特許第5924668号(P5924668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924668
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】デュアルイメージング用プローブ
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/00 20060101AFI20160516BHJP
   G01R 33/28 20060101ALI20160516BHJP
   G01R 33/48 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   A61K49/00 Z
   G01N24/02 B
   G01N24/08 510Y
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-52271(P2012-52271)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-184937(P2013-184937A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】杉井 浩晃
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏彦
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 Macromolecular Research,2011年,Vol.19, No.8,p.861-867
【文献】 Chem. Mater.,2008年,Vol.20,p.6087-6094
【文献】 日本化学会 第90春季年会(2010) 講演予稿集III,2010年 3月12日,1 G5-37 A
【文献】 JSMI Report,日本分子イメージング学会,2010年 5月10日,Vol.3, No.2,p.87, P2-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00−22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングに用いられるデュアルイメージング用プローブであって、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に親水性被膜が形成されてなる複合粒子を含有し、前記酸化マンガン(II)含有粒子の内部が酸化マンガン(II)粒子とアルキル基の炭素数が2〜8である脂肪族ジオールとで構成され、前記親水性被膜がウロン酸からなる被膜であることを特徴とするデュアルイメージング用プローブ。
【請求項2】
複合粒子の粒子径が10〜300nmである請求項1に記載のデュアルイメージング用プローブ。
【請求項3】
水性被膜の厚さが5〜15nmである請求項1または2に記載のデュアルイメージング用プローブ。
【請求項4】
磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングに用いられるデュアルイメージング用プローブに用いられる複合粒子の製造方法であって、内部が酸化マンガン(II)粒子とアルキル基の炭素数が2〜8である脂肪族ジオールとで構成された酸化マンガン(II)含有粒子の表面上にウロン酸を被覆することによって被膜を形成させることを特徴とする複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルイメージング用プローブに関する。さらに詳しくは、本発明は、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの両方を行なうのに好適なデュアルイメージング用プローブおよびそれに用いられる複合粒子の製造方法に関する。なお、本明細書において、「デュアルイメージング」とは、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの双方を行なうことを意味する。
本発明のデュアルイメージング用プローブは、生体内の水の緩和時間を短縮させる磁気共鳴イメージングプローブとして利用することができるとともに、光音響信号を発する光音響イメージングプローブとして利用することができる。したがって、本発明のデュアルイメージング用プローブを用いることにより、単一プローブによる2種類のイメージング技術を利用した画像形成が可能となることから、本発明のデュアルイメージング用プローブは、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用される多機能分子イメージングプローブとして期待されるものである。
【背景技術】
【0002】
生体の内部組織や内部構造の情報を画像化する方法として、例えば、光音響イメージング、磁気共鳴イメージングなどが知られている。磁気共鳴イメージングは、核磁気共鳴を利用することにより、生体などの内部組織や内部構造を磁気共鳴画像として得る方法である。磁気共鳴イメージングに用いられるプローブとして、例えば、キレート型ガドリニウム、酸化鉄(非特許文献1参照)などが臨床に用いられているが、いずれのプローブも感度が低いため、磁気共鳴イメージングを行なう際に、大量に用いる必要があるという欠点がある。
【0003】
さらに、磁気共鳴イメージングは、放射線を用いる必要がなく、かつ非侵襲的に実施することができ、しかも深部まで撮像可能であるが、プローブを用いない場合は、特に、感度が低く、解像度が低いという欠点を有する。
【0004】
一方、光音響イメージングは、高い解像度で画像を得ることができる方法であり、光を生体に照射し、照射された光によって生体内部で発生した光音響信号の強度を測定し、得られた測定結果を処理して画像化する方法である(例えば、特許文献1および非特許文献2参照)。しかしながら、光音響イメージングは、一般的に、深部まで撮影することが困難であるという欠点を有する。
【0005】
そこで、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの各欠点を補うために、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの双方によって生体などの内部組織や内部構造を画像化することが望まれている。また、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成は、より正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に対して有用であることから、水の緩和時間を短縮させるという磁気共鳴イメージングプローブとしての機能のみならず、光音響信号を発し、光音響イメージングプローブとして利用することができる多機能分子イメージングプローブの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−296612号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ヘルマン(Hermann P)ら、「MRI造影剤としてのガドリニウム(III)錯体:配位子の設計とそれらの錯体の特性(Gadolinium(III) complexes as MRI contrast agents: ligand design and properties of the complexes)」、ダルトン・トランスアクション(Dalton Transactions)、2008年発行、第23巻、pp.3027−3047
【非特許文献2】メンキナ(Mienkina MP)ら、「光音響造影剤としてのフェルカルボトラン(リゾビスト)の評価(Evaluation von Ferucarbotran (Resovist) als photoakustisches Kontrastmittel)」、ビオメディツィニッシェ・テクニック(Biomedzinsche Technik)、2009年発行、第54巻、pp.83−88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、高い磁気共鳴緩和能を有するともに高い光音響信号発生能を有し、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの双方に用いることができるデュアルイメージング用プローブおよびそれに用いられる複合粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングに用いられるデュアルイメージング用プローブであって、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に親水性被膜が形成されてなる複合粒子を含有し、前記酸化マンガン(II)含有粒子の内部が酸化マンガン(II)粒子とアルキル基の炭素数が2〜8である脂肪族ジオールとで構成され、前記親水性被膜がウロン酸からなる被膜であるデュアルイメージング用プローブ、
(2)複合粒子の粒子径が10〜300nmである前記(1)に記載のデュアルイメージング用プローブ、
(3)親水性被膜の厚さが5〜15nmである前記(1)または2)に記載のデュアルイメージング用プローブ、ならびに
)磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングに用いられるデュアルイメージング用プローブに用いられる複合粒子の製造方法であって、内部が酸化マンガン(II)粒子とアルキル基の炭素数が2〜8である脂肪族ジオールとで構成された酸化マンガン(II)含有粒子の表面上にウロン酸を被覆することによって被膜を形成させることを特徴とする複合粒子の製造方
関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い磁気共鳴緩和能を有するともに高い光音響信号発生能を有し、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの双方に用いることができるデュアルイメージング用プローブおよびそれに用いられる複合粒子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例1において、実施例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた結果を示す粉末X線回折図である。
図2】試験例1において、比較例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた結果を粉末X線回折図である。
図3】試験例2において、実施例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった結果を示すグラフである。
図4】比較例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった結果を示すグラフである。
図5】試験例3において、実施例1で得られた複合粒子の透過型電子顕微鏡写真の図面代用写真である。
図6】(A)は試験例4において、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.5mMであるときのT1強調画像、(B)は試験例4において、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.25mMであるときのT1強調画像、(C)は試験例4において、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.1mMであるときのT1強調画像、(D)は(A)〜(C)のT1強調画像におけるサンプルの配置図を示す。
図7】試験例5において、実施例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図である。
図8】試験例5において、比較例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射したときのハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図である。
図9】(A)試験例6において、実施例1で得られた複合粒子の投与前のddYマウスの光音響画像の図面代用写真、(B)は試験例6において、実施例1で得られた複合粒子の投与後のddYマウスの光音響画像の図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のデュアルイメージング用プローブは、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングに用いられるデュアルイメージング用プローブであって、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に親水性被膜が形成されてなる複合粒子を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明のデュアルイメージング用プローブは、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に親水性被膜が形成された複合粒子を含有する点に1つの大きな特徴を有する。そのため、本発明のデュアルイメージング用プローブは、電磁波により励起された水のプロトンがエネルギーを放出しながら元の状態に戻るまでの緩和時間を短くして、水素の原子核から放出される信号の強度を高めることができるとともに、パルスレーザー光などの光によって高い光音響信号を発することができる。したがって、本発明のデュアルイメージング用プローブは、高い磁気共鳴緩和能を発現し、しかも高い光音響信号発生能を発現することができることから、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの両方において、高いコントラストの画像を得ることができる。
【0014】
前記複合粒子は、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆して親水性被膜を形成させることによって得ることができる。
【0015】
酸化マンガン(II)含有粒子の原料化合物としては、例えば、塩化マンガンなどが挙げられる。塩化マンガンは、水和物であってもよい。塩化マンガンの水和物としては、例えば、塩化マンガン四水和物などが挙げられる。
【0016】
前記原料化合物は、多価アルコールに溶解させることによって用いることができる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリテトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多価アルコールは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの多価アルコールのなかでは、脂肪族ジオールが好ましく、アルキル基の炭素数が2〜8である脂肪族ジオールがより好ましく、トリエチレングリコールがさらに好ましい。
【0017】
前記原料化合物の量は、特に限定されないが、通常、多価アルコール1L(リットル)あたり、0.1〜5モル程度である。また、前記原料化合物を多価アルコールに溶解させる際の温度は、使用される多価アルコールの種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該多価アルコールの種類などに応じて室温〜100℃の温度範囲から適切な温度を設定することが好ましい。
【0018】
前記原料化合物の多価アルコール溶液と金属水酸化物の多価アルコール溶液とを混合し、得られた混合溶液を加熱することにより、酸化マンガン(II)を含有する茶白色溶液を生成させることができる。混合溶液を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。
【0019】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属水酸化物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの金属水酸化物のなかでは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0020】
金属水酸化物を溶解させる多価アルコールは、前記原料化合物の多価アルコール溶液に用いられる多価アルコールと同じである。前記金属水酸化物の量は、特に限定されないが、通常、多価アルコール1L(リットル)あたり、0.1〜100g程度である。また、前記金属水酸化物を多価アルコールに溶解させる際の温度は、使用される多価アルコールの種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該多価アルコールの種類などに応じて室温〜100℃の温度範囲から適切な温度を設定することが好ましい。
【0021】
前記原料化合物の多価アルコール溶液と金属水酸化物の多価アルコール溶液とを混合するに際し、前記原料化合物1モルあたりの金属水酸化物の量は、酸化マンガン(II)を効率よく生成させる観点から、0.9〜3モル程度であることが好ましい。
【0022】
前記原料化合物の多価アルコール溶液と金属水酸化物の多価アルコール溶液との混合溶液の加熱温度は、特に限定されないが、酸化マンガン(II)を効率よく生成させる観点から、90〜250℃程度であることが好ましい。また、前記混合溶液の加熱時間は、特に限定されないが、通常、0.5〜8時間程度であることが好ましい。
【0023】
つぎに、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に親水性被膜を形成することにより、複合粒子を製造することができる。親水性被膜は、例えば、当該酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に、両親媒性高分子化合物を被覆することによって形成させることができる。
【0024】
前記両親媒性高分子化合物において「両親媒性」とは、極性および非極性部分の双方の性質を有することを意味する。両親媒性高分子化合物の分子量は、当該両親媒性高分子化合物が架橋構造を有する場合、その分子量を特定することが困難なため、一概には決定することができない。
【0025】
両親媒性高分子化合物としては、例えば、D−グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などのウロン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリンなどのグリコサミノグリカン、ゼラチン、アクリルアミド−アルキルスルホン酸共重合体、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの両親媒性高分子化合物のなかでは、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に親水性被膜を効率よく形成させる観点から、ウロン酸が好ましく、D−グルクロン酸がより好ましい。
【0026】
酸化マンガン(II)含有粒子の表面上への親水性被膜の形成は、前記混合溶液と両親媒性高分子化合物とを混合し、得られた混合物を加熱すればよい。前記混合溶液と両親媒性高分子化合物とを混合するに際して、酸化マンガン1モルあたりの両親媒性高分子化合物の量は、例えば、両親媒性高分子化合物の種類によって異なるので一概には決定することができないが、当該両親媒性高分子化合物としてD−グルクロン酸を用いる場合には、被膜を効率よく形成させる観点から、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは0.9モル以上であり、両親媒性高分子化合物のみによる凝集物の生成を防止する観点から、好ましくは5モル以下、より好ましくは3モル以下である。
【0027】
前記混合溶液と両親媒性高分子化合物との混合物の加熱温度は、特に限定されないが、親水性被膜を効率よく形成させる観点から、室温〜200℃程度であることが好ましい。また、前記混合物の加熱時間は、特に限定されないが、通常、3〜50時間程度であることが好ましい。前記混合溶液と両親媒性高分子化合物との混合物を加熱することにより、茶白色溶液が得られる。
【0028】
つぎに、茶白色溶液と水などの極性溶媒とを混合することによって複合粒子を生成させる。酸化マンガン(II)含有粒子の生成は、例えば、前記茶白色溶液を極性溶媒中に滴下することによって行なうことができる。
【0029】
極性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの極性溶媒のなかでは、酸化マンガン(II)含有粒子を効率よく生成させる観点から、水が好ましい。水としては、例えば、蒸留水、精製水、純水、超純水などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
つぎに、茶白色溶液と極性溶媒とを混合することによって得られた混合物から固体を濾別し、必要により、得られた固体を凍結乾燥法などによって乾燥させることにより、酸化マンガン(II)含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる親水性被膜が形成された複合粒子を得ることができる。
【0031】
以上のようにして得られた複合粒子中の酸化マンガン(II)含有粒子の表面上には、親水性被膜が形成されている。親水性被膜の厚さは、保護コロイド形成の観点から、好ましくは5〜15nmである。酸化マンガン(II)含有粒子の粒子径は、通常、好ましくは2〜30nmである。また、複合粒子の粒子径は、EPR効果(Enhanced Permeation and Retention effect)による腫瘍集積性を発現させる観点から、好ましくは10〜300nmである。
【0032】
本発明のデュアルイメージング用プローブは、前記複合粒子を含有するので、高い磁気共鳴緩和能を発現し、しかも高い光音響信号発生能を発現することができる。本発明のデュアルイメージング用プローブは、前記複合粒子を含有するものであり、前記複合粒子のみで構成されていてもよく、必要により、添加剤などが含まれていてもよい。
【0033】
本発明のデュアルイメージング用プローブは、水の緩和時間を短縮させるという磁気共鳴イメージングプローブとして利用することができるとともに、光音響信号を発する光音響イメージングプローブとして利用することができることから、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成が可能となり、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用されることが期待される。
【実施例】
【0034】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
塩化マンガン4水和物(MnCl・4HO)494mg(2.50mmol)をトリエチレングリコール7.5mL中に添加し、70℃に加熱しながら30分間撹拌することによって溶解させ、A液を得た。また、水酸化ナトリウム200mg(5.0mmol)をトリエチレングリコール2.5mL中に添加し、90℃に加熱しながら1時間撹拌することにより、B液を得た。つぎに、A液とB液とを混合した。得られた混合溶液をさらに200℃に加熱しながら6時間撹拌した。さらに、混合溶液にD−グルクロン酸485mg(2.5mmol)を添加し、140℃に加熱しながら24時間撹拌することにより、茶白色溶液を得た。
【0036】
放冷後、前記茶白色溶液を超純水125mLに撹拌しながら滴下した。得られた混合物を6400×gで15分間遠心分離させることによって茶白色固体を得た。つぎに、前記茶白色固体を超純水125mLに添加し、撹拌することによって分散させた。得られた分散液を6400×gで15分間遠心分離させることによって茶白色固体を得た。前記茶白色固体を超純水20mLに再分散させ、0.80μmのシリンジフィルター(ミリポア社製)を用いてろ過することにより、複合粒子の水分散液を得た。
【0037】
複合粒子の粒子径を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、動的光散乱(DLS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の粒子径は、105nmであることがわかった。
【0038】
また、複合粒子のゼータ電位を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、電気泳動光散乱(ELS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の表面電位は、−19.0mVであることがわかった。
【0039】
比較例1
塩化マンガン4水和物(MnCl2・4H2O)24.7mg(0.125mmol)をジエチレングリコール6.25mL中に添加し、120℃に加熱しながら1時間撹拌することによって溶解させ、A液を得た。また、水酸化ナトリウム49.7mg(1.25mmol)をジエチレングリコール0.50mL中に添加し、120℃に加熱しながら1時間撹拌することにより、B液を得た。つぎに、A液とB液とを混合した。得られた混合溶液をさらに180℃に加熱しながら2時間撹拌することにより、黒色溶液を得た。
【0040】
放冷後、前記黒色溶液をエタノール20mLに撹拌しながら滴下した。得られた混合物を6400×gで15分間遠心分離させることによって黒色固体を得た。つぎに、前記黒色固体をエタノール20mLに添加し、超音波発生器を用いて分散させた。得られた分散液を6400×gで15分間遠心分離させることによって黒色固体を得た。前記黒色固体を超純水10mLに再分散させ、0.80μmのシリンジフィルター(ミリポア社製)を用いてろ過することにより、複合粒子の水分散液を得た。
【0041】
複合粒子の粒子径を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、動的光散乱(DLS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の粒子径は、20nmであることがわかった。
【0042】
また、複合粒子のゼータ電位を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、電気泳動光散乱(ELS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の表面電位は、−24.0mVであることがわかった。複合粒子は、超純水中では62時間後も凝集せずに安定に分散していた。これは、複合粒子の表面が負電荷を帯びていることにより、複合粒子同士が互いに反発しているためであると考えられる。
【0043】
さらに、A液とB液との混合溶液を180℃で加熱する時間を2時間〜24時間の範囲で変化させることにより、粒子径20〜250nmの複合粒子が得られたことから、複合粒子の粒子径を制御することができることが示唆される。
【0044】
試験例1
実施例1で得られた複合粒子および比較例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた。なお、粉末X線回折は、複合粒子約50mgをサンプルホルダーに圧縮固定し、X線回折測定装置〔(株)リガク製、商品名:Ultima IV〕を用い、電圧40kV、電流40mAとし、発生したCuKα線を炭素モノクロメーターで単色化し、1度/minの速度にて2θ=3度〜70度の範囲で測定した。試験例1において、実施例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた結果を図1、比較例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた結果を図2に示す。
【0045】
図1に示された結果から、MnOの理論値のピークに一致するピークが見られることから、実施例1で得られた複合粒子中の酸化マンガン種は、MnOであることがわかる。また、図2に示された結果から、Mn34の理論値のピークに一致するピークが見られることから、比較例1で得られた複合粒子中の酸化マンガン種は、Mn34であることがわかる。
【0046】
試験例2
実施例1で得られた複合粒子および比較例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった。なお、示差熱−熱重量分析は、示差熱−熱重量測定装置〔(株)リガク製、商品名:Thermo plus EVOII TG8120〕を用い、空気の体積流量を50cm3/minとし、複合粒子約5mgを10℃/minの昇温速度で室温から1000℃まで昇温することによって測定した。試験例2において、実施例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった結果を図3、比較例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった結果を図4に示す。
【0047】
図3に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子におけるマンガン酸化物および有機化合物それぞれの含有量は、38.1質量%および56.9質量%であることがわかる。これに対して、図4に示された結果から、比較例1で得られた複合粒子におけるマンガン酸化物および有機化合物それぞれの含有量は、87.2質量%および10.7質量%であることがわかる。
【0048】
試験例3
実施例1で得られた複合粒子を、透過型電子顕微鏡〔(株)日本電子製、品番:JEM−1400〕を用いて、加速電圧120kV、倍率15万倍にて撮像した。その結果を図5に示す。図5は、試験例3において、実施例1で得られた複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【0049】
図5に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子は、その内部が酸化マンガン(II)粒子およびトリエチレングリコールで構成され、ナノメートル程度の粒子径を有する酸化マンガン(II)粒子がトリエチレングリコールに分散しており(酸化マンガン(II)含有粒子(粒子径2〜30nm))、その表面が厚さ5〜15nmのグルクロン酸からなる親水性被膜で覆われ、粒子径が100nm程度の球状の複合粒子であることがわかる。
【0050】
試験例4
実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子、従来の臨床用MRI造影剤〔マグネビスト(登録商標)〕(比較例2)または従来の臨床用MRI造影剤〔ボースデル(登録商標)〕(比較例3)の濃度が0.1mM、0.25mMまたは0.5mMとなるように調整した後、小動物用磁気共鳴測定装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker Biospin)社製、商品名:7.0T/20 USR with 72 mm i.d. Quadrature resonator〕を用い、磁気共鳴(MR)を調べ、室温でT1強調画像を撮像し、実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子または従来の臨床用MRI造影剤の存在下での水の縦緩和時間T1および横緩和時間T2を測定した。また、実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子、従来の臨床用MRI造影剤〔マグネビスト(登録商標)〕(比較例2)または従来の臨床用MRI造影剤〔ボースデル(登録商標)〕(比較例3)の代わりに、水を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、磁気共鳴(MR)を調べ、室温でT1強調画像を撮像し、実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子または従来の臨床用MRI造影剤の存在下での水の縦緩和時間T1および横緩和時間T2を測定した(比較例4)。MR測定条件は、Inversion Pulseを併用したFISP法により、FOV6*6cm、マトリックス256*256、スライスの厚さ:2mm、NEX2の条件で外部磁場強度7T、室温で測定する条件である。試験例4において、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.5mMであるときのT1強調画像を図6(A)、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.25mMであるときのT1強調画像を図6(B)、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.1mMであるときのT1強調画像を図6(C)、(A)〜(C)のT1強調画像における実施例1および2、比較例1〜4の各試料の配置図を図6(D)に示す。
【0051】
図6に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子が最も高いコントラストを示すことがわかる。したがって、この結果から、実施例1で得られた複合粒子は、高いMRI造影能を有することがわかる。
【0052】
また、縦緩和時間T1および横緩和時間T2を用い、T1短縮能r1値およびT2短縮能r2値を算出した結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子は、比較例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤(比較例2および3)と比べて、T1短縮能r1値およびT2短縮能r2値の両方が格段に高いことがわかる。したがって、実施例1で得られた複合粒子は、高いコントラスト能を有しており、より少量で必要な磁気共鳴イメージングを可能にすることが示唆される。
【0055】
試験例5
実施例1で得られた複合粒子および比較例1で得られた複合粒子の光音響信号の測定を行なった。なお、光音響信号は、窒素色素レーザー〔(株)日本レーザー製、商品名:N2 Laser MODEL 1010, Dye Laser MODEL 1011、波長532nm、0.1mJ、10Hz、Dt=4ns以下〕を用いて組み立てた装置を用い、パルスレーザー光照射時のハイドロフォンにおける電圧変化を測定した。試験例5において、実施例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射したときのハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図を図7、比較例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射したときのハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図を図8に示す。
【0056】
図7に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子の光音響信号が、最大44.5VM-1の電圧変化として検出されることがわかる。これに対して、図8に示された結果から、比較例1で得られた複合粒子の光音響信号が、最大11.0VM-1の電圧変化として検出されることがわかる。したがって、実施例1で得られた複合粒子は、光音響イメージングプローブとして使用可能であることが示唆される。
【0057】
試験例6
実施例1で得られた複合粒子を、ddYマウス(雌8週令)に対して、マンガン濃度が0.017mmol/kgとなるように皮下投与した。小動物用光音響イメージング装置〔エンドラ(ENDRA)社製、Nexus128、対象領域のサイズ(ROI size)20×20mm、レーザー光波長710nm、レーザー光強度1.9mJ/cm)を用い、投与部位の光音響イメージングを行なった。試験例6において、実施例1で得られた複合粒子の投与前のddYマウスの光音響画像を図9(A)、実施例1で得られた複合粒子の投与後のddYマウスの光音響画像を図9(B)に示す。
【0058】
図9に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子の投与部位に、血管内のヘモグロビンに基づく光音響シグナルと比べて明瞭な光音響コントラストが検出されることがわかる。したがって、実施例1で得られた複合粒子は、光音響イメージングプローブとして使用可能であることが示唆される。
【0059】
試験例7
対数増殖期にあるマウス線維芽組織由来の細胞株L929を96穴プレートのウェルに10質量%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地〔DMEM/F12の質量比:1/1〕(100μL)とともに播種し(細胞密度:1×104個/cm2)、二酸化炭素濃度が5容量%であるインキュベーター内で24時間培養した。つぎに、ウェル内の細胞をリン酸緩衝液生理食塩水(以下、PBSという)で1回洗浄した。
【0060】
実施例1で得られた複合粒子を培地で種々の酸化マンガン濃度となるように希釈したサンプル(100μL)をウェルに入れ、インキュベーター内で48時間曝露させた。PBSで3回洗浄した後、ウェル内に培地(100μL)および細胞数測定試薬SF〔ナカライテスク(株)製〕(10μL)を入れてインキュベーター内で1.5時間静置して呈色を行なった後、紫外−可視分光光度計〔ベックマン・コールター(Beckman Coulter)社製〕を用いてウェル内の細胞含有溶液の波長450nmでの吸光度を測定し、測定された吸光度に基づいて生細胞数を算出し、各試料について生細胞数を比較した。なお、使用したサンプルは、いずれも0.22μmのシリンジフィルターを通過させることにより、あらかじめ濾過滅菌を施しておいた。
【0061】
つぎに、対照(コントロール)として、超純水を用い、対照における生細胞数に対する各試料における生細胞数の比を求め、実施例1で得られた複合粒子の細胞毒性を調べた。その結果、実施例1で得られた複合粒子は、酸化マンガン濃度0.01mM以下で細胞毒性がないことがわかった。
【0062】
実施例2
実施例1において、混合溶液を200℃で加熱する加熱時間を適宜変更することを除き、実施例1と同様の操作を行なうことにより、実施例1で得られた複合粒子と同様の性質を有する粒子径10〜300nmの複合粒子の水分散液が得られる。
【0063】
以上の結果から、本発明の複合粒子は、細胞毒性が極めて低く、高い磁気共鳴緩和能を有しており、しかも高い光音響信号発生能を有することから、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの双方に用いうるデュアルイメージング用プローブとして使用することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のデュアルイメージング用プローブは、本発明のデュアルイメージング用プローブは、細胞毒性が低く、高い磁気共鳴緩和能を有しており、しかも高い光音響信号発生能を有することから、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの双方に用いうるデュアルイメージング用プローブとして利用することができる。本発明により、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成が可能となり、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用される多機能分子イメージングプローブとして期待されるものである。
図3
図4
図1
図2
図5
図6
図7
図8
図9