特許第5925085号(P5925085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925085
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   F02M25/08 311H
   F02M25/08 311E
   F02M25/08 311C
   F02M25/08 F
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-187925(P2012-187925)
(22)【出願日】2012年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-43836(P2014-43836A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101535
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 好道
(74)【代理人】
【識別番号】100161104
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 浩康
(72)【発明者】
【氏名】秋山 孝典
(72)【発明者】
【氏名】木本 順也
(72)【発明者】
【氏名】高松 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小杉 隆司
【審査官】 赤間 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−235610(JP,A)
【文献】 特開2012−072756(JP,A)
【文献】 特開2012−149620(JP,A)
【文献】 特開2011−214554(JP,A)
【文献】 特開2007−146793(JP,A)
【文献】 特開2009−250059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が流通できる通路を形成し、該通路の一端側にはタンクポート及びパージポートを形成し、前記通路の他端側には大気ポートを形成し、前記通路内に蒸発燃料成分を吸着できる吸着材を充填した吸着層を設けた蒸発燃料装置において、
3つ以上の吸着層と、この隣り合う吸着層を離間させる離間部からなり、この吸着層の容積の合計が、前記離間部の容積の合計よりも小さくなるようにした領域を、前記通路の大気ポート側に設け、
前記領域において、前記隣り合う吸着層の離間距離を、大気ポートに近い離間部ほど長くなるように形成したことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
内部に流体が流通できる通路を形成し、該通路の一端側にはタンクポート及びパージポートを形成し、前記通路の他端側には大気ポートを形成し、前記通路内に蒸発燃料成分を吸着できる吸着材を充填した吸着層を設けた蒸発燃料装置において、
3つ以上の吸着層と、この隣り合う吸着層を離間させる離間部からなり、この吸着層の容積の合計が、前記離間部の容積の合計よりも小さくなるようにした領域を、前記通路の大気ポート側に設け、
前記領域において、前記離間部の容積を、大気ポートに近い離間室ほど大きくなるようにしたことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
前記領域において、前記吸着層における両端面間の距離の合計を、隣り合う吸着層の離間距離の合計よりも短くしたことを特徴とする請求項1又は2記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
前記領域において、前記吸着層における両端面間の距離を、大気ポートに近い吸着層ほど短くなるようにしたことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項5】
前記領域において、前記吸着層の容積を、大気ポートに近い吸着層ほど小さくなるようにしたことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項6】
前記領域において、最も大気ポート側に位置する吸着層を、ASTM D5228によるブタンワーキングキャパシティーが14.5g/dL以上の活性炭で構成したことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項7】
前記蒸発燃料処理装置において、最もタンクポート側に設けた吸着層を、破砕炭で構成したことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項8】
前記領域内の吸着層における通路の流通方向と直交する断面積と、前記蒸発燃料処理装置における領域以外の吸着層の通路の流通方向と直交する断面積との比が、1:2.5〜1:4.5の範囲に含まれることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の蒸発燃料処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃料タンク等からの蒸発燃料が大気に放出されるのを防止するために、蒸発燃料中の燃料成分を一時的に吸着する蒸発燃料処理装置(以下、キャニスタともいう)が用いられている。
【0003】
このようなキャニスタとして、図8に示すような、タンクポート102とパージポート103と大気ポート104を形成したケース105を有し、該ケース105内にタンクポート102とパージポート103とに連通する主室106と、大気ポート104に連通する副室107を形成し、主室106と副室107とは大気ポート104と反対側部で連通し、主室106内に活性炭を充填した第1吸着層111を形成し、副室107内に活性炭を充填した第2吸着層112、第3吸着層113、第4吸着層114を直列に設け、第2吸着層112と第3吸着層113の間、第3吸着層113と第4吸着層114の間には、仕切り板121、122を設けたキャニスタ101が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このキャニスタ101では、第4吸着層114の容積を、他の吸着層111,112,113より小さくして、蒸発燃料の大気への吹き抜けを低減したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−235610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術のキャニスタ101では、第2吸着層112と第3吸着層113の間、第3吸着層113と第4吸着層114の間の容積が小さい。そのため、パージの際に、第4吸着層114や第3吸着層113で、活性炭から燃料成分が脱離することによる温度低下が生じると、仕切り板122,121の空間においては、その低下した気体の温度がほとんど上昇することなく、そのタンクポート102側の吸着層113、112内に、気体がすぐに流入してしまう。そのため、この吸着層113,112での脱離性能が低下し、燃料成分の脱離が不十分になってしまう恐れがある。
【0007】
そのため、パージ後の活性炭における燃料成分の残存量が多くなり、大気への吹き抜けが生じる恐れがある。
【0008】
そこで、本発明は、前記従来のキャニスタよりもパージ後の、活性炭における燃料成分の残存量を減少させ、大気ポートから外部への蒸発燃料成分の吹き抜けを低減する蒸発燃料処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、内部に流体が流通できる通路を形成し、該通路の一端側にはタンクポート及びパージポートを形成し、前記通路の他端側には大気ポートを形成し、前記通路内に蒸発燃料成分を吸着できる吸着材を充填した吸着層を設けた蒸発燃料装置において、
3つ以上の吸着層と、この隣り合う吸着層を離間させる離間部からなり、この吸着層の容積の合計が、前記離間部の容積の合計よりも小さくなるようにした領域を、前記通路の大気ポート側に設け、
前記領域において、前記隣り合う吸着層の離間距離を、大気ポートに近い離間部ほど長くなるように形成したことを特徴とするものである。
請求項2記載の発明は、内部に流体が流通できる通路を形成し、該通路の一端側にはタンクポート及びパージポートを形成し、前記通路の他端側には大気ポートを形成し、前記通路内に蒸発燃料成分を吸着できる吸着材を充填した吸着層を設けた蒸発燃料装置において、
3つ以上の吸着層と、この隣り合う吸着層を離間させる離間部からなり、この吸着層の容積の合計が、前記離間部の容積の合計よりも小さくなるようにした領域を、前記通路の大気ポート側に設け、
前記領域において、前記離間部の容積を、大気ポートに近い離間室ほど大きくなるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記領域において、前記吸着層における両端面間の距離の合計を、隣り合う吸着層の離間距離の合計よりも短くしたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項記載の発明は、請求項1乃至の何れか1項に記載の発明において、前記領域において、前記吸着層における両端面間の距離を、大気ポートに近い吸着層ほど短くなるようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
請求項記載の発明は、請求項1乃至の何れか1項に記載の発明において、前記領域において、前記吸着層の容積を、大気ポートに近い吸着層ほど小さくなるようにしたことを特徴とするものである。
【0015】
請求項記載の発明は、請求項1乃至の何れか1項に記載の発明において、前記領域において、最も大気ポート側に位置する吸着層を、ASTM D5228によるブタンワーキングキャパシティーが14.5g/dL以上の活性炭で構成したことを特徴とするものである。
【0016】
請求項記載の発明は、請求項1乃至の何れか1項に記載の発明において、前記蒸発燃料処理装置において、最もタンクポート側に設けた吸着層を、破砕炭で構成したことを特徴とするものである。
【0018】
請求項記載の発明は、請求項1乃至の何れか1項に記載の発明において、前記領域内の吸着層における通路の流通方向と直交する断面積と、前記蒸発燃料処理装置における領域以外の吸着層の通路の流通方向と直交する断面積との比が、1:2.5〜1:4.5の範囲に含まれることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、3つ以上の吸着層と、この隣り合う吸着層を離間させる離間部からなり、この吸着層の容積の合計が、前記離間部の容積の合計よりも小さくなるようにした領域を、大気ポート側に設けたことにより、離間部内における滞留時間を、前記従来のキャニスタ101よりも長くすることができるため、脱離による低下した気体の温度上昇(回復)量が多くなる。これにより、本発明の蒸発燃料処理装置内における気体の温度を、従来のキャニスタ101よりも高く維持するができるため、吸着材の脱離性能を向上することができ、パージ後の燃料成分の残存量を、前記従来のキャニスタ101よりも減少させて、大気への吹き抜け量を低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1に係る蒸発燃料処理装置を説明するための概略図。
図2】本発明の実施例2に係る蒸発燃料処理装置を説明するための概略図。
図3】本発明の実施例3に係る蒸発燃料処理装置を説明するための概略図。
図4】本発明の実施例4に係る蒸発燃料処理装置を説明するための概略図。
図5】本発明の実施例5に係る蒸発燃料処理装置を説明するための概略図。
図6】本発明の実施例6に係る蒸発燃料処理装置を説明するための概略図の一例。
図7】本発明の実施例6に係る蒸発燃料処理装置を説明するための概略図の一例。
図8】従来の蒸発燃料処理装置を示す概略構成断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態を図に基づいて説明する。
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1を示す。
【0022】
本発明の蒸発燃料処理装置1は、図1に示すように、ケース2を有し、該ケース2の内部には流体が流通できる通路3が形成され、前記ケース2における通路3の一端側端部にはタンクポート4とパージポート5が、他端側端部には大気ポート6が形成されている。
【0023】
前記通路3には、蒸発燃料成分を吸着できる吸着材が充填された4つの吸着層、すなわち、第1吸着層11,第2吸着層12,第3吸着層13,第4吸着層14が、直列に配置されている。本実施例では、前記吸着材として活性炭を用いた。
【0024】
前記ケース2内には、図1に示すように、前記タンクポート4とパージポート5に連通する主室21と、大気ポート6に連通する副室22が形成され、主室21と副室22は、大気ポート6側と反対側のケース2内に形成された空間23により連通し、気体が通路3内を流れる際には、空間23で折り返して略U字状に流れるようになっている。
【0025】
前記タンクポート4は、図示しない燃料タンクの上部気室に連通し、前記パージポート5は、図示しないパージ制御弁(VSV)を介してエンジンの吸気通路へ接続されている。このパージ制御弁の開度は、電子制御ユニット(ECU)により制御され、エンジン運転中に、A/Fセンサ等の測定値等を基にしてパージ制御が行われる。前記大気ポート6は、図示しない通路を介して外部と連通している。
【0026】
前記主室21内には、前記吸着材である活性炭が所定密度で充填されて第1吸着層11が形成されている。この活性炭としては、造粒炭や破砕炭を用いることができるが、本実施例においては破砕炭を用いた。なお、図においては、第1吸着層11が活性炭で構成されていることが分かりやすいように、造粒炭を用いて記載した。
【0027】
前記ケース2におけるタンクポート4とパージポート5との間には、ケース2における内側面から、前記第1吸着層11の一部にまで達する邪魔板15が設けられている。該邪魔板15により、タンクポート4とパージポート5間を流れる流体が、第1吸着層11を通って流通するようになっている。
【0028】
前記第1吸着層11は、そのタンクポート4側を不織布等からなるフィルタ16で、パージポート5側は不織布等からなるフィルタ17で夫々覆われている。また、第1吸着層11の空間23側面には、その面全体を覆うウレタン等からなるフィルタ18が設けられ、該フィルタ18の下側には多数の連通穴を有するプレート19が設けられている。該プレート19は、スプリング等の付勢手段20によりタンクポート4側へ付勢されている。
【0029】
前記副室22の空間23側には、前記吸着材である活性炭が所定密度で充填された第2吸着層12が形成されている。この活性炭としては、造粒炭や破砕炭を用いることができるが、本実施例においては造粒炭を用いた。
【0030】
第2吸着層12の空間23側には、その全体を覆うウレタン等からなるフィルタ26が設けられている。前記フィルタ26の空間23側には多数の連通穴を全面に略均等に設けたプレート27が設けられている。該プレート27は、スプリング等の付勢部材28により大気ポート6側へ付勢されている。
【0031】
前記プレート19,27とケース2の蓋板30との間に前記空間23が形成され、該空間23により、前記第1吸着層11と第2吸着層12とが連通している。
【0032】
前記副室22における第2吸着層12の大気ポート6側には、前記吸着材である活性炭を所定密度で充填した第3吸着層13が形成されている。この活性炭としては、造粒炭や破砕炭を用いることができるが、本実施例においては造粒炭を用いた。
【0033】
前記第2吸着層12の大気ポート6側端面と、第3吸着層13の空間23側端面との間には、吸着層12と13とを所定距離L1、離間させる第1離間部31が設けられている。
【0034】
該第1離間部31の第2吸着層12側端部と、第3吸着層13側端部には、その全体を覆うウレタン等からなるフィルタ35,36が設けられている。このフィルタ35と36の間には、フィルタ35,36を所定距離、離間することができる空間形成部材37が設けられている。
【0035】
前記副室22における第3吸着層13の大気ポート6側には、前記吸着材である活性炭が所定密度で充填された第4吸着層14が形成されている。この活性炭としては、造粒炭や破砕炭を用いることができるが、本実施例においてはASTM D5228によるブタンワーキングキャパシティー(BWC)が、14.5g/dL以上の高性能活性炭を用いた。なお、第4吸着層14を構成する活性炭として、第2吸着層12や第3吸着層13を構成する活性炭と同様の活性炭を用いてもよい。第4吸着層14の大気ポート6側には、その端面全体を覆う不織布等からなるフィルタ34が設けられている。
【0036】
前記第3吸着層13の大気ポート6側端面と、第4吸着層14の空間23側端面との間には、吸着層13と14とを所定距離L2離間させる第2離間部32が設けられている。
【0037】
該第2離間部32の第3吸着層13側端部と、第4吸着層14側端部には、その全体を覆うウレタン等からなるフィルタ38,39が設けられている。このフィルタ38と39の間には、フィルタ38,39を所定距離、離間することができる空間形成部材40が設けられている。
【0038】
前記離間部31,32には、吸着材は設けられていない。
なお、離間部31,32は、隣り合う吸着層が所定距離離間することができればよく、例えば、ウレタン等のフィルタのみで形成してもよいし、空間形成部材37、40のみで構成しても良い。
【0039】
前記第2吸着層12の容積V1よりも、第3吸着層13の容積V2の方が小さく、第3吸着層13の容積V2よりも、第4吸着層14の容積V3の方が小さくなるように設定されている。すなわち、副室22内の吸着層の容積は、大気ポート6側の吸着層ほど小さくなるように設定されている。
【0040】
また、第1離間部31の容積V4よりも、第2離間部32の容積V5のほうが大きく設定されている。すなわち、副室22内の離間部の容積は、大気ポート6側の離間部ほど大きくなるように設定されている。
【0041】
また、前記副室22内の吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)は、離間部31,32の容積の合計(V4+V5)よりも小さくなるように設定されている。
【0042】
更に、前記第2吸着層12における通路3の流通方向の両端面間の距離L3よりも、第3吸着層13における通路3の流通方向の両端面間の距離L4の方が短く、第3吸着層13における通路3の流通方向の両端面間の距離L4よりも、第4吸着層14における通路3の流通方向の両端面間の距離L5の方が短くなるように設定されている。すなわち、副室22内の吸着層における両端面間の距離は、大気ポート6側の吸着層ほど短くなるように設定されている。
【0043】
また、第2吸着層12と第3吸着層13の離間距離L1よりも、第3吸着層13と第4吸着層14の離間距離L2のほうが長く設定されている。すなわち、副室22内において、隣り合う吸着層間の離間距離は、大気ポート6側の離間部ほど長くなるように設定されている。
【0044】
また、前記副室22内の吸着層における通路3の流通方向の両端面間の距離の合計(L3+L4+L5)は、隣り合う吸着層間の離間距離の合計(L1+L2)よりも短くなるように設定されている。
【0045】
最もタンクポート4側に位置する離間部である第1離間部31の容積V4は、最も大気ポート6側に位置する吸着層である第4吸着層14の容積V3よりも大きくなるように設定されている。
【0046】
本発明の実施例における領域とは副室22内の吸着層12,13,14と離間部31,32を含む部分である。
【0047】
更に、前記副室22内の吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)は、蒸発燃料処理装置1内の全ての吸着層の容積の合計(第1吸着層11の容積をV0とした場合、V0+V1+V2+V3)の12%以下に設定されている。
【0048】
更に、前記副室22内の吸着層12,13,14における通路3の流通方向と直交する断面積と、前記蒸発燃料処理装置における領域以外の主室21の第1吸着層11における通路3の流通方向と直交する断面積との比が、1:2.5〜1:4.5の範囲となるように設定されている。
【0049】
第2吸着層12と第3吸着層13と第4吸着層14において、通路3の流通方向と直交する断面積は、全て同じにする等任意に設定するが、大気ポート6側の吸着層ほど、通路3の流通方向と直交する断面積を小さくすることが好ましい。
【0050】
前記の構成により、タンクポート4から蒸発燃料処理装置1内へ流入した蒸発燃料を含有する気体は、各吸着層11〜14内の吸着材で燃料成分が吸着された後、大気ポート6から大気へと放出される。
【0051】
一方、エンジン運転中のパージ制御の際、電子制御ユニット(ECU)よりパージ制御弁が開放され、吸気通路内の負圧により大気ポートから蒸発燃料処理装置1内に吸入された空気は、前記とは逆方向に流れて、パージポート5からエンジンの吸気通路へ供給される。その際、各吸着層11〜14内の吸着材に吸着されていた燃料成分が脱離し、空気と共にエンジンへ供給される。
【0052】
本発明の蒸発燃料処理装置1は、上記構造・構成を有することにより、以下の作用・効果を奏する。
【0053】
前記副室22内の離間部31,32の容積の合計(V4+V5)を、吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)よりも大きくしたことにより、離間部内における滞留時間を、前記従来のキャニスタ101よりも長くすることができるため、吸着層で脱離により低下した気体の温度の上昇(回復)量が多くなる。これにより、その吸着層のタンクポート4側に位置する吸着層に流入する気体の温度を、従来のキャニスタ101よりも高くすることができ、その吸着材の蒸発燃料成分の脱離性能を高く保つことができる。これにより、パージ後の蒸発燃料処理装置1内の燃料成分の残存量を、前記従来のキャニスタ101よりも減少させて、燃料成分の大気への吹き抜け量を低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【0054】
また、前記副室22内の離間部31,32の容積の合計(V4+V5)を、吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)よりも大きくするとともに、隣り合う吸着層間の離間距離の合計(L1+L2)を、吸着層における両端面間の距離の合計(L3+L4+L5)よりも長くしたことにより、離間部での滞留時間を、より確実に長くすることができ、脱離により低下した気体温度の回復を、前記従来のキャニスタ101よりも確実に多くすることとができるために、吸着材の脱離性能を高く保ち、パージ後の蒸発燃料成分の存残量を低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【0055】
副室22内の吸着層の容積を、大気ポート6側の吸着層ほど小さくなるようにしたことにより、パージ後において、大気ポート6側の吸着層ほど燃料成分の残存量を低減し、燃料成分の大気への吹き抜けを低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【0056】
更に、副室22内の吸着層の容積は、大気ポート6側の吸着層ほど小さくするとともに、吸着層における両端面間の距離を、大気ポート6側の吸着層ほど短くなるようにすることで、燃料成分の大気への吹き抜けをより低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【0057】
また、パージの際に、大気ポート6に近い吸着層ほど、その吸着層への入りと出での気体の温度差が大きい。そのため、温度低下の大きな大気ポート側に位置する離間部ほど、滞留時間を長くして、低下した気体の温度を上昇させることができれば、吸着材の脱離性能を高く維持することができ、離間部のタンクポート4側の吸着層での吸着材からの蒸発燃料成分の脱離効率を向上させることができる。そこで、本発明では、離間部31,32の容積を、温度低下の大きな大気ポート6に近い離間部ほど大きくして、大気ポート6側ほど離間部における滞留時間を長くすることで、前記従来のキャニスタ101よりも気体の温度を高く保つことができ、蒸発燃料処理装置1の脱離性能を向上させることができた。これにより、前記従来のキャニスタ101よりも、燃料成分の大気への吹き抜けをより低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【0058】
更に、離間部31,32の容積を、大気ポート6側の離間部ほど大きくするとともに、隣り合う吸着層間の離間距離を大気ポート6側の離間部ほど長くすることで、前記従来のキャニスタ101よりも離間部における滞留時間を長くし、低下した気体の温度の上昇量を多くし、蒸発燃料処理装置1の脱離性能を向上させることができ、前記従来のキャニスタ101よりも大気への吹き抜けを低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【0059】
更に、大気ポート6側の吸着層ほど、通路3の流通方向と直交する断面積を小さくすることにより、パージの際の単位面積当たりの気体の流量を、大気ポート6側ほど多くすることができ、第4吸着層14の蒸発燃料成分の残存量を減らし、大気への吹き抜けを低減し、吹き抜け性能を向上できる。
【0060】
[実施例2]
前記実施例1においては、ケース2内に、空間23で1回折り返すU字状の通路3を形成したが、例えば図2に示すように、ケース2内に、2回折り返すN字状に形成した通路41としてもよい。
【0061】
本実施例2の主室21の構造は、前記実施例1の主室21と同様である。本実施例2において請求項1の領域に相当する副室42は、空間43において折り返すU字状に形成され、副室42の一端は空間23に連通し、他端には大気ポート6が設けられている。
【0062】
副室42における空間23と43の間には、前記実施例1と同様の第2吸着層12、第3吸着層13が設けられ、第2吸着層12と第3吸着層13の間には第1離間部31が設けられている。また、空間43の大気ポート6側には、前記実施例1の第4吸着層14と同様の第4吸着層14が設けられている。第4吸着層14と第3吸着層13との間には第2離間部32が設けられている。
【0063】
吸着層11,12,13,14と離間部31,32の相互の関係は、前記実施例1と同様に設定されている。すなわち、前記実施例1と同様に、副室42内の吸着層の容積は、大気ポート6側の吸着層ほど小さくなるように設定され、副室42内の離間部の容積は、大気ポート6側の離間部ほど大きくなるように設定され、前記副室42内の吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)は、離間部31,32の容積の合計(V4+V5)よりも小さくなるように設定されている。
【0064】
また、前記実施例1と同様に、副室42内の吸着層における両端面間の距離は、大気ポート6側の吸着層ほど短くなるように設定され、副室42内において、隣り合う吸着層間の離間距離は、大気ポート6側の離間部ほど長くなるように設定され、前記副室42内の吸着層における両端面間の距離の合計(L3+L4+L5)は、隣り合う吸着層間の離間距離の合計(L1+L2)よりも短くなるように設定されている。なお、第3吸着層13と第4吸着層14の離間距離L2とは、第3吸着層13の大気ポート6側端面と第4吸着層14のタンクポート4側端面との軸方向の離間距離で、図2に示すように、第3吸着層13の大気ポート6側端面と空間43のタンクポート4側端面入口端との距離L2’と空間43の大気ポート6側端面と第4吸着層14のタンクポート4側端面との距離L2”との合計L2’+L2”に該当する。
【0065】
また、最もタンクポート4側に位置する離間部である第1離間部31の容積V4は、最も大気ポート6側に位置する吸着層である第4吸着層14の容積V3よりも大きくなるように設定されている。
【0066】
また、前記副室22内の吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)は、蒸発燃料処理装置1内の全ての吸着層の容積の合計(V0+V1+V2+V3)の12%以下に設定されている。
【0067】
また、前記副室42内の吸着層12,13,14における通路3の流通方向と直交する断面積と、前記蒸発燃料処理装置における領域以外の主室21の第1吸着層11における通路3の流通方向と直交する断面積との比が、1:2.5〜1:4.5の範囲となるように設定されている。
【0068】
その他の部材は、前記実施例1と同様であるので、前記と同様の符号を付して説明を省略する。
また、本実施例2においても、前記実施例1と同様の作用、効果を奏する。
【0069】
[実施例3]
本実施例3は、前記実施例1、2の通路3、41と通路の形状が異なり、例えば図3に示すように、ケース2内に、3回折り返すW字状に形成した通路51としてもよい。
【0070】
本実施例3の主室21の構造は、前記実施例1の主室21と同様である。本実施例3において請求項1の領域に該当する副室52は、空間53、54において2回折り返すN字状に形成され、副室52の一端は空間23に連通し、他端には大気ポート6が設けられている。
【0071】
副室52における空間23と53の間には、前記実施例1と同様の第2吸着層12、第3吸着層13が設けられ、第2吸着層12と第3吸着層13の間には第1離間部31が設けられている。また、空間53と54の間には、前記実施例1の第4吸着層14と同様の第4吸着層14が設けられている。第4吸着層14と第3吸着層13との間には第2離間部32が設けられている。
【0072】
吸着層11,12,13,14と離間部31,32の相互の関係は、前記実施例1と同様に設定されている。
【0073】
その他の部材は、前記実施例1,2と同様であるので、前記と同様の符号を付して説明を省略する。
また、本実施例3においても、前記実施例1,2と同様の作用、効果を奏する。
【0074】
[実施例4]
前記実施例1においては、ケース2内の通路3を、空間23で1回折り返すU字状に形成したが、例えば、図4に示すように、ケース内の通路を、折り返しのないI字状に形成してもよい。
【0075】
本実施例4は、例えば図4に示すように、主室21と副室22とが、空間で折り返すことなく、直線状に配列された蒸発燃料処理装置である。
【0076】
本実施例4においても、3つの吸着層と、この隣り合う吸着層を離間させる離間部を有し、前記吸着層の容積が、大気ポート6に近い吸着層ほど小さくなるようにし、前記離間部の容積が、大気ポートに近い離間部ほど大きくなるようにし、最もタンクポート側に位置する離間部の容積は、最も大気ポート側に位置する吸着層の容積よりも大きくなるようにした領域である副室が、大気ポート6側に設けられている。
【0077】
吸着層11,12,13,14と離間部31,32の相互の関係は、前記実施例1と同様に設定されている。
【0078】
その他の部材は、前記実施例1と同様であるので、前記と同様の符号を付して説明を省略する。
また、本実施例4においても、前記実施例1と同様の作用、効果を奏する。
【0079】
[実施例5]
図5は、本発明の実施例5の一例を示す。
【0080】
本実施例5の蒸発燃料処理装置61は、本体キャニスタ62と、サブキャニスタ63とを有し、本体キャニスタ62とサブキャニスタ63とは連通管64により連通されている。
【0081】
本体キャニスタ62内には、前記実施例1と同様に主室21と副室22が形成され、主室21内には第1吸着層11が、副室22内には、前記実施例1と同様の第2吸着層12、第3吸着層13が設けられ、第2吸着層12と第3吸着層13の間には第1離間部31が設けられている。また、サブキャニスタ63内には、前記実施例1と同様の第4吸着層14が設けられている。第3吸着層13と第4吸着層14との間には、副室22とサブキャニスタ63に亘って第2離間部66が形成されている。
【0082】
請求項1の領域とは、本体キャニスタ62内の副室22とサブキャニスタ63が該当する。
【0083】
吸着層11,12,13,14と離間部31,66の相互の関係は、前記実施例1と同様に設定されている。この相互の関係において、第3吸着層13と第4吸着層14との離間距離L2としては、流路断面積の小さい連通管64では、その部分で流速が増し、その部分での滞留時間は短くなるため、この連通間64を除いた空間の距離、すなわち、図5のL6+L7を用いて、実施例1の相互の関係が成立するように吸着層11,12,13,14と離間部31,66が形成することが好ましい。
【0084】
その他の部材は、前記実施例1と同様であるので、前記と同様の符号を付して説明を省略する。
また、本実施例5においても、前記実施例1と同様の作用、効果を奏する。
【0085】
[実施例6]
前記実施例1〜5では、領域において、大気ポート6側ほど吸着層の容積が小さくなるようにしたが、この領域において、吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)を、前記離間部31,32の容積の合計(V4+V5)よりも小さくなるようにし、好ましくは、前記副室42内の吸着層における両端面間の距離の合計(L3+L4+L5)を、隣り合う吸着層間の離間距離の合計(L1+L2)よりも短くなるようにすれば、吸着層12,13,14相互の容積の関係は任意に設定する。
【0086】
例えば、図6に示すように、第4吸着層14の容積V3を、第3吸着層13の容積V2よりも大きく、第2吸着層12の容積V1よりも小さくなるようしてもよい。
【0087】
また、図7に示すように、第4吸着層14における通路3の流路方向と直交する断面積Dに対する両端面間の距離L5(L5/D)が大きくなるように、前記第4吸着層14の断面積Dを小さくし、第4吸着層14の容積V3を、第3吸着層13の容積V2よりも大きく、第2吸着層12の容積V1よりも小さくなるようにするとともに、第4吸着層14における両端面間の距離L5を、第2吸着層12と第3吸着層13における両端面間の距離L3,L4よりも長くなるようにしてもよい。この場合、第4吸着層14内の吸着材である粒状の活性炭の向きをそろえるなどして、第4吸着層14での通気抵抗を減らすことが好ましい。
【0088】
その他の部材は、前記実施例1〜5と同様であるので、前記と同様の符号を付して説明を省略する。
また、本実施例6においても、前記実施例1〜5と同等の作用、効果を奏する。
【0089】
[実施例7]
前記実施例1〜6においては、領域において、大気ポート6側ほど離間部の容積が大きくなるようにしたが、この領域において、吸着層12,13,14の容積の合計(V1+V2+V3)を、前記離間部31,32の容積の合計(V4+V5)よりも小さくなるようにし、好ましくは、前記副室42内の吸着層における両端面間の距離の合計(L3+L4+L5)を、隣り合う吸着層間の離間距離の合計(L1+L2)よりも短くなるようにすれば、離間部31,32における容積(V4,V5)と長さ(L1,L2)の相互の関係は任意に設定する。
【0090】
例えば、第2離間部32の容積V5を、第1離間部31の容積V4よりも大きく、かつ、第3吸着層13と第4吸着層14の離間距離(第2離間部32の長さ)L2を、第2吸着層12と第3吸着層13の離間距離(第1離間部31の長さ)L1よりも小さくなるようしてもよい。
【0091】
例えば、第2離間部32の容積V5を、第1離間部31の容積V4よりも小さく、かつ、第3吸着層13と第4吸着層14の離間距離(第2離間部32の長さ)L2を、第2吸着層12と第3吸着層13の離間距離(第1離間部31の長さ)L1よりも小さくなるようしてもよい。
【0092】
その他の部材は、前記実施例1〜6と同様であるので説明を省略する。
また、本実施例7においても、前記実施例1〜6と同等の作用、効果を奏する。
【0093】
[その他の実施例]
なお、前記実施例1〜7では、主室21内には、第1吸着層11のみ設けたが、主室21内に複数の吸着層を設けるとともに、その隣り合う吸着層の間に、それらを離間する離間部を設けるようにしてもよい。
【0094】
また、副室22内に、4個以上の吸着層を直列に設け、その隣り合う吸着層の間に、それらを離間する離間部を設けてもよい。その場合、前記副室22内の吸着層の容積の合計は、離間部の容積の合計よりも小さくなるようにする。
【0095】
更に、好ましくは、副室22内の吸着層の容積は、大気ポート6側の吸着層ほど小さくなるようにする。また、副室22内の離間部の容積は、大気ポート6側の離間部ほど大きくなるようにするとよい。また、前記副室22内の吸着層の容積の合計は、離間部の容積の合計よりも小さくなるようにするとよい。副室22内の吸着層における両端面間の距離は、大気ポート6側の吸着層ほど短くするとよい。また、副室22内において、隣り合う吸着層間の離間距離は、大気ポート6側の離間部ほど長くなるようにするとよい。また、前記副室22内の吸着層における両端面間の距離の合計は、隣り合う吸着層間の離間距離の合計よりも短くなるようにするとよい。
【0096】
また、3つ以上の吸着層と、この隣り合う吸着層を離間させる離間部を有し、この吸着層の容積の合計が、前記離間部の容積の合計よりも小さくなるようにした領域である副室が、大気ポート6側に設けられていれば、蒸発燃料装置全体の形状や、吸着層、離間部、空間等の数及び形状、配列等は任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0097】
1,61 蒸発燃料処理装置
3,41,51 通路
4 タンクポート
5 パージポート
6 大気ポート
11,12,13 吸着層
31,32 離間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8