【文献】
武岡真司,分子集合科学による高分子超薄膜(ナノシート)の調製とナノ絆創膏としての医療展開,応用物理,2011年 2月,Vol.80, No.2,p.133-136,第134−135頁等を参照
【文献】
藤枝俊宣他,医療応用に向けた高分子超薄膜の新展開,表面,2010年 7月 1日,Vol.48, No.7,p.211-219,第211−212頁、第215−217頁等を参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記薬物を積層した一方の表面上に、さらに、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらの任意の組み合わせの共重合体から形成される薬物放出制御用フィルムを含む、請求項7〜13のいずれか1項記載の医薬製剤。
ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらの任意の組み合わせの共重合体から形成される薬物制御用フィルムを眼に貼付した後、当該薬物制御用フィルムの上に、前記薬物を担持した交互積層薄膜を貼付する、請求項1〜13のいずれか1項記載の医薬製剤。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2011-86402号(2011年4月8日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
本明細書中では、薄膜を、「ナノシート」という場合がある。
【0017】
1.本発明の概要
本発明は、目に投与するための薬物を担持した薄膜を含む医薬製剤を用いることで、一回の投与での薬物作用の持続時間を長くするものである。薄膜は、交互積層薄膜であり(
図1)、例えば、スピンコーティング法(
図2)の他、浸漬法、スプレーコーティング法などにより形成することができる。
【0018】
後述の実施例では、薬物を担持した交互積層薄膜(
図1,4)を眼に貼付することで、点眼薬を用いた場合と比較して、一回の投与での薬物の作用の持続時間を長くすることができた(
図6〜8, 10)。また、後述の実施例では、薬物を担持した交互積層薄膜は、組織毒性が低いことなどが確認できた(
図9)。
【0019】
2.薬物を担持した交互積層薄膜
図1に示すように、本発明の交互積層(LBL)薄膜10は、反対電荷の高分子電解質(ポリカチオン11及びポリアニオン12)の層を交互に積層した薄膜である。また、本発明の交互積層薄膜10の表面上には、さらに、支持フィルム層13を設けてよい。さらに、本発明の交互積層薄膜10には、1種以上の薬物14を担持させる。
【0020】
本発明の交互積層薄膜に用いる高分子電解質は、好ましくは、生体適合性の高分子電解質であり、より好ましくは、生体適合性で、かつ生分解性の高分子電解質である。
【0021】
ポリカチオンとしては、キトサン、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、アイオネン、ポリ(4級化ピリジン)、ジアリルジアルキルアンモニウム塩の重合体等が挙げられる。ポリカチオンは、好ましくは、キトサン、ポリリシン、ポリアルギニン等であり、より好ましくは、キトサンである。
【0022】
ポリアニオンとしては、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリグルタミン酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸等、又はそれらのアルカリ金属塩(例、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリグルタミン酸ナトリウム等)等が挙げられる。ポリアニオンは、好ましくは、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等であり、より好ましくは、アルギン酸ナトリウムである。
【0023】
本発明の交互積層薄膜は、少なくとも一方の表面(好ましくは、一方の表面、さらに好ましくは、薬物を積層した一方の表面とは反対の表面)上に、さらに、ポリビニルアルコール、スターチ、高分子電解質等の水溶性のフィルムや、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、テフロン、シルクなどのメッシュ状フィルム等の支持フィルムの層13を含んでよい。高分子電解質は、交互積層法にて使用する高分子電解質であってもよい。支持フィルムを設けることにより、本発明の交互積層薄膜の取扱を容易にできる。水溶性フィルムは交互積層薄膜を眼に貼付後に、例えば、生理塩水などで溶解させることができる。また、メッシュ状フィルムは交互積層薄膜を眼に貼付後にピンセットなどで剥がすことができる。
【0024】
本発明の交互積層薄膜は、他にも、保護フィルムとして、少なくとも一方の表面(好ましくは両方の表面)に、ポリマー(例、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、セロファン)、紙、布等の層を含んでよい。保護フィルムを設けることにより、本発明の交互積層薄膜を、摩耗、衝撃、折り曲げなどから物理的に保護することができる。
【0025】
本発明の交互積層薄膜の積層の順序や積層数は、特に限定されず、任意の順序及び任意の積層数に設定することができる。ポリカチオンとポリアニオンの積層数(ポリカチオンとポリアニオンの対の数)は、合わせて、例えば、2〜50層(1〜25対)、好ましくは、4〜40層(2〜20対)、より好ましくは、6〜30層(3〜15対)である。
【0026】
本発明の交互積層薄膜の形状は、任意の形状であってよく、例えば、四角形、円形、楕円形、リボン形、ひも形、ドーナッツ形、リング形等が挙げられ、好ましくは、四角形、円形、楕円形、ドーナッツ形、リング形等が挙げられる。
【0027】
また、本発明の交互積層薄膜は、眼球の曲率にあった曲面であってよい。また、本発明のいくつかの態様では、支持フィルムが眼球の曲率にあった曲面であってもよい。その場合、保護フィルムは袋状でもよい。
【0028】
図1に示すように、本発明の交互積層薄膜10には、任意の薬物14を担持させる。
図1では、本発明の交互積層薄膜10の表面に薬物14を積層しているが、これに限定されず、層間に薬物を積層するようにしてもよい。ここで、薬物を、交互積層薄膜の層間に積層させた場合、薬物の作用の持続時間がより長くなることが期待できる。
ここで、製造時に、交互積層薄膜の表面又は層間に薬物を積層していた場合でも、その後、薬物が交互積層膜全体に浸透した状態となる場合がある(
図4)。このため、本発明のいくつかの態様の医薬製剤は、薬物を交互積層膜全体に浸透させた状態で、薬物を交互積層膜に担持する。
【0029】
また、薬物14の層をさらに薬物放出制御用フィルムにて被覆すると薬物作用の持続時間を著しく延長させることができる。薬物放出制御用フィルムとしては、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンやそれらの共重合体などから形成される疎水性で生分解性のフィルムが挙げられる。
【0030】
薬物放出制御用フィルムは、本発明の交互積層薄膜と予め分離した状態になっていて、薬物放出制御用フィルムを予め眼に貼付した後に、その上に薬物を担持した交互積層薄膜を貼付するようにしてもよい。これにより、薬物14の層をさらに薬物放出制御用フィルムにて被覆した状態とする。あるいは、交互積層薄膜を予め眼に貼付した後にその上に薬物放出制御用フィルムを貼付するようにしてもよいし、それらの操作を併用してもよい。
【0031】
本発明の交互積層薄膜に担持させる1種以上の薬物は、1種類の薬物であっても、2種類以上(例、2種類、3種類、4種類、又は5種類、好ましくは、2種類。)の薬物であってもよいが、好ましくは、1種類である。2種類以上の薬物を本発明の交互積層薄膜に担持させる場合、全ての薬物を表層に積層するようにしてもよいし、ある薬物を表層に、残りの薬物を層間に積層させるようにしてもよいし、全ての薬物を層間に積層させるようにしてもよい。2種類以上の薬物を同じ表層および層間に積層させるようにしてもよいし、別々の表層および層間に積層するようにしてもよい。
【0032】
本発明の好ましい態様の医薬製剤は、含有薬物を化学結合などにより交互積層薄膜に固定しないため、広い範囲の薬剤を交互積層薄膜に担持させることが可能である。
【0033】
1種以上の薬物としては、従来目に投与するための外用薬として用いられてきた1種以上の薬物、例えば、従来点滴薬として用いられてきた薬物(例、緑内障治療薬、抗菌剤、ステロイド剤等)、涙液分泌刺激剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤等を挙げることができ、好ましくは、緑内障治療薬、抗菌剤、抗炎症剤等を挙げることができ、さらに好ましくは緑内障治療薬を挙げることができる。1種以上の緑内障治療薬としては、例えば、プロスタグランジン類、ベータ遮断剤、及び炭酸脱水阻害剤からなる群から選択される少なくとも1種以上を挙げることができ、好ましくは、プロスタグランジン類を挙げることができる。プロスタグランジン類としては、例えば、ラタノプロスト、ビマトプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、タフルプロスト、またプロスタグラインジンとベータ遮断剤の配合剤であるザラカム(R)、デュオトラバ(R)等を挙げることができ、好ましくは、ラタノプロストを挙げることができる。
本発明の医薬製剤では、これらの薬物を、同一医薬製剤中に、単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0034】
本発明の交互積層薄膜の膜厚は、薬物を担持しない状態で、例えば、500nm以下であり、好ましくは、5nm〜500nmであり、より好ましくは、10nm〜200nmであり、さらに好ましくは、15nm〜100nmである。薬物の層は、一層あたりの膜厚は、例えば、10nm〜400nmであり、さらに好ましくは、50nm〜300nmであり、これを1層以上、好ましくは1層、本発明の交互積層薄膜に担持させる。本発明の交互積層薄膜が薬物を担持した時は全体の膜厚が、例えば50nm〜1000nmであり、好ましくは、40nm〜800nmであり、より好ましくは、50nm〜500nmであり、さらに好ましくは、60nm〜400nmである。
【0035】
薬物放出制御用フィルムの膜厚は、例えば、5nm〜500nmであり、さらに好ましくは、50nm〜200nmである。
【0036】
支持フィルムの膜厚は、例えば、1μm〜100μmであり、さらに好ましくは、10μm〜30μmである。
【0037】
保護フィルムの膜厚は、例えば、1μm〜1000μmであり、さらに好ましくは、50μm〜500μnmである。
【0038】
本発明の交互積層薄膜のサイズは、用途に合わせて適宜選択することができる。本発明の交互積層薄膜をヒトの眼に貼付する場合、例えば、一片の長さが0.4cm 〜3.0cm(好ましくは、0.5cm〜2.0cm)の四角形、直径が0.4cm〜3.0cm(好ましくは、0.5〜2.0cm)の円、長辺の長さが0.4cm 〜3.0cm(好ましくは、0.5cm〜2.0cm)で短辺の長さが0.3cm 〜2.5cm(好ましくは、0.4cm〜1.5cm)の楕円形、直径6ミリで中心部直径3ミリがないドーナツ状等とする。
【0039】
本発明の交互積層薄膜は、薬物を、例えば、0.25μg/cm
2〜25μg/cm
2、好ましくは、0.95μg/cm
2〜5μg/cm
2量で担持する。
【0040】
本発明の好ましい態様の医薬製剤は、交互積層薄膜の厚さが非常に薄く、また、伸展性、及び変形性に優れる。このため、装用者に異物感などの装用上の問題や充血などの副作用を来たしにくい。また、本発明のさらに好ましい態様の医薬製剤は、酸素透過性が高く、眼組織への侵襲が少ない。
【0041】
3.薬物を担持した交互積層薄膜の調製方法
本発明の交互積層薄膜は、適当な基体上に、反対電荷の高分子電解質(ポリカチオン及びポリアニオン)の層を交互に積層することにより形成する。
【0042】
基体としては、シリコン基板、プラスチック基板、ガラス基板等を挙げることができ、好ましくは、プラスチック基板を挙げることができる。基板は眼球の曲率にあった曲面を有していても良い。
【0043】
積層の方法は、限定はされないが、反対電荷の高分子電解質の層を、スピンコーティング法、浸漬法、スプレーコーティング法等の公知の膜形成法により、交互に積層していく方法が好ましく挙げられる。
【0044】
図2にスピンコーティング法を用いて、薬物を担持した交互積層薄膜を調製する方法の一例を示す。
【0045】
スピンコーティング法を用いた場合は、例えば、基体上に、所定濃度(例、0.1〜100 mg/mL、好ましくは0.2〜50 mg/mL、より好ましくは0.3〜20 mg/mL)の高分子電解質(
図2では、キトサン)を、スピンコーターにより100〜10000 rpmで1〜60秒(
図2では、4500rpmで15秒)塗布した後、10〜60秒そのまま基体を回転させることにより乾燥させて、高分子電解質の層を形成する(
図2(a))。次に、反対電荷の高分子電解質(
図2では、アルギン酸ナトリウム)の層を、同様の方法にて、その上に形成する(
図2(b))。このようにして、反対電荷の高分子電解質の層を交互に形成していく(
図2(c))。
【0046】
スピンコーティング法を用いた場合、各高分子電解質層の厚さは、高分子電解質溶液の濃度、スピンコーターの回転速度、スピンコーターの回転時間、温度、湿度等を変えることにより制御することができる。具体的には、高分子電解質溶液の濃度を薄くすること、スピンコーターの回転速度を上げること、スピンコーターの回転時間を上げること、温度を上げること、湿度を上げること等により層の厚さを薄くすることができる。
【0047】
浸漬法を用いた場合、基板を高分子電解質(例、キトサン)の溶液に所定時間浸漬してこれを基板表面に付着させた後、基板を洗浄液に浸漬して過剰な高分子電解質を除去する。次に当該基板を反対電荷の高分子電解質(例、アルギン酸ナトリウム)の溶液に所定時間浸漬してこれを基板表面に付着させた後、基板を洗浄液に浸漬して過剰な高分子電解質を除去する。この様にして反対電荷の高分子電解質の層を交互に形成させていく。各電解質層の厚さは、各電解質溶液の濃度、粘度、浸漬時間、浸漬温度などを変えることにより制御できる。濃度や粘度を下げること、浸漬時間を短くすること、浸漬温度を高くすること等により層の厚さを薄くすることができる。
【0048】
スプレーコーティング法を用いた場合、基板を高分子電解質(例、キトサン)の溶液を所定の噴霧条件で所定時間基板に対して噴霧してこれを基板表面に付着させた後、基板に洗浄液を所定時間噴霧して過剰な高分子電解質を除去する。次に当該基板を反対電荷の高分子電解質(例、アルギン酸ナトリウム)の溶液に所定の噴霧条件で所定時間噴霧してこれを基板表面に付着させた後、基板に洗浄液を所定時間噴霧して過剰な高分子電解質を除去する。この様にして反対電荷の高分子電解質の層を交互に形成させていく。各電解質層の厚さは、各電解質溶液の濃度、粘度、噴霧時間、洗浄時間などを変えることにより制御できる。濃度や粘度を下げること、噴霧の液滴を小さくすること、噴霧時間を短くすること、洗浄時間を長くすること等により層の厚さを薄くすることができる。
【0049】
図2(d)に示すように、本発明の交互積層薄膜の調製方法は、さらに、他の層(
図2では、ポリビニルアルコール)を形成する工程を含んでよい。他の層は、ポリビニルアルコール等を滴下した後スピンコートして乾燥することにより形成することができる。他の層の形成方法は、これに限定されず、例えば、バーコーティング後に乾燥すること、浸漬後乾燥することなどにより、他の層を形成することができる。
【0050】
以上の方法により、本発明の交互積層薄膜を調製することができる。
【0051】
次に、上記調製した交互積層薄膜に、薬物を担持させる方法を説明する。
先ず、上記調製した交互積層薄膜を基板から剥離させ(
図2(e))、交互積層薄膜を反転させる(
図2(f))。
さらに、交互積層薄膜の表面に薬物(
図2ではラタノプロスト)を滴下し乾燥させることにより(
図2(g))、薬物を担持した交互積層薄膜を形成することができる(
図2(h))。薬物の担持方法は、薬物溶液の滴下に限定されず、例えば、薬物溶液をスピンコーティングすること、薬物溶液をスプレーコーティングすること、薬物溶液をバーコーティングすることなどによっても、薄膜に薬物を担持させることができる。
【0052】
図2の方法では、薬物を表面に担持した交互積層薄膜を調製する方法を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、薬物を層間に担持した交互積層薄膜を調製することもできる。薬物を層間に担持した交互積層薄膜は、積層工程の間(
図2(b)〜(c))に、薬物を担持する工程を挿入することで、調製することができる。薬物を担持する工程は、前記と同様に、例えば、薬物を滴下し乾燥すること、薬物溶液をスピンコーティングすること、薬物溶液をスプレーコーティングすること、薬物溶液をバーコーティングすることなど、により行い、更に交互積層を継続して繰り返すか、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法にて薬物放出制御用フィルムを作成する。
【0053】
支持フィルム、保護フィルム、及び薬物放出制御用フィルムは、例えば、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法にて本発明の交互積層薄膜に設けることができる。あるいは、予め作製したフィルムを本発明の交互積層膜に圧着させてもよい。保護フィルムは、交互積層膜に、又は交互積層薄膜を各種フィルムと複合させたフィルムにただ重ねるだけで設けるようにしてもよい。
また、薬物放出制御用フィルムについては、前記の通り、本発明の交互積層薄膜と予め分離した状態になっていて、薬物放出制御用フィルムを予め眼に貼付した後に、その上に薬物を担持した交互積層薄膜を貼付するようにしてもよい。あるいは、交互積層薄膜を予め眼に貼付した後にその上に薬物放出制御用フィルムを貼付するようにしてもよいし、それらの操作を併用してもよい。
【0054】
4.医薬製剤
本発明の医薬製剤は、交互積層薄膜と、前記薄膜に担持された薬物を含む。本発明の医薬製剤は、外用薬であり、例えば、薬物を眼に投与するため、眼表面に投与するため、眼瞼などの眼周囲に投与するため等に用いられる。好ましくは、薬物を眼に投与するために用いられる。
本発明においては、例えば、薬物の投与は、薄膜状の医薬製剤を、眼に貼付することにより行う。
【0055】
本発明の医薬製剤が薬物を眼に投与するために用いるものである場合、薬物として、緑内障治療薬、抗菌剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤等の従来点眼薬として投与していた薬物を挙げることができる。好ましくは、薬物は、緑内障治療薬である。緑内障治療薬は、有効成分として、例えば、プロスタグランジン類、ベータ遮断剤等の自律神経作動剤、又は炭酸脱水阻害剤、細胞骨格制御剤等の点眼治療剤を含むものであり、好ましくは、プロスタグランジン類を有効成分として含むものである。プロスタグランジン類としては、例えば、ラタノプロスト、ビマトプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、タフルプロスト、またプロスタグラインジンとベータ遮断剤の配合剤であるザラカム(R)、デュオトラバ(R)等を挙げることができ、好ましくは、ラタノプロストを挙げることができる。
【0056】
これらの薬物は、有効成分の他に、医薬的に許容される担体や添加物を含むものであってもよい。このような担体及び添加物として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0057】
本発明の医薬製剤の投与量は、年齢、性別、体重、疾患の種類、症状、投与回数等によって異なる。例えば、成人(体重60kg)の緑内障治療に用いる場合は、薄膜1cm
2あたりプロスタグランジン類を、0.45μg〜5μg(0.45μg/cm
2〜5μg/cm
2)、好ましくは、0.95μg〜5μg(0.95μg/cm
2〜5μg/cm
2)担持する医薬製剤を、例えば、2日〜30日に一度、好ましくは、3日〜20日に一度、より好ましくは、7日〜20日に一度、眼に貼付する。
【0058】
本発明の好ましい態様の医薬製剤は、細胞毒性が少なく、一回投与での作用の持続時間が長い。
【0059】
本発明の好ましい態様の医薬製剤は、一回投与での作用の持続時間が長いので、例えば、本発明の医薬製剤の投与を医者が患者の通院のたびに病院で行い、患者自身では投与しないこととすることもできる。
【0060】
また、本発明は、本発明の医薬製剤を、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、疾患の治療方法を含む。対象は、ヒト、非ヒト哺乳動物(マウス、ラット、ウサギ、犬、猫等)等であり、好ましくは、ヒトである。疾患は、例えば、眼疾患(例、緑内障、角膜炎、ぶどう膜炎等)、結膜炎等であり、好ましくは、緑内障である。医薬製剤の投与量等は、前述の通りである。
【0061】
2種以上の薬物を患者に投与するためには、2種以上の薬物を含む1種の医薬製剤を対象に投与するようにしてもよいし、あるいは、1種の薬物を含む2種以上の医薬製剤を対象に投与するようにしてもよい。
【0062】
本発明のいくつかの態様の医薬製剤は、前記のように、支持フィルム層を、薬物を積層した交互積層薄膜の一方の表面とは反対の表面に含む。この場合、前記医薬製剤の投与を、前記薬物を積層した一方の表面側を眼に接触させ、その後、反対の表面の支持フィルムを除去することにより眼に貼付して、行うようにしてもよい。支持フィルムがポリビニルアルコールなどの水溶性の場合、支持フィルムの除去は、生理塩水などにより洗浄することなどにより行うことができる。あるいは、そのまま放置して涙液で自然に除去されてもよい。
【0063】
さらに、本発明は、医薬製剤を製造するための、薬物を担持した交互積層薄膜の使用を提供する。医薬製剤及び薬物を担持した交互積層薄膜の説明は、前述の通りである。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:薬物担持した交互積層(LbL)ナノシートの調製方法
全ての操作は、クリーンルーム(クラス10,000)内にスピンコーター(Opticoat MS-A 150、MIKASA)を設置して行った。シリコン基板(KST World社製)を2cm x 2cmに切り、硫酸/過酸化水素水(3/1, v/v)に10分間浸漬した後、脱イオン水(抵抗率 18MΩcm)にて洗浄した。
【0065】
この基板をスピンコーターに設置して、キトサン溶液(Mw:88kD、ナカライテスク社製、1mg/mL, 1 v/v %酢酸/0.5M NaCl水溶液)を150μL 滴下してスピンコート(4500rpm、15秒)した後、脱イオン水にて2回基板を洗浄し、30秒そのまま回転させて乾燥させた(
図2(a))。次にアルギン酸ナトリウム溶液(Mw:106kD、ナカライテスク社製、1mg/mL、0.5M NaCl水溶液)を150μL滴下してスピンコート(4500rpm、15秒)した後、脱イオン水にて2回基板を洗浄し、30秒そのまま回転させて乾燥させた(
図2(b))。キトサンとアルギン酸ナトリウムのスピンコーティングを繰り返して、10.5対(21層)からなるLbLナノシートを調製した(
図2(c))。膜厚を原子間力顕微鏡(AFM)(NanoScale Hybrid Microscope、Keyence社, タッピングモード)にて測定したところ、41±1 nmであった(
図3)。
【0066】
LbLナノシート上にポリビニルアルコール(PVA)水溶液(Mw:22,000、関東化学社製、100mg/mL)を0.5mL滴下して乾燥させてPVAフィルムをLbLナノシート上に形成させた(室温、終夜)(
図2(d))。シリコン基板からLbLナノシートをPVAフィルムごと剥がし(
図2(e))、別のシリコン基板上にPVAフィルム側を下側にして貼付した(
図2(f))。上面のLbLナノシート上にラタノプロスト溶液(Mw:432.6、SIGMA、1mg/mL、メタノール)を10μL滴下して乾燥し(
図2(g))、ラタノプロスト担持量2.5μg/cm
2のナノシートを作成した(
図2(h))。ラタノプロストの担持状態はAFMにて観測したところ、平均の厚さが248±58 nmで平均サイズが6.2±1 μmのラタノプロストの凝集物が担持されていることが確認され、ラタノプロスト担持LbLナノシートが調製された(
図4)。ラタノプロスト担持LbLナノシートはシリコン基板からPVAごと剥離させて以下の実施例に供した。
【0067】
実施例2:ラタノプロスト担持LbLナノシートの放出挙動の測定(1)
実施例1の方法で作成したラタノプロスト担持LbLナノシート(1x1cm
2)をウエルプレート(6穴プレート[平底]、P06F01S、ステム)上にラタノプロスト担持面を下あるいは上にして貼付した(
図5(a)(b))。その周囲をテープにて閉鎖して、横からの漏出が起こらない様にした。ここに5mLの生理食塩水を加えてラタノプロスト担持LbLナノシートを浸漬させた。浸漬30分後にプレート内の生理食塩水を全回収し、別の生理食塩水5mLを加えて再浸漬させた。これを最初の浸漬開始時間から、1時間、2時間、3時間、6時間、24時間後に同様に回収を繰り返した。回収した試料をLatanoprost EIA kit(Cayman Chemical Item Number 516811)を用いてマイクロプレートリーダー(測定波長:λ= 405-420 nm)により定量した。ラタノプロストが上面にある場合には、ラタノプロストは約30分ほどでほぼ全面が放出しているが(
図6(a))、ラタノプロストが下面にある場合にはラタノプロストはゆっくりと放出され、約24時間でほぼ全量が放出された(
図6(b))。
【0068】
実施例3:ラタノプロスト担持LbLナノシートの薬理効果の評価
薬理効果の評価には、ラット(チャールズリバー社、ウイスター種)を用いた。
実施例1の方法で作成したラタノプロスト担持又は非担持LBLナノシート (約3x3mm)をラットの角膜上に貼付した。そして貼付前、並びに貼付後1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目及び17日目に眼圧を測定した。
【0069】
ここで、眼圧はアイケア フィンランド社製の小型動物用眼圧測定機であるトノラボを用い測定した。測定は自動信頼性判定にて信頼性が高いと判断された測定を3回繰り返し、その平均値とした。
【0070】
その結果、ラタノプロスト担持LBLナノシートを用いた場合、ラットの眼圧が、1日目〜5日目の時点で、ラタノプロスト非担持LBLナノシートを用いた場合と比較して有意に降下していた(
図7, 8)。すなわち、ラタノプロスト担持LBLナノシートは、ラタノプロストの眼圧降下作用を5日間持続させることができた。これに対して、ラタノプロストを点眼する場合、ファイザー社資料に記載のようにラタノプロストの眼圧降下作用を1日程度しか持続させることができない。よって、ラタノプロスト担持LBLナノシートを用いた場合、ラタノプロストの眼圧降下作用の持続時間を、点眼薬を用いた場合と比較して大幅に長くすることができることができる。
【0071】
実施例4:ラタノプロスト担持LbLナノシートの組織毒性の評価
組織毒性の評価には、チャールズリバー社、ウイスター種ラットならびにオリエンタル酵母社製のニュージーランドホワイトウサギを用いた。
実施例1の方法で作成したラタノプロスト担持又は非担持ナノシートをラット又はラビットの角膜及び結膜に貼付した。ナノシート貼付後1日後、3日後及び7日後の組織毒性を実体顕微鏡の1種で眼科診察に頻用する細隙灯顕微鏡で検討した。
【0072】
ナノシート貼付後いずれの時点においても、ラット及びラビットともに以下の結果を得た。
ナノシート貼付眼においては、眼表面の充血、角膜障害、前房内炎症などは認められなかった(
図9(a)(b))。ここで、
図9(a)は、ラタノプロスト担持LBLナノシート添付後5日後のラビットの角膜標本であり、一方、
図9(b)は、ラタノプロスト担持LBLナノシート添付後7日後のラットの角膜標本である。
【0073】
また、ラットとラビットの行動をナノシート貼付後に観察したがナノシート貼付が原因と考えられる行動の変化は認められなかった。ラットとラビットはひっかき行動などを全くしめさなかったことから、ナノシートは、これらの動物に良好な装用感を与えたものと考えられる。これは、ナノシートが非常に薄くて涙液層の中にシートが埋まるために動物に異物感を与えなかったこと、ナノシートの酸素透過性が高いために眼組織への侵襲が少ないこと、などによるものと考えられる。
これらの結果はラタノプロスト担持及び非担持ナノシートともに同様であった。
【0074】
実施例5:ラタノプロスト担持LbLナノシートの薬理挙動の評価
実施例1の方法で作成したラタノプロスト担持LBLナノシート(0.25cm
2)を白色ウサギに貼付した。そして貼付後1日目、3日目、7日目の眼房水を採取した。眼房水は角膜と強膜の移行部である輪部から1mLの注射筒につけた30ゲージの針を前房内に刺入して、涙液など眼表面の液性物質の混入を避けるように十分注意して吸引した。採取量は平均0.15mL程度である。
【0075】
採取した試料の濃度をLatanoprost EIA kit(Cayman Chemical Item Number 516811)を用いてマイクロプレートリーダー(測定波長:λ= 405-420 nm)により測定した(
図10)。貼付後1日(24時間)および3日(72時間)におけるラタノプロスト濃度は52.1 nMと49.4 nMであり、貼付後7日目におけるラタノプロスト濃度は5.5 nMであった。現在臨床的に使用されているラタノプロスト点眼液の場合、眼眼房水中の薬物濃度は点眼後24時間で約0.5nMとラタノプロスト担持LBLナノシートの約100分の1と低く、さらに24時間以降は検出下限値以下であることが報告されている。このことからラタノプロスト担持LBLナノシートは従来の点眼薬に比べ、薬物がナノシートから眼へ長期的に徐放されるため、非常に長期間にわたり高い前房内薬物濃度を維持しており、これにより長期間眼圧下降作用が継続されていると考えられる。
【0076】
以上の実施例で示したように、ラタノプロスト含有ナノシートは眼表面に明らかな細胞毒性を示すことなく、一度の貼付にて、ラタノプロストの眼圧下降作用を長く持続させることが出来た。よって、本発明の好ましい態様の医薬製剤は、一回の投与での薬物作用の持続時間が長いことが分かる。