特許第5924807号(P5924807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5924807ゲル状金属吸着材およびゲル状金属吸着材担持吸着体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924807
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】ゲル状金属吸着材およびゲル状金属吸着材担持吸着体
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20160516BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20160516BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   B01J20/26 E
   B01J41/14
   C08J3/24 ZCER
   C08J3/24CEZ
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-29109(P2012-29109)
(22)【出願日】2012年2月14日
(65)【公開番号】特開2013-166090(P2013-166090A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106703
【弁理士】
【氏名又は名称】産形 和央
(72)【発明者】
【氏名】井上 嘉則
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健寛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏文
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 満
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−068900(JP,A)
【文献】 国際公開第91/019675(WO,A1)
【文献】 特開2006−326465(JP,A)
【文献】 特開2011−115718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/26
B01J 41/14
C08J 3/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリルアミンよりなる金属吸着性高分子を、ポリグリシジルエーテルで架橋してなるゲル状金属吸着材。
【請求項2】
ポリアリルアミンが、部分カルボキシメチル化されたものであることを特徴とする請求項1に記載のゲル状金属吸着材。
【請求項3】
ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子を、親水性の多孔質担体に含浸後、ポリグリシジルエーテルで架橋してゲル状金属吸着材が多孔質担体中に担持された金属吸着体を製造する方法において、
親水性の多孔質担体が発泡高分子、樹脂焼結多孔体、多孔質セラミック、または多孔質ガラスであることを特徴とする金属吸着体を製造する方法。
【請求項4】
ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンが、部分カルボキシメチル化されたものであることを特徴とする請求項3に記載の金属吸着体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水、用水、環境水等の被処理溶液中の広範囲な重金属の除去・回収に使用される金属吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属は高い有害性を示し、土中残留性や生体濃縮性が高いため、工場排水、用水、環境水、食品、薬品等から可能な限り除去する必要がある。また、廃棄された電子機器中には希少金属が大量に含まれており、これらは『都市鉱山』とも呼ばれる貴重な資源であるため、これらに含まれる有価金属の回収に関する技術開発が進められている。被処理液中から重金属を除去する手法としては、凝集沈殿をはじめとして種々の方法が行われているが、高度な除去・回収法としては、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いた方法が広く用いられてきた。一般に、これらの被処理液中には高濃度の塩類や有機物が含まれており、イオン交換樹脂での重金属除去が困難な場合も多く、キレート樹脂を利用したほうが効率良く除去・回収できるとされている。
【0003】
キレート樹脂は、イオン交換樹脂では困難な高濃度塩類を含む溶液中の重金属元素の吸着材・回収材として利用されている(非特許文献1〜4参照)。官能基の構造により金属元素との錯形成能が異なるため、イミノ二酢酸(IDA)基、低分子ポリアミン基、アミノリン酸基、イソチオニウム基、ジチオカルバミン酸基、グルカミン基等の種々の官能基をもつキレート樹脂が開発されている(非特許文献5参照)。この内、商品として入手が可能で、汎用性の高いIDA基が導入されたキレート樹脂が主に利用されている。しかし、IDA型のキレート樹脂では、アルカリ金属やアルカリ土類金属による妨害を受けるため、高塩濃度の溶液から微量の金属を除去・回収することが困難なことが多い。また、IDA型のキレート樹脂は多くの金属と錯体を形成するが、代表的なキレート剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)に比べ、形成された錯体の安定度定数はかなり低く、この安定度定数の低さが共存元素の妨害による除去・回収率の変動の大きな要因である。
【0004】
IDAやEDTA等のポリアミノカルボン酸型キレート剤において、エチレンイミンの繰り返しが多い(鎖長が長い)ほど、錯体の安定度定数が大きくなる傾向にあることが知られている(非特許文献6及び非特許文献7参照)。鎖長を長くしたアミノカルボン酸型官能基をもつキレート樹脂に関する開示がある。特許文献1ではジエチレントリアミンを導入しカルボキシメチル化したジエチレントリアミン−N、N、N’、N’−四酢酸型、特許文献2ではジエチレントリアミン等を導入しカルボキシメチル化したジエチレントリアミン−N、N’、N’’、N’’−四酢酸型に関して開示されている。ここでは、明確な記述はないものの、IDA型樹脂よりは高い安定度定数の高いキレート樹脂であることが判る。さらに官能基鎖長を長くすることにより錯体の安定度定数は向上するとともに、一分子中に複数の金属を吸着させることも可能であると推察される。特許文献3には平均分子量が200〜600であるポリエチレンイミンを部分カルボキシメチル化した官能基を有するキレート樹脂に関する開示がある。このキレート樹脂は、IDA型キレート樹脂よりも明らかに高い吸着能を有し、官能基の長鎖化による安定度定数の向上が見られる。また、このキレート樹脂は、アルカリ金属やアルカリ土類金属による妨害を受け難いという特長も有している。
【0005】
キレート性官能基を何らかの担体に導入するという従来からの製法とは異なり、キレート性を持つ高分子あるいはキレート性官能基を形成可能な高分子を架橋させてキレート樹脂を製造することも可能である。非特許文献5には、アミノ基を持つ多糖であるキトサンを架橋してキレート樹脂とする研究も報告されている。キトサンの架橋剤としては、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどが用いられる。非特許文献5では、キレート性高分子を架橋して得られるキレート樹脂の有用性が示されているが、すべて研究レベルのものである。キトサンを工業的に入手することは容易ではあるが、必ずしも安価ではない。また、キトサンそのものの耐酸性も高くないため、実際に金属の除去・回収に適用させるためには多くの課題がある。
【0006】
一方、吸着材としての形態としての問題点もある。キレート樹脂は、活性炭やイオン交換樹脂と同様に粒子状の吸着材で、廃水処理や浄水処理をはじめ広い分野で使用されている。これらの粒子状吸着材を用いる水処理技術は既に確立されており、今後も多用されるものと考えられる。しかしながら、粒子状であるがために特定の缶体に充填して使用しなければならず、使用条件や設置環境によっては適合しにくい場合もある。つまり、多彩な要求に対応するには、吸着材の吸着特性だけでなく、形態に関しても改善する必要がある。
【0007】
このような課題に対して、種々の形態に容易に加工でき、多彩な要求に対応可能な繊維状のキレート性吸着材が提案されている。特許文献4では化学的なグラフト法によるキレート性官能基が導入された繊維が開示されており、特許文献5および6には放射線照射によるラジカル生成・グラフト重合法によるキレート性官能基が導入された繊維が、特許文献7および8には湿式混合紡糸によるキレート繊維が開示されている。これらのキレート性繊維は十分な機能をもち、迅速な吸着特性を示すと考えられる。しかし、製造法において幾つかの問題がある。化学的グラフト法は、グラフト可能な繊維の種類が限定されるとともに製造工程が煩雑である。放射線グラフト法は、化学的グラフト法に比べ種々の繊維に適用できるという利点があるが、放射線の取り扱い上から特定環境下での作業となるため、簡便かつ安価な製造方法とはいえない。一方、特許文献7および8に開示される湿式混合紡糸法は、キレート能を持つ高分子をビスコースと湿式混合紡糸するものであり、既存設備を用いて安価にかつ大量に製造することが可能である。また、高分子型官能基を用いているため、特許文献3に示された長鎖官能基型のキレート樹脂のような高い吸着特性を示す。しかし、異なる吸着特性を持つキレート繊維を製造するには、要求される吸着特性に合わせた高分子をその都度新規に合成しなければならないという問題がある。
【0008】
特許文献9には高温高圧下での低分子キレート剤の注入方法による繊維が開示されている。キレート剤の注入・含浸法は、既存の繊維や布帛を利用でき、キレート剤の種類を変更することで容易に多様化が可能であるという利点がある。しかし、開示されている条件では二酸化炭素等の超臨界流体が最も有効であるとされており、加圧条件も100気圧(9.8×10Pa)〜250気圧(2.45×10Pa)と非常に高圧であるため、必ずしも簡便な製造方法であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−115439号公報
【特許文献2】特開2005−213477号公報
【特許文献3】特開2010−194509号公報
【特許文献4】特開2001−113272号
【特許文献5】特許4119966号公報
【特許文献6】特許3247704号公報
【特許文献7】特開2011−056349号公報
【特許文献8】特開2011−056350号公報
【特許文献9】特開2007−247104号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】北条舒正、「キレート樹脂・イオン交換樹脂」、講談社サイエンティフィク(1976).
【非特許文献2】妹尾学、阿部光雄、鈴木喬、「イオン交換−高度分離技術の基礎」、講談社サイエンティフィク(1991).
【非特許文献3】戸嶋直樹、遠藤剛、山本隆一、「機能性高分子材料の化学」、朝倉書店(1998).
【非特許文献4】神崎榿監修、日本イオン交換学会、「最先端イオン交換技術のすべて」、工業調査会(2009).
【非特許文献5】大下浩司、本水昌二、キレート樹脂の開発とその分離・濃縮特性、分析化学、Vol.57、No.5、p.291−311 (2008).
【非特許文献6】株式会社同仁化学研究所カタログ26版、p.320−321.
【非特許文献7】L.G.Sillen、A.E.Martell、Stability Constants of Metal−Ion Complexes 2nd Ed.、the Chemical Society、London (1964).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、工場排水、用水、環境水等の被処理溶液中の広範囲な重金属の除去・回収に使用される金属吸着材において、高い金属吸着量を有し、かつ多彩な要求に対応可能なゲル状金属吸着材および多孔質担体中にゲル状金属吸着材が担持された金属吸着体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子をポリグリシジルエーテルで架橋したゲル状金属吸着材が高い金属吸着量を有し、さらに金属吸着性高分子を適切な多孔質担体に含浸後、同様に架橋させることにより得られるゲル状金属吸着材が担持された金属吸着体が高い金属吸着能を示し、かつ多彩な要求に対応可能な金属吸着材となることを見出し、この知見に基づき完成したものである。
【0013】
本発明は、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子を、ポリグリシジルエーテルで架橋してなるゲル状金属吸着材に関するものであり、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンは、それぞれ部分カルボキシメチル化されたものであってもよい。
【0014】
本発明においては、上記金属吸着性高分子を溶液中で架橋してゲル状金属吸着材とするほか、金属吸着性高分子を親水性の多孔質担体に含浸した後、さらにポリグリシジルエーテルで架橋させて得られるゲル状金属吸着材が担持された金属吸着体であってもよい。
【0015】
本発明において使用される親水性の多孔質担体としては、発泡高分子、不織布・織物・編み物などの布帛、樹脂焼結多孔体、多孔質セラミック、多孔質ガラスがあげられる。
【0016】
これらについてのさらに詳細な技術的事項は、発明を実施するための形態のところでさらに付け加える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子をポリグリシジルエーテルで架橋することにより、高い金属吸着能を有し、かつ多彩な要求に対応可能なゲル状金属吸着材が製造される。このゲル状金属吸着材は、金属を吸着することにより保水した水を放出して体積が収縮するという特徴をもつため、金属回収処理におけるコストおよび工数の低減が可能となる。さらに、多孔質担体内でゲル状金属吸着材を生成させる技術は、既存の種々の形態の多孔質担体を利用して、金属吸着量が高く、かつ多彩な要求に対応可能な金属吸着体を製造することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例3の球形のゲル状金属吸着材の銅吸着前後の写真である。ここで、左の大きな形状の粒子が銅吸着前の球形のゲル状金属吸着材、右の小さな形状の粒子が銅吸着後の球形のゲル状金属吸着材を示す。
図2図2は、実施例4の高分子発泡体担持型金属吸着体の銅吸着前後の写真である。a)は、ゲル状金属吸着材担持前のポリビニルアルコール系発泡体を示す。b)は、ゲル状金属吸着材担持後のポリビニルアルコール系発泡体を示す。c)は、ゲル状金属吸着材担持前のメラミン系発泡体を示す。d)は、ゲル状金属吸着材担持後のメラミン系発泡体を示す。
図3図3は、実施例5のゲル状金属吸着材担持不織布Bの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子を、ポリグリシジルエーテルで架橋してなるゲル状金属吸着材に関するものであり、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンは、それぞれ部分カルボキシメチル化されたものであってもよい。
【0020】
本発明で使用されるポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子は、重金属の吸着のほか、貴金属の吸着にも利用可能である。また、弱陰イオン交換樹脂としても利用可能である。本発明でのポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンとしては分子量の高い高分子のものがよい。分子量の高い高分子を利用することにより、分子中に架橋部位となるアミノ基あるいはイミノ基を多数もつため、架橋度、硬さ、水和量、膨潤度の調節が容易となる。また、分子鎖長の増加により形成される錯体の安定度定数が増加することだけでなく、分子鎖中に多数の金属が吸着されることである。さらに、高分子鎖が水中で伸長して自由度が高くなると推定される。一方、低分子のものを用いた場合には、架橋密度が高くなり、固く、膨潤しにくい吸着材となる。そのため、見かけ上の吸着性官能基量が多くても、実際の吸着処理においてはゲル内部の吸着性官能基が有効に機能しないため、高い金属吸着量を有する吸着効率の良好な吸着材とならない。したがって、分子量600〜500,000、好ましくは分子量600〜100,000の高分子が用いられる。
【0021】
ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンに吸着される金属は、限定されるが、裏返せば選択性が高いということとなる。しかしながら、吸着可能な金属の種類が限定されてしまうため、汎用性に欠けることとなる。そのため、ハロゲン化酢酸を用いて架橋後のゲル状金属吸着材をカルボキシメチル化することにより、汎用性を向上させることが可能である。ポリエチレンイミンおよびポリアリルアミンは、カルボキシメチル化により、それぞれEDTA様およびIDA様の金属吸着が可能となり、汎用性が向上する。
【0022】
上述のように、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンを架橋後にカルボキシメチル化をすれば汎用性を向上させることが可能であるが、ゲル状金属吸着材の内部まで効率よくカルボキシメチル化することは困難であり、その操作も煩雑である。そこで、事前に、分子内にアミノ基あるいはイミノ基を残存させるように部分カルボキシメチル化をしたポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンを溶液反応で調製し、その後架橋反応を行うことにより、カルボキシメチル化度の高いゲル状金属吸着材を得ることが可能である。ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンの部分カルボキシメチル化は、使用するハロゲン化酢酸の量で調節する。一般に、分子内にアミノ基あるいはイミノ基を多数持つ高分子中の窒素量に対して0.1〜4倍モルとしてカルボキシメチル化を行う。なお、ポリエチレンイミンは分岐ポリマーであり、分岐部の三級アミンにはカルボキシメチル基は導入されないため、残存させたアミノ基あるいはイミノ基と同様に、この分岐部の三級アミンも架橋部位となる。
【0023】
本発明においては、金属吸着性高分子の架橋にはポリグリシジルエーテルを用いる。公知(非特許文献5)のとおり、エピクロロヒドリンやグルタルアルデヒドでも架橋が可能であるが、分子鎖長が短いため柔軟なゲル状金属吸着材にはなり難い。また、グルタルアルデヒドで架橋した場合は、シッフ塩基の結合であるため耐薬品性が低く好ましくはない。そのため、本発明ではグリシジル基を複数もつポリグリシジルエーテルを用いる。入手可能なポリグリシジルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、グリセリンポリグリシジルエーテルなどのポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテルなどのアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、さらには、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビトールなどのポリーオールのポリグリシジルエーテルなどがあげられる。これらのポリグリシジルエーテルの配合比(架橋度:式1)は、金属吸着性高分子に対して、2〜15重量%である。架橋度が2重量%未満であると極端に軟質なゲル状物質となり作業性が低下してしまう。一方、架橋度の増加に連れて金属吸着量が増加するとともに、硬質となって作業性は良好となるが、架橋度15%以上では金属吸着量の増加を期待することはできない。
【式1】
【0024】
【0025】
ゲル状金属吸着材の合成は、金属吸着性高分子の水溶液(5〜40重量%)に、架橋剤となるポリグリシジルエーテルを規定量加え、混合後、40〜80℃に加温して反応させればよい。反応時間は反応温度に大きく依存し、50℃では数分〜30分で反応がほぼ完結する。この方法により、塊状のゲル状金属吸着材を得ることができる。反応終了後、適切な粉砕器を用いて、目的の粒度になるように分級すればよい。球形のゲル状金属吸着材を得るには、水と混合しない溶媒に金属吸着性高分子とポリグリシジルエーテルとの混合水溶液を分散させ、加温、反応させればよい。また、反応温度に加温してある水よりも比重が小さく水と混合しない溶媒中に、上記混合水溶液を滴下して反応させても、球形のゲル状金属吸着材を得ることができる。このような方法により得られたゲル状金属吸着材は湿潤状態のままでも使用可能であるが、使用目的に応じて乾燥させてもよい。
【0026】
このようにして得られるゲル状金属吸着材の使い方は種々あり得るが、主に処理溶液に直接投入するバッチ処理に用いる。例えば、乾燥させたゲル状金属吸着材を適切な目開きを有する金網の容器に入れ、水で十分膨潤させた後、処理溶液に投入する、といった方法である。本発明のゲル状金属吸着材は、乾燥重量に対して10〜100倍の水を吸収して膨潤するため、水に入れるとその直径は2倍から数倍になる。しかし、金属吸着後は吸収した水分のほとんどを放出し、その直径は最大膨潤時の20〜60%に縮むという特性をもつ。すなわち、処理後の吸着材容積が低減されると共に、脱水する工程も省力できるため、処理コストおよび工数、さらには輸送コストの低減が可能となる。当然のことであるが、吸着処理した吸着材からの金属の回収においても、水分含量が低いため、燃焼や溶融、さらには抽出回収に関わるコストを低減することが可能である。
【0027】
ゲル状金属吸着材は、金属の除去・回収において有用な吸着材であるが、粒子状であるがため使用条件に制限が生じてしまう。そこで、親水性の多孔質担体中でゲル状金属吸着体を形成させた金属吸着体を製造する。金属吸着性高分子およびポリグリシジルエーテルを水あるいは水溶性有機溶媒を含む溶液に溶解し、この混合溶液に多孔質担体を浸漬し、多孔質担体の細孔内に混合溶液を保持させ、過剰の混合溶液を取り除いた後に加温反応させれば、多孔質担体中にゲル状金属吸着材が担持された金属吸着体を得ることができる。ただし、ポリグリシジルエーテルによる架橋反応は早いため、工業的あるいは連続的にこのような金属吸着体を製造するにはこの方法は不都合である。そこで、まず分子内にアミノ基あるいはイミノ基を多数持つ金属吸着性高分子を水あるいは水溶性有機溶媒を含む溶液に溶解し、この溶液に多孔質担体を浸漬して、金属吸着性高分子を含む溶液を保持させる。過剰の溶液を取り除いた後に、ポリグリシジルエーテルの水あるいは水溶性有機溶媒を含む溶液を多孔質担体の外側から噴霧し、加温反応させるという方法を用いることで、連続的かつ大量に多孔質担体中にゲル状金属吸着材が担持された金属吸着体を得ることができる。
【0028】
本発明に用いられる親水性の多孔質担体としては、発泡高分子、不織布・織物・編み物などの布帛、樹脂焼結多孔体、多孔質セラミック、多孔質ガラスがある。多孔質担体の材質としては親水性のものが選ばれる。親水性のもの、つまり水に対して濡れ性のあるもののほうが、浸漬・含浸した後に金属吸着性高分子を含む溶液が脱離し難く、かつ均一にゲル状金属吸着材を担持させることができる。
上述のように,アミノ基あるいはイミノ基を多数持つ金属吸着性高分子を水あるいは水溶性有機溶媒を含む溶液に溶解して多孔質担体の材質に含浸させるため、本発明においては親水性の材質でなる多孔質担体が選ばれる。多孔質セラミックや多孔質ガラスは水に対して高い濡れ性を示すが、発泡高分子、布帛、樹脂焼結多孔体の材質については撥水性のものもあるため、適合可能な材質のものを選定しなければならない。発泡高分子用の親水性の材質としては、メラミン系、ウレタン系、ポリビニルアルコール系などがあげられる。ただし、ポリビニルアルコールはその鹸化度が高い場合には水に溶解してしまうため、部分ホルマール化ポリビニルアルコール、または架橋型のポリビニルアルコール、あるいは他のモノマーとの共重合体を原料とするものを利用する。布帛としては、複数の繊維の混紡のものを用いることができるが、ナイロン、レーヨン、ビニロンなどの親水性繊維が混紡されているものを利用する。また、樹脂焼結多孔体としては、ポリエチレンやポリプロピレン製のものが入手しやすいが、これらは撥水性が高く本発明の多孔質担体としては好ましくない。親水性の樹脂焼結多孔体としては、エチレン酢酸ビニル共重合体、親水性ポリエステルなどを原料としたものを利用する。また、プラズマ処理により、樹脂表面に水酸基やカルボキシル基などを導入したものも利用可能である。
また、多孔質担体の細孔構造に関しても特に限定はしないが、連続気孔であるほうが担持量の高い金属吸着体を得ることができる。さらに、これらの多孔質担体の外観形状は如何なる形状であってもよく、本発明によりゲル状金属吸着材を含浸担持することができる。さらに、布帛などに担持した金属吸着体は、二次加工により、さらなる形態に加工することが容易である。多孔質担体の細孔径に関しても特に限定はしないが、使用目的に応じて選定する。例えば、通液処理に利用する場合には、細孔径が小さいとゲル状金属吸着材の生成によって細孔が閉塞して、通液することができなくなってしまう。そのため、0.5〜数mm程度の細孔を有する多孔質担体が必要となる。しかし、細孔径の増大に伴い比表面積が小さくなり、ゲル状金属吸着材の担持量も低減するという問題が生じる。そこで、0.5〜数mm程度の大きな細孔と0.5mm以下の小さな細孔を併せ持つ多孔質担体、あるいは細孔分布が広い多孔質担体を用いる。表面吸着処理を行う場合にはこのような細孔径の問題は大きくはないが、多孔質担体内にアミノ基あるいはイミノ基を多数持つ金属吸着性高分子を含む溶液が含浸し易く、ゲル状金属吸着材の担持量が高くなるような細孔径を持つものが好ましい。
【0029】
つぎに、本発明を実施例によって説明するが、この実施例によって本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0030】
カルボキシメチル化ポリアリルアミン型ゲル状金属吸着材の製造
平均分子量1,600のポリアリルアミン水溶液(15重量%)100mLに、エチレングリコールジグリシジルエーテルを加えて、50℃で1時間反応させてゲル状高分子塊を得た。この時、エチレングリコールジグリシジルエーテル添加量を0.4〜2.0mLと変化させて、架橋度1.0〜5.0重量%のゲル状高分子塊を調製した。得られたゲル状高分子塊を破砕し、モノクロロ酢酸ナトリウム96gを1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した溶液に加え、60℃で4時間反応させN−カルボキシメチル化を行った。反応物をろ別し、水、メタノールの順で洗浄した。得られた架橋度の異なる4種類のゲル状金属吸着材をpH5.5に調整した100mg/Lの硫酸銅溶液に浸漬し、銅を吸着させた。銅溶液中の銅の減少量から各ゲル状金属吸着材の銅吸着量を求めた。結果を表1に示す。架橋度の増加に連れ銅吸着量は増加する傾向にあるが、架橋度2重量%以上でほぼ一定となった。また、調製したゲル状金属吸着材を110℃の恒温槽で5h乾燥後、水中に入れ、15h静置後、濾取し、重量変化を測定した。式2により求めたゲル状金属吸着材の吸水度を表1に併せて示す。この値は、乾燥重量の何倍の水を保持することができるかを示したもので、例えば、架橋度1.5〜2重量%のゲル状金属吸着材は自重の約40倍もの水を保持することができる。この吸水度は、架橋度の増加つれて低くなるという傾向を示した。
【式2】
【0031】
【0032】
【表1】

【実施例2】
【0033】
部分カルボキシメチル化ポリエチレンイミン型ゲル状金属吸着材の製造
平均分子量10,000のポリエチレンイミン(和光純薬工業社製)125gを、クロロ酢酸ナトリウム(340g)を溶かした1M水酸化ナトリウム水溶液中に加え、攪拌しながら60℃で6時間カルボキシメチル化を行った。得られた部分カルボキシメチル化ポリエチレンイミン100mLにエチレングリコールジグリシジルエーテル4.0mL(架橋度7.5%に相当)を混合し、50℃で1時間反応させた。得られたゲル状金属吸着材を実施例1と同様に粉砕後、pH5.5に調整した100mg/Lの硫酸銅溶液に浸漬し、銅を吸着させた。銅溶液中の銅の減少量から各ゲル状金属吸着材の銅吸着量を求めたところ、1.54mmol/gと明確に銅を吸着した。なお、このゲル状金属吸着材の吸水度は3.2であった。このことから、アミノ基あるいはイミノ基を残存させるようにカルボキシメチル化したポリアミンを用いても、実施例1と同様のゲル状金属吸着材を製造することが可能であった。
【実施例3】
【0034】
球形のゲル状金属吸着材の製造
平均分子量1,600のポリアリルアミン水溶液(15重量%)20mLにエチレングリコールジグリシジルエーテル0.4mL(架橋度5.0%に相当)を混合し、60℃に保温したクロロベンゼン中に注射器にて滴下し、攪拌しながら20分反応させて、粒子径約6mmの球形のゲル状金属吸着材を得た。得られた球形のゲル状金属吸着材をpH5.5に調整した50mg/Lの硫酸銅溶液に浸漬し、銅を吸着させた。銅溶液中の銅の減少量から球形のゲル状金属吸着材の銅吸着量を求めたところ0.21mmol/gであった。この球形のゲル状金属吸着材の銅吸着前後の写真を図1に示す。銅吸着により保持していた水を吐き出し、粒子径が6.0mmから2.1mmに収縮した。体積的にみると約23分の一となった。
【実施例4】
【0035】
高分子発泡体担持型金属吸着体の製造
平均分子量10,000のポリエチレンイミン(和光純薬工業社製)15gを純水85mLに溶解させ、エチレングリコールジグリシジルエーテル2.5mL(架橋度5.0%相当)混合した。この溶液にポリビニルアルコール系発泡体およびメラミン系発泡体を浸漬させて反応溶液を含浸させた。その後、圧力をかけて過剰の反応溶液を絞り出し、50℃の恒温槽中で1時間反応させた。得られたゲル状金属吸着材担持高分子発泡体を、pH5.5に調整した100mg/Lの硫酸銅溶液に浸漬し、銅を吸着させた。銅溶液中の銅の減少量から各ゲル状金属吸着材担持高分子発泡体の銅吸着量を求めた。結果を表2に示す。得られたゲル状金属吸着材担持持高分子発泡体は明確に銅を吸着したが、発泡体の孔径及び材質により吸着量が異なっていた。それぞれの電子顕微鏡写真を図2に示す。この試験で用いたポリビニルアルコール系発泡体は孔径が小さいものであり、細孔が生成したゲル状金属吸着材が多くの細孔をふさいでいることが判る。一方、メラミン系発泡体のほうは、ゲル状金属吸着材生成後も細孔がかなり残っていることが判る。このことから、ポリビニルアルコール系発泡体はゲル状金属吸着材によって閉塞されてしまったため、内部まで銅溶液が浸透し難く、細孔内部のゲル状金属吸着材が有効に利用されておらず、表面だけでの吸着となってしまったためと推定された。これらの問題は、高分子発泡体の細孔径及び細孔分布を管理することで容易に対応可能である。
【0036】
【表2】

【比較例1】
【0037】
ポリエチレン製焼結樹脂多孔体への担持
実施例4と同様の方法で、ポリエチレン製焼結樹脂多孔体(平均孔径:30μm)にゲル状金属吸着材を担持させた。得られたゲル状金属吸着材担持焼結樹脂多孔体の金属吸着性を、実施例4と同様の方法で調べた。焼結樹脂多孔体内に担持されたゲル状金属吸着材は銅を吸着して強い青色となったが、ビーカーの底に、焼結樹脂多孔体から漏出したゲル状金属吸着材が確認された。銅溶液中に浸漬させたまま、超音波をかけたところ、ゲル状金属吸着材の漏出量は増加した。この結果より、担体の濡れ性がゲル状金属吸着材の担持に関係すると推定され、撥水性の高い素材への担持が困難であることが判った。
【実施例5】
【0038】
不織布担持型金属吸着体の製造
混紡比の異なる3種類の不織布(厚さ5mm)をニードルパンチ法により作製した。これら3種の不織布を、平均分子量10,000のポリエチレンイミン(和光純薬工業社製)15%水溶液に浸漬させ、圧力をかけて過剰の反応溶液を絞り出た。これらの反応溶液含浸不織布にエチレングリコールジグリシジルエーテルを噴霧し、50℃の恒温槽中で20分反応させた。得られたゲル状金属吸着材担不織布を、pH5.5に調整した50mg/Lの硫酸銅溶液に浸漬し、銅を吸着させた。銅溶液中の銅の減少量から各ゲル状金属吸着材担持不織布の銅吸着量を求めた。結果を表3に示す。得られたゲル状金属吸着材担持不織布は明確に銅を吸着したが、不織布の混紡比により吸着量が変化し、濡れ性の高いレーヨンを含む不織布のほうが高い担持量が得られることが判った。図3に、ゲル状金属吸着材担持不織布Bの電子顕微鏡写真を示す。繊維表面にゲル状金属吸着材が粒子状あるいは皮膜状となって担持されていることが判る。
【0039】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子をポリグリシジルエーテルで架橋することにより高い金属吸着量を有するゲル状金属吸着材を製造可能であり、さらに、ポリエチレンイミンあるいはポリアリルアミンより選ばれる金属吸着性高分子を適切な多孔質担体に含浸後、同様に架橋させることにより高い金属吸着能を示し、かつ多彩な要求に対応可能なゲル状金属吸着材が担持された金属吸着体を製造することができる。これらの金属吸着材は重金属類を広いpH範囲で高度に吸着することが可能であるため、排水や用水中の重金属除去、環境水や金属処理溶液中からの有価金属の回収、さらには食品や飲料水中からの有害金属の除去が可能となる。ゲル状金属吸着材は、金属を吸着することにより保水した水を放出して体積が収縮するという特徴をもつため、金属回収処理におけるコストおよび工数の低減が可能となる。また、ゲル状金属吸着材を多孔質担体に担持させた金属吸着体は、種々の形状を有する既存の高分子担体にゲル状金属吸着材を担持させることが可能であり、多彩な要求に対応可能な形態の金属吸着体を得ることができる。

図1
図2
図3