(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(B)成分の含有割合が、前記(C)成分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である、請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
前記含フッ素エチレン系単量体に由来する繰り返し単位の含有割合が、前記(A)重合体粒子100質量部中1〜50質量部である、請求項7に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含む。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜」および「メタクリル酸〜」の双方を包括する概念である。
【0021】
1.蓄電デバイス電極用スラリー
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極用スラリー(以下、単に「電極用スラリー」ともいう)は、(A)重合体粒子(以下、単に「バインダー」または「(A)成分」ともいう)と、(C)リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子(以下、単に「(C)成分」ともいう)と、(D)水(以下、単に「(D)成分」ともいう)と、を含有し、前記電極用スラリー100質量%中、ナトリウムおよびカリウムの合計含有量が0.02質量%未満である。本実施の形態に係る電極用スラリーは、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスに用いられる電極を作製する用途に用いられる。具体的には、電極用スラリーを集電体表面に塗布して乾燥させることにより、活物質である(C)成分がバインダーを介して集電体に結着された電極を作製することができる。本実施の形態に係る電極用スラリーは、(D)水中に(A)重合体粒子と(C)リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子とが分散している状態で存在する水系分散液である。
【0022】
上述のように本実施の形態に係る電極用スラリーにおいて、前記電極用スラリー100質量%中、ナトリウムおよびカリウムの合計含有量が0.02質量%未満であり、0.000005〜0.018質量%であることが好ましく、0.0001〜0.015質量%であることがより好ましく、0.0007〜0.006質量%であることが最も好ましい。
【0023】
ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属は、電極用スラリーを集電体に塗布して乾燥させる工程において除去することができず、塗布後の活物質層に残留する。その結果、蓄電デバイスが充放電を繰り返すことにより徐々に集電体の腐食が促進されて耐久性が劣化したり、活物質と反応して充放電に寄与することのできない不活性酸化物の生成を促進するなど、多くの問題がある。しかしながら、ナトリウムおよびカリウムの合計含有量が前記範囲である場合、良好な充放電特性を発現させることができる。ナトリウムおよびカリウムの合計含有量が前記範囲にない場合、電極用スラリー中において(C)成分が変質しやすくなり、電極用スラリーのpHが上昇する傾向がある。これにより、集電体の腐食が促進されて、蓄電デバイスの内部抵抗値が上昇するなど電気特性が著しく低下する。
【0024】
なお、本願において電極用スラリーに含有されるナトリウムの含有量およびカリウムの含有量は、電極用スラリーを遠心分離して得られる上澄み液をICP発光分析法(ICP−AES)またはICP質量分析法(ICP−MS)を用いて定量した値である。ICP発光分析装置として、例えば「ICPE−9000(島津製作所社製)」等を使用することができる。ICP質量分析装置として、例えば「ICPM−8500(島津製作所社製)」、「ELAN DRC PLUS(パーキンエルマー社製)」等を使用することができる。なお、本明細書に記載されているナトリウムおよびカリウムの含有量は、電極用スラリー100質量%中のナトリウムおよびカリウムの質量%である。以下、本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる成分について詳述する。
【0025】
1.1.(A)重合体粒子
本実施の形態に係る電極用スラリーは(A)重合体粒子を含有する。この(A)重合体粒子を構成する重合体は、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を有するが、該繰り返し単位のうち少なくとも一部がカルボン酸オニウム塩であることが好ましい。不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位のうち少なくとも一部がカルボン酸オニウム塩であることにより、後述する(C)成分の水との混合による変質を効果的に抑制することができる。これにより、電極用スラリー中で(C)成分の変質に伴って生じるNiイオン等の溶出が抑制される。その結果、電極用スラリーのpH低下を抑制でき、さらには集電体の腐食も抑制されるため、より良好な電気特性と密着性とが両立された活物質層を集電体の表面に形成することができる。
【0026】
また、上述した作用効果は、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位のうち少なくとも一部がカルボン酸オニウム塩であればより効果的に得られるが、カルボン酸オニウム塩の割合が高くなればなるほど得られやすい。したがって、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の全部がカルボン酸オニウム塩であることが好ましい。
【0027】
なお、前記不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位がアルカリ金属塩である場合には、電極用スラリー中において(C)成分が変質しやすくなり、電極用スラリーのpHが低下する傾向がある。これにより、集電体の腐食が促進されて、ひいては電気特性が著しく低下する。さらに、アルカリ金属は、電極用スラリーを集電体に塗布して乾燥させる工程において除去することができず、塗布後の活物質層に残留する。その結果、蓄電デバイスが充放電を繰り返すことにより徐々に集電体の腐食が促進されて耐久性が劣化したり、活物質と反応して充放電に寄与することのできない不活性酸化物の生成を促進するなど、多くの問題がある。
【0028】
(A)重合体粒子としては特に限定されないが、具体的には、乳化重合、播種乳化重合、懸濁重合、播種懸濁重合、溶液析出重合等の方法によって得られる重合体粒子(以下、「未処理重合体粒子」ともいう)の水系分散液をそのまま使用することができる。この水系分散液に、アンモニア、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミン等)等の水溶液を加えて塩を形成させてもよい。特にアンモニア水溶液を用いて塩を形成させることにより、活物質の変質および集電体の腐食を効果的に抑制でき、蓄電特性をより向上させることが可能となる。また、アンモニア水溶液を用いて塩を形成させた場合、電極用スラリーを集電体に塗布して乾燥させる工程において乾燥温度を制御することにより、全部または一部のアンモニウム塩を分解除去することもできる。その結果、蓄電デバイスの特性に応じて塗布後の活物質層の電気特性をファインチューニングすることができる。
【0029】
なお、未処理重合体粒子を得る方法としては、重合体を溶剤に溶解ないし膨潤させ、該溶媒と相溶しない媒体中で攪拌混合した後、脱溶剤する溶解分散法も可能である。さらに、これらの方法により得られた重合体粒子に対して化学修飾や、電子線照射等の物理的変性を行ってもよい。
【0030】
上記の未処理重合体粒子を得るための重合性不飽和単量体は、特に限定されるものではない。かかる単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)メタクリル酸n−デシル、クロトン酸イソアミル、クロトン酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、マレイン酸モノメチル等の不飽和カルボン酸エステル;
フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等の含フッ素エチレン系単量体;
1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等の共役ジエン化合物;
スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有ビニル化合物;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;
エチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物等が挙げられる。これらの単量体は、一種単独または二種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
なお、(A)重合体粒子は、上記含フッ素エチレン系単量体に由来する繰り返し単位と、上記不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位と、を有する重合体粒子であることが好ましい。これにより、含フッ素エチレン系単量体に由来する良好な耐酸化性と、不飽和カルボン酸エステルに由来する良好な密着性と、を同時に発現させることができ、より良好な充放電特性を示す電極を製造することができる。
【0032】
上記含フッ素エチレン系単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、(A)重合体粒子100質量部中1〜50質量部であることが好ましく、2〜20質量部であることがより好ましい。また、上記不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位の含有割合は、(A)重合体粒子100質量部中50〜90質量部であることが好ましく、65〜85質量部であることがより好ましい。各々の繰り返し単位の含有割合が上記範囲であると、良好な耐酸化性と、良好な密着性と、を同時に発現させることが容易となり、より良好な充放電特性を示す電極を製造することができる。
【0033】
上記の未処理重合体粒子に不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を導入するための重合性不飽和単量体についても特に限定されるものではない。かかる単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸化合物等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸から選択される1種以上であることが好ましい。これらの単量体は、一種単独または二種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
重合体粒子(A)中の不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位を100質量部とした場合に0.1〜15質量部以下であることが好ましく、0.3〜10質量部であることがより好ましい。不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあると、上述した作用効果がより効果的に得られる。また、経時的なスラリー粘度の上昇も抑えることができる。
【0035】
また、上記単量体を主とし、これに少量の架橋性単量体を加えて重合することにより、バインダーとなる重合体に架橋構造を付与することは、重合体粒子が分散媒体や電解液に溶解しにくくなるので好ましい。かかる架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール等の多官能ジメタクリル酸エステル;トリメタクリル酸トリメチロールプロパン等の多官能トリメタクリル酸エステル;ジアクリル酸ポリエチレングリコール、ジアクリル酸1,3−ブチレングリコール等の多官能ジアクリル酸エステル;トリアクリル酸トリメチロールプロパン等の多官能トリアクリル酸エステルが挙げられる。架橋性単量体は、重合性単量体全体に対して、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%の割合で使用される。
【0036】
また、未処理重合体粒子に不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を導入するために、たとえば(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸エステル共重合体を加水分解させてもよい。
【0037】
(A)成分の含有量は、後述する(C)成分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上4質量部以下であることが特に好ましい。(A)成分の含有量が前記範囲にあると、(C)成分の変質を効果的に抑制することができ、(A)成分が(C)成分間のイオンや電子の移動を阻害しない。そのため、良好な蓄電特性を有する蓄電デバイスを作製することができる。
【0038】
1.2.(B)オニウム塩
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(B)オニウム塩(以下、単に「(B)成分」ともいう)を含有することができる。本実施の形態に係る電極用スラリーが(B)成分を含有することにより、後述する(C)成分の分散性がより良好となり、集電体の表面上に均一な活物質層を有する電極を作製することができる。この電極を備えることで、より良好な蓄電特性を有する蓄電デバイスが得られる。また、電極用スラリーにおいて、上記(A)成分との間でオニウムイオンの交換が発生した場合でも(A)成分の特性は損なわれない。
【0039】
(B)オニウム塩としては、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
Z
−・[XR
m]
+ ・・・・・(1)
(式(1)中、Xはホウ素、窒素、アルミニウム、ケイ素、リンおよび砒素から選択される少なくとも1種の原子を表す。複数存在するRはそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。Zは有機酸から水素イオンを除いた残基を表す。mは3〜6の整数を表す。)
【0040】
前記一般式(1)中、Xはホウ素、窒素、アルミニウム、ケイ素、リンおよび砒素から選択される少なくとも1種の原子を表し、適宜蓄電デバイスに必要なものを選択することができるが、本実施の形態に係る電極用スラリーより作製される電極の充放電の安定性の観点から、Xは窒素原子であることが好ましい。
【0041】
前記一般式(1)中、複数存在するRはそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、適宜蓄電デバイスに最適なものを選択することができる。なお、本実施の形態に係る電極用スラリーより作製される電極の充放電の安定性の観点から、Rは水素原子であることが好ましい。
【0042】
前記一般式(1)中、Zは有機酸から水素イオンを除いた残基を表し、適宜蓄電デバイスに必要な元素を選択することができる。なお、本実施の形態に係る電極用スラリーの安定性及び該スラリーから作製される電極の充放電の安定性の観点から、Rはカルボン酸残基(−COO
−)であることが好ましい。
【0043】
前記(B)成分としては、有機酸と、アンモニアや有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミン等)等と、が反応して生成するオニウムイオン([NR
m]
+、複数存在するRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を示す)を含有するオニウム塩であることが好ましく、上記(A)成分の有するカルボン酸オニウム塩と同種のオニウム塩であることがより好ましい。なお、本願発明においては、有機酸と、アンモニアや有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミン等)等と、が反応して生成する塩を「有機酸オニウム塩」ともいう。(B)成分として有機酸オニウム塩を使用した場合、電極作製の際に活物質層を加熱することにより、有機酸オニウム塩に由来する成分を容易に分解除去することができる。
【0044】
有機酸オニウム塩の具体例としては、セルロース系化合物(カルボキシアルキルセルロース等)のアンモニウム塩;ポリカルボン酸系化合物(ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等)のアンモニウム塩等の水溶性重合体が挙げられる。これらの有機酸オニウム塩の中でも、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩を用いると、電極用スラリーを集電体に塗布して乾燥させる工程において、乾燥温度を制御することにより、全部または一部のカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩を分解除去することもできる。その結果、蓄電デバイスの特性に応じて塗布後の活物質層の電気特性を厳密にコントロールすることができるので好ましい。
【0045】
(B)成分の含有量は、(C)成分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上4質量部以下であることが特に好ましい。(B)成分の含有量が前記範囲であると、電極用スラリー中の(C)成分の分散性がさらに良好となり、集電体の表面上に均一な活物質層が形成されやすい。
【0046】
なお、有機酸の中和塩としてはアルカリ金属塩等も存在し、むしろアルカリ金属塩の方が汎用性も高いといえる。しかしながら、有機酸のアルカリ金属塩を使用した場合には、電極用スラリー中において(C)成分が変質しやすくなり、電極用スラリーのpHが上昇する傾向がある。これにより、集電体の腐食が促進されて、ひいては電気特性が著しく低下する。さらに、アルカリ金属は、電極用スラリーを集電体に塗布して乾燥させる工程において除去することができず、塗布後の活物質層に残留する。その結果、蓄電デバイスが充放電を繰り返すことにより徐々に集電体の腐食が促進されて耐久性が劣化したり、活物質と反応して充放電に寄与することのできない不活性酸化物の生成を促進するなど、多くの問題がある。
【0047】
1.3.(C)リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(C)リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子を含有する。ここで「酸化物」とは、酸素と、酸素よりも電気陰性度の小さい元素と、からなる化合物または塩を意味する概念であり、金属酸化物のほか、金属のリン酸塩、硝酸塩、ハロゲンオキソ酸塩、スルホン酸塩などをも包含する概念である。(C)成分は、一般に蓄電デバイスに使用される活物質であれば特に限定されない。本実施の形態に係る電極用スラリーは、(C)成分の水に対する安定性を向上させることにより、電極用スラリー中における(C)成分の変質を抑制できる。したがって、水との反応性に富み、変質しやすい(C)成分であっても、本実施の形態では好適に使用することができる。
【0048】
上記(C)成分を構成するリチウム含有ニッケル複合酸化物としては、例えば下記一般式(2)で表される複合金属酸化物が挙げられる。
Li
1+pNi
q1M
1q2M
2rO
2 ・・・・・(2)
(式(2)中、M
1はCoおよびMnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属原子であり;
M
2はAlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属原子であり;
Oは酸素原子であり;
p、q1、q2およびrは、それぞれ、0.10≧p≧0、4.00≧q1≧0.85、4.00≧q2≧0.85および2.00≧r≧0の範囲の数である。)
【0049】
また、上記(C)成分を構成するリチウム含有ニッケル複合酸化物としては、LiNi
xCo
yMn
zO
2(x+y+z=1)、Li(Ni
xCo
yAl
z)
aB
bO
2(x+y+z=1、a+b=1)等も挙げることができ、これらの具体例としては、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNiO
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、Li(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)
0.99B
0.01O
2、LiNi
1/2Co
1/5Mn
3/10O
2等が挙げられる。これらの中でも特にLiNi
1/2Co
1/5Mn
3/10O
2は、高容量リチウムイオン二次電池に好適に用いられる。
【0050】
活物質の数平均粒子径(Db)は、正極では0.4〜20μmの範囲とすることが好ましく、0.5〜15μmの範囲とすることがより好ましい。活物質の数平均粒子径が前記範囲内であると、活物質内におけるリチウムの拡散距離が短くなるので、充放電の際のリチウムの脱挿入に伴う抵抗を低減することができ、その結果、充放電特性がより向上する。さらに、電極用スラリーが後述の導電付与剤を含有する場合、活物質の数平均粒子径が前記範囲内であることにより、活物質と導電付与剤との接触面積を十分に確保することができることとなり、電極の電子伝導性が向上し、電極抵抗がより低下する。
【0051】
ここで、活物質の数平均粒子径(Db)とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、小さい粒子から粒子を累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径(D50)の値である。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LA−300シリーズ、HORIBA LA−920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)などを挙げることができる。この粒度分布測定装置は、活物質の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とする。従って、この粒度分布測定装置によって得られた数平均粒子径(Db)は、電極用スラリー中に含まれる活物質の分散状態の指標とすることができる。なお、活物質の平均粒子径(Db)は、電極用スラリーを遠心分離して活物質を沈降させた後、その上澄み液を除去し、沈降した電極活物質を上記の方法により測定することによっても測定することができる。
【0052】
1.4.(D)水
本実施の形態に係る電極用スラリーは、分散媒体として(D)水を含有する。本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)成分や(C)成分の種類に応じて、水と水以外の分散媒体との混合媒体を使用することもできる。水と水以外の分散媒体との混合媒体を使用する場合、分散媒体100質量%中、水の含有量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0053】
本実施の形態に係る電極用スラリーに用いることのできる水以外の分散媒体としては、標準沸点が80〜350℃である非水系媒体が好ましい。このような非水系媒体としては、たとえばN−メチルピロリドン;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリン等の炭化水素類;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン等のアミン類;N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン類が挙げられる。これらの中でもN−メチルピロリドンが好ましい。
【0054】
1.5.その他の添加剤
本実施の形態に係る電極用スラリーには、必要に応じて導電付与剤を添加することができる。導電付与剤としては、グラファイト、活性炭等のカーボンが挙げられる。カーボンとしては、たとえばアセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン類等が挙げられる。中でも、アセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。導電付与剤の使用量は、通常活物質100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部である。
【0055】
1.6.pH
本実施の形態に係る電極用スラリーのpHは、好ましくは8以上10以下であり、より好ましくは8.5以上9.5以下である。pHが前記範囲にあると、前記(C)成分の水による変質を効果的に抑制することができ、さらにスラリーの分散安定性を向上させることができる。
【0056】
1.7.調製方法
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)成分、(C)成分および(D)成分、さらに必要に応じて(B)成分を撹拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用して混合することにより作製することができる。また、電極用スラリーの調製は、減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる電極層内に気泡が生じることを防止することができる。
【0057】
電極用スラリーを調製するための混合撹拌には、スラリー中に活物質の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物が無くなるように混合分散すべきである。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等が例示される。
【0058】
2.蓄電デバイス電極
本実施の形態に係る蓄電デバイス電極(以下、単に「電極」ともいう)は、金属箔等の集電体の表面に、上述した電極用スラリーを塗布し乾燥させることにより、バインダーおよび活物質、さらに必要に応じて添加した導電付与剤等を含有する活物質層が結着されてなるものである。本実施の形態に係る電極によれば、集電体の表面に上述した電極用スラリーから形成された活物質層を有するため、電池容量が高く、かつ充放電レート特性に優れた蓄電デバイスを作製することができる。
【0059】
2.1.集電体
集電体の具体例としては、金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタル等が挙げられる。集電体を構成する材料の具体例としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル、ステンレス、チタン等の金属材料が挙げられ、適宜選択して用いることができる。集電体の厚みは、5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0060】
2.2.電極の作製方法
電極用スラリーを集電体へ塗布する手段の具体例としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビア法、エアーナイフ法等が挙げられる。また、電極用スラリー塗布膜の乾燥処理方法の具体例としては、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線等の照射による乾燥法が挙げられる。乾燥速度は、通常は応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ速く液状媒体が除去できるように調整する。乾燥温度は20〜250℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましい。また、乾燥時間は1〜120分間であることが好ましく、5〜60分間であることがより好ましい。
【0061】
さらに、乾燥後の集電体をプレスすることにより電極の活物質層の密度を高めてもよい。プレス加工する手段の具体例としては、高圧スーパープレス、ソフトカレンダー、1トンプレス機等が挙げられる。プレス加工の条件は、用いる加工機に応じて適宜設定される。このようにして形成される活物質層は、厚みが40〜100μmであり、密度が1.3〜2.0g/cm
3である。このようにして得られる電極は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の電極として好適に用いることができる。なお、高容量のリチウムイオン二次電池として用いる場合には、さらに密度を高めることが好ましく、具体的には2.7〜4.0g/cm
3が好ましく、3.0〜3.7g/cm
3がより好ましい。
【0062】
4.蓄電デバイス
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、上述した電極を備えたものであり、さらに電解液を含み、セパレータ等の部品を用いて、常法に従って製造されるものである。具体的な製造方法としては、たとえば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【0063】
電解液は、通常の蓄電デバイスに用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。
【0064】
電解質の具体例としては、リチウムイオン二次電池では、従来から公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO
4、LiBF
4、LiI、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N等が挙げられる。
【0065】
この電解質を溶解させるための溶媒の具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシシラン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン等の窒素含有化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホン類;2−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,8−ナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。これらは、単独もしくは二種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0066】
4.実施例
以下、本発明を実施例に基いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0067】
4.1.(A)重合体粒子の合成
<一段階目の反応>
電磁式撹拌機を備えた内容積約6リットルのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5リットル、および乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、フッ化ビニリデン(VDF(登録商標))44.2%、および六フッ化プロピレン(HFP)55.8%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cm
2Gに達するまで仕込んだ。その後、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20%含有するフロン113溶液25gを、窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始させた。重合中はVDF60.2%、及びHFP39.8%からなる混合ガスを逐次圧入して、圧力を20kg/cm
2Gに維持した。また、重合の進行とともに重合速度が低下するため、3時間経過後に、先と同量の重合開始剤を、窒素ガスを使用して圧入して、更に3時間反応を継続させた。反応液を冷却するとともに撹拌を停止し、未反応単量体を放出して反応を停止させ、フッ素重合体のラテックスを得た。
【0068】
<二段階目の反応>
内部を十分に窒素置換した容量2リットルのセパラブルフラスコに水(水性媒体)120部、一段階目の反応にて得られたフッ素重合体のラテックス11部(固形分換算)を仕込み、内部を十分に窒素置換した。一方、別の容器に、水45部、乳化剤としてエーテルサルフェート型乳化剤(株式会社ADEKA製、商品名「アデカリアソープSR1025」)を固形分換算で0.9部、エチルアクリレート11部、アクリロニトリル20部、2−エチルヘキシルアクリレート59部、メチルメタクリレート5部およびメタクリル酸5部を加え、十分に攪拌することで上記各モノマーを含むモノマー乳化液を作製した。その後、上記フラスコ内部の昇温を開始し、60℃に到達したところで、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.24部を加え、更に70℃に到達した時点でモノマー乳化液の添加を開始した。反応温度を70℃に維持したままモノマー乳化液を3時間かけて投入し、更に80℃にて2時間反応させた。冷却して反応を停止させた後、アンモニウム水溶液でpHを7.6に調整して、重合体粒子Aの水性分散液を得た。
【0069】
また、二段階目の反応にてアクリロニトリル10部、メチルメタクリレート15部に変更した以外は、上記の合成方法と同様にして、重合体粒子Bの水性分散液を得た。
【0070】
また、二段階目の反応にてアクリロニトリル0部、メチルメタクリレート25部に変更した以外は、上記の合成方法と同様にして、重合体粒子Cの水性分散液を得た。
【0071】
また、二段階目の反応にてアンモニア水溶液の代わりに水酸化ナトリウム水溶液を使用した以外は、上記の合成方法と同様にして、重合体粒子Dの水性分散液を得た。
【0072】
また、二段階目の反応にてアンモニア水溶液の代わりに水酸化カリウム水溶液を使用した以外は、上記の合成方法と同様にして、重合体粒子Eの水性分散液を得た。
【0073】
また、一段階目の反応を行わずに二段階目の反応において、エチルアクリレート11部の代わりにテトラフルオロエチルアクリレート11部、メタクリル酸5部の代わりにアクリル酸5部とした以外は、上記の合成方法と同様にして、重合体粒子Fの水性分散液を得た。
【0074】
また、一段階目の反応を行わずに二段階目の反応において、エチルアクリレート11部の代わりにヘキサフルオロイソプロピルアクリレート11部とした以外は、上記の合成方法と同様にして、重合体粒子Gの水性分散液を得た。
【0075】
また、一段階目の反応を行わずに二段階目の反応において、エチルアクリレート11部の代わりにテトラフルオロエチルメタクリレート11部、メタクリル酸5部の代わりにアクリル酸5部とした以外は、上記の合成方法と同様にして、重合体粒子Hの水性分散液を得た。
【0076】
4.2.電極用スラリーの調製
4.2.1.実施例1
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、(B)成分としてアンモニウムCMC(ダイセル化学工業株式会社製、品番「DN−800H」)1部(固形分換算、4質量%の水溶液として添加)、(C)成分としてLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2100部(固形分換算)、導電付与剤としてアセチレンブラック5部(固形分換算)、および水の総量が25部となるように投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。その後、(A)成分として前記「4.1.(A)重合体粒子の合成」で作製された重合体粒子A2部(固形分換算)を加え、更に1時間撹拌しペーストを得た。得られたペーストに水10部を投入した後、撹拌脱泡機(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、更に真空条件下1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、実施例1に係る電極用スラリーを得た。
【0077】
このようにして得られた電極用スラリーを遠心分離することにより上澄み液を回収し、ICP−MS(パーキンエルマー社製、型番「ELAN DRC PLUS」)を用いてナトリウムおよびカリウムの含有量を測定した。その結果、電極用スラリー100質量%中、ナトリウムの含有量は0.00095質量%であり、カリウムの含有量は0.00005質量%であった。したがって、ナトリウムおよびカリウムの合計含有量は0.001質量%であった。
【0078】
4.2.2.実施例2〜15、比較例1〜9
表1〜表5にそれぞれ示す組成とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜15、比較例1〜9に係る電極用スラリーを得た。なお、比較例9に係る電極用スラリーは、実施例1において重合体粒子Aの水性分散液の代わりにPTFE水性分散体(旭硝子製、商品名「Fluon(R) PTFE ディスパージョン、AD938L」)を5部(固形分換算)使用した以外は、実施例1と同様にして電極用スラリーを得た。また、得られた各電極用スラリーについて、実施例1と同様にしてナトリウムおよびカリウムの合計含有量を測定した。その結果を表1〜表5に併せて示す。
【0079】
なお、表1〜表5に示す(B)オニウム塩は、ダイセル化学工業株式会社製の商品名「CMCダイセル」であり、各品番は下記の特徴を有している。
・DN−800H(カルボキシメチルセルロースアンモニウム、1%水溶液粘度:700〜1000mPa・s)
・DN−400H(カルボキシメチルセルロースアンモニウム、1%水溶液粘度:400〜600mPa・s)
・DN−100L(カルボキシメチルセルロースアンモニウム、1%水溶液粘度:100〜300mPa・s)
・DN−10L(カルボキシメチルセルロースアンモニウム、1%水溶液粘度:10〜50mPa・s)
【0080】
また、表3および表5に示す「1390」は、ダイセル化学工業株式会社製の商品名「CMCダイセル」であり、下記の特徴を有するナトリウム塩である。
・1390(カルボキシメチルセルロースナトリウム、1%水溶液粘度:2500〜4500mPa・s)
【0081】
4.3.リチウムイオン二次電池の作製
4.3.1.リチウムイオン二次電池正極の作製
<実施例1〜9、比較例1〜5>
アルミ箔からなる集電体の表面に、上記で調製した表1〜表3に記載の電極用スラリーをそれぞれ乾燥後の膜厚が90μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥させた。その後、電極層の密度が1.7g/cm
3となるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、リチウムイオン二次電池正極を得た。
【0082】
<実施例10〜15、比較例6〜9>
アルミ箔からなる集電体の表面に、上記で調製した表4〜5に記載の電極用スラリーをそれぞれ乾燥後の膜厚が110μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥させた。その後、電極層の密度が3.4g/cm
3となるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、リチウムイオン二次電池正極を得た。
【0083】
4.3.2.リチウムイオン二次電池負極の作製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)4部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト100部(固形分換算)、NMP(N−メチルピロリドン)80部を投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。その後、更にNMP20部を投入した後、撹拌脱泡機(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、更に真空条件下1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、電極用スラリーを調製した。銅箔からなる集電体の表面に、調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が150μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥させた。その後、電極層の密度が1.8g/cm
3となるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、リチウムイオン二次電池負極を得た。
【0084】
4.3.3.リチウムイオン電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)に、上記「4.3.2.リチウムイオン二次電池負極の作製」にて作製した負極を直径15.95mmに打ち抜き成型したものを載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した。その後、上記「4.3.1.リチウムイオン二次電池正極の作製」にて作製した正極を直径16.16mmに打ち抜き成型したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することによりリチウムイオン二次電池を作製した。なお、使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチルカーボネート=1/1/1の溶媒に、LiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液である。
【0085】
4.4.充放電特性の評価
上記「4.3.3.リチウムイオン電池セルの組立て」にて作製したセルを、充放電測定装置(北斗電工株式会社製、型番「HJ1001SM8A」、電池セル常温下)に接続して以下に示す充放電特性の評価を行った。その結果を表1〜表5に併せて示す。
【0086】
4.4.1.充電レート特性
まず、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした。
【0087】
次いで、同じセルを定電流(3.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした。このようにして測定した3.0Cでの充電容量を0.2Cでの充電容量で割った値を、3.0Cの充電容量維持率(%)とした。3.0Cの充電容量維持率が60%以上である場合、高速充電時の抵抗が低いと判定できるため良好と判断できる。
【0088】
なお、測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値のことを示す。たとえば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、10Cとは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことである。
【0089】
4.4.2.内部直流抵抗値(DC−IR)
上記「4.4.1.充電レート特性」の評価後に、同じセルを定電流(0.2C)にて50%DOD(3.8V)まで充電した。その後、定電流(0.5C)にて10秒間充電を行った際の電圧変化を読み取り、1分間休止した後、さらに定電流(0.5C)にて10秒間放電を行った際の電圧変化を読み取った。電流値を0.5Cから1.0C、2.0C、3.0C、5.0Cに変更した以外は同様の方法で充放電時の電圧を読み取った。
【0090】
印加した電流値(A)を横軸、電圧値(V)を縦軸としたグラフを作成し、充放電各時において、プロット点を結んだ直線の勾配値を算出した。その勾配値をそれぞれ充電時、および、放電時の内部直流抵抗値(DC−IR)とした。
【0091】
充電時および放電時のDC−IRが20Ω以下である場合は、集電体の劣化が起きていないため抵抗が低くなり良好と判断できる。
【0092】
なお、測定条件において「DOD」とは、充電容量に対する放電容量の割合を示す。たとえば「DOD50%まで充電する」とは、全容量を100%とした場合、50%の容量だけ充電することを示す。
【0093】
4.4.3.出力特性(放電レート特性)
上記「4.4.2.内部直流抵抗値(DC−IR)」の評価後に、同じセルを定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(3.0C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした。このようにして測定した3.0Cでの放電容量を、「4.4.1.充電レート特性」にて測定した0.2Cでの放電容量で割った値を3.0Cの放電容量維持率(%)とした。3.0Cの放電容量維持率が60%以上である場合、高速放電時の抵抗が低いと判定できるため、良好と判断できる。
【0094】
4.4.4.サイクル特性
上記「4.3.3.リチウムイオン電池セルの組立て」にて作製したセルを、定電流(1.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(1.0C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、1サイクル目の放電容量を算出した。このようにして10回充放電を繰り返し、100サイクル目の放電容量を算出した。このようにして測定した100サイクル目の放電容量を、1サイクル目の放電容量で割った値を100サイクル放電維持率(%)とした。100サイクル目の放電容量維持率が50%以上である場合、充放電サイクルで起こる電極の劣化が抑制されており良好と判断できる。
【0100】
4.4.5.評価結果
表1〜表5に示すように、実施例1〜15の電極用スラリーを用いて作製した電極を備えるリチウムイオン二次電池は、比較例1〜9の電極用スラリーを用いて作製した電極を備えるリチウムイオン二次電池よりも優れた電気特性を有することが明らかである。
【0101】
比較例1〜8の結果によれば、電極用スラリー中のナトリウムおよびカリウムの合計含有量が0.02質量%以上である場合には、pHの上昇が認められると共に、良好な蓄電特性が得られないことが判明した。電極用スラリーのpH上昇が認められることから、電極用スラリー中において(C)成分が変質していると考えられる。また、このpH上昇により集電体の腐食が促進され、電気特性が著しく低下したものと考えられる。
【0102】
比較例9の結果によれば、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を有さないポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる粒子である場合、良好な電気特性が得られないことが判明した。
【0103】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。