(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924729
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】真空断熱パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20160516BHJP
F25D 23/06 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
F16L59/065
F25D23/06 V
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-35866(P2012-35866)
(22)【出願日】2012年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-170652(P2013-170652A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里
(72)【発明者】
【氏名】東 努
(72)【発明者】
【氏名】仲子 武文
(72)【発明者】
【氏名】朝田 博
【審査官】
杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−228803(JP,A)
【文献】
特開2008−064284(JP,A)
【文献】
特開平11−139468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/065
F25D 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性を有する芯材と、その周囲を覆う二枚の外包金属板からなり、前記芯材を内包する前記二枚の外包金属板の内部が真空状態とされて前記外包金属板周縁部で封止された真空断熱パネルを製造する方法であって、その少なくとも片方の中央に膨出部が設けられた二枚の外包金属板の四辺の周縁部の内の一辺の外包金属板周縁部に、後段に行う溶接のラインを挟んで内側及び外側に無機質成形体からなるスペーサーを挿入した後に二枚の外包金属板周縁部のスペーサー挿入部以外の部位を溶接接合し、その後に前記スペーサー挿入部の隙間を経由して真空引きを行った後、スペーサー間の隙間を潰し、スペーサー間の外包金属板周縁部を溶接接合することを特徴とする真空断熱パネルの製造方法。
【請求項2】
断熱性を有する芯材と、その周囲を覆う二枚の外包金属板からなり、前記芯材を内包する前記二枚の外包金属板の内部が真空状態とされて前記外包金属板周縁部で封止された真空断熱パネルを製造する方法であって、その少なくとも片方の中央に膨出部が設けられた二枚の外包金属板の四辺の周縁部の内の一辺の外包金属板周縁部に、後段に行う溶接のラインを挟んで内側及び外側に無機質粉粒体からなるスペーサーを挿入した後に二枚の外包金属板周縁部のスペーサー挿入部以外の部位を溶接接合し、その後に前記スペーサー挿入部の隙間を経由して真空引きを行った後、スペーサー間の隙間を潰し、スペーサー間の外包金属板周縁部を溶接接合することを特徴とする真空断熱パネルの製造方法。
【請求項3】
外包金属板としてステンレス鋼板を用いる請求項1又は2に記載の真空断熱パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば冷蔵庫や保冷庫、或いは保温庫や住宅等の断熱壁等に好適に用いられる真空断熱パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、電力不足などの影響によりあらゆる産業で省エネ製品や省エネ技術の開発が進められている。真空断熱パネルも省エネ対策の1つとして開発された商品であり、現在では冷蔵庫や自動販売機などの断熱材として、断熱性能を高めて消費電力を抑えるために広く採用されている。
また、住宅用の断熱材としての適用検討も進められているが、現行の真空断熱パネルは、例えば
図1の左図に示すように、グラスウール等の芯材をアルミラミネートフィルムでヒートシールした構造のものが一般的である。
【0003】
アルミラミネートフィルムでヒートシールした構造の真空断熱パネルでは、ヒートシール部から水分が透過して真空度が低下するため、活性炭やゼオライト等の吸着剤を封入しているが、それでも7〜8年で断熱性能が半減するといった問題がある。
このため、長期に亘って断熱性を維持できる真空断熱パネルの開発が望まれている。
そこで、例えば
図1の右図に示すように、グラスウール等の芯材をステンレス鋼などの薄金属板で包み、真空引きした後、端部を溶接接合して真空断熱パネルを製造することが各種試みられている。そして、真空引き方法として各種方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、芯材を包む金属外包材の一方に空気を案内して排出するための溝と溝に接続された排気口を設けて真空引き行う方法が提案されている。この方法では、予め真空引きを行う前にシーム溶接やプラズマ溶接などで溝および排気口周辺の予備封止を行い、予備封止後に溝部を通して排気口より真空引きを行い、真空引き完了後、溝部周辺をプレスなどにより平らにした後に先と同じ溶接方法により平らになった溝部上を溶接し完全封止して、封止完了後、余分な材料をカットして真空断熱パネルを製造している。
また特許文献2では、外周部が溶接接合された上下包材によって形成される略平板状の空間内に厚肉領域と薄肉領域を兼ね備えたスペーサー(断熱材)を挿入し、真空引き時は厚肉領域と薄肉領域で発生する段差を利用して上下包材の内面が接触することを防止するとともに、排気通路を確保しながら排気口より真空引きを行った後、排気口を封止し、排気口手前を溶接接合し、その後に溶接箇所の外側をカットして真空断熱パネルを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐228803号公報
【特許文献2】特開2001‐311497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、溝加工が必要で手間がかかるばかりでなく、真空引き後、溝部をプレスなどにより潰すが、完全に潰しきれなく隙間が発生し、溶接で溶け落ちが発生することがある。また、芯材収納部まで達している溝は、製品になった後も残留し、芯材収納部の平坦性が悪化する原因となっている。さらに、排気口の切除が必要となるだけでなく、カット除去した分の材料が無駄となる。
【0007】
また特許文献2に記載の方法では、断熱材の厚さを変更した断熱パネルを作製することは手間がかかり、現実には無理である。また、断熱材の薄肉部では真空引きにより凹みが発生し平坦性が悪化する。そしてその凹みにより断熱性能も低下する。
さらに、スペーサーを挿入する収納部では隙間を確保することができるが、それ以外の箇所では初期の真空引きにより上下の板が接触するため排気通路が塞がれ、パネル内部の空気を排気口まで誘導できなくなることがあり、この場合は真空引きできなくなる。
さらにまた、排気後に排気口を切除する必要があり、その分、手間がかかる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、ガラス繊維やロックウール等の無機繊維や、合成繊維や天然繊維等の有機繊維等からなる断熱性に優れた芯材と、その周囲を覆うガス不透過性に優れた外包金属板からなり、前記芯材を内包する前記外包金属板の内部が真空状態とされて前記外包金属板周縁部で封止された、耐久性に優れた真空断熱パネルを、大がかりな真空チャンバーを用いることなく簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の真空断熱パネルの製造方法は、その目的を達成するため、断熱性を有する芯材と、その周囲を覆う二枚の外包金属板からなり、前記芯材を内包する前記二枚の外包金属板の内部が真空状態とされて前記外包金属板周縁部で封止された真空断熱パネルを製造する方法であって、その少なくとも片方の中央に膨出部が設けられた二枚の外包金属板の四辺の周縁部の内の一辺の外包金属板周縁部に、後段に行う溶接のラインを挟んで内側及び外側に
無機質成形体からなるスペーサーを挿入した後に二枚の外包金属板周縁部のスペーサー挿入部以外の部位を溶接接合し、その後に前記スペーサー挿入部の隙間を経由して真空引きを行った後、スペーサー間の隙間を潰し、スペーサー間の外包金属板周縁部を溶接接合することを特徴とする。
【0010】
スペーサー素材の無機質成形体としては、金属板、セラミックス板、ガラス板等を用いることができる。
また、無機質成形体からなるスペーサーに替えて、同物質の粉粒体からなるスペーサーを用いてもよい。
さらに、外包金属板としては、ステンレス鋼板を用いることが好ましい。
なお、前記無機質成形体として板状体を用いる場合、溶接ラインに向かう方向に幅広となる切り込みを設けたものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、包材として金属板を用い、封止法として溶接接合法を採用している。このため、耐変形性に優れ、かつ長期に亘って真空度の維持が可能な真空断熱パネルが得られる。
しかも、真空引きの際に、スペーサー挿入部を除いての包材外周縁部を溶接接合した後にスペーサー挿入部に形成された隙間を経由して真空ポンプにより大気圧下で真空引きが可能であるため、大型の真空チャンバーは不要であり、設備が簡素であるばかりでなく、効率良く真空断熱パネルを製造することが可能となる。
このような相乗的な効果により、高性能な真空断熱パネルが低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】一般的な真空断熱パネルの製造方法を説明する概略図
【
図3】本発明の真空断熱パネルの製造方法を説明する概略図
【
図4】本発明の真空断熱パネルの製造方法を詳しく説明する概略図
【
図5】本発明方法で用いるスペーサーの形状を説明する図(その1)
【
図6】本発明方法で用いるスペーサーの形状を説明する図(その2)
【発明を実施するための形態】
【0013】
前記した通り、ガラス繊維やロックウール等の無機繊維や、合成繊維や天然繊維等の有機繊維等からなる断熱性に優れた芯材を、その周囲をガス不透過性に優れた外包金属板で覆い、内部を長期に亘り高真空状態に維持できる真空断熱パネルを製造するためには、
図2に示すように、芯材をステンレス鋼などの薄金属板等の包材で包み、真空引きした後、端部を溶接接合する必要がある。
しかしながら、上下の包材間には僅かな隙間しか存在していないため真空引きが困難となる。このため、前記特許文献1,2等で見られるように各種の対策が考えられているが、それぞれ前記したような問題点がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、包材の重ね合わせ面から簡便に真空引きした後に封止接合することが可能な方法について鋭意検討し、本発明に到達した。
以下に、その詳細を説明する。
まず、
図3に基づいて、本発明方法を説明する。
本発明では、真空度を長期に亘って維持させるために、包材として金属板を用い、封止手段として溶接法を採用することとした。用いる金属板としては、アルミニウム合金板等でも良いが、耐変形性や長期に亘っての外観維持の観点から、強度及び耐食性に優れたステンレス鋼板を用いることが好ましい。また、採用する溶接手段としてはシーム溶接、TIG溶接、レーザー溶接、プラズマ溶接等の各種溶接法が適用できるが、溶接時に歪の発生が少ないレーザー溶接法が好ましい。
【0015】
少なくとも片方に芯材を収納する膨出部を有する上下2枚の外包金属板と、この外包金属板の前記膨出部に収納する、ガラス繊維やロックウール等の無機繊維や、合成繊維や天然繊維等の有機繊維等からなる芯材を準備する。
膨出部に芯材を収納し、上下2枚の外包金属板をその周縁部で重ね合わせる。この際、重ね合わされた上下2枚の外包金属板の四辺の周縁部の内のいずれか一辺に、予めスペーサーを挿入しておく。
その後、上下2枚の外包金属板周縁部を押えつけて前記スペーサー挿入部を除いて両者間に隙間がないような状態にした後、1回目のレーザー溶接で上下2枚の外包金属板周縁部を、前記スペーサー挿入箇所を除いて溶接接合する。
【0016】
なお、前記スペーサー挿入の際には、溶接ラインを挟んで内側及び外側にスペーサーを配し、溶接ライン上では空隙を残したままとする。
そして、スペーサー挿入箇所を除いて溶接接合された上下2枚の外包金属板の間の大気を、スペーサー挿入部の空隙を経由させて真空引きを行う。
その後、スペーサー挿入箇所の溶接ライン上の隙間をプレス法等で押し潰し、溶接ライン上で隙間がないような状態にして2回目のレーザー溶接で封止する。
【0017】
この一連の操作で、耐久性に優れた真空断熱パネルを簡便に低コストで製造することが可能となる。
ここで、スペーサーとして用いる各種形態及びその際の真空断熱パネル製造態様について詳述する。
スペーサーとしては、金属板、セラミックス板、ガラス板等の無機質成形体や、同物質の粉粒体を用いることができる。溶接ラインより内側のスペーサーは製品中に残ることになるため、ガスを発生するおそれがある有機物質は好ましくない。
【0018】
まず、板状のスペーサーを用いる場合を、
図4,5,6で説明する。
上下外包金属板外周の周縁部間に溶接ラインを対称に溶接ライン上にかからないよう、奥側と手前側とで二枚一組となる金属板を配置する。この際、一方の金属板は外包金属板の周縁部端部まで達するように、もう一方の金属板は芯材収納部まで達するような配置とし、当該金属板と上下外包金属板により芯材収納部から周縁部端部まで繋がる隙間を確保する。この隙間を排気通路として利用しパネル内部を真空にした後、当該金属板挿入により発生した溶接ライン上の隙間を、プレス等の押圧手段により押し潰し、レーザー溶接により封止すれば真空断熱パネルが得られる。
なお、金属板挿入により発生した溶接ライン上の隙間を、潰して封止する手段としては、例えばシーム溶接用電極により隙間の押し潰しと溶接封止を一工程でおこなうこともできる。
【0019】
板状のスペーサーとしては、
図4に見られるような奥側と手前側とで二枚一組となる金属板に限らず、
図5(a)に見られるような奥側と手前側とでそれぞれ二枚ずつ平行に並べた四枚の板を一組としたものであってもよい。この場合、板に替え丸棒又はパイプを用い、奥側と手前側とでそれぞれ二本ずつ平行に並べた四本の棒又はパイプを一組としたものであってもよい。
また、奥側と手前側とでそれぞれ一枚ずつ並べた二枚で一組となる金属板であっても、それぞれの板に、通気し易いような工夫を施したものとすることが好ましい。例えば
図5(b)や
図5(c)に示すように、切り込みを形成したり、あるいは表面に溝を形成したり(
図5(d))、表面に突起を形成したり(
図5(e))、或いは板状体そのものを金網状のもの(
図5(f))としてもよい。
なお、
図6に示すように、粉粒体を上下外包金属板外周の周縁部間の溶接ラインを挟んで対称に溶接ライン上にかからない部位に配置して、上下外包金属板周縁部間に隙間を形成させてもよい。また、粉粒体の固定にはシリカやアルミナをベースにした無機系の接着剤を使用するのが好ましい。
【実施例】
【0020】
ステンレス鋼板として、板厚0.15mmのSUS304板を用い、220mm×220mmのサイズの包材とした。一方の包材に190mm×190mm×5.0mmの芯材収容用の膨出部を張り出し成形により作製した。
そして、
図7(a)に示すように、下側包材の膨出部に、180mm×180mm×5.0mmのグラスウール製芯材を収容して、下側包材と上側包材の周縁部の一辺の中央に、
図7(b)に示す20mm×20mm×0.15mmのSUS304板に切り込みを入れた二枚の板材をスペーサーとして、3mmの間隔を空けて切り込み形成部が向かい合うように、かつ前記間隔が包板周縁端と平行になるように挟み込んだ状態で上下包材を重ね合わせた。
【0021】
図8に示すように、全体を押圧してスペーサー挿入部以外を密着させ、その後に向かい合ったスペーサーの中央を通るライン、及びそれに繋がり、かつ上下包材の周縁端に平行になるよう上下包材の周縁部を、スペーサー挿入部を除いてレーザー溶接した。
その後、スペーサー挿入部に形成された空隙を排気通路として、芯材を収容している下側包材と上側包材板の間に存在する空気を真空ポンプで吸引した後、スペーサー挿入部の二枚のスペーサー間の溶接ライン上の空隙を、短冊型の治具を用いて上下方向から押圧して潰した。
さらにその後、スペーサー挿入部の二枚のスペーサー間をレーザー溶接で封止した。
そして、余分な部分を切除した。
上記及び
図8に示す操作で、ステンレス鋼板を包材とした真空断熱パネルを作製した。