特許第5924283号(P5924283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924283
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】糸入り紙シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/08 20060101AFI20160516BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20160516BHJP
   D21H 27/32 20060101ALI20160516BHJP
   B32B 29/02 20060101ALI20160516BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20160516BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   B32B5/08
   D21H27/30 D
   D21H27/32 A
   B32B29/02
   B32B27/28 101
   B32B27/10
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-23465(P2013-23465)
(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公開番号】特開2014-152416(P2014-152416A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年3月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:平成25年1月30日 公開場所:東京ビッグサイト 東ホール(東京都江東区有明3−11−1) 展示会名:Convertech Japan 2013 試作・受託加工展2013
(73)【特許権者】
【識別番号】390013675
【氏名又は名称】大王加工紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】上西 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】増井 光幸
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第94/002317(WO,A1)
【文献】 米国特許第05401557(US,A)
【文献】 実開昭60−042632(JP,U)
【文献】 特開2009−235308(JP,A)
【文献】 特開平07−150457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上紙と下紙との間に補強糸が配され、それらが接着剤で接着されてなる糸入り紙シートであって、
前記上紙および下紙は、同一の材質および性能品質の抄紙であり、
前記補強糸は、水溶性繊維糸が用いられ、
前記接着剤としては、エチレン酢酸ビニル樹脂接着剤が用いられていることを特徴とする、平滑でフラットな糸入り紙シート。
【請求項2】
前記上紙および下紙を構成する抄紙は、
重量が40〜60g/m、厚さが65〜80μ、透気度が25〜35秒、サイズ度が10〜15秒であることを特徴とする、請求項1記載の平滑でフラットな糸入り紙シート。
【請求項3】
前記補強糸は、300〜1000デニルの水溶性繊維糸であり、乾燥時の強度が3.4〜4.4CN/T、伸度が10〜24%、溶解が36±5℃、水中収縮率が40〜60%、水中収縮力が0.10〜0.30CN/Tであることを特徴とする、請求項1または2記載の平滑でフラットな糸入り紙シート。
【請求項4】
前記補強糸は、前記上紙および下紙の面に対して直交方向に見て、菱形網目状、格子形網目状、紙の流れ方向に等間隔に並列に延びる平行線状、紙の流れ方向に直交方向に等間隔に並列に延びる平行線状、またはランダム状態に配されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の平滑でフラットな糸入り紙シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、糸入り紙シートに関し、特に、包装用シートとして利用可能な平滑でフラットな糸入り紙シートに関する。
【背景技術】
【0002】
糸入り紙シートの先行技術としては、実公昭64−2000号(特許文献1)に記載された防燃用紙材、実公昭61−32757号(特許文献2)に記載された防錆梱包紙、実公平4−23632号(特許文献3)に記載された包装用シート等が存在する。
これら先行技術に係る紙シートは、補強用の糸を追加することで、紙シートの強度を向上させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭64−2000号公報
【特許文献2】実公昭61−32757号公報
【特許文献3】実公平4−23632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、従来の糸入り紙シートのように、糸が紙シート全体の補強材として機能することを主たる狙いとしたものではなく、平滑でフラットな糸入り紙シートであって、当該紙シートに水分が付与されると、その水分によって紙シートが補強糸に沿った形状に変形し、紙シートが乾いた後もその変形した形状を保持する特性を有する、包装用シート、その他の用途に広範囲に使用可能な新規な糸入り紙シートを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上紙と下紙との間に補強糸が配され、それらが接着剤で接着されてなる糸入り紙シートであって、前記上紙および下紙は、同一の材質および性能品質の抄紙であり、前記補強糸は、水溶性繊維糸が用いられ、 前記接着剤としては、エチレン酢酸ビニル樹脂接着剤が用いられていることを特徴とする、平滑でフラットな糸入り紙シートである。
【0006】
また、この発明は、前記上紙および下紙を構成する抄紙は、重量が40〜60g/m、厚さが65〜80μ、透気度が25〜35秒、サイズ度が10〜15秒であることを特徴とする、請求項1記載の平滑でフラットな糸入り紙シートである。
この発明は、前記補強糸は、300〜1000デニルの水溶性繊維糸であり、乾燥時の強度が3.4〜4.4CN/T、伸度が10〜24%、溶解が36±5℃、水中収縮率が40〜60%、水中収縮力が0.10〜0.30CN/Tであることを特徴とする、請求項1または2記載の平滑でフラットな糸入り紙シートである。
【0007】
この発明は、また、前記補強糸は、前記上紙および下紙の面に対して直交方向に見て、菱形網目状、格子形網目状、紙の流れ方向に等間隔に並列に延びる平行線状、紙の流れ方向に直交方向に等間隔に並列に延びる平行線状、またはランダム状態に配されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の平滑でフラットな糸入り紙である。
【発明の効果】
【0008】
この発明の糸入り紙シートは、上紙と下紙との間に補強糸が配されてはいるが、初期の状態においては、平滑でフラットな紙シートの体を奏している。
この発明の糸入り紙シートは、加水されることにより、上紙と下紙との間に配された補強糸に強い収縮性能が働き、紙シートにおける糸が配されている部分が縮む。これは、補強糸が水溶性繊維糸からなることに起因する。そして、水溶性繊維糸の縮む力により、紙シート全体が凹凸のある形状になる。この場合において、加水する量が多いほど、また、加水後の乾燥度合いがきついほど、凹凸の形状は大きくなり、凹凸形状が付けられた紙シートが物品を緩衝的に包む力も強くなる。
【0009】
補強糸としての水溶性繊維糸は、紙シートに凹凸を付けたい形状に合わせて、任意の形状、すなわち上紙および下紙の面に対して直交方向に見て、菱形網目状、格子形網目状、紙の流れ方向に等間隔に並列に延びる平行線状、紙の流れ方向に直交方向に等間隔に並列に延びる平行線状、または、ランダム状態に配することができる。
また、網目状の網目の間隔や、平行線状の平行線間隔等も、任意の大きさにすることができる。
【0010】
この発明の糸入り紙シートは、平滑でフラットな紙シートであるが、加水することにより、補強糸に沿って紙シートは凹凸形状に変形し、加水後乾燥した状態に戻った時、生じた凹凸形状がそのまま残り、凹凸のある緩衝性のあるシート材となる。よって、この発明に係る糸入り紙シートは、瓶などの包装用シートとして、好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る糸入り紙シート10の平面図である。
図2図2は、この発明の一実施形態に係る糸入り紙シート10の断面構造を示す図であり、図1のII−IIに沿う切断面端面図である。
図3図3は、この発明の一実施形態に係る糸入り紙シートの性能(機能)を説明するための平面図および正面図である。
図4図4は、この発明の一実施形態に係る糸入り紙シート10を用いて瓶をラッピングした(包装した)状態を示す図である。
図5図5は、この発明の一実施形態に係る糸入り紙シート10を用いて瓶をラッピングした(包装した)状態を示す図であり、加水により変形した後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明をする。
図1は、この発明の一実施形態に係る糸入り紙シート10の一例を示す平面図である。
また、図2は、図1の糸入り紙シート10をII−IIに沿って切断した状態の切断面端面図を示す図である。
図1および図2を参照して説明すると、糸入り紙シート10は、上紙11と下紙12との間に補強糸13が配され、それらが接着剤14で接着されて成るものである。
【0013】
上紙11および下紙12は、同一の材質および性能品質の抄紙を用いた。
この実施例では、上紙11および下紙12の性能品質は、以下のものを用いた。
製品重量は、54.5g/m2 、厚さは73μ、引っ張り強度は、縦方向が4.03KN/m、横方向が1.49KN/m、引っ張り伸度は、縦方向が1.19%、横方向が5.00%、引き裂き強度は、縦方向が412mN、横方向が504mNである。但し、引き裂き強度は、16枚の紙を重ねた状態での値を表わしている。
【0014】
さらに、上紙11および下紙12は、透気度が、表面側からは、28.9秒/100(100ccの空気を何秒で通すかの値)、裏面からは30.0秒/100である。
また、上紙11および下紙12の平滑度は、表面側は39.6秒/100、裏面側は35.2秒/100である。
さらに、上紙11および下紙12のサイズ度(ステキヒト法による:水の染み込む度合い、普通紙で60秒程度と言われている。)表面側からは13.0秒、裏面側からは13.3秒である。
【0015】
なお、透気度、平滑度およびサイズ度の測定においては、平滑度の高い方を表面、低い方を裏面として測定したものである。
補強糸13は、水溶性繊維糸を用いている。より具体的には、補強糸13は、300〜1000デニルの水溶性繊維糸であり、乾燥時の強度が3.4〜4.4CN/T、伸度が10〜24%、溶解が36±5℃、水中収縮率が40〜60%、水中収縮力が0.10〜0.30CN/Tのものを用いた。
【0016】
接着剤14は、水分に影響されにくく溶けない樹脂製接着剤を使用した。具体的には、エチレン酢酸ビニル樹脂接着剤を用い、当該接着剤14により、上紙11および下紙12の間に補強糸13を挟んだ状態で、上紙11および下紙12を接着剤14にて接合したものである。
糸入り紙シート10は、外観上は、うっすらと補強糸13が配されていることを確認できる程度であり、糸入り紙シート10全体としては、平滑でフラットな外観を有している。
【0017】
因みに、この実施例では、一方方向に斜めに延びる補強糸13a同士の間隔は、2cmとし、他方方向に斜めに延びる補強糸13b同士の間隔は2.5cmとした。
しかし、別の実施例としては、一方方向に延びる補強糸13a同士の間隔は4cmとし、他方方向に延びる補強糸13b同士の間隔は4.5cmとしたものも作成したが、いずれのものにおいても、良好な収縮特性が得られ、包装用シートとして、特に、緩衝作用のある包装用シートとして良好に利用できることが確認できた。
【0018】
本発明の糸入り紙シート10は、補強糸13を配置する場合に、補強糸13の配置間隔は特に制限されるものではなく、任意の間隔で配置すればよい。
また、補強糸13は、上述の実施例のように、交差方向に配置し、補強糸13で囲まれた菱形、正方形、長方形等の領域が多数形成されるようにしてもよいし、補強糸13を所定の間隔で平行に配置しただけで、補強糸で囲まれた領域が存在しないような構成としてもよい。
【0019】
さらに、上紙11または下紙12のいずれか一方を、いずれか他方に比べてやや厚みのある紙としてもよい。この場合は、糸入り紙シートを加水した際に、紙シートの凹凸変形が必ず一方の紙側が凸となるように変形するという特性が得られる。
図3は、この発明の一実施形態の作用効果を説明するための図であり、(A)は糸入り紙シート10の平面図、(B)はその正面図である。
【0020】
図3(A)(B)において、糸入り紙シート10の左半分に対し、たとえば霧吹きを用いて一定量の水を与える。
すると、糸入り紙シート10は、上紙11および下紙12が水分を吸収し、その水分は補強糸13に与えられて、補強糸13は水分によって軟化し、収縮する。
その結果、補強糸13で囲まれた略正方形状の領域が、それぞれ周辺(4辺)が縮まるので、各略正方形領域は一方方向(たとえば上紙11方向に凸状に膨らみ、糸入り紙シート10全体として見ると、補強糸13で囲まれた領域がそれぞれ独立して山形に膨らんだ形状となる。
【0021】
そして、糸入り紙シート10に与えられた水が蒸発して乾燥した状態においても、この正方形状部が山形に膨らんだ状態が保持される。
糸入り紙シート10の加水しない領域(図3(A)(B)において右半分の領域)は、平滑でフラットな状態のままである。
糸入り紙シート10は、上述のような特性を有するため、たとえば瓶を包装するための包装用シートとして利用することができる。
【0022】
図4および図5は、この発明の一実施形態に係る糸入り紙シート10により、瓶をラッピングした状態の図である。
図4(A)は、補強糸13の配置間隔が狭い糸入り紙シート10を用いて瓶をラッピングした状態(包装した状態)の一例を示す図であり、図4(B)は、補強糸13の間隔を広く配した糸入り紙シート10を用いて瓶をラッピング(包装した)状態を示す図である。また、図5(A)(B)は、糸入り紙シート10が変形後のラッピング(包装した)状態を示す図で、図4(A)(B)に対応する図である。
【0023】
いずれの包装形態においても、次のような手順で包装を行った。
すなわち、平滑でフラットな糸入り紙シート10を準備し、その糸入り紙シート10で瓶を通常のやり方で包み込む。そして、瓶の口部近傍に紙シート10が解けないようにするための固定用のワイヤ紐20を巻く。
その後、瓶を包んだ糸入り紙シート10に対して、霧吹きスプレー等を用いて水分を与える。
【0024】
すると、図5に示すように、加水された糸入り紙シート10は、補強糸13部分が縮み、瓶を包んだ糸入り紙シート10は多数の山形突部を有する外部からの力や衝撃等に対して緩衝力のある包装材に変化し、内部の瓶を保護する。
なお、瓶の底部などは、糸入り紙シート10に凹凸が形成されない方がよいのであれば、瓶の底部を包んだ部分の糸入り紙シートには加水しないようにすればよい。
【0025】
このように、この発明に係る糸入り紙シートは、包装用シートとして用いた場合、物を包装した後に、所望の箇所だけに多数の突部を形成して、その箇所に対して緩衝作用を持たせるといった使用方法が可能である。
この発明は、以上説明したような瓶の包装シートとして利用できる他、種々の包装用シート、化粧品や瓶の緩衝材、学用品(教材)、アートフラワー素材、壁紙等として多様な用途がある。以下、用途の一例を紹介する。
【0026】
(1)化粧品・ワイン、酒瓶等の緩衝材
糸入り紙シートを成型緩衝したいものに形を整える。そして、加水することにより、成型ができる。更に加水した水分が無くなることにより、凹凸の強度が強くなり、緩衝効果を増大させることができる。
(2)学用品(教材)について
糸入り紙シートの菱形または桝目状の領域中に子供達に自由に油性ペン等で絵を描かせる。絵が描かれた糸入り紙シートに対し、先生が水スプレーで水を与え、または糸入り紙シートを直接水の中に浸漬させ、紙が凹凸状になった時点で四隅を押しピンなどで押さえ、乾かす。乾かすことにより、描かれた絵が凹凸により浮出る効果がある。また、凹凸になる経過途中も不思議さが目につく効果がある。
【0027】
(3)アートフラワー素材
糸入り紙シートに部分的に加水する。これにより、部分的な凹凸模様を紙シートにつけることができる。また、加水することにより、糸入り紙シートが柔らかくなるので、色々な形に成形ができ、乾燥させることによって、成形した形を維持できる。
(4)インテリア用素材(壁紙・敷物等)
糸入り紙シートにプリント柄印刷などを先に施し、加水、乾燥させることにより、従来できなかった多彩な模様、絵柄等を立体的に構成することができる。
【0028】
(5)医療の補助素材
糸入り紙シートの素材(上紙および/または下紙を不織布や織布等へ)を変化させることにより、医療用ギブスなど、簡易的な医療補助材として使用が可能である。
(6)空調・換気等のフィルター素材
糸入り紙シートの素材を変化させることにより、空調・換気等のフィルターとして使用ができ、表面を凹凸に加工することにより、空気圧損やフィルターとしての性能向上を高めることができる。
【0029】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、その構成は、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 糸入り紙シート
11 上紙
12 下紙
13 補強糸
14 接着剤
20 ワイヤ紐
図1
図2
図3
図4
図5