【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Gustavo M. MORALES et al.,"High-quality few layer graphene produced by electrochemical intercalation and microwave-assisted expansion of graphite",CARBON,2011年,Vol.49,p.2809-2816
【文献】
Yenny HERNANDEZ et al.,"High-yield production of graphene by liquid-phase exfoliation of graphite",Nature Nanotechnology,2008年,Vol.3, No.9,p.563-568
【文献】
Junzhong WANG et al.,"High-Yield Synthesis of Few-Layer Graphene Flakes through Electrochemical Expansion of Graphite in Propylene Carbonate Electrolyte",JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2011年,Vol.133, No.23,p.8888-8891
【文献】
Virendra V. SINGH et al.,"Greener Electrochemical Synthesis of High Quality Graphene Nanosheets Directly from Pencil and its SPR Sensing Application",ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2012年 6月 6日,Vol.22, No.11,p.2352-2362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電極間に+0.1V以上+10V以下の電圧を、1分以上10分以下印加する第1の電圧印加工程、電極間に+1V以上+10V以下の電圧を、1分以上10分以下印加する第2の電圧印加工程、及び、電極間に+5V以上+15V以下の電圧を、1時間以上2時間以下印加する第3の電圧印加工程を順次行うことを特徴とする請求項8に記載のグラフェン超薄片の作製方法。
前記第3の電圧印加工程後、電解液を濾過、洗浄、乾燥して得られた粉体を、有機溶媒に分散して、超音波を照射する有機溶媒分散工程を、有することを特徴とする請求項9に記載のグラフェン超薄片の作製方法。
前記有機溶媒がN-methylpyrrolidone(NMP)、dimethylformamide(DMF)、N,N-Dimethylacetamide(DMA)、γ-buthyrolactone(GBL)、又は1,3-dimethyl-2-imidazolidinone(DMEU)のいずれかであることを特徴とする請求項10に記載のグラフェン超薄片の作製方法。
前記第3の電圧印加工程後、電極間に+5V以上+15V以下の電圧を60分間以上120分間以下の印加時間で印加するアクティベーション処理工程を有することを特徴とする請求項9に記載のグラフェン超薄片の作製方法。
前記アクティベーション処理工程後、前記アクティベーション処理工程で印加した電圧の値と同一の大きさで逆方向の電圧を印加する修飾分子除去工程を有することを特徴とする請求項12に記載のグラフェン超薄片の作製方法。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素原子1個分の厚みを有する極めて薄いシートであり、高強度、高導電性、透明性、高熱伝導性など、従来の素材を超える優れた物性・特性をもつ。特に、透明性や導電性が高く、太陽光電池の透明電極、タッチパネル、キャパシターなどに強いニーズがある。
特に、キャパシターの性能は、蓄電容量に相当するエネルギー密度及び充放電速度と、瞬間的出力に相当する出力密度により決まり、エネルギー密度は、キャパシター電極の表面積に比例し、出力密度は導電性に依存する。表1に示すように、グラフェンは、活性炭素粉末やカーボンナノチューブに比較して、比表面積が大きく、導電性も極めて優れている。よって、グラフェンの特性を十分活かせれば、今までにない高性能の電気2重層キャパシター(スーパーキャパシター)を開発できるため、注目されている。
【0003】
【表1】
【0004】
グラフェンの作製方法は、化学気相成長(CVD)法と、剥離法とに大きく分けられる。
単層グラフェンのシートは、CVD法で作製可能であるが、高価格な作製法であるので、工業的応用には不向きである。
剥離法は、低廉なグラファイトからグラフェンを剥離させる方法であり、廉価で量産できるため、工業的応用に適する。そのため、応用に向けた研究開発には、剥離法によるグラフェンが用いられている。
剥離法として、次の3種の方法が知られている。
【0005】
第1の方法は、化学的剥離法であり、第2の方法は、有機溶媒剥離法(非特許文献1)であり、第3の方法は、電解剥離法(特許文献1、非特許文献2−6)である。
第1の方法である化学的剥離法は、グラフェンを量産する一般的な方法であり、グラフェンが多層化しているグラファイトを強酸に浸漬し、グラファイトを酸化、膨張させて、多層化しているグラフェンを酸化グラフェンとして剥離し、酸化グラフェンを還元してグラフェンとする方法である。
【0006】
図1は、化学的剥離法を説明する図である。
まず、グラファイト粉を濃硫酸中、硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを用いて酸化させ、酸化グラフェンを剥離する。剥離された酸化グラフェンは、表面がカルボニル基、カルボキシル基、水酸基により修飾されている。
次に、ヒドラジンを用いて一部還元して、部分還元グラフェンとする。
酸化グラフェンを一部還元すると、カルボニル基は除去されるが、カルボキシル基や水酸基は残存する。そのため、還元により作製されたグラフェンの導電性や透明性などは高くない。また、酸化還元過程に長時間要する。更にまた、強酸やヒドラジンなど、環境や安全性に問題がある。
【0007】
第2の方法である有機溶媒剥離法は、表面張力がグラフェンと同程度の有機溶媒中にグラファイトを浸漬し、有機溶媒との相互作用により、グラフェンを剥離させる方法である。
有機溶媒剥離法において用いられる有機溶媒であって、液中浸漬によりグラファイトからグラフェンを直接剥離させる有機溶媒として、数種類あり、そのうち最も一般的な有機溶媒はN−methylpyrrolidone(NMPと略記する。)である。
まず、グラファイト粉をNMP液中に分散させてから、テフロン(登録商標)で覆ったオートクレーブ中で、200℃で、3日間加熱する。その後、これを超音波、遠心分離処理することにより、剥離されたグラフェンが得られる。化学的剥離法に比べるとプロセスは容易であるが、生産性が低く、環境性や安全性に課題がある。
【0008】
第3の方法である電解剥離法は、グラファイトを電極とし、電解液中で電解させ、電解液イオンをグラファイト層間にインターカレートさせ、グラファイト電極からグラフェンを剥離させる方法である。
図2は、従来の電解剥離法の装置模式図である。電解剥離法の装置は、極めて簡便な装置である。
前記装置を用い、グラファイト電極を陽極とし、白金電極を陰極として、配線を介して電源から2つの電極間に10V程度の電圧を印加する。これにより、グラファイト電極の表面からグラフェンが剥離され、
図2に示すように、電極表面に凝集する。
その後、これらのグラフェンはグラファイト電極の表面から離れ、電解液中に放出され、電解液中を浮遊し、沈澱する。
【0009】
図3は、電解剥離されたグラフェンの電解液中の浮遊と沈澱の様子を示す図である。
図3に示すように、グラファイト電極から分離したグラフェンは、電解液中に浮遊し、さらに底に沈澱する。
【0010】
剥離されるグラフェンは、カルボキシル基等の修飾が少ないため、導電性や透明性などの特性が優れ、欠陥や損傷も少ない。
電解剥離法は、このような高性能のグラフェンを短時間で次々と作製でき、効率的で、廉価かつ量産可能な方法である。具体的には、電解剥離法は化学的剥離法に比べて1/10以下の短時間で生成できる。電解剥離法及び化学的剥離法はともにグラファイトを原材料とし、装置も廉価・簡便であるので、作製プロセスが主として作製時間に支配されると仮定すると、電解剥離法により作製したグラフェンのコストは化学的剥離法により作製したグラフェンのコストの1/10となると計算できる。
そのため、電解剥離法が前記3つの方法の中で最も有望な方法であるとされている。
【0011】
ところで、グラフェンの応用・実用には、グラフェンが10枚以上も重なったグラフェン厚片は好ましくなく、重なりが10枚未満と少ないグラフェン薄片が好ましい。より好ましくは、単層の1枚に剥離されたグラフェン薄片である。よって、グラフェン薄片を短時間で大量に作製できる方法が望まれている。
【0012】
しかし、従来の電解剥離法では、グラフェンの剥離は短時間であるため、電解液イオンのインターカレートは不十分で、グラフェン剥離も十分ではなく、何枚もグラフェンが重なった状態となっていた。
すなわち、グラファイト電極を構成するグラフェンの各層間に電解液イオンが十分インターカレートする前に剥離が開始してしまっていた。そのため、グラフェンが10枚以上も重なったグラフェン厚片が電極から分離するとともに、この電極から分離したグラフェン厚片には、もはや、電圧が印加されないため、剥離されたグラフェン厚片は10枚以上も重なった状態のままで、電解液中に放出され、浮遊・沈殿していた。このため、最終的に、10枚以上重なったグラフェン厚片が回収されるという問題点があった。さらに、グラフェン厚片が浮遊や沈澱している状態では、グラフェン同士が再付着・再結合して、元のグラファイトに戻る場合も発生した。
【0013】
なお、キャパシター応用では、グラフェンが再結合して、元のグラファイトを再生成することを防ぐため、グラフェン間にナノ粒子からなるスペーサーを介在させる方法が提案されている(特許文献2、3)。
【0014】
また、非特許文献3〜5、7〜10は、次のようなものである。
非特許文献3は、電気化学剥離によるグラフェン合成に関するものである。
非特許文献4は、電気化学剥離によるグラフェン・ナノシートでカバーした電極に関するものであり、PSS溶液を用いたアノード剥離法が記載されている。
非特許文献5は、電気化学剥離によるグラフェン・フィルムの作製に関するものであり、硫酸を用いたアノード剥離法が記載されている。
【0015】
非特許文献7は、電気化学プロセスを用いて厚さを制御してグラフェンを合成する方法に関するものであり、アノード剥離法が記載されている。
非特許文献8は、グラファイトへの電気化学インターカレーションと超音波アシスト・エクスパンションによりグラフェンの作製に関するものであり、HClO
4のインターカレーションとNMP溶液中の超音波照射法が記載されている。Fig.4には、10層のグラフェン厚片が記載されている。
非特許文献9は、プロピレンカーボネイト中でのグラファイトの電気化学エキスパンションによるグラフェン・フレークの合成に関するものであり、Li
+/PCでネガティブチャージする方法が記載されている。
非特許文献10は、グラファイトの電気化学剥離により作製されたグラフィティック・プレートレッツに関するものであり、LiPF
6/TMPでディスチャージする方法が記載されている。Fig.3には、かなり厚いグラフェン厚片が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置、グラフェン超薄片の作製方法、グラフェン超薄片、キャパシター及びキャパシターの作製方法について説明する。
【0035】
(グラフェン超薄片)
まず、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片について説明する。
図4は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の一例を示す模式図である。
図4に示すように、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片1は1枚のグラフェン10で構成されている。
【0036】
グラフェン10の表面には、カルボニル基、カルボキシル基又は水酸基のいずれかの修飾分子も接合されていない。これにより、グラフェンの表面の活性を向上させることができ、これを凝集させてキャパシターの電極基板としたときに、キャパシタンスなどのキャパシター特性を向上させることができる。
また、単層のグラフェン(1枚のグラフェン)は、単位質量あたりの比表面積が最も高く、キャパシター特性を向上させることができる。
【0037】
図5は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の別の一例を示す模式図である。
図5に示すように、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片2はグラフェン10が4枚重なって構成されている。
【0038】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片2は、複数枚のグラフェンで構成される積層体であり、グラフェンの重なり枚数が10枚未満である。これにより、単位質量当たり、例えば、1グラム当たりの比表面積を高めることができ、これを凝集させてキャパシターの電極基板としたときに、キャパシタンスなどのキャパシター特性を向上させることができる。10枚以上の場合は、キャパシター特性を向上させる効果が小さい。
グラフェンの重なり枚数が10枚未満であればよいが、枚数が少ない方が好ましく、4枚以下がより好ましく、2枚以下がさらに好ましく、1枚が特に好ましい。なお、グラフェンの重なり枚数が1枚の場合、グラフェン超薄片は、
図4に示すような単層のグラフェンで構成される。
重なった各グラフェンの大きさは同一でも異なっていてもよい。
【0039】
図6は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の別の一例を示す模式図である。
図6に示すように、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片3は、グラフェン10の表面に穴(ナノボアともいう。)11が形成されている。穴(ナノボア)により、グラフェンの表面の活性を向上させることができ、これを凝集させてキャパシターの電極基板としたときに、キャパシタンスなどのキャパシター特性をより向上させることができる。
【0040】
穴11の径が1nm以上20nm以下であることが好ましい。これにより、グラフェンの表面の活性を向上させることができる。ここで、穴11の径は最大径を意味する。穴11の径は、電子顕微鏡像から確認することができる。
【0041】
穴11は少なくとも1個形成されていればよいが、複数の穴11が高密度で形成されていることが好ましい。また、穴11は、グラフェン超薄片3の表裏を貫通する貫通孔であってもよい。
また、複数のグラフェンが重なっている場合、グラフェンすべてに穴11が形成されていることが好ましい。これにより、キャパシター特性を向上させる効果を高めることができる。
【0042】
グラフェンの重なり枚数が2枚以上の場合には、穴11が異なるグラフェンの間で連通するように形成されていることが好ましい。これにより、グラフェンの表面へのイオンの流通を容易にして、グラフェンの表面での反応を活発にすることができる。
【0043】
図7は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の別の一例を示す図であって、(a)は模式図であり、(b)はボールスティック分子構造図である。
図7に示すように、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片4は、グラフェン10の表面にカルボニル基、カルボキシル基又は水酸基のいずれかの修飾分子12が接合されている。この構成でも、グラフェンの表面の活性はある程度保たれ、これを凝集させてキャパシターの電極基板としたときに、キャパシタンスなどのキャパシター特性を向上させることができる。
【0044】
図8は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の更に別の一例を示す図であって、(a)は模式図であり、(b)はボールスティック分子構造図である。
図8に示すように、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片5は、グラフェン10の表面にカルボニル基、カルボキシル基又は水酸基のいずれかの修飾分子12が接合されているとともに、穴11が形成されている。この構成でも、グラフェンの表面の活性を向上させることができ、これを凝集させてキャパシターの電極基板としたときに、キャパシタンスなどのキャパシター特性を向上させることができる。
【0045】
図6〜8では、単層グラフェンからなるグラフェン超薄片のみを一例として示したが、それぞれ10枚未満のグラフェンが重なった構成としてもよい。
また、10枚未満の複数枚が重なる場合、グラフェン10のみからなる構成だけでなく、修飾分子12が接合されておらず、穴11も形成されていないグラフェン、修飾分子12のみが接合されているグラフェン、穴11のみが形成されているグラフェン、修飾分子12が接合されているとともに、穴11が形成されているグラフェン、との間で任意の組み合わせとされているグラフェン超薄片としてもよい。
【0046】
(グラフェン超薄片の作製装置)
次に、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置について説明する。
図9は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置の一例を示す模式図である。
図9に示すように、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、グラファイト電極21と、対向電極22と、前記2つの電極21、22の一端側を浸漬させる電解液25と、電解液25を溜める容器24と、前記2つの電極21、22と配線26、27を介して接続された電源28と、を有する。
【0047】
また、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20では、電解液25に浸漬するグラファイト電極21の浸漬部分を少なくとも覆うように多孔質フィルター23が設けられている。多孔質フィルター23は、多数の孔が連結して形成されており、電解液25を流出入可能にしている。したがって、グラファイト電極21を電解液25に浸漬した際、多孔質フィルター23で覆われているグラファイト電極21の表面は、多孔質フィルター23を通じて流入した電解液25と接触した状態となる。
電解液25に浸漬するグラファイト電極21の浸漬部分を少なくとも覆うように多孔質フィルター23が設けられていることにより、グラフェンが何枚か重なったままのグラフェン厚片がグラファイト電極から剥離しても、多孔質フィルター23内に保持され、蓄積される。これによって、容器24に溜められた電解液25中へのグラフェン厚片の流出が抑制され、電解液25中でのグラフェン厚片の浮遊・沈殿が低減する。多孔質フィルター23の内部に蓄積したグラフェン厚片は、グラファイト電極21表面に接触した状態となっているため、電解液25中のイオンを連続的にインターカレートさせ続けることができ、その結果、電解液イオンのインターカレーションと、グラフェン層間の電解剥離を最大限まで発現させることができる。こうして、グラフェンの電解剥離を連続的に生じさせ、単層グラフェンを含む重なり枚数が10枚未満のグラフェン超薄片を収率高く大量に回収できる。特に、グラフェン1枚の単層グラフェンを収率高く得ることができる。
反応時間を制御することにより、重なり枚数が10枚未満のグラフェン超薄片を少なくとも50質量%以上含むグラフェンの粉体が得ることができる。
【0048】
多孔質フィルター23の孔径は、最大径が0.05μm以上5μm以下であることが好ましい。0.1μm以上1μm以下がより好ましく、0.15μm以上0.5μm以下がさらに好ましい。
これにより、グラファイト電極表面に多孔質フィルター23を介して電解液をさらに効果的に流出入させることができ、電解液25中のイオンを大量にグラファイト電極表面に流出入させることができる。また、グラファイト電極のグラフェンの層間に、さらに効果的に連続的にインターカレートさせ続けることができ、単層グラフェンを含む重なり枚数が10枚未満のグラフェン超薄片をさらに収率高く回収することができる。
【0049】
グラファイト電極21が、天然グラファイト又は高配向熱分解黒鉛(HOPG)からなることが好ましい。これにより、10枚未満のグラフェンからなるグラフェン超薄片を大量に効率よく作製できる。
【0050】
対向電極22は、グラファイト、耐食性合金又は貴金属からなる。これにより、グラファイト電極21を陽極とし、対向電極22を陰極として、2つの電極の間に、効率よく電圧を印加することができる。
貴金属からなる対向電極
22として、例えば、白金シートを挙げることができる。
【0051】
電解液25が、酸性水溶液、有機溶液又はイオン液体であることが好ましい。これにより、グラフェンの層間に、酸、有機分子、イオンのいずれかをインターカレートさせて、剥離を容易に行うことができる。
【0052】
前記酸性水溶液として、例えば、硫酸、塩酸、硝酸の水溶液のいずれかを挙げることができる。希硫酸では、SO
2イオンをインターカレートさせることができる。
【0053】
また、前記有機溶液として、例えば、1MのLiPF
6を添加したポリプロピレンカーボネイト(Polypropylene Carbonate:PC)を挙げることができる。この溶液中で、
図10に示すPF
6−1/PC錯体が形成される。
この錯体は、ポジティブチャージすることにより、
図11に示すように、グラファイトの層間にインターカレートする。その後、層構造を破壊して、エキスパンションさせる。そして、グラフェンを作製する。このように、この1MのLiPF
6を添加したポリプロピレンカーボネイトは、この剥離工程を効率よく行うことができ、特に好ましい。
【0054】
多孔質フィルター23として、例えば、フィルター紙又はグラスファイバーフィルターを挙げることができる。フィルター紙としては、例えば、Whatman社製、pore size 0.22μmのfilter paper Milliporeを挙げることができる。
フィルター紙からなる多孔質フィルター23は、例えば、グラファイト電極21に巻きつけて固定する。袋状にしても、一端側が閉じた筒状としてもよい。
【0055】
(グラフェン超薄片の作製方法)
次に、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法について説明する。
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、グラフェン作製装置20を用い、グラファイト電極21を陽極、対向電極22を陰極として、電極21、22間に電圧を印加して、グラフェン超薄片を作製する方法である。
【0056】
具体的には、グラファイト電極と、グラファイト、耐食性合金又は貴金属からなる対向電極とを準備し、これら電極の一端側を電解液に浸漬させる。ここで、電解液に浸漬するグラファイト電極の浸漬部分を多孔質フィルターで覆う。次いで、グラファイト電極を陽極、対向電極を陰極として、電極間に電圧を印加する。
電極間に電圧を印加するにあたっては、電極間に+0.1V以上+10V以下の電圧を、1分以上10分以下印加する第1の電圧印加工程、電極間に+1V以上+10V以下の電圧を、1分以上10分以下印加する第2の電圧印加工程、及び、電極間に+5V以上+15V以下の電圧を、1時間以上2時間以下印加する第3の電圧印加工程を順次行うことによってグラフェン超薄片を作製することが好ましい。
【0057】
第1の電圧印加工程では、電解剥離を生じさせない。しかし、この第1の電圧印加工程を実施することにより、グラファイト層間にインターカレートするイオン等をグラファイトの結晶粒界に移動させることができる。これにより、次の工程での電界剥離を効率的に行うことができる。
例えば、第1の電圧印加工程では、+1V、10分間印加する。
【0058】
第2の電圧印加工程で、電解剥離させる。この第2の電圧印加工程を実施することにより、グラファイト電極(陽極)からグラフェンを剥離させる。剥離されたグラフェンは、多孔質フィルター内に蓄積され、グラファイト電極に接触した状態で保持される。
剥離速度は、電圧値を操作して制御する。
【0059】
第3の電圧印加工程では、第2の電圧印加工程において電解剥離したグラフェンについて、グラフェン層間剥離が十分でなく、グラフェンの重なり枚数の多いグラフェン厚片をより剥離して、グラフェンの重なり枚数を少なくすることができる。これにより、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を収率高く形成できる。
以上の電解剥離により、例えば、電極の体積は約20%増加する。
図12は、チャージにより、電極の体積が増加した場合の一例を説明する概略図である。グラフェンの層間に有機分子がインターカレートされている様子も合わせて示している。
【0060】
第3の電圧印加工程後、グラファイト電極から多孔質フィルターを取り外し、電解液中に浮遊する凝集物を取り除いて、グラフェン超薄片が分散した電解液を得る。この電解液を濾過、洗浄、乾燥して得られた粉体を、有機溶媒に分散して、超音波を照射する有機溶媒分散工程を有することが好ましい。有機溶媒分散工程は、後述するアクティベーション処理工程の後に行ってもよいし、後述する修飾分子除去工程の後に行ってもよい。
表面張力が40mJ/m
2程度の有機溶媒は、有機溶媒中に浸漬させたグラファイトからグラフェンを剥離させることが知られている。
この有機溶媒によるグラフェン剥離により、グラフェンの重なり枚数の多いグラフェン厚片をより剥離して、グラフェンの重なり枚数をより少なくし、1枚の単層グラフェンの割合を増大させることができる。これにより、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片をより収率高く形成できる。
【0061】
前記有機溶媒として、例えば、N−methylpyrrolidone(NMP)、dimethylformamide(DMF)、N,N−Dimethylacetamide(DMA)、γ−buthyrolactone(GBL)、又は1,3−dimethyl−2−imidazolidinone(DMEU)のいずれかを挙げることができる。
【0062】
第3の電圧印加工程後又は有機溶媒分散工程後、電極間に+5V以上+15V以下の電圧を60分間以上120分間以下の印加時間で印加するアクティベーション処理工程を有することが好ましい。これにより、グラフェンの表面に穴(ナノボア)を形成することができる。穴の形成により、グラフェンの表面の活性を向上させることができる。これにより、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であって、穴が形成され、活性化されたグラフェン超薄片を収率高く形成できる。
【0063】
前記アクティベーション処理工程後、前記アクティベーション処理工程で印加した電圧の値と同一の大きさで逆方向の電圧を印加する修飾分子除去工程を有することが好ましい。ここで、「逆方向の電圧」とは、電圧値の正負が異なることを意図する。例えば、アクティベーション処理工程において+10Vの電圧を印加した場合、修飾分子除去工程では、−10Vの電圧を印加する。修飾分子除去工程を実施することにより、グラフェンの表面に残留された修飾分子を還元して、除去することができ、グラフェンの表面の活性を向上させることができる。グラフェン表面修飾分子を除去することにより、グラフェンの導電性を向上させることができる。これにより、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であって、穴が形成され、修飾分子も除去され、活性化されたグラフェン超薄片を収率高く形成できる。修飾分子除去工程での電圧の印加時間は、アクティベーション処理工程で印加した電圧の印加時間と同一の時間であってもよいし、異なっていてもよい。
【0064】
前記アクティベーション処理工程と前記修飾分子除去工程とからなる操作を2回以上繰り返すことが好ましい。これにより、穴をより多く形成するとともに、修飾分子をもれなく除去することができる。これにより、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であって、穴が形成され、修飾分子も除去され、活性化されたグラフェン超薄片をより収率高く形成できる。
【0065】
図13は、電解剥離中のグラフェン表面への修飾分子の修飾及びアクティベーション処理によるナノボアの形成の様子を示す図である。プラス電圧印加により、グラフェン表面が酸化され、カルボニル基などの修飾分子が形成され、ナノボア形成の基点となり、マイナス電圧印加により、これらの修飾分子が除去される。
図13に示すように、このアクティベーション処理過程でナノボアが生成される。
【0066】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法により、単層化割合の多いグラフェン粉体を短時間で簡便な装置で得ることができる。グラフェン超薄片の割合が高い粉体を作製することができる。単層化割合の多いグラフェン粉体は、透明導電性膜やキャパシター電極の材料として最適である。
【0067】
(グラフェン超薄片キャパシター)
次に、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシターについて説明する。
図14は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシターの一例を示す模式図である。
図14(a)は平面図であり、(b)は(a)のA−A´線における断面図である。
図14に示すように、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシター50は、2枚の電極63、64と、電極63、64間に配置された電解液含浸層55、56と、を有する。
具体的には、グラフェン超薄片キャパシター50は、コインセルキャップ51、52と、電極63、64と、基板53、54と、セパレーター59を兼ねる電解液含浸層55、56と、スチールスペーサー60と、スプリング57と、ガスケット58と、を有して構成されている。グラフェン超薄片キャパシター50においては、コインセルキャップ51、52とガスケット58とからなるコインセルケースが形成されている。コインセルケースは中空体であり、コインセルキャップ52がガスケット58を介してコインセルキャップ51に嵌合されて、内部が密閉に形成されている。
基板53、54には孔部が設けられ、電解液含浸層55、56に含浸された電解液をそれぞれ電極63、64に流出入させることができる。
電解液含浸層55、56は、ろ紙などを用いることができる。
【0068】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシター50の電極63、64は、グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を集積・凝集し、板状に成型した電極である。これにより、グラフェンの活性な比表面積が大きく、グラフェンの活性を高めたグラフェン超薄片を集積・凝集し、キャパシタンス性能を向上させたキャパシター用の電極とすることができる。
グラフェン超薄片1〜5を含む粉体は、グラフェン超薄片1〜5を50質量%以上含む粉体であり、70質量%以上含むものがより好ましく、90質量%以上含むものがさらに好ましく、100質量%であるものが特に好ましい。
修飾分子が残っているグラフェン超薄片4、5よりも、修飾分子が残っていない、活性化されたグラフェン超薄片1〜3を多く含む粉体を用いることが好ましい。また、穴が形成されていないグラフェン超薄片1,2、4よりも、穴が形成されている、活性化されたグラフェン超薄片3、5を多く含む粉体を用いることが好ましい。よって、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であって、穴が形成され、修飾分子も除去され、活性化されたグラフェン超薄片3が多く含まれているものが好ましい。
【0069】
電極63、64にはカーボンナノチューブを分散させてもよい。これにより、グラフェン超薄片を3次元的に連結し、強度を高めることができるとともに、グラフェンの表面をカーボンナノチューブで連結して、グラフェンの表面の活性を高めることができる。
なお、電極63、64にカーボンナノチューブを分散させずに、グラフェン超薄片を含む粉体を集積・凝集し、板状に成型してもよい。
【0070】
(グラフェン超薄片キャパシターの作製方法)
次に、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシターの作製方法について説明する。
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシター作製方法は、グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を分散させた液(例えば、グラフェン超薄片を含む粉体を分散させた電解液)を濾過、洗浄、乾燥して、グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を板状に成型する工程と、前記板状にしたグラフェン超薄片1〜5を含む粉体を電極として用いて、キャパシターを作製する工程と、を有する。グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を分散させた液を濾過、洗浄、乾燥することにより、容易に所望の形状の成形体を作製することができる。
【0071】
前記グラフェン超薄片を板状に成型する工程で、グラフェン超薄片を含む粉体を分散させた液にカーボンナノチューブを分散させることが好ましい。これにより、グラフェン超薄片をカーボンナノチューブで3次元的に連結し、強度を高めることができるとともに、グラフェンの表面をカーボンナノチューブで連結して、グラフェンの表面の活性を高めることができる。
キャパシターを作製する工程では、板状にしたグラフェン超薄片を含む粉体を電極として用いて、キャパシターを作製する。例えば、グラフェン超薄片を含む粉体の板状の成形体で構成される電極を2つ準備し、2つの電極の間に電解液含浸層を配置することによって、キャパシターを作製する。
【0072】
図15は、本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシター50の分解図である。
図15に示すように、コインセルキャップ(コインセルケース本体)51と、電極63と基板53とからなるサンプル電極と、セパレーター59を兼ねる電解液含浸層55、56と、基板54と電極64とからなるサンプル電極と、スチールスペーサー60と、スプリング57と、ガスケット58と、コインセルキャップ52と、をこの順序で積層して、グラフェン超薄片キャパシター50を作製する。
電極63、64は、グラフェン超薄片を含むグラフェンの粉体71を、円板状に成型したものである。例えば、直径1.5cmとする。
積層工程において、スポイト73で、電解液74を電解液含浸層55、56に滴下する。
【0073】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、グラファイト電極21と、グラファイト、耐食性合金又は貴金属からなる対向電極22と、前記2つの電極の一端側を浸漬させる電解液25と、電解液25を溜める容器24と、前記2つの電極と配線26、27を介して接続された電源28と、を有し、グラファイト電極21の電解液25に浸漬された部分を覆うように多孔質フィルター23が設けられている構成なので、電解中、剥離したグラフェン厚片をグラファイト電極に接触させることができる。多孔質フィルターの孔を介して電解液を流出入させることができるが、グラファイト電極から分離したグラフェン厚片が多孔質フィルターの外部の電解液に流出することを抑制することができる。グラファイト電極から分離したグラフェン厚片を多孔質フィルター内に保持して、グラファイト電極に接触させ続けることにより、グラフェン厚片の多くを、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片にすることができる。電解中は、グラファイト電極だけでなく、剥離されたグラフェン厚片についても、グラフェンの剥離作用が継続されるため、剥離グラフェンの重なりが少なく、単層グラフェンの割合の多い、一様でばらつきの少ない、グラフェンが得られる。また、多孔質フィルターでグラファイト電極を覆うだけの構成なので、装置や電解剥離プロセスの改良は必要ない。生産も高く、特別なプロセス技術も必要ない。廃棄物も少なく、劇薬の類は使用していない、グリーンプロセスの装置とすることができる。
【0074】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、グラファイト電極21が、天然グラファイト又は高配向熱分解黒鉛(HOPG)からなる構成なので、効率よくグラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を作製することができる。
【0075】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、貴金属からなる対向電極22が、白金シートである構成なので、効率よくグラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を作製することができる。
【0076】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、電解液25が、酸性水溶液、有機溶液又はイオン液体である構成なので、効率よくグラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を作製することができる。
【0077】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、前記酸性水溶液が、硫酸、塩酸、硝酸の水溶液のいずれかである構成なので、酸性水溶液のイオンをインターカレートさせて、効率よくグラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を作製することができる。例えば、酸性水溶液が希硫酸の場合では、SO
2イオンをインターカレートさせて、効率よくグラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を作製することができる。
【0078】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、前記有機溶液が、1MのLiPF
6を添加したポリプロピレンカーボネイト(Polypropylene Carbonate)である構成なので、PF
6−1/PC錯体をインターカレートさせて、効率よくグラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を作製することができる。
【0079】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製装置20は、多孔質フィルター23が、フィルター紙である構成なので、効率よくグラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片を作製することができる。
【0080】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、グラフェン作製装置20を用い、グラファイト電極21を陽極、対向電極22を陰極として、電極間に電圧を印加する構成なので、グラファイト電極を電解液やイオンが流出入できる多孔質フィルターでグラファイト電極を覆い、剥離したグラフェン厚片をグラファイト電極に接触させることができる。これにより、多孔質フィルターの孔を介して、電解液を流出入させることができるが、グラファイト電極から分離したグラフェン厚片が多孔質フィルターの外部の電解液に流出することを抑制することができる。グラファイト電極から分離したグラフェン厚片を多孔質フィルター内に保持して、グラフェン電極に接触させ続けることにより、グラフェン厚片に電圧を印加し続けることができる。これにより、グラフェンの重なり枚数を減少させ、単層化させることができ、グラフェン厚片の多くを、グラフェンの重なり枚数が10枚未満であるグラフェン超薄片にすることができる。電解中は、グラファイト電極だけでなく、剥離されたグラフェン薄片についても、グラフェンの剥離作用が継続されるため、剥離グラフェンの重なりが少なく、単層グラフェンの割合の多い、一様でばらつきの少ない、グラフェンが得られる。また、欠陥が少なく、酸化性の分子(修飾分子)の修飾も少なく、導電性や透明性が優れたグラフェンが得られる。また、単層のグラフェンの割合が多い粉体を高効率、低コストで量産できる作製できる。更にまた、電解剥離法は、作製過程で、強酸やヒドラジンなどの廃棄物をださないため、環境に優しいグリーンなプロセスにできる。
【0081】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、電極21、22間に+0.1V以上+10V以下の電圧を、1分以上10分以下印加する第1の電圧印加工程、電極21、22間に+1V以上+10V以下の電圧を、1分以上10分以下印加する第2の電圧印加工程、及び、電極21、22間に+5V以上+15V以下の電圧を、1時間以上2時間以下印加する第3の電圧印加工程を順次行う構成なので、前記グラフェン超薄片の収率を高めることができる。
【0082】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、第3の電圧印加工程後、電解液を濾過、洗浄、乾燥して得られた粉体を、有機溶媒に分散して、超音波を照射する有機溶媒分散工程を、有する構成なので、有機溶媒によるグラフェン剥離の効果により、グラフェンの重なり枚数の多いグラフェン薄片をより剥離することができる。これによって、グラフェンの重なり枚数をより少なくし、1枚の単層グラフェンの割合を増大させることができ、グラフェン超薄片の収率をより高めることができる。電解剥離に加えて、有機溶媒中でのグラフェン剥離効果も加えることにより、グラフェン単層の割合が一層高い高性能グラフェンを廉価で量産できる電解剥離プロセスとすることができる。
【0083】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、前記有機溶媒がN−methylpyrrolidone(NMP)、dimethylformamide(DMF)、N,N−Dimethylacetamide(DMA)、γ−buthyrolactone(GBL)、又は1,3−dimethyl−2−imidazolidinone(DMEU)のいずれかである構成なので、前記グラフェン超薄片の収率をより高めることができる。
【0084】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、第3の電圧印加工程後、電極間に+5V以上+15V以下の電圧を60分間以上120分間以下の印加時間で印加するアクティベーション処理工程を有する構成なので、グラフェンの表面に穴(ナノボア)を形成すること(アクティベーション)ができる。
【0085】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、前記アクティベーション処理工程後、前記電圧の値と同一の大きさで逆方向の電圧を印加する修飾分子除去工程を有する構成なので、グラフェンの表面に残存する修飾分子を取り除くことができる。
【0086】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片の作製方法は、前記アクティベーション処理工程と前記修飾分子除去工程とからなる操作を2回以上繰り返す構成なので、効率的に、アクティベーションできるとともに修飾分子の取り除くことができる。
【0087】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片1〜5は、グラフェン10の重なり枚数が10枚未満である構成なので、単位質量あたりの比表面積を高めることができ、これを板状に成型して電極として用いたときに、キャパシター性能を向上させることができる。
【0088】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片3、5は、グラフェン10に穴(ナノボア11)が形成されている構成なので、穴(ナノボア)の周囲の化学的に極めて活性な端面により、グラフェンの表面の活性を高めることができる。また、穴(ナノボア)は、電解液イオンを多量に吸着する機能を有し、電気2重層キャパシターの電極の性能を向上させることができる。これにより、従来の水準を超える高エネルギー密度で高出力密度のキャパシターの開発が可能となる。
【0089】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片3、5は、穴11の径が1nm以上20nm以下である構成なので、グラフェンの表面の活性を高めることができる。
【0090】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片1〜3は、グラフェン10にカルボニル基、カルボキシル基又は水酸基のいずれかの修飾分子12も接合されていない構成なので、グラフェンの表面の活性を高めることができる。
【0091】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシター50は、2枚の電極63、64と、前記電極63、64間に配置された電解液含浸層55、56と、を有するキャパシターであって、前記電極が、グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を板状に成型した電極である構成なので、キャパシター性能の高いキャパシターとすることができる。
特に、グラフェン単層の割合が多く、導電性を低下させる分子の修飾が少なく、電解液イオンを吸着するナノボア密度が大きいグラフェン超薄片を用いることにより、キャパシターのエネルギー密度及び導電性を大きくできる。
【0092】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシター50は、電極63、64にカーボンナノチューブが分散されている構成なので、3次元的に連結され、強度が高められ、キャパシター性能の高いキャパシターとすることができる。
【0093】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシターの作製方法は、グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を分散させた溶液を濾過、洗浄、乾燥して、グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を板状に成型する工程と、前記板状にしたグラフェン超薄片1〜5を含む粉体を電極63、64として用いて、キャパシターを作製する工程と、を有する構成なので、容易に、高性能なキャパシターを作製することができる。
【0094】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片キャパシターの作製方法は、グラフェン超薄片1〜5を含む粉体を板状に成型する工程で、前記溶液にカーボンナノチューブを分散させる構成なので、3次元的に連結され、強度が高められ、キャパシター性能の高いキャパシターとすることができる。
【0095】
本発明の実施形態であるグラフェン超薄片、グラフェン超薄片の作製装置、グラフェン超薄片の作製方法、キャパシター及びキャパシターの作製方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0096】
<連続電解剥離によるグラフェン作製>
(実施例1−1)
まず、
図9に示す電解剥離装置を準備した。
ここで、陽極には高配向熱分解グラファイト(HOPG)を用いた。陰極には、白金シート(1×2cm
2)を用いた。電源には、電極間の電流を直流とするポテンショガルバノスタットを用いた。電極を覆う多孔質フィルターには、Whatman社製、pore size 0.22μmのfilter paper Milliporeを用いた。電解液には、酸性液である硫酸(H
2SO
4)を用いた。具体的には、硫酸(4.8g、純度98%)を脱イオン水100mlに希釈した希硫酸を用いた。
【0097】
[電解剥離条件]
まず、電極間に+1V、10分間印加した(第1の電圧印加)。
次に、+10V、1分間印加した(第2の電圧印加)。
次に、+15V、2時間印加した(第3の電圧印加)。
以上の工程により、電解剥離を実施した。
【0098】
電解剥離終了後、2.5Vの電圧を10分間印加した。
次に、+10V及び−10Vの電圧を交互に印加した。それぞれの印加時間は60分間、120分間とし、このセットを2回繰り返した。ここで、第3の電圧印加工程の後、+10Vの電圧を印加する工程がアクティベーション処理工程であり、−10Vの電圧を印加する工程が修飾分子除去工程である。
【0099】
なお、第1の電圧印加(+1V、10分間印加)では、電解剥離は生じなかった。
しかし、様々な条件で検討した結果、グラファイト層間にインターカレートするSO
42−イオンをグラファイトの結晶粒界に移動させるために、この最初の電圧印加が重要であった。
【0100】
第2の電圧印加では、印加電圧が8V以上で電解剥離が開始された。電圧を+10Vにすると、急にグラフェンはグラファイトから分離し、電解液中に浮遊・沈澱した。8V以上では、印加電圧をあげるに従い、剥離速度は上昇した。以上の結果、グラフェンの剥離性の観点から、第2の電圧印加のための電圧は10Vが適切と判断した。
第2の電圧印加により、グラファイトからグラフェンを剥離させ、多孔質フィルター内で、グラファイト電極(陽極)を全てグラフェン薄片にした。
【0101】
しかし、第2の電圧印加までの処理では、グラフェン薄片のグラフェン層間剥離が十分でない場合があった。そのため、グラフェン薄片のグラフェン層間剥離をより完全にするため、第3の電圧印加を実施した。
第3の電圧印加では、多孔質フィルター内で、剥離されたグラフェン薄片をグラファイト電極に接触保持することにより、グラフェン薄片のグラフェン層間剥離をより完全にすることができた。第3の電圧印加により、グラフェンが泥状に形成され、泥状のグラフェンは多孔質内に保持された。
【0102】
以上の電解剥離により、電極の体積は約20%増加した。
【0103】
アクティベーション処理工程での+10V印加によりグラフェンにナノボアを形成した。
修飾分子除去工程での−10V印加により、グラフェン表面の酸化性の修飾分子を還元した。これにより、グラフェンの導電性や親水性を損なうと考えられる修飾分子を除去した。
【0104】
次に、多孔質フィルターを取り除き、泥状物(グラフェン)を電解液に分散させた。次いで、電解液中に浮遊する凝集物を除き、グラフェンが分散した電解液を得た。この電解液を濾過、洗浄してから、乾燥して、実施例1−1(アクティベーション処理後)の粉末試料を作製した。
【0105】
(実施例1−2〜1−3)
電解液を、表2に示すように、それぞれ硝酸(HNO
3)及び塩酸(HCl)とした他は実施例1−1と同様にして、電解剥離法を実施して、実施例1−2、1−3の粉末試料を作製した。
実施例1−1〜1−3は、塩酸(HCl)、硝酸(HNO
3)及び硫酸(H
2SO
4)の3種の電解液の比較のための予備実験として行い、塩酸(HCl)、硝酸(HNO
3)及び硫酸(H
2SO
4)の3種の電解液の中では、硫酸が最も電解剥離性がよかったので、硫酸(4.8g、純度98%)を脱イオン水100mlに希釈した希硫酸を、電解剥離のための酸性液の基本的な電解液に決定した。
【0106】
【表2】
【0107】
(実施例1−4〜1−8)
陽極、陰極を、表3に示す組み合わせにした他は実施例1−1と同様にして、電解剥離法を実施して、実施例1−4〜1−8(アクティベーション処理後)の粉末試料を作製した。
具体的には、陽極としては、高配向熱分解グラファイト(HOPG)又は天然グラファイト(純度99.99%、株式会社ニラコ製)を用い、陰極としては、白金シート(1×2cm
2)、高配向熱分解グラファイト(HOPG)又は天然グラファイト(純度99.99%、株式会社ニラコ製)のいずれかを用いた。
なお、これらの電極による違いの電解剥離への影響は明確には確認されなかった。
【0108】
【表3】
【0109】
(実施例1−9〜1−14)
電解液を有機溶媒とし、陽極、陰極を、表4に示す組み合わせにし、下記に示すように電解剥離条件で第2の電圧印加を変更した他は実施例1−1と同様にして、電解剥離法を実施した。
具体的には、有機溶媒(電解液)として、1MのLiPF
6を添加したポリプロピレンカーボネイトを用いた。
【0110】
【表4】
【0111】
[電解剥離条件]
具体的には、先ず、電極間に+1V、10分間印加した(第1の電圧印加)。
次に、第2の電圧印加の電圧を、10V、15V、20V、25V、30V、35V及び40Vのいずれかとし、その印加時間を、10min、20min、30min、40min、50min及び60minのいずれかとして、印加した。
第2の電圧印加の電圧が高電圧の場合には、剥離は急速に進んだが、剥離されたグラフェン薄片が厚くなった。このため、電解剥離の基本的な電圧として高電圧は適切ではないので、電解剥離の基本的な電圧を、低電圧の10Vに決定した。また、その印加時間を60minに決定した。
電解液が上記した有機溶媒の場合、希硫酸液に比べ、電解剥離を生じさせるための印加電圧が高く、電解剥離時間が長い傾向にあるのは、上記した有機溶媒を電解液として用いた場合のグラフェンの剥離性が希硫酸液よりよくないためであると考えた。
次に、+15V、2時間印加した(第3の電圧印加)。
以上の工程により、電解剥離を実施した。
【0112】
電解剥離終了後、実施例1−1と同様のアクティベーション処理工程及び修飾分子除去工程を行った。即ち、電解剥離終了後、2.5V、30分間印加し、次に、+10V及び−10Vの電圧を交互に印加した。それぞれの印加時間は60分間、120分間とし、このセットを2回繰り返した。
【0113】
次に、多孔質フィルターを取り除き、電解液中に浮遊する凝集物を除き、グラフェンが分散した電解液を濾過、洗浄してから、乾燥して、実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料〜実施例1−14(アクティベーション処理後)の粉末試料を作製した。
なお、実施例1−9に関しては、実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料とは別に、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料を作製した。この実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料は、実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料の作製方法においてアクティベーション処理工程及び修飾分子除去工程を行わずに作製した粉末試料である。
【0114】
図16は、実施例1−11(アクティベーション処理後)の粉末試料の作製装置の一例を示す模式図である。
図16(a)は電界剥離処理前の図であり、(b)は処理後の図である。
いずれの電極にも、HOPGのグラファイトロッドを用いた。一方の電極(陽極)には、その先端側に多孔質のフィルターを袋状に巻き付け固定した。
図16(b)に示すように、電界剥離後、グラフェンが泥状に形成されたが、生成されたグラフェンは袋内に保持された。
【0115】
<電解剥離終了後のグラフェン超薄片の観察>
まず、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料を電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。
実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料は、有機溶媒(電解液)としてLiPF
6を添加したポリプロピレンカーボネイトを用い、陽極として高配向熱分解グラファイト(HOPG)を用い、陰極として白金シート(1×2cm
2)を用いて、電解剥離して得られたグラフェン薄片である。
【0116】
図17は、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料の電子顕微鏡(SEM)像である。
図17(a)はUniform graphene sheetsである。(b)はGraphene piecesである。グラフェン薄片が何枚か重なっている。(c)はGraphene corrugationである。(d)はCurved grapheneである。
【0117】
図18は、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
図18(a)はグラフェン薄片の全体像である。グラフェン薄片がシート化している。(b)はグラフェンの重なりである。グラフェン薄片が何枚か重なっている。(c)は4枚重ね(4L:4Layer)及び2枚重ね(2L:2Layer)のグラフェンである。(d)は単層(1L:1Layer)グラフェンである。
【0118】
図19は、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料のAFM像(a)及び厚さプロファイル(b)である。
試料は、0.8nmの厚さ、すなわち、グラフェン2枚程度の重なりであった。
【0119】
図20は、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料のラマン・スペクトロスコピーである。Elec−exfo Grapheneと表記している。比較のため、Homemade Graphene(化学法によるグラフェン)、Graphene Oxide(化学的剥離法により作製した酸化グラフェン)、Graphiteのスペクトルも示している。
基板はスライドガラスを用い、514nmのピーク波長の光を用いた。
Gは、グラファイト化されたものピークであり、DはDefects(欠陥)のピークであり、2Dは、グラフェンの枚数と関連ピークである。
【0120】
図21は、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料のXPSである。Electro−exfo Grapheneと表記している((c),(d))。比較のため、Chemical reduced Graphene(化学的剥離法により作製した酸化グラフェン)のスペクトルも示している((a),(b))。
【0121】
<アクティベーション処理工程及び修飾分子除去工程終了後のグラフェン超薄片の観察>
次に、実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料を透過型電子顕微鏡で観察した。
図22は、実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料の透過型電子顕微鏡像である。
実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料は、有機溶媒(電解液)を用いて連続電解剥離後、アクティベーション処理工程及び修飾分子除去工程を行ったものである。
図22(a)は列状をなすナノボアの写真である。グラフェンにナノボアが連続的に形成され、そのためか、クラック状となっている。(b)は孤立したナノボアと残留したアモルファスカーボンの写真である。(c)はかなり成長したナノボアが密集している部分の写真である。(d)は孤立したナノボアの高倍率の像で、四角状に成長したナノボアの写真である。
【0122】
図22に示すように、実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料にはナノボアが高密度に導入されていた。
一方、実施例1−9(電解剥離終了後)の粉末試料では、ナノボアは観察されていないことより、実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料で観察されたナノボアはアクティベーション処理工程で形成したものと考えられる。
なお、ナノボアは、後述する実施例3で示すように、キャパシターにおいて、電解液イオンの吸着を増大させ、エネルギー密度を増大させることが分かった。
実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料は、これらの電子顕微鏡観察の結果等から判断すると、修飾分子が除去され、ナノボアが形成され、重なり枚数が10枚未満と少ないグラフェン超薄片を多く含む粉末であった。
【実施例2】
【0123】
<有機溶媒剥離処理工程(有機溶媒分散工程)の検討>
(実施例2−1)
まず、実施例1−1(アクティベーション処理後)の粉末試料をそれぞれ、脱イオン水で十分洗浄した。
次に、0.5gの実施例1−1(アクティベーション処理後)の粉末試料を採取し、35mlのNMP溶液に分散させた。NMPは、spectrophotometric gradeで、純度99%以上のものを使用した。
次に、このグラフェン分散のNMPを超音波下で3日間分離させた。これにより、溶液は灰色となり、それに加えて、マクロな凝集物が見られた。生成した凝集物等を除去してから、溶液を濾過して、実施例2−1(有機溶媒剥離処理後)の粉末試料を得た。
【0124】
次に、実施例2−1(有機溶媒剥離処理後)の粉末試料を透過型電子顕微鏡で観察した。
2枚重ねのグラフェンや単層グラフェンが多く見られた。NMPによる有機溶媒剥離処理を加えたことにより、確実にグラフェン剥離が進展して、単層グラフェンの割合が多くなっていた。
【0125】
(実施例2−2)
実施例1−9(アクティベーション処理後)の粉末試料を用いた他は実施例2−1と同様にして、実施例2−2(有機溶媒剥離処理後)の粉末試料を得た。
【0126】
次に、実施例2−2(有機溶媒剥離処理後)の粉末試料を透過型電子顕微鏡で観察した。
2枚重ねのグラフェンや単層グラフェンが多く見られた。NMPによる有機溶媒剥離処理を加えたことにより、確実にグラフェン剥離が進展して、単層グラフェンの割合が多くなっていた。
【実施例3】
【0127】
<キャパシター作製>
(実施例3−1)
まず、実施例1−1(アクティベーション処理後)の粉末試料(希硫酸(電解液)を用いて電解剥離させたグラフェン)を脱イオン水に分散させた溶液と、単層のカーボンナノチューブを一様に分散させた水溶液を用意した。
次に、両溶液を混合した。これにより、グラフェンとカーボンナノチューブはπ−π結合により、グラフェン表面にカーボンナノチューブが接着し、それらが重なって、カーボンナノチューブをスペーサーとするグラフェン積層が形成されたと考えられる(特許文献4)。
次に、この溶液を濾過、洗浄後、乾燥して、円板状のグラフェン凝集体を作製した。これを電極として基板に張り付けてから、
図14に示す構成のキャパシター(実施例3−1のキャパシター)を作製した。
【0128】
<キャパシター特性評価>
次に、実施例3−1のキャパシターの評価を行った。
図23は、実施例3−1のキャパシターの電気化学特性である。実施例3−1のキャパシターは、希硫酸(電解液)を用い、連続電解剥離させたグラフェンを電極に用いたキャパシターである。
図23(a)は10mV/sで掃引した時の電流−電圧特性であり、(b)は一定電流のチャージ−ディスチャージ特性である。
この特性から算出されたエネルギー密度は90.3Wh/kg、出力密度は119.0kW/kgに達した。この値は従来、報告されている特性値よりはるかに高い値であった。
【0129】
(試験例1)
<異なる剥離法で作製したグラフェン電気抵抗値と透過率(透明性)の比較>
グラファイトからグラフェンを低廉で量産できる方法には、グラファイトを強酸で酸化して剥離する化学的剥離法と、有機溶媒とグラフェンとの相互作用によりグラファイトから剥離する有機溶媒剥離法と、電解により電解液イオンをグラファイト層間にインターカレートさせて剥離する電解剥離法とがある。
【0130】
これらの異なる剥離方法で得られたグラフェンの電気抵抗値と、透過率(透明性)を測定した。
表5に示すように、電解剥離法は、グラフェンの酸化などによる欠損や、余分の分子が修飾されないため、透明性は極めて良く、導電性も優れていた。
【0131】
【表5】
【0132】
化学的剥離法や有機溶媒剥離法では、グラフェンを強酸や有機溶媒に浸漬している間は、インターカレーションや有機溶媒との相互作用により、グラフェン剥離作用は継続していた。
電解剥離法で作製したグラフェンの表面は作製プロセスでの欠陥が少なく、酸化性の分子の修飾も少ないため、導電性や透明性が優れていた。
【0133】
(試験例2)
<異なる剥離法で作製したグラフェンの作製時間の比較、及び、異なる剥離法で作製したグラフェンを用いたキャパシターのキャパシター特性の比較>
上記に示したように、単層化割合の多いグラフェンが、短時間で簡便な装置で得られた。
そのため、各剥離法により作製したグラフェンの作製時間を比較するとともに、各剥離法により作製したグラフェンを用いたキャパシターのキャパシタンス(キャパシター特性)を比較した。具体的には、市販のCheap tube社製のグラフェンと、本発明者が化学的剥離法により作製したグラフェンと、電解剥離法により作製したグラフェン(電解液として希硫酸を使用)と、電解剥離法により作製したグラフェン(電解液として有機溶媒(PC)を使用)とを比較した。その結果を表6に示す。Cheap tube社以外は実験室データである。
【0134】
【表6】
【0135】
本発明者が作製した化学的剥離法によるグラフェンを用いたキャパシターのキャパシタンスが最も高い値を示した。これは還元グラフェン表面のカルボキシル基と水酸基を利用して、グラフェンの階層構造が形成されたことによると考えられる。
【0136】
一方、Cheap tube社のグラフェンも化学的剥離法によって作製されたグラフェンであるが、キャパシタンスが最も低いのは、階層構造化していないためであると考えられる。
【0137】
また、電解剥離法で作製したグラフェンを用いたキャパシターのキャパシタンスはいずれも、Cheap tube社のグラフェンを用いたキャパシターのキャパシタンスより大きいが、化学的剥離法で作製したグラフェンを用いたキャパシターのキャパシタンスより低かった。これらの電解剥離法で作製したグラフェンを用いたキャパシターのキャパシタンスについても、積層化及び階層化を改善すれば、化学的剥離法で作製したグラフェンを用いたキャパシターなみのキャパシタンスは発現できると予想する。
【0138】
(比較例1)
多孔質フィルターを用いない他は実施例1−11と同様にして、電界剥離を実施した。
図24は、電界剥離で20minの印加時間の効果を示す写真である。有機溶媒(電解液)は、電界剥離前後で、透明な液体から黒色の液体となった。
図25は、エキスパンションした状態のグラファイト表面の電子顕微鏡写真である。矢印で、エキスパンションした部分を示している。
図26は、グラファイト電極の表面の写真である。
図26(a)はグラファイト電極のほぼ全体を示す写真であり、(a)挿入図はグラファイト電極の先端部分の拡大写真であり、(b)は(a)挿入図の拡大写真であり、(c)は(b)の拡大写真であり、(d)は(c)の拡大写真である。
図27は、比較例1のグラファイトを用いたキャパシターの電気化学特性である。1M KClを電解液として用いた。60F/gと低いキャパシタンスであった。
図27(a)は一定電流のチャージ−ディスチャージ特性であり、(b)はサイクリック・ボルタンメトリーであり、(c)はEISである。