紙「NPi上質紙128g/m
2 」(日本製紙製)上に、定着速度300mm/secで、トナー付着量11.3g/m
2 のベタ画像を定着させる定着実験を、コールドオフセットによる定着不良が観察されるまで、設定される定着温度(定着上ベルトの表面温度)を220℃、215℃・・・と5℃刻みで減少させるよう変更しながら繰り返し行った。なお、定着下ローラは、常に定着上ベルトの表面温度より20℃低い表面温度に設定した。
そして、コールドオフセットによる定着不良が観察されない定着実験のうち、最低の定着温度を定着下限温度として評価した。結果を表2に示す。
この定着下限温度が低い程、低温定着性に優れることを意味し、155℃以下であれば実用上問題なく、合格と判断される。
【0120】
(2)耐ホットオフセット性
上記の定着実験において、ホットオフセットによる定着不良が観察されない定着実験のうち、最高の定着温度を耐ホットオフセット性の指標として評価した。結果を表2に示す。
この最高の定着温度が200℃以上であれば実用上問題なく、合格と判断される。
【0121】
(3)帯電立ち上がり性
温度10℃、湿度10%RHの環境条件において、現像剤20gを20mlのガラス製容器に入れ、室温で1週間静置した後、毎分200回、振り角度45°、アーム50cmで1分間振った後、現像剤1gを採取し、これの帯電量をブローオフ法によって測定した。この値をQ1とする。さらに継続して120分間振った後、現像剤1gを採取し、これの帯電量をブローオフ法によって測定した。この値をQ2とする。そして、Q2−Q1によって帯電立ち上がり量(μC/g)を算出した。帯電立ち上がり量が5.5μC/g以下である場合を合格レベルとする。結果を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
表2から明らかなように、特定のビニルフラン系構造単位および/または特定のビニルフェニルケトン系構造単位を有する結着樹脂を含有する本発明の実施例1〜26のトナーは、いずれも、比較例1〜3のトナーと比較して、低温定着性、耐ホットオフセット性、帯電立ち上がり性に優れることが確認された。