【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、実験用小動物の脳波を測定するための電極装置であって、複数本の針電極で構成される第1の電極群と、複数本の針電極で構成される第2の電極群と、を備え、前記第1の電極群及び第2の電極群の針電極は基体に固定されており、前記第1の電極群と第2の電極群は、実験用小動物の頭蓋骨両側に位置する左右の側頭筋にそれぞれ刺入させ装着させるように、第1の電極群及び第2の電極群のそれぞれの刺入部分となる先端部を含む針電極が基体から突出している、実験用小動物の脳波測定用電極装置である。
【0015】
脳波測定用電極装置は、基体が、平板状もしくはコの字型の板状の絶縁体物質からなり、該基体に固定された第1の電極群と第2の電極群の各針電極の先端部が、前記基体のそれぞれの端から、実験用小動物の左右の側頭筋に刺入させるように垂直又は略垂直に突出しているのが好ましい。
【0016】
脳波測定用電極装置は、基体に固定された第1の電極群の先端部と第2の電極群の先端部との間隔が、対象となる実験用小動物の左右の側頭筋の間隔の最小幅以上、最大幅以下であるのが好ましい。
【0017】
脳波測定用電極装置は、第1の電極群及び第2の電極群のそれぞれの側頭筋への刺入部となる先端部の長さが、実験用小動物への側頭筋の刺入方向長さの5分の1以上1以下となるのが好ましい。
【0018】
脳波測定用電極装置は、第1の電極群及び第2の電極群を構成する複数本の針電極の間隔は、その隣接する電極の間隔が、対応する実験小動物の大脳の長軸方向の長さの5分の1〜25分の1の長さ間隔となるのが好ましい。
【0019】
脳波測定用電極装置は、第1の電極群及び第2の電極群は、それぞれ3本以上の針電極を列設して構成され、両端以外から選択される針電極の1本をアース電極とし、残りの電極のうちのそれぞれ2本の電極を使用して脳波を測定するのが好ましい。
【0020】
脳波測定用電極装置は、BISモニター装置を使用して実験用小動物の脳波を測定するために、BISモニター装置に連結させ、BISモニター装置における脳波測定用電極装置として用いるのが好ましい。
【0021】
脳波測定用電極装置は、BISモニター装置の脳波測定用電極装置であり、第1の電極群及び第2の電極群は、それぞれBISモニター装置の電極端子数の針電極を列設して構成され、両端以外から選択される針電極の1本をアース電極とし、残りの電極のうちのそれぞれ2本の電極を使用して脳波を測定するのが好ましい。
【0022】
脳波測定用電極装置は、電極端子数が4であるBISモニター装置を用いた脳波の測定において、第1の電極群及び第2の電極群は、それぞれ4本の針電極を列設して構成され、それぞれの電極群の端から2番目の電極をアース電極とし、端から1番目と3番目及び端から1番目と4番目の電極間の電位差を測定するために使用するのが好ましい。
【0023】
実験用小動物はラット等の齧歯類であるのが好ましい。
【0024】
本発明は、実験用小動物の頭皮を切開して頭蓋骨の両側に位置する側頭筋を露出し、当該側頭筋に、アース電極及び測定用電極として少なくとも二本の針電極を刺入して脳波信号を取り出し、取り出された脳波信号をBISモニター装置を使用してリアルタイムで表示する、実験用小動物の脳波測定方法である。
【0025】
脳波測定方法は、実験用小動物の脳の左半球と右半球の脳波を同時に又はいずれか一方を測定するのが好ましい。
【0026】
脳波測定方法は、BISモニター装置2台及び電極装置を用いて、第1の電極群の端子を第1のBISモニター装置に接続し、第2の電極群の端子を第2のBISモニター装置に接続し、実験用小動物の脳の左半球と右半球の脳波を同時又はいずれか一方を測定するのが好ましい。
【0027】
刺入して装着する実験用小動物の頭蓋骨両側に位置する側頭筋とそれぞれ対応して位置している第1の電極群及び第2の電極群を構成する複数本の針電極の間隔は1〜4mmが好ましい。
第1の電極群及び第2の電極群は、四本の針電極を列設して構成され、端から2番目の針電極をアース電極とし、残りの電極のうちの二本を使用して脳波を測定するのが好ましい。
【0028】
本発明に係る脳波測定用電極装置及び脳波測定方法を用いることで、実験用小動物の脳の左半球と右半球の脳波は、同時に又はいずれか一方を測定することができる。
この際、BISモニター装置のように、電極端子数が限られている場合には、例えば、モニター装置を複数台、好ましくは2台用いて、例えば、第1の電極群を一方のモニター装置端子に接続し、第2の電極群を他方のモニター装置端子に接続することで大脳の左右の半球の脳波をそれぞれ同時に又は電極端子の取り外し等の操作を必要とせず、効率的に測定することができる。
【0029】
例えば、通常市販のBISモニター装置においては、電極端子は4個所設けられている。その際に、本発明に係る電極装置として第1の電極群及び第2の電極群が、それぞれ4本の電極(そのうち1本はアース電極)で構成されている場合には、2台のBISモニター装置を用いて、第1の電極群を一方のBISモニター装置に接続し、他方のBISモニター装置に第2の電極群を接続する。このように接続することで、前記したように、同時に大脳の左右の半球の脳波を同時に測定することができる。
【0030】
また、大脳の左右の半球の脳波を測定しようとする場合、1台のBISモニター装置では、一方の電極群の接続をはずし、もう一方の電極群を接続しなければならないが、2台のBISモニター装置を用いればこのような煩雑さは回避される。
しかしながら、本発明においてはこのような場合において、2台のBISモニター装置を用いることは発明の必須の要件ではない。
無論、使用するBISモニター装置の電極端子が、第1の電極群と第2の電極群の総てを接続出来得る端子を有している場合には、BISモニター装置1台でも効率的に脳波を測定することができる。
【0031】
本発明で使用される針電極は市販のものが使用でき、実験用小動物の側頭筋に刺入し脳波の電位を導出できればその構造などは特に限定されない。本発明に使用される針電極は、側頭筋に刺入されることから、実験中に実験用小動物が動いたり、実験のために体位を変えても、針電極は外れないか、外れにくい。また、脳に近接している側頭筋に刺入できるため、通常の平面電極に比較して、より微弱な脳波電圧を高感度で安定的に測定できる。
複数の針電極を基体に固定して一体化することによって、装置の取扱いが簡便となる。
【0032】
実験用小動物の脳波は微少電位であり、針電極の間隔が余りに狭いと、脳波電位の差が明瞭にあらわれない場合も生じる。しかしながら、それぞれの隣接した針電極間の間隔を広くすると脳波電位の差が明瞭にあらわれるが、そうすると心臓等から発せられるノイズの影響を受ける場合もあり、正確な脳波測定が困難となる。
【0033】
この二律背反を克服するためには、針電極の間隔を調節する必要がある。その間隔は実験用小動物の大脳の大きさによりそれぞれ異なるが、隣接する対象となる実験用小動物の大脳の長軸方向長さの5分の1以下、25分の1以上の間隔とすることが好ましい。具体的には例えば、大脳の長軸方向の長さが、約25mmであるラットの場合には4mm以下、1mm以上が好ましい。また、3mm以下であればさらに好ましい。
【0034】
ラットの場合、隣接する針電極の間隔を例えば1mmとし、隣接する針電極間の電位差を測定した場合には、電位差が小さく、有意な脳波測定が出来ない場合が生じる恐れがある。こういった場合、できるだけ隣接する針電極の間隔を狭くし、かつ、有効に電位差を測定するために、アース電極を配置された電極群の末端に位置させずに、内部に位置する針電極をアース電極とすることが、実質的に狭い針電極間隔であっても、測定電極を広くすることができ、本発明においては推奨される。
【0035】
例えば、電極端子が4端子である2台のBISモニター装置にそれぞれ、基体上に固定された4本の針電極から構成される第1の電極群と第2の電極群からなる、本発明の電極装置において、内部に位置する2番目の針電極をアース電極とし、末端に位置する第1番目の針電極と内部に位置する第3番目の針電極との間の電位差及び第1番目の針電極と他の末端に位置する第4番目の針電極との電位差を測定することで、有効な電位差が得られ、脳波測定が精度良く達成される。
【0036】
このような場合、電位差測定の針電極との間隔は、隣接する針電極との間隔がそれぞれ1mmであっても、実質的には2mm(第1番目と第3番目の針電極での測定)及び3mm(第1番目と第4番目の針電極での測定)となり、上記した二律背反の問題を解消することができる。
【0037】
本発明で使用される基体の素材には、特に限定はされないが、絶縁体物質であることが推奨される。具体的には、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、パーフルオロエチレン(商品名テフロン(登録商標)等)等の合成樹脂等である。また、導電物質であっても、各電極をそれぞれ、基体と接触する部分を絶縁物質によりシールしておけば、金属或いはこれらの樹脂と金属等の複合物等が使用できる。無論、針電極とBISモニター装置等の脳波測定器とを接続するリード線は、合成樹脂等の絶縁物により被覆されている。
【0038】
また、基板の形状や剛性は実験用小動物に装着できれば特に限定されるものではない。ラットやマウスのような齧歯類の場合は、頭部頂部は比較的平坦であるから、形状は平板状で支障はない。実験用小動物の頭部頂部が曲面を有する場合は、頂部曲面に合わせて形成できる。また、平板や湾曲した板の両末端部分に立ち上がり部を設けてコの字型となった形態も、針電極をそれぞれ固定するためには推奨される。
【0039】
剛性については、あまり柔軟性を有すると、一回の操作で側頭筋に刺入できない場合が生じるので、一回の刺入操作で側頭筋に刺入できる程度に剛性を有することが好ましい。
【0040】
一般的に市販されているBISモニター装置は電極端子が四箇所であり、実験用小動物の脳波を正確に測定するためは、脳の右半球と左半球の脳波測定を同時に行うのが好ましい。
このことから、BISモニター装置を2台同時に使用すると、実験用小動物の脳の右半球および左半球の脳波を同時に測定することができる。
【0041】
本発明に係る電極装置は前記したように、第1の電極群と第2の電極群を基体に固定し一体化している。基体に固定されているそれぞれの電極群の針電極の先端が左右の側頭筋に刺入されることにより、安定に装着され且つ外れにくくなる。
【0042】
本発明に係る電極装置においては、それぞれの電極群を構成し刺入部分となる先端部を含む針電極が基体から垂直またはほぼ垂直に突出しており、この先端部が側頭筋に刺入される。
この時、第1の電極群と第2の電極群との間隔(ほぼ、基体の両端間の間隔となる)は、対象となる実験用小動物の左右の側頭筋との間隔(厚みがあるので、厚みの中間間隔)とすることが推奨される。この間隔とすることで、特段の操作も必要としなくて簡便に電極を左右の側頭筋に刺入することが可能となる。例えば、実験用小動物としてラットを用いた場合、前記の間隔は12〜18mm程度となる。
【0043】
また、本発明に係る電極装置において、各針電極の側頭筋への刺入部分となる先端部の長さ(刺入深さに対応)は、針電極の長さを刺入方向の側頭筋の長さの5分の1以上1以下とすることが好ましい。
これ以上の長さであっても、脳波を測定することは可能であるが、体外へ針電極先端が貫通する等の実験上の不備が生じる恐れがある。また、余りに、短い場合には安定的に刺入し、針電極を固定することが難しくなり、また、針電極が外れやすくなる恐れがあるためである。
具体的には、たとえば、ラットでは3mm〜10mm程度が推奨される。無論、基体がコの字型のものであっても、刺入可能な長さとして、前記の値が推奨される。
なお、針電極と接続されているリード線が実験中に対象部位へのアクセスを邪魔しないように、基体近傍でまとめるとよい。
【0044】
(作 用)
本発明の作用を説明する。
実験用小動物の脳波を測定する場合は、まず、実験用小動物の頭皮を切開して頭蓋骨の両側に位置する側頭筋を露出させる。次いで電極装置の第1の電極群と第2の電極群の針電極の先端を頭蓋骨の両側に位置する側頭筋に当接し、押圧力をかけて針電極を側頭筋に刺入する。針電極の刺入作業は、基本的には一回で済むために、実験用小動物への電極の取付作業が簡便に、且つ短時間で行うことができる。
【0045】
刺入した針電極で脳波信号を取り出し、取り出された脳波信号をBISモニター装置を使用してリアルタイムで表示する。これにより、実験用小動物の麻酔深度がリアルタイムに測定できるため、麻酔深度の深浅による前記課題が解決できる。
【0046】
実験中に実験用小動物の麻酔深度が浅くなったことがBISモニター装置で表示された場合は、適正な麻酔深度になるように追加麻酔を施せばよい。