(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924771
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20160516BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
F02M51/06 A
F02M51/06 D
F02M21/02 S
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-209246(P2012-209246)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-62525(P2014-62525A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】本荘 拓也
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−022721(JP,A)
【文献】
特開平11−303685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02、51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座(7)及びノズル孔(9)を有するノズル部材(2)と,このノズル部材(2)の後端に連設される筒状の弁ハウジング(3)と,この弁ハウジング(3)の後端に連設される中空の固定コア(5)と,この固定コア(5)の後端に連設される燃料入口筒(6)と,前記固定コア(5)内に配設,固定され,前記燃料入口筒(6)内を前記弁ハウジング(3)内に連通する中央燃料通路(50)となる中空部を有するスプリングリテーナ(36)と,前記弁ハウジング(3)内に収容され,前記弁座(7)と協働して前記ノズル孔(9)を開閉する弁体(13)と,この弁体(13)の後端に連設されて,前記固定コア(5)前端の吸引面(5b)に対向する可動コア(12)と,前記スプリングリテーナ(36)前端の後部スプリング座(35)と前記可動コア(12)の前部スプリング座(34)との間に縮設されて前記弁体(13)を前記弁座(7)側に付勢する戻しスプリング(33)と,前記固定コア(5)を囲繞するように配設され,通電時,発生磁力により前記可動コア(12)を前記固定コア(5)に吸引させて前記弁体(13)を前記弁座(7)から離座させるコイル(22)とを備えてなる燃料噴射弁において,
前記スプリングリテーナ(36)と前記固定コア(5)との間に,前記中央燃料通路(50)と並列して前記燃料入口筒(6)内を前記弁ハウジング(3)内に連通する外側燃料通路(51)を設けたことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1記載の燃料噴射弁において,
前記固定コア(5)の内周面に嵌合固定されるスリーブ(38)の内周面に前記スプリングリテーナ(36)を嵌合固定し,前記スリーブ(38)の外周面に前記外側燃料通路(51)を溝状に形成したことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項2記載の燃料噴射弁において,
前記スリーブ(38)の前端部を前記スプリングリテーナ(36)の前端より前方へ突出させ,このスリーブ(38)の前端部内に,前記戻しスプリング(33)の後端部を,その横振れを規制するように受容させたことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項4】
請求項1記載の燃料噴射弁において,
前記固定コア(5)の内周面に前記スプリングリテーナ(36)を嵌合固定し,これら固定コア(5)及びスプリングリテーナ(36)の嵌合面の少なくとも一方に前記外側燃料通路(51)を溝状に形成したことを特徴とする燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,弁座及びノズル孔を有するノズル部材と,このノズル部材の後端に連設される筒状の弁ハウジングと,この弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コアと,この固定コアの後端に連設される燃料入口筒と,前記固定コア内に配設,固定され,前記燃料入口筒内を前記弁ハウジング内に連通する燃料通路となる中空部を有するスプリングリテーナと,前記弁ハウジング内に収容され,前記弁座と協働して前記ノズル孔を開閉する弁体と,この弁体の後端に連設されて,前記固定コア前端の吸引面に対向する可動コアと,前記スプリングリテーナ前端の後部スプリング座と前記可動コアの前部スプリング座との間に縮設されて前記弁体を前記弁座側に付勢する戻しスプリングと,前記固定コアを囲繞するように配設され,通電時,発生磁力により前記可動コアを前記固定コアに吸引させて前記弁体を前記弁座から離座させるコイルとを備えてなる燃料噴射弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる燃料噴射弁は,下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−303685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝる燃料噴射弁では,エンジンの高出力化に伴ない,開弁時の燃料流量増の要請があり,それに応える一手段として,固定コアの中空部に圧入固定され,内部が燃料通路となる円筒状のスプリングリテーナの大径化が考えられる。しかしながら,スプリングリテーナは,その前端面で戻しスプリングの後端面を支承するものであり,また戻しスプリングは,弁体の所定の閉弁荷重を考慮して,その外径等が決定されるので,戻しスプリングの外径は,徒に変更することができない。したがって,スプリングリテーナのみを大径化すれば,スプリングリテーナの戻しスプリングに対するスプリング座機能が失われることになる。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,スプリングリテーナの戻しスプリングに対するスプリング座機能を失うことなく,スプリングリテーナ内を含む固定コア内部の燃料通路断面積の拡大を可能にして,開弁時の燃料流量増の要請に応えるようにした前記燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,弁座及びノズル孔を有するノズル部材と,このノズル部材の後端に連設される筒状の弁ハウジングと,この弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コアと,この固定コアの後端に連設される燃料入口筒と,前記固定コア内に配設,固定され,前記燃料入口筒内を前記弁ハウジング内に連通する中央燃料通路となる中空部を有するスプリングリテーナと,前記弁ハウジング内に収容され,前記弁座と協働して前記ノズル孔を開閉する弁体と,この弁体の後端に連設されて,前記固定コア前端の吸引面に対向する可動コアと,前記スプリングリテーナ前端の後部スプリング座と前記可動コアの前部スプリング座との間に縮設されて前記弁体を前記弁座側に付勢する戻しスプリングと,前記固定コアを囲繞するように配設され,通電時,発生磁力により前記可動コアを前記固定コアに吸引させて前記弁体を前記弁座から離座させるコイルとを備えてなる燃料噴射弁において,前記スプリングリテーナと前記固定コアとの間に,前記中央燃料通路と並列して前記燃料入口筒内を前記弁ハウジング内に連通する外側燃料通路を設けたことを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記固定コアの内周面に嵌合固定されるスリーブの内周面に前記スプリングリテーナを嵌合固定し,前記スリーブの外周面に前記外側燃料通路を溝状に形成したことを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,前記スリーブの前端部を前記スプリングリテーナの前端より前方へ突出させ,このスリーブの前端部内に,前記戻しスプリングの後端部を,その横振れを規制するように受容させたことを第3の特徴とする。
【0009】
さらにまた本発明は,第1の特徴に加えて,前記固定コアの内周面に前記スプリングリテーナを嵌合固定し,これら固定コア及びスプリングリテーナの嵌合面の少なくとも一方に前記外側燃料通路を溝状に形成したことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば,スプリングリテーナ周りの燃料通路の断面積は,スプリングリテーナ内の中央燃料通路の断面積に,スプリングリテーナ外側の外側燃料通路の断面積を加えた,拡大したものとなり,燃料の圧力損失を小さく抑えて,スプリングリテーナの内外で燃料の大流量の通過が可能になり,エンジンの高出力化に伴なう燃料流量増の要請に応えることができる。
【0011】
一方,スプリングリテーナは,従来通り,その前端の後部スプリング座により戻しスプリングの後端を支承するので,戻しスプリングの外径を変更する必要がないから,弁体の開閉特性の変化を回避し得る。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,固定コアの内周面に嵌合固定されるスリーブの内周面にスプリングリテーナを嵌合固定し,スリーブの外周面に外側燃料通路を溝状に形成したことで,溝状の外側燃料通路付きのスリーブは容易に成形することができ,生産性が良好となる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,スリーブの前端部をスプリングリテーナの前端より前方へ突出させ,このスリーブの前端部内に,戻しスプリングの後端部を,その横振れを規制するように受容させたことで,スリーブの前端部により,戻しスプリングの後部スプリング座からのずれを防ぎ,戻しスプリングの作動の安定化を図ることができる。また戻しスプリングの後端部を高剛性とすべく密着巻きとする場合でも,その密着巻きの後端部は,スリーブの内側,即ち外側燃料通路の内側に配置されることになるから,外側燃料通路からの燃料の流出を阻害せず,燃料の圧力損失を抑えることができる。
【0014】
本発明の第4の特徴によれば,固定コアの内周面にスプリングリテーナを嵌合固定し,これら固定コア及びスプリングリテーナの嵌合面の少なくとも一方に前記外側燃料通路を溝状に形成したので,簡単な構造により前記外側燃料通路を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るガス燃料用噴射弁の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0017】
先ず,
図1〜
図2Bに示す本発明の第1実施形態の説明より始める。
【0018】
図1において,ガス燃料用噴射弁Iは,エンジンの吸気管Eの管壁に設けられる取り付け孔Eaに前端部が装着され,エンジンの吸気行程時,ガス燃料を吸気管E内に噴射する。この噴射弁Iの弁ボディ1は,円筒状のノズル部材2と,このノズル部材2の後端のフランジ部2aの外周面に前端部が嵌合及び溶接により結合される,磁性体よりなる中空円筒状で内部をガス燃料通路とする弁ハウジング3と,この弁ハウジング3の後端に非磁性円筒体4を介して一体的に連設される中空円筒状の固定コア5と,この固定コア5の後端に一体に連設される中空円筒状の燃料入口筒6とよりなっており,この燃料入口筒6の中空部6aの入口に燃料フィルタ39が装着される。固定コア5は,その内径が弁ハウジング3の内径より小となるように形成されていて,前端の吸引面5bが弁ハウジング3の後述する弁プランジャ10に対向するようになっている。
【0019】
ノズル部材2には,弁ハウジング3内に臨む平坦な弁座7と,この中心部を貫通する漏斗状の弁孔8と,この弁孔8の小径出口に連なるノズル孔9とが設けられる。ノズル部材2及び弁ハウジング3間には,前記弁座7の位置を調整する環状のシム11が介装される。
【0020】
弁ハウジング3の内周面は摺動案内面3aとされ,この摺動案内面3aには弁プランジャ10が摺動自在に嵌装される。この弁プランジャ10は,前記固定コア5前端の吸引面5bに後端面を対向させて摺動案内面3aに摺動自在に嵌合する円筒状の可動コア12と,この可動コア12の前端に一体に連設される,それより小径で円筒状の弁体13とで構成され,その弁体13の前端面には,前記弁座7に着座し得るゴム製の着座部材17が焼き付けにより付設される。また弁体13の外周面には,前記摺動案内面3aに摺動自在に嵌合されるジャーナル部13aが一体に形成される。而して,固定コア5及び可動コア12の対向面間には,着座部材17の弁座7への着座時,弁体13の開弁ストロークに相当する所定の間隙が設定される。
【0021】
弁ハウジング3の可動コア12が嵌合する領域から固定コア5に亙り,それらを囲繞するコイル組立体20が配設される。このコイル組立体20は,弁ハウジング3,非磁性円筒体4及び固定コア5の外周に嵌合するボビン21と,このボビン21の外周に巻装されるコイル22とで構成され,このコイル組立体20の外周には,これを覆う磁性体のコイルハウジング23が配設される。
【0022】
固定コア5には,その外周面より突出してボビン21の後端面を支承するヨークフランジ24が一体に形成され,このヨークフランジ24の外周面にコイルハウジング23の後端部が嵌合される。またコイルハウジング23の前端部には,ボビン21の前端面に当接する環状端壁23aと,この環状端壁23aの内周端より前方に突出して弁ハウジング3の外周面に嵌合して固着される円筒部23bとが一体に形成される。こうしてコイル組立体20及びコイルハウジング23は弁ボディ1に取り付けられる。そして,コイルハウジング23及び燃料入口筒6の外周面には,それらを連続的に被覆する樹脂モールド層26が形成され,この樹脂モールド層26には,その一側方に突出して,コイル22に連なる通電用端子27を保持するカプラ28が一体成形される。
【0023】
弁プランジャ10には,可動コア12の後端面から始まり,その前端面手前で終わる大径縦孔30と,この大径縦孔30の底面から始まり弁体13の前端面手前で終わる有底の小径縦孔31と,この小径縦孔31をジャーナル部13aより前方の弁体13の前端部外周面に開放する複数の横孔32,32…とが設けられる。
【0024】
上記大径縦孔30及び小径縦孔31間に形成される後向きの環状段部は,前部スプリング座34とされる。また固定コア5の中空部5aの中心部には中空円筒状のスプリングリテーナ36が配設,固定され,このスプリングリテーナ36の前端面が,上記前部スプリング座34と対向する後部スプリング座35とされ,これら前部及び後部スプリング座34,35間には,大径縦孔30に収容されて弁体13を弁座7側へ付勢する戻しスプリング33が縮設される。
【0025】
図1〜
図2Bに示すように,固定コア5の中空部5aは,上記大径縦孔30と略同径で,それと同軸上に並ぶスプリングガイド孔5a1と,このスプリングガイド孔5a1の後端にテーパ部5a3を介して連なる,スプリングガイド孔5a1より大径の取り付け孔5a2とで構成され,その取り付け孔5a2の後端に前記燃料入口筒6の中空部6aが連なっている。スプリングガイド孔5a1は,戻しスプリング33を収容してその横振れを規制するようになっている。
【0026】
取り付け孔5a2の内周面にはスリーブ38が圧入固定され,このスリーブ38の中空部38aにスプリングリテーナ36が,その前端の後部スプリング座35で戻しスプリング33の後端を支承しながら圧入固定される。その際,スプリングリテーナ36の圧入深さの大小によって戻しスプリング33のセット荷重が調整される。
【0027】
スプリングリテーナ36の周壁には,軸方向に延び一条のスリット37が設けられ,これによりスプリングリテーナ36は弾性的に縮径が可能になっている。このスプリングリテーナ36の外径は,スリーブ38の中空部36への圧入代を考慮して,自由状態でスリーブ38の内径より大径に設定される。
【0028】
このスプリングリテーナ36の中空部によって,燃料入口筒6内をスプリングガイド孔5a1に連通する中央燃料通路50が構成される。スプリングガイド孔5a1は,弁プランジャ10の大径縦孔30,小径縦孔31及び横孔32を介して弁ハウジング3内と連通するので,結局,中央燃料通路50は,燃料入口筒6内を弁ハウジング3内に連通させることになる。
【0029】
スリーブ38の外周には,その軸方向に延びる複数条の外側燃料通路51,51…が溝状に形成され,これら外側燃料通路51,51…は,中央燃料通路50と並列して,燃料入口筒6内をスプリングガイド孔5a1に連通させる。
【0030】
スリーブ38は,その内径がスプリングガイド孔5a1と略同径になるように構成される。そして,このスリーブ38は,その前端部がスプリングリテーナ36の前端,即ち後部スプリング座35より前方へ突出するように配置される。したがって,スリーブ38の前端部の内周面は,後部スプリング座35に支承される戻しスプリング33の後端部33aを受容してその横振れを規制するスプリングガイド部の役割を果たすことになる。
【0031】
再び
図1において,ノズル部材2の外周には,環状の前部シール溝40を画成する前後一対の合成樹脂製のリング部材41,42が嵌着され,前部シール溝40には,ノズル部材2をエンジンの吸気管Eの取り付け孔Eaに挿入したとき,その内周面に密接する前部Oリング43が装着される。
【0032】
また燃料入口筒6の後端部外周に環状の後部シール溝45が形成され,この後部シール溝45には,燃料入口筒6の外周に燃料分配管Dを嵌装したとき,その内周面に密接する後部Oリング47が装着される。
【0033】
次に,この第1実施形態の作用について説明する。
【0034】
コイル22の消磁状態では,弁プランジャ10は,戻しスプリング33のセット荷重により前方に押圧され,着座部材17を弁座7に着座させている。
【0035】
コイル22を通電により励起すると,それにより生ずる磁束がコイルハウジング23,弁ハウジング3,可動コア12,固定コア5,コイルハウジング23を順次走り,固定コア5及び弁プランジャ10間に発生する磁力により弁プランジャ10が戻しスプリング33のセット荷重に抗して固定コア5に吸引され,着座部材17を弁座7から離座させ,弁孔8を開く。
【0036】
弁孔8が開くと,図示しないガス燃料タンクから燃料分配管Dに送られたガス燃料が,燃料入口筒6に流入して燃料フィルタ39により濾過され,固定コア5の中空部5aへと向かう。その中空部5aでは,ガス燃料は,スプリングリテーナ36の中空部,即ち中央燃料通路50と,固定コア5及びスリーブ38間に形成される複数条の外側燃料通路51,51…とに分流する。そして,テーパ部5a3で合流しながら,スプリングガイド孔5a1,弁プランジャ10の大径縦孔30,小径縦孔31及び横孔32,32…を通過して弁ハウジング3内に移り,弁孔8を経て,ノズル孔9からエンジンの吸気管E内に噴射される。
【0037】
上記より明らかなように,スプリングリテーナ36周りの燃料通路の断面積は,中央燃料通路50の断面積と,複数の外側燃料通路51,51…の断面積との和となるので,ガス燃料の圧力損失を小さく抑えて,スプリングリテーナ36の内外でガス燃料の大流量の通過が可能になり,エンジンの高出力化に伴なう燃料流量増の要請に応えることができる。
【0038】
しかも前記外側燃料通路51,51…は,内側でスプリングリテーナ36を支持するスリーブ38の,固定コア5の内周面に嵌合する外周面に溝状に形成されるので,溝状の外側燃料通路51,51…付きのスリーブ38の成形は容易であり,生産性が良好となる。
【0039】
一方,スプリングリテーナ36は,従来通り,その前端の後部スプリング座35により戻しスプリング33の後端を支承するので,戻しスプリング33の外径を変更する必要がないから,弁体13の開閉特性の変化を回避し得る。
【0040】
さらにスリーブ38の前端部は,これをスプリングリテーナ36の前端より前方へ突出させて,このスリーブ38の前端部内に,戻しスプリング33の後端部33aを,その横振れを規制するように受容させたので,戻しスプリング33の後部スプリング座35からのずれを防ぎ,戻しスプリング33の作動の安定化を図ることができる。しかも戻しスプリング33の後端部33aでは,後部スプリング座35による支持を安定させるよう剛性を付与すべく,コイルを数巻き密着させているが,この密着巻きの後端部は,スリーブ38の内側,即ち外側燃料通路51,51…の内側に配置されることになるから,外側燃料通路51,51…からテーパ部5a3へ向かうガス燃料の流れを阻害しない。
【0041】
次に,
図3A及び
図3Bに示す本発明の第2実施形態について説明する。
【0042】
この第2実施形態は,前記第1実施形態中のスリーブ38を廃止しながら,スプリングリテーナ36の外周に複数条の外側燃料通路51,51…を形成するものである。具体的には,固定コア5の中空部5aが,スプリングガイド孔5a1と,このスプリングガイド孔5a1の後端にテーパ部5a3を介して連なる,スプリングガイド孔5a1より若干大径の取り付け孔5a2(前記第1実施形態における取り付け孔5a2よりも小径)とで構成され,その取り付け孔5a2に,外周面に複数条の外側燃料通路51,51…を溝状に形成したスプリングリテーナ36が圧入固定される。その他の構成は,第1実施形態と同様であるので,
図3A及び
図3B中,第1実施形態に対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0043】
この第2実施形態によれば,第1実施形態のスリーブ38を用いることなく,スプリングリテーナ36の内外に中央燃料通路50及び外側燃料通路51,51…を形成することができる。したがって,構造の簡素化を図りつゝ,ガス燃料の圧力損失を小さく抑えて,スプリングリテーナ36の内外でガス燃料の大流量の通過が可能になり,エンジンの高出力化に伴なう燃料流量増の要請に応えることができる。
【0044】
最後に,
図4A及び
図4Bに示す本発明の第3実施形態について説明する。
【0045】
この第3実施形態は,固定コア5の中空部5aの取り付け孔5a2の内周面に複数条の外側燃料通路51,51…を溝状に形成した点を除けば,前記第2実施形態と同様の構成であるので,
図4A及び
図4B中,第2実施形態に対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0046】
この第3実施形態によっても,第2実施形態と同様に,第1実施形態のスリーブ38を用いることなく,スプリングリテーナ36の内外に中央燃料通路50及び外側燃料通路51,51…を形成することができる。したがって,構造の簡素化を図りつゝ,ガス燃料の圧力損失を小さく抑えて,スプリングリテーナ36の内外でガス燃料の大流量の通過が可能になり,エンジンの高出力化に伴なう燃料流量増の要請に応えることができる。
【0047】
本発明は,上記各実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,本発明は,ガソリン等の液体燃料用の噴射弁にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
I・・・・・燃料噴射弁(ガス燃料用噴射弁)
2・・・・・ノズル部材
3・・・・・弁ハウジング
5・・・・・固定コア
5a・・・・固定コアの中空部
5a1・・・スプリングガイド孔
5a2・・・取り付け孔
7・・・・・弁座
9・・・・・ノズル孔
12・・・・可動コア
13・・・・弁体
33・・・・戻しスプリング
34・・・・前部スプリング座
35・・・・後部スプリング座
36・・・・スプリングリテーナ
50・・・・中央燃料通路
51・・・・外側燃料通路