(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
乗用車を始め、自動二輪車や農機などのエンジンにおいては、ピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すためにクランク軸を必要とする。クランク軸は、鍛造によって製造されるものと、鋳造によって製造されるものとに大別されるが、強度と剛性に優位な前者の鍛造クランク軸が多用されている。近年では、燃費性能の向上と排ガス規制への対応のため、エンジン排気量のダウンサイジング化が加速しており、3気筒エンジンが脚光を浴びている。
【0003】
一般に、3気筒エンジン用の鍛造クランク軸は、断面が丸形または角形で全長にわたって断面積が一定のビレットを原材料とし、予備成形、型鍛造、バリ抜きおよび整形の各工程を順に経て製造される。予備成形工程は、ロール成形と曲げ打ち(通称「平押し」ともいう)の各工程を含み、型鍛造工程は、荒打ちと仕上打ちの各工程を含む。
【0004】
図1は、従来の一般的な3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。同図に例示するクランク軸1は、3気筒エンジンに搭載されるものであり、4つのジャーナル部J1〜J4、3つのピン部P1〜P3、フロント部Fr、フランジ部Fl、およびジャーナル部J1〜J4とピン部P1〜P3をそれぞれつなぐ6枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A6から構成され、6枚のアーム部A1〜A6のうち、両端の第1、第3ピン部P1、P3につながる第1、第2アーム部A1、A2、および第5、第6アーム部A5、A6にバランスウエイトを有する3気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸である。以下、ジャーナル部J1〜J4、ピン部P1〜P3、およびアーム部A1〜A6それぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」と記す。
【0005】
図1に示す製造方法では、以下のようにして鍛造クランク軸1が製造される。先ず、予め所定の長さに切断した
図1(a)に示すビレット2を誘導加熱炉やガス雰囲気加熱炉によって加熱した後、ロール成形を行う。ロール成形工程では、例えば孔型ロールによりビレット2を圧延して絞りつつその体積を長手方向に配分し、中間素材となるロール荒地103を成形する(
図1(b)参照)。次に、曲げ打ち工程では、ロール成形によって得られたロール荒地103を長手方向と直角な方向から部分的にプレス圧下してその体積を配分し、さらなる中間素材となる曲げ荒地104を成形する(
図1(c)参照)。
【0006】
続いて、荒打ち工程では、曲げ打ちによって得られた曲げ荒地104を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、クランク軸(最終鍛造製品)のおおよその形状が造形された鍛造材105を成形する(
図1(d)参照)。さらに、仕上打ち工程では、荒打ちによって得られた荒鍛造材105が供され、荒鍛造材105を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、クランク軸と合致する形状が造形された鍛造材106を成形する(
図1(e)参照)。これら荒打ちおよび仕上打ちのとき、互いに対向する金型の型割面の間から、余材がバリとして流出する。このため、荒鍛造材105、仕上鍛造材106は、造形されたクランク軸の周囲にそれぞれバリ105a、106aが大きく付いている。
【0007】
バリ抜き工程では、仕上打ちによって得られたバリ106a付きの仕上鍛造材106を上下から金型で保持しつつ、刃物型によってバリ106aを打ち抜き除去する。これにより、
図1(f)に示すように、鍛造クランク軸1が得られる。整形工程では、バリを除去した鍛造クランク軸1の要所、例えば、ジャーナル部J、ピン部P、フロント部Fr、フランジ部Flなどといった軸部、場合によってはアーム部Aを上下から金型で僅かにプレスし、所望の寸法形状に矯正する。こうして、鍛造クランク軸1が製造される。
【0008】
図1に示す製造工程は、例示する3気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸に限らず、6枚のアーム部Aの全てにバランスウエイトを有する3気筒−6枚カウンターウエイトのクランク軸であっても、同様である。なお、ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後に、捩り工程が追加される。
【0009】
ところで、このような製造方法では、製品とはならない不要なバリが大量に発生することから、歩留りの低下は否めない。このため、鍛造クランク軸を製造する上では、従来から、バリの発生を極力抑え、歩留りの向上を実現することが至上の課題となっている。この課題に対応する従来の技術としては下記のものがある。
【0010】
例えば、特許文献1には、クランク軸のジャーナル部とピン部に相当する部分が個々にくびれた段付きの丸棒を素材とし、ピン部相当部分を間に挟む一対のジャーナル部相当部分をそれぞれダイスで把持し、この状態から、両ダイスを軸方向に接近させて丸棒素材に圧縮変形を与えるとともに、ピン部相当部分に軸方向と直角な方向にポンチを押し付けてピン部相当部分を偏芯させ、これをすべてのクランクスローにわたって順次繰り返すことにより、ジャーナル部およびピン部が造形され、アーム部もそれなりに造形されたクランク軸を製造する技術が開示されている。
【0011】
また、特許文献2には、単なる丸棒を素材とし、この丸棒素材の両端部のうちの一方を固定型で、その他方を可動型でそれぞれ保持するとともに、丸棒素材のジャーナル部相当部分をジャーナル型で、ピン部相当部分をピン型でそれぞれ保持し、この状態から、可動型、ジャーナル型およびピン型を固定型に向けて軸方向に移動させて丸棒素材に圧縮変形を与えると同時に、ピン型を軸方向と直角な偏芯方向に移動させてピン部相当部分を偏芯させることにより、ジャーナル部およびピン部が造形され、アーム部もそれなりに造形されたクランク軸を製造する技術が開示されている。
【0012】
特許文献1、2に開示される技術では、いずれもバリが発生しないことから、歩留りの著しい向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、3気筒エンジン用の鍛造クランク軸を製造するに際し、その製造過程で仕上打ちを行うことを前提としており、本発明の成形装置は、仕上打ちの前工程で、その仕上打ちに供する仕上打ち用素材を粗素材から成形するために用いられる。以下に、本発明の3気筒エンジン用鍛造クランク軸の仕上打ち用素材の成形装置、およびこれを用いた予備成形工程を含む3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造方法について、その実施形態を詳述する。
【0024】
1.第1実施形態
1−1.被成形対象の粗素材、成形された仕上打ち用素材、および仕上打ち後の仕上材
図2は、本発明の第1実施形態の製造方法において、成形装置で被成形対象とする粗素材、成形された仕上打ち用素材、および仕上打ち後の仕上材の各形状を模式的に示す図である。同図では、3気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の状況を例示しており、各段階の形状の理解を容易にするため、外観を示す平面図と、軸方向に沿って見たときのピン部の配置図を並べて表示している。
【0025】
同図に示すように、第1実施形態の粗素材4は、
図1(f)に示す3気筒−4枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸1の形状に依拠しつつも全体として粗いクランク軸形状であり、4つの粗ジャーナル部J1a〜J4a、3つの粗ピン部P1a〜P3a、粗フロント部Fra、粗フランジ部Fla、および粗ジャーナル部J1a〜J4aと粗ピン部P1a〜P3aをそれぞれつなぐ6枚の粗クランクアーム部(以下、単に「粗アーム部」ともいう)A1a〜A6aから構成される。粗素材4にはバリはついていない。以下、粗素材4の粗ジャーナル部J1a〜J4a、粗ピン部P1a〜P3a、および粗アーム部A1a〜A6aそれぞれを総称するとき、その符号は、粗ジャーナル部で「Ja」、粗ピン部で「Pa」、粗アーム部で「Aa」と記す。
【0026】
第1実施形態の仕上打ち用素材5は、上記の粗素材4から、詳細は後述する成形装置によって成形されるものであり、4つの粗ジャーナル部J1b〜J4b、3つの粗ピン部P1b〜P3b、粗フロント部Frb、粗フランジ部Flb、および粗ジャーナル部J1b〜J4bと粗ピン部P1b〜P3bをそれぞれつなぐ6枚の粗クランクアーム部(以下、単に「粗アーム部」ともいう)A1b〜A6bから構成される。仕上打ち用素材5にはバリはついていない。以下、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部J1b〜J4b、粗ピン部P1b〜P3b、および粗アーム部A1b〜A6bそれぞれを総称するとき、その符号は、粗ジャーナル部で「Jb」、粗ピン部で「Pb」、粗アーム部で「Ab」と記す。
【0027】
第1実施形態の仕上材6は、上記の仕上打ち用素材5を仕上打ちして得られるものであり、4つのジャーナル部J1c〜J4c、3つのピン部P1c〜P3c、フロント部Frc、フランジ部Flc、およびジャーナル部J1c〜J4cとピン部P1c〜P3cをそれぞれつなぐ6枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1c〜A6cから構成される。以下、仕上材6のジャーナル部J1c〜J4c、ピン部P1c〜P3c、およびアーム部A1c〜A6cそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「Jc」、ピン部で「Pc」、アーム部で「Ac」と記す。
【0028】
仕上材6の形状は、ピン部Pcの配置角度を含めクランク軸(最終鍛造製品)の形状と一致し、
図1(f)に示す鍛造クランク軸1に相当する。すなわち、仕上材6のジャーナル部Jcは、最終形状の鍛造クランク軸のジャーナル部Jと軸方向の長さが同じである。仕上材6のピン部Pcは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pと軸方向の長さが同じである。さらに、仕上材6のピン部Pcは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pに対し、軸方向と直角な方向の偏芯量が同じで、配置角度も同じ120°であり、正規の位置に配置されている。仕上材6のアーム部Acは、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部Aと軸方向の厚みが同じである。
【0029】
仕上打ち用素材5の形状は、仕上材6の形状と概ね一致し、丁度、
図1(d)に示す荒鍛造材105のバリ105aを除いた部分に相当する。すなわち、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jbは、最終形状の鍛造クランク軸のジャーナル部J(仕上材6のジャーナル部Jc)と軸方向の長さが同じである。仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部P(仕上材6のピン部Pc)と軸方向の長さが同じである。さらに、仕上打ち用素材5のピン部Pbは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pに対し、軸方向と直角な方向の偏芯量が同じで、配置角度も同じ120°であり、正規の位置に配置されている。仕上打ち用素材5の粗アーム部Abは、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部A(仕上材6のアーム部Ac)と軸方向の厚みが同じである。
【0030】
これに対し、粗素材4の粗ジャーナル部Jaは、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jb、すなわち鍛造クランク軸のジャーナル部J(仕上材6のジャーナル部Jc)と軸方向の長さが同じである。粗素材4の粗ピン部Paは、仕上打ち用素材5の粗ピン部Pb、すなわち鍛造クランク軸のピン部P(仕上材6のピン部Pc)と軸方向の長さが同じであるが、偏芯量が仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbよりも小さい。具体的には、粗素材4の粗ピン部Paのうち、両端の第1、第3粗ピン部P1a、P3aの偏芯量は、互いに反対方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の√3/2と同じにされている。一方、中央の第2粗ピン部P2aの偏芯量は、第1、第3粗ピン部P1a、P3aの偏芯方向と直交する方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の1/2程度とされている。
【0031】
粗素材4の粗アーム部Aaは、仕上打ち用素材5の粗アーム部Ab、すなわち鍛造クランク軸のアーム部A(仕上材6のアーム部Ac)よりも軸方向の厚みが厚い。要するに、粗素材4は、仕上打ち用素材5(最終形状の鍛造クランク軸および仕上材6)と比較して、粗アーム部Aaの厚みが厚い分だけ全長が長くて、粗ピン部Paの偏芯量が小さく、比較的緩やかなクランク軸形状となっている。
【0032】
もっとも、厳密に言えば、仕上打ち用素材5は、最終形状の鍛造クランク軸および仕上材6に対し、粗アーム部Abの厚みが僅かに薄くされ、その分だけ粗ジャーナル部Jbおよび粗ピン部Pbの軸方向長さが僅かに大きくされている。仕上打ちの際に仕上打ち用素材5を金型内に収容し易くし、かじり疵の発生を防止するためである。これに応じて、粗素材4も、最終形状の鍛造クランク軸および仕上材6に対し、粗ジャーナル部J’および粗ピン部P’の軸方向長さが僅かに大きくされている。
【0033】
1−2.3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程
図3は、本発明の第1実施形態における3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程を示す模式図である。同図に示すように、第1実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、第1予備成形、第2予備成形、仕上打ちの各工程を含み、必要に応じて、バリ抜き、整形の各工程を含む。
【0034】
第1予備成形工程は、上記の粗素材4を造形する工程である。第1予備成形工程では、断面が丸形の丸ビレットを原材料とし、この丸ビレットを誘導加熱炉やガス雰囲気加熱炉によって加熱した後に予備成形加工を施すことにより、粗素材4を造形することができる。例えば、孔型ロールにより丸ビレットを絞り圧延してその体積を長手方向に配分するロール成形を行い、これによって得られたロール荒地を長手方向と直角な方向から部分的にプレス圧下してその体積を配分する曲げ打ちを繰り返し行えば、粗素材4を造形することが可能である。そのほかに、前記特許文献1、2に開示される技術を用いても、粗素材4の造形は可能である。また、クロスロールや閉塞鍛造を採用してもよい。
【0035】
第2予備成形工程は、上記の仕上げ打ち用素材5を成形する工程である。第2予備成形工程では、下記の
図4に示す成形装置を用いることにより、上記の粗素材4から、ピン部の配置角度を含め鍛造クランク軸の最終形状が造形された仕上げ打ち用素材5を成形することができる。
【0036】
仕上打ち工程は、上記の仕上材6を得る工程である。仕上打ち工程では、上記の仕上打ち用素材5が供され、上下に一対の金型を用いてプレス鍛造することにより、ピン部の配置角度を含め鍛造クランク軸の最終形状が造形された、クランク軸と合致する形状の仕上材6を得ることができる。
【0037】
1−3.仕上打ち用素材の成形装置
図4は、本発明の第1実施形態における成形装置の構成を示す縦断面図である。同図には、3気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の成形装置、すなわち前記
図2に示す粗素材4から仕上打ち用素材5を成形する成形装置を例示している。なお、同図に示す縦断面の中で、第1、第3粗ピン部の部分は、実際には、いずれか一方が紙面の手前に位置し他方が奥に位置しているが、便宜上、同一面上に図示している。
【0038】
図4に示すように、成形装置は、プレス機を利用したものであり、基礎となる固定の下側ハードプレート20と、プレス機のラムの駆動に伴って下降する上側ハードプレート21を有する。下側ハードプレート20の真上には、弾性部材24を介して下側金型支持台22が弾性的に支持されており、この下側金型支持台22は、上下方向に移動が許容されている。弾性部材24としては、皿ばねやコイルばねや空気ばねなどを適用することができ、そのほかにも油圧ばねシステムを適用することができる。上側ハードプレート21の真下には、支柱25を介して上側金型支持台23が固定されており、この上側金型支持台23は、プレス機(ラム)の駆動により上側ハードプレート21と一体で下降する。
【0039】
図4に示す成形装置では、粗素材4を、第1、第3粗ピン部P1a、P3aを水平に配置し、第2粗ピン部P2aを鉛直方向の下向きに配置した姿勢で金型内に収容し、仕上打ち用素材に成形する。このため、下側金型支持台22と上側金型支持台23には、粗素材4の軸方向に沿って分割され、それぞれ上下で対を成すジャーナル型10U、10B、並びに基準ピン型11および補助ピン型13、並びに可動ピン型12および補助ピン型13が取り付けられている。
【0040】
上下で対を成す基準ピン型11と補助ピン型13は、粗素材4における粗ピン部Paのうちの基準となる1つの粗ピン部Paの位置、例えば
図4では、中央の第2粗ピン部P2aの位置に配置され、上下のそれぞれが上側金型支持台23、下側金型支持台22に取り付けられている。第1実施形態の基準ピン型11は、基準となる1つの粗ピン部Paの正規の位置となる側とは反対側に配置されるものであり、他方の補助ピン型13は、その粗ピン部Paの正規の位置となる側の外側に配置されるものである。例えば、第2粗ピン部P2aの位置では、第2粗ピン部P2aの配置が下側であってその正規の位置も下側であることから、基準ピン型11が上側金型支持台23に取り付けられるとともに、これと対を成す補助ピン型13が下側金型支持台22に取り付けられる。
【0041】
特に、基準ピン型11と補助ピン型13は、上下のいずれも、上側金型支持台23、下側金型支持台22に対し、軸方向への移動が拘束されている。基準ピン型11に限っては、軸方向とは直角な方向であって、粗ピン部Paの正規の位置に向く方向(
図4では下向きの方向)に移動が許容されている。
【0042】
基準ピン型11、補助ピン型13には、それぞれ、半円筒状の彫り込み部11a、13aが形成されている。彫り込み部11a、13aの長さは、仕上打ち用素材5における第2粗ピン部P2bの軸方向の長さと同じである。
【0043】
基準ピン型11は、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、彫り込み部11aが第2粗ピン部P2aに宛がわれ、基準ピン型11の両側面が、第2粗ピン部P2aにつながる第3、第4粗アーム部A3a、A4aにおける第2粗ピン部P2a側の側面に接触した状態にされる。
【0044】
上下で対を成す可動ピン型12と補助ピン型13は、基準ピン型11が宛がわれる粗ピン部Pa以外の粗ピン部Paそれぞれの位置、例えば
図4では、第1、第3粗ピン部P1a、P3aそれぞれの位置に配置され、上下のそれぞれが上側金型支持台23、下側金型支持台22に取り付けられている。第1実施形態の可動ピン型12は、粗ピン部Paの正規の位置となる側とは反対側に配置されるものであり、他方の補助ピン型13は、その粗ピン部Paの正規の位置となる側の外側に配置されるものである。例えば、第1粗ピン部P1aの位置では、第1粗ピン部P1aの正規の位置が上側であることから、可動ピン型12が下側金型支持台22に取り付けられるとともに、これと対を成す補助ピン型13が上側金型支持台23に取り付けられる。
【0045】
特に、可動ピン型12と補助ピン型13は、上下のいずれも、下側金型支持台22、上側金型支持台23に対し、基準ピン型11に向けての軸方向に移動が許容されている。可動ピン型12に限っては、軸方向とは直角な方向であって、粗ピン部Paの正規の位置に向く方向(
図4では上向きの方向)に移動が許容されている。
【0046】
可動ピン型12、補助ピン型13には、それぞれ、半円筒状の彫り込み部12a、13aが形成されている。彫り込み部12a、13aの長さは、仕上打ち用素材5における各粗ピン部Pbの軸方向の長さと同じである。
【0047】
ジャーナル型10U、10Bは、粗素材4における粗ジャーナル部Jaの位置に配置され、上下のそれぞれが上側金型支持台23、下側金型支持台22に取り付けられている。特に、ジャーナル型10U、10Bは、上下のいずれも、上側金型支持台23、下側金型支持台22に対し、基準ピン型11に向けての軸方向に移動が許容されている。
【0048】
ジャーナル型10U、10Bには、それぞれ、半円筒状の第1彫り込み部10Ua、10Baと、この第1彫り込み部10Ua、10Baの前後(
図4では左右)に隣接して第2彫り込み部10Ub、10Bbが形成されている。第1彫り込み部10Ua、10Baの長さは、仕上打ち用素材5における粗ジャーナル部Jbの軸方向の長さと同じである。第2彫り込み部10Ub、10Bbの長さは、仕上打ち用素材5におけるその粗ジャーナル部Jbにつながる粗アーム部Abの軸方向の厚みと同じである。
【0049】
ジャーナル型10U、10Bは、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、第1彫り込み部10Ua、10Baで各粗ジャーナル部Jaを個々に上下から挟み込んで保持する。これと同時に、ジャーナル型10U、10Bは、第2彫り込み部10Ub、10Bbの第1彫り込み部10Ua、10Ba側の面が、各粗ジャーナル部Jaにつながる粗アーム部Aaにおける各粗ジャーナル部Ja側の側面に接触した状態にされる。
【0050】
その際、基準ピン型11、可動ピン型12は、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、彫り込み部11a、12aが各粗ピン部Paに宛がわれ、基準ピン型11、可動ピン型12の両側面が、各粗ピン部Paにつながる粗アーム部Aaにおける各粗ピン部Pa側の側面に接触した状態にされる。
【0051】
ここで、両端の第1、第4粗ジャーナル部J1a、J4aの位置に配置されたジャーナル型10U、10Bの端面は、傾斜面14U、14Bとなっている。これに対し、下側ハードプレート20上には、それらの第1、第4粗ジャーナル部J1a、J4aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面14U、14Bの位置に対応して、個々に、第1楔26が立設されており、各第1楔26は、下側金型支持台22を貫通して上方に突き出している。第1、第4粗ジャーナル部J1a、J4aのジャーナル型10U、10Bのうち、下側のジャーナル型10Bの傾斜面14Bは、初期状態で第1楔26の斜面に接触している。一方、上側のジャーナル型10Uの傾斜面14Uは、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、第1楔26の斜面に接触した状態にされる。
【0052】
また、中央寄りの第2、第3粗ジャーナル部J2a、J3aの位置に配置されたジャーナル型10U、10Bには、第1彫り込み部11Ua、11Baおよび第2彫り込み部11Ub、11Bbから外れた側部(
図4では紙面の手前と奥)に、傾斜面15U、15Bを有する図示しないブロックが固定されている。これに対し、下側ハードプレート20上には、それらの第2、第3粗ジャーナル部J2a、J3aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面15U、15Bの位置に対応して、個々に、第2楔27が立設されており、各第2楔27は、下側金型支持台22を貫通して上方に突き出している。第2、第3粗ジャーナル部J2a、J3aのジャーナル型10U、10Bのうち、下側のジャーナル型10Bの傾斜面15Bは、初期状態で第2楔27の斜面に接触している。一方、上側のジャーナル型10Uの傾斜面15Uは、プレス機の駆動に伴う上側金型支持台23の下降、すなわちプレス機の圧下により、第2楔27の斜面に接触した状態にされる。
【0053】
そして、プレス機の圧下の継続に伴って、上側のジャーナル型10Uが下側のジャーナル型10Bと一体で押し下げられる。これにより、第1、第4粗ジャーナル部J1a、J4aの可動ジャーナル型10U、10Bは、上下のいずれも、その傾斜面14U、14Bが第1楔26の斜面に沿って摺動することから、基準となる第2粗ピン部P2aの基準ピン型11に向けて軸方向に移動するようになる。これと同時に、第2、第3粗ジャーナル部J2a、J3aのジャーナル型10U、10Bは、上下のいずれも、その傾斜面15U、15Bが第2楔27の斜面に沿って摺動することから、基準となる第2粗ピン部P2aの基準ピン型11に向けて軸方向に移動するようになる。要するに、ジャーナル型10U、10Bは、個々に楔機構により軸方向に移動することができる。
【0054】
また、可動ピン型12と補助ピン型13は、プレス機の圧下の継続に伴って一体で押し下げられる。これにより、可動ピン型12と補助ピン型13は、上記したようにジャーナル型10U、10Bが軸方向に移動するのに連れて、基準となる第2粗ピン部P2aの基準ピン型11に向けて軸方向に移動する。また、基準ピン型11および可動ピン型12の軸方向と直角な方向への移動は、各ピン型11、12に連結された油圧シリンダ16の駆動により行われる。
【0055】
なお、可動ピン型12と補助ピン型13の軸方向への移動は、ジャーナル型10U、10Bと同様の楔機構や、油圧シリンダや、サーボモータなどの別途の機構を用いて、強制的に行ってもよい。補助ピン型13は、隣接する一対のジャーナル型10U、10Bのうちの一方と一体化されていても構わない。
【0056】
図4に示す初期状態では、ジャーナル型10U、10B、並びに可動ピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動を許容するために、個々に軸方向に連なるジャーナル型10U、10Bと、基準ピン型11、可動ピン型12および補助ピン型13との間に、隙間が確保されている。これらの各隙間の寸法は、仕上打ち用素材5における粗アーム部Abの厚みと粗素材4における粗アーム部Aaの厚みの差である。
【0057】
次に、このような構成の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法について説明する。
図5および
図6は、
図4に示す本発明の第1実施形態の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法を説明するための縦断面図であり、
図5は成形初期の状態を、
図6は成形完了時の状態をそれぞれ示す。
【0058】
前記
図4に示す下側のジャーナル型10B、可動ピン型12および補助ピン型13に粗素材4を収容し、プレス機の圧下を開始する。すると、先ず、
図5に示すように、上側のジャーナル型10Uが、それぞれ、下側のジャーナル型10Bに当接する。
【0059】
これにより、粗素材4は、各粗ジャーナル部Jaがジャーナル型10U、10Bによって上下から保持され、各粗ピン部Paに基準ピン型11および可動ピン型12が宛がわれた状態になる。この状態のとき、粗素材4の各粗アーム部Aaにおける粗ジャーナル部Ja側の側面には、ジャーナル型10U、10Bが接触し、各粗アーム部Aaにおける粗ピン部Pa側の側面には、基準ピン型11および可動ピン型12が接触している。また、この状態のとき、第1、第4粗ジャーナル部J1a、J4aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面14U、14Bが第1楔26の斜面に接触し、第2、第3粗ジャーナル部J2a、J3aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面15U、15Bが第2楔27の斜面に接触している。
【0060】
この状態から、そのままプレス機の圧下を継続する。すると、第1、第4粗ジャーナル部J1a、J4aのジャーナル型10U、10Bは、各々の傾斜面14U、14Bが第1楔26の斜面に沿って摺動し、この楔機構により、第2粗ピン部P2aの基準ピン型11に向けて軸方向に移動する。これと同時に、第2、第3粗ジャーナル部J2a、J3aのジャーナル型10U、10Bは、各々の傾斜面15U、15Bが第2楔27の斜面に沿って摺動し、この楔機構により、第2粗ピン部P2aの基準ピン型11に向けて軸方向に移動する。このようにジャーナル型10U、10Bが個々に楔機構により軸方向に移動するのに伴って、可動ピン型12と補助ピン型13も、基準ピン型11に向けて軸方向に移動する。
【0061】
これにより、ジャーナル型10U、10Bと、基準ピン型11、可動ピン型12および補助ピン型13との隙間が次第に狭まり、終にはそれらの各隙間がなくなる。その際、粗素材4は、ジャーナル型10U、10B、基準ピン型11および可動ピン型12により、粗ジャーナル部Jaおよび粗ピン部Paの軸方向の長さが維持されながら、粗アーム部Aaが軸方向に挟圧され、粗アーム部Aaの厚みが仕上打ち用素材5の粗アーム部Abの厚みまで減少させられる(
図6参照)。
【0062】
また、ジャーナル型10U、10B、並びに可動ピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動に応じ、基準ピン型11および可動ピン型12それぞれの油圧シリンダ16を駆動する。すると、各ピン型11、12は、個々に、粗素材4の粗ピン部Paを軸方向と直角な方向に押圧する。これにより、粗素材4の粗ピン部Paは、軸方向と直角な鉛直方向にずれるため、その偏芯量が仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbの偏芯量まで増加させられ、いずれの粗ピン部Pbも正規の位置に配置された状態となる(
図2、
図6参照)。
【0063】
このようにして、バリのない粗素材4から、アーム部Aの厚みが薄い3気筒エンジン用鍛造クランク軸(最終鍛造製品)の形状と概ね一致した形状で、バリのない仕上打ち用素材5を成形することができる。そして、このようなバリなしの仕上打ち用素材5を仕上打ちに供して仕上打ちを行えば、多少のバリは発生するが、アーム部の輪郭形状およびピン部の配置角度を含めて3気筒エンジン用鍛造クランク軸の最終形状を造形することができる。したがって、3気筒エンジン用の鍛造クランク軸を歩留り良く、しかも、その形状を問わずに高い寸法精度で製造することが可能になる。もっとも、粗素材の段階でアーム部にバランスウエイトに相当する部分を造形しておけば、バランスウエイトを有する鍛造クランク軸の製造も可能である。
【0064】
前記
図4、
図5および
図6に示す成形装置では、第1粗ジャーナル部J1aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面14U、14Bおよびこれと接触する第1楔26の斜面と、第4粗ジャーナル部J4aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面14U、14Bおよびこれと接触する第1楔26の斜面とは、傾斜角度が鉛直面を基準に正反対とされている。また、第2粗ジャーナル部J2aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面15U、15Bおよびこれと接触する第2楔27の斜面と、第3粗ジャーナル部J3aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面15U、15Bおよびこれと接触する第2楔27の斜面とは、傾斜角度が鉛直面を基準に正反対とされている。さらに、第1楔26の斜面の角度(第1、第4粗ジャーナル部J1a、J4aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面14U、14Bの角度)は、第2楔27の斜面の角度(第2、第3粗ジャーナル部J2a、J3aのジャーナル型10U、10Bの傾斜面15U、15Bの角度)よりも大きくされている。このように、各ジャーナル型10U、10Bを軸方向に移動させる楔機構の楔角度をジャーナル型10U、10Bごとに異ならせている理由は、粗アーム部Aaを軸方向に挟圧して厚みを減少させる変形速度をすべての粗アーム部Aaで一定にするためである。
【0065】
前記
図4、
図5および
図6に示す成形装置で用いる粗素材4は、粗ジャーナル部Jaの断面積が、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jb、すなわち鍛造クランク軸のジャーナル部Jの断面積と同じであるか、それよりも大きい。同様に、粗素材4の粗ピン部Paの断面積は、仕上打ち用素材5の粗ピン部Pb、すなわち鍛造クランク軸のピン部Pの断面積と同じであるか、それよりも大きい。粗素材4の粗ジャーナル部Jaの断面積が仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jbの断面積よりも大きく、粗素材4の粗ピン部Paの断面積が仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbの断面積よりも大きい場合であっても、ジャーナル型10U、10Bによる粗ジャーナル部Jaの挟み込み保持、およびこれに続くジャーナル型10U、10Bの軸方向への移動に伴い、粗ジャーナル部Jaの断面積を仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jbの断面積まで減少させことができ、基準ピン型11の軸方向と直角な方向への移動に加え、可動ピン型12の軸方向への移動およびこれと直角な方向への移動に伴い、粗ピン部Paの断面積を仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbの断面積まで減少させることができる。
【0066】
以上説明した仕上打ち用素材の成形で留意すべき点として、局部的な噛み出しの発生がある。以下に、噛み出しの発生原理とその対応策について説明する。
【0067】
図7は、本発明の成形装置による仕上打ち用素材の成形で噛み出しが発生する状況を説明するための図であり、
図8は、その対応策を施した場合の状況を説明するための図である。
図7および
図8中、(a)は成形初期の状態を、(b)は成形途中の状態を、(c)は成形完了時の状態を、(d)は成形完了後に成形装置から取り出した仕上打ち用素材をそれぞれ示す。
【0068】
図7(a)に示すように、成形が開始されると、ジャーナル型10U、10Bが軸方向へ移動するとともに、可動ピン型12および補助ピン型13が軸方向およびこれ直角な方向へ移動する。その後、
図7(b)に示すように、ジャーナル型10U、10B、並びに可動ピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動が完了する前に、すなわち、ジャーナル型10U、10Bと、基準ピン型11、可動ピン型12および補助ピン型13との隙間が閉ざされる前に、軸方向と直角な方向に押圧変形する粗ピン部Paが補助ピン型13に到達すると、この補助ピン型13とジャーナル型10U、10Bとの隙間に、粗ピン部Paの肉が流入してしまう。この流入した肉は、成形の進行に伴って薄く延ばされていくものの、
図7(c)に示すように、成形完了時にも残存する。こうして、
図7(d)に示すように、仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbの外側には、隣接する粗アーム部Aaとの境界に局所的な噛み出し部5aが現れる。
【0069】
噛み出し部5aは、次工程の仕上打ちで製品に打ち込まれてかぶり疵となる。したがって、製品品質を確保する観点から、噛み出しの発生を防止する必要がある。
【0070】
噛み出しの発生を防止する対応策としては、ジャーナル型10U、10Bと、基準ピン型11、可動ピン型12および補助ピン型13との隙間が閉ざされた後に、押圧変形する粗ピン部Paが補助ピン型13に到達するように、基準ピン型11および可動ピン型12の軸方向と直角な方向への移動を制御すればよい。具体的には、ジャーナル型10U、10B、並びに可動ピン型12およびこの可動ピン型12と対を成す補助ピン型13の軸方向への移動が完了した後に、基準ピン型11および可動ピン型12の軸方向と直角な方向への移動を完了させればよい。例えば、基準ピン型11および可動ピン型12の軸方向と直角な方向への総移動距離を100%としたとき、そのピン型11、12に隣接するジャーナル型10U、10Bの軸方向への移動が完了した時点で、ピン型11、12の軸方向と直角な方向への移動距離が総移動距離の90%以下(より好適には83%以下、さらに好適には60%以下)であり、この後にピン型11、12のその方向への移動が完了することが好ましい。
【0071】
すなわち、
図8(a)に示すように、成形を開始し、その後、
図8(b)に示すように、基準ピン型11および可動ピン型12の軸方向と直角な方向への移動距離が総移動距離の90%に達するまでに、ジャーナル型10U、10B、並びに可動ピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動を完了させる。そうすると、この時点では、ジャーナル型10U、10Bと、基準ピン型11、可動ピン型12および補助ピン型13との隙間が閉ざされているものの、押圧変形する粗ピン部Paが補助ピン型13に到達していない。そして、ピン型11、12の軸方向と直角な方向への移動に伴って粗ピン部Paが補助ピン型13に到達し、その移動が完了すると、
図8(c)に示すように、成形が完了する。このため、補助ピン型13とジャーナル型10U、10Bとの隙間に、粗ピン部Paの肉が流入する事態は起こらない。こうして、
図8(d)に示すように、噛み出しのない高品位の仕上打ち用素材5を得ることができる。
【0072】
ジャーナル型の軸方向への移動が完了するまでのピン型の軸方向と直角な方向への移動過程は、任意に変更することが可能である。例えば、ピン型の軸方向と直角な方向への移動は、ジャーナル型の軸方向への移動開始と同時に開始してもよいし、それよりも前に開始してもよく、逆にジャーナル型の軸方向への移動がある程度進行してから開始してもよい。また、ピン型の軸方向と直角な方向への移動は、開始後、一定量移動した位置で一旦停止させ、ジャーナル型の軸方向への移動が完了した後に再開してもよい。
【0073】
2.第2実施形態
第2実施形態は、上記の第1実施形態の構成を基本とし、3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造過程に捩り成形工程を付加するとともに、これに関連する構成を変形したものである。
【0074】
2−1.被成形対象の粗素材、成形された仕上打ち用素材、仕上打ち後の仕上材、および捩り成形後の捩り仕上材
図9は、本発明の第2実施形態の製造方法において、成形装置で被成形対象とする粗素材、成形された仕上打ち用素材、仕上打ち後の仕上材、および捩り成形後の捩り仕上材の各形状を模式的に示す図である。同図では、3気筒−6枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の状況を例示しており、前記
図2と同様に、外観を示す平面図と、軸方向に沿って見たときのピン部の配置図を並べて表示している。なお、第1実施形態と重複する事項は適宜省略する。後述する第3、第4実施形態でも同様とする。
【0075】
図9に示すように、第2実施形態の粗素材4は、3気筒−6枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸1の形状に依拠しつつも全体として粗いクランク軸形状であり、4つの粗ジャーナル部Ja、3つの粗ピン部Pa、粗フロント部Fra、粗フランジ部Fla、および6枚の粗アーム部Aaから構成される。第2実施形態の仕上打ち用素材5は、上記の粗素材4から、詳細は後述する成形装置によって成形されるものであり、4つの粗ジャーナル部Jb、3つの粗ピン部Pb、粗フロント部Frb、粗フランジ部Flb、および6枚の粗アーム部Abから構成される。第2実施形態の仕上材6は、上記の仕上打ち用素材5を仕上打ちして得られるものであり、4つのジャーナル部Jc、3つのピン部Pc、フロント部Frc、フランジ部Flc、および6枚のアーム部Acから構成される。
【0076】
第2実施形態の捩り仕上材7は、上記の仕上材6を捩り成形して得られるものであり、4つのジャーナル部J1d〜J4d、3つのピン部P1d〜P3d、フロント部Frd、フランジ部Fld、およびジャーナル部J1d〜J4dとピン部P1d〜P3dをそれぞれつなぐ6枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1d〜A6dから構成される。以下、捩り仕上材7のジャーナル部J1d〜J4d、ピン部P1d〜P3d、およびアーム部A1d〜A6dそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「Jd」、ピン部で「Pd」、アーム部で「Ad」と記す。
【0077】
捩り仕上材7の形状は、ピン部Pdの配置角度を含めクランク軸(最終鍛造製品)の形状と一致する。すなわち、捩り仕上材7のジャーナル部Jdは、最終形状の鍛造クランク軸のジャーナル部Jと軸方向の長さが同じである。捩り仕上材7のピン部Pdは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pと軸方向の長さが同じである。さらに、捩り仕上材7のピン部Pdは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pに対し、軸方向と直角な方向の偏芯量が同じで、配置角度も同じ120°であり、正規の位置に配置されている。捩り仕上材7のアーム部Adは、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部Aと軸方向の厚みが同じである。
【0078】
仕上材6の形状は、ピン部Pcの配置角度を除きクランク軸(最終鍛造製品)の形状と一致する。すなわち、仕上材6のジャーナル部Jcは、最終形状の鍛造クランク軸のジャーナル部Jと軸方向の長さが同じである。仕上材6のピン部Pcは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pと軸方向の長さが同じであり、軸方向と直角な方向の偏芯量も同じである。ただし、仕上材6のピン部Pcの配置角度は、正規の位置から外れている。具体的には、仕上材6のピン部Pcのうち、両端の第1、第3ピン部P1c、P3cは、軸方向と直角な方向で同じ方向に偏芯し、中央の第2ピン部P2cは、第1、第3ピン部P1c、P3cの偏芯方向とは反対方向に偏芯している。仕上材6のアーム部Acは、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部Aと軸方向の厚みが同じである。
【0079】
仕上打ち用素材5の形状は、仕上材6の形状と概ね一致する。すなわち、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jbは、最終形状の鍛造クランク軸のジャーナル部J(仕上材6のジャーナル部Jc)と軸方向の長さが同じである。仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部P(仕上材6のピン部Pc)に対し、軸方向の長さが同じであり、軸方向と直角な方向の偏芯量も同じであるが、その配置角度は仕上材6と同様に正規の位置から外れている。仕上打ち用素材5の粗アーム部Abは、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部A(仕上材6のアーム部Ac)と軸方向の厚みが同じである。
【0080】
これに対し、粗素材4の粗ジャーナル部Jaは、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jb、すなわち鍛造クランク軸のジャーナル部J(仕上材6のジャーナル部Jc)と軸方向の長さが同じである。粗素材4の粗ピン部Paは、仕上打ち用素材5の粗ピン部Pb、すなわち鍛造クランク軸のピン部P(仕上材6のピン部Pc)と軸方向の長さが同じであるが、偏芯量が仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbよりも小さい。具体的には、粗素材4の粗ピン部Paのうち、両端の第1、第3粗ピン部P1a、P3aの偏芯量は、同じ方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の1/2程度とされている。一方、中央の第2粗ピン部P2aの偏芯量は、第1、第3粗ピン部P1a、P3aの偏芯方向と反対方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の1/2程度とされている。粗素材4の粗アーム部Aaは、仕上打ち用素材5の粗アーム部Ab、すなわち鍛造クランク軸のアーム部A(仕上材6のアーム部Ac)よりも軸方向の厚みが厚い。
【0081】
2−2.3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程
図10は、本発明の第2実施形態における3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程を示す模式図である。同図に示すように、第2実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、第1予備成形、第2予備成形、仕上打ち、捩り成形の各工程を含み、必要に応じて、捩り成形前のバリ抜き、捩り成形後の整形の各工程を含む。
【0082】
第1予備成形工程は、上記の粗素材4を造形する工程である。第2予備成形工程は、下記の
図11に示す成形装置を用いることにより、上記の粗素材4から、ピン部の配置角度を除き鍛造クランク軸の最終形状が造形された上記の仕上げ打ち用素材5を成形する工程である。仕上打ち工程は、上記の仕上打ち用素材5が供され、ピン部の配置角度を除き鍛造クランク軸の最終形状が造形された上記の仕上材6を得る工程である。
【0083】
捩り成形工程は、上記の捩り仕上材7を得る工程である。捩り成形工程では、上記の仕上材6のジャーナル部およびピン部を保持した状態でジャーナル部に軸心を中心にして捩ることにより、ピン部の配置角度を鍛造クランク軸のピン部の配置角度に調整し、ピン部の配置角度を含め鍛造クランク軸の最終形状が造形された、クランク軸と合致する形状の捩り仕上材7を得ることができる。
【0084】
2−3.仕上打ち用素材の成形装置
図11は、本発明の第2実施形態における成形装置の構成を示す縦断面図である。同図には、3気筒−6枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の成形装置、すなわち前記
図9に示す粗素材4から仕上打ち用素材5を成形する成形装置を例示している。同図に示す縦断面には、実際に全ての粗ピン部の部分が同一面上で含まれている。
【0085】
図11に示す第2実施形態の成形装置では、粗素材4を、粗ピン部Paの偏芯方向を鉛直方向に合わせ、例えば、第1、第3粗ピン部P1a、P3aを上に配置し、第2粗ピン部P2aを下に配置した姿勢で金型内に収容し、仕上打ち用素材5に成形する。この点以外の構成は、前記
図4に示す第1実施形態の成形装置と共通するので、詳しい説明は省略する。
【0086】
図12および
図13は、
図11に示す本発明の第2実施形態の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法を説明するための縦断面図であり、
図12は成形初期の状態を、
図13は成形完了時の状態をそれぞれ示す。
【0087】
同図に示すように、下側のジャーナル型10B、可動ピン型12および補助ピン型13に粗素材4を収容し、プレス機の圧下を行うと、各粗ジャーナル部Jaを保持したジャーナル型10U、10Bが、第2粗ピン部P2aに宛がわれた基準ピン型11に向けて軸方向に移動し、これに伴って、第1、第3粗ピン部P1a、P3aに宛がわれた可動ピン型12と補助ピン型13も、基準ピン型11に向けて軸方向に移動する。これにより、粗素材4は、ジャーナル型10U、10B、並びに基準ピン型11および可動ピン型12により、粗ジャーナル部Jaおよび粗ピン部Paの軸方向の長さが維持されながら、粗アーム部Aaが軸方向に挟圧され、粗アーム部Aaの厚みが仕上打ち用素材5の粗アーム部Abの厚みまで減少させられる(
図13参照)。
【0088】
また、ジャーナル型10U、10B、並びに可動ピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動に応じ、基準ピン型11および可動ピン型12は、それぞれの油圧シリンダ16の駆動に伴い、個々に、粗素材4の粗ピン部Paを軸方向と直角な方向に押圧する。これにより、粗素材4の粗ピン部Paは、軸方向と直角な方向にずれるため、その配置角度が正規の位置から外れていながらも、その偏芯量が仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbの偏芯量まで増加させられた状態となる(
図9、
図13参照)。
【0089】
このようにして、バリのない粗素材4から、ピン部Pの配置角度を除いて、アーム部Aの厚みが薄い3気筒エンジン用鍛造クランク軸(最終鍛造製品)の形状と概ね一致した形状で、バリのない仕上打ち用素材5を成形することができる。次いで、このようなバリなしの仕上打ち用素材5を仕上打ちに供して仕上打ちを行えば、多少のバリは発生するが、ピン部の配置角度を除き、アーム部の輪郭形状を含めて3気筒エンジン用鍛造クランク軸の最終形状の仕上材6を造形することができる。そして、この仕上材6に捩り成形を施せば、ピン部の配置角度も含めて3気筒エンジン用鍛造クランク軸の最終形状を造形することができる。したがって、3気筒エンジン用の鍛造クランク軸を歩留り良く、しかも、その形状を問わずに高い寸法精度で製造することが可能になる。
【0090】
3.第3実施形態
第3実施形態は、上記の第1、第2実施形態の構成を基本とし、3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造過程に捩り成形工程を付加することなく、仕上打ち工程でクランク軸の最終形状を意図的に造形すべく、これに関連する構成を変形したものである。
【0091】
3−1.被成形対象の粗素材、成形された仕上打ち用素材、および仕上打ち後の仕上材
図14は、本発明の第3実施形態の製造方法において、成形装置で被成形対象とする粗素材、成形された仕上打ち用素材、および仕上打ち後の仕上材の各形状を模式的に示す図である。同図では、3気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸を製造する場合の状況を例示している。
【0092】
図14に示すように、第3実施形態の粗素材4は、3気筒−4枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸1の形状に依拠しつつも全体として粗いクランク軸形状であり、4つの粗ジャーナル部Ja、3つの粗ピン部Pa、粗フロント部Fra、粗フランジ部Fla、および6枚の粗アーム部Aaから構成される。第3実施形態の仕上打ち用素材5は、上記の粗素材4から、詳細は後述する成形装置によって成形されるものであり、4つの粗ジャーナル部Jb、3つの粗ピン部Pb、粗フロント部Frb、粗フランジ部Flb、および6枚の粗アーム部Abから構成される。第3実施形態の仕上材6は、上記の仕上打ち用素材5を仕上打ちして得られるものであり、4つのジャーナル部Jc、3つのピン部Pc、フロント部Frc、フランジ部Flc、および6枚のアーム部Acから構成される。
【0093】
仕上材6の形状は、ピン部Pcの配置角度を含めクランク軸(最終鍛造製品)の形状と一致する。すなわち、仕上材6のジャーナル部Jcは、最終形状の鍛造クランク軸のジャーナル部Jと軸方向の長さが同じである。仕上材6のピン部Pcは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pと軸方向の長さが同じである。さらに、仕上材6のピン部Pcは、最終形状の鍛造クランク軸のピン部Pに対し、軸方向と直角な方向の偏芯量が同じで、配置角度も同じ120°であり、正規の位置に配置されている。仕上材6のアーム部Acは、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部Aと軸方向の厚みが同じである。
【0094】
これに対し、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jbは、仕上材6のジャーナル部Jc、すなわち鍛造クランク軸のジャーナル部Jと軸方向の長さが同じである。仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbは、仕上材6のピン部Pc、すなわち鍛造クランク軸のピン部Pと軸方向の長さが同じであるが、偏芯量も配置角度も正規の位置から外れている。具体的には、仕上打ち用素材5の粗ピン部Pbのうち、両端の第1、第3粗ピン部P1b、P3bの偏芯量は、互いに反対方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の√3/2と同じにされている。一方、中央の第2粗ピン部P2bは偏芯されることなく、偏芯量がゼロにされている。仕上打ち用素材5の粗アーム部Abは、最終形状の鍛造クランク軸のアーム部A(仕上材6のアーム部Ac)と軸方向の厚みが同じである。
【0095】
また、粗素材4の粗ジャーナル部Jaは、仕上打ち用素材5の粗ジャーナル部Jb、すなわち鍛造クランク軸のジャーナル部J(仕上材6のジャーナル部Jc)と軸方向の長さが同じである。粗素材4の粗ピン部Paは、仕上打ち用素材5の粗ピン部Pb、すなわち鍛造クランク軸のピン部P(仕上材6のピン部Pc)と軸方向の長さが同じである。ただし、粗素材4の粗ピン部Paのうち、第1、第3粗ピン部P1a、P3aの偏芯量は、仕上打ち用素材5のそれよりも小さくされ、互いに反対方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の√3/2よりも小さくされている。一方、第2粗ピン部P2aの偏芯量は、仕上打ち用素材5のそれと同様に、ゼロにされている。粗素材4の粗アーム部Aaは、仕上打ち用素材5の粗アーム部Ab、すなわち鍛造クランク軸のアーム部A(仕上材6のアーム部Ac)よりも軸方向の厚みが厚い。
【0096】
3−2.3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程
図15は、本発明の第3実施形態における3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程を示す模式図である。同図に示すように、第3実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、第1予備成形、第2予備成形、仕上打ちの各工程を含み、必要に応じて、バリ抜き、整形の各工程を含む。
【0097】
第1予備成形工程は、上記の粗素材4を造形する工程である。第2予備成形工程は、下記の
図16に示す成形装置を用いることにより、上記の粗素材4から、全てのピン部の偏芯量および配置角度を除き鍛造クランク軸の最終形状が造形された上記の仕上げ打ち用素材5を成形する工程である。
【0098】
仕上打ち工程は、上記の仕上材6を得る工程である。仕上打ち工程では、上記の仕上打ち用素材5が供され、その第1、第3粗ピン部を水平に配置した姿勢の状態で、上下に一対の金型を用いてプレス鍛造することにより、全ての粗ピン部を軸方向と直角な鉛直方向に押圧する。これにより、ピン部の配置角度を含め鍛造クランク軸の最終形状が造形された、クランク軸と合致する形状の仕上材6を得ることができる。
【0099】
3−3.仕上打ち用素材の成形装置
図16は、本発明の第3実施形態における成形装置の構成を示す縦断面図である。同図には、前記
図14に示す粗素材4から仕上打ち用素材5を成形する成形装置を例示している。同図に示す縦断面には、実際に全ての粗ピン部の部分が同一面上で含まれている。
【0100】
図16に示す第3実施形態の成形装置は、前記
図4に示す第1実施形態の成形装置および前記
図11に示す第2実施形態の成形装置と比較し、大きくは、次の点で相違する。第3実施形態の成形装置は、粗素材4を、互いに反対方向に偏芯している第1、第3粗ピン部P1a、P3aを鉛直方向に沿って配置した姿勢で金型内に収容し、仕上打ち用素材5に成形するものである。この成形装置では、第2粗ピン部P2aの位置に配置された基準ピン型11は、軸方向への移動のみならず、軸方向とは直角な方向への移動も拘束されている。このため、第3実施形態の基準ピン型11は、第1、第2実施形態のような油圧シリンダが連結されておらず、上側金型支持台23および下側金型支持台22のうちの一方に直に取り付けられている。その他方には、この基準ピン型11と対を成す補助ピン型13が直に取り付けられている。
図16では、基準ピン型11が上側金型支持台23に取り付けられ、補助ピン型13が下側金型支持台22に取り付けられた態様を示している。
【0101】
また、第3実施形態の成形装置では、第1、第3粗ピン部P1a、P3aそれぞれの位置に配置された可動ピン型12と補助ピン型13は、第1、第3粗ピン部P1a、P3aが鉛直方向で互いに反対方向に偏芯していることから、第1粗ピン部P1aの位置と第3粗ピン部P3aの位置で上下の配置が入れ替わっている。
図16では、第1粗ピン部P1aの位置の補助ピン型13、および第3粗ピン部P3aの位置の可動ピン型12が上側に配置され、第1粗ピン部P1aの位置の可動ピン型12、および第3粗ピン部P3aの位置の補助ピン型13が下側に配置された態様を示している。
【0102】
図17および
図18は、
図16に示す本発明の第3実施形態の成形装置による仕上打ち用素材の成形方法を説明するための縦断面図であり、
図17は成形初期の状態を、
図18は成形完了時の状態をそれぞれ示す。
【0103】
図17に示すように、下側のジャーナル型10B、可動ピン型12および補助ピン型13に粗素材4を収容し、プレス機の圧下を行うと、先ず、粗素材4は、各粗ジャーナル部Jaがジャーナル型10U、10Bによって上下から挟み込まれて保持されると同時に、第2粗ピン部P2aが基準ピン型11および補助ピン型13によって上下から挟み込まれて保持され、第1、第3粗ピン部P1a、P3aに可動ピン型12が宛がわれた状態になる。この状態から、そのままプレス機の圧下を継続すると、各粗ジャーナル部Jaを保持したジャーナル型10U、10Bが、第2粗ピン部P2aを保持した基準ピン型11に向けて軸方向に移動し、これに伴って、第1、第3粗ピン部P1a、P3aに宛がわれた可動ピン型12と補助ピン型13も、基準ピン型11に向けて軸方向に移動する。これにより、粗素材4は、ジャーナル型10U、10B、並びに基準ピン型11および可動ピン型12により、粗ジャーナル部Jaおよび粗ピン部Paの軸方向の長さが維持されながら、粗アーム部Aaが軸方向に挟圧され、粗アーム部Aaの厚みが仕上打ち用素材5の粗アーム部Abの厚みまで減少させられる(
図18参照)。
【0104】
また、ジャーナル型10U、10B、並びに可動ピン型12および補助ピン型13の軸方向への移動に応じ、可動ピン型12は、それぞれの油圧シリンダ16の駆動に伴い、個々に、粗素材4の第1、第3粗ピン部P1a、P3aを軸方向と直角な鉛直方向に押圧する。これにより、粗素材4の第1、第3粗ピン部P1a、P3aは、軸方向と直角な鉛直方向にずれるため、互いに反対方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の√3/2と同じ偏芯量まで増加させられた状態となる(
図14、
図18参照)。一方、粗素材4の第2粗ピン部P2bは、成形の前後で、その軸方向とは直角な方向の位置が変わらずに維持され、偏芯量がゼロのままの状態となる。
【0105】
このようにして、バリのない粗素材4から、全てのピン部Pの偏芯量および配置角度を除いて、アーム部Aの厚みが薄い3気筒エンジン用鍛造クランク軸(最終鍛造製品)の形状と概ね一致した形状で、バリのない仕上打ち用素材5を成形することができる。そして、このようなバリなしの仕上打ち用素材5を仕上打ちに供し、その第1、第3粗ピン部を水平に配置した姿勢の状態で仕上打ちを行う。このとき、仕上打ち用素材5の全ての粗ピン部を軸方向と直角な鉛直方向に押圧して、正規の位置まで変位させるようにすれば、多少のバリは発生するが、アーム部の輪郭形状、ピン部の偏芯量および配置角度を含めて3気筒エンジン用鍛造クランク軸の最終形状を造形することができる。したがって、3気筒エンジン用の鍛造クランク軸を歩留り良く、しかも、その形状を問わずに高い寸法精度で製造することが可能になる。
【0106】
4.第4実施形態
第4実施形態は、上記の第3実施形態の構成を変形したものである。
【0107】
4−1.被成形対象の粗素材、成形された仕上打ち用素材、および仕上打ち後の仕上材
図19は、本発明の第4実施形態の製造方法において、成形装置で被成形対象とする粗素材、成形された仕上打ち用素材、および仕上打ち後の仕上材の各形状を模式的に示す図である。
【0108】
図19に示すように、第4実施形態の仕上材6は、前記
図14に示す第3実施形態の仕上材6と同じ形状である。
【0109】
これに対し、第4実施形態の仕上打ち用素材5は、前記
図14に示す第3実施形態の仕上打ち用素材5と比較し、次の点が異なる。
図19に示すように、第4実施形態の仕上打ち用素材5における中央の第2粗ピン部P2bは、両端の第1、第3粗ピン部P1b、P3bの偏芯方向と直交する方向に偏芯し、その偏芯量が仕上材6のピン部Pc、すなわち鍛造クランク軸のピン部Pと同じにされている。
【0110】
また、第4実施形態の粗素材4は、前記
図14に示す第3実施形態の粗素材4と比較し、次の点が異なる。
図19に示すように、第4実施形態の粗素材4における中央の第2粗ピン部P2bは、両端の第1、第3粗ピン部P1b、P3bの偏芯方向と直交する方向に偏芯し、その偏芯量が、仕上打ち用素材5のそれと同様に、鍛造クランク軸のピン部P(仕上材6のピン部Pc)と同じにされている。
【0111】
4−2.3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程
図20は、本発明の第4実施形態における3気筒エンジン用鍛造クランク軸の製造工程を示す模式図である。同図に示すように、第4実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、前記
図15に示す第3実施形態と同様に、第1予備成形、第2予備成形、仕上打ちの各工程を含み、必要に応じて、バリ抜き、整形の各工程を含む。
【0112】
第1予備成形工程は、上記の粗素材4を造形する工程である。
【0113】
第2予備成形工程は、上記の仕上げ打ち用素材5を成形する工程である。第2予備成形工程では、前記
図16、
図17および
図18に示す第3実施形態の成形装置と同様のものを用いる。なお、第4実施形態では、前記
図16に示す縦断面の中で、第2粗ピン部の部分は、実際には、紙面の手前または奥に位置している。
【0114】
第4実施形態の第2予備成形工程では、前記
図16、
図17および
図18に示す第3実施形態と同様に、下側のジャーナル型10B、可動ピン型12および補助ピン型13に粗素材4を収容し、プレス機の圧下を行う。これにより、粗素材4は、各粗ジャーナル部Jaを保持したジャーナル型10U、10B、および第1、第3粗ピン部P1a、P3aに宛がわれた可動ピン型12と補助ピン型13が、第2粗ピン部P2aを保持した基準ピン型11に向けて軸方向に移動するのに伴って、粗ジャーナル部Jaおよび粗ピン部Paの軸方向の長さが維持されながら、粗アーム部Aaが軸方向に挟圧され、粗アーム部Aaの厚みが仕上打ち用素材5の粗アーム部Abの厚みまで減少させられる。
【0115】
また、可動ピン型12が第1、第3粗ピン部P1a、P3aを軸方向と直角な鉛直方向に押圧することにより、粗素材4の第1、第3粗ピン部P1a、P3aは、互いに反対方向で鍛造クランク軸のピン部Pの偏芯量の√3/2と同じ偏芯量まで増加させられた状態となり、その一方で、粗素材4の第2粗ピン部P2bは、成形の前後で、その軸方向とは直角な方向の位置が変わらずに維持され、その偏芯量が鍛造クランク軸のピン部の偏芯量と同じままの状態となる。
【0116】
このようにして、バリのない粗素材4から、第1、第3ピン部P1、P3の偏芯量および配置角度を除いて、アーム部Aの厚みが薄い3気筒エンジン用鍛造クランク軸(最終鍛造製品)の形状と概ね一致した形状が造形された、バリのない上記の仕上打ち用素材5を成形することができる。
【0117】
仕上打ち工程は、上記の仕上材6を得る工程である。仕上打ち工程では、上記の仕上打ち用素材5が供され、その第1、第3粗ピン部を水平に配置した姿勢の状態で仕上打ちを行う。このとき、仕上打ち用素材5の第1、第3粗ピン部P1b、P3bを軸方向と直角な鉛直方向に押圧して、正規の位置まで変位させるようにすれば、多少のバリは発生するが、アーム部の輪郭形状、ピン部の偏芯量および配置角度を含めて3気筒エンジン用鍛造クランク軸の最終形状が造形された、クランク軸と合致する形状の仕上材6を得ることができる。
【0118】
その他本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、ジャーナル型を軸方向へ移動させる機構としては、上記の実施形態ではプレス機を利用した楔機構を採用しているが、これに限らず、リンク機構を採用してもよいし、プレス機の利用に代えて油圧シリンダやサーボモータを利用しても構わない。また、ピン型を軸方向と直角な方向へ移動させる機構としては、油圧シリンダに限らず、サーボモータであってもよい。
【0119】
また、上記の各実施形態では、上側金型支持台を上側ハードプレートに固定するとともに、下側金型支持台を下側ハードプレートで弾性的に支持し、当該下側ハードプレートに楔を設置して、この楔で上下のジャーナル型を移動させるようにした構成であるが、これとは上下を反転させた構成でも構わない。上下の各金型支持台をそれぞれのハードプレートで弾性的に支持し、ハードプレートにそれぞれ楔を設置して、各楔で上下の各ジャーナル型を移動させるように構成することもできる。
【0120】
また、上記の各実施形態では、補助ピン型は、軸方向にのみ移動が許容されているが、これに加えて、対を成すピン型に向く方向にも移動が許容される構成とし、これにより、ピン型と補助ピン型が各粗ピン部Paを個々に上下から挟み込んで保持しながら、互いに連動して軸方向と直角な方向に移動するようにしてもよい。
【0121】
また、上記の各実施形態では、ピン型を軸方向と直角な鉛直方向に移動させて粗ピン部Paを鉛直方向に押圧する構成であるが、粗ピン部Paを水平方向に押圧するようにピン型およびジャーナル型の配置を変形することもできる。