特許第5924489号(P5924489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924489
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】強化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 27/012 20060101AFI20160516BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20160516BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   C03B27/012
   C03C21/00 101
   C03C3/083
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-139358(P2012-139358)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-1121(P2014-1121A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田部 昌志
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−251879(JP,A)
【文献】 特開2012−087040(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/077796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00 − 35/26
C03C 3/083
C03C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化用ガラスをイオン交換処理して、圧縮応力層を有する強化ガラスを得た後、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)が120〜1200MPaになるように、300℃以上、且つ(イオン交換処理の温度+10℃)未満の熱処理温度で、強化ガラスを熱処理炉で熱処理することを特徴とする強化ガラスの製造方法。
【請求項2】
熱処理温度がイオン交換処理の温度より低いことを特徴とする請求項1に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項3】
熱処理時間が5〜250分間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
熱処理後に、強化ガラスを切断することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項5】
イオン交換処理と熱処理を連続的に行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項6】
圧縮応力層の圧縮応力値(CS)が480〜850MPaになるように、強化ガラスを熱処理することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
圧縮応力層の応力深さ(DOL)が17.0超〜35μmになるように、強化ガラスを熱処理することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
強化用ガラスが、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜71%、Al 7〜23%、LiO 0〜1%、NaO 7〜20%、KO 0〜15%を含有することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
強化用ガラスが、未研磨の表面を有することを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
強化用ガラスが、オーバーフローダウンドロー法により成形されていることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラスの製造方法に関し、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイの基板の製造方法に関する。
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイ、大型テレビ、非接触給電等のデバイスは、益々普及する傾向にある。
【0003】
従来、これらの用途では、ディスプレイを保護するための保護部材としてアクリル等の樹脂板が用いられていた。しかし、樹脂は、ヤング率が低いため、ペンや人の指などでディスプレイの表示面が押された場合に撓み易い。このため、樹脂板が内部のディスプレイに接触して、表示不良が発生することがあった。また、樹脂板は、表面に傷が付き易く、視認性が低下し易いという問題もあった。これらの問題を解決する方法は、保護部材としてガラス板を用いることである。この用途のガラス板には、(1)高い機械的強度を有すること、(2)低密度で軽量であること、(3)安価で多量に供給できること、(4)泡品位に優れること、(5)可視域において高い光透過率を有すること、(6)ペンや指等で表面を押した際に撓み難いように高いヤング率を有すること等が要求される。特に(1)の要件を満たさない場合は、保護部材として用を足さなくなるため、従来からイオン交換処理により強化した強化ガラスが用いられている(特許文献1、2、非特許文献1参照)。
【0004】
従来まで、強化ガラスは、予め強化用ガラスを所定形状に切断加工した後、イオン交換処理を行うこと、所謂、「強化前切断」で作製されていたが、近年、大板の強化用ガラスをイオン交換処理した後、所定サイズに切断加工すること、所謂、「強化後切断」が検討されている。強化後切断を行うと、強化ガラスや各種デバイスの製造効率が飛躍的に向上する。しかし、強化後切断を行う場合、圧縮応力層の存在により、切断時に破損や不当なクラック等が発生し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【特許文献2】特開2011−88763号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
強化ガラスの強化特性を表す指標として、圧縮応力値(CS:Compressive Stress)と応力深さ(DOL:Depth Of Layer)があるが、強化前切断の場合、強化ガラスは、デバイスの使用時に、内部の引っ張り応力による自己破壊を生じないことを限度として、できるだけ圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)を大きくすることが重要になる。一方、強化後切断の場合、切断時に破損や不当なクラックが発生しないような応力設計を行う必要がある。従って、強化前切断と強化後切断では、通常、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)のターゲットが異なる。
【0008】
ところで、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)は、強化用ガラスの材質とイオン交換溶液の組成が同一の場合、イオン交換温度とイオン交換時間により一義的に定まる。このため、強化用ガラスの材質とイオン交換溶液の組成が同一の場合、応力設計の自由度を高めることが困難である。なお、現在、イオン交換溶液として、硝酸カリウム溶液が使用されており、イオン交換効率の観点から、この組成を大幅に変更することは困難である。
【0009】
従来までは、要求される圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)に応じて、強化用ガラスの材質を変えていた。例えば、強化後切断と強化前切断では、異なる材質の強化用ガラスを用いていた。しかし、要求される圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)に応じて、強化用ガラスの材質を変えることは、少量多品種となり、製造コストが高騰する虞がある。逆に言えば、同一材質の強化用ガラスにおいて、応力設計の自由度を高めることができれば、同一材質で強化前切断と強化後切断に対応可能になり、製造面から大きなメリットがあると言える。
【0010】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、強化用ガラスの材質を変更しなくても、強化ガラスの応力設計の自由度を高め得る方法を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、強化ガラスに対して、所定の熱処理を行うことにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスの製造方法は、強化用ガラスをイオン交換処理して、圧縮応力層を有する強化ガラスを得た後、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)が120〜1200MPaになるように、300℃以上、且つ(イオン交換処理の温度+10℃)未満の熱処理温度で、強化ガラスを熱処理することを特徴とする。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値(CS)」及び「応力深さ(DOL)」は、表面応力計(株式会社折原製作所製FSM−6000)を用いて試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される。また、「イオン交換処理の温度」は、例えばイオン交換処理を行う際のイオン交換溶液(硝酸カリウム等)の温度を指す。
【0012】
本発明者の調査により、イオン交換処理後の強化ガラスに対して、所定の熱処理を行うと、強化ガラスの内部でイオン交換が進行して、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)が低下しつつ、応力深さ(DOL)が大きくなることが判明した。例えば、日本電気硝子株式会社製CX−01を380℃で100分間熱処理すると、圧縮応力値(CS)が約30%低下し、応力深さ(DOL)が約30%大きくなる。この現象を利用すれば、強化ガラスの材質が同一であっても、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)を変動させることが可能になり、結果として強化ガラスの応力設計の自由度を高めることができる。
【0013】
第二に、本発明の強化ガラスの製造方法は、熱処理温度がイオン交換処理の温度より低いことが好ましい。このようにすれば、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)の値を制御し易くなる。
【0014】
第三に、本発明の強化ガラスの製造方法は、熱処理時間が5〜250分間であることが好ましい。このようにすれば、製造効率の低下を招くことなく、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)を変動させ易くなる。
【0015】
第四に、本発明の強化ガラスの製造方法は、熱処理後に、強化ガラスを切断することが好ましい。
【0016】
第五に、本発明の強化ガラスの製造方法は、イオン交換処理と熱処理を連続的に行うことが好ましい。このようにすれば、強化ガラスの製造効率を高めることができる。ここで、「イオン交換処理と熱処理を連続的に行う」とは、例えば、イオン交換処理により加熱された強化ガラスを常温環境下まで冷却する前に、所定の熱処理を行う場合を指す。
【0017】
第六に、本発明の強化ガラスの製造方法は、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)が480〜850MPaになるように、強化ガラスを熱処理することが好ましい。このようにすれば、強化ガラスの機械的強度を維持した上で、強化後切断を行い易くなる。
【0018】
第七に、本発明の強化ガラスの製造方法は、圧縮応力層の応力深さ(DOL)が17.0超〜35μmになるように、強化ガラスを熱処理することが好ましい。このようにすれば、強化ガラスの機械的強度を維持した上で、強化後切断を行い易くなる。
【0019】
第八に、本発明の強化ガラスの製造方法は、強化用ガラスが、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜71%、Al 7〜23%、LiO 0〜1%、NaO 7〜20%、KO 0〜15%を含有することが好ましい。このようにすれば、イオン交換効率と耐失透性を高いレベルで両立することができる。
【0020】
第九に、本発明の強化ガラスの製造方法は、強化用ガラスが、未研磨の表面を有することが好ましい。なお、強化ガラスの端面には、面取り等の研磨処理やエッチング処理がなされていてもよい。
【0021】
第十に、本発明の強化ガラスの製造方法は、強化用ガラスが、オーバーフローダウンドロー法により成形されていることが好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を成形する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態において、圧縮応力値(CS)と熱処理時間の関係を示したデータである。
図2】本発明の一実施形態において、応力深さ(DOL)と熱処理時間の関係を示したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の強化ガラスの製造方法では、強化用ガラスをイオン交換処理して、圧縮応力層を有する強化ガラスを得る。イオン交換処理は、強化用ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラス表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。イオン交換処理によれば、強化用ガラスの厚みが小さくても、圧縮応力層を形成することができる。その結果、所望の機械的強度を得ることができる。
【0024】
イオン交換溶液、イオン交換温度及びイオン交換時間は、強化用ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、硝酸カリウム溶液中のKイオンを強化用ガラス中のNa成分とイオン交換処理すると、ガラス表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
【0025】
本発明の強化ガラスの製造方法は、圧縮応力値(CS)が120〜1200MPa、好ましくは300〜900MPa、より好ましくは480〜850MPa、特に好ましくは500〜700MPaになるように、強化ガラスを熱処理することを特徴とする。熱処理後の圧縮応力値(CS)が120MPa未満であると、強化ガラスの機械的強度を確保し難くなる。一方、熱処理後に圧縮応力値(CS)が1200MPa超であると、強化後切断を適正に行うことが困難になる。
【0026】
本発明の強化ガラスの製造方法は、応力深さ(DOL)が15〜45μm、特に17.0超〜35μmになるように、強化ガラスを熱処理することが好ましい。熱処理後の応力深さ(DOL)が15μm未満であると、強化ガラスの機械的強度を確保し難くなる。一方、熱処理後に応力深さ(DOL)が45μm超であると、強化後切断を適正に行うことが困難になる。
【0027】
本発明の強化ガラスの製造方法は、300℃以上、且つ(イオン交換処理の温度+10℃)未満、好ましくは350℃以上、且つイオン交換処理の温度以下、より好ましくは300℃以上、且つ(イオン交換処理の温度−10℃)以下の熱処理温度で強化ガラスを熱処理することを特徴とする。熱処理温度が300℃より低いと、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)の変動幅が小さくなり、強化ガラスの応力設計の自由度を高め難くなる。熱処理温度が(イオン交換処理の温度+10℃)以上になると、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)の値を制御し難くなる。なお、熱処理温度が極端に高くなると、圧縮応力層の消失や強化ガラスの寸法変化が生じる虞もある。
【0028】
本発明の強化ガラスの製造方法において、熱処理時間は、好ましくは5〜250分間、10〜200分間である。熱処理時間が短過ぎると、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)の変動幅が小さくなり、強化ガラスの応力設計の自由度を高め難くなる。一方、熱処理時間が長過ぎると、強化ガラスの製造効率が低下し易くなる。
【0029】
本発明の強化ガラスの製造方法は、イオン交換処理と熱処理を連続的に行うことが好ましく、特に、製造効率の観点から、イオン交換槽に予熱槽を設けた上で、イオン交換処理後の強化ガラスを所定温度の予熱槽内に移動した後、所定時間保持して、熱処理を行うことが好ましい。
【0030】
熱処理は、例えば、電気炉、コンベア炉等の熱処理炉により行うこともできる。
【0031】
熱処理された強化ガラスを常温環境下に取り出す前に、温度勾配を付けて、強化ガラスを徐々に冷却することが好ましい。このようにすれば、急冷却により強化ガラスが収縮する事態を回避することができ、結果として取り出しの際に、強化ガラスが破損し難くなる。
【0032】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)は、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜71%、Al 7〜23%、LiO 0〜1%、NaO 7〜20%、KO 0〜15%を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、特に断りがある場合を除き、%表示は質量%を指す。
【0033】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は、好ましくは40〜71%、40〜70%、40〜63%、45〜63%、50〜59%、特に55〜58.5%である。SiOの含有量が多くなり過ぎると、ガラスの溶融、成形が難しくなったり、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。また熱膨張係数が高くなり、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0034】
Alはイオン交換性能を高める成分である。また歪点やヤング率を高める効果もあり、その含有量は7〜23%である。Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなってオーバーフローダウンドロー法による成形が困難になる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったり、高温粘性が高くなり溶融し難くなる。Alの含有量が少な過ぎると、十分なイオン交換性能を発揮できない虞が生じる。上記観点から、Alの好適な上限範囲は、21%以下、20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、特に16.5%以下であり、またAlの好適な下限範囲は、7.5%以上、8.5%以上、9%以上、10%以上、11%以上、特に12%以上である。
【0035】
LiOは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。さらにLiOは、ヤング率を高める成分である。またLiOはアルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値(CS)を高める効果が高い。しかし、LiOの含有量が多くなり過ぎると液相粘度が低下してガラスが失透し易くなる。また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて応力緩和が起こり易くなると、かえって圧縮応力値(CS)が低くなる場合がある。よって、LiOの含有量は、好ましくは0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%であり、実質的に含有しないこと、つまり0.01%未満に抑えることが望ましい。
【0036】
NaOは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量は、好ましくは7〜20%、10〜20%、10〜19%、12〜19%、12〜17%、13〜17%、特に14〜17%である。NaOの含有量が多くなり過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。一方、NaOの含有量が少ないと、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下し易くなる。
【0037】
Oは、イオン交換を促進する効果があり、アルカリ金属酸化物の中では応力深さを大きくする効果が高い成分である。また高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。また、KOは、耐失透性を改善する成分でもある。KOの含有量は0〜15%が好ましい。KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、特に6%以下である。
【0038】
アルカリ金属酸化物RO(RはLi、Na、Kから選ばれる1種以上)の合量が多くなり過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、アルカリ金属酸化物ROの合量が多くなり過ぎると、歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値(CS)が得られない場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保することが困難となる場合がある。よって、ROの合量は、好ましくは22%以下、20%以下、特に19%以下である。一方、ROの合量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下する場合がある。よって、ROの合量は、好ましくは8%以上、10%以上、13%以上、特に15%以上である。
【0039】
上記成分以外にも、以下の成分を添加してもよい。
【0040】
例えばアルカリ土類金属酸化物R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上)は、種々の目的で添加可能な成分である。しかし、アルカリ土類金属酸化物R’Oが多くなると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下することに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。よって、アルカリ土類金属酸化物R’Oの合量は、好ましくは0〜9.9%、0〜8%、0〜6%、特に0〜5%である。
【0041】
MgOは、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が高い。しかし、MgOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。MgOの含有量は、好ましくは0〜9%、特に1〜8%である。
【0042】
CaOは、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が高い。CaOの含有量は0〜6%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなったり、更にはイオン交換性能が低下する場合がある。したがって、CaOの含有量は、好ましくは0〜4%、0〜3%、0〜2%、0〜1%、特に0〜0.1%である。
【0043】
SrO及びBaOは、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は各々0〜3%が好ましい。SrOやBaOの含有量が多くなると、イオン交換性能が低下する傾向がある。また密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。SrOの含有量は、好ましくは2%以下、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。またBaOの含有量は、好ましくは2.5%以下、2%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。
【0044】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高めると共に、ヤング率や歪点を高くし、高温粘性を低下させる効果がある。また液相粘度付近の粘性を高める効果があるため、所定量含有させることで、イオン交換性能と液相粘度を同時に高めることができる。ただし、ZrOの含有量が多くなり過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。よって、ZrOの含有量は、好ましくは0〜10%、0.001〜10%、0.1〜9%、0.5〜7%、0.8〜5%、1〜5%、2.5〜5%である。
【0045】
は、液相温度、高温粘度、密度を低下させる効果を有すると共に、イオン交換性能、特に圧縮応力値(CS)を高める効果を有する。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換処理によって表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、液相粘度が低下する虞がある。また応力深さが低下する傾向にある。よって、Bの含有量は、好ましくは0〜6%、0〜3%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
【0046】
TiOは、イオン交換性能を高める効果がある成分である。また高温粘度を低下させる効果がある。しかし、TiOの含有量が多くなり過ぎると、ガラスが着色したり、失透性が低下したり、密度が高くなる。特にディスプレイのカバーガラスとして使用する場合、TiOの含有量が多くなると、溶融雰囲気や原料を変更した時、透過率が変化し易くなる。そのため紫外線硬化樹脂等の光を利用して強化ガラスをデバイスに接着する工程において、紫外線照射条件が変動し易くなり、安定生産が困難となる。よって、TiOの含有量は、好ましくは10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、2%以下、0.7%以下、0.5%以下、0.1%以下、特に0.01%以下である。
【0047】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に、応力厚みを大きくする効果が高い成分である。しかし、Pの含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐水性や耐失透性が低下し易くる。よって、Pの含有量は、好ましくは5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下である。
【0048】
清澄剤としてAs、Sb、CeO、F、SO、Clの群から選択された一種又は二種以上を0.001〜3%含有させてもよい。ただし、As及びSbは環境に対する配慮から、使用は極力控えることが好ましく、各々の含有量を0.1%未満、更には0.01%未満に制限することが望ましい。またCeOは、透過率を低下させる成分であるため、その含有量を0.1%未満、更には0.01%未満に制限することが望ましい。またFは、低温粘性を低下させ、圧縮応力値(CS)の低下を招く虞があるため、その含有量を0.1%未満、特に0.01%未満に制限することが好ましい。よって、好ましい清澄剤は、SOとClであり、SOとClの1者又は両者を、0.001〜3%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、更には0.05〜0.4%添加することが好ましい。
【0049】
NbやLa等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると耐失透性が低下する。よって、それらの含有量は、好ましくは3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0050】
Co、Ni等のガラスを強く着色するような遷移金属元素は、強化ガラスの透過率を低下させる虞がある。特に、タッチパネルディスプレイ用途に用いる場合、遷移金属元素の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれる。具体的には、それらの含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下となるように、原料又はカレットの使用量を調整することが望ましい。
【0051】
本発明に係る強化用ガラスにおいて、密度は2.6g/cm以下、特に2.55g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
【0052】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)において、熱膨張係数は、好ましくは80×10−7〜120×10−7/℃、85×10−7〜110×10−7/℃、90×10−7〜110×10−7/℃、特に90×10−7〜105×10−7/℃である。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
【0053】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)において、歪点は、好ましくは500℃以上、520℃以上、530℃以上、特に550℃以上である。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラスを熱処理する場合、圧縮応力層が消失し難くなる。更にタッチパネルセンサー等のパターニングにおいて、高品位な膜を形成し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物の含有量を低減すれば、歪点が高くなり易い。
【0054】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)において、104.0dPa・sにおける温度は、好ましくは1280℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1180℃以下、特に1160℃以下である。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0055】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)において、102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1620℃以下、1550℃以下、1530℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下である。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。よって、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0056】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)において、液相温度は、好ましくは1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に880℃以下である。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
【0057】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)において、液相粘度は、好ましくは104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.4dPa・s以上、105.6dPa・s以上、106.0dPa・s以上、106.2dPa・s以上、特に106.3dPa・s以上である。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
【0058】
本発明に係る強化ガラスは、未研磨の表面を有することが好ましく、特に両表面が未研磨であることが好ましく、また未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は好ましくは10Å以下、より好ましくは5Å以下、より好ましくは4Å以下、さらに好ましくは3Å以下、最も好ましくは2Å以下である。なお、平均表面粗さ(Ra)はSEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定すればよい。ガラスの理論強度は本来非常に高いが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これはガラス表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。それ故、強化ガラスの表面を未研磨とすれば、本来の強化ガラスの機械的強度が維持されて、強化ガラスが破壊し難くなる。また、強化後切断を行う場合、表面が未研磨であると、切断時に不当なクラック、破損等が生じ難くなる。更に、強化ガラスの表面を未研磨とすれば、研磨工程を省略し得るため、強化用ガラスの製造コストを下げることができる。なお、未研磨の表面を得るためには、強化用ガラスの成形をオーバーフローダウンドロー法で行えばよい。
【0059】
本発明に係る強化ガラスにおいて、端面から破壊に至る事態を防止するため、端面に面取り加工やエッチング処理等を行うことが好ましい。
【0060】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)において、厚み(板状の場合は板厚)は、好ましくは3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に0.7mm以下である。一方、厚みが小さ過ぎると、反り量が大きくなる傾向があり、また所望の機械的強度を得難くなる。よって、厚みは、好ましくは0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、特に0.4mm以上である。
【0061】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)は、オーバーフローダウンドロー法で成形されていることが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラスを成形することができる。この理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、表面となるべき面が樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるからである。更に、オーバーフローダウンドロー法であれば、厚み0.5mm以下のガラス板を適正に成形することができる。樋状構造物の構造や材質は、所望の寸法や表面品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うために、ガラスに対して力を印加する方法は、所望の寸法や表面品位を実現できるものであれば、特に限定されない。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラスに接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラスの端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。
【0062】
本発明に係る強化用ガラス(及び強化ガラス)は、オーバーフローダウンドロー法以外にも、スロットダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法、リドロー法等で成形することもできる。特に、フロート法で成形すれば、大型のガラス板を安価に作製することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0064】
表1は、本発明の実施例(試料No.2〜5)及び比較例(試料No.1)を示している。
【0065】
【表1】
【0066】
最初に、寸法40mm×80mm×0.7mm厚の強化用ガラスを用意した。この強化用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 57.4%、Al 13%、B 2%、MgO 2%、CaO 2%、LiO 0.1%、NaO 14.5%、KO 5%,ZrO 4%を含有する。
【0067】
この強化用ガラスは、オーバーフローダウンドロー法により成形されており、表面が未研磨である。
【0068】
上記強化用ガラスを400℃の硝酸カリウム溶液に80分間浸漬することにより、イオン交換処理を行い、強化ガラスを得た。
【0069】
次に、得られた強化ガラスを380℃に保持された槽に移動して、所定時間の熱処理(10分間、80分間、100分間、180分間)を行った。熱処理後に、強化ガラスを常温環境下に取り出して、試料No.2〜5を得た。なお、試料No.1は、熱処理が行われておらず、イオン交換処理の後、常温環境下に取り出されたものである。
【0070】
各試料を洗浄した後、表面応力計(株式会社折原製作所製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)を算出した。算出に当たり、試料の屈折率を1.53、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。その結果を表1、図1、及び図2に示す。
【0071】
表1、図1、及び図2から明らかなように、イオン交換処理後に、強化ガラスを熱処理すると、圧縮応力値(CS)が低下すると共に、応力深さ(DOL)が大きくなる。そして、熱処理時間が長くなる程、圧縮応力値(CS)が低下すると共に、応力深さ(DOL)が大きくなる。従って、強化ガラスに対して、所定の熱処理を行うと、圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)が変動することが分かる。
【0072】
更に、試料No.2〜5について、寸法40mm×40mm×0.7mm厚の寸法になるように、ダイヤモンドチップにより50mm/秒の速度でスクライブ線を入れた後、折割操作を行ったところ、破損等の不具合が発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の強化ガラスの製造方法によれば、携帯電話、デジタルカメラ、PDA、太陽電池等のカバーガラス、あるいはタッチパネルディスプレイ基板を好適に作製することができる。また、本発明の強化ガラスの製造方法は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、固体撮像素子用カバーガラス、食器等の製造方法として、応用が期待できる。
図1
図2