(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、絶縁被覆とその周囲の部材とが比較的近い輝度レベルである場合に、撮像の条件や、製造バラツキなど、検査条件の些細な変動の影響をうけて、簡単に誤判定が生じてしまう可能性が高い。また、例えば特許文献1のように、電線の色毎に閾値を設定する態様では、オペレータの作業負担も大きくなり、多様なカラーバリエーションに柔軟に対応することが難しかった。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされてものであり、電線の状態を、その色に関係なく、簡易かつ正確に評価できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様は、電線状態の検査方法であって、a)検査対象となる電線を撮像して撮像データを取得する工程と、b)前記撮像データ内に、対象領域を設定する工程と、c)前記対象領域内において、前記電線の延在方向と直交する方向に沿うラインを、前記電線の延在方向に沿って複数配列し、同一のラインに沿う輝度の変化量の絶対値を総和した値を、当該ラインのバラツキ量として取得する工程と、d)前記電線の延在方向に沿う前記バラツキ量の変化の態様に基づいて、前記電線の状態を評価する工程と、を備える。
【0011】
第2の態様は、第1の態様に係る検査方法であって、検査対象となる電線の端部に端子が接続されており、前記電線における、前記端子の芯線圧着部が圧着されている第1部分と、前記端子の被覆圧着部が圧着されている第2部分との間の部分が、前記対象領域とされる。
【0012】
第3の態様は、第1または第2の態様に係る検査方法であって、e)前記バラツキ量の算出に先立って、前記対象領域内のデータ部分を、輝度成分を抽出した輝度データに変換するとともに、前記輝度データに、微分フィルタをかける前処理を行う工程、を備える。
【0013】
第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様に係る検査方法であって、前記c)工程において、前記ラインにおいて、その両端の部分領域を除いた中央部分を、対象ライン部分とし、前記対象ライン部分における前記輝度の変化量の絶対値を総和した値を、前記バラツキ量として取得する。
【0014】
第5の態様は、第1から第4のいずれかの態様に係る検査方法であって、前記d)工程が、d1)2次元のグラフの横軸に、前記複数のラインをその配列順に並べ、前記2次元のグラフの縦軸に、前記複数のラインの各々について算出された前記バラツキ量をプロットして、当該プロットを結んで得られる線を、変動関数として取得する工程と、d2)前記2次元のグラフ上に、定められた一定のバラツキ量で推移する閾値関数を規定するとともに、前記閾値関数と前記変動関数との交点の個数を計数する工程と、d3)前記交点の個数に基づいて、前記電線の状態を評価する工程と、を備える。
【0015】
第6の態様は、第5の態様に係る検査方法であって、前記d3)工程において、前記交点の個数がゼロの場合に否定的な評価を与える。
【0016】
第7の態様は、第5または第6の態様に係る検査方法であって、前記d3)工程において、前記交点の個数が1の場合であり、かつ、前記変動関数が定められた形状タイプに合致する場合に、肯定的な評価を与え、前記定められた形状タイプが、前記交点に対して定められた側で前記閾値関数より大きな値で推移するとともに、他方の側で前記閾値関数より小さな値で推移する形状である。
【0017】
第8の態様は、第5から第7のいずれかの態様に係る検査方法であって、前記d3)工程において、前記交点の個数が2の場合に、いずれかの交点について、前記変動関数が定められた形状タイプに合致する場合に、肯定的な評価を与え、前記定められた形状タイプが、前記いずれかの交点に対して定められた側で前記閾値関数より大きな値で推移するとともに、他方の側で前記閾値関数より小さな値で推移する形状である。
【0018】
第9の態様は、第5から第8のいずれかの態様に係る検査方法であって、前記d3)工程において、前記交点の個数が3以上の場合に否定的な評価を与える。
【0019】
第10の態様は、電線状態の検査装置であって、検査対象となる電線を撮像して撮像データを取得する撮像データ取得部と、前記撮像データ内に、対象領域を設定する対象領域設定部と、前記対象領域内において、前記電線の延在方向と直交する方向に沿うラインを、前記電線の延在方向に沿って複数配列し、同一のラインに沿う輝度の変化量の絶対値を総和した値を、当該ラインのバラツキ量として取得するバラツキ量算出部と、前記電線の延在方向に沿う前記バラツキ量の変化の態様に基づいて、前記電線の状態を評価する評価部と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
第1、第10の態様によると、電線の延在方向に沿うバラツキ量の変化の態様に基づいて、電線の状態を評価する。ここにおいて、バラツキ量は、電線の延在方向と直交する方向に沿う輝度の変化量の絶対値を総和した値であるので、例えば、電線の露出芯線部と対応する部分は、その色に関係なく、バラツキ量が比較的大きな値となり、電線の絶縁被覆部と対応する部分は、その色に関係なく、バラツキ量が比較的小さな値となる。したがって、電線の状態を、その色に関係なく、簡易かつ正確に評価できる。
【0021】
第2の態様によると、電線における、端子の芯線圧着部が圧着されている第1部分と端子の被覆圧着部が圧着されている第2部分との間の部分が、対象領域とされる。この構成によると、電線に対して端子が適切な位置に接続されているかを評価することができる。
【0022】
第3の態様によると、バラツキ量の算出に先立って、対象領域内のデータ部分に前処理が施される。この構成によると、例えば、検査対象となる電線の絶縁被覆部に電線識別用のマークなどが印刷されている場合であっても、それに由来する輝度成分は微分フィルタを通すことによりおおまかに除去される。したがって、このようなマークなどの影響を受けて電線の状態を誤って評価する、といった事態を回避できる。
【0023】
第4の態様によると、ラインの中央部分のみが、バラツキ量の算出において考慮される。ラインの両端部付近は、電線以外が現れている部分となりやすいところ、この構成によると電線以外が現れている部分の影響を除去して、電線に由来する輝度の変化量のみを、バラツキ量に反映させることができる。その結果、電線の状態を正確に評価することができる。
【0024】
第5〜第9の態様によると、変動関数と閾値関数との交点の個数に基づいて、電線の状態を評価するので、簡易かつ正確に、電線の状態を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。また、図面においては、理解容易のため、各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0027】
<1.端子付電線80>
実施形態に係る検査装置100は、電線8(ここでは、例えば、端部に端子9が接続された端子付電線80)の状態を検査する装置である。検査装置100について説明する前に、検査装置100にて検査対象となる端子付電線80について、
図1、
図2を参照しながら説明する。
図1は、端子付電線80を模式的に示す側面図である。
図2は、端子付電線80を模式的に示す平面図である。
【0028】
端子付電線80は、電線8の端部に端子9が圧着接続されることにより形成される。
【0029】
電線8は、芯線部81と、芯線部81の外周を被覆する絶縁被覆部82とを備える。芯線部81は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属線の撚り合せ線又は単線によって構成される。絶縁被覆部82は、例えば、樹脂材料を押出被覆等することによって形成される。電線8の端部は、絶縁被覆部82が皮剥ぎされて、芯線部81が露出している。以下、電線8の端部に露出する芯線部81を、「露出芯線部81」ともいう。
【0030】
端子9は、例えば、銅もしくは黄銅などの銅合金の部材、又はそれらの部材に錫(Sn)メッキもしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金のメッキが施された導体の部材である。端子9は、例えば、端子接続部91と、芯線圧着部92と、被覆圧着部93と、2つの連結部94,95とを備える。
【0031】
端子接続部91は、相手側の端子と接続される部分である。端子接続部91は、具体的には、例えば、略筒状の形状(いわゆるメス端子形状)に形成されており、ピン状、または、タブ状の接続部を有する相手側端子(いわゆるオス端子)が挿入接続可能とされている。なお、端子接続部91は、ピン状、または、タブ状の形状(いわゆるオス端子形状)に形成されていてもよく、また、ネジ等によって相手側の部材に接続可能な環状形状等に形成されていてもよい。
【0032】
芯線圧着部92は、電線8の露出芯線部81に圧着されるべき部分である。芯線圧着部92は、電線8に圧着接続される前の状態においては、例えば断面略U字状に形成されており、これが、露出芯線部81を抱持するように圧縮変形されることによって、芯線圧着部92が露出芯線部81に圧着接続される。芯線圧着部92が露出芯線部81に圧着接続されることによって、端子9と芯線部81とが電気的に接続される。
【0033】
被覆圧着部93は、電線8の絶縁被覆部82に圧着されるべき部分である。被覆圧着部93は、電線8に圧着接続される前の状態においては、例えば断面略U字状に形成されており、これが、絶縁被覆部82を抱持するように圧縮変形されることによって、被覆圧着部93が絶縁被覆部82に圧着接続される。被覆圧着部93が絶縁被覆部82に圧着接続されることによって、端子9が電線8に対して強固に固定される。
【0034】
2つの連結部94,95のうち、一方の連結部(第1連結部)94は、端子接続部91と芯線圧着部92とを連結する、また、他方の連結部(第2連結部)95は、芯線圧着部92と被覆圧着部93とを連結する。各連結部94,95は、一対の起立片と底部とによって形成される溝状の部分である。電線8に対して端子9が適切な位置に接続されている場合、第2連結部95の溝状の部分には、電線8における露出芯線部81と絶縁被覆部82の境界位置の付近の部分が収容された状態となる。すなわち、第2連結部95の溝の開口端(以下「窓部90」ともいう)から、当該境界位置が見える状態となる。
【0035】
<2.検査装置100>
<2−1.ハードウェア構成>
検査装置100のハードウェア構成について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、検査装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0036】
検査装置100は、撮像部1と検査処理部2とを主として備える。
【0037】
撮像部1は、検査対象となる端子付電線80を撮像する。撮像部1は、例えば、二次元イメージセンサおよび結像レンズ等から構成することができる。
【0038】
検査処理部2は、撮像部1が取得した撮像データを解析することによって、端子付電線80の状態を評価する。検査処理部2は、例えば、CPU201、ROM202、RAM203、通信部204、記憶装置205等が、バスライン206を介して相互接続された一般的なコンピュータによって構成されている。ここにおいて、ROM202は基本プログラム等を格納しており、RAM203はCPU201が所定の処理を行う際の作業領域として供される。通信部204は、LAN等の通信回線を介したデータ通信機能を有する。記憶装置205は、フラッシュメモリ、あるいは、ハードディスク装置等の不揮発性の記憶装置によって構成されている。
【0039】
記憶装置205にはプログラムPrが格納されており、このプログラムPrに記述された手順に従って、主制御部としてのCPU201が演算処理を行うことにより、検査装置100の各種機能が実現されるように構成されている。プログラムPrは、通常、予め記憶装置205等のメモリに格納されて使用されるものであるが、CD−ROMあるいはDVD−ROM、外部のフラッシュメモリ等の記録媒体に記録された形態(プログラムプロダクト)で提供され(あるいは、ネットワークを介した外部サーバからのダウンロードなどにより提供され)、追加的または交換的に記憶装置205等のメモリに格納されるものであってもよい。もっとも、検査処理部2において実現される一部あるいは全部の機能は、専用の論理回路等でハードウェア的に実現されてもよい。
【0040】
検査処理部2には、さらに、入力装置21、および、表示装置22が接続されている。入力装置21は、例えば、キーボード、マウス、各種スイッチ、タッチパネル等の少なくとも1つを含む入力デバイスであり、オペレータからの各種の操作(コマンドや各種データの入力といった操作)を受け付ける。表示装置22は、液晶表示装置、ランプ等により構成されており、CPU201による制御の下、各種の情報を表示する。
【0041】
<2−2.機能構成>
検査処理部2が備える機能構成について、
図4を参照しながら説明する。
図4は、検査処理部2において実現される機能ブロック図である。
【0042】
検査処理部2は、撮像制御部31と、対象領域設定部32と、前処理部33と、バラツキ量算出部34と、評価部35とを備えている。これら各機能部は、上述したとおり、例えば、CPU201がプログラムPrに従って所定の演算処理を行うことにより実現される。
【0043】
<撮像制御部31>
撮像制御部31は、撮像部1を制御して、検査対象となる端子付電線80を撮像させる。つまり、撮像部1と撮像制御部31とが協働して、検査対象となる端子付電線80を撮像して撮像データを取得する撮像データ取得部を構成する。ただし、検査対象となる端子付電線80は、その延在方向が定められた軸に沿うような姿勢とされるとともに、窓部90を真上に向けた状態で配置され、撮像部1は、このような姿勢で配置された端子付電線80を真上から撮像する。撮像部1が取得した撮像データ(
図5参照)は、例えば、検査処理部2の制御下で、表示装置22に表示される。
【0044】
<対象領域設定部32>
対象領域設定部32は、撮像部1によって取得された端子付電線80の撮像データ内に、対象領域Mを設定する。対象領域Mは、
図5に示されるように、矩形領域であり、平行な一対の辺の延在方向(以下「Y方向」ともいう)が、端子付電線80の延在方向とほぼ一致するように設定される。したがって、他方の一対の辺の延在方向(以下「X方向」ともいう)が、端子付電線80の延在方向と直交する方向(以下「端子付電線80を横断する方向」ともいう)とほぼ一致するように設定されることになる。
【0045】
ここでは、電線8(撮像データ上の電線8)における、芯線圧着部92が圧着されている第1の部分M1と被覆圧着部93が圧着されている第2の部分M2との間の部分(以下「間隙部分」ともいう)が、対象領域Mとされる。ただし、対象領域Mは、芯線圧着部92および被覆圧着部93を含まない範囲で、できるだけ大きな領域とされることが好ましい。このような好ましい対象領域Mを規定するには、例えば、対象領域MのY方向に沿う長さを、芯線圧着部92の被覆圧着部93側の端部と、被覆圧着部93の芯線圧着部92側の端部との離間距離(撮像データ上の離間距離)と略同一とし、さらに、+Y側の辺が芯線圧着部92の被覆圧着部93側の端部と一致するように設定すればよい。また、対象領域MのX方向に沿う長さを、端子付電線80の幅(撮像データ上の幅)よりも十分に大きなものとし、さらに、X方向に沿う辺の中心が、端子付電線80の中心線上にくるように設定すればよい。
【0046】
検査装置100においては、予め、検査対象となる端子付電線80と同じ形状タイプの端子付電線の撮像データ内に、理想的な寸法の対象領域を理想的な位置に設定するとともに、この端子付電線内の定められた箇所を代表箇所として規定して、この代表箇所の位置と、理想的な対象領域(具体的には、例えば、理想的な対象領域の各頂点位置)との相対位置関係を登録する処理が行われている。対象領域設定部32は、検査対象となる端子付電線80の撮像データが取得されると、当該撮像データ内から、代表箇所を検索してその位置を特定し、特定された位置に対して予め記憶されている相対位置関係にある各頂点位置から規定される領域を、対象領域Mとして設定する。なお、対象領域Mの設定に用いられる代表箇所は、一意に規定される箇所であればよく、例えば、芯線圧着部92の被覆圧着部93側の端縁を、代表箇所とすることができる。この端縁は、これを境に輝度が大きく変化する位置となっているので、対象領域設定部32は、輝度の変化に基づいて、当該端縁の位置を特定することができる。
【0047】
端子付電線80が、所期の姿勢で撮像されている場合、上記の処理によって設定された対象領域Mおいて、Y方向と端子付電線80の延在方向とが良好に一致する。ところが、端子付電線80が、例えば、定められた姿勢から微小に回転した姿勢で撮像されてしまった場合、Y方向と端子付電線80の延在方向とがずれる虞がある。そこで、対象領域設定部32は、例えば、対象領域Mの設定に先立って、撮像データに対して、必要に応じて、回転補正を施してもよい。この回転補正を行う場合、対象領域設定部32は、まず、撮像データにおける端子付電線80の延在方向を、例えば芯線圧着部92のエッジ部分を検出することにより特定し、この延在方向が所期の方向からずれている場合に、このずれが低減されるように撮像データを回転させる。そして、回転補正が施された後の撮像データ内に、対象領域Mを設定する。この回転補正を行っておけば、Y軸と端子付電線80の延在方向とが良好に一致するように担保される。
【0048】
<前処理部33>
前処理部33は、端子付電線80の撮像データにおける対象領域M内のデータ部分を対象データとして、対象データに対して前処理を施す。前処理とは、具体的には、対象データを、輝度成分を抽出した輝度データに変換し、さらに、得られた輝度データに、端子付電線80を横断する方向(X方向)の微分フィルタをかける処理である。微分フィルタをかけられた後の輝度データは、X方向に隣り合う輝度の変化量を表すデータとなる。この微分フィルタがかけられることによって、撮像データのY方向に沿うエッジが強調される。また、この微分フィルタがかけられることによって、絶縁被覆部82に電線識別用のマーク(例えばリングマーク)などが印刷されている場合であっても、その輝度成分は、微分フィルタを通すことによりおおまかに除去されることになる。
【0049】
<バラツキ量算出部34>
いま、撮像データ内に設定された対象領域Mが、端子付電線80を横断する方向(X方向)に沿って「m」画素、端子付電線80の延在方向(Y方向)に沿って「n」画素が、マトリクス状に配列された「m×n」の画素領域であったとする。ここで、X方向に沿って延在し、Y方向に沿う幅が1画素分の帯状領域を「ライン」とよぶとすると、対象領域Mは、Y軸に沿って「n」本のラインが配列された画素領域となっている。以下において、この「n」本のラインを、+Y側(端子付電線80の先端側)から順に、第1ラインL1、第2ラインL2、・・、第nラインLnという(
図6参照)。
【0050】
バラツキ量算出部34は、前処理後の対象データにおいて、Y方向に沿って配列される複数のラインL1,L2,・・,Lnのそれぞれについて、当該ラインLi(i=1,2,・・,n)に沿う輝度の変化量(具体的には、X方向に隣り合う画素間の輝度の差分値)の絶対値を総和した値を、当該ラインLiのバラツキ量Viとして取得する。
【0051】
ただし、各ラインLiの両端付近は、バラツキ量Viの算出において考慮されないことが好ましい。すなわち、バラツキ量算出部34は、各ラインLiにおいて、その両端の部分領域を除いた中央部分を対象ライン部分Ciとし、対象ライン部分Ciにおける輝度の変化量の絶対値を総和した値を、バラツキ量Viとして取得することが好ましい。
【0052】
対象ライン部分Ciは、例えば、次の態様で規定することができる。すなわち、バラツキ量算出部34は、まず、ラインLi内における、端子付電線80の一対のエッジ(X方向に沿う両端部)の各位置Eai,Ebiを特定する。端子付電線80のエッジ(すなわち、端子付電線80と背景との境界位置)は、当該境界位置を境に輝度が大きく変化する位置となっているので、バラツキ量算出部34は、輝度の変化量に基づいて、端子付電線80のエッジを特定することができる。そして、バラツキ量算出部34は、一対のエッジ位置Eai,Ebiの各々よりも定められたピクセル数分だけ(例えば、10ピクセル分だけ)内側の位置Fai,Fbiを特定し、これら一対の位置Fai,Fbiの間の領域を、対象ライン部分Ciとする。
【0053】
上記の態様により規定された対象ライン部分Ciは、電線8以外が現れている部分(端子付電線80の背景、第2連結部95の起立片など)が除かれたものとなっている。したがって、背景や起立片の影響を除去して、電線8に由来する輝度の変化量のみを、バラツキ量Viに反映させることができる。
【0054】
各ラインLiについて算出されたバラツキ量Viをみると、当該ラインLiに電線8内のどの位置が現れているかを判別することができる。すなわち、素線により成り立ち、比較的凹凸の多い面領域をなす露出芯線部81が現れている領域は、電線8を横断する方向(X方向)について、輝度が比較的大きく変動する。したがって、あるラインLiに相当する位置に、露出芯線部81が存在している場合、当該ラインLiのバラツキ量Viは、比較的大きな値となる。一方、樹脂などで形成され、比較的凹凸の少ない面領域をなす絶縁被覆部82が現れている領域は、電線8を横断する方向(X方向)について、輝度があまり変化しない。したがって、あるラインLiに相当する位置に、絶縁被覆部82が存在している場合、当該ラインLiのバラツキ量Viは、比較的小さな値となる。
【0055】
<評価部35>
評価部35は、端子付電線80の延在方向(Y軸)に沿う、バラツキ量V1,V2,・・,Vnの変化の態様に基づいて、端子付電線80の状態を評価する。評価部35は、具体的には、例えば、バラツキ量V1,V2,・・,Vnの変化の態様に基づいて、間隙部分に露出芯線部81と絶縁被覆部82との両方が現れているか否か(すなわち、間隙部分に、露出芯線部81と絶縁被覆部82との境界が現れているか否か)を判断し、露出芯線部81と絶縁被覆部82との両方が現れている場合に、当該端子付電線80に肯定的な評価を与える。評価部35が端子付電線80を評価する処理の流れについては、後に具体的に説明する。
【0056】
<2−3.処理の流れ>
検査装置100にて実行される処理の流れについて、
図7を参照しながら説明する。
図7は、当該処理の流れを示す図である。
【0057】
<i.全体の流れ>
まず、撮像制御部31が、撮像部1を制御して、検査対象となる端子付電線80を撮像させて、撮像データを取得させる(ステップS1)。
【0058】
続いて、対象領域設定部32が、ステップS1で取得された撮像データ内に、対象領域Mを設定する(ステップS2)。
【0059】
続いて、前処理部33が、ステップS2で設定された対象領域M内のデータ部分を対象データとして、対象データに対して前処理を施す(ステップS3)。
【0060】
続いて、バラツキ量算出部34が、前処理後の対象データにおける、n本のラインL1,L2,・・,Lnの各々について、バラツキ量V1,V2,・・,Vnを算出する(ステップS4)。
【0061】
続いて、評価部35が、ステップS4で算出されたバラツキ量V1,V2,・・,Vnの、端子付電線80の延在方向(Y軸)に沿う変化の態様に基づいて、端子付電線80を評価する(ステップS5)。得られた評価結果は、例えば、表示装置22に表示されることによって、オペレータに報知される。
【0062】
<ii.評価処理の流れ>
評価部35が行う評価処理(ステップS5)の流れについて、
図8〜
図13を参照しながら説明する。
図8は、当該処理の流れを示す図である。
図9〜
図13は、端子付電線80から得られる変動関数Tの一例を模式的に示す図である。
【0063】
まず、評価部35は、2次元のグラフの横軸に、n本のラインL1,L2,・・,Lnをその配列順(具体的には、ライン番号の昇順)に並べ、当該2次元のグラフの縦軸に、各ラインLi(i=1,2,・・,n)について算出されたバラツキ量Viをプロットする。そして、当該プロットを結んで得られる線を、変動関数Tとして取得する(ステップS101)。ここで、得られた変動関数Tを、移動平均などを用いて平滑化しておくことも好ましい。
【0064】
続いて、評価部35は、変動関数Tが規定される2次元のグラフ上に、定められた一定のバラツキ量(すなわち、閾値となるバラツキ量であり、以下単に「閾値」ともいう)qで推移する閾値関数Qを規定するとともに、この閾値関数Qと変動関数Tとの交点Pの個数を計数する(ステップS102)。なお、閾値qの値は、例えば、オペレータが任意に設定できる構成としてもよいし、変動関数Tに応じて評価部35が自動に算出する構成としてもよい。後者の場合、例えば、評価部35は、変動関数Tにおけるバラツキ量の最大値と最小値との平均値を算出して、得られた値を閾値qの値として用いてもよい。
【0065】
続いて、ステップS102の計数結果に基づいて、変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pの個数が、「0(ゼロ)」「1」「2」「3以上」のいずれであるか否かを判断する(ステップS103〜ステップS105)。
【0066】
(a)変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pが0個の場合
変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pの個数が「0」であると判断された場合(ステップS103でYES)、評価部35は、端子付電線80に否定的な評価を与える(ステップS106)。
【0067】
例えば、
図9に示されるように、検査対象となる端子付電線80が、間隙部分に絶縁被覆部82しか現れていない場合(すなわち、露出芯線部81と絶縁被覆部82との境界位置が、芯線圧着部92の下に隠れている場合)、変動関数Tは、全ラインに亘って、低い値で推移するものとなり、閾値関数Qとの交点Pの個数がゼロとなる。評価部35は、このような変動関数Tを与える端子付電線80に対して、否定的な評価を与える。
【0068】
また例えば、
図10に示されるように、検査対象となる端子付電線80が、間隙部分に露出芯線部81しか現れていない場合(すなわち、露出芯線部81と絶縁被覆部82との境界位置が、被覆圧着部93の下に隠れている場合)、変動関数Tは、全ラインに亘って、高い値で推移するものとなり、閾値関数Qとの交点Pの個数がゼロとなる。評価部35は、このような変動関数Tを与える端子付電線80に対しても、否定的な評価を与える。
【0069】
(b)変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pが1個の場合
変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pの個数が「1」であると判断された場合(ステップS103でNO、ステップS104でYES)、評価部35は、続いて、変動関数Tが定められた形状タイプに合致するか否かを判断する(ステップS107)。ここで、定められた形状タイプとは、具体的には、交点Pよりもライン番号が小さい側(対象領域Mの+Y側の部分に相当)で閾値関数Qより大きな値で推移するとともに、他方の側(交点Pよりもライン番号が大きい側(対象領域Mの−Y側の部分に相当))で閾値関数Qより小さな値で推移するような形状である。
【0070】
ステップS107で肯定的な判断が得られた場合、評価部35は、端子付電線80に肯定的な評価を与える(ステップS108)。一方、ステップS107で否定的な判断が得られた場合、評価部35は、端子付電線80に否定的な評価を与える(ステップS109)。
【0071】
例えば、
図11に示されるように、検査対象となる端子付電線80が、間隙部分に露出芯線部81と絶縁被覆部82との両方が現れている場合、変動関数Tは、ライン番号が相対的に小さい側に、バラツキ量が比較的高い値で推移する部分が現れるとともに、ライン番号が相対的に大きい側に、バラツキ量が比較的低い値で推移する部分が現れ、途中で閾値関数Qとの交差するものとなる。つまり、変動関数Tは、閾値関数Qとの交点Pが1個であり、かつ、上記の定められた形状タイプに合致するものとなる。評価部35は、このような変動関数Tを与える端子付電線80に対して、肯定的な評価を与える。
【0072】
(c)変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pが2個の場合
変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pの個数が「2」であると判断された場合(ステップS103でNO、ステップS104でNO、ステップS105でYES)、評価部35は、まず、変動関数Tの一部を評価の対象から除外する(ステップS110)。
【0073】
具体的には、評価部35は、まず、変動関数Tにおけるライン番号が小さい側(+Y側)の端部Hにおいて、変動関数Tが閾値関数Qよりも大きいか否かを判断する。すなわち、ライン番号が最も小さいラインL1において、そのバラツキ量V1が閾値qよりも大きいか否かを判断する。
【0074】
そして、変動関数Tが、その端部Hにおいて閾値関数Qよりも小さい場合、評価部35は、2個の交点Pのうち、ライン番号が小さい側の交点P、および、当該交点Pよりもライン番号が小さい側の部分Jを、評価の対象から除外する(
図12参照)。
【0075】
一方、変動関数Tが、その端部Hにおいて閾値関数Qよりも大きい場合、評価部35は、2個の交点Pのうち、ライン番号が大きい側の交点P、および、当該交点Pよりもライン番号が大きい側の部分Jを、評価の対象から除外する(
図13参照)。
【0076】
ステップS110を経ると、評価の対象として残された変動関数Tの部分には、閾値関数Qとの交点Pが1個だけ残ることになる。評価部35は、続いて、評価の対象として残された変動関数Tの部分が、定められた形状タイプに合致するか否かを判断する(ステップS107)。上述したとおり、定められた形状タイプとは、具体的には、交点Pよりもライン番号が小さい側で閾値関数Qより大きな値で推移するとともに、他方の側(交点Pよりもライン番号が大きい側)で閾値関数Qより小さな値で推移するような形状である。
【0077】
ステップS107で肯定的判断が得られた場合、評価部35は、端子付電線80に肯定的な評価を与える(ステップS108)。つまり、変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pが2個の場合、評価部35は、いずれかの交点について、変動関数Tが定められた形状タイプに合致する場合に、肯定的な評価を与えることになる。一方、ステップS107で否定的な判断が得られた場合、評価部35は、端子付電線80に否定的な評価を与える(ステップS109)。
【0078】
例えば、
図12に示されるように、検査対象となる端子付電線80が、間隙部分に露出芯線部81と絶縁被覆部82との両方が現れている場合において、対象領域Mが芯線圧着部92を含むような位置に設定されてしまった場合、ライン番号が小さいラインのバラツキ量は、芯線圧着部92のベルマウス部分、あるいは、芯線圧着部92と電線8との境界の影になった部分などの影響で、比較的小さい値となる。したがって、この場合、変動関数Tは、ライン番号が相対的に大きい側とライン番号が相対的に小さい側とに、バラツキ量が比較的低い値で推移する部分が現れるとともに、これらの部分に挟まれて、バラツキ量が比較的高い値で推移する部分が現れ、途中で閾値関数Qと2回交差するものとなる。つまり、変動関数Tは、閾値関数Qとの交点Pが2個であり、かつ、ライン番号が大きい側の交点Pについて、上記の定められた形状タイプに合致するものとなる。評価部35は、このような変動関数Tを与える端子付電線80に対して、肯定的な評価を与える。
【0079】
また例えば、
図13に示されるように、検査対象となる端子付電線80が、間隙部分に露出芯線部81と絶縁被覆部82との両方が現れている場合において、対象領域Mが被覆圧着部93を含むような位置に設定されてしまった場合、ライン番号が大きいラインのバラツキ量は、被覆圧着部93の影響で、比較的大きい値となる。したがって、この場合、変動関数Tは、ライン番号が相対的に大きい側とライン番号が相対的に小さい側とに、バラツキ量が比較的高い値で推移する部分が現れるとともに、これらの部分に挟まれて、バラツキ量が比較的低い値で推移する部分が現れ、途中で閾値関数Qと2回交差するものとなる。つまり、変動関数Tは、閾値関数Qとの交点Pが2個であり、かつ、ライン番号が小さい側の交点Pについて、上記の定められた形状タイプに合致するものとなる。評価部35は、このような変動関数Tを与える端子付電線80に対して、肯定的な評価を与える。
【0080】
(d)変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pが3個以上の場合
変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pの個数が「3以上」であると判断された場合(ステップS103でNO、ステップS104でNO,ステップS105でNO)、評価部35は、端子付電線80に否定的な評価を与える(ステップS111)。
【0081】
<3.効果>
上記の実施の形態によると、端子付電線80の延在方向に沿うバラツキ量Vi(i=1,2,・・,n)の変化の態様に基づいて、端子付電線80の状態を評価する。ここにおいて、バラツキ量Viは、端子付電線80を横断する方向に沿う輝度の変化量の絶対値を総和した値であるので、例えば、電線8の露出芯線部81と対応する部分は、その色に関係なく、バラツキ量Viが比較的大きな値となり、電線8の絶縁被覆部82と対応する部分は、その色に関係なく、バラツキ量Viが比較的小さな値となる。したがって、端子付電線80の状態を、その色に関係なく、簡易かつ正確に評価できる。
【0082】
また、上記の実施によると、端子付電線80における、端子9の芯線圧着部92が圧着されている第1部分と端子9の被覆圧着部93が圧着されている第2部分との間の部分が、対象領域Mとされる。この構成によると、電線8に対して端子9が適切な位置に接続されているかを評価することができる。特に、第1部分と第2部分との間の部分の全体が、1つの対象領域Mとされると、端子付電線80の延在方向に沿う対象領域Mの長さを十分大きくとることができるので、撮像データ中の部分的なノイズなどの影響が低減される。したがって、評価の正確性を担保することができる。
【0083】
また、上記の実施の形態によると、バラツキ量Viの算出に先立って、対象領域M内のデータ部分に前処理が施される。この構成によると、例えば、検査対象となる端子付電線80の絶縁被覆部82に電線識別用のマークなどが印刷されている場合であっても、それに由来する輝度成分は微分フィルタを通すことによりおおまかに除去される。したがって、このようなマークなどの影響を受けて端子付電線80の状態を誤って評価する、といった事態を回避できる。
【0084】
また、上記の実施の形態によると、ラインLiの中央部分のみが、バラツキ量Viの算出において考慮される。ラインLiの両端部付近は、電線8以外が現れている部分(端子付電線80の背景、第2連結部95の起立片など)となりやすいところ、この構成によると電線8以外が現れている部分の影響を除去して、電線8に由来する輝度の変化量のみを、バラツキ量Viに反映させることができる。その結果、端子付電線80の状態を正確に評価することができる。
【0085】
また、上記の実施の形態によると、変動関数Tと閾値関数Qとの交点Pの個数に基づいて、端子付電線80の状態を評価するので、簡易かつ正確に、端子付電線80の状態を評価することができる。
【0086】
<4.変形例>
<4−1.第1の変形例>
上記の実施の形態においては、ステップS107(
図8)で肯定的な判断が得られた場合に、端子付電線80に肯定的な評価を与える構成としていたが、評価部35は、ステップS107で肯定的な評価が得られた場合に、さらに、次の処理を行ってもよい。
【0087】
すなわち、変形例に係る評価部35は、ステップS107で肯定的な評価が得られた場合、続いて、交点Pよりもライン番号が小さい側において、バラツキ量が閾値関数Qよりも大きいラインが連続する本数の最大値を計数するとともに、交点Pよりもライン番号が大きい側において、閾値関数Qよりも小さいラインが連続する本数の最大値を計数する。そして、得られた2つの計数値の両方が、オペレータにより設定された許容値よりも大きいか否かを判断する。ここで肯定的な判断が得られた場合、評価部35は、端子付電線80に肯定的な評価を与える。一方、ここで否定的な判断が得られた場合、評価部35は、端子付電線80に否定的な評価を与える。
【0088】
この変形例によると、オペレータは、許容値を調整することによって、例えば、間隙部分にほんの少しだけ露出芯線部81(あるいは、絶縁被覆部82)が見えているような状態の端子付電線80に対して、否定的な評価を与えさせることができる。また、撮像データに含まれるノイズなどの影響で、否定的な評価を与えるべき端子付電線80に誤って肯定的な評価が与えられてしまうといった事態を回避できる。
【0089】
<4−2.第2の変形例>
評価部35が端子付電線80を評価する態様は、上記に例示したものに限らない。例えば、評価部35は、次の処理によって端子付電線80を評価してもよい。
【0090】
評価部35は、まず、
図14に示されるように、変動関数Tを、横軸に沿って2等分割する(すなわち、ライン番号が小さい側とライン番号が大きい側とに2等分割する)中心線Kを規定し、中心線Kよりもライン番号が小さい側の変動関数Tの部分(第1部分)T1と、中心線Kよりもライン番号が大きい側の変動関数Tの部分(第2部分)T2との各々において、バラツキ量の平均値R1,R2を算出する。続いて、評価部35は、得られた2つの平均値R1,R2を比較して、第1部分T1の平均値R1が、第2部分T2の平均値よりも大きい場合に、端子付電線80に肯定的な評価を与える。
【0091】
この変形例によると、撮像条件などによって、変動関数Tが全体的に上側(あるいは、下側)にシフトしてしまった場合であっても、安定した評価結果を得ることができる。
【0092】
<4−3.その他の変形例>
上記の実施の形態においては、検査対象は、端子付電線80であるとしたが、検査対象は必ずしも端子付電線80である必要はない。例えば、端子9が接続されていない電線8が検査対象とされてもよい。例えば、検査装置100を、端子9が接続されていない電線8において、皮剥ぎ位置が適切であるか否かの検査に用いてもよい。この場合、例えば、電線8の皮剥ぎ位置が存在するべき位置を含むように対象領域Mを設定して、上記の一連の処理を行って電線8の状態を評価すればよい。