特許第5924263号(P5924263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5924263多孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924263
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】多孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   C08J9/00 ACES
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-530440(P2012-530440)
(86)(22)【出願日】2012年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2012064515
(87)【国際公開番号】WO2012169510
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2015年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-127860(P2011-127860)
(32)【優先日】2011年6月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今西 康之
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
(72)【発明者】
【氏名】久万 琢也
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−076851(JP,A)
【文献】 特開2008−248231(JP,A)
【文献】 特開2003−003008(JP,A)
【文献】 特表2010−538097(JP,A)
【文献】 特開2012−072380(JP,A)
【文献】 特開2012−072263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
H01M 2/14− 2/18
B29C 55/00−55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を含み、下記式(1)で示されるフィルム幅方向の3%収縮温度の偏差が0.05未満であって、多孔性ポリプロピレンフィルムのβ晶形成能が60%以上である多孔性ポリプロピレンフィルム。
フィルム幅方向の3%収縮温度の偏差=(Tmax−Tmin)/Tave・・・(1)
ここで、
Tmax:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も高い温度
Tmin:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も低い温度
Tave:フィルム幅方向の収縮曲線の全測定点における平均温度
フィルム幅方向の収縮曲線の測定点:フィルム幅方向の中央、および、同中央を基点として両端へ向かって30mm毎の位置
【請求項2】
フィルム幅方向の収縮曲線の各測定点におけるフィルム幅方向の3%収縮温度がいずれも130℃以上である、請求項1に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
ポリプロピレン樹脂を支持体上に溶融押出してポリプロピレン樹脂シートとし、このポリプロピレン樹脂シートを二軸延伸した後に熱処理を施して多孔性ポリプロピレンフィルムを製造する方法であって、前記熱処理は緊張処理と弛緩処理とを1組とするステップを複数有する多段熱処理工程を含み、この多段熱処理工程はトータルの弛緩率が15%を超えるとともに、幅方向の弛緩率が5〜15%である弛緩処理を有するステップを少なくとも2ステップ有し、かつ多段熱処理工程における熱処理温度が延伸温度以上フィルムの融点Tm以下である多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項4】
多段熱処理工程における最初のステップの熱処理温度が横延伸温度以上フィルムの融点Tm以下であり、2ステップ目以降の熱処理温度が直前のステップの熱処理温度以上フィルムの融点Tm以下である、請求項に記載の多孔性プロピレンフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム幅方向において熱寸法変化の均一性に優れた多孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは優れた機械特性、熱特性、電気特性、光学特性により、工業材料用途、包装材料用途、光学材料用途、電機材料用途など多様な用途で使用されている。このポリプロピレンフィルムに空隙を設け、多孔化した多孔性ポリプロピレンフィルムについても、ポリプロピレンフィルムとしての特性に加えて、透過性や低比重などの優れた特性を併せ持つことから、電池や電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜、フラットパネルディスプレイの反射板や感熱転写記録シートなど多岐にわたる用途への展開が検討されている。
【0003】
ポリプロピレンフィルムを多孔化する手法としては、様々な提案がなされている。多孔化の方法を大別すると湿式法と乾式法に分類することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
湿式法とは、ポリプロピレンをマトリックス樹脂とし、シート化後に抽出する被抽出物を添加、混合し、被抽出物の良溶媒を用いて添加剤のみを抽出することで、マトリックス樹脂中に空隙を生成せしめる方法であり、種々の提案がなされている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
他方、乾式法としては、たとえば、溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを長手方向に一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法(所謂、ラメラ延伸法)が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0006】
一方、乾式法であり、かつ二軸延伸により製膜されるため広幅、大面積での製造が可能な多孔性ポリプロピレンフィルムとしては、ポリプロピレンの結晶多形であるα型結晶(α晶)とβ型結晶(β晶)の結晶密度の差と結晶転移を利用してフィルム中に空隙を形成させる、所謂β晶法と呼ばれる方法の提案も数多くなされている(たとえば、特許文献3〜5参照)。
【0007】
幅方向の均一性を向上させる目的で、延伸工程でのラメラ配向制御による厚み均一性を向上する方法(たとえば、特許文献6参照)や、キャスト条件、縦延伸条件、巻き取りでの制御による透気性、空孔率および厚みの均一性を向上する方法(たとえば、特許文献7参照)も提案されている。
【特許文献1】特開昭55−131028号公報
【特許文献2】特公昭55−32531号公報
【特許文献3】特開昭63−199742号公報
【特許文献4】特開平6−100720号公報
【特許文献5】特開平9−255804号公報
【特許文献6】国際公開2002/066233号
【特許文献7】特開2010−242060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に開示されたいずれの方法も広幅、大面積での製造が困難でありコストが高くなるなど生産効率に難があった。
【0009】
特許文献3〜5に開示された方法は透気性に優れた多孔性フィルムを広幅、大面積でかつ、生産性よく製膜可能であるが、幅方向にも延伸するため多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の厚み、透気性、空孔率の均一性が劣る場合があった。
【0010】
特許文献6、特許文献7に開示された方法では、熱処理工程で熱固定および弛緩処理が不十分なため幅方向の熱寸法変化の低減および均一性が不十分であり、製品ロールフィルムを蓄電デバイス用セパレータに使用する幅にスリットしたときに各スリット位置での熱寸法ムラが生じ、蓄電デバイス用セパレータとして用いたとき蓄電デバイスの電池性能の均一性が不十分なため製造時歩留まり悪化の原因となる場合があった。
【0011】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわちフィルム幅方向において熱寸法変化の均一性に優れた多孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するため、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは次の構成を有する。すなわち、
ポリプロピレン樹脂を含み、下記式(1)で示されるフィルム幅方向の3%収縮温度の偏差が0.05未満であって、多孔性ポリプロピレンフィルムのβ晶形成能が60%以上である多孔性ポリプロピレンフィルム多孔性ポリプロピレンフィルム、である。
【0013】
フィルム幅方向の3%収縮温度の偏差=(Tmax−Tmin)/Tave・・・(1)
ここで、
Tmax:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も高い温度
Tmin:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も低い温度
Tave:フィルム幅方向の収縮曲線の全測定点における平均温度
フィルム幅方向の収縮曲線の測定点:フィルム幅方向の中央、および、同中央を基点として両端へ向かって30mm毎の位置
また、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法は次の構成を有する。すなわち、
ポリプロピレン樹脂を支持体上に溶融押出してポリプロピレン樹脂シートとし、このポリプロピレン樹脂シートを二軸延伸した後に熱処理を施して多孔性ポリプロピレンフィルムを製造する方法であって、前記熱処理は緊張処理と弛緩処理とを1組とするステップを複数有する多段熱処理工程を含み、この多段熱処理工程はトータルの弛緩率が15%を超えるとともに、幅方向の弛緩率が5〜15%である弛緩処理を有するステップを少なくとも2ステップ有し、かつ多段熱処理工程における熱処理温度が延伸温度以上フィルムの融点Tm以下である多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法、である。
【0014】
なお、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルム幅方向の収縮曲線の各測定点におけるフィルム幅方向の3%収縮温度がいずれも130℃以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、多孔性ポリプロピレンフィルムのβ晶形成能が60%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法は、多段熱処理工程における最初のステップの熱処理温度が横延伸温度以上フィルムの融点Tm以下であり、2ステップ目以降の熱処理温度が直前のステップの熱処理温度以上フィルムの融点Tm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルム幅方向において熱寸法変化の均一性に優れるため、例えば蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合に電池性能の均一性に優れた電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を含み、下記式(1)で示されるフィルム幅方向の3%収縮温度の偏差が0.05未満であって、多孔性ポリプロピレンフィルムのβ晶形成能が60%以上である多孔性ポリプロピレンフィルムである。
【0019】
フィルム幅方向の3%収縮温度の偏差=(Tmax−Tmin)/Tave・・・(1)
ここで、
Tmax:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も高い温度
Tmin:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も低い温度
Tave:フィルム幅方向の収縮曲線の全測定点における平均温度
フィルム幅方向の収縮曲線の測定点:フィルム幅方向の中央、および、同中央を基点として両端へ向かって30mm毎の位置
なお、上記の測定は、Thermal Mechanical Analysys(TMA)にて幅4mm×測定長15mm、フィルム幅方向(TD)荷重0.15MPa、5℃/minの昇温速度で25℃から160℃まで昇温させる条件で幅方向(TD)に行う。
【0020】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムにおいて、フィルム幅方向(TD)の3%収縮温度の偏差が0.05以上である場合には、フィルムロールの幅方向で熱収縮ムラを発生させやすい。この結果、フィルムロール幅のまま蓄電デバイス用セパレータとして用いる場合だけでなく、例えば蓄電デバイス用セパレータ幅へこのフィルムロールを小幅スリットした場合、各スリットロールで物性ムラを生じ、電池性能試験中に部分的な熱収縮が原因となり特性悪化に繋がったり、電池性能の均一性不足などを引き起こす。上記観点からフィルム幅方向(TD)の3%収縮温度の偏差は、好ましくは0.04未満、さらに好ましくは0.03未満である。なお、下限値は0.001である。偏差を上記の範囲内とするには製造時における熱処理条件を適宜制御することにより実現可能であるが、詳細については後述する。
【0021】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。この貫通孔は、少なくとも一軸方向あるいは二軸延伸によりフィルム中に形成することが好ましく、高い生産性、均一物性、薄膜化を達成する観点からβ晶法により形成せしめることが好ましい。
【0022】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成するためには、ポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が60%以上であることが好ましい。β晶形成能がこの好ましい範囲であると、フィルム製造時にβ晶量が十分なためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が十分となり、その結果、透過性に優れたフィルムが得られる。一方、β晶形成能の上限は特に限定されるものではないが、99.9%を超えるようにするのは、後述するβ晶核剤を多量に添加したり、使用するポリプロピレン樹脂の立体規則性を極めて高くしたりする必要があり、製膜安定性が悪化するなど工業的な実用価値が低い。工業的にはβ晶形成能は65〜99.9%が好ましく、70〜95%が特に好ましい。また、多孔性ポリプロピレンフィルムのβ晶形成能についても、同様に60%以上であることが好ましい。
【0023】
β晶形成能を60%以上に制御するためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用したり、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いたりすることが好ましい。β晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物などを挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の添加量としては、ポリプロピレン樹脂全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましい。β晶核剤の添加量が0.05質量%以上であれば、β晶の形成が十分となり、多孔性ポリプロピレンフィルムの透気性を高くできる。β晶核剤の添加量が0.5質量%以下であれば、粗大ボイドを形成せず、蓄電デバイス用セパレータに用いたとき、安全性を高めることができる。
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムとは実質的にポリプロピレン樹脂からなり、フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体を100質量%としたときに、80質量%以上がポリプロピレン樹脂であることがフィルムの熱寸法安定性の観点から好ましく、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0024】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、メルトフローレート(以下、MFR。測定条件:230℃、2.16kg)が2〜30g/10minの範囲であることが好ましい。MFRが2g/10min以上であると、樹脂の溶融粘度が高くなり過ぎず、高精度濾過が可能で、フィルムの高品位を保つことができる。MFRが30g/10min以下であると、分子量が低くなり過ぎず、延伸時のフィルム破れが起こり難く、高い生産性を保つことができる。より好ましくは、MFRは3〜20g/10minである。
【0025】
また、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、アイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。アイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いる場合、アイソタクチックインデックスは90〜99.9%であることが好ましい。アイソタクチックインデックスがこの好ましい範囲であると、樹脂の結晶性が高く、高い透気性を達成するのが容易となる。
【0026】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン樹脂を用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。なお、ポリプロピレンへのコモノマー(共重合成分)の導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。
【0027】
また、上記したポリプロピレン樹脂には本発明の効果を阻害しない範囲で高分子量ポリプロピレン、低融点ポリプロピレン、高溶融張力ポリプロピレンなど含有させることが安全性向上や製膜性向上の点で好ましい。ここで高分子量ポリプロピレンとはMFRが0.1〜2g/10minのポリプロピレンであり、低融点ポリプロピレンとは樹脂融点153℃より低い融点を持つポリプロピレンであり(例えば、エチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を共重合したポリプロピレンなど)、高溶融張力ポリプロピレンとは高分子量成分や分岐構造を有する成分をポリプロピレン樹脂中に混合したり、ポリプロピレンに長鎖分岐成分を共重合させたりすることで溶融状態での張力を高めたポリプロピレン樹脂である。
【0028】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂は、二軸延伸時の空隙形成効率の向上や、孔の開孔、孔径が拡大することによる透気性向上の観点から、ポリプロピレン80〜99質量%とエチレン・α−オレフィン共重合体20質量%以下の混合物とすることが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂(共重合PE樹脂)を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレンは市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル社製“ENGAGE(エンゲージ)”(登録商標)(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
【0029】
上記共重合ポリエチレン樹脂は本発明のフィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体を100質量%としたときに、1〜10質量%含有することが透気性向上の観点で好ましい。より好ましくは1〜7質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0030】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、冷キシレン可溶成分(CXS)が2質量%未満であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%未満である。CXSを2質量%未満であると低分子量成分が少なく、多孔性ポリプロピレンフィルムの機械物性に優れる。CXSを2質量%未満とするためには、CXSを低減可能な重合触媒系で重合する方法、重合反応後に洗浄工程を設けてアタクティックポリマーを除去する方法などの方法を用いることができる。
【0031】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂中のハイドロタルサイト量が0.01質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以下、更に好ましくは0.001質量%以下である。ハイドロタルサイトはβ晶形成を阻害する場合があり、ハイドロタルサイト量を0.01質量%以下とすると、多孔性ポリプロピレンフィルムの透気性を高く維持できる。
【0032】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂中の灰分量が0.01質量%以下であることが好ましい。灰分量を0.01質量%以下とすると、蓄電デバイス用セパレータに用いたとき、耐電圧が高く、電池寿命が長い。
【0033】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、中和剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましいが、ポリプロピレン樹脂100質量%に対して酸化防止剤添加量は2質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0034】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムはセパレータとして用いた際のイオン電導性と安全性の両立の観点から空孔率が35〜80%であることが好ましい。空孔率を35%以上とすると、セパレータとして使用したときに電気抵抗を小さくすることができる。一方、空孔率を80%以下とすると、電気自動車用などの大容量電池用セパレータに用いたとき安全性に優れる。優れた電池特性を発現する観点からフィルムの空孔率は40〜75%であればより好ましく、40〜70%であればさらに好ましい。
【0035】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、透気抵抗が50〜1,000sec/100mLであることが好ましい。より好ましくは80〜600sec/100mL、更に好ましくは80〜400sec/100mLである。透気抵抗を50sec/100mL以上とすると、フィルムの機械強度が低下してハンドリング性が低下することはなく、セパレータに用いたとき安全性が低下することもない。透気抵抗を1,000sec/100mL以下とすると、セパレータに用いたとき出力特性が低下しない。
【0036】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法においては、二軸延伸を行った後の熱処理について、後述するような特定の条件とすることにより、フィルム幅方向において熱寸法変化の均一性に優れた多孔性ポリプロピレンフィルムを得ることができる。熱処理の条件としては、ポリプロピレン樹脂を支持体上に溶融押出してポリプロピレン樹脂シートとし、このポリプロピレン樹脂シートを二軸延伸した後に熱処理を施して多孔性ポリプロピレンフィルムを製造するに際し、前記熱処理は緊張処理と弛緩処理とを1組とするステップを複数有する多段熱処理工程を含み、この多段熱処理工程はトータルの弛緩率が15%を超えるとともに、幅方向の弛緩率が5〜15%である弛緩処理を有するステップを少なくとも2ステップ有し、かつ多段熱処理工程における熱処理温度が延伸温度以上フィルムの融点Tm以下とすることが必要である。
【0037】
上記において、二軸延伸は、縦方向(長手方向、MD)に延伸ロール等を用いて延伸した後に、テンター等を用いて横方向(幅方向、TD)に延伸することが好ましい。この際、テンターでは、予熱工程、横延伸工程、熱処理工程の3つの工程に分けることが可能であるが、この熱処理工程については、上記したように緊張処理と弛緩処理とを1組とするステップを複数有する多段熱処理工程を含んでいることが必要である。ここで、緊張処理とはフィルムの幅方向の長さを一定とした上で熱処理することをいい、弛緩処理とは幅方向の長さを1%以上縮めつつ熱処理することをいう。上記した各ステップでは、幅方向の弛緩率が5〜15%である弛緩処理を含むことが好ましく、またこのようなステップを少なくとも2ステップ有していることが必要である。さらに、多段熱処理工程におけるトータルの弛緩率は幅方向での熱寸法変化の均一性効果を得る観点から15%を超えることが必要である。トータルの弛緩率が15%以下の場合には、延伸で生じた応力緩和が不十分となり幅方向での熱寸法変化の均一性に劣るフィルムとなりやすい。より好ましいトータル弛緩率は17%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。トータルの弛緩率の上限は特に限定されないが50%であることが好ましい。50%を超える場合にはフィルム平面性が低下する場合がある。ここでトータル弛緩率とは以下のように定義するものである。横延伸後のテンタークリップ間距離を幅方向長さ(L)とし、1ステップ目の弛緩処理後のテンタークリップ間距離を幅方向長さ(L1)、以降2ステップ目、3ステップ目、・・・nステップ目を、(L)、(L)、・・・(L)とした場合、各ステップでの弛緩率は次式(1)で各々表され、
式(1):
1ステップ目の弛緩率(Rx)={(L)−(L1)}/(L
2ステップ目の弛緩率(Rx)={(L)−(L)}/(L
3ステップ目の弛緩率(Rx)={(L2)−(L3)}/(L
nステップ目の弛緩率(Rx)={(Ln-1)−(L)}/(L
ステップ数がn回のトータル弛緩率は次式(2)より表される。
【0038】
式(2):
【0039】
【数1】
【0040】
また、上記した多段熱処理工程における熱処理温度は、いずれのステップについても、延伸温度以上、フィルムの融点Tm以下とすることが必要である。
【0041】
熱処理工程が1ステップである場合や、各ステップの弛緩率が5%未満である場合、横延伸によって生じた応力緩和を面内で十分均一に行うことができず、フィルム幅方向での熱寸法変化の均一性が不十分となったり、また、熱処理工程が1ステップで弛緩率が15%を超える場合は、本発明で施す2ステップ以上の処理をした場合にテンター出口幅が極端に狭くなり、最終製品面積が小さくなるため生産性に劣る場合がある。上記したように、多段熱処理工程において、幅方向の弛緩率が5〜15%である弛緩処理を含むステップを2ステップ以上設けることにより、1ステップでは緩和できなかった部分的残留応力を開放することができ、幅方向に均一な熱寸法変化を有したフィルムを得ることができる。
【0042】
ここで弛緩処理を行う速度(弛緩速度)は、50〜1,000%/minであることが好ましい。弛緩速度が50%/min以上であると、製膜速度を遅くしたり、テンター長さを長くする必要がなく、生産性に優れる。弛緩速度が1,000%/min以下であると、テンターのレール幅が縮む速度よりフィルムが収縮する速度が遅くなることはなく、テンター内でフィルムがばたついて破れたり、平面性の低下を生じることもない。弛緩速度は100〜800%/minであることがより好ましい。
【0043】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法において、フィルム幅方向の熱寸法変化の均一性をより向上させる観点から、多段熱処理工程における最初のステップの熱処理温度を横延伸温度以上フィルムの融点Tm以下とし、2ステップ目以降の熱処理温度を直前のステップの熱処理温度以上フィルムの融点Tm以下とすることが好ましい。最初のステップ(1ステップ目)の熱処理温度が横延伸温度以上であると、幅方向の応力緩和が十分となり熱収縮率を小さくできる。他方、最初のステップ(1ステップ目)の熱処理温度がフィルムの融点Tm以下であると、孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなることもない。また、2ステップ目以降の熱処理温度が直前のステップの熱処理温度以上の場合、1ステップ目で緩和しきれなかった残留応力の開放が十分で、熱寸法変化の幅方向の均一性を高く維持できる。他方、2ステップ目以降の熱処理温度がフィルムの融点Tm以下であると孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなることもない。ここで1ステップ目と2ステップ目以降にある最後のステップとの熱処理温度の差は15℃未満であることが好ましい。前記の熱処理温度の差が15℃以上の場合は熱処理時の熱量過多によって孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。本発明では適度な透気抵抗と熱寸法変化の均一性を両立させる観点から、1ステップ目と2ステップ目以降にある最後のステップとの熱処理温度の差は10℃以下がより好ましく、5℃以下がさらに好ましい。
【0044】
また、上記した多段熱処理工程における各ステップでの熱処理時間は、セパレータとして適した透気抵抗を有しながら幅方向の熱寸法変化の均一性を達成する観点から、1sec以上30sec以下であることが好ましく、より好ましくは5sec以上30sec以下、さらに好ましくは10sec以上30sec以下である。各ステップでの熱処理時間を1sec以上とすると実質未熱処理の状態とはならず熱寸法変化の幅方向の均一性を高く維持できる。他方、各ステップでの熱処理時間を30sec以下とすると熱量過多によって孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなることもなく、また製膜速度を遅くしたり、テンター長さを長くする必要もなく、生産性に優れる。
【0045】
多段熱処理工程のステップは2ステップ以上であることが必要であり、3ステップ以上であることが好ましい。ステップ数の上限は特に限定されないが、熱処理による熱量過多で孔周辺のポリマーが溶けず、セパレータに適した透気抵抗を得る観点から5ステップを上限とすることが好ましい。
【0046】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、熱寸法安定性の観点から各測定点におけるフィルム幅方向の3%収縮温度がいずれも130℃以上であることが好ましい。該フィルム幅方向の3%収縮温度が130℃以上であると、例えばセパレータ使用時に電池の温度が上昇した際、セパレータが収縮し難く、短絡が生じ難い。電気自動車用などの大容量電池用セパレータに用いる場合には更なる耐熱性が求められ、該フィルム幅方向の3%収縮温度は、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは140℃以上である。フィルム幅方向の3%収縮温度を上記範囲とするためには、多段熱処理工程のステップ数を2ステップ以上、トータル弛緩処理率を15%超、各ステップでの熱処理時間を1〜30secの範囲で設定することが好ましい。
【0047】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルム厚みが5〜50μmであることが好ましい。フィルム厚みを5μm以上とすると使用時にフィルムが破断する場合はなく、50μm以下とすると蓄電デバイス内に占める多孔性フィルムの体積割合が高くなり過ぎることはなく、高いエネルギー密度を得ることができる。フィルム厚みは7〜30μmであればより好ましく、10〜25μmであればさらに好ましい。
【0048】
以下に本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法の例を具体的に説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0049】
まず、ポリプロピレン樹脂として、市販のホモポリプロピレン樹脂99.6質量%にβ晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.3質量%、さらに酸化防止剤を0.1質量%がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(I)を作製する。
【0050】
次に、ポリプロピレン組成物(I)100質量%を単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。未延伸シートを得る際のキャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、未延伸シート中のβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するため、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態に基づき、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。また、複数の押出機とピノールを用いて共押出による積層を行ってもよい。
【0051】
次に得られた未延伸シートを二軸延伸してフィルム中に空孔(貫通孔)を形成する。二軸延伸の方法としては、フィルム長手方向に延伸後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を適用することが好ましい。同時二軸延伸法を適用する場合においても逐次二軸延伸法と同様に、延伸後緊張把持した状態で熱処理工程を施すが、緊張処理と弛緩処理を1ステップとする多段熱処理においてはいずれのステップについても、延伸温度以上、フィルムの融点Tm以下とすることが好ましい。
【0052】
具体的な延伸条件としては、まず未延伸シートを長手方向に延伸可能な温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としてはフィルム特性とその均一性の観点から、110〜140℃、さらに好ましくは120〜135℃、特に好ましくは123〜130℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率としては4〜6倍、より好ましくは4.5〜5.8倍である。また、延伸倍率を高くするほど高空孔率化するが、上記好ましい範囲で延伸すると、次の横延伸工程でフィルム破れが起き難い。
【0053】
次に、一軸延伸ポリプロピレンフィルムをテンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、好ましくは130〜155℃、より好ましくは145〜153℃に加熱して幅方向に4〜12倍、より好ましくは6〜11倍、更に好ましくは6.5〜10倍延伸を行う。なお、このときの横延伸速度としては500〜6,000%/minで行うことが好ましく、1,000〜5,000%/minであればより好ましい。
【0054】
次いで、そのままテンター内で熱処理を行うが、本発明のセパレータとして適した透気抵抗を有しながら幅方向の熱寸法変化の均一性に優れたフィルムを得るには、上述したような多段熱処理のステップ数、弛緩率、熱処理時間の範囲で設定した運転条件とすることが好ましい。また多段熱処理工程の後クリップ間距離に保ったまま最終ステップの熱処理温度以上フィルムの融点Tm以下で1〜30sec間の緊張処理を行うことで平面性に優れたフィルムを得ることができる。
【0055】
熱処理工程後のフィルムは、テンターのクリップで把持した耳部をスリットして除去し、ワインダーでコアに巻き取ってフィルムロールとする。このフィルムロールは、所望の幅、長さに再スリットを行ってもよい。
【0056】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルム幅方向の熱寸法変化の均一性に優れており、蓄電デバイス用のセパレータとして用いたとき電池性能の均一性に優れる観点から好適である。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。特に本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを用いたセパレータを使用した蓄電デバイスは、出力特性に優れることから電気自動車用の非水電解液二次電池に好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
(1)β晶形成能
ポリプロピレン組成物または多孔性ポリプロピレンフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで10℃/minで昇温(first run)し、10min間保持した後、20℃まで10℃/minで冷却する。5min保持後、再度10℃/minで昇温(second run)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。
【0058】
なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0059】
β晶形成能(%)=〔ΔHβ/(ΔHα+ΔHβ)〕×100
なお、first runで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
(2)フィルム融点(Tm)
上記β晶形成能の測定方法と同様の方法で多孔性ポリプロピレンフィルムを測定し、first runで観測される158℃以上の融解ピーク温度をフィルム融点(Tm)とした。
(3)3%収縮温度
フィルム幅方向の中央位置、および同位置を基点に両端へ向けてそれぞれ30mm毎の位置について、セイコーインスツル(株)製Thermal Mechanical Analysys;TMA/SS6000を用い、下記温度プログラムにてフィルム幅方向(TD)一定荷重下におけるフィルム幅方向の収縮曲線を求めた。測定方向はフィルム幅方向(TD)とした。
【0060】
得られた収縮曲線から、もとのサンプル長より3%収縮した時の温度を読み取った。
【0061】
温度プログラム 25℃→(5℃/min)→160℃(hold 5min)
荷重 0.15MPa
サンプルサイズ サンプル長(測定長)15mm×幅4mm
また、フィルム幅方向の3%収縮時点温度の偏差は下記式より算出した
フィルム幅方向の3%収縮時点温度の偏差=(Tmax−Tmin)/Tave
ここで、
Tmax:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も高い温度
Tmin:フィルム幅方向の収縮曲線の測定点中、3%の収縮を示す温度のうち、最も低い温度
Tave:フィルム幅方向の収縮曲線の全測定点における平均温度
フィルム幅方向の収縮曲線の測定点:フィルム幅方向の中央、および、同中央を基点として両端へ向かって30mm毎の位置
(4)透気抵抗
多孔性ポリプロピレンフィルムから100mm×100mmの大きさの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117 (1998)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mLの空気の透過時間の測定を行った。測定はフィルム中央部について試料を替えて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気性とした。なお、フィルムに貫通孔が形成されていることは、この透気性の値が有限値であることをもって確認できる。
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.45質量%、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製 Nu-100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.3質量%、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製“IRGANOX”(登録商標)1010、“IRGAFOS”(登録商標)168を各々0.15質量%、0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(A)とした。
【0062】
得られたポリプロピレン組成物(A)を単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、20μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15sec間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、125℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、150℃で8.5倍に、延伸速度1,500%/minで幅方向へ延伸した。なお、テンター入り口の幅方向クリップ間距離は120mm、テンターでの横延伸後のクリップ間距離(L)は1,020mmであった。
【0063】
続く熱処理工程で、多段熱処理を実施した。具体的には、1ステップ目では延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃、3sec間の緊張処理の後、弛緩率10%で3sec間の弛緩処理を施し、次いで2ステップ目では1ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま155℃、3sec間の緊張処理の後、弛緩率10%で3sec間の弛緩処理を施し、さらに3ステップ目では2ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま158℃、3sec間の緊張処理の後、弛緩率10%で3sec間の緊張処理を施し、最後に弛緩後のクリップ間距離に保ったまま158℃で3sec間緊張処理を行った。各ステップの弛緩処理は120%/minの速度でおこなった。
【0064】
その後、テンタークリップで把持したフィルムの耳部をスリットして除去し、ワインダーで幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
【0065】
製膜条件、フィルム特性を表1に示す。
(実施例2、3)
熱処理工程での多段熱処理条件を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
(比較例1および2)
熱処理工程を1ステップのみとして処理温度、処理時間および処理後の緊張処理の条件を表1に示した通りとし、また弛緩処理速度240%/minとした以外は実施例3と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
(比較例3)
熱処理工程での多段熱処理条件を表1に示した条件とした以外は実施例3と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
(実施例4)
ポリプロピレン樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を69.75質量%に、共重合PE樹脂としてエチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル社製“ENGAGE(エンゲージ)”(登録商標)8411、メルトインデックス:18g/10min)を30質量%に加えて、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 “IRGANOX”(登録商標)1010、“IRGAFOS”(登録商標)168を各々0.15質量%、0.1質量%がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(B)を得た。次いで実施例1で作製したポリプロピレン組成物(A)90質量%とポリプロピレン組成物(B)10質量%をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、20μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15sec間接するようにキャストして未延伸シートを得た。二軸延伸および熱処理工程の条件は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
(実施例5)
実施例1と同様にして長手方向に延伸したフィルムを、テンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、150℃で6.5倍に、延伸速度1,600%/minで幅方向へ延伸した。なお、テンター入り口の幅方向クリップ間距離は150mm、テンターでの横延伸後のクリップ間距離(L)は975mmであった。
【0066】
続く熱処理工程で、多段熱処理を実施した。具体的には、1ステップ目では延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃、10sec間の緊張処理の後、弛緩率10%で10sec間の弛緩処理を施し、次いで2ステップ目では1ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま155℃、10sec間の緊張処理の後、弛緩率10%で10sec間の弛緩処理を施し、最後に2ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま155℃で10sec間緊張処理を行った。各ステップの弛緩処理は60%/minの速度でおこなった。
【0067】
その後、テンタークリップで把持したフィルムの耳部をスリットして除去し、ワインダーで幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
【0068】
製膜条件、フィルム特性を表1に示す。
(実施例6)
実施例1と同様にして長手方向に延伸したフィルムを、テンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、150℃で6.5倍に、延伸速度2,650%/minで幅方向へ延伸した。なお、テンター入り口の幅方向クリップ間距離は150mm、テンターでの横延伸後のクリップ間距離(L)は975mmであった。
【0069】
続く熱処理工程で、多段熱処理を実施した。具体的には、1ステップ目では延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃、6sec間の緊張処理の後、弛緩率10%で6sec間の弛緩処理を施し、次いで2ステップ目では1ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま155℃、6sec間の緊張処理の後、弛緩率10%で6sec間の弛緩処理を施し、最後に2ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま155℃で6sec間緊張処理を行った。各ステップの弛緩処理は100%/minの速度でおこなった。
【0070】
その後、テンタークリップで把持したフィルムの耳部をスリットして除去し、ワインダーで幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
【0071】
製膜条件、フィルム特性を表1に示す。
(実施例7、8および比較例4)
多段熱処理の1ステップ目、2ステップ目、最後に2ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま行う緊張処理の各温度を表1に示した条件とした以外は、実施例5と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
【0072】
製膜条件、フィルム特性を表1に示す。
(比較例5)
多段熱処理の1ステップ目、2ステップ目、最後に2ステップ目熱処理後のクリップ間距離に保ったまま行う緊張処理の各温度を表1に示した条件とした以外は、実施例3と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
【0073】
【表1】
【0074】
本発明の要件を満足する実施例ではセパレータに適した透気抵抗を有しながら幅方向の熱寸法変化の均一性に優れるため、電池性能の均一性能を有し、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に用いることが可能であると考えられる。一方、比較例では、フィルム幅方向の熱寸法変化の均一性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の多孔性プロピレンフィルムは、フィルム幅方向における熱寸法変化の均一性に優れた多孔性ポリプロピレンフィルムであり、例えば蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合に電池性能の均一性に優れるため好適に使用することができる。