【実施例】
【0022】
以下に、実施例を用いて、さらに詳細に本発明を説明するが、本発明は何ら以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1) C含量の検討
(1)磁性粉末材料の調製
本実施例で使用した非晶質粉末と、結晶質粉末の成分を下記表1に示す。下記表1に示す組成の非晶質粉末は超急冷アトマイズ法にて調整し、また、下記表1に示す結晶質粉末を、水アトマイズ法にて調製した。
まず、上記のようにして得られた金属粉末を、それぞれ、分散溶液としてメタノールを使用して、超音波分散機で分散させた。その後、これらの試料の平均粒径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920((株)堀場製作所製)にて測定して平均粒径(D
50)を求めた。この測定装置では、ある粉末試料が真球でない場合には、その試料粉末の長軸及び短軸の平均が粒子径とされる。
【0023】
【表1】
【0024】
(2)混合粉末の調製
上記の非晶質粉末(C含量:0.5〜1.0mass%)と結晶質粉末(C含量:Max 0.03mass%)とを下記表2に示す割合で混合し、比較例1〜3及び本発明例1〜4の混合粉末を得た。
【0025】
【表2】
【0026】
次に、得られた合金粉末に結合材であるシリコーン系樹脂を噴霧して、合金粉末の表面がシリコーン系樹脂で被覆された複合磁性材料を得た。
以上のようにして得られた複合磁性材料を用いて下記の成形条件に基づき、比透磁率及びコア損失(Pcv)の測定に使用する成形体(リング状コア)を得た。
【0027】
[成形条件]
成形方法:圧縮成形
成形体形状:リング状コア
成形体寸法:外径15mm、内径10mm、厚み2.5mm
成形圧力:比較品=2〜4ton/cm
2
本発明品=2ton/cm
2
比較例1及び2は2ton/cm
2、比較3は4ton/cm
2の圧力で成形を行うと、本発明品と同じ粉末占積率の製品が得られた。
次に、得られたそれぞれの成形体を、大気中にて、200℃で1時間加熱して結合材を硬化させ、リング状コア(圧粉磁芯)を得た。
【0028】
(2)圧粉磁芯の物性の検討
本発明例1〜4及び比較例1〜3の複合磁性材料を使用して作製した圧粉磁芯比透磁率及びコア損失(Pcv(kw/m
3))を磁気特性として測定し、評価した。それぞれの磁気特性の測定条件及び評価の基準を以下に示す。
(a)比透磁率:Agilent製インピーダンスアナライザ4294Aを用いて、周波数1MHzのインダクタンスを測定し、コア定数から比透磁率を得た。この比透磁率(μ
r)は、以下の式より求めた。
【0029】
(μ
r)=(Ls×le)/(μ
0×Ae×N
2)
ここで、Lsはインダクタンス(H)、leは磁路長(m)、Aeは断面積(m
2)、μ
0は真空中における透磁率(4π×10
−7(H/m))、Nはコイルの巻数を表す。
(b)コア損失(Pcv;w/m
3):上記のようにして製造したリング状コアを使用し、岩通製B−HアナライザSY8232を用いて、Bm=50mT、f(実効周波数)=250kHzの条件でコア損失を測定した。
【0030】
製品のインダクタンスの確保及び回路効率の向上という2つの観点から、比透磁率を20以上、回路効率上昇の観点からコア損失を1,400kw/m
3以下と設定した(上記表2参照)。
比較例1〜3の圧粉磁芯では、比透磁率は目標値を達成したが、Pcvの値が高く、目標値に達しなかった。また、比較例2の圧粉磁芯では、非晶質粉末の配合割合が少ないため、コア損失が目標値を満足しなかった。従って、非晶質粉末の配合割合は、40wt%以下では不十分であると判定した。
【0031】
一方、比較例3の圧粉磁芯では、非晶質粉末の配合割合が多いために、成形圧力が高くなり、コア損失が目標値を満足しなかった。従って、非晶質粉末の配合割合は、85wt%以上では過剰であることが示された。
以上より、C含量0.225mass%〜0.80mass%のときに、十分なコア損失の低下が見られると判定した。
【0032】
(実施例2) 粒径比、粉末粒径と目標特性との関係の検討
非晶質粉末(D
50A=45μm)及び結晶質粉末(D
50C=13μm)、非晶質粉末(D
50A=24μm)及び結晶質粉末(D
50C=7μm)を、50/50(w/w)となるように混合し、実施例1と同様にして、下記表3に示す圧粉磁芯を製造した。
得られた圧粉磁芯の比透磁率及びコア損失を実施例1と同様にして測定し、粒径によってこれらがどのように変動するかを検討した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
非晶質の粒径が45μm、結晶質の粒径が13μmと粒径の大きな粒子を使用した比較例4では、粒径比は3.46と高い値を示したが、コア損失が目標値に達しなかった。また、非晶質の粒径を24μmとした比較例5では、粒径比が2未満であり、比較例4の場合と同様にコア損失が目標値に達しなかった。
比較例4と本発明例7とは、粒径比はほぼ同等であったが、コア損失(Pcv値)に大きな相違が見られた。すなわち、本発明例7では、比較例4で使用した粉末(非晶質45μm、結晶質13μm)よりも粒径の小さい粉末(非晶質24μm、結晶質7μm)を使用したために、粒子内部を流れる渦電流が低下し、これによってコア損失が低下したものと考えられた。
以上より、使用する粉末の粒径が渦電流の低下に大きく影響することが示され、非晶質粉末の平均粒径が45μm未満、結晶質粉末の平均粒径が13μm未満のときに、十分なコア損失の低下が見られた。
【0035】
また、比較例5、本発明例5、6及び7を比較すると、結晶質粉末の粒径が小さくなるにつれて、Pcvが低下した。特に、比較例5と本発明例5との間におけるPcvの低下幅が大きく、非晶質粉末と結晶質粉末の粒径比が、コア損失に大きな影響を与えることが示された。これら2種類の粉末の粒径比が大きくなると、非晶質粉末粒子同士の隙間に結晶質粉末粒子が入り込み易くなり、低圧で成形が可能となる。このため、コア損失が低下したものと考えられる。
以上より、非晶質粉末と結晶質粉末の粒径比は、2.18以上のときに十分なコア損失の低下が見られた。
【0036】
一般的に、非晶質粉末のみを使用すると、コア損失の少ない圧粉磁芯を製造することができる。しかし、非晶質粉末は固いため、固化には20ton/cm
2程度の高い圧力をかける必要がある。また、非晶質粉末を使用した場合には、特性を回復させるために成形時の応力を除去する必要があり、約450℃という高温での熱処理を行わなければならない。
これに対し、使用する合金粉末を非晶質と結晶質の2種類とし、これらの粒径比を2.18以上とすることによって、2ton/cm
2程度という低い圧力での成形が可能となった。この圧力は、結晶質粉末のみを使用した場合と同程度である。また、低圧成形が可能となることによって、成形時に生ずる応力も小さくなり、成形時の応力を除去するための熱処理を行わなくても、低損失の磁性素子を製造することが可能となった。