【実施例】
【0034】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
塩化マンガン4水和物(MnCl
2・4H
2O)494mg(2.50mmol)をトリエチレングリコール7.5mL中に添加し、70℃に加熱しながら30分間撹拌することによって溶解させ、A液を得た。また、水酸化ナトリウム200mg(5.0mmol)をトリエチレングリコール2.5mL中に添加し、90℃に加熱しながら1時間撹拌することにより、B液を得た。つぎに、A液とB液とを混合した。得られた混合溶液をさらに200℃に加熱しながら6時間撹拌した。さらに、混合溶液にD−グルクロン酸485mg(2.5mmol)を添加し、140℃に加熱しながら24時間撹拌することにより、茶白色溶液を得た。
【0036】
放冷後、前記茶白色溶液を超純水125mLに撹拌しながら滴下した。得られた混合物を6400×gで15分間遠心分離させることによって茶白色固体を得た。つぎに、前記茶白色固体を超純水125mLに添加し、撹拌することによって分散させた。得られた分散液を6400×gで15分間遠心分離させることによって茶白色固体を得た。前記茶白色固体を超純水20mLに再分散させ、0.80μmのシリンジフィルター(ミリポア社製)を用いてろ過することにより、複合粒子の水分散液を得た。
【0037】
複合粒子の粒子径を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、動的光散乱(DLS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の粒子径は、105nmであることがわかった。
【0038】
また、複合粒子のゼータ電位を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、電気泳動光散乱(ELS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の表面電位は、−19.0mVであることがわかった。
【0039】
比較例1
塩化マンガン4水和物(MnCl
2・4H
2O)24.7mg(0.125mmol)をジエチレングリコール6.25mL中に添加し、120℃に加熱しながら1時間撹拌することによって溶解させ、A液を得た。また、水酸化ナトリウム49.7mg(1.25mmol)をジエチレングリコール0.50mL中に添加し、120℃に加熱しながら1時間撹拌することにより、B液を得た。つぎに、A液とB液とを混合した。得られた混合溶液をさらに180℃に加熱しながら2時間撹拌することにより、黒色溶液を得た。
【0040】
放冷後、前記黒色溶液をエタノール20mLに撹拌しながら滴下した。得られた混合物を6400×gで15分間遠心分離させることによって黒色固体を得た。つぎに、前記黒色固体をエタノール20mLに添加し、超音波発生器を用いて分散させた。得られた分散液を6400×gで15分間遠心分離させることによって黒色固体を得た。前記黒色固体を超純水10mLに再分散させ、0.80μmのシリンジフィルター(ミリポア社製)を用いてろ過することにより、複合粒子の水分散液を得た。
【0041】
複合粒子の粒子径を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、動的光散乱(DLS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の粒子径は、20nmであることがわかった。
【0042】
また、複合粒子のゼータ電位を、ゼータ電位・粒子径測定装置(マルバーン社製、商品名:Zetasizer nanoZS)を用い、電気泳動光散乱(ELS)法にしたがって25℃で測定したところ、複合粒子の表面電位は、−24.0mVであることがわかった。複合粒子は、超純水中では62時間後も凝集せずに安定に分散していた。これは、複合粒子の表面が負電荷を帯びていることにより、複合粒子同士が互いに反発しているためであると考えられる。
【0043】
さらに、A液とB液との混合溶液を180℃で加熱する時間を2時間〜24時間の範囲で変化させることにより、粒子径20〜250nmの複合粒子が得られたことから、複合粒子の粒子径を制御することができることが示唆される。
【0044】
試験例1
実施例1で得られた複合粒子および比較例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた。なお、粉末X線回折は、複合粒子約50mgをサンプルホルダーに圧縮固定し、X線回折測定装置〔(株)リガク製、商品名:Ultima IV〕を用い、電圧40kV、電流40mAとし、発生したCuKα線を炭素モノクロメーターで単色化し、1度/minの速度にて2θ=3度〜70度の範囲で測定した。試験例1において、実施例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた結果を
図1、比較例1で得られた複合粒子の粉末X線回折を調べた結果を
図2に示す。
【0045】
図1に示された結果から、MnOの理論値のピークに一致するピークが見られることから、実施例1で得られた複合粒子中の酸化マンガン種は、MnOであることがわかる。また、
図2に示された結果から、Mn
3O
4の理論値のピークに一致するピークが見られることから、比較例1で得られた複合粒子中の酸化マンガン種は、Mn
3O
4であることがわかる。
【0046】
試験例2
実施例1で得られた複合粒子および比較例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった。なお、示差熱−熱重量分析は、示差熱−熱重量測定装置〔(株)リガク製、商品名:Thermo plus EVOII TG8120〕を用い、空気の体積流量を50cm
3/minとし、複合粒子約5mgを10℃/minの昇温速度で室温から1000℃まで昇温することによって測定した。試験例2において、実施例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった結果を
図3、比較例1で得られた複合粒子の示差熱−熱重量分析を行なった結果を
図4に示す。
【0047】
図3に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子におけるマンガン酸化物および有機化合物それぞれの含有量は、38.1質量%および56.9質量%であることがわかる。これに対して、
図4に示された結果から、比較例1で得られた複合粒子におけるマンガン酸化物および有機化合物それぞれの含有量は、87.2質量%および10.7質量%であることがわかる。
【0048】
試験例3
実施例1で得られた複合粒子を、透過型電子顕微鏡〔(株)日本電子製、品番:JEM−1400〕を用いて、加速電圧120kV、倍率15万倍にて撮像した。その結果を
図5に示す。
図5は、試験例3において、実施例1で得られた複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【0049】
図5に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子は、その内部が酸化マンガン(II)粒子およびトリエチレングリコールで構成され、ナノメートル程度の粒子径を有する酸化マンガン(II)粒子がトリエチレングリコールに分散しており(酸化マンガン(II)含有粒子(粒子径2〜30nm))、その表面が厚さ5〜15nmのグルクロン酸からなる親水性被膜で覆われ、粒子径が100nm程度の球状の複合粒子であることがわかる。
【0050】
試験例4
実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子、従来の臨床用MRI造影剤〔マグネビスト(登録商標)〕(比較例2)または従来の臨床用MRI造影剤〔ボースデル(登録商標)〕(比較例3)の濃度が0.1mM、0.25mMまたは0.5mMとなるように調整した後、小動物用磁気共鳴測定装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker Biospin)社製、商品名:7.0T/20 USR with 72 mm i.d. Quadrature resonator〕を用い、磁気共鳴(MR)を調べ、室温でT1強調画像を撮像し、実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子または従来の臨床用MRI造影剤の存在下での水の縦緩和時間T1および横緩和時間T2を測定した。また、実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子、従来の臨床用MRI造影剤〔マグネビスト(登録商標)〕(比較例2)または従来の臨床用MRI造影剤〔ボースデル(登録商標)〕(比較例3)の代わりに、水を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、磁気共鳴(MR)を調べ、室温でT1強調画像を撮像し、実施例1で得られた複合粒子、比較例1で得られた複合粒子または従来の臨床用MRI造影剤の存在下での水の縦緩和時間T1および横緩和時間T2を測定した(比較例4)。MR測定条件は、Inversion Pulseを併用したFISP法により、FOV6*6cm、マトリックス256*256、スライスの厚さ:2mm、NEX2の条件で外部磁場強度7T、室温で測定する条件である。試験例4において、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.5mMであるときのT1強調画像を
図6(A)、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.25mMであるときのT1強調画像を
図6(B)、実施例1もしくは比較例1で得られた複合粒子または比較例2もしくは比較例3で用いられた造影剤の濃度が0.1mMであるときのT1強調画像を
図6(C)、(A)〜(C)のT1強調画像における実施例1および2、比較例1〜4の各試料の配置図を
図6(D)に示す。
【0051】
図6に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子が最も高いコントラストを示すことがわかる。したがって、この結果から、実施例1で得られた複合粒子は、高いMRI造影能を有することがわかる。
【0052】
また、縦緩和時間T1および横緩和時間T2を用い、T1短縮能r1値およびT2短縮能r2値を算出した結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子は、比較例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤(比較例2および3)と比べて、T1短縮能r1値およびT2短縮能r2値の両方が格段に高いことがわかる。したがって、実施例1で得られた複合粒子は、高いコントラスト能を有しており、より少量で必要な磁気共鳴イメージングを可能にすることが示唆される。
【0055】
試験例5
実施例1で得られた複合粒子および比較例1で得られた複合粒子の光音響信号の測定を行なった。なお、光音響信号は、窒素色素レーザー〔(株)日本レーザー製、商品名:N
2 Laser MODEL 1010, Dye Laser MODEL 1011、波長532nm、0.1mJ、10Hz、Dt=4ns以下〕を用いて組み立てた装置を用い、パルスレーザー光照射時のハイドロフォンにおける電圧変化を測定した。試験例5において、実施例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射したときのハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図を
図7、比較例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射したときのハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図を
図8に示す。
【0056】
図7に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子の光音響信号が、最大44.5VM
-1の電圧変化として検出されることがわかる。これに対して、
図8に示された結果から、比較例1で得られた複合粒子の光音響信号が、最大11.0VM
-1の電圧変化として検出されることがわかる。したがって、実施例1で得られた複合粒子は、光音響イメージングプローブとして使用可能であることが示唆される。
【0057】
試験例6
実施例1で得られた複合粒子を、ddYマウス(雌8週令)に対して、マンガン濃度が0.017mmol/kgとなるように皮下投与した。小動物用光音響イメージング装置〔エンドラ(ENDRA)社製、Nexus128、対象領域のサイズ(ROI size)20×20mm
2、レーザー光波長710nm、レーザー光強度1.9mJ/cm
2)を用い、投与部位の光音響イメージングを行なった。試験例6において、実施例1で得られた複合粒子の投与前のddYマウスの光音響画像を
図9(A)、実施例1で得られた複合粒子の投与後のddYマウスの光音響画像を
図9(B)に示す。
【0058】
図9に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子の投与部位に、血管内のヘモグロビンに基づく光音響シグナルと比べて明瞭な光音響コントラストが検出されることがわかる。したがって、実施例1で得られた複合粒子は、光音響イメージングプローブとして使用可能であることが示唆される。
【0059】
試験例7
対数増殖期にあるマウス線維芽組織由来の細胞株L929を96穴プレートのウェルに10質量%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地〔DMEM/F12の質量比:1/1〕(100μL)とともに播種し(細胞密度:1×10
4個/cm
2)、二酸化炭素濃度が5容量%であるインキュベーター内で24時間培養した。つぎに、ウェル内の細胞をリン酸緩衝液生理食塩水(以下、PBSという)で1回洗浄した。
【0060】
実施例1で得られた複合粒子を培地で種々の酸化マンガン濃度となるように希釈したサンプル(100μL)をウェルに入れ、インキュベーター内で48時間曝露させた。PBSで3回洗浄した後、ウェル内に培地(100μL)および細胞数測定試薬SF〔ナカライテスク(株)製〕(10μL)を入れてインキュベーター内で1.5時間静置して呈色を行なった後、紫外−可視分光光度計〔ベックマン・コールター(Beckman Coulter)社製〕を用いてウェル内の細胞含有溶液の波長450nmでの吸光度を測定し、測定された吸光度に基づいて生細胞数を算出し、各試料について生細胞数を比較した。なお、使用したサンプルは、いずれも0.22μmのシリンジフィルターを通過させることにより、あらかじめ濾過滅菌を施しておいた。
【0061】
つぎに、対照(コントロール)として、超純水を用い、対照における生細胞数に対する各試料における生細胞数の比を求め、実施例1で得られた複合粒子の細胞毒性を調べた。その結果、実施例1で得られた複合粒子は、酸化マンガン濃度0.01mM以下で細胞毒性がないことがわかった。
【0062】
実施例2
実施例1において、混合溶液を200℃で加熱する加熱時間を適宜変更することを除き、実施例1と同様の操作を行なうことにより、実施例1で得られた複合粒子と同様の性質を有する粒子径10〜300nmの複合粒子の水分散液が得られる。
【0063】
以上の結果から、本発明の複合粒子は、細胞毒性が極めて低く、高い磁気共鳴緩和能を有しており、しかも高い光音響信号発生能を有することから、磁気共鳴イメージングおよび光音響イメージングの双方に用いうるデュアルイメージング用プローブとして使用することができると考えられる。