(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の絶縁電線を含み該絶縁電線各々の導体が接合された部分であるスプライス部を有する電線群における前記スプライス部に面する絶縁被覆の端部から間隔を隔てた位置の第一被覆部を、相互に対向する一対の第一挟持部における平行な一対の第一支面の間に挟み込む第一挟持工程と、
前記第一被覆部を挟み込んだ前記一対の第一挟持部のうちの一方を他方に対して前記第一支面に平行に往復変位させる揺動工程と、
前記電線群における少なくとも前記絶縁被覆の端部を前記揺動工程の終了時の並列状態に維持する並列維持工程と、
前記並列維持工程によって状態が維持された前記電線群における前記スプライス部から前記絶縁被覆の端部までを含む止水領域を流動状の止水材で覆い、さらに、前記止水材を硬化させる止水部形成工程と、を含む電線スプライス部の止水方法。
複数の絶縁電線を含み該絶縁電線各々の導体が接合された部分であるスプライス部を有する電線群における絶縁被覆の部分を複数の前記絶縁電線が一列に並ぶ状態に整列させる電線群整列装置であって、
平行な一対の第一支面が形成され、前記電線群における前記スプライス部に面する前記絶縁被覆の端部から間隔を隔てた位置の第一被覆部を前記一対の第一支面の間に挟み込む一対の第一挟持部と、
前記第一被覆部を挟み込んだ前記一対の第一挟持部のうちの一方を他方に対して前記第一支面に平行に往復変位させる揺動機構と、を備える電線群整列装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワイヤハーネスの止水部は、止水領域における絶縁被覆の部分において、複数の電線の間の隙間を埋めている。これにより、液体が複数の電線の間の隙間からスプライス部へ浸入することが防がれる。
【0008】
しかしながら、多数の電線が束ねられている場合、流動状の合成樹脂が複数の電線の間の隙間へ十分に行き渡りにくい。そうすると、十分な止水性能が得られない。
【0009】
さらに、止水部の材料が光硬化樹脂を含む場合、照射光が、束ねられた電線における内部の隙間を埋める光硬化樹脂に届かない。そうすると、光硬化樹脂が硬化する前に流出するため、十分な止水性能が得られない。
【0010】
本発明は、電線群のスプライス部を覆う止水部が、流動状の合成樹脂の硬化によって得られる場合に、流動状の合成樹脂が複数の絶縁電線の間の隙間へ行き渡りやすくし、これにより十分な止水性能を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様に係る電線スプライス部の止水方法は、以下に示される第一挟持工程、揺動工程、並列維持工程及び止水部形成工程を含む。
(1)上記第一挟持工程は、電線群におけるスプライス部に面する絶縁被覆の端部から間隔を隔てた位置の第一被覆部を、相互に対向する一対の第一挟持部における平行な一対の第一支面の間に挟み込む工程である。上記電線群は、複数の絶縁電線を含み、それら絶縁電線各々の導体が接合された部分である上記スプライス部を有する。
(2)上記揺動工程は、上記第一被覆部を挟み込んだ上記一対の第一挟持部のうちの一方を他方に対して上記第一支面に平行に往復変位させる工程である。
(3)上記並列維持工程は、上記電線群における少なくとも上記絶縁被覆の端部を上記揺動工程の終了時の並列状態に維持する工程である。
(4)上記止水部形成工程は、上記並列維持工程によって状態が維持された上記電線群における止水領域を流動状の止水材で覆い、さらに、その止水材を硬化させる工程である。上記止水領域は、上記電線群における上記スプライス部から上記絶縁被覆の端部までを含む領域である。
【0012】
本発明の第2態様に係る電線スプライス部の止水方法は、第1態様に係る電線スプライス部の止水方法の一態様である。第2態様に係る電線スプライス部の止水方法において、上記並列維持工程は、以下に示される第二挟持工程と挟持解除工程と移動工程とを含む。
(3−1)上記第二挟持工程は、上記揺動工程を経て上記一対の第一挟持部で挟持された上記電線群の第二被覆部を、相互に対向する一対の第二挟持部における上記第一支持面に平行な一対の第二支面の間に挟み込む工程である。上記第二被覆部は、上記電線群における上記第一被覆部と上記止水領域との間の部分である。
(3−2)上記挟持解除工程は、上記第二挟持工程の後に上記第一挟持部による挟持を解除する工程である。
(3−3)上記移動工程は、上記挟持解除工程の後に上記電線群を挟持する上記一対の第二挟持部を移動させることにより、上記電線群を上記止水部形成工程の位置へ移動させる工程である。
【0013】
本発明の第3態様に係る電線スプライス部の止水方法は、第1態様又は第2態様に係る電線スプライス部の止水方法の一態様である。第3態様に係る電線スプライス部の止水方法において、上記止水部形成工程は、以下に示されるシート添え工程と止水材供給工程とシート包み工程と露光工程とを含む。
(4−1)上記シート添え工程は、上記並列維持工程によって状態が維持された上記電線群の上記止水領域を透明のシート材の上に沿う状態に維持する工程である。
(4−2)上記止水材供給工程は、上記シート材の上に光硬化樹脂を含む流動状の上記止水材を供給する工程である。
(4−3)上記シート包み工程は、上記電線群の上記止水領域を上記止水材が供給された上記シート材で包むことにより上記電線群の上記止水領域と上記シート材との隙間を流動状の上記止水材で埋める工程である。
(4−4)上記露光工程は、上記電線群の上記止水領域を覆う上記止水材に上記シート材の外側から光を照射する工程である。
【0014】
本発明の第4態様に係る電線スプライス部の止水方法は、第1態様から第3態様のいずれかに係る電線スプライス部の止水方法の一態様である。第4態様に係る電線スプライス部の止水方法において、上記第一挟持工程、上記揺動工程及び上記並列維持工程は、上記電線群における中間部分に形成された上記スプライス部の両側の位置において並行して行われる。
【0015】
また、本発明は、上記の各態様における一挟持工程、揺動工程及び並列維持工程での使用に適した電線群整列装置の発明として捉えられてもよい。本発明の第5態様に係る電線群整列装置は、上記電線群における絶縁被覆の部分を複数の絶縁電線が一列に並ぶ状態に整列させる装置である。そして、上記電線群整列装置は、以下に示される各構成要素を備えている。
(1)第1の構成要素は、平行な一対の第一支面が形成された一対の第一挟持部である。これら一対の第一挟持部は、上記電線群における上記スプライス部に面する上記絶縁被覆の端部から間隔を隔てた位置の第一被覆部を上記一対の第一支面の間に挟み込む。
(2)第2の構成要素は、上記第一被覆部を挟み込んだ上記一対の第一挟持部のうちの一方を他方に対して上記第一支面に平行に往復変位させる揺動機構である。
【0016】
本発明の第6態様に係る電線群整列装置は、第5態様に係る電線群整列装置の一態様である。第6態様に係る電線群整列装置は、以下に示される各構成要素をさらに備える。
(3)第3の構成要素は、上記第一支持面に平行な一対の第二支面が形成された一対の第二挟持部である。これら一対の第二挟持部は、上記一対の第一挟持部で挟持された上記電線群における第二被覆部を上記一対の第二支面の間に挟み込む。上記第二被覆部は、上記電線群における上記第一被覆部と上記絶縁被覆の端部との間の部分である。
(4)第4の構成要素は、上記第一挟持部による挟持が解除された後に、上記電線群を挟持する上記一対の第二挟持部を移動させる移動機構である。
【発明の効果】
【0017】
上記の各態様によれば、電線群における止水領域に近い第一被覆部(絶縁被覆の部分)は、一対の第一挟持部の間に挟み込まれる。さらに、一対の第一挟持部は、第一被覆部を挟み込んだ状態のまま、支面に平行に相対的に往復変位する。
【0018】
第一被覆部は、一対の第一挟持部の間に挟み込まれた初期の段階において、複数の絶縁電線が積み重なった状態となっていることが考えられる。しかしながら、一対の第一挟持部が相対的に往復変位すると、絶縁電線が積み重なった状態が崩れる。その結果、第一被覆部は、全ての絶縁電線が第一支面に沿って並列に並んだ状態(並列状態)となる。
【0019】
全ての絶縁電線が積み重ならずに並列に並んだ並列状態においては、流動状の合成樹脂が流入しにくいデッドゾーンが生じにくい。即ち、流動状の合成樹脂が全ての絶縁電線の間の隙間へ行き渡りやすい。その結果、電線群のスプライス部を覆う止水部が、流動状の合成樹脂の硬化によって得られる場合に、十分な止水性能が確保される。
【0020】
また、上記の第2態様及び第6態様においては、電線群は、第一被覆部を挟持する一対の第一挟持部から、第一被覆部よりもスプライス部寄りの第二被覆部を挟持する一対の第二挟持部へ、受け渡される。さらに、電線群は、一対の第二挟持部で挟持されたまま、止水部形成工程の位置へ移動される。
【0021】
上記の第2態様及び第6態様によれば、止水部形成工程が、第一挟持工程の位置と異なる位置で行われる場合であっても、電線群における第二被覆部から絶縁被覆の端部までの部分は、揺動工程の終了時の並列状態に維持される。
【0022】
従って、上記の第2態様及び第6態様によれば、ある電線群に対する止水部形成工程と、他の電線群を並列状態に整列させる工程(第一挟持工程及び揺動工程)とを並行して行うことができる。その結果、スプライス部を覆う止水部を有するワイヤハーネスを効率的に製造することが可能となる。
【0023】
また、上記の第3態様においては、スプライス部を覆う止水部は、光硬化樹脂を含む流動状の止水材がそれを包む透明のシート材の外側から受光することによって硬化した部分である。光硬化樹脂が止水材として用いられる場合、絶縁電線が積み重なった部分において、照射された光が届かないデッドゾーンが生じやすい。本発明は、そのような対象への適用に特に好適である。
【0024】
また、本発明は、上記の第4態様のように、いわゆる中間スプライスの止水処理に適用することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0027】
<電線群>
まず、
図2,3を参照しつつ、本発明の実施形態に係る電線スプライス部の止水方法において止水処理の対象となる電線群90について説明する。電線群90は、自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスの一部である。
【0028】
電線群90は、複数の電線9を含み、さらに、スプライス部93を有する。電線9は、線状の導体91とその導体91の周囲を覆う絶縁被覆92とを有する絶縁電線である。スプライス部93は、複数の電線9各々の導体91が接合された部分である。
【0029】
スプライス部93において、絶縁被覆92から露出した複数の導体91どうしが接合されている。スプライス部93は、電線群90の中間部又は端部に形成される。本実施形態においては、スプライス部93は、電線群90の中間部に形成されている。
【0030】
導体91どうしの接合は、例えば、抵抗溶接、超音波溶接、レーザ溶接等により行われる。或いは、導体91どうしの接合が、圧着金具の圧着により行われる場合もある。
【0031】
図3に示されるように、電線群90におけるスプライス部93を含む所定の領域には、止水部8が形成される。以下、電線群90における止水部8が形成される領域のことを止水領域900と称する。
【0032】
止水領域900は、電線群90における少なくともスプライス部93から被覆端部94までを含む領域である。被覆端部94は、絶縁被覆92におけるスプライス部93に面する端部である。従って、止水領域900は、スプライス部93及びスプライス部93の隣において絶縁被覆92から露出した導体91の全てを含む。
【0033】
止水部8は、止水材81とシート材82とを含む。止水材81は、電線群90の止水領域900を覆う合成樹脂の部材である。シート材82は、止水材81の外側から止水領域900に巻かれた状態で止水材81を包んでいる。
【0034】
シート材82は、流動状の止水材81の流出を防ぐ。また、それぞれ非導電性材料からなる止水材81及びシート材82は、スプライス部93の絶縁被覆でもある。
【0035】
止水材81は、止水領域900に供給された流動状の合成樹脂が硬化することによって得られる。流動状の止水材81が供給された止水領域900は、合成樹脂が硬化する前にシート材82で包まれる。
【0036】
止水領域900がシート材82で包まれることにより、止水領域900とシート材82との隙間が流動状の止水材81で埋まる。その後、止水材81が硬化することにより、止水部8が形成される。
【0037】
本実施形態においては、光硬化樹脂が止水材81として用いられる。この場合、シート材82は、透明のフィルムである。なお、透明とは、止水材81を硬化させるために必要な帯域の光が透過可能であることを意味する。また、ここで言う透明は、全透明及び半透明のいずれも含む。
【0038】
以下の説明において、電線群90におけるスプライス部83に面する被覆端部94から間隔を隔てた予め定められた部位のことを第一被覆部95と称する。第一被覆部95は、止水領域900以外の部分である。さらに、電線群90における第一被覆部95と止水領域900との間の予め定められた部位のことを第二被覆部96と称する。なお、第一被覆部95及び第二被覆部96の一例が
図2に示されている。
【0039】
<電線群整列装置>
続いて、
図1,4を参照しつつ、本発明の実施形態に係る電線群整列装置10の構成について説明する。電線群整列装置10は、電線群90のスプライス部93を覆う止水部8が形成される工程の前工程で用いられる。
【0040】
なお、
図4は、本発明の実施形態に係る止水方法における第一挟持工程を表す図であるが、電線群整列装置10の側面図でもある。
【0041】
電線群整列装置10は、スプライス部93を有する電線群90における絶縁被覆92の部分を、複数の電線9が一列に並ぶ状態に整列させる装置である。より具体的には、電線群整列装置10は、電線群90における第一被覆部95から被覆端部94までの部分を、複数の電線9が一列に並ぶ状態に整列させる。
【0042】
図1に示されるように、電線群整列装置10は、2組の整列機構1と、2組の並列維持機構2とを備えている。なお、
図1において、電線群整列装置10にセットされた電線群90が仮想線(二点鎖線)で描かれている。
【0043】
<整列機構>
また、整列機構1は、一対の第一挟持部11、第一挟持アクチュエータ12、揺動機構13及び電線支持部14を備えている。さらに、一対の第一挟持部11は、相互に対向する第一押さえ部111及び第一受け部112を含む。
【0044】
一対の第一挟持部11は、それぞれ平行な一対の第一支面113,114が形成された部材である。本実施形態においては、一対の第一支面113,114の各々、即ち、第一押さえ部111の第一支面113及び第一受け部112の第一支面114の各々は平面である。
【0045】
第一挟持アクチュエータ12は、一対の第一挟持部11の間隔、即ち、一対の第一支面113,114の間隔を変化させる変位機構である。本実施形態では、第一挟持アクチュエータ12は、第一押さえ部111を第一受け部112に対して接近及び離隔させる。
【0046】
一対の第一挟持部11は、第一挟持アクチュエータ12の作用により、電線群90の第一被覆部95を一対の第一支面113,114の間に挟み込む。さらに、一対の第一挟持部11は、第一挟持アクチュエータ12の作用により、電線群90の第一被覆部95の挟持を解除する。
【0047】
即ち、第一挟持アクチュエータ12が第一押さえ部111を第一受け部112に接近させることにより、一対の第一挟持部11が電線群90の第一被覆部95を挟み込む。第一挟持アクチュエータ12が第一押さえ部111を第一受け部112から離隔させることにより、一対の第一挟持部11により電線群90の挟持が解除される。
【0048】
また、第一挟持アクチュエータ12は、弾性力によって第一押さえ部111を第一受け部112側へ押し付ける。即ち、一対の第一挟持部11は、弾性力によって第一被覆部95を挟み込む。そのため、一対の第一挟持部11が第一被覆部95を挟み込んでいる状態において、一対の第一挟持部11の間隔は、第一被覆部95の厚みの変化に追従して変化する。
【0049】
第一押さえ部111に弾性力を作用させるために、第一挟持アクチュエータ12がエアシリンダタイプのアクチュエータであることが考えられる。また、不図示のバネ機構が第一挟持アクチュエータ12に組み込まれていることも考えられる。
【0050】
電線支持部14は、第一受け部112とともに電線群90を支持する部分である。電線支持部14は、主に電線群90が一対の第一挟持部11によって挟持される前において、電線群90を支持する役割を果たす。
【0051】
ここで、各図に示される座標軸におけるX軸、Y軸及びZ軸の各々の方向について説明する。Y軸方向は、一対の第一挟持部11の間に配置される電線群90の延伸方向(長手方向)である。Z軸方向は、一対の第一挟持部11が電線群90を挟み込むために相対的に変位する方向である。本実施形態においては、Z軸方向は第一押さえ部111が変位する方向である。また、X軸方向は、Y軸方向及びZ軸方向に直交する方向である。
【0052】
本実施形態においては、平行な一対の第一支面113,114は、X軸方向及びY軸方向に沿う平面である。さらに、X軸方向及びY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。
【0053】
揺動機構13は、電線群90の第一被覆部95を挟み込んだ一対の第一挟持部11のうちの一方を他方に対して第一支面113,114に平行に往復変位させる機構である。本実施形態における揺動機構13は、第一受け部112を電線群90の延伸方向に直交する方向(X軸方向)に往復変位させる。
【0054】
揺動機構13はエアシリンダ式のアクチュエータなどによって構成される。例えば、揺動機構13は、数ミリメートルから十数ミリメートル程度の変位量で往復変位させる。その際の往復回数は、例えば、2回から4回程度であることが考えられる。
【0055】
2組の整列機構1を備える電線群整列装置10は、中間部分にスプライス部93が形成された電線群90の整列処理に用いられる。一方の整列機構1は、電線群90におけるスプライス部93の両側の第一被覆部95のうちの一方において、一対の第一挟持部11による挟持及び揺動機構13による第一受け部112の往復動作を実行する。同様に、他方の整列機構1は、電線群90におけるスプライス部93の両側の第一被覆部95のうちの他方において、一対の第一挟持部11による挟持及び揺動機構13による第一受け部112の往復動作を実行する。2組の整列機構1の処理は、スプライス部93の両側の位置において並行して行われる。
【0056】
<並列維持機構>
並列維持機構2は、電線群90の絶縁被覆92の部分における第一被覆部95よりも端部94側の領域を、整列機構1による処理の終了時の状態(並列状態)に維持する機構である。さらに、並列維持機構2は、第一被覆部95よりも端部94側の領域を、整列機構1による処理の終了時の状態に維持しつつ、電線群90を次工程の位置へ移動させる。
【0057】
図1,4に示されるように、並列維持機構2は、一対の第二挟持部21、第二挟持アクチュエータ22、横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24を備えている。さらに、一対の第二挟持部21は、相互に対向する第二押さえ部211及び第二受け部212を含む。
【0058】
一対の第二挟持部21は、それぞれ平行な一対の第二支面213,214が形成された部材である一対の第二支面213,214は、一対の第一支面113,114に平行な面である。
【0059】
後述するように、一対の第二挟持部21は、一対の第一挟持部11から電線群90の受け渡しを行う。一対の第二支面213,214は、その受け渡しが行われる時点において、一対の第一支面113,114と平行になっていればよい。
【0060】
第二挟持アクチュエータ22は、第一挟持アクチュエータ12と同様に、一対の第二挟持部21の間隔、即ち、一対の第二支面213,214の間隔を変化させる。本実施形態では、第二挟持アクチュエータ22は、第二押さえ部211を第二受け部212に対して接近及び離隔させる。
【0061】
一対の第二挟持部21は、第二挟持アクチュエータ22の作用により、電線群90の第二被覆部96を一対の第二支面213,214の間に挟み込む。さらに、一対の第二挟持部21は、第二挟持アクチュエータ22の作用により、電線群90の第二被覆部96の挟持を解除する。
【0062】
また、第一挟持アクチュエータ12と同様に、第二挟持アクチュエータ22が、弾性力によって第二押さえ部211を第二受け部212側へ押し付けることが望ましい。これにより、一対の第二挟持部21の挟持力が強すぎることによって電線群90が破損したり、一対の第二挟持部21の挟持力が弱すぎることによって電線群90が脱落したりすることが防止される。
【0063】
横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24は、一対の第二挟持部21を移動させる移動機構の一例である。横行アクチュエータ23は、揺動機構13による往復変位の方向に平行な方向(X軸方向)において、一対の第二挟持部21を移動させる。
【0064】
一方、昇降アクチュエータ24は、揺動機構13による往復変位の方向に交差する方向において、一対の第二挟持部21を移動させる。本実施形態においては、昇降アクチュエータ24は、揺動機構13による往復変位の方向に直交する方向(Z軸方向)において、一対の第二挟持部21を移動させる。
【0065】
横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24は、一対の第二挟持部21で挟持された電線群90における第二被覆部96の位置と、次工程において第二被覆部96が配置されるべき位置との間で、一対の第二挟持部21を移動させる。なお、次工程は、電線群90の止水領域900に止水部8を形成する工程である。
【0066】
より具体的には、横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24は、一対の第一挟持部11が電線群90の第一被覆部95を挟持した後に、一対の第二挟持部21を第二被覆部96の位置へ移動させる。例えば、横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24は、揺動機構13による往復変位動作が終了したときに、一対の第二挟持部21を第二被覆部96の位置へ移動させる。
【0067】
さらに、横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24は、一対の第一挟持部11から一対の第二挟持部21への電線群90の受け渡しが行われた後に、一対の第二挟持部21を移動させる。その際、横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24は、電線群90を挟持する一対の第二挟持部21を移動させることにより、電線群90を止水部形成工程の位置7へ移動させる。
【0068】
<電線スプライス部の止水方法>
次に、
図4〜17を参照しつつ、本発明の実施形態に係る電線スプライス部の止水方法について説明する。同止水方法においては、以下に示される各工程が行われる。
【0069】
<第一挟持工程>
図4に示されるように、第一挟持工程は、電線群90の第一被覆部95を、一対の第一挟持部11における平行な一対の第一支面113,114の間に挟み込む工程である。本工程は、第一挟持アクチュエータ12の作動によって行われる。また、本工程は、電線群90が第一受け部112及び電線支持部14に載置された状態において行われる。
【0070】
図4に示されるように、第一被覆部95は、一対の第一挟持部11の間に挟み込まれた初期の段階において、複数の電線9が積み重なった状態となっている場合がある。
【0071】
<揺動工程>
図5に示されるように、揺動工程は、第一被覆部95を挟み込んだ一対の第一挟持部11のうちの一方を他方に対して第一支面113,114に平行に往復変位させる工程である。本工程は、揺動機構13の作動によって行われる。
【0072】
揺動工程において、一対の第一挟持部11は、第一被覆部95を挟み込んだ状態のまま、第一支面113,114に平行に相対的に往復変位する。一対の第一挟持部11が相対的に往復変位すると、電線9が積み重なった状態が崩れる。その結果、
図6に示されるように、第一被覆部95は、全ての電線9が第一支面113,114に沿って並列に並んだ状態(並列状態)となる。
【0073】
揺動工程が有効に機能するために、一対の第一支面113,114のうちの一方が、他方よりも電線9に対する摩擦係数が大きな材料で構成されていることが望ましい。例えば、第一押さえ部111の第一支面113が滑らかな金属の表面であり、第一受け部112の第一支面114がエラストマーなどのゴム材料の部材の面であることが考えられる。
【0074】
<並列維持工程>
次に、電線群90における少なくとも被覆端部94を揺動工程の終了時の並列状態に維持する工程(並列維持工程)が行われる。
【0075】
電線群90の止水領域900に止水部8を形成する工程(止水部形成工程)が、揺動工程と同じ位置で行われる場合は、一対の第一挟持部11が、電線群90の第一被覆部95を挟持し続けていればよい。この場合、一対の第一挟持部11が電線群90の第一被覆部95を挟持し続ける工程が、並列維持工程となる。
【0076】
一方、本実施形態においては、ワイヤハーネスの製造工程を流れ作業により効率化するために、揺動工程を経た電線群90が、速やかに次工程の場所へ移動される。そうすることにより、第一挟持工程及び揺動工程と、止水部形成工程とを並行して行うことが可能となる。そこで、本実施形態における並列維持工程においては、以下に示される第二挟持工程、挟持解除工程及び移動工程が行われる。
【0077】
<第二挟持工程(並列維持工程)>
図7,8に示されるように、第二挟持工程は、揺動工程を経て一対の第一挟持部11で挟持された電線群90の第二被覆部96を、一対の第二挟持部21における一対の第二支面213,214の間に挟み込む工程である。
【0078】
本工程において、一対の第二挟持部21を第二被覆部96の位置へ移動させる工程は、横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24の作動によって行われる。また、一対の第二挟持部21が第二被覆部96を挟み込む工程は、第二挟持アクチュエータ22の作動によって行われる。
【0079】
<挟持解除工程(並列維持工程)>
挟持解除工程は、第二挟持工程の後に第一挟持部11による第一被覆部95の挟持を解除する工程である。本工程は、第一挟持アクチュエータ12の作動によって行われる。
【0080】
<移動工程(並列維持工程)>
移動工程は、挟持解除工程の後に、電線群90を挟持する一対の第二挟持部21を移動させることにより、電線群90を止水部形成工程の位置7へ移動させる工程である。本工程は、横行アクチュエータ23及び昇降アクチュエータ24の作動によって行われる。
【0081】
<止水部形成工程)>
電線群90が止水部形成工程の位置7へ移動されると、止水部形成工程が行われる。止水部形成工程は、並列維持工程によって並列状態が維持された電線群90における止水領域900を流動状の止水材81で覆い、さらに、その止水材81を硬化させる工程である。
【0082】
本実施形態においては、止水部形成工程は、シート添え工程、止水材供給工程、シート包み工程及び露光工程を含む。ここで、止水材供給工程が、シート添え工程の前に行われる場合と、及び、シート添え工程の後に行われる場合とが考えられる。以下の説明において、前者の場合のことを第一例と称し、後者の場合のことを第二例と称する。
【0083】
<シート添え工程及び止水材供給工程の第一例(止水部形成工程)>
図12に示されるように、第一例においては、まず、止水材供給工程が行われる。止水材供給工程の第一例では、光硬化樹脂を含む流動状の止水材81が、透明のシート材82上における止水領域900が配置される予定の位置に供給される。
【0084】
続いて、
図13に示されるように、シート添え工程が行われる。シート添え工程は、並列維持工程によって並列状態が維持された電線群90の止水領域900を透明のシート材82の上に沿う状態に維持する工程である。
【0085】
シート添え工程の第一例においては、スプライス部93の一部が止水材供給工程で供給されたシート材82上の止水材81中に浸かるようにして、止水領域900がシート材82上に沿わされる。
【0086】
一方、第二例においては、まず、シート添え工程が行われ、続いて、止水材供給工程が行われる。
図14に示されるように、止水材供給工程の第二例においては、光硬化樹脂を含む流動状の止水材81が、透明のシート材82上における止水領域900が配置された部分、特に、スプライス部93が配置された部分に供給される。
【0087】
止水材供給工程において、止水材81は、止水領域900における各電線9の間に行渡ることができる程度の流動性と、供給された状態をある程度維持できる粘性と、を有する流動状態である。
【0088】
止水材81としては、上記のような流動性及び粘性を有する流動状態で塗布された後に硬化可能な各種硬化型樹脂が用いられる。本実施形態においては、止水材81の硬化性樹脂として、光硬化樹脂が用いられる。光硬化樹脂の典型例は、紫外線硬化樹脂である。
【0089】
紫外線硬化樹脂は、例えば、光開始材を有するとともに、ウレタンアクリレート、シリコーンアクリレート及びエポキシアクリレートなどのアクリレートオリゴマーとアクリレートモノマーを主組成物とする合成樹脂である。短時間で止水材81を硬化させて止水部8を形成する形成する観点からは、光硬化樹脂(通常は、紫外線硬化樹脂)を用いることが好ましい。本実施形態は、止水材81として紫外線硬化樹脂が用いられる例である。
【0090】
<シート包み工程(止水部形成工程)>
シート添え工程及び止水材供給工程の後、シート包み工程が行われる。
図15,16に示されるように、シート包み工程は、電線群90の止水領域900を止水材81が供給されたシート材82で包む工程である。止水領域900がシート材82で包まれることにより、止水領域900とシート材82との隙間が流動状の止水材81で埋められる。
【0091】
図15,16に示される例では、シート材82は、二つ折りにされた後にスプライス部93及び止水材81に巻付けられている。これにより、スプライス部93及び流動状の止水材81は、シート材82によって包まれる。
【0092】
しかしながら、スプライス部93及び止水材81をシート材82で包む方法はこれに限られない。なお、スプライス部93及び止水材81をシート材82で包む方法及び装置の具体例は、例えば、特許文献2などに示されている。
【0093】
シート包み工程が行われることにより、流動状の止水材81は、止水領域900とシート材82との隙間を埋め、止水領域900の周囲を覆う。また、止水材81は、シート材82から受ける圧力により、複数の電線9の間に行き渡りやすい。
【0094】
<露光工程(止水部形成工程)>
露光工程は、シート包み工程の後に行われる。
図17に示されるように、露光工程は、電線群90の止水領域を覆う止水材81にシート材82の外側から光を照射する工程である。露光工程において、シート材82で巻かれた止水材81は、露光装置6の出力光にさらされる。
【0095】
止水材81が紫外線硬化樹脂を含む場合、露光工程において紫外線(紫外光)が照射される。なお、露光工程は、流動状の止水材81を硬化させる工程の一例である。
【0096】
<効果>
以上に示された実施形態によれば、電線群90における止水領域900に近い第一被覆部95は、一対の第一挟持部11の間に挟み込まれる。さらに、一対の第一挟持部11は、第一被覆部95を挟み込んだ状態のまま、第一支面113,114に平行に相対的に往復変位する。
【0097】
図4〜6に示されるように、一対の第一挟持部11が相対的に往復変位すると、電線9が積み重なった状態が崩れる。その結果、第一被覆部95は、全ての電線9が第一支面113,114に沿って並列に並んだ並列状態となる。
【0098】
全ての電線9が積み重ならずに並列に並んだ並列状態においては、流動状の止水材81が流入しにくいデッドゾーンが生じにくい。即ち、流動状の止水材81が全ての電線9の間の隙間へ行き渡りやすい。その結果、電線群90のスプライス部93を覆う止水部8が、流動状の合成樹脂の硬化によって得られる場合に、十分な止水性能が確保される。
【0099】
また、電線群90は、第一被覆部95を挟持する一対の第一挟持部11から、第一被覆部95よりもスプライス部93寄りの第二被覆部96を挟持する一対の第二挟持部21へ、受け渡される。さらに、電線群90は、一対の第二挟持部21で挟持されたまま、止水部形成工程の位置7へ移動される。
【0100】
従って、止水部形成工程が、第一挟持工程の位置と異なる位置で行われる場合であっても、電線群90における第二被覆部96から被覆端部94までの部分は、揺動工程の終了時の並列状態に維持される。
【0101】
従って、ある電線群90に対する止水部形成工程と、他の電線群90を並列状態に整列させる工程(第一挟持工程及び揺動工程)とを並行して行うことができる。その結果、スプライス部93を覆う止水部8を有するワイヤハーネスを効率的に製造することが可能となる。
【0102】
また、本実施形態における止水材81は、光硬化樹脂を含む流動状の合成樹脂がそれを包む透明のシート材82の外側から受光することによって硬化した部分である。光硬化樹脂が止水材81として用いられる場合、電線9が積み重なった部分において、照射された光が届かないデッドゾーンが生じやすい。従って、本実施形態がそのような対象へ適用されれば特に好適である。
【0103】
また、
図1に示される電線群整列装置は、第一挟持工程、揺動工程及び並列維持工程を、電線群90における中間部分に形成されたスプライス部93の両側の位置で並行して行うことが可能である。
【0104】
<その他>
以上に示された実施形態では、一対の第一支面113,114の各々は平面である。しかしながら、一対の第一支面113,114の各々が、比較的小さな曲率の円弧面であることも考えられる。この場合、揺動機構13は、第一受け部112を円弧面に沿って往復変位させる。
【0105】
また、止水材81用の硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂が採用されることも考えられる。その他、硬化性樹脂として、湿気硬化性シリコーンに代表される湿気硬化樹脂が採用されることもできる。
【0106】
また、処理対象が、端部にスプライス部93が形成された電線群である場合、電線群整列装置10における2組の整列機構1及び2組の並列維持機構2のうち、1組の整列機構1及び1組の並列維持機構2が省略されてもよい。
【0107】
電線群整列装置10における並列維持機構2は、
図1に示される機構の他、いわゆる産業用ロボットのアーム機構などの他の機構によって実現されてもよい。
【0108】
なお、本発明に係る電線スプライス部の止水方法及び電線群整列装置は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。