特許第5925242号(P5925242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5925242デュアルクラッチトランスミッションの運転方法およびこのような方法を実施するための制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925242
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】デュアルクラッチトランスミッションの運転方法およびこのような方法を実施するための制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160516BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20160516BHJP
   F16H 61/688 20060101ALI20160516BHJP
   F16H 63/46 20060101ALI20160516BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20160516BHJP
   F16D 25/10 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/72
   F16H61/688
   F16H63/46
   F16D48/02 640D
   F16D48/02 640U
   F16D48/02 640K
   F16D25/10 A
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-95754(P2014-95754)
(22)【出願日】2014年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-222108(P2014-222108A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2014年5月7日
(31)【優先権主張番号】10 2013 104 870.6
(32)【優先日】2013年5月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】ペーター バウル
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−036567(JP,A)
【文献】 特開2009−255776(JP,A)
【文献】 特開2009−174717(JP,A)
【文献】 特開2008−296611(JP,A)
【文献】 特開2009−287676(JP,A)
【文献】 特開2013−083318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12、61/16−61/24、
61/66−61/70、63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動装置のデュアルクラッチトランスミッションを運転するための方法であって、2個のクラッチと2個のトランスミッション部分を備えた前記デュアルクラッチトランスミッションが車両のエンジンによって駆動され、前記2個のクラッチに冷却液が供給され、前記車両が制動過程によって制動され、又は、停止させられるときに、前記冷却液の温度が予め定められた温度閾値を下回った場合に、両トランスミッション部分内でギヤが入っている際に、両クラッチがスリップ位置に切り換えられる、前記方法。
【請求項2】
第1クラッチが閉鎖位置に切り換えられ、第2クラッチがスリップ位置に切り換えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2クラッチの閉鎖圧力が前記冷却液の温度および/または車両の走行速度に依存して変更される、請求項1あるいは2に記載の方法。
【請求項4】
第1および/または第2クラッチの閉鎖圧力が、前記冷却液の温度の上昇につれて低下させられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記閉鎖圧力が前記車両の所望な減速に依存しておよび前記冷却液の温度に依存して変更させられ、より強い制動および冷却液のより強い加熱のために、少なくとも1個のクラッチの閉鎖圧力がより高くなるように調節され、より弱い制動およびよりゆっくりした加熱のために、少なくとも1個のクラッチの閉鎖圧力がより低くなるように調節される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
車両の停止中エンジンが回転しているときに、両クラッチが少なくともスリップ位置に保持される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記両トランスミッション部分内でギヤが入っている際の両クラッチのスリップ位置への切り換えが前記デュアルクラッチトランスミッションの走行選択段に依存して行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記クラッチが油圧によって切り換えられ、車両の停止中、前記クラッチのスリップ位置のために油圧が維持される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を実施するために形成された制御装置(101)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動装置のデュアルクラッチトランスミッションを運転するための方法と、このような方法を実施するように形成された制御装置に関する。2個のクラッチと2個のトランスミッション部分を備えたデュアルクラッチトランスミッションはエンジンによって駆動可能であり、両クラッチは少なくともスリップ位置に切り換えられ、両トランスミッション部分内でギヤが入れられるので、トランスミッション部分が締付けられ(verspannt、brace、支持され、しっかりと留められ)、制動作用が車両に加えられる。
【背景技術】
【0002】
デュアルクラッチトランスミッションは通常、冷却液、特に冷却油によって冷却される。この冷却液は温度に依存する粘性を有する。車両が冷間状態で動くと、粘性の高い冷却媒体が内燃機関の燃料消費を増大させる。粘性の高い冷却液によってさらに、特に始動要素、軸受、歯車および/またはデュアルクラッチの油圧ポンプの追加摩擦による損失増大と、場合によってはデュアルクラッチの構成要素の潤滑悪化が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開10 2008 006 165 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開10 2008 006 194 A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開10 2010 036 545 A1号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開10 2010 037 243 A1号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hadler,Schaefer, Groehlich, Lindemann: 18. Aachener Kolloquium Fahrzeug−und Motorentechnik 2009. DQ500−Dasneue Volkswagen Siebengang− Doppelkupplungsgetriebe fuer hohe Drehmomente. Aachen: 2009. 1−10. − ISBN keine
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、自動車の駆動装置のデュアルクラッチを運転するための改良された方法と、改良された制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1に記載の方法によっておよび請求項11に記載の制御装置によって解決される。
【0007】
本発明の有利な実施の形態は従属請求項に記載されている。
【0008】
2個のクラッチと2つのトランスミッション部分を備えたデュアルクラッチトランスミッションをエンジンで駆動することにより、車両の駆動装置のデュアルクラッチの迅速な加熱が提供されることが本発明に従って確認された。その際、両クラッチは少なくともスリップ位置に切り換えられる。この場合、両トランスミッション部分内でギヤが入れられるので、トランスミッション部分が締付けられ、制動作用が車両に加えられる。その際、両トランスミッション部分の締付けはデュアルクラッチトランスミッションの少なくとも1つの構成要素の温度に依存して行われる。
【0009】
これにより、デュアルクラッチトランスミッションの少なくとも1個の構成要素が短時間でその運転温度に達することが保証される。さらに、両クラッチによって両トランスミッション部分が締付けられることにより、構成要素の過熱が回避される。要約すると、それにより一方ではデュアルクラッチトランスミッションの過剰の摩耗を回避し、同時にデュアルクラッチトランスミッションに接続した内燃機関の燃料消費を低減することができる。
【0010】
他の実施の形態では、デュアルクラッチトランスミッションの少なくとも一部に冷却液が充填され、両トランスミッション部分の締付けが冷却液の温度に依存して行われる。これにより、冷却液を運転温度まで迅速に暖めることができる。それによって、冷却液は流動状態が改善され、さらさらの冷却液によって内燃機関の燃料消費が低減される。それによってさらに、慣用の熱交換器による乗客室内の暖房のための優先性が維持され、同時にデュアルクラッチトランスミッションの熱勘定を、乗客室内の暖房とは関係なく制御することができる。
【0011】
車両が制動過程によって制動され、特に停止させられるときに、両クラッチが少なくともスリップ位置に切り換えられることが望ましい。
【0012】
第1クラッチがスリップしない閉鎖位置に切り換えられ、第2クラッチがスリップ位置に切り換えられることにより、デュアルクラッチトランスミッションの少なくとも1つの構成要素がきわめて迅速に暖められる。それによって、第2クラッチのスリップ位置を経てデュアルクラッチトランスミッション内に多量の熱が搬入され、従ってデュアルクラッチトランスミッションの少なくとも1つの構成要素、特に冷却液がきわめて迅速に運転温度まで暖められる。さらに、第2クラッチの過熱は締付け中簡単に制御可能である。
【0013】
他の実施の形態では、第2クラッチの閉鎖圧力がデュアルクラッチトランスミッションの少なくとも1個の構成要素の温度および/または車両の走行速度に依存して変更される。それによって、デュアルクラッチトランスミッションの最適な運転状態を提供することができる。
【0014】
第1および/または第2クラッチの閉鎖圧力が、デュアルクラッチトランスミッションの少なくとも1個の構成要素の温度の上昇につれて低下させられるときわめて有利である。
【0015】
他の実施の形態では、閉鎖圧力が車両の所望な減速に依存しておよび冷却液の温度に依存して変更させられ、特により強い制動および冷却液のより強い加熱のために、少なくとも1個のクラッチの閉鎖圧力がより高くなるように調節され、より弱い制動およびよりゆっくりした加熱のために、少なくとも1個のクラッチの閉鎖圧力がより低くなるように調節される。
【0016】
車両の停止中エンジンが回転しているときに、両クラッチが少なくともスリップ位置に保持されると、冷却液の加熱をきわめて迅速に行うことができる。
【0017】
両トランスミッション部分の締付けがデュアルクラッチトランスミッションの走行選択段に依存して行われると有利である。
【0018】
さらに、クラッチが油圧によって切り換えられ、車両の停止中、クラッチのその都度のスリップ位置のために油圧が維持されると有利である。油圧操作によって、きわめて大きな操作力が両クラッチのために提供されるので、冷却液を暖めるために、多量の摩擦エネルギーを冷却液に搬入することができる。
【0019】
次に、図に基づいて本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】車両のデュアルクラッチトランスミッションの概略的な構造を示す。
図2図1に示したデュアルクラッチトランスミッションを暖めるための方法を実施する一つの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、車両のデュアルクラッチトランスミッション2の概略的な構造を示す。
【0022】
デュアルクラッチトランスミッション2は車両の駆動装置1の一部である。デュアルクラッチトランスミッション2は冷却液30を少なくとも部分的に充填したトランスミッションハウジング31を備えている。この冷却液30はデュアルクラッチトランスミッション2の構成要素である。以下において、デュアルクラッチトランスミッション2の構成要素には、デュアルクラッチトランスミッション2内に存在する液体を含めた、デュアルクラッチトランスミッション2のすべての部品および部品グループが含まれる。
【0023】
デュアルクラッチトランスミッション2は本実施例では7段の前進ギヤと、1段の後退ギヤを備えている。しかし、ギヤの数は例示的なものである。以下において、遊び歯車とは軸に回転可能に軸承された歯車であると理解され、固定歯車とは軸に摩擦連結的またはかみ合い連結的に固定された歯車であると理解される。遊び歯車は例えばシフトスリーブを介して軸に摩擦連結可能である。その際、軸が回転すると、シンクロ機構によって軸に対する遊び歯車の回転数合わせが行われる。
【0024】
入力側で、内燃機関7が出力軸10を介してデュアルクラッチ5のクラッチケース36に摩擦連結されている。デュアルクラッチトランスミッション2のデュアルクラッチ5は第1クラッチ11と第2クラッチ12を備えている。第1クラッチ11はクラッチケース36を介して内燃機関7の出力軸10に連結されている。両クラッチ11、12は本実施の形態では、冷却液30、特に冷却油によって冷却される多板クラッチとして形成されている。冷却液30は温度に依存する粘性を有する。冷却液30の粘性は、冷却液30の温度が上昇すると、冷却液30がさらさらになるようになっている。
【0025】
内燃機関7の出力軸10は第1クラッチ11を介してデュアルクラッチトランスミッション2の第1部分3の中実軸13に摩擦連結されている。中実軸13はトランスミッションハウジング31に軸承されている。第1部分3には、ギヤの第1グループ8が設けられている。この第1グループ8は奇数の前進ギヤ、すなわち第1速、第3速、第5速および第7速のギヤと、後退ギヤを含んでいる。後退ギヤは、見やすくするために図1には示していない。第1速は中実軸13上の固定歯車としての第1歯車17によって形成され、第3速は固定歯車としての第2歯車16によって形成され、そして第5速は遊び歯車としての第3歯車14によって形成され、第7速は遊び歯車としての第4歯車15によって形成されている。シフトスリーブとシンクロ機構を備えた図示していないシフト装置を介して、第3または第4歯車14、15が中実軸13に選択的に固定可能である。
【0026】
トランスミッションの第2部分4は中空軸18を備えている。第1部分3の中実軸がこの中空軸を通過している。中空軸18は第2クラッチ12を介して内燃機関7の出力軸10に摩擦連結可能である。その際、第1クラッチ11と第2クラッチ12を部分的に閉じるかあるいは両クラッチ11、12を完全に閉じることができるようにもしくは両クラッチ11、12を閉じることができないように、デュアルクラッチ5が形成されている。そのために、油圧装置100が設けられている。この油圧装置は、クラッチ11、12の一方または両方を少なくとも部分的に閉じるために、制御装置101の制御によって然るべき切り換え位置に切り換えられる。勿論、油圧装置100の代わりに、両クラッチ11、12を操作するために電気的な制御装置を用いることができる。さらに、クラッチ11、12を操作するために他のアクチュエータを用いることができる。その際、両クラッチ11、12が互いに独立して操作可能であることが重要である。
【0027】
トランスミッションの第2部分4の中空軸18に、変速ギヤの第2グループ9が付設されている。この第2グループ9は偶数のギヤ、すなわち第5歯車21を有する第2速ギヤと、第6歯車19を有する第4速ギヤと、第7歯車20を有する第6速ギヤを含んでいる。この場合、第5歯車21は固定歯車として中空軸18上に形成され、第6歯車19と第7歯車20は遊び歯車として形成されている。シンクロ機構とシフトスリーブを備えた図示していないシフト装置を介して、第6と第7歯車19、20が中空軸18に摩擦連結される。
【0028】
中空軸18は中実軸13を介してデュアルクラッチトランスミッション2のトランスミッションハウジング31に軸承されている。中実軸13および中空軸18に対して平行に、主軸22が設けられている。この主軸上には、所望なトランスミッション変速比を実現するために、第8歯車23から第14歯車29までが配置されている。第8乃至第14歯車23〜29は、トランスミッションの第1または第2部分3、4の対応する歯車19〜21または14〜17とかみ合っている。主軸22は同様に、デュアルクラッチトランスミッション2のトランスミッションハウジング31に軸承されている。第4速ギヤ、第6速ギヤ、第7速ギヤおよび第5速ギヤの第8歯車23、第9歯車24、第13歯車28および第14歯車29はそれぞれ固定歯車として形成され、それぞれトランスミッション第1部分3の中実軸13上の第1歯車14および第2歯車15と、トランスミッション第2部分4の中空軸18の第6歯車19および第7歯車20に付設されている。第3速ギヤ、第1速ギヤ、第2速ギヤの第10〜12歯車27、26、25は、固定歯車として形成された、トランスミッション部分3の中実軸13の第1または第2歯車16、17あるいはトランスミッション部分4の中空軸18の第5歯車21に付設され、これらの歯車16、17、21とかみ合っている。遊び歯車として形成された第10〜12歯車25、26、27は、図示していないシフトスリーブおよびシンクロ機構によって、主軸22に摩擦連結的に固定可能である。各軸13、18、22上における固定歯車と遊び歯車の配置は自由であり、デュアルクラッチトランスミッション2の取り付けスペースに合わせられることが指摘される。勿論、実施の形態で示したものとは構造的および機能的に異なる変形が考えられる。
【0029】
デュアルクラッチトランスミッション2内にはさらに、主軸22に対して平行に配置された駆動軸32(破線で示した)が設けられている。駆動軸32は図示していない歯車対を介して主軸22に連結されている。駆動軸32は車両の少なくとも1個の車輪に作用連結され、出力がデュアルクラッチトランスミッション2から車両の少なくとも1個の車輪に伝達される。
【0030】
実施の形態で説明したデュアルクラッチトランスミッション2は、2つのトランスミッション部分3、4によって、牽引力を中断せずに全自動変速が可能になるという利点がある。そのための制御は例えば制御装置101によって行うことができる。この制御装置101は変速を完全に自動制御することができるかまたは例えばシフトリブまたはレバーを介して制御装置101に伝えられる運転者の要求に基づいて行うことができる。両クラッチ11、12により、新たに要求されるギヤを入れ、閉じていたクラッチ11を開放すると同時に他のクラッチ12を閉じることができる。
【0031】
温度に依存する冷却液30の粘度特性により、デュアルクラッチトランスミッション2の摩耗が低温で増大することになる。さらに、冷却液30がどろどろになると、内燃機関7の燃料消費が増大する。さらに、デュアルクラッチトランスミッション2の運転を適切に制御するために、温度センサ103が設けられている。この温度センサは本実施の形態では冷却液30の温度を検出する。しかしながら、温度センサ103は、デュアルクラッチトランスミッション2の他の構成要素の温度、例えば両クラッチ11、12の摩擦ライニングの温度を検出するように形成可能である。温度センサ103は接続部材104を経て制御装置101に温度信号を供給する。
【0032】
制御装置101は他の接続部材105を介して他のセンサ106に接続されている。このセンサは、例えば運転者要求、走行速度または走行方向要求のような車両の運転パラメータを検出する。さらに、他のセンサ106、特にデュアルクラッチトランスミッションのいろいろな構成要素11、12、3、4の温度を監視するために温度センサ106を設けることができる。
【0033】
さらに、制御装置101はメモリ102に接続されている。このメモリには、運転パラメータや他のパラメータに依存してクラッチ11、12を制御するための方法が記憶されている。制御装置101は、例えば運転者の要求または走行方向のような運転パラメータおよび/または他のパラメータに依存してデュアルクラッチトランスミッション2のギヤの選択を決定するように形成されている。さらに、データメモリ102には、運転の方法、特に図2にフローチャートとして略示するような冷却液30を暖めるための方法が記憶されている。
【0034】
その際、制御装置101は、車両の静止状態または制動過程で両トランスミッション部分3、4を互いに締め付けるように形成されている。これは、両トランスミッション部分3、4においてそれぞれ1つのギヤが入っている際に、両クラッチ11、12が少なくとも部分的に圧力で同時に付勢され、少なくとも部分的に閉じる、すなわちスリップ位置にあることによって達成される。この状況で、両クラッチ11、12は両トランスミッション部分3、4を介して駆動軸32と内燃機関7の出力軸10に作用連結されている。
【0035】
従って、以下において、走行ギヤとは、出力軸10から駆動軸32へ出力を伝達するための変速比を固定したギヤであると理解される。切り換えギヤとは、両トランスミッション部分3、4の一方によって入れられ、クラッチ11、12を介して出力軸10に連結されていないデュアルクラッチトランスミッション2のギヤであると理解される。従って、切り換えギヤは出力軸10の駆動のために適していない。
【0036】
両トランスミッション部分3、4がそれぞれ異なる変速比を有するので、両クラッチ11、12をつなげる際に、両トランスミッション部分3、4の締付けまたは切り換えギヤによる走行ギヤの締付けが生じる。その際、制御装置101は、制動過程時に制御装置101によって検出された温度に依存して両クラッチ11、12の少なくとも一方のための閉鎖圧力を変えるように形成されている。その代わりに、入れられた走行ギヤおよび/または走行速度に依存して閉鎖圧力を変えることができる。その際、制御装置101は、一方のクラッチ11、12、特に現在の走行ギヤをつなぐクラッチの閉鎖圧力を最大閉鎖圧力まで上昇させ、第1クラッチ11の過剰押し付けによって第1クラッチ11のスリップをなくすように形成されている。切り換えギヤに付設された第2クラッチ12の閉鎖圧力は、第2クラッチ12がスリップするように変えることが可能である。それによって、第2クラッチ12を暖めることになる第2クラッチ12の摩擦作業が達成される。
【0037】
クラッチ11、12の過熱を回避するために、クラッチ11、12は冷却液30によって冷却される。その際、冷却液30は第2クラッチ12によって生じる熱を吸収し、それによって暖められる。暖めによって冷却液30がさらさらになるので、内燃機関7の燃料消費が低減され、同時にデュアルクラッチトランスミッション2の摩耗が低減される。
【0038】
冷却液30の暖めをさらに加速するために、両トランスミッション部分3、4は車両の制動相だけでなく、車両の停止中も内燃機関7の作動時に締付けられる。車両の停止中、両クラッチ11、12が同時にスリップするように、すなわち部分的にのみ閉じるように、両クラッチ11、12は制御装置101によって制御される。車両の停止中は第1クラッチ11の過剰押し付けは不可能である。というのは、そうしないと、内燃機関7が駆動車輪との直接的な連結によって停止するからである。車両の停止中に両クラッチ11、12がスリップすると、冷却液30が第1クラッチ11によって付加的に暖められるので、冷却液30がきわめて迅速に暖められる。
【0039】
図2図1に示したデュアルクラッチトランスミッション2の方法を実施するための一例を示している。
【0040】
そのために、制御装置101は第1方法ステップ200において、メモリ102内に記憶された入口条件が満たされているかどうかを検査する。本実施の形態において入口条件は好ましくは、温度センサ103を介して制御装置101によって検出する冷却液30の温度が、予め定めた温度閾値を下回ることである。この温度閾値はメモリ102に記憶されている。制御装置101はさらに、デュアルクラッチトランスミッション2のセレクタレバーが前進位置にあるかあるいは後退位置にあるかどうかを検査する。さらに、走行速度が0km/hよりも大きいがどうかが制御装置101によって検査される。制御装置はさらに入口条件として、拒否権の自由度が存在するかどうか、すなわち自動車の他の制御装置から信号によって締付けが阻止されていないかどうかを検査する。
【0041】
入口条件が満たされると、第2ステップ方法205において制御装置101が走行ギヤと切り替えギヤを入れる。
【0042】
第3方法ステップ210において、車両の走行速度が制御装置101によって検査される。そのために、他のセンサの一つが車両の速度と相関する走行速度信号を制御装置101に供給する。制御装置101は走行速度信号を予め定めた走行速度閾値vと比較する。車両の走行速度が予め定めた走行速度閾値vを下回ると、切り替えギヤSが入れられる。この切り替えギヤは走行ギヤFの値について1を差し引く。例えば、走行ギヤFとして第3速ギヤが入れられ、かつ走行速度閾値vを下回っている場合には、第2速ギヤが切り替えギヤSとして選択される。走行速度信号が予め定めた走行速度閾値vを上回ると、切り替えギヤSが入れられる。この切り替えギヤは走行ギヤFよりも1速だけ大きい。例えば上述のように走行ギヤとして第3速ギヤが存在すると、走行速度信号が予め定めた走行速度閾値vを上回るときに、第4速ギヤが切り替えギヤSとして選択される。
【0043】
制御装置101はさらに、ブレーキ圧力信号Bまたは予め定めた閾値より低いブレーキ圧力信号Bが存在するかどうかを連続的に検出する。ブレーキ圧力信号Bが存在しないかまたはブレーキ圧力信号Bが予め定めた閾値を下回ると、現在の走行ギヤFを有するトランスミッション部分3、4を切り換えるクラッチ11、12にのみ、閉鎖圧力が供給される。この状態で、他のクラッチ11、12は開放されている。制御装置101が第4方法ステップ215においてブレーキ圧力信号Bの存在を検出するかまたはブレーキ圧力信号Bを上回ると、第1クラッチ11が完全に閉じている場合ブレーキ圧力信号Bに対応する閉鎖圧力が第2クラッチ12に供給されるように、制御装置101は油圧装置100を制御する。それによって、切り換えギヤでのクラッチモーメントがブレーキ圧力信号Bに比例して高められるかまたはブレーキ圧力信号Bが低下すると、弱まる。
【0044】
制御装置101は、第2クラッチ12を閉鎖するための閉鎖圧力の少なくとも2つの圧力レベルを油圧装置100によって制御するように形成可能である。その際、閉鎖圧力の第1圧力レベルによって、第2クラッチ12がスリップ位置に切り換えられ、トランスミッション第2部分4がトランスミッション第1部分3に対して締付けられる。第1圧力レベルは前述のように、ブレーキ圧力信号Bを介して、場合によっては比例して、変更可能である。
【0045】
冷却液30の温度が予め定めた温度閾値よりも低いことが制御装置101によって検出されると、制御機器101は油圧装置100を介して第2クラッチ12の閉鎖圧力の第2圧力レベルを第2クラッチ12に供給することができる。この場合、第2圧力レベルは第1圧力レベルよりも高い。その結果、第2クラッチ12を経て、より多くの熱が冷却液30に供給され、従って冷却液30が早く暖まり、運転温度に達する。その際、第2圧力レベルは同様にブレーキ圧力に比例して変えることができる。これは、より強力なブレーキングと冷却液のより強力な加熱のために、第2クラッチ12の閉鎖圧力の圧力レベルを高く調節し、そして弱いブレーキングとゆっくりした加熱のために、第2クラッチ12の閉鎖圧力を低く調節することを意味する。
【0046】
第5方法ステップ220において、制御装置101は、入口条件が依存として満たされているかどうかを検査する。入口条件がもはや満たされず、例えば冷却液30の温度が設定された温度閾値に達しているかまたは上回っていると、制御装置101は油圧装置100を介して第2クラッチ12の閉鎖圧力の低下によって第2クラッチ12を開放し、それによって切り替えギヤを車両から切り離す。従って、両トランスミッション部分3、4の締付けが解除される。これは第6方法ステップ225において行われる。
【0047】
代替的に、制御装置101は第5方法ステップ220において、温度信号によって温度閾値を上回る際に第2クラッチ12用閉鎖圧力を第2圧力レベルから第1圧力レベルに戻すことができるので、デュアルクラッチトランスミッション2は車両の制動のためにも使用することができる。一般的に言うと、第1および/または第2クラッチの閉鎖圧力はデュアルクラッチトランスミッションの少なくとも1つの構成要素の温度が上昇するにつれて低下させられる。
【0048】
さらに、第3方法ステップ210において、制御装置101は車両の速度がゼロであることを検出することができる。そして、第1クラッチ11がスリップ運転されるように、制御装置101は油圧装置100を介して第1クラッチ11を開放する。第2クラッチ12もスリップ運転されるように、第2クラッチは油圧装置100を介して制御装置101によって制御される。それによって、車両の停止時にも、熱エネルギーが第1と第2クラッチ11、12を経て冷却液30に供給される。
【0049】
迅速に暖められたデュアルクラッチトランスミッション2または迅速に暖められた冷却液30は、通常の走行運転時の損失の低減のほかに同時に、自動車の制動距離を短縮可能であるという利点がある。さらに、内燃機関7の燃料消費がさらさらした冷却油30によって低減される。
【0050】
上記の実施形は、内燃機関7の冷却液30によって冷却液30を暖めるための熱交換器を省略することができるという他の利点がある。それによってさらに、内燃機関7の冷却液30によって乗客室内を迅速に暖めることが保証されるので、運転者にとって同じ快適性で、冷却液30を暖めるための、停止時またはブレーキング時の両トランスミッション部分3、4の締付けによって、全体として車両の燃料消費を低減することができる。
【0051】
実施の形態では、デュアルクラッチトランスミッション2の構成要素としての冷却液30の加熱を例示的に挙げていることが指摘される。勿論、締付けはデュアルクラッチトランスミッション2の他の構成要素の温度に依存して行うことができる。例えば、両部分クラッチ11、12の温度に依存して締付けを行うことができるので、これにより、両部分クラッチ11、12の少なくとも一方の過熱を回避することができる。これは特に、車両が長い下り坂の走行にわたって両部分クラッチ11、12の締付けを介して制動されるときに重要である。
【符号の説明】
【0052】
2 デュアルクラッチトランスミッション
3、4 トランスミッション部分
7 内燃機関
11、12 クラッチ
図1
図2