(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924252
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】グロメット
(51)【国際特許分類】
H02G 3/22 20060101AFI20160516BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20160516BHJP
F16L 5/02 20060101ALI20160516BHJP
H01B 17/58 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
H02G3/22
B60R16/02 622
F16L5/02 A
H01B17/58 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-268688(P2012-268688)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-117046(P2014-117046A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072660
【弁理士】
【氏名又は名称】大和田 和美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆史
【審査官】
久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−175719(JP,A)
【文献】
特開2008−310989(JP,A)
【文献】
特開2000−195356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/22
B60R 16/02
F16L 5/02
H01B 17/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムまたはエラストマーから成形され、金属製パイプを含む外装材あるいはワイヤハーネスからなる被取付材の外周面に内周面が密着される小径筒部および該小径筒部に連続する大径筒部を有するグロメットであって、
前記小径筒部の先端開口から所要寸法まで軸線方向に延在すると共に直径方向に対向する一対のスリットが切り込まれたテープ巻き部を備え、該スリットが設けられていない部位の該小径筒部の前記内周面に軸線方向に間隔をあけて2個の環状のシールリップが突設され、該2個のシールリップの突設部に挟まれた前記小径筒部の外周面に直径方向に対向する少なくとも2カ所に引っ張り用突片を突設していることを特徴とするグロメット。
【請求項2】
前記小径筒部の内径は外嵌する前記被取付材の外径の80%〜20%であり、前記スリットが設けられていない部位に設ける前記引っ張り用突片は、前記スリットと直交方向の2カ所に設けている請求項1に記載のグロメット。
【請求項3】
前記一対の引っ張り用突片は前記小径筒部の周方向に延在する幅(w)と、該小径筒部の外周面から径方向の外方へ突出する高さ(h)を有する偏平な板状とし、前記幅(w)は周方向に45〜90度の範囲である請求項1または請求項2に記載のグロメット。
【請求項4】
車両の床下配線されるワイヤハーネスを挿通する金属製パイプに取り付けられる請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のグロメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグロメットに関し、詳しくは、車両に配索されるワイヤハーネスを挿通する金属パイプにゴムまたはエラストマーからなるグロメットの小径筒部を密着させて取り付け、車体パネルのワイヤハーネス用貫通穴に装着するグロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド自動車では、バッテリとインバータとの間やインバータとモータの間等に配索するワイヤハーネスは、ノイズ発生源となる高圧電線が含まれるためフロアパネル下方の床下に配索し、床下配索領域ではワイヤハーネスの保護と高圧電線のシールド対策として金属製のパイプに挿通している場合が多い。(特開2004−224156号公報参照)
【0003】
前記ワイヤハーネスに外装した金属パイプはリア側でフロアパネルに設けた貫通穴を通してフロアパネル上に引き出してバッテリ等と接続され、該貫通穴を通る部位には予めグロメットを金属パイプに外装し、該グロメットを貫通穴に装着して防水、防塵を図っている。該防水、防塵等のシール用に取り付けるグロメットは、ゴムまたはエラストマーからなる柔軟性のよい弾性体から形成し、ワイヤハーネスまたはワイヤハーネスを外装するパイプ材からなる被取付材に密着させるグロメットの小径筒部は、被取付材の外径より小さく設定し、小径筒部を拡げジグで開きながら被取付材の外周面に密着させて外嵌固着している。
【0004】
前記床下配線ワイヤハーネスに外装した金属製パイプをフロアパネルの貫通穴に通す場合、該金属パイプに外嵌するグロメットを、前記貫通穴と対応する位置に正確に位置合わせするために移動させる必要がある。よって、
図8(A)(B)に示すように、ワイヤハーネスW/Hを挿通している金属パイプ100に外装したグロメット110の小径筒部111を作業者が指で摘まんで引っ張り、所要位置まで軸線方向Lに移動させている。
しかしながら、グロメットの小径筒部111は金属パイプ100の外周面に密着しているため、小径筒部111を移動させるのが困難である。特に、小径筒部111を取り付け方向と逆方向の大径筒部112側へ移動させることは非常に困難で難作業となる。かつ、薄肉の小径筒部111を部分的に強く掴んで引っ張ると、掴んだ部分が変形してふくらみ、当該部分と金属パイプ100との間に空隙Vが生じ、浸水が生じる恐れがある。
【0005】
従来、本出願人は、特開2001−99359号公報(特許文献1)で
図9に示すように、グロメット200の小径筒部201に連続する大径筒部202の端面203の外面に突起205を突設したグロメットを提供している。該突起205は大径筒部202の外周面に設けた車体係止凹部206を車体パネルの貫通穴の周縁に正確に嵌合させるために、大径筒部202を引っ張って位置あわせさせるための突起である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−99359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記
図9に示すように、グロメットの車体係止凹部をパネルの貫通穴に正確に位置合わせしてシールリップの引っ掛かりを補正するための突起を設けたグロメットを提案しているが、グロメットの小径筒部を容易に移動させることができる部位を設けたグロメットは提供されておらず、作業性が非常に悪いと共に、小径筒部を掴んで無理に引っ張ると防水性能が低下する問題がある。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、金属製パイプ等の被取付材に外嵌固着したグロメットの小径筒部を作業者が容易に移動できる構成としたグロメットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、ゴムまたはエラストマーから成形され、金属製パイプを含む外装材あるいはワイヤハーネスからなる被取付材の外周面に
内周面が密着される小径筒部および該小径筒部に連続する大径筒部を有するグロメットであって、
前記小径筒部
の先端開口から所要寸法まで軸線方向に延在すると共に直径方向に対向する一対のスリットが切り込まれたテープ巻き部を備え、該スリットが設けられていない部位の該小径筒部の前記内周面に軸線方向に間隔をあけて2個の環状のシールリップが突設され、該2個のシールリップの突設部に挟まれた前記小径筒部の外周面
に直径方向に対向する少なくとも2カ所に引っ張り用突片を突設していることを特徴とするグロメットを提供している。
【0010】
本発明のグロメットでは、前記のように、小径筒部の外周面に一対の引っ張り用突片を突設しているため、該一対の引っ張り用突片を作業者が指で掴み、まず、両方の引っ張り用突片を互いに反対方向の外方へ引っ張ると、小径筒部と被取付材の間の全周に隙間を無理なく空けることができ、その後、所要方向へ引っ張ってスムーズに移動させることができる。よって、グロメットと車体パネルの貫通穴との位置合わせの微小な移動作業を作業者は容易に行うことができる。
【0011】
本発明のグロメットは、
ワイヤハーネスを挿通する金属パイプ、樹脂丸チューブ等の外装材またはテープ巻き結束したワイヤハーネスからなる被取付材の外周面に小径筒部
の内周面を密着させるグロメットであれば適用でき、大径筒部の外周面に設ける環状の車体係止凹部を車体パネルの貫通穴の周縁に装着する一体物のグロメットであっても、大径筒部に樹脂インナーを装着した二体物のグロメットでもよい
。
【0012】
前記グロメットの小径筒部の内径は外嵌する前記被取付材の外径の80%〜20%であり
、前記スリットが設けられていない部位
に設ける前記引っ張り用突片は、前記スリットと直交方向の2カ所に設けていることが好ましい。
【0013】
グロメットの小径筒部の開口端縁にはテープ止め突起があり、
前記のように、該
先端開口から一対のスリットを軸線方向に延在して設け、このスリットが設けられる部位がテープ巻き部位とされる。よって、前記引っ張り用突片の突設部位はテープ巻き時に邪魔とならない。かつ、該引っ張り用突片は内周面にシールリップを設けた部分の
間の外周面に突設し、当該部分の内周面の全面が被取付材に密着されていないため、引っ張り用突片を小径筒部の軸線方向と直交方向に引っ張ると被取付材から小径筒部を引き離しやすくなる。
【0014】
前記小径筒部の外周面に突設する引っ張り用突片は、作業者が一方の手で片方の引っ張り用突片を摘まみ、他方の手で他の一方の引っ張り用突片を摘まみ、両方の手で一対の引っ張り用突片を摘まむようにしている。しかしながら、被取付材に対する取り付け状態で一対の引っ張り用突片の位置が作業者が引っ張りにくい位置となる場合もあるため、90度間隔をあけて引っ張り用突片を4つ設けてもよい。
【0015】
前記一対の引っ張り用突片は小径筒部の周方向に延在する幅と、小径筒部の外周面から径方向の外方へ突出する高さを有する偏平な板状とすることが好ましい。該引っ張り用突片の大きさは作業者が指で把持して摘まむことができる程度であればよく、限定されないが、幅は周方向に45〜90度の範囲が好ましい。
【0016】
本発明のグロメットは、床下配線されるワイヤハーネスを挿通する金属製パイプの外周面に取り付ける場合に最も効果的に用いられる。
【発明の効果】
【0017】
前記のように、本発明のグロメットは小径筒部に一対の引っ張り用突片を設けているため、作業者が引っ張り用突片を掴んで引っ張ることで、被取付材の外周面に密着させた小径筒部を容易に移動させることができる。よって、パネルの貫通穴とグロメットの係止部との位置合わせのために、小径筒部の移動を容易に行うことができ、作業性を高め、作業時間を短縮することでコスト削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態のグロメットを示し、(A)は斜視図、(B)は右側面図、(C)は断面図である。
【
図2】引っ張り用突片を設けた部分の小径筒部の拡大断面図である。
【
図3】(A)は前記グロメットを取り付けるワイヤハーネスの配索箇所を示す説明図、(B)はグロメットを装着する部位の車体の貫通穴を示す図面である
【
図4】前記グロメットを取り付けたワイヤハーネスを示す斜視図である。
【
図5】(A)は
図4の要部断面図、(B)は(A)の一部拡大図である。
【
図6】前記グロメットの引っ張り用突片を摘まんで移動させる作業を示し、(A)は正面図、(B)は軸線方向の断面図、(C)は径方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のグロメットの実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至
図6に示す実施形態のグロメット1はゴムまたはエラストマーからなる一体成形品であり、
図1に示すように、小径筒部2の一端に大径筒部3を連続して設け、該大径筒部の外周面に環状の車体係止凹部4を設け、該車体係止凹部4の側壁にシールリップ5を設けている。
【0020】
前記大径筒部の連続側と反対方向の小径筒部2の先端開口2aの周縁に沿ってテープ止め突起2bを突設し、かつ、該先端開口の周縁から直径方向に対向する2カ所に軸線方向に延在する一対のスリット2sを切り込んでいる。該スリット2sの奥端2eから外れた位置の小径筒部2の外周面2cに、スリット2sと直交方向の位置に対称の一対の引っ張り用突片10、10を突設している。該引っ張り用突片10を外周面から突設した部位の小径筒部2の内周面には
2個の環状のシールリップ2rを突設している
。詳しくは、図1(C)および図5に示すように、軸線方向に間隔をあけて2個の環状のシールリップ2rを突設し、該2個のシールリップ2rに挟まれた部位の外周面に前記引っ張り用突片10、10を突設している。かつ、2個の引っ張り用突片10、10はスリット2sと直交方向の2カ所に設けている。
【0021】
図2に示すように、前記一対の引っ張り用突片10は、小径筒部2の周方向に延在する幅(w)と、小径筒部2の外周面から径方向の外方へ突出する高さ(h)を有する偏平な板状としている。該引っ張り用突片10の大きさは作業者が指で把持して摘まむことができる程度であればよく、幅(w)は周方向に45〜90度の角度(θ)の範囲が好ましい。
【0022】
本実施形態のグロメット1は
図3(A)に示すように、電気自動車またはハイブリッド自動車50において床下配線するワイヤハーネスW/Hを挿通する金属製のパイプ20からなる被取付材に外嵌し、フロアパネル21に設けた貫通穴22に装着するものである。 グロメット1の小径筒部2は前記パイプ20の外径の80〜20%と小径であり、よって、ワイヤハーネスへの取り付け時には、グロメット1の小径筒部2を拡げ治具(図示せず)で拡げてパイプ20に通している。パイプ20の所要位置まで小径筒部2を通した後に拡げ治具を外し、パイプ20の外周面に小径筒部2の内周面を密着している。
【0023】
グロメット1の車体係止凹部4を前記貫通穴22と正確に一致させるため、グロメット1をパイプ20に対して軸線方向に移動させて位置合わせする作業が必要になる。
その場合、
図6(A)に示すように、パイプ20の外周面に密着している小径筒部2の外周面から突出している一対の引っ張り用突片10を作業者が指で掴む。其の際、一方の手で図中上側に位置する引っ張り用突片10を摘まみ、他方の手で図中下側に位置する引っ張り用突片10を摘まみ、上下の引っ張り用突片10、10を互いに逆方向の上下方向C1、C2方向に引っ張る。
前記引っ張り用突片10、10をC1、C2に引っ張ると、
図6(B)(C)に示すように、小径筒部2の内周面をパイプ20の外周面から隙間30をあけて引き離すことができる。
【0024】
ついで、上下の引っ張り用突片10、10を位置合わせ方向L1またはL2の方向に引っ張って、パイプ2に対して軸線方向に移動させる。該移動は小径筒部2の内周面とパイプ20の外周面との間に隙間30が生じているため無理なく移動させることができる。
このように、引っ張り用突片10、10を作業者が両手でそれぞれ掴んで引っ張ることにより、小径筒部2をパイプ20に対して容易に移動させることができ、グロメット2の固定位置を、貫通穴と位置合わせできる位置に正確に一致させることができる。
【0025】
その後、グロメット1の小径筒部2のスリット2sを設けた部分の外周面からパイプ20の外周面にかけて
図3(B)に示す粘着テープTを巻き付けて、グロメット1をパイプ20の外周面に固着している。
【0026】
前記のように、パイプ20に対するグロメット1の固定位置を高精度とすると、自動車にワイヤハーネスを配索し、グロメット1を車体パネルの貫通穴に嵌合固定する作業を容易に行うことができる。
【0027】
本発明のグロメットは前記実施形態に限定されず、
図7に示すように、小径筒部2から突設する引っ張り用突片10を外方に向かって幅寸法を小さくした台形状とし、小径筒部2との連続部分の寸法を大としてもよい。該形状とすると、引っ張り用突片10が小径筒部2から離脱するのを防止でき、かつ、外方のC1、C2の方向へ引っ張った時に小径筒部2の内周面とパイプ20の外周面との間に発生させる隙間30の周方向長さを拡大できる。
【0028】
さらに、金属製パイプに取り付けるグロメットに限定されず、コルゲートチューブ、丸チューブに取り付ける場合、粘着テープで電線群を集束したワイヤハーネスに外装する場合にも好適に用いられる。
【符号の説明】
【0029】
1 グロメット
2 小径筒部
2s スリット
2r シールリップ
10 引っ張り用突片
20 金属製パイプ
21 フロアパネル
22 貫通穴
W/H ワイヤハーネス