特許第5924610号(P5924610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924610
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】人工骨膜の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   A61L27/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-113498(P2011-113498)
(22)【出願日】2011年5月20日
(65)【公開番号】特開2012-239697(P2012-239697A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】窪木 拓男
(72)【発明者】
【氏名】園山 亘
(72)【発明者】
【氏名】大野 充昭
(72)【発明者】
【氏名】笈田 育尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 克史
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−500905(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/129631(WO,A1)
【文献】 国際公開第96/010426(WO,A1)
【文献】 特表2002−502822(JP,A)
【文献】 特開2009−045142(JP,A)
【文献】 特開2007−332106(JP,A)
【文献】 特開平05−003913(JP,A)
【文献】 特開2003−275294(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0045902(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00− 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の生分解性高分子材料からなる人工骨膜の作製方法であって、
宿主細胞として大腸菌を用いてBMPを生産し、前記BMPが溶解された水溶液に、孔のサイズが1〜2000μmφ、気孔率が5〜95%及び厚さが0.01〜2mmの多孔質形状であるシート状の生分解性高分子材料を浸漬させることを特徴とする人工骨膜の作製方法。
【請求項2】
前記BMPが、BMP-2, BMP-4, BMP-5, BMP-6, BMP-7(OP-1),及びBMP-8(OP-2)からなる群より選択されるBMPの1種または2種以上である請求項1に記載の人工骨膜の作製方法。
【請求項3】
前記生分解性高分子材料が、乳酸−グリコール酸共重合体である請求項1又は2に記載の人工骨膜の作製方法。
【請求項4】
前記生分解性高分子材料を浸漬させた後、取り出して凍結乾燥させる請求項1〜3のいずれか記載の人工骨膜の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工骨膜に関するものであり、特にヒト骨形成因子(bone morphogenetic protein:BMP)の遺伝子を宿主細胞として大腸菌に組換えて発現させた組換えBMP(以下大腸菌由来BMPと呼ぶことがある。)とシート状の生分解性高分子材料との組み合わせからなるシート状の人工骨膜に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療・組織工学の進歩により、骨腫瘍摘出や外傷等により生じた骨欠損で特に大きな骨欠損の治療には、患者から採取した自己由来間葉系幹細胞をシート状に培養した培養細胞シートと、生分解性物質をシート状に形成したものとを積層してなる骨再生シートや(例えば、特許文献1参照。)、生体吸収性の多孔質材料からなる膜状基材に、生体外で増殖した幹細胞をまたは該幹細胞から分化させた骨芽細胞を直接播種してなる人工骨膜(例えば、特許文献2参照。)等が用いられている。
【0003】
しかしながら、これら材料は細胞を患者から採取する必要があるので、入院による治療費の発生、採取時の肉体的苦痛(一般的に注射器のようなもので採取するため、痛みを伴う)等、患者に大きな負担をかけてしまうという問題があった。また、採取した細胞から必要とする細胞を単離する必要があったり、細胞の増殖に時間がかかったりする問題がある。
【0004】
近年、強力な骨誘導能を有する骨形成因子が、その骨再生能力の高さから注目されており、宿主細胞として哺乳動物細胞を利用した組換えBMPがすでに実用化されている。しかしながら、この方法による組換えBMPの生産には多額のコストがかかるため、人工骨膜の材料として多量に用いる際にはコストが高くなり患者にとって不利益となっていた。
【0005】
少ない薬剤量でも十分な骨形成効果を発揮させるために、薬物除放機能を有するゼラチンハイドロゲル層と生体吸収性材料からなる材料も開発されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、製造時に手間がかかり、またゼラチンは主に動物由来のコラーゲンから得るために、これらの材料の使用は未知の病原に対する安全性に問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−275294号公報
【特許文献2】特開2006−109979号公報
【特許文献3】特開2009−67732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の人工骨膜と比較して、簡便かつ安価に製造することが可能な人工骨膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、宿主細胞として哺乳動物細胞を利用した組換えBMPを用いるのではなく、宿主細胞として大腸菌を用いて生産したBMPであれば低コストで多量にBMPが得られることに着目し、それら大腸菌由来BMPであればコスト面を気にすることなく多量に用いることができ、ゼラチンハイドロゲル等の介在なしで生分解性高分子と組み合わせても非常に優れた骨形成効果を示すことを究明し本発明を完成した。
即ち本発明は、大腸菌由来のBMPを含んだシート状の生分解性高分子材料からなる人工骨膜である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る人工骨膜は、従来の人工骨膜と比較して簡便かつ安価に製造することが可能な優れた人工骨膜である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いる生分解性高分子材料の材質は、従来から使用されている生分解性高分子材料が使用できる。例えば、ポリグリコール酸,ポリ乳酸(D体,L体,DL体),ポリ−ε−カプロラクトン,ポリ−P−ジオキサノン等の脂肪族ポリエステル及びそれらの共重合体、例えば、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体,乳酸−グリコール酸共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体等,前記脂肪族ポリエステルとポリエステルエーテルとの共重合体等から選ばれる少なくとも1種または2種以上の合成高分子のシートが例示できる。また、これらのホモポリマーやコポリマーは分子量が40,000〜500,000であることが好ましい。分子量が40,000未満ではシート状の生分解性高分子材料の硬さが低下する傾向があり、500,000を超えるとシートの状生分解性高分子材料が硬くなり過ぎることがある。
【0011】
本発明で用いる生分解性高分子材料はシート状であれば構造は問わないが、BMPの保持性及び体内埋植後の治癒過程を考慮すると材料表裏間で体液・血液等の流れが生じるような多孔質体形状が望ましい。シート状の生分解性高分子材料は、前記生分解性高分子の塊をプレスにより潰してシート状に成形し作製することができる。また、前記生分解性高分子を、塩化メチレン,クロロホルム,ジオキサン,トルエン,ベンゼン,ジメチルホルムアルデヒド,アセトン,テトラヒドロフラン等の有機溶媒に溶解させた後、容器内に薄く拡げてから自然乾燥させて作製することもできる。この作製方法の場合は、溶解される生分解性高分子の量は、溶媒100に対して生分解性高分子が1〜20重量部であることが好ましく、1重量部未満であると人工骨膜が脆くなり使用の際の操作性が劣る傾向があり、20重量部を超えるとシート状の人工骨膜としての柔軟性が十分得られないので好ましくない。
【0012】
生分解性高分子材料を有機溶媒に溶解させた後、凍結乾燥法により生分解性高分子が溶解された溶液の溶媒を乾燥させ、更に必要に応じて更にプレスして作製されたシート状の生分解性高分子材料であると、人工骨膜として適度な多孔質形状を有すため望ましい。その場合、孔のサイズが1〜2000μmφで、有孔率が5〜95%をなし、厚さが0.01mm〜2mmであることが好ましい。これは、孔のサイズが1μmφ未満では人工骨膜の柔軟性が乏しくなり2000μmφを超えると人工骨膜としての強度が低下するおそれがある。厚さが0.01mm未満では人工骨膜が薄く破れ易く操作性が低下し、厚さが2mmを超えると人工骨膜が固くなり過ぎる。なお、本発明に係る人工骨膜の孔は、前記の凍結乾燥によるものの他に、あるいはそれに加えて、シート状の生分解性高分子材料にパンチングで0.5〜5mm程度の貫通孔を形成させてもよい。
【0013】
人工骨膜に用いるシート状の生分解性高分子材料の有孔率(気孔率)は5〜95%であることが好ましく、5%未満では有孔性にした効果が認められず人工骨膜の柔軟性が劣り95%を超えると人工骨膜が柔軟になり過ぎてしまい操作が悪化する傾向がある。
【0014】
本発明で用いるBMPは、宿主細胞として大腸菌を用いて生産したBMPであり、BMP-2, BMP-4, BMP-5, BMP-6, BMP-7(OP-1),BMP-8(OP-2),及びこれらの機能的等価改変体(改変型BMP)からなる群より選択されるBMPの1種または2種以上である。中でも、骨形成能が最も高いことが従来の基礎研究で明らかにされているBMP-2が最も好ましい。
【0015】
シート状の生分解性高分子材料へBMPを含ませる方法としては、BMPが溶解された水溶液に生分解性高分子材料を所定期間浸漬させる方法や、BMPが溶解された水溶液に生分解性高分子材料を所定期間浸漬させた後、凍結乾燥させる方法等がある。BMPを溶解する水溶液としては生分解性高分子材料を溶解せずBMPを溶解する水溶液を用いることが必要であり、例えば、生理食塩水やリン酸緩衝液等の水溶液を用いることが好ましい。溶解するBMPの濃度は、シート状の生分解性高分子材料へ保持させるBMPの必要量に応じて適宜調整すればよく、通常シート状の生分解性高分子材料へ保持させるBMPの必要量としては、シート状の生分解性高分子材料1mgあたり1μg〜5000μgである。
【実施例】
【0016】
本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
<実施例1>
1,4−ジオキサン中に乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸:グリコール酸=75:25、分子量約250、000)を8重量%の濃度となるように入れ撹拌器で1時間撹拌させて溶解した。溶解液を100mm×100mm、隙間2mmの型に流し込み、24時間凍結後、48時間真空乾燥させて80mm×80mm、厚み約1mmの生分解性高分子材料を得た。得られた生分解性高分子材料を金属製のプレス型にて300kgf/cmの条件にて厚さ約0.25mmにプレスした。作製されたシート状の生分解性高分子材料は、孔のサイズが50μm、気孔率50%、厚さが0.25mmであった。
その後、シート状生分解性高分子材料を10mm×10mmの大きさにカットし、濃度1,5,10μg/μLで調製した大腸菌由来BMP-2を溶解させたリン酸緩衝液0.1mL中に4℃で24時間浸漬させた後、取り出し、凍結乾燥させることで人工骨膜を作製した。なお、凍結乾燥前後の重量測定を行ったところ、本実施例の人工骨膜にはそれぞれ、約16,80,160μgの大腸菌由来BMP-2が含まれていた。
【0018】
<比較例1>
1,4−ジオキサン中に乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸:グリコール酸=75:25、分子量約250、000)を8重量%の濃度となるように入れ撹拌器で1時間撹拌させて溶解した。溶解液を100mm×100mm、隙間2mmの型に流し込み、24時間凍結後、48時間真空乾燥させて80mm×80mm、厚み約1mmの生分解性高分子材料を得た。得られた生分解性高分子材料を隙間約0.25mmの金属製のプレス型にて300kgf/cmの条件にて厚さ約0.25mmにプレスした。作製されたシート状の生分解性高分子材料は、孔のサイズが50μm、気孔率50%、厚さが0.25mmであった。
その後、シート状生分解性高分子材料を10mm×10mmの大きさにカットし、濃度1,5,10μg/μLで調製した哺乳動物細胞を利用したBMP-2を溶解させたリン酸緩衝液0.1mL中に4℃で24時間浸漬させた後、取り出し、凍結乾燥させることで人工骨膜を作製した。なお、凍結乾燥前後の重量測定を行ったところ、本実施例の人工骨膜にはそれぞれ、約16,80,160μgの哺乳動物細胞を利用したBMP-2が含まれていた。
【0019】
12週齢のラット頭蓋骨に直径6.4mmの骨欠損を作製し、実施例及び比較例で作製したシート状の生分解性高分子材料を欠損部が覆われるように切断し設置した。なお、「人工骨膜を使用しない」場合を比較例2、「実施例1のシート状の生分解性高分子材料にBMPを含んでいない」場合を比較例3とした。埋植12週後の骨欠損部のX線像を画像解析ソフトにて解析し、骨治癒率(%)として数値化した(骨欠損部が骨ですべて覆われている状態が骨治癒率100(%))。結果を表1に示した。
【0020】
<表1> 骨治癒率(%)
【0021】
大腸菌由来及び哺乳動物由来BMP共にBMP濃度5μg/μLのときが結果が良好であった。このことから、由来の異なりは骨形成の程度に影響を及ぼさないことが分かる。また、大腸菌由来BMP-2の製造コストは、哺乳動物由来BMPの製造コストと比較して遙かに低い。
【0022】
大腸菌由来BMP-2の製造コスト:¥1,000/mg
哺乳動物由来BMP-2の製造コスト:¥10,000/mg
【0023】
ヒトに適応した場合、100mm×100mmの大きさの試料が使用されたと仮定すると、ヒトでのBMPの最適濃度はラットの約30倍であることが知られていることから、今回の条件から推測されるヒトでの適応条件は表2の通りとなり、1500mgのBMPが必要となる。即ち、大腸菌由来BMP-2を使用した場合の製造コストが¥1,500,000に対して、哺乳動物由来BMP-2を使用した場合の製造コストが¥15,000,000であることから、使用量から見た場合の削減量は¥13,500,000となり、従来と同じ効果を得ることができることが分かる。
【0024】
<表2> 条件比較