(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶層の前記主面と垂直な前記断面において結晶欠陥が存在しており、前記結晶欠陥が前記低キャリア濃度領域を横断していることを特徴とする、請求項1記載の結晶層。
前記結晶層の前記主面と垂直な前記断面において、前記低キャリア濃度領域が網目状の連続相を形成しており、前記高キャリア濃度領域が前記低キャリア濃度領域によって区分されていることを特徴とする、請求項1または2記載の結晶層。
前記低キャリア濃度領域が、前記13族元素窒化物のc軸に対して30〜60°傾斜する部分を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の結晶層。
波長330〜385nmの光を照射したときに、波長440〜470nmにピークを有する蛍光を発することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の結晶層。
波長330〜385nmの光を照射したときに、波長540〜580nmにピークを有する蛍光を発することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の結晶層。
請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の結晶層、および前記結晶層の前記主面上に形成された13族元素窒化物からなる機能層を備えていることを特徴とする、機能素子。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を更に説明する。
好適な実施形態においては、
図1(a)に示すように、13族元素窒化物からなる種結晶1の表面1aに13族元素窒化物結晶層2を形成する。次いで、好ましくは、結晶層2の上側主面2aを研磨加工することで、
図1(b)に示すように結晶層3を薄くし、複合基板4を得る。3aは研磨後の主面である。
【0021】
こうして得られた複合基板4の表面3aに機能層5を気相法で形成し、機能素子15を得る(
図1(c))。ただし、5a、5b、5c、5d、5eは、主面3a上に成長した用途に応じて設計されるエピタキシャル層である。
【0022】
なお、機能層5を形成する前に13族元素窒化物結晶層2の主面2aを研磨することは必須ではなく、成長面をそのまま利用することもできる。また、
図1(b)の複合基板4を作製した後に種結晶1を研削加工、リフトオフ法等によって除去し、その後に結晶層3の主面に機能層5を形成することができる。
【0023】
(種結晶)
本発明では、種結晶は、13族元素窒化物結晶層を育成可能な限り、特に限定されない。ここでいう13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。この13族元素窒化物は、特に好ましくは、GaN、AlN、AlGaNである。
【0024】
種結晶は、それ自体で自立基板(支持基板)を形成していてよく、あるいは別の支持基板上に形成された種結晶膜であってよい。この種結晶膜は、一層であってよく、あるいは支持基板側にバッファ層を含んでいて良い。
【0025】
種結晶膜の形成方法は気相成長法が好ましいが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法を例示できる。有機金属化学気相成長法が特に好ましい。また、成長温度は、950〜1200℃が好ましい。
【0026】
支持基板上に種結晶膜を形成する場合には、支持基板を構成する単結晶の材質は限定されないが、サファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、GaN自立基板、シリコン単結晶、SiC単結晶、MgO単結晶、スピネル(MgAl
2O
4)、LiAlO
2、LiGaO
2、LaAlO
3,LaGaO
3,NdGaO
3等のペロブスカイト型複合酸化物、SCAM(ScAlMgO
4)を例示できる。また組成式〔A
1−y(Sr
1−xBa
x)
y〕〔(Al
1−zGa
z)
1−u・D
u〕O
3(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3〜0.98;x=0〜1;z=0〜1;u=0.15〜0.49;x+z=0.1〜2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。
【0027】
13族元素窒化物結晶層の育成方向は、ウルツ鉱構造のc面の法線方向であってよく、またa 面、m面それぞれの法線方向であってもよい。
【0028】
種結晶の表面における転位密度は、種結晶上に設ける13族元素窒化物結晶層の転位密度を低減するという観点から、低いことが望ましい。この観点からは、種結晶の転位密度は、7×10
8cm
−2以下が好ましく、5×10
8cm
−2以下が更に好ましい。また、種結晶の転位密度は品質の点からは低いほど良いので、下限は特にないが、一般的には、5×10
7cm
−2以上であることが多い。
【0029】
(13族元素窒化物結晶層)
本結晶層の製法は特に限定されないが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法などの気相法、フラックス法などの液相法を例示できる。
【0030】
この結晶層を構成する13族元素窒化物において、13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。この13族元素窒化物は、特に好ましくは、GaN、AlN、GaAlNである。また、添加剤としては、炭素や、低融点金属(錫、ビスマス、銀、金)、高融点金属(鉄、マンガン、チタン、クロムなどの遷移金属)が挙げられる。
【0031】
本発明においては、
図3の模式図に例示するように、13族元素窒化物からなる結晶層3において、一対の主面3aと3bとの間で、主面に対して略垂直な断面(
図3の断面)における構造を規定する。本例では研磨された結晶層3について述べるが、未研磨の結晶層2についても同様である。
【0032】
すなわち、結晶層の主面と垂直な断面において、キャリア濃度が1×10
18/cm
3以上である高キャリア濃度領域10と、キャリア濃度が9×10
17/cm
3以下である低キャリア濃度領域9とが存在している。
【0033】
高キャリア濃度領域10では、電圧印加時に電流が流れやすく、これによって結晶層の導電性を向上させることができる。この観点からは、高キャリア濃度領域におけるキャリア濃度を、3×10
18/cm
3以上とすることが好ましく、5×10
18/cm
3以上とすることがさらに好ましい。
【0034】
ただし、高キャリア濃度領域におけるキャリア濃度は、実際的には1×10
19/cm
3以下とすることができる。
【0035】
また、低キャリア濃度領域を組み合わせることによって、結晶層の一対の主面間において、高キャリア濃度領域におけるリーク電流の集中を抑制し、これによる機能低下を抑制する。この観点からは、低キャリア濃度領域におけるキャリア濃度を、9×10
17/cm
3以下とすることが好ましく、5×10
17/cm
3以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
ただし、低キャリア濃度領域におけるキャリア濃度は、実際的には2×10
17/cm
3以上とすることができる。
【0037】
ここで、ドーパントがn型ドーパント(Si、Ge、酸素など)である場合には、活性化率が98%以上と高いため、厳密には同じではないが、ほぼドーパント濃度=キャリア濃度と見なすことができる。以下、電流集中によるリーク防止という本発明の観点から、「キャリア濃度」として記載をするが、活性化率をほぼ100%とみなして、これを「ドーパント濃度」と読み替えても良い。
【0038】
本発明では、低キャリア濃度領域9が細長い形状であり、会合部11で会合している。これは、細長い低キャリア濃度領域9が網目のようにつながるという独特の形態を有することで、高キャリア濃度領域10における適度の導電性を確保しつつ、リーク電流集中を抑制する。
【0039】
また、本発明では、低キャリア濃度領域9が一対の主面3a、3b間で連続している。これによって結晶層における導電性を向上させる。これは、すべての低キャリア濃度領域9が一対の主面間で連続していることを要求するものではなく、少なくとも一部の低キャリア濃度領域9が一対の主面間で連続していれば足りる。
【0040】
一方、
図3(b)に示すような比較例の結晶層13においては、たとえば、一対の主面13aと13bとの間に、高キャリア濃度領域20と低キャリア濃度領域19とが交互に設けられている。高キャリア濃度領域20、低キャリア濃度領域19は、それぞれ、一対の主面13aと13bとの間で連続的に伸びている。気相法や通常のフラックスによる結晶成長では、こうした構造になりやすいことがわかった。こうした構造では、一対の主面13aと13bとの間に印加する電圧を増加させると、高キャリア濃度領域20にリーク電流が集中し、たとえば発光強度が向上しないことがわかった。
【0041】
本発明においては、高キャリア濃度領域および低キャリア濃度領域は、以下のようにして測定し、識別する。
カソードルミネッセンス測定器(たとえば、 (株)堀場製作所製MPシリーズ)を用い、倍率50〜500倍、画像撮影領域を0.1〜1mm角とする。
【0042】
低キャリア濃度領域9が細長い形状であるとは、低キャリア濃度領域の寸法の縦横比率が2以上であることを意味しており,5以上であることがさらに好ましい。
【0043】
好適な実施形態においては、結晶層の主面と垂直な断面において、低キャリア濃度領域が網目状の連続相を形成しており、高キャリア濃度領域が低キャリア濃度領域によって区分されている。
【0044】
たとえば
図4の例では、低キャリア濃度領域9が網目状の連続相を形成しており、高キャリア濃度領域10が低キャリア濃度領域9によって区分されている。
【0045】
ただし、連続相とは、低キャリア濃度領域9が連続していることを意味するが、低キャリア濃度領域9のすべてが完全に連続していることを必須としているわけではなく、一部の低キャリア濃度領域9が他の低キャリア濃度領域に対して分離されていることは許容するものとする。
【0046】
また、高キャリア濃度領域10は、分散相を形成していることが好ましい。ここで、分散相とは、高キャリア濃度領域10が概ね低キャリア濃度領域9によって区画されていて、互いにつながらない多数の領域に分かれていることを意味する。ただし、結晶層断面において高キャリア濃度領域10が低キャリア濃度領域によって分離されていても、結晶層表面において高キャリア濃度領域が連続していることは許容される。
【0047】
好適な実施形態においては、結晶層の主面と垂直な断面において結晶欠陥が存在しており、結晶欠陥が低キャリア濃度領域を横断している。たとえば、
図4の模式図では、結晶欠陥12が一対の主面3aと3bとの間に伸びている。そして、結晶欠陥12は、低キャリア濃度領域9と交差し、横断している。15は、結晶欠陥12と低キャリア濃度領域9との交差部位である。9aは、低キャリア濃度領域の成長偏曲点である。
【0048】
ここでいう、結晶欠陥とは、貫通転位(Threading Dislocation)を意味し、螺旋転位、刃状転位、およびそれらの混合転位の3種類がある。これらの転位は、透過電子顕微鏡(TEM)もしくはカソードルミネッセンス(CL)にて確認することが出来る。
【0049】
結晶欠陥12は、結晶成長に伴って種結晶に接する下側主面3bから上側主面3aに向かって会合しながら伸びていく。結晶欠陥には、結晶成長に伴い排出されてきたドーパントが蓄積される傾向があり、導電性が高くなる傾向がある。こうした結晶欠陥12が低キャリア濃度領域9を横断するような構造により、リーク電流の集中が抑制される。
【0050】
たとえば
図5に示す比較例においては、各高キャリア濃度領域19、低キャリア濃度領域20内に、それぞれ、結晶欠陥12A、12Bが形成されている。しかし、各結晶欠陥も、キャリアと同じく、一対の主面間で上下方向に伸びており、細長い低キャリア濃度領域を横断する形態ではない。
【0051】
しかも、高キャリア濃度領域20内に、より多くの結晶欠陥12Bが存在している。これは、柱状に下から上へと向かって結晶成長する構造では、ドーパントが多い部位では、キャリアも結晶欠陥も増加する傾向があるからである。こうした構造では、高キャリア濃度領域にリーク電流集中がいっそう起こりやすい。
【0052】
好適な実施形態においては、低キャリア濃度領域9が、13族元素窒化物のc軸に対して30〜60°傾斜する部分を含む。
【0053】
特に好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶層をフラックス法によって育成する。この際、フラックスの種類は、13族元素窒化物を生成可能である限り、特に限定されない。好適な実施形態においては、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくとも一方を含むフラックスを使用し、ナトリウム金属を含むフラックスが特に好ましい。
【0054】
フラックスには、13族元素の原料物質を混合し、使用する。この原料物質としては、単体金属、合金、化合物を適用できるが、13族元素の単体金属が取扱いの上からも好適である。
【0055】
(13族元素窒化物結晶層の育成の制御例)
本発明の13族元素窒化物結晶層を育成するための好適な制御方法を例示する。
【0056】
フラックス法の場合には、好ましくは、初期段階では、縦方向の成長を促進する際に、なるべく低い過飽和度とし、かつ融液の対流を抑制することによって、できるだけ濃度勾配のみを駆動力として結晶成長させる。
【0057】
具体的には、初期段階では、以下の方法で育成することが好ましい。
(1A) ルツボ内の融液の平均育成温度を高めにすることで過飽和度を小さくして核6の形成を抑制する(
図2)。
(2A) ルツボの上部をルツボの底部よりも高温に保持することによって、ルツボ内での融液の対流を抑制する。
(3A)融液の攪拌はしないようにするか、あるいは攪拌速度を小さくする。
(4A) 窒素含有ガスの分圧を低くする。
【0058】
これによって、初期段階では、核6の形成が抑制され、核6から上方へと向かって結晶成長する(矢印C)。
【0059】
好適な実施形態においては、初期段階の条件を停止した後、育成条件を変更することによって、結晶成長速度を上げる(後期段階)。この結果、結晶成長7は横方向への成長が主となる(矢印A、B)。
【0060】
例えば、以下のような条件を適用可能である。
(初期段階)
(1A) ルツボ内の融液の平均育成温度を870〜885℃とする。
(2A) ルツボの上部の温度を,ルツボの底部の温度よりも0.5〜1℃高く保持する。
(3A) 融液の攪拌はしないようにするか、あるいは攪拌速度を30rpm以下とする。また、攪拌方向を1方向とする。
(4A) 窒素含有ガスの分圧を3.5〜3.8MPaとする。
【0061】
後期段階では、以下のようにすることが好ましい。
(1B) ルツボ内の融液の平均育成温度を850〜860℃とする。また、初期段階との平均育成温度の差を10〜25℃とする。
(3B) 融液の攪拌をし、攪拌方向を定期的に変更する。更に、回転方向を変えるときに、ルツボの回転を停止させること。この場合には、回転停止時間は100秒〜6000秒が好ましく、600秒〜3600秒が更に好ましい。また、回転停止時間の前後における回転時間は10秒〜600秒が好ましく、回転速度は10〜30rpmが好ましい。
(4B) 窒素含有ガスの分圧を4.0〜4.2MPaとする。また、初期段階における窒素含有ガスの分圧よりも0.2〜0.5MPa高くする。
【0062】
ここで、好ましくは、後期段階では、製造条件を徐々に変化させことによって、低転位領域とキャリア濃度とのバランスをとる。具体的には、融液の攪拌速度を徐々に上昇させたり、攪拌時の最高回転速度での保持時間を徐々に長くする。
【0063】
フラックス法では、窒素原子を含む気体を含む雰囲気下で単結晶を育成する。このガスは窒素ガスが好ましいが、アンモニアでもよい。
雰囲気中の窒素原子を含む気体以外のガスは限定されないが、不活性ガスが好ましく、アルゴン、ヘリウム、ネオンが特に好ましい。
【0064】
育成の初期段階では、前記した(1A)〜(4A)の条件下で、1時間以上保持することが好ましく、2時間以上保持することが更に好ましい。また、初期段階での保持時間は10時間以下が好ましい。
【0065】
融液における13族元素窒化物/フラックス(例えばナトリウム)の比率(mol比率)は、本発明の観点からは、高くすることが好ましく、18mol%以上が好ましく、25mol%以上が更に好ましい。ただし、この割合が大きくなり過ぎると結晶品質が落ちる傾向があるので、40mol%以下が好ましい。
【0066】
(気相法)
例えばHVPE法の場合には、成長初期段階において、水素混合比を高く(例えば50%以上)し、成長速度を遅く(例えば、10〜20ミクロン/hr)して、
図2(a)の状態から、
図2(b)の矢印Cの方向に優先成長する状態とする。その後、水素混合比を下げ(例えば30%以下)、V/III比を高くする(例えば2000以上)ことで、
図2(b)の矢印A、B方向に優先成長する状態とする。
フラックス法で成長した13族元素窒化物は、波長330〜385nmの光(例えば水銀ランプの光)を照射したときに、波長440〜470nmにピークを有するブロードな蛍光(青色の蛍光)を発する。これに対して、気相法により作製した13族元素窒化物は、波長330〜385nmの光を照射すると、波長540〜580nmにピークを有するブロードな蛍光(黄色の蛍光)を発する。このため、波長330〜385nmの光を照射したときに発する蛍光の色によって、フラックス法による13族元素窒化物か気相法による13族元素窒化物かを区別することができる。
【0067】
(結晶層の加工および形態)
好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶層が円板状であるが、角板などの他の形態でも良い。また、好適な実施形態においては、結晶層の寸法が、直径φ25mm以上である。これによって、機能素子の量産に適した、取り扱い易い結晶層を提供できる。
【0068】
13族元素窒化物結晶層の表面を研削、研磨加工する場合について述べる。
研削(グラインディング:grinding)とは、砥粒をボンドで固定した固定砥粒を高速回転させながら対象物に接触させて、対象物の面を削り取ることをいう。かかる研削によって、粗い面が形成される。窒化ガリウム基板の底面を研削する場合、硬度の高いSiC、Al
2O
3、ダイヤモンドおよびCBN(キュービックボロンナイトライド、以下同じ)などで形成され、粒径が10μm以上100μm以下程度の砥粒を含む固定砥粒が好ましく用いられる。
【0069】
また、研磨(ラッピング:lapping)とは、遊離砥粒(固定されていない砥粒をいう、以下同じ)を介して定盤と対象物とを互いに回転させながら接触させて、または固定砥粒と対象物とを互いに回転させながら接触させて、対象物の面を磨くことをいう。かかる研磨によって、研削の場合よりも面粗さが小さい面であって微研磨(ポリシング)の場合より粗い面が形成される。硬度の高いSiC、Al
2O
3、ダイヤモンドおよびCBNなどで形成され、粒径が0.5μm以上15μm以下程度の砥粒が好ましく用いられる。
【0070】
微研磨(ポリッシング:polishing)とは、遊離砥粒を介して研磨パッドと対象物とを互いに回転させながら接触させて、または固定砥粒と対象物とを互いに回転させながら接触させて、対象物の面を微細に磨いて平滑化することをいう。かかる微研磨によって、研磨の場合よりも面粗さが小さい結晶成長面が形成される。
【0071】
(機能層および機能素子)
前述した機能層は、単一層であってよく、複数層であってよい。また、機能としては、高輝度・高演色性の白色LEDや高速高密度光メモリ用青紫レーザディスク、ハイブリッド自動車用のインバータ用のパワーデバイスなどに用いることができる。
【0072】
13族元素窒化物結晶層上に気相法、好ましくは有機金属気相成長(MOCVD)法により半導体発光ダイオード(LED)を作製すると、LED内部の転位密度が前記結晶層と同等となる。
【0073】
機能層の成膜温度は、例えば、カーボン等の不要な不純物取り込みを抑制する観点から、950℃以上が好ましく、1000℃以上が更に好ましい。また、欠陥を抑制するという観点からは、機能層の成膜温度は、1200℃以下が好ましく、1150℃以下が更に好ましい。
【0074】
機能層の材質は、13族元素窒化物が好ましい。13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。
【0075】
発光素子構造は、例えば、n型半導体層、このn型半導体層上に設けられた発光領域およびこの発光領域上に設けられたp型半導体層を備えている。
図1(c)の発光素子15では、複合基板4上に、n型コンタクト層5a、n型クラッド層5b、活性層5c、p型クラッド層5d、p型コンタクト層5eが形成されており、発光素子構造5を構成する。
【0076】
また、前記発光構造には、更に、図示しないn型半導体層用の電極、p型半導体層用の電極、導電性接着層、バッファ層、導電性支持体などを設けることができる。
【0077】
本発光構造では、半導体層から注入される正孔と電子の再結合によって発光領域で光が発生すると、その光をp型半導体層上の透光性電極又は13族元素窒化物単結晶膜側から取り出す。なお、透光性電極とは、p型半導体層のほぼ全面に形成された金属薄膜又は透明導電膜からなる光透過性の電極のことである。
【0078】
n型半導体層、p型半導体層を構成する半導体の材質は、III −V 族系化合物半導体からなり、以下を例示できる。
Al
yIn
xGa
1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1)
n型導電性を付与するためのドープ材としては、珪素、ゲルマニウム、酸素を例示できる。また、p型導電性を付与するためのドープ材としては、マグネシウム、亜鉛を例示できる。
【0079】
発光構造を構成する各半導体層の成長方法は、種々の気相成長方法を挙げることができる。例えば、有機金属化合物気相成長法(MOCVD(MOVPE)法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライト気相成長法(HVPE法)等を用いることができる。その中でもMOCVD法によると、各半導体層の結晶性や平坦度の良好なものを得ることができる。MOCVD法では、Ga源としてTMG(トリメチルガリウム)、TEG(トリエチルガリウム)などのアルキル金属化合物が多く使用され、窒素源としては、アンモニア、ヒドラジンなどのガスが使用される。
【0080】
発光領域は、量子井戸活性層を含む。量子井戸活性層の材料は、n型半導体層およびp型半導体層の材料よりもバンドギャップが小さくなるように設計される。量子井戸活性層は単一量子井戸(SQW)構造であっても多重量子井戸(MQW)構造であってもよい。量子井戸活性層の材質は以下を例示できる。
【0081】
量子井戸活性層の好適例として、AlxGa1-xN/AlyGa1-yN系量子井戸活性層(x=0.15、y=0.20)であって、膜厚がそれぞれ3nm/8nmであるものを3〜10周期形成させたMQW構造が挙げられる。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
(種結晶基板の作製)
MOCVD法を用いて、直径2インチ、厚さ500μmのc面サファイア基板(a軸方向に0.5度オフした基板を選定した)の上に、530℃にて、低温GaNバッファ層を20nm堆積させたのちに、1050℃にて、厚さ2μmのGaN膜を積層させた。TEM観察による欠陥密度は、1×10
9/cm
2であった。有機溶剤、超純水でそれぞれ10分間超音波洗浄した後に乾燥させて、これを種結晶基板とした。
【0083】
(液相法GaN結晶成長)
不活性ガスを充填したグローブボックス中で、金属Gaと金属Naをモル比27:73で秤量し、種結晶基板とともに、アルミナ製の坩堝の底に配置した。導電性を持たせるために、GeをGa量に対して、0.8モル%の量を添加した。この坩堝を3段積み重ねて、ステンレス製の保持容器(内々容器)に収納し、さらにこの坩堝が複数段収納された内々容器を4段積み重ねて、ステンレス製の保持容器(内容器)に収納した。これを予め真空ベークしてある耐圧容器内に備えられた回転台の上に設置した後、耐圧容器の蓋をして密閉した。次いで、耐圧容器内を真空ポンプにて0.1Pa以下まで真空引きした。なお、本実験で用いた内容器と内々容器は先行特許文献4に記載のものである。
【0084】
続いて、耐圧容器内部に設置したヒーターを発熱させることで、坩堝内の原料を融解させ、Ga−Na混合融液を生じさせた。坩堝温度が880℃になるように加熱しながら、4.0MPaになるまで窒素ガスボンベから窒素ガスを導入して結晶成長を開始した(前期段階)。この温度圧力条件は、過飽和度が低く、ほとんど成長しない条件である。積極的に攪拌しない、この育成条件下では、局所的な成長やメルトバックが発生しながら、核が生成し、5時間後にはおよそ2ミクロンのGaN結晶が成長した。
【0085】
その後、坩堝温度を850℃まで20分かけて降温し、圧力を4.0MPaに上昇させると同時に、回転台の連続的な反転による撹拌を開始して、結晶成長モードを変化させた。回転条件は、中心軸周りに20rpmの速度で一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=6秒、保持時間=200秒、減速時間=6秒、停止時間=1秒とした。この状態で1時間保持した。この段階で、粒成長がおこり、核がすこしずつ会合しながら成長していく。この後、反転頻度を変化させる一方(保持時間を1000秒まで15時間かけてゆっくりと増加した)、加速、減速時間、停止時間は変えなかった(後期段階)。この条件下で、粒はさらに会合しながら大きくなり、この間で、GaN結晶の厚さはおよそ120ミクロン増加した。その後、室温まで自然冷却し、成長した窒化ガリウム結晶板を回収した。
【0086】
12段の坩堝を用いて種結晶基板上に成長した窒化ガリウムの厚さをそれぞれ測定したところ、最小厚さは約110ミクロン、最大厚さは約130ミクロンであり、平均は120ミクロン、標準偏差は7ミクロンと、バラツキが小さかった。
【0087】
窒化ガリウム結晶板の表面を研磨加工することで、厚さを100ミクロンとし、カソードルミネッセンス法によりダークスポット密度を測定したところ、2×10
6/cm
2であった。
【0088】
次に、この窒化ガリウム結晶板の断面をカソードルミネッセンスにて観察した。観察結果を
図6に示し、模式図を
図7に示す。明るくない領域(灰色部)9は、低キャリア濃度であり、細長く延びた部分が連続相を形成している。細長く延びた線状部分(低キャリア濃度領域)9は、c軸に対して30〜60°傾斜する部分を含む。明るい領域(白色部)は高キャリア濃度であり、この白色部(高キャリア濃度領域)10は、灰色部中に包囲され、分散相を形成している。低キャリア濃度領域9は、粒界に沿って成長し、結晶欠陥(転位密集領域)と交差していることが判明した。
【0089】
キャリア濃度を渦電流方式によりあらかじめ測定してある4つのサンプル(1×10
17/cm
3、5×10
17/cm
3、1×10
18/cm
3、5×10
18/cm
3の4種)を用いてCL測定し、その画像の明るさを8ビット(255階調)で画像処理し、キャリア濃度と、CL画像の明るさとの関係について検量線を作製した。
【0090】
検量線を用いてキャリア濃度を算出した。この結果、高キャリア濃度領域のキャリア濃度は2×10
18/cm
3であり、低キャリア濃度領域のキャリア濃度は5×10
17/cm
3と求められた。また、6mm角のサンプルを作製してホール測定をしたところ、6mm角における(平均の)キャリア濃度は1.5×10
18/cm
3であった。
また、得られた窒化ガリウム結晶板に対して、波長330〜385nmの光を水銀ランプから照射すると、440〜470nmにピークを有するブロードな蛍光(青色の蛍光)を発した。
【0091】
このサファイア上の窒化ガリウム結晶層を用いて、MOCVD法により、青色LED構造を成膜した。その上に、櫛型のp型電極パターン(1mm角)を形成し、その後、レーザーリフトオフ技術を用いてサファイア基板を分離し、さらに分離面を平滑に研磨した後にn型電極を形成した。レーザーダイシングにより、1mm角チップに切断して縦型構造のLEDチップを作成した。350mA駆動時における内部量子効率を測定したところ、約80%と高い値が得られた。発光強度は面内で均一であった。さらに1000mAまで増加させてその内部量子効率を測定したところ、65%と高い値を維持していた。また、2V印加時におけるリーク電流は0.01μAと小さかった。
【0092】
(比較例1)
後期段階において、加速時間=6秒、保持時間=600秒、減速時間=6秒、停止時間=1秒で一定とした以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0093】
実施例1と同様に、GaN結晶の断面観察をカソードルミネッセンス法によって行ったところ、
図8に示すような画像を得た。すなわち、白色部と灰色部はそれぞれ成長方向にそって柱状に延びており、交差していなかった。各白色部には、転位線(結晶欠陥)と思われる黒い線が多数観察された。一方で、灰色部には転位線はまばらにしか観察されなかった。
【0094】
350mA駆動時における内部量子効率を測定したところ、約75%と比較的高い値が得られたが、発光強度は面内で不均一であった。さらに1000mAまで増加させてその内部量子効率を測定したところ、55%まで低下し、発光強度ムラがさらに顕著となっていた。また、2V印加時におけるリーク電流は1mAであり、実施例1に比べて大きかった。
したがって、白色部の欠陥集中部がリークの起源となっていることが推察された。
【0095】
(比較例2)
III族原料にガリウム(Ga)と塩化水素(HCl)の反応生成物である塩化ガリウム(GaCl)を用い、V族原料にアンモニア(NH3 )ガスを用い、ハイドライドVPE法を実施した。MOCVD法のGaN膜(厚さ2ミクロン)が成膜されたサファイア基板をハイドライドVPEの成長装置にセットし、アンモニア雰囲気で成長温度1000℃に昇温した。成長温度が安定してから、HCl流量を40cc/毎分で供給し、NH
3流量1000cc/毎分、およびシラン(SiH4 )流量0.01cc/毎分でn型のGaN結晶を成長させた。
【0096】
3時間保持して、アンモニア ガス雰囲気で常温まで冷却し、成長装置より取り出したところ、GaN結晶は約200ミクロン成長していた。
【0097】
実施例1と同様に、カソードルミネッセンス法によってGaN結晶の断面観察を行った。この結果について、模式図を
図5に示す。
【0098】
白色部(高キャリア濃度領域)20と灰色部(低キャリア濃度領域)19は、それぞれ成長方向にそって柱状に延びており、交差していなかった。高キャリア濃度領域には、転位線(結晶欠陥)12Bと思われる黒い線が多数観察された。一方で、低キャリア濃度領域には転位線(結晶欠陥)12Aはまばらにしか観察されなかった。
また、得られた窒化ガリウム結晶板に対して、波長330〜385nmの光を水銀ランプから照射すると、540〜580nmにピークを有するブロードな蛍光(黄色の蛍光)を発した。
【0099】
実施例1と同様にLEDを作製し、350mA駆動時における内部量子効率を測定したところ、約70%と比較的高い値が得られたが、発光強度は面内で不均一であった。さらに1000mAまで増加させてその内部量子効率を測定したところ、50%まで低下し、発光強度ムラがさらに顕著となっていた。また、2V印加時におけるリーク電流は2mAであり、実施例1に比べて大きかった。
したがって、白色部(高キャリア濃度領域)の欠陥集中部がリークの起源となっていることが推察された。
以下である低キャリア濃度領域10とが存在しており、低キャリア濃度領域9が細長い形状であり、低キャリア濃度領域9が会合部11を有しており、低キャリア濃度領域9が一対の主面3a、3b間で連続している。