特許第5924481号(P5924481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5924481銀微粒子の製造法及び該銀微粒子の製造法によって得られた銀微粒子並びに該銀微粒子を含有する導電性ペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924481
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】銀微粒子の製造法及び該銀微粒子の製造法によって得られた銀微粒子並びに該銀微粒子を含有する導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20160516BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160516BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20160516BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20160516BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
   B22F1/00 K
   H01B1/00 F
   H01B1/22 A
   H01B5/00 F
   H01B13/00 501Z
   B82Y40/00
   B82Y30/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-21348(P2012-21348)
(22)【出願日】2012年2月2日
(65)【公開番号】特開2013-159805(P2013-159805A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石谷 誠治
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋介
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 敬介
(72)【発明者】
【氏名】大杉 峰子
(72)【発明者】
【氏名】森井 弘子
(72)【発明者】
【氏名】林 一之
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−131950(JP,A)
【文献】 特開2001−316701(JP,A)
【文献】 特開2011−080094(JP,A)
【文献】 特開2007−016258(JP,A)
【文献】 特開2003−049202(JP,A)
【文献】 特開2011−236453(JP,A)
【文献】 特開2009−289745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00− 9/30
B22F 1/00− 1/02
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(DSEM)が30〜100nmであり、タップ密度が3.0g/cm以上である銀微粒子の製造法であって、硝酸銀と高分子保護剤とを用いて水溶液を調製し(A液)、前記A液とは別に還元剤と低分子保護剤を溶解させた水溶液を調製し(B液)、前記B液を前記A液に滴下して還元析出させて得られた銀微粒子を分離・洗浄・乾燥させる銀微粒子の製造法において、前記B液を前記A液に滴下した際の混合溶液の温度を40℃以下に制御すると共に、乾燥工程を真空凍結乾燥により行うことを特徴とする銀微粒子の製造法。
【請求項2】
真空凍結乾燥前の含水物の含水率が30%以上である請求項1記載の銀微粒子の製造法。
【請求項3】
得られる銀微粒子のBET比表面積値が7.0m/g以下である請求項1又は2に記載の銀微粒子の製造法
【請求項4】
得られる銀微粒子の結晶子径(D)が30nm以上である請求項1〜3のいずれかに記載の銀微粒子の製造法
【請求項5】
得られる銀微粒子の銀微粒子表面の有機物残存量が0.5〜2.0重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の銀微粒子の製造法
【請求項6】
得られる銀微粒子の240℃における熱収縮率が2.0%以上である請求項1〜5のいずれかに記載の銀微粒子の製造法
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造法によって得られた銀微粒子を含む導電性ペーストの製造法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性及び低温焼結性に優れると共に、基板上に形成された電極や回路パターン中における充填性に優れた平均粒子径30〜100nmの銀微粒子とその製造法並びに該銀微粒子を含有する導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの電極や回路パターンの形成は、金属粒子を含む導電性ペーストを用いて基板上に電極や回路パターンを印刷した後、加熱焼成して導電性ペーストに含まれる金属粒子を焼結させることにより行われているが、近年、その加熱焼成温度は低温化する傾向にある。
【0003】
例えば、電子デバイスの実装基板としては、一般に、300℃程度までの加熱が可能であり、耐熱性に優れているためポリイミド製フレキシブル基板が用いられているが、高価であるため、最近では、より安価なPET(ポリエチレンテレフタレート)基板やPEN(ポリエチレンナフタレート)基板が代替材料として検討されている。しかしながら、PET基板やPEN基板はポリイミド製フレキシブル基板と比較して耐熱性が低く、殊に、メンブレン配線板に用いられるPETフィルム基板は加熱焼成を150℃以下で行う必要がある。
【0004】
また、加熱焼成を200℃より更に低い温度で行うことができれば、ポリカーボネートや紙等の基板への電極や回路パターンの形成も可能となり、各種電極材等の用途が広がることが期待される。
【0005】
このような低温焼成が可能な導電性ペーストの原料となる金属粒子として、ナノメートルオーダーの銀微粒子が期待されている。その理由として、金属粒子の大きさがナノメートルオーダーになると表面活性が高くなり、融点が金属のバルクのものよりもはるかに低下するため、低い温度で焼結させることが可能になるためである。また、銅などの他の導電性粒子と比べて銀微粒子は高価であり、金属粒子の中でもマイグレーションを起こしやすいという欠点はあるが、同程度の比抵抗を有する銅に比べて酸化し難いために取り扱いやすいことが挙げられる。
【0006】
また、ナノメートルオーダーの銀微粒子は低温で焼結が可能であると共に、一度焼結すると耐熱性が維持されるという、従来のはんだにはない性質を利用した鉛フリーのはんだ代替材料としても期待されている。
【0007】
一方で、銀微粒子は一般に粒子サイズが小さくなるほどタップ密度が小さくなる傾向にあるため、該銀微粒子を含む導電ペーストにより形成した微細な配線は、銀微粒子の充填率を上げることが困難であり、電気抵抗値の低減には不利である。
【0008】
また、粒子の結晶性が低い銀微粒子は加熱焼成の際の熱収縮率が大きくなる傾向があり、そのため、例えば電子部品の場合は、該銀微粒子を含む導体ペーストより形成した微細な配線が基材から剥離したり、配線が細くなって高抵抗になったりする問題がある。また粉末冶金においては、焼結体の寸法精度を悪化する等の問題が生じる。
【0009】
これまでに、低温焼結性に優れた硬質な被膜を形成できる金属ナノ粒子を含む金属コロイド粒子として、金属ナノ粒子と分散剤とを含む粒子サイズに分布を有する金属コロイド粒子が提案されている(特許文献1)。また、水を含む極性溶媒中でも安定して存在しうる微小銀粒子として、保護剤として炭素数6以下の直鎖脂肪酸と結合した銀粒子(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−229544号公報
【特許文献2】特開2009−120949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前出特許文献1には、金属ナノ粒子と分散剤とを含む粒子サイズに分布を有する金属コロイド粒子が開示されているが、特許文献1記載の製造法は硝酸銀溶液と還元剤溶液の混合の際の温度制御についてはなんら考慮されておらず、また、乾燥工程についても加圧ろ過機で銀コロイド粒子凝集体を回収するのみである。そのため、特許文献1記載の製造法で得られた銀コロイド粒子は、後出比較例に示す通りタップ密度が3g/cm以下となり、該銀コロイド粒子を含む導電ペーストにより形成した微細な配線は、銀微粒子の充填率を上げることが困難であり、電気抵抗値の低減には不利である。また、銀微粒子表面の有機物残存量が2.5重量%以上であったことから、低温焼結性に優れているとは言い難いものである。
【0012】
また、特許文献2には、保護剤として炭素数6以下の直鎖脂肪酸と結合した銀粒子が開示されているが、後出比較例に示す通り、特許文献2記載の製造法で得られた銀粒子はタップ密度が3g/cm以下であり、また、BET比表面積値も7m/g以上であることから、該銀粒子を含む導電ペーストにより形成した微細な配線は、銀粒子の充填率を上げることが困難であり、電気抵抗値の低減には不利である。
【0013】
そこで、本発明は、平均粒子径(DSEM)が30〜100nmと微粒子でありながら、3.0g/cm以上の高いタップ密度を有し、熱収縮性及び低温焼結性に優れると共に、基板上に形成された電極や回路パターン中における充填性に優れた銀微粒子及びその製造法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0015】
即ち、本発明は、硝酸銀と高分子保護剤とを用いて水溶液を調製し(A液)、前記A液とは別に還元剤と低分子保護剤を溶解させた水溶液を調製し(B液)、前記B液を前記A液に滴下して還元析出させて得られた銀微粒子を分離・洗浄・乾燥させる銀微粒子の製造法において、前記B液を前記A液に滴下した際の混合溶液の温度を40℃以下に制御すると共に、乾燥工程を真空凍結乾燥により行うことを特徴とする銀微粒子の製造法である(本発明1)。
【0016】
また、本発明は、真空凍結乾燥前の含水物の含水率が30%以上である本発明1の銀微粒子の製造法である(本発明2)。
【0017】
また、本発明は、平均粒子径(DSEM)が30〜100nmであり、タップ密度が3.0g/cm以上である本発明1又は本発明2の製造法によって得られる銀微粒子である(本発明3)。
【0018】
また、本発明は、BET比表面積値が7.0m/g以下である本発明3の銀微粒子である(本発明4)。
【0019】
また、本発明は、結晶子径(D)が30nm以上である本発明3又は本発明4の銀微粒子である(本発明5)。
【0020】
また、本発明は、銀微粒子表面の有機物残存量が0.5〜2.0重量%である本発明3から本発明5のいずれかの銀微粒子である(本発明6)。
【0021】
また、本発明は、240℃における熱収縮率が2.0%以上である本発明3から本発明6のいずれかの銀微粒子である(本発明7)。
【0022】
また、本発明は、本発明3から本発明7のいずれかの銀微粒子を含む導電性ペーストである(本発明8)。
【発明の効果】
【0023】
一般に、銀微粒子の粒子サイズが小さくなるほどタップ密度は小さくなる傾向にあるが、本発明に係る銀微粒子の製造法は、前記平均粒子径(DSEM)が30〜100nmと微粒子であるにもかかわらず、3.0g/cm以上の高いタップ密度を有する銀微粒子を得ることができるため、低温焼結性並びに電極や回路パターン中における充填性に優れた銀微粒子の製造法として好適である。
【0024】
また、本発明に係る銀微粒子は、上記製造法により、平均粒子径(DSEM)が30〜100nmと微粒子であるにもかかわらず、3.0g/cm以上の高いタップ密度を有していることから、基板上に形成された電極や回路パターン中における充填性に優れた導電性ペースト等の原料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の構成をより詳しく説明すれば、次の通りである。
【0026】
まず、本発明における銀微粒子の製造方法について述べる。
【0027】
本発明に係る銀微粒子は、硝酸銀と高分子保護剤とを用いて水溶液を調製し(A液)、前記A液とは別に還元剤と低分子保護剤を溶解させた水溶液を調製し(B液)、前記B液を前記A液に滴下して還元析出させて得られた銀微粒子を分離・洗浄・乾燥させる銀微粒子の製造法において、前記B液を前記A液に滴下した際の混合溶液の温度を40℃以下に制御すると共に、乾燥工程を真空凍結乾燥により行うことにより得ることができる。
【0028】
まず、硝酸銀と高分子保護剤とを用いて水溶液を調製する(A液)。本発明における高分子保護剤は、水溶性あるいは水可溶性であることが好ましい。また、酸価を有することが好ましく、酸価は1mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上のものを用いることが好ましい。酸価の上限値については特に制限なく用いることができるが、酸価が0mgKOH/gの場合、粒子サイズの大きな銀粒子が生成するため、100nm以下の微細な銀微粒子を得ることが困難となる。また、アミン価は0mgKOH/gであることが好ましい。アミン価を有する高分子保護剤を用いた場合、硝酸銀と混合した際に銀のアミン錯体が生成し、還元反応が完結しないかもしくは還元反応に非常に長い時間を要すると共に、これによって得られる銀微粒子は分布の悪いものであるため好ましくない。なお、高分子保護剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
高分子保護剤の添加量は、銀微粒子に対して1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは1.5〜8重量%である。高分子保護剤の添加量が1重量%未満である場合には、得られる銀微粒子の粒子サイズが大きくなるため好ましくない。10重量%を超える場合には、得られる銀微粒子表面の有機物残存量が2.0重量%を超えることにより、低温焼結性が損なわれるため好ましくない。
【0030】
本発明における還元剤としては、水溶性または水可溶性のものを用いることができるが、ヒドラジン、水素化ホウ素アルカリ塩、リチウムアルミニウムハイドライド、アスコルビン酸、エリソルビン酸等は、還元力が強すぎるため好ましくない。還元力の点から、本発明においてはアミノアルコール類を好適に用いることができ、より好ましくはN,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン等の第3級アミンを有するアミノアルコールである。
【0031】
還元剤の添加量は、硝酸銀1モルに対して還元剤2.0〜5.0モルが好ましく、より好ましくは2.2〜4.0モルである。還元剤の添加量が硝酸銀1モルに対して2.0モル未満の場合には、還元反応が十分に進まないため好ましくない。
【0032】
次いで、前記A液とは別に還元剤と低分子保護剤を溶解させた水溶液を調製する(B液)。低分子保護剤を、硝酸銀を含有する水溶液(A液)に添加して水溶液を調製した場合、低分子保護剤と硝酸銀が反応し、カルボン酸銀が生成して銀微粒子の収率が低下すると共に、これによって得られる銀微粒子は分布の悪いものであるため好ましくない。
【0033】
本発明における低分子保護剤としては、炭素数3〜7のカルボン酸を用いることができる。好ましくはプロピオン酸、ヘキサン酸及びヘプタン酸であり、より好ましくはヘキサン酸及びヘプタン酸である。低分子保護剤の炭素鎖が長くなるほど、よりタップ密度の高い銀微粒子が得られやすい。低分子保護剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
低分子保護剤の添加量は、硝酸銀1モルに対して低分子保護剤0.05〜0.4モルが好ましく、より好ましくは0.1〜0.35モルである。低分子保護剤の添加量が硝酸銀1モルに対して0.4モルを超える場合には、生成した銀微粒子同士が凝集する傾向があるため好ましくない。
【0035】
還元剤と低分子保護剤を溶解させた水溶液(B液)を、硝酸銀と高分子保護剤とを用いて調製した水溶液(A液)に滴下して混合反応を行う。混合反応時の温度は、通常温度コントロールを行わなければ50℃以上に上昇するが、本発明においては、25〜40℃の範囲にコントロールすることが好ましく、より好ましくは30〜35℃の範囲である。混合反応時の温度が40℃を超える場合には、生成した銀微粒子の分布が不均一となりやすいため好ましくない。
【0036】
前記B液を滴下後、反応溶液を60〜80℃に加熱し、攪拌を行うことで還元反応を完結させる。反応溶液の加熱温度は、好ましくは65〜75℃である。反応溶液の加熱温度が60℃未満の場合には、還元反応が完結するまでに非常に長い時間がかかるため、工業的に不利となる。また、加熱温度が80℃を超える場合には、生成した銀微粒子同士が凝集する傾向があるため好ましくない。還元反応は、反応溶液のpH値が一定となったところを終点とする。還元反応は可能な限りゆっくり進行することが好ましく、その点からも、低分子保護剤はできるだけ長鎖脂肪酸を用いることが好ましい。
【0037】
還元反応後の反応溶液を、上澄み液の電導度が50μS/cm以下になるまでデカンテーションと水洗を繰り返し、得られた銀微粒子を含む含水物を真空凍結乾燥し、その後、常法により粉砕することによって本発明の銀微粒子を得ることができる。真空凍結乾燥を行わず、通常の乾燥機を用いた乾燥を行った場合、銀微粒子を巨大な塊としてしか取り出せず、その後の粉砕処理が非常に煩雑となると共に、銀微粒子に必要以上にシェアがかかることとなる。そのため、得られた粒子は粗大化し、タップ密度が低下するため、本発明の目的とする銀微粒子粉末を得ることができない。
【0038】
真空凍結乾燥は、銀微粒子を含む含水物を乾燥機中に入れた後、品温が−40〜−10℃になるまで減圧し、その後、40℃程度まで昇温した後2時間以上保持することによって行う。
【0039】
真空凍結乾燥を行う際の銀微粒子を含む含水物の含水率は、30%以上が好ましく、より好ましくは35〜80%、更により好ましくは40〜70%である。含水率が30%未満の場合には、真空凍結乾燥を行ったとしても、上述の通常の乾燥器を用いた場合と同様に、銀微粒子を巨大な塊としてしか取り出せず、得られた粒子は粗大化し、タップ密度が低下するため、本発明の目的とする銀微粒子粉末を得ることができない。
【0040】
次に、本発明に係る銀微粒子について述べる。
【0041】
本発明に係る銀微粒子は、平均粒子径(DSEM)が30〜100nmであり、タップ密度が3.0g/cm以上であることを特徴とする。
【0042】
本発明に係る銀微粒子の平均粒子径(DSEM)は、30〜100nmであり、好ましくは35〜95nm、より好ましくは40〜90nmである。平均粒子径(DSEM)が上記範囲にあることにより、これを用いて得られる電子デバイスのファイン化が容易となる。平均粒子径(DSEM)が30nm未満の場合には、銀微粒子の持つ表面活性が高くなり、その微細な粒子径を安定に維持するために多量の有機物等を付着させる必要があるため好ましくない。
【0043】
本発明に係る銀微粒子のタップ密度は、3.0g/cm以上であり、好ましくは3.5g/cm以上、より好ましくは4.0g/cm以上である。タップ密度が3.0g/cm未満の場合、該銀微粒子を含む導電ペーストにより形成した微細な配線は、銀微粒子の充填率を上げることが困難であり、電気抵抗値の低減には不利である。銀微粒子のタップ密度の上限値は6.0g/cm程度であり、より好ましくは5.5g/cm程度である。
【0044】
本発明に係る銀微粒子のBET比表面積値は、7m/g以下であることが好ましく、より好ましくは6m/g以下である。BET比表面積値が7m/gを超える場合、これを用いて得られる導電性ペーストの粘度が高くなるため好ましくない。銀微粒子のBET比表面積値の下限値は1.5m/g程度であり、より好ましくは2.0m/g程度である。
【0045】
本発明に係る銀微粒子の結晶子径(D)は30nm以上であることが好ましく、より好ましくは35〜95nm、より好ましくは40〜90nmである。結晶子径(D)が30nm未満の場合には、銀微粒子が不安定となり、常温においても部分的に焼結・融着が生じ始めるため好ましくない。
【0046】
本発明に係る銀微粒子の結晶化度[平均粒子径(DSEM)と結晶子径(D)の比(DSEM/D)]は2.7以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下、更により好ましくは2.3以下である。結晶化度が1に近づくほど、単結晶であることを示す。結晶化度が2.7を超える場合には、銀微粒子の熱収縮率が高いため、これを用いて得られる導電性ペーストより形成した微細な配線が基材から剥離したり、配線が細くなって高抵抗になったりする問題があるため好ましくない。
【0047】
本発明に係る銀微粒子表面の有機物残存量は0.5〜2.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.6〜1.9重量%であり、更により好ましくは0.7〜1.8重量%である。銀微粒子表面の有機物残存量が2.0重量%を超える場合には、銀微粒子表面に存在する有機物が多すぎるため、低温焼結性が損なわれる。また、0.5重量%未満の場合には、溶剤及び樹脂への濡れ性が低下し、これを用いて得られる導電性ペーストの均一分散性が損なわれるため好ましくない。
【0048】
本発明に係る銀微粒子の熱収縮率は、240℃における熱収縮率が2.0%以上であることが好ましく、より好ましくは2.1%以上である。一般に、銀微粒子を含む導電性ペーストより形成される銀の塗膜は、銀微粒子間に細かな隙間が生じており、この隙間をなくすことでより低抵抗な銀塗膜を得ることができるが、本発明に係る銀微粒子は、240℃における熱収縮率が2.0%以上と高いことにより、これを用いて得られる導電性ペーストより形成した塗膜の銀微粒子間の隙間が容易に埋まるため、より電気抵抗値を低減することが可能となる。
【0049】
本発明に係る銀微粒子の粒子形状は、球状もしくは粒状が好ましい。
【0050】
次に、本発明に係る銀微粒子を含む導電性ペーストについて述べる。
【0051】
本発明に係る導電性ペーストは、焼成型ペースト及びポリマー型ペーストのいずれの形態でもよく、焼成型ペーストの場合、本発明に係る銀微粒子及びガラスフリットからなり、必要に応じてバインダー樹脂、溶剤等の他の成分を配合してもよい。また、ポリマー型ペーストの場合、本発明に係る銀微粒子及び溶剤からなり、必要に応じて、バインダー樹脂、硬化剤、分散剤、レオロジー調整剤等の他の成分を配合してもよい。
【0052】
バインダー樹脂としては、当該分野において公知のものを使用することができ、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル等の各種変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。これらバインダー樹脂は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0053】
溶剤としては、当該分野において公知のものを使用することができ、例えば、テトラデカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、p−シメン、テトラリン及び石油系芳香族炭化水素混合物等の炭化水素系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコ−ルモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル又はグリコールエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶剤;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テルピネオール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール等のテルペンアルコール;n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;γ−ブチロラクトン及び水等が挙げられる。溶剤は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0054】
導電性ペースト中の銀微粒子の含有量は用途に応じて様々であるが、例えば配線形成用途の場合などは可能な限り100重量%に近いことが好ましい。
【0055】
本発明に係る導電性ペーストは、各成分を、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等の各種混練機、分散機を用いて、混合・分散させることにより得ることができる。
【0056】
本発明に係る導電性ペーストは、スクリーン印刷、インクジェット法、グラビア印刷、転写印刷、ロールコート、フローコート、スプレー塗装、スピンコート、ディッピング、ブレードコート、めっき等各種塗布方法に適用可能である。
【0057】
また、本発明に係る導電性ペーストは、FPD(フラットパネルディスプレイ)、太陽電池、有機EL等の電極形成やLSI基板の配線形成、更には微細なトレンチ、ビアホール、コンタクトホールの埋め込み等の配線形成材料として用いることができる。また、積層セラミックコンデンサや積層インダクタの内部電極形成用等の高温での焼成用途はもちろん、低温焼成が可能であることからフレキシブル基板やICカード、その他の基板上への配線形成材料及び電極形成材料として好適である。また、導電性被膜として電磁波シールド膜や赤外線反射シールド等にも用いることができる。エレクトロニクス実装においては部品実装用接合材として用いることもできる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0059】
銀微粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真「S−4800」(HITACHI製)を用いて粒子の写真を撮影し、該写真を用いて粒子100個以上について粒子径を測定し、その平均値を算出し、平均粒子径(DSEM)とした。
【0060】
銀微粒子の比表面積は、「モノソーブMS−11」(カンタクロム株式会社製)を用いて、BET法により測定した値で示した。
【0061】
銀微粒子のタップ密度(ρt)は、振盪比重測定器((株)蔵持科学機械製作所)を用い、25mlのタッピングセルに粉末を落下させ、セルが満杯に充填された後、ストローク長25mmでタッピングを600回行って測定した。
【0062】
銀微粒子の有機物残存量は、熱分析装置(Seiko Instruments Inc.製 EXSTAR 6000 TG/DTA6300)を用い、乾燥空気を300ml/minフローした条件下、室温(30℃)から550℃まで10℃/minで昇温加熱し、加熱始め(30℃)のサンプル量から減量が終了した時点(銀微粒子の酸化開始時点(サンプルによって異なるが、250〜300℃))までのサンプル量を差し引いた量で示した。
【0063】
銀微粒子の結晶子径(D)は、X線回折装置「RINT2500」(株式会社リガク製)を用いて、CuのKα線を線源とした面指数(1,1,1)面のピークの半値幅を求め、Scherrerの式より結晶子径を計算した。
【0064】
銀微粒子の結晶化度は、平均粒子径(DSEM)と結晶子径(D)の比(DSEM/D)で示した。
【0065】
銀微粒子の熱収縮率は、直径4mmの金型に高さ5mmのペレットになるように入れた銀微粒子に1,225.8Nの荷重をかけて作製したペレット状の銀微粒子試料を、熱機械分析装置「Thermo Plus2 TMA8310」(株式会社リガク製)を用いて、30〜300℃まで昇温速度10℃/分で加熱した試料の長さを測定し、下記数1に従って算出した値である。
【0066】
<数1>
240℃における熱収縮率(%)={(30℃における試料の長さ−240℃における試料の長さ)/30℃における試料の長さ}×100
【0067】
導電性塗膜の比抵抗は、後述する導電性ペーストをポリイミドフィルム上に塗布し、120℃で予備乾燥後、150℃において10分間加熱硬化させた後、1molのHCl水溶液に20秒間浸漬し、水洗した後、再度150℃で1分間加熱乾燥して得られた導電性膜それぞれについて、4端子電気抵抗測定装置「ロレスタGP/MCP−T600」(株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定し、シート抵抗と膜厚より比抵抗を算出した。
【0068】
<実施例1−1:銀微粒子の製造>
60Lの容器に硝酸銀2.8kgと水25.2Lと高分子保護剤「DISPERBYK−190」(商品名:ビックケミー・ジャパン株式会社製)(酸価10mgKOH/kg、アミン価0mgKOH/kg)92gを加えて混合・攪拌してA液を調製した。別に、50Lの容器にN,N−ジメチルエタノールアミン4.41kgと低分子保護剤としてヘプタン酸214.5gを加えて混合・攪拌を行った後、水18.8Lを加えて混合・攪拌を行い、B液を調製した。
【0069】
次いで、混合溶液の温度が35℃以下になるようコントロールしつつA液にB液を滴下し、70℃まで昇温した後3時間攪拌し、30分間静置して固形物を沈降させた。上澄み液を取り除いた後、純水を用いて洗浄し、上澄み液の電導度が50μS/cm以下になるまでデカンテーション・水洗を繰り返した。
【0070】
得られた銀微粒子を含む含水率55%の含水物を真空凍結乾燥機に入れ、真空度を10Pa程度まであげて品温を−30℃にして自己凍結させた。その後、真空度を10Paに維持したまま40℃まで昇温し(品温は30℃程度)、その状態を2時間保持した後、粉砕して実施例1−1の銀微粒子を得た。
【0071】
得られた銀微粒子の粒子形状は粒状、平均粒子径(DSEM)は72nm、結晶子径(D)は41.8nm、結晶化度(DSEM/D)は1.7、タップ密度(ρt)は4.59g/cm、BET比表面積値は3.5m/gであり、有機物残存量は1.37重量%、熱収縮率は2.63%であった。
【0072】
<実施例2−1:導電性ペーストの製造>
実施例1−1の銀微粒子100重量部に対してポリエステル樹脂11.0重量部及び硬化剤1.4重量部と、導電性ペーストにおける銀微粒子の含有量が70wt%となるようにジエチレングリコールモノエチルエーテルを加え、自転・公転ミキサー「あわとり練太郎 ARE−310」(株式会社シンキー社製、登録商標)を用いてプレミックスを行った後、3本ロールを用いて均一に混練・分散処理を行い、導電性ペーストを得た。
【0073】
上記で得られた導電性ペーストを膜厚50μmのポリイミドフィルム上に塗布し、120℃で予備乾燥後、150℃において10分間加熱硬化させた後、1molのHCl水溶液に20秒間浸漬し、水洗した後、再度150℃で1分間加熱乾燥することにより導電性塗膜を得た。
【0074】
得られた導電性塗膜の比抵抗は、7.5μΩ・cmであった。
【0075】
実施例1−2〜1−3及び比較例1−1〜1−2:
銀微粒子の生成条件を種々変更することにより、銀微粒子を得た。
【0076】
このときの製造条件を表1に、得られた銀微粒子の諸特性を表2に示す。
【0077】
比較例1−3:特開2010−229544(実施例1の追試)
硝酸銀66.8g、カルボキシル基を有する凝集助剤として酢酸10g、高分子分散剤としてカルボキシル基を有する高分子分散剤「DISPERBYK−190」(商品名:ビックケミー・ジャパン株式会社製)2.0gを、イオン交換水100gに投入し、激しく撹拌した。これにN,N−ジメチルエタノールアミン100gを徐々に加えたところ、反応溶液が60℃まで上昇した。液温が50℃に下がったところで70℃に設定されたウォーターバス中で2時間加熱撹拌した。1時間後、銀コロイド粒子凝集体が灰色の沈殿物として得られた。
【0078】
次いで、銀コロイド粒子凝集体が沈殿した反応溶液の上澄み液を除去し、イオン交換水で希釈した。静置した後、上澄み液を除去し、メタノールでさらに希釈した。再度、静置後、上澄み液を除去し、メタノールで希釈した。その後、メンブレンフィルタ(アドバンテック社製、ポアサイズ0.5μm)を付けた加圧ろ過機で銀コロイド粒子凝集体を回収した。得られた銀コロイド粒子凝集体の諸特性を表2に示す。
【0079】
比較例1−4:特開2009−120949(実施例1の追試)
1Lビーカーの反応槽に水273gを入れ、残存酸素を除くため反応槽下部から窒素を500mL/分の流量で600秒間流した後、反応槽上部から500mL/分の流量で供給し、反応槽中を窒素雰囲気とした。攪拌棒の回転速度が280から320rpmになるように調整し、反応槽内の溶液温度が60℃になるように温度調整を行なった。
【0080】
アンモニア水(アンモニアとして30質量%含有する)7.5gを反応槽に投入した後、液を均一にするために1分間攪拌し、次いで、保護剤としてヘキサン酸7.5g(銀に対して2.01molに相当する)を添加し、保護剤を溶解するため10分間攪拌した。その後、還元剤として50重量%のヒドラジン水和物水溶液を20.9g添加した。
【0081】
別の容器に硝酸銀結晶36gを水175gに溶解した硝酸銀水溶液を用意し、これを原料液とした。なお、硝酸銀水溶液は反応槽内の溶液と同じ60℃に温度調整を行なった。
【0082】
その後、原料液を還元液に一挙添加により加え、還元反応を行った。攪拌は連続して行い、その状態のまま10分間熟成させた。その後、攪拌を止め、濾過・洗浄工程、乾燥工程を経て、微小銀粒子塊を得た。得られた微小銀粒子塊の諸特性を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
<導電性塗料の製造>
実施例2−2〜2−3及び比較例2−1〜2−4:
銀微粒子の種類を種々変化させた以外は、前記実施例2−1の導電性塗料の作製方法に従って導電性塗料及び導電性膜を製造した。
【0086】
このときの製造条件及び得られた導電性塗膜の諸特性を表3に示す。
【0087】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0088】
一般に、銀微粒子の粒子サイズが小さくなるほどタップ密度は小さくなる傾向にあるが、本発明に係る銀微粒子の製造法は、前記平均粒子径(DSEM)が30〜100nmと微粒子であるにもかかわらず、3.0g/cm以上の高いタップ密度を有する銀微粒子を得ることができるため、低温焼結性並びに電極や回路パターン中における充填性に優れた銀微粒子の製造法として好適である。
【0089】
また、本発明に係る銀微粒子は、上記製造法により、平均粒子径(DSEM)が30〜100nmと微粒子であるにもかかわらず、3.0g/cm以上の高いタップ密度を有していることから、基板上に形成された電極や回路パターン中における充填性に優れた導電性ペースト等の原料として好適である。