特許第5924513号(P5924513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5924513皮膚保湿剤としてのバンダセルレア(Vandacoerulea)ランの抽出物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924513
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】皮膚保湿剤としてのバンダセルレア(Vandacoerulea)ランの抽出物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/97 20060101AFI20160516BHJP
   A61K 36/898 20060101ALI20160516BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20160516BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   A61K8/97
   A61K36/898
   A61P17/16
   A61Q19/00
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-46177(P2009-46177)
(22)【出願日】2009年2月27日
(65)【公開番号】特開2009-209143(P2009-209143A)
(43)【公開日】2009年9月17日
【審査請求日】2011年11月15日
【審判番号】不服2014-20259(P2014-20259/J1)
【審判請求日】2014年10月7日
(31)【優先権主張番号】0851382
(32)【優先日】2008年3月3日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502189579
【氏名又は名称】エルブイエムエイチ レシェルシェ
(74)【代理人】
【識別番号】100094318
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 行一
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(74)【代理人】
【識別番号】100152191
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 正人
(72)【発明者】
【氏名】パトリス アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−クリストフ アーシャンボウ
(72)【発明者】
【氏名】イザベル レニメル
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 松浦 新司
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−257056(JP,A)
【文献】 Ravindra B.Malabadiほか,“Efficient regeneration of Vanda coerulea,an endangered orchid using thidiazuron”,Plant Cell,Tissue and Organ Culture,2004年,76巻,289〜293頁
【文献】 C.J.BULPITT,“The uses and misuses of orchids in medicine”,Q J Med,2005年,98巻,625〜631頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
DB:CAPlus,REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンダセルレア種のランの少なくとも一部の抽出物を含有する、皮膚の保湿状態の維持又は回復用化粧剤。
【請求項2】
前記抽出物が、前記ランの茎及び/又は根及び/又は葉の抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧剤。
【請求項3】
前記抽出物が茎の抽出物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧剤。
【請求項4】
前記抽出物が、乾燥又は粉砕された前記ランの少なくとも一部の抽出物であり、
前記抽出物が、少なくとも1種の極性溶媒抽出物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化粧剤。
【請求項5】
前記極性溶媒が、水、C〜Cアルコール、C〜Cグリコール及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の化粧剤。
【請求項6】
前記極性溶媒が水、エタノール、グリセロール、ブチレングリコール、プロピレングリコール及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4又は5に記載の化粧剤。
【請求項7】
前記極性溶媒が水性−エタノール性混合物であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の化粧剤。
【請求項8】
前記極性溶媒が10容量%のエタノールに対して90容量%の水を含む水性−エタノール性混合物であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか一項に記載の化粧剤。
【請求項9】
前記極性溶媒が、臨界未満の状態の溶媒であることを特徴とする、請求項4〜8のいずれか一項に記載の化粧剤。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の化粧剤の乾燥抽出物を0.001重量%〜5重量%含有することを特徴とする、化粧用組成物。
【請求項11】
前記組成物が、保湿特性を有する一種若しくは複数種の分子及び/又は一種若しくは複数種の植物抽出物をさらに含有し、
前記保湿特性を有する一種若しくは複数種の分子及び/又は一種若しくは複数種の植物抽出物が、グリコール、グリセロール、天然ポリオール、天然若しくは合成セラミド、尿素、ヒアルロン酸及びアジュガツルケスタニカ(Ajuga turkestanica)からなる群から選択される、請求項10に記載の化粧用組成物。
【請求項12】
前記組成物が、美容液、ローション、クリーム、ヒドロゲル、マスク、スティック又はパッチの形態であることを特徴とする請求項10又は11に記載の化粧用組成物。
【請求項13】
前記組成物が、前記化粧剤の乾燥抽出物を0.01重量%〜1重量%含有することを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、皮膚保湿剤としてのバンダセルレア(Vanda coerulea)種のラン抽出物の新規な使用に関する。
【0002】
ラン(Orchidaceae)は、有利な性質を有する新規化合物の同定を目標とした医療又は化粧品分野における多数の調査研究の対象である。
【0003】
バンダ属のランは、アジア及びオーストラリアの熱帯森林の着生又は岩上着生のランである。
【0004】
それらは、大気の湿度の高い、高度の低い森林の単軸性のランである。
【0005】
この属は、およそ50種を含み、多くの雑種を有する。
【0006】
[従来技術]
現在までのバンダ属の植物の研究は、地域集団によるこれらの植物の知識及び使用法に基づいている。
【0007】
Manandharら(Fitoterapia、1994年、65(1)、7〜13頁)は、ネパールのカスキ(Kaski)地域におけるバンダクリスタータ(Vanda cristata)の使用法を、この植物をベースにした(based on)ペーストを用いた切傷及び創傷の処置に関して記載している。
【0008】
Sighらは、インドのウッタルプラデーシュ(Uttar Pradesh)地域におけるナイニタール(Nainital)地方のタルー(Tharu)族によって使用される薬用植物による伝統的な植物療法を研究している(Int.J.Pharmacogn.1994年、32 1、51〜58頁)。
【0009】
これらの著者は、この植物全体から得られたバンダテッサラータ(Vanda tessallata)(別名:バンダロクスブルギイ(Vanda roxburghii))をベースにした、骨折領域に塩と共に適用されるペーストの使用法を記載している。
【0010】
該刊行物はまた、同じ目的で経口投与される、この同じ植物の水性抽出物(aqueous extract)の使用法を記載している。
【0011】
また、バンダロクスブルギイ植物の抽出物を含有する、スキンケアを目的とする組成物は、日本国特許出願第2006−257056号に記載されており、前記抽出物は、この組成物において、皮膚の老化処置のためのエストロゲン剤として用いられている。
【0012】
Chawlaら(Ind.J.Pharm.Sci.、1992年、54(4)、159〜61頁)は、Vanda roxburghiiの根から得られる有機溶媒ベースの抽出物の抗炎症性を記載している。
【0013】
Bulpitt(「The uses and misuses of orchids in medicine」、QJM、2005年、98(9)、625〜31頁)は、バンダセルレアのランが、インドの薬局方の一部にあることを示している。
【0014】
さらに、Greentech SAによって、Biogreen Orchidee Bleue(Biogreen Blue Orchid)の名称で販売されているバンダセルレアの全植物体の抽出物も知られている。
【0015】
この抽出物は、化粧用組成物中で抗酸化剤として用いられている。
【0016】
バンダセルレア種のランの抽出物が、皮膚の保湿を維持又は促進することが求められているケアを提供するための化粧品組成物において、それらの使用を特に有利にする、新規で顕著な皮膚保湿特性を有することが、本発明の発明者らによって全く予想外に発見された。
【0017】
特に、バンダセルレアのこれらの抽出物は、特に、表皮内の水輸送を改善することによって、蒸発に対して皮膚を保護し、かなりの保湿効果を提供する。
【0018】
実際、バンダセルレアの抽出物は、皮膚保湿の機序に関与している2つの生物学的マーカー、アクアポリン3(AQP3)及びLEKTIタンパク質(リンパ−上皮カザル(Kazal)タイプ関連阻害剤)の発現を増加させることを、本発明者らは示した。
【0019】
アクアポリン又は水チャネルは、溶液中の水分及び、例えば、グリセロール及び尿素などの小型分子を輸送する膜貫通タンパク質系である。
【0020】
ヒト表皮、より具体的には、ヒト皮膚のケラチノサイトの細胞膜におけるアクアポリン3型(AQP3)の存在、及びヒト表皮内での水分輸送においてこれらのAQP−3sが果たしている重要な役割が知られている(SOUGRATら、Molecular Biology of the Cell;1998年11月、第9巻、499a頁)。
【0021】
LEKTIタンパク質(リンパ−表皮カザルタイプ関連阻害剤)は、プロテアーゼ阻害剤であり、角質層下に位置する表皮の顆粒層に発現する。
【0022】
このタンパク質をコードするSPINK5遺伝子の変異によって、罹患個体におけるLEKTIタンパク質の完全な欠失が生じ、皮膚バリア、特にデスモソームレベルでの皮膚バリアのきわめて大きな障害へと至る。
【0023】
デスモソームは、細胞の互いの機械的結合を可能にして、密封系の機械的剛性を補強し、また、2つの細胞間でケラチンの結合部位でもある(ケラチノサイト又はコルネオサイト)。
【0024】
したがってそれらは、真皮及び表皮を構成する細胞区画間の接着において、及び、皮膚の乾燥の原因である現象、細胞間の水分蒸発の防止において、必須の役割を果たしている。
LEKTI産生の非存在下(ネザートン症候群を罹患している患者の場合)、皮膚の高度の脆弱性が見られ、重症の脱水がもたらされる。
【0025】
ノックアウトマウス(SPINK5遺伝子を有さない)の皮膚の角質層が、角質層を顆粒層に結合するデスモソームの分解により、残りの表皮から分離することが示されている。
【0026】
この変化は、LEKTIによる阻害が存在しない場合、デスモソームの重要な成分の1つであるデスモグレイン1(Desmoglein1)を分解する表皮プロテアーゼの機能亢進に二次的なものである。
【0027】
したがってLEKTIは、これらの結合構造の分解を制御することにより、表皮の剥離過程の調節において主要な役割を果たす。
【0028】
このように、バンダセルレア抽出物によるAQP3及びLEKTIの発現刺激は、細胞間の水蒸発の制限、及び表皮内部の水分輸送の改善の両方を可能にする。
【0029】
本発明の基礎を形成し、皮膚の正しい保湿を担っている2つの機序に同時に作用するバンダセルレア抽出物の著しい保湿活性を明らかにするのはこの発見である。
【0030】
したがって、バンダセルレア種のランから得られる抽出物は、少なくとも1種の化粧用に許容できる賦形剤を含む化粧用組成物において活性剤として使用でき、皮膚の保湿を維持又は増強する効果を得るために、顔又は身体の皮膚の少なくとも一部に適用することを目的とすることができる。
【0031】
[発明の目的]
本発明の主な目的は、皮膚の保湿を維持又は増強することのできる新規な化粧剤(cosmetic agent)を提供することである。
【0032】
本発明はまた、皮膚の保湿に関する美容ケアの方法に関する。
【0033】
本発明の目的はまた、産業的規模で使用できる特に簡便で比較的安価な解決法によって、技術的問題を解決することである。
【0034】
[発明の概要]
第1の態様によれば、本発明は、化粧用組成物における、皮膚の保湿状態を維持又は回復するための試剤としての、バンダセルレア種のランの少なくとも一部の抽出物の使用であって、前記組成物が化粧用に許容できる賦形剤も含有する使用に関する。
【0035】
第2の態様によれば、本発明は、皮膚の保湿状態を維持又は回復するための美容皮膚ケアの方法であって、バンダセルレア種のランの抽出物、又は第1の態様の対象である組成物を心配な顔又は身体の皮膚の部分に有効量適用することを含むことを特徴とする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例2の参照に提供され、顕微鏡によって観察された組織学的切片を示す図であり、D0におけるアクアポリン3の免疫標識の結果を提供している。
図2】実施例2の参照に提供され、顕微鏡によって観察された組織学的切片を示す図であり、D6におけるアクアポリン3の免疫標識の結果を提供している。
図3】実施例2の参照に提供され、顕微鏡によって観察された組織学的切片を示す図であり、D0におけるLEKTIの免疫標識の結果を提供している。
図4】実施例2の参照に提供され、顕微鏡によって観察された組織学的切片を示す図であり、D6におけるLEKTIの免疫標識の結果を提供している。
【0037】
[発明の詳細な説明]
したがって、本発明の第1の主題は、皮膚保湿剤として、バンダセルレア種のランから形成される植物材料から得られる抽出物の使用である。
【0038】
使用される植物材料は、全植物体でもよく、葉、茎、花又は根など、植物の一部でもよい。
【0039】
該抽出物は、好ましくは、該ランの茎及び/又は根及び/又は葉から得られ、好ましくは、茎である。
【0040】
該抽出物は、当業者に知られた種々の抽出法によって調製される。
【0041】
しかし、抽出は、選択された植物材料を、極性溶媒又は極性溶媒の混合物に接触させることによって実施することが好ましい。
【0042】
該植物の少なくとも一部を、少なくとも1種の極性溶媒に接触させるこのステップの前に、この植物部分を任意選択で乾燥及び/又は粉砕することができる。
【0043】
抽出ステップに使用できる極性溶媒又は極性溶媒の混合物としては、水、C〜Cアルコール、例えば、エタノール、及びC〜Cグリコールから選択された、好ましくは、グリセロール、ブチレングリコール及びプロピレングリコール、及びそれらの混合物から選択された溶媒又は溶媒混合物を選択すると有利である。
【0044】
本発明の好ましい一実施形態により、抽出は、水性アルコール混合物、特に、水とエタノールの混合物、好ましくは、約90容量%の水と10容量%のエタノールを含む水とエタノールの混合物を用いて実施される。
【0045】
本発明の他の変型により、抽出はまた、臨界未満の状態の極性溶媒を用いる方法によっても実施することができ、前記溶媒は、臨界未満の状態の水であると有利である。
【0046】
抽出ステップ自体の前に、該植物材料は乾燥及び/又は粉砕しておくことができる。
【0047】
抽出の好ましい一実施形態により、該植物材料は乾燥及び粉砕状態にある。
【0048】
該抽出はまた、該抽出物を部分的に、又は完全に脱色する目的で、又は該抽出物の精製において、該抽出物の処理からなる少なくとも1つの追加ステップを任意選択で含むことができる。
【0049】
この脱色ステップは、例えば、該抽出物を、活性炭素粒子の存在下、極性溶媒又は極性溶媒の混合物の溶液によって処理すること、好ましくは、70/30v/vの比率におけるエタノール/水の溶液によって処理することを含むことができる。
【0050】
該脱色ステップはまた、該抽出物を、超臨界状態の非極性溶媒、例えば、C〜Cアルカン、或いは、COによって処理することを含むことができる。
【0051】
該抽出は、抽出溶媒の部分的な、又は完全な除去のステップによって完了させることができる。
【0052】
第1の場合、該抽出物は一般に、有意な量の有機溶媒の無い水性濃縮物が得られるまで濃縮され;第2の場合、乾燥残査が得られる。
【0053】
或いは、該抽出ステップの生成物は、粉末の形態にするために、凍結乾燥するか又は微粒化することができる。
【0054】
該粉末はそれ自体で、化粧用又は皮膚科用の組成物中に使用することもでき、溶媒又は溶媒混合物中に再分散させることもできる。
【0055】
一般に、抽出ステップの生成物は、本発明によって包含される化粧用組成物中の活性剤として使用するために、溶媒又は溶媒混合物中に溶解又は分散させることができる。
【0056】
該抽出物を溶解又は分散させる溶媒又は溶媒混合物は、該抽出に用いたものと同一でもよく、異なっていてもよい。
【0057】
該抽出物はまた、支持体、有利には、多孔性又は非多孔性ナイロン粉末、及び雲母類、又は任意の層状鉱物から選択された支持体上に吸着させることもできる。
【0058】
この場合、用いられる抽出物は水性抽出物であることが好ましい。
【0059】
該化粧用組成物は、所望の効果を得る上で有効な量の抽出物を含む。
【0060】
したがって該組成物は、抽出物の乾燥重量で、0.001%〜5%、好ましくは0.01%〜1%を含むことが好ましい。
【0061】
本発明者らによって実施された試験は、該抽出物を、バンダセルレアの抽出物の化粧用効果と同様、及び/又は相補的な化粧用効果を有する他の活性剤と組み合わせた化粧用又は皮膚科用組成物においても、該抽出物の特性を得ることができる、又は改善することができることを示している。
【0062】
したがって、該抽出物を、グリコール、特にグリセロール、又は天然ポリオール、天然若しくは合成のセラミド、尿素、ヒアルロン酸又はアジュガツルケスタニカ(Ajuga turkestanica)の抽出物など、保湿特性を有する一種又は複数種の分子及び/又は一種又は複数種の植物抽出物と組み合わせることができる。
【0063】
該抽出物はまた、化粧用組成物において、ラン科(Orchidaceae)に属する少なくとも1種の他の植物の少なくとも1種の抽出物と組み合わせると有利であり得る。ラン科に属する別の植物のこの追加抽出物は特に、バンダ属の少なくとも1種のランの抽出物であり得る。
【0064】
本発明により包含される組成物は、上記のバンダ属の別のランの少なくとも一部の少なくとも1種の抽出物と組み合わせた、バンダセルレア植物の少なくとも一部の抽出物、及び任意選択で、ラン科に属する別の植物の少なくとも1種の他の抽出物を同時に含み得る。
【0065】
上記で定義された抽出物に加えて、該化粧用組成物は、顔料、染料、ポリマー、界面活性剤、レオロジー剤、芳香剤、電解質、pH改変剤、抗酸化剤及び保存剤、並びにそれらの混合物から選択することのできる、少なくとも1種の化粧用又は皮膚科用に許容できる賦形剤を含む。
【0066】
該化粧用組成物は、例えば、美容液、ローション、クリーム又はヒドロゲル、好ましくはマスクであり得るか、又はスティック若しくはパッチの形態であり得る。
【0067】
該抽出物及び該組成物は、それらが顔又は身体の皮膚に適用された際に、皮膚の保湿状態の維持又は増強のために特に求められる効果を有する。
【0068】
本発明は、上記に開示されたとおり、皮膚の保湿状態の維持又は増強のための化粧用試剤としての上記に定義された抽出物の使用に関する。
【0069】
以降の実施例に明らかになるように、本出願者は、以下に挙げられた活性改善に関する、バンダセルレア植物の抽出物の利点を実証した:
AQP3発現の刺激
LEKTIタンパク質発現の刺激。
【0070】
本発明の主題はまた、皮膚の乾燥徴候の出現を防止するか、又は遅速化する効果を得るために、前記抽出物の有効量を含む、上記に定義された抽出物又は上記に定義された化粧用組成物を用いた美容ケアの方法である。
【0071】
前記美容ケアの方法は、上記で説明され、上記で定義された抽出物を含む組成物を、心配な顔又は身体の皮膚の少なくとも1つの領域に適用することを含む。
【0072】
実施例において、別に指示されない限り、パーセンテージはすべて重量によって、温度は℃で、圧力は大気圧で示されている。
【0073】
バンダセルレア種の抽出物に加えて、該組成物は、植物全体又は植物の部分から得られた一種又は複数種の他の植物抽出物を含み得る。
これらの植物は、ラン、特にバンダ属のラン、又はバンダセルレア種のランで示される特性に類似の、又は相補的な特性を有することが知られている別の科の植物であり得る。
【0074】
その抽出物が、皮膚の乾燥徴候の出現を遅速化するか、又は防止することが知られている植物を特に選択することができる。
【0075】
単に例示のために提供され、したがって、本発明の範囲を決して限定し得ない、抽出物の調製、及び抽出物の特性を実証する試験の実施例、及びこのような抽出物を用いる化粧用組成物の例を参照し、以下の説明的記述を考慮することにより、本発明の他の目的、特徴及び利点は明白になるであろう。
【0076】
[実施例]
実施例1:バンダセルレアの茎抽出物の調製
a)茎抽出物の調製
乾燥状態におけるバンダセルレアの茎から形成された植物材料を、即時調合的に粉砕する。
10gの粉砕植物材料を250mlの丸底フラスコ内に導入し、これに、150mlのエタノール/水の混合物(90/10v/v)を導入する。
磁気攪拌子を有する球状凝縮器を備えた超半球丸底フラスコを、サーモスタット浴中で加熱し、溶媒を還流させる。
攪拌しながら30分間、還流を維持する。
加熱を停止したら、丸底フラスコを浴外で室温まで冷却させる。
次いでこの混合物を、ワットマン70μmGF/Fフィルター及びタールを塗ったフラスコを有するブフナー漏斗を通して減圧濾過し、濾液1を得る。
このケークを、ブフナー漏斗において、50mlの抽出溶媒によって洗浄し、濾液2を得る。
2つの濾液を合わせて秤量する。
このようにして得られた濾液を、予めタールを塗った丸底フラスコ内に導入してから、最高温度50℃に置かれた水浴中、ロータリーエバポレーター上、乾燥するまで濃縮させる。
導入した乾燥植物の質量に相対的に表された、質量による抽出収量を判定するために、このようにして得られた乾燥残査を定量化する。
抽出収量(乾燥粉砕状態における100gの出発植物材料当たり得られた乾燥抽出物の質量として表された)は、8.9である。
【0077】
b)根の抽出物の調製
バンダセルレアの根の抽出物を調製するために、該手順を同じプロトコルに従って実施する(抽出物2)。
これら2種の抽出物を、別個に、又は種々の比率で合わせた混合物として、以下の実施例に用いる。
【0078】
実施例2:バンダセルレア抽出物の活性に関する試験
抽出物使用に関する用量は、2つの細胞系、HaCaT細胞(インビトロで不死化したケラチノサイト系)及び通常のヒト線維芽細胞(NHF)の細胞培養物に対するXTT試験(試薬:テトラゾリウム塩)によって予め決定する。
【0079】
(使用される組織学的用語の解説)
海綿状:デスモソーム結合が破壊されていない細胞間浮腫
凝縮核:細胞壊死に至る核変性状態にある核
細胞浮腫:細胞の腫張
錯角化:最後の生存表皮層である顆粒層中のケラチン化
【0080】
[材料及び方法]
実施例1に従って得られた、バンダセルレアの茎からの乾燥抽出物を、乾燥抽出物の1.5重量%の濃度で、DMSO中に溶解させる。
(生検材料の調製)
40才の女性の腹部移植から、直径およそ10mmを有する15の外植片を調製する。それらは、BEM特定培地(BIO−EC外植片培地)中で生存を維持する。
該外植片を、以下の方法で分け、2バッチの6つの外植片と+T0における3つの外植片に分ける:
−対照用の6つの外植片(活性剤を欠く処方物)
−6つの外植片、対照と同じ処方物であるが、それ自体で、5重量%のバンダセルレア抽出物、すなわち、0.075重量%の最終濃度の乾燥抽出物を含有する処方物。
該生成物を、外植片1つ当たり2mgの用量で局所に適用し、小型スパーテルにより塗布する。
適用は、D0、D1、D2、D4、D6及びD8の時点で実施する。
【0081】
[サンプル及び組織検査]
(サンプル)
D0、D6及びD10の時点で、組織検査用に外植片のサンプルを採取する。
D0の時点で、T0バッチの3つの外植片からサンプルを採取し、D6及びD10の時点で、各バッチの3つの外植片からサンプルを採取する。
各外植片を直ちに2つに切断する。一方の半分をリン酸緩衝液によりpH7.5で緩衝化したホルムアルデヒドに固定し、他方の半分を−80℃で冷凍する。
【0082】
(組織検査)
緩衝化ホルムアルデヒドに24時間固定後、サンプルを脱水し、Leica 1020自動脱水装置を用いて、パラフィンに含浸させる。それらを、Leica EG 1160コーティングステーションを用いてブロックに置く。Leica RM 2125 Minotミクロトーム上で、5μmの切片を切断し、スーパーフロストシラン処理した組織学的スライドガラス上に付着させる。
凍結サンプルを、Leica CM 3050低温槽において、7μmに切断する。該切片を、免疫標識のために、シラン処理した組織学的スライドガラス上に付着させる。
LeicaのDMLB型顕微鏡を用い、×40の対物レンズで、光学顕微鏡による顕微鏡観察を実施する。画像は、Sony DXC 390P 3CCDカメラにより撮影し、Leica IM1000データアーカイビングソフトウェアを用いて保存する。
【0083】
(全体的形態)
パラフィンゲルに包埋し、マッソントリクローム染色、Goldner変型染色した切片で全体的形態を観察する。
【0084】
[免疫標識]
(アクアポリン3)
AQP3を、Chemicon社、参照番号AB 3276の、ウサギからのポリクローナル抗AQP3で標識化する。これは、ベクタステイン(Vectastain)ユニバーサルベクタービオチン/ストレプトアビジン増幅系によって実施し、ペルオキシダーゼに対する基質分子である3,3−ジアミノベンジジン(DAB)において表示させる。核を、マッソンのヘマルン(hemalun)で対比染色する。
【0085】
(LEKTI)
LEKTIを、ホルムアルデヒド固定、パラフィン包埋切片に対し、モノクローナル抗体の抗LEKTI、クローン1C11G6、Santa Cruzの参照番号SC−32330で標識化し、ビオチン/ストレプトアビジンの増幅系を用い、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)によって明らかにする。核を、ヨウ化プロピジウムによって対比染色する。
【0086】
[結果]
(全体的形態)
D0の時点:
非処理外植片について:
角質層はそれほど厚くなく、非常にわずかに積層化し、表面及びその基底部で完全にケラチン化している。表皮はケラチノサイトによる4〜5細胞層を示し、良好な形態を示す。真皮−表皮接合部の輪郭は鮮明である。真皮乳頭は、多少密な網状構造を形成しているきわめて厚いコラーゲン線維を示す。それは十分に細胞化している。
【0087】
D6の時点:
非処理外植片について:
角質層は中程度に厚く、非常に中程度に積層化し、表面では中程度にケラチン化している。錯角化は非常に中程度である。表皮は良好な形態を示すケラチノサイトによる4〜5細胞層を示す。真皮−表皮接合部の輪郭は鮮明である。真皮乳頭は、多少密な網状構造を形成しているきわめて厚いコラーゲン線維を示す。それは十分に細胞化している。
バンダセルレア抽出物を含有する処方物によって処理した外植片について
角質層は中程度に厚く、中程度に積層化し、表面ではわずかにケラチン化している。錯角化は中程度である。表皮は良好な形態を示すケラチノサイトによる5〜6細胞層を示す。海綿状態は表皮の基底部で弱い。真皮−表皮接合部の輪郭は鮮明である。真皮乳頭は、密な網状構造を形成している厚いコラーゲン線維を示す。それは十分に細胞化している。
【0088】
D10の時点:
非処理外植片について:
角質層はきわめて厚く、きわめて十分に積層化し、表面では中程度にケラチン化している。錯角化は弱い。表皮は良好な形態を示すケラチノサイトによる4〜5細胞層を示す。真皮−表皮接合部の輪郭は鮮明である。真皮乳頭は、それほど密でない網状構造を形成しているきわめて厚いコラーゲン線維を示す。それは十分に細胞化している。
バンダセルレア抽出物を含有する処方物によって処理した外植片について
角質層はきわめて厚く、きわめて十分に積層化し、表面では中程度にケラチン化している。錯角化は強い。表皮はきわめて平均的な形態を示すケラチノサイトによる5〜6細胞層を示す。有棘細胞層で多くのケラチノサイトがわずかに浮腫状であり、上部有棘細胞層では、細胞は凝縮核及び核周囲浮腫を含有する。真皮−表皮接合部の輪郭は鮮明である。真皮乳頭は、密な網状構造を形成している厚いコラーゲン線維を示す。それは十分に細胞化している。
【0089】
(アクアポリン3免疫標識)
一次抗体又は二次抗体をPBSで置換した切片では標識化は見られない。
D0の時点:
非処理外植片について(図1を参照):
標識は、膜及び周囲において鮮明で規則的で明白である。上部表皮層では鮮明で規則的であり、最終細胞層では見られない。それは基底層において外側が十分に鮮明である。
【0090】
D6の時点:
バンダセルレア抽出物を含有する処方物によって処理した外植片について(図2を参照):
標識は、膜及び周囲において鮮明で規則的で明白である。上部表皮層での標識は、鮮明できわめて規則的であり、最終細胞層では見られない。表皮の基底層すべてに沿って、真皮−表皮接合部において、標識はきわめて鮮明であり、表皮の深層において、AQP3の強い発現活性の徴候がある。
【0091】
(LEKTI免疫標識)
一次抗体又は二次抗体をPBSで置換した切片では標識化は見られない。
D0の時点:
非処理外植片について(図3を参照):
角質層基部の顆粒層における4〜5細胞層の膜上で、標識は弱く、きわめて規則的である。角質層における2〜3細胞層ではそれがわずかに見られる。基礎をなしている表皮層には標識は見られない。
【0092】
D6の時点:
バンダセルレア抽出物を含有する処方物によって処理した外植片について(図4を参照):
角質層基部の顆粒層における2〜3細胞層で、標識はきわめて鮮明で、きわめて規則的であり、明らかに細胞形質である。角質層に標識はほとんど見られない。基礎をなしている表皮層における1細胞層で標識はわずかに見られる。
【0093】
結論
バンダセルレアの抽出物は、LEKTIの発現を増加させることによる表皮の結合構造の分解制御によって、表皮の剥離過程の調節を改善することを可能にし、このことによって、皮膚バリア、したがって皮膚の保湿の保護及び増強を可能にする。
さらに、該抽出物は、アクアポリンAQP3の調節及び/又は機能性に及ぼす効果を介して、表皮における水分流動の調節に関して特別な有効性を有し、したがって、表皮の基底層の良好な保湿を可能にする。
【0094】
実施例3−本発明の抽出物を含む化粧用組成物
以下の化粧用組成物において活性剤として用いられるランの抽出物は、実施例1における方法を再現することによって得られる。
該乾燥抽出物を、グリセロール/水の60/40(v/v)混合物中、1重量%に溶解させる。
この溶液を活性剤として用い、以下の化粧用組成物(重量%として表されている)を調製する:
【0095】
A相
バンダセルレアの1%抽出物を含有する溶液 0.3%
フェノキシエタノール 0.5%
キサンタンゴム 0.2%
アクリレート/C20−30アルキルアクリレート架橋ポリマー 0.15%
EDTA四ナトリウム 0.1%
水 適量
【0096】
B相
水素化ポリイソブテン 4%
スクワラン 3%
カプリル/カプリントリグリセリド 3%
ペンチレングリコール 3%
ステアリン酸グリセリル 3%
ステアリン酸PEG−100 2.5%
蜜蝋 1.5%
ジカプリリルカーボネート 1.5%
セチルアルコール 1%
ステアリルアルコール 1%
ジメチコーン 1%
【0097】
C相
水酸化ナトリウム 0.04%
水 適量 100%
【0098】
A相のゲル化剤を水中に分散させ、次いで、混合物を80〜85℃に加熱してから、バンダセルレアの抽出物溶液を含む他のすべての化合物を溶解させる。
【0099】
B相の化合物を、均一な相を形成する目的で、85℃に加熱する。
【0100】
Ystral混合器を用いて、A相をB相に乳濁化させる。
【0101】
このようにして得られた油/水乳液を、最後に0.04重量%の水酸化ナトリウム水溶液により中和してから冷却させる。
【0102】
得られた組成物は、顔又は顔の一部への適用を目的とした保湿クリームである。
図1
図2
図3
図4