【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕
<結果>
ヒト不死化細胞を用いた誘導型癌幹細胞の作製
作製法の概要および時間経過を
図1aに示した。ヒト不死化乳腺上皮細胞株MCF-10A細胞(Pauley RJ, Jones RF, Brooks SC. Isolation and characterization of a spontaneously immortalized human breast epithelial cell line, MCF-10.; Soule HD, Maloney TM, Wolman SR, Peterson WD Jr, Brenz R, McGrath CM, Russo J, ; Cancer Res. 1990 Sep 15;50(18):6075-86. (MCF-10A細胞の樹立))に、Sox2, Oct3/4, Klf4, c-Mycの4つの遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて導入後、6日間MEGM培地で培養し、その後細胞をトリプシン・EDTAで剥離し、フィーダー細胞(マウス線維芽細胞)上に播種した。次の日にヒトES培地に交換し、2日おきに培地を交換しながら培養を継続した。21日後にアルカリフォスファターゼ染色を行い、濃紅色のES細胞様コロニーを1つずつ毛細管を用いて回収した(
図1b)。これらの細胞群を細胞クローンとして24ウェルプレートで培養を継続した。
【0043】
それらのうち代表的な4クローンについて、多能性幹細胞マーカーである、TAR-1-60, Nanogを免疫染色したところ、4つのクローンとも発現が認められた(
図1c)。
【0044】
また、RT-PCR法(
図1d)およびウエスタンブロット法(
図1e)を用いた解析においても、これらのクローンは複数の幹細胞マーカーを発現していた 。
【0045】
これらの細胞をSCIDマウスの皮下にマトリゲルとともに注入した。その結果、癌幹細胞を移入したマウスにおいて腫瘍を形成した (
図2a, b, c)。組織学的解析により、これらの腫瘍は未分化な小型な細胞から形成されており、テラトーマの形成は認められなかった (
図2d, e)。これらの結果は作製された細胞株がiPS細胞と形態的には類似しているものの、性質的にはiPS細胞と異なることを示している。
【0046】
次にこれらの細胞を表面コートされていないプレートで培養し、球状体(スフェア)として培養を行った後、付着系プレートを用いて細胞を付着させたところ、紡錘形の間葉系様細胞がプレート上に増殖した(
図2f)。これらの細胞群について、従来の癌幹細胞マーカーであるCD44,CD133,ABCG2の発現を免疫染色法を用いて確認したところ、すべてのクローンにおいてその発現が認められた(
図2f)。また、フローサイトメーターを用いて細胞膜上のマーカー分子を測定した結果、これらの細胞は従来の上皮系癌幹細胞と同様に、CD44+/CD24low分画に認められた(
図2g)。次に、これらの細胞をさらに長期間培養を行うと、わずかな細胞群が自発的に分化を行い、分化上皮系マーカーであるCK7やCK8/18 を発現するコロニーが形成された(
図2f)。これらの結果は、本細胞株が分化誘導の結果、いわゆる癌幹細胞レベルから分化した癌細胞までの様々な分化段階の細胞を生み出すことができることを示している。
【0047】
誘導癌幹細胞の悪性化形質の検討
次にこれらの細胞が癌細胞としての形質を有するかどうかについて検討を行った。誘導癌幹細胞とMCF-10A細胞を500個/10cmディッシュで10日間培養を行った結果、癌幹細胞(CSC10A)のみが細胞塊(フォーカス)を多数形成した(
図3a)。次に、マトリゲルコートトランスウェルを用いた転移浸潤アッセイを行った結果、癌幹細胞のみがマトリゲルを壊して浸潤する像が認められた(
図3b)。また、細胞をソフトアガー内において培養を行った結果、癌幹細胞のみが複数のコロニーを形成した (
図3c)。以上の結果より、作成された癌幹細胞は悪性形質(癌化)を獲得していることが示された。(癌細胞としての性質を有している。)
不死化ヒト前立腺上皮細胞および不死化ヒト皮膚ケラチノサイトからの癌幹細胞の誘導
また本手法を用いて、前立腺上皮細胞RWPE-1(Bello D, Webber MM, Kleinman HK, Wartinger DD, Rhim JS. Androgen responsive adult human prostatic epithelial cell lines immortalized by human papillomavirus 18. Carcinogenesis. 1997 Jun;18(6):1215-23. (RWPE-1細胞の樹立))と皮膚ケラチノサイトHaCaT(Boukamp P, Dzarlieva-Petrusevska RT, Breitkreuz D, Hornung J, Markham A, Fusenig NE. Normal keratinization in a spontaneously immortalized aneuploid human keratinocyte cell line. J. Cell Biol. 106: 761-771, 1988. (HaCaT細胞の樹立))を用いて同様の手法にて癌幹細胞の誘導を行った。その結果、MCF-10A細胞と同様に免疫染色において各種の多能性幹細胞マーカーを発現するコロニーを複数得ることができた(
図4a,b)。これらの細胞は上記のMCF-10A由来の癌幹細胞と同様の性質を有することが確認された。すなわち、本手法を用いることで、ヒト不死化細胞から同様に、ヒト癌幹細胞を構築することができる(まとめ図、
図5)。
【0048】
CSC10Aの分化誘導(Salinomycin添加による効果)
Salinomycin処理により、CSC10Aが分化し、細胞のサイズが大きくなり(
図6a上)、未分化マーカーであるアルカリフォスファターゼの染色性が低下した(
図6a下)。また、Salinomycin(SMC)処理CSC10A細胞では、幹細胞(間葉系)マーカーであるVimentinの発現が低下し、分化(上皮系)マーカーであるbeta-cateninの発現の増加が見られた(
図6b)。
【0049】
<実験手順>
細胞培養
iPS細胞は理研バイオ資源センターより入手した(クローン番号 201B7)。iPS細胞はヒトES細胞培養培地(KNOCKOUT Dulbecco’s modified Eagle’s medium (Invitrogen) supplemented with 20% KNOCKOUT SR (Invitrogen), 1% GlutaMAX (Invitrogen), 100 mM Non-essential amino acids (Invitrogen), 50 mM b-mercaptoethanol and 10 ng/ml basic FGF)で培養した{Takahashi, Cell, 131, 861-72, 2007}。
【0050】
iCSC細胞樹立
MCF-10A(ATCCから購入)を、Takahashiらにより記載された方法を用いてiPS化した。{Takahashi, Cell, 131, 861-72, 2007} まず、山中4因子がそれぞれに組み込まれているレトロウイルスベクター(pMXs-hOct3/4, pMXs-hSox2, pMXs-hKlf4, pMXs-hc-Myc (Addgene))をVSV-G遺伝子とともにEffectene transfection reagent (Qiagen社;
http://www.qiagen.com/products/transfection/transfectionreagents/effectenetransfectionreagent.aspx)を用いてレトロウイルス作製細胞であるPLAT-E細胞に導入した。48時間後、ウイルスを含む細胞上清を回収し、0.45 umフィルターで濾過した後、10 μg/ml のhexadimethrine bromide (polybrene)を添加してウイルス液とした。標的細胞であるMCF-10Aを100mm ディッシュに6×10
5個播種し、ウイルス液を加えて37℃で16時間インキュベーションした。その後、乳腺上皮細胞用増殖培地(三光純薬株式会社;http://www.sanko-junyaku.co.jp/product/bio/catalog/nhc/hmec.html) に交換し、そのまま培養を続けた。ウイルス感染から6日目にマウス線維芽細胞(MEF; フィーダー細胞)上にまき、24時間後 ヒトES培養培地に交換した。細胞を37℃ 、 5% CO
2 で 21日間培養したところ、iPS細胞様コロニーが複数出現した。
【0051】
癌幹細胞のピックアップ
iPS細胞様コロニーが複数出現したところで、予めフィルター滅菌しておいたアルカリフォスファターゼ染色試薬(Alkaline Phosphatase Substrate Kit(VECTOR,USA))を用いて無菌状態で染色し、濃紅色に染色されたES細胞様のコロニーを顕微鏡下で1つずつ毛細管を用いてピックアップした。ピックアップした細胞はフィーダー細胞をまいた24ウェルプレート内において培養後、細胞クローンとした。
【0052】
抗体
免疫染色:TRA-1-60抗体(1:200, 14-8863, eBioscience)、Nanog抗体(1:200, RCAB0003P, COSMO BIO CO.,LTD)、OCT4抗体(1:300, SC-5279, Santa Cruz)、CD44抗体(1:100, #3570, Cell Signaling)、 CD133抗体(1:50, ab16518-100, abcam)、 ABCG2抗体(1:100, #332002, BioLegend)、CK7抗体(1:100, M7018, DAKO)、CK8/18抗体 SOX2抗体(1:2000, AB5603,MILLIPORE)、Alexa Fluor 488 goat anti-mouse IgG(H+L) (1:5000, A11001, invitrogen)、Alexa Fluor568 goat anti-rabbit IgG(H+L) (1:5000, A11011, invitrogen)
ウエスタンブロット:Actin抗体(1:5000, A5316, Sigma)、Klf4抗体(1:2000, SC-20691,Santa Cruz)
FACS:CD24抗体(1:50, 555574, BC Pharmingen)、CD44抗体(1:50, 555478, BC Pharmingen)
RT-PCR
細胞から精製したRNAから逆転写酵素ReverTraAce-a (Toyobo, Japan)を用いてcDNAにした。Ex-Taq(Takara, Japan)を用いてPCRを行った。
【0053】
PCRプライマー
SOX2:Fw;GGGAAATGGGAGGGGTGCAAAAGAGG(配列番号3),
Rv; TTGCGTGAGTGTGGATGGGATTGGTG(配列番号4)
OCT4:Fw;GACAGGGGGAGGGGAGGAGCTAGG(配列番号5),
Rv; CTTCCCTCCAACCAGTTGCCCCAAAC(配列番号6)
Nanog:Fw;CAGCCCtGATTCTTCCACCAGTCCC(配列番号7),
Rv; tGGAAGgTTCCCAGTCGGGTTCACC(配列番号8)
DNMT3:Fw; TGCTGCTCACAGGGCCCGATACTTC(配列番号9),
Rv; TCCTTTCGAGCTCAGTGCACCACAAAAC(配列番号10)
UTF1:Fw; CCGTCGCTGAACACCGCCCTGCTG(配列番号11),
Rv; CGCGCTGCCCAGAATGAAGCCCAC(配列番号12)
GAPDH:Fw; GTGGACCTGACCTGCCGTCT(配列番号13),
Rv; GGAGGAGTGGGTGTCGCTGT(配列番号14)
核型解析
株式会社日本遺伝子研究所(http://www.ngrl.co.jp/)にて受託解析した。染色体のコピー数、転座や欠失の有無などを核型解析した。本細胞は核型解析により染色体の状況は元のMCF-10Aとほぼ一致しており、エピジェネティックの変化により誘導された癌幹細胞である可能性が高く、最小限の遺伝子変異を有した癌幹細胞モデルとして各種スクリーニングに活用できる可能性がある。
【0054】
免疫不全マウスを用いた腫瘍形成
細胞はアキターゼを用いて解離し、チューブに回収し遠心した。沈殿した細胞をヒトES培養培地に懸濁した。NOD-SCIDマウス(CREA, Tokyo, Japan) 皮下に 2×10
6 個の細胞と等量のマトリゲル (354234, BD Biosciences)を混ぜて注入した。9週間後に腫瘍を摘出した。凍結腫瘍組織をoptimum cutting temperature compound (OCT) で包埋後、凍結切片にしてヘマトキシリンおよびエオジンで染色した。
【0055】
In Vitro 分化誘導法
iCSC細胞をアキターゼで剥離し、single cellの状態にした後、Ultra low attachment culture plateに10000個/96 wellずつ播種した。培地は(KNOCKOUT Dulbecco’s modified Eagle’s medium (Invitrogen) supplemented with 20% FBS, 1% GlutaMAX (Invitrogen), 100 mM Non-essential amino acids (Invitrogen), 50 mM b-mercaptoethanol)を用いた。浮遊培養を始めて7日目に、EB様細胞をゼラチンコートしたdishに移し、同じ培地でさらに9日間培養を続けた後、それ以降はDMEMで培養した。
【0056】
FACS解析
CSC-10A細胞を0.02%EDTAを用いて剥離し、FACS buffer (3% FBS/0.1% N
aN3/PBS) に懸濁した。3000回転、室温で5分遠心し、再度FACS bufferに懸濁、遠心し、細胞を洗浄した。2x10
5個/mlになるように細胞をFACS bufferに懸濁し、50ulずつエッペンに分注した。PE-CD24抗体およびFITC-CD44抗体を10ul加え、氷中で30分放置した。細胞にFACS bufferを1ml加え、遠心した。再度FACS bufferに懸濁、遠心し、細胞を洗浄し、100ulのFACS bufferに懸濁した。4%パラホルムアルデヒドを100ul加え、氷中で15分固定した。染色された細胞をFACS装置で測定した。
【0057】
フォーカスフォーメーションアッセイ
細胞をトリプシン/EDTA混合液を用いて剥離し、通常培養用の細胞増殖培地で懸濁した。10 cm dishあたり500個の細胞を播種し、10日間培養した。10日目に細胞をクリスタルバイオレット試薬において染色後、70%エタノールを用いて脱色した。その後、フォーカスの数を定量した。
【0058】
コロニーフォーメーションアッセイ
10%FBS入りの0.5%ソフトアガーをdishに分注し、室温で15分放置した。ソフトアガーが固まったところで、0.33%ソフトアガーと細胞1000個の混合液を重層し、10日間培養した。10日後に位相差顕微鏡を用いてコロニー数をカウントした。
【0059】
浸潤アッセイ
マトリゲルが1mg/mlになるように無血清DMEMで希釈し、24wellトランスウェルに100ul分注した。マトリゲルが固まるまで37℃で5時間放置した。細胞をトリプシンで剥離し、1%FBSを含むDMEMで3回洗浄した後、1×10
6 個/ml分を1%FBSを含むDMEMで懸濁した。無血清DMEMでトランスウェルを穏やかに洗浄した。トランスウェル上に細胞を播種し、下層のプレートには5ug/mlのフィブロネクチンを含む10%DMEMを600ul満たした。37℃で24時間インキュベートした後、PBSで洗浄し、3%ホルマリンを加えて固定した。トランスウェルをクリスタルバイオレット染色液で5分間染色した後、トランスウェル上面にある浸潤しなかった細胞を綿棒でぬぐい取った。
【0060】
CSC10Aの分化誘導法(Salinomycin添加)
CSC10Aを10cmディッシュに播種し、24時間後に終濃度10μMになるようにSalinomycinを添加し、37℃で培養を続けた。Salinomycinを添加して4日目の細胞をアルカリフォスファターゼで染色した。Salinomycinを添加して4日目の細胞を回収し、ウエスタンブロットにてVimentin、β-catenin、Tubulin(コントロール)の発現を確認した。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。