(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925249
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】時計の構造的構成部品の保護
(51)【国際特許分類】
G04B 29/02 20060101AFI20160516BHJP
G04B 31/00 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
G04B29/02 Z
G04B31/00 Z
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-123105(P2014-123105)
(22)【出願日】2014年6月16日
(65)【公開番号】特開2015-1532(P2015-1532A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2014年6月16日
(31)【優先権主張番号】13171983.3
(32)【優先日】2013年6月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン・ヴィジャール
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ケリン
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−112180(JP,U)
【文献】
実開平03−114086(JP,U)
【文献】
実開昭52−061361(JP,U)
【文献】
実開平01−051891(JP,U)
【文献】
実開昭58−076173(JP,U)
【文献】
実開昭60−019989(JP,U)
【文献】
実開昭50−099968(JP,U)
【文献】
特開2001−074858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 29/02,31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの相補的軸受け表面(51)を有する少なくとも1つのホイールセット(5)と、前記ホイールセット(5)を受承するためのインサート(6)とを含む、時計機構(10)であって、
前記インサートは、所定の表面硬度を有する時計の構造的構成部品内の、所定の外形によって生成される回転表面を形成するハウジングの保護のための、保護用インサート(6)であって、
前記インサート(6)は、前記所定の表面硬度より高い表面硬度を有する少なくとも1つの摺動表面(7)を含み、
前記インサート(6)は、前記所定の外形に対して相補的な外形を有する、回転軸の軸線(D)の周りで回転する少なくとも1つの機械加工済み回転部分を有する、保護用インサート(6)において、
前記インサート(6)は、前記軸線(D)に垂直な少なくとも1つの第1の平坦な相補的位置出し表面(61)、及び前記軸線(D)に平行な少なくとも1つの第2の平坦な相補的位置出し表面(62)を有すること、並びに
少なくとも1つの前記第1の平坦な相補的な位置出し表面(61)の摺動面は、前記所定の表面硬度より高い表面硬度を有する摺動表面を形成し、
前記時計機構(10)は腕時計(30)の巻き上げ機構であること、
前記ホイールセット(5)は巻き上げピニオンであること、
前記構造的構成部品(2)は、巻き上げステム(9)の枢動をガイドするための軸線(D)に沿った穿孔(29)を有し、前記巻き上げステム(9)は、前記ステム(9)の枢動をガイドするために前記構造的構成部品(2)上に当接する軸受け位置にあるとき、前記インサート(6)の穿孔(69)にもガイドされること
を特徴とする、時計機構(10)。
【請求項2】
少なくとも1つの相補的軸受け表面(51)を有する少なくとも1つのホイールセット(5)と、前記ホイールセット(5)を受承するためのインサート(6)とを含む、時計機構(10)であって、
時計ムーブメント(3)の構造的構成部品(2)であって、
前記構造的構成部品(2)は所定の表面硬度を有し、
前記構造的構成部品(2)は、所定の外形によって生成される回転表面を形成する少なくとも1つのハウジング(8)を有し、
前記構造的構成部品(2)は、前記ムーブメント(3)のホイールセット(5)の相補的軸受け表面(51)を、理論上の受承平面上に当接状態で受承するために設けられた保護デバイス(1)を有する、構造的構成部品(2)において、
前記保護デバイス(1)は、前記平坦な摺動表面(7)が前記理論上の受承平面と一致するように、前記ハウジング(8)内の前記構造的構成部品(2)上又は前記構造的構成部品(2)内に組み付けられた、前記少なくとも1つのインサート(6)を含むことを特徴とし、
また前記構造的構成部品(2)は、前記インサート(6)が備える相補的回転停止表面と協働するよう設けられた回転停止表面を有し、
前記インサート(6)は、前記構造的構成部品(2)内又は前記構造的構成部品(2)上への初期設置後、前記構造的構成部品(2)に対して固定されて保持され、これによって前記ホイールセット(5)を、前記構造的構成部品(2)と接触しないように、前記構造的構成部品(2)からある距離に保ち、
前記インサート(6)は、摩耗した場合に交換するために取り外し可能であり、
前記時計機構(10)は腕時計(30)の巻き上げ機構であること、
前記ホイールセット(5)は巻き上げピニオンであること、
前記構造的構成部品(2)は、巻き上げステム(9)の枢動をガイドするための軸線(D)に沿った穿孔(29)を有し、前記巻き上げステム(9)は、前記ステム(9)の枢動をガイドするために前記構造的構成部品(2)上に当接する軸受け位置にあるとき、前記インサート(6)の穿孔(69)にもガイドされること
を特徴とする、時計機構(10)。
【請求項3】
前記回転停止表面は、少なくとも1つの平坦な第1の位置出し表面(21)を有すること、
前記相補的回転停止表面は、第1の平坦な相補的位置出し表面(61)を有すること、
及び
前記平坦な第1の位置出し表面(21)は、前記第1の平坦な相補的位置出し表面(61)と当接して協働するよう設けられていること
を特徴とする、請求項2に記載の時計機構(10)。
【請求項4】
前記インサート(6)は、前記構造的構成部品(2)の少なくとも1つの軸受け表面(20)上に軸方向に当接するように、又は前記構造的構成部品(2)の前記ハウジング(8)内に、固定位置に位置決めされることを特徴とする、請求項2又は3に記載の時計機構(10)。
【請求項5】
前記構造的構成部品(2)は、前記インサート(6)が備える第2の平坦な相補的位置出し表面(62)と当接して協働するよう設けられる、少なくとも1つの第2の位置出し表面(22)を有することを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の時計機構(10)。
【請求項6】
前記第2の位置出し表面(22)は、前記第1の位置出し表面(21)とは異なること、及び
前記第2の平坦な相補的位置出し表面(62)は、前記第1の平坦な相補的位置出し表面(61)とは異なることを特徴とする、請求項5に記載の時計機構(10)。
【請求項7】
前記第2の位置出し表面(22)は平坦であり、平坦な前記第1の位置出し表面(21)に対して傾斜していること、及び
前記第2の相補的な位置出し表面(62)は平坦であり、平坦な前記第1の相補的な位置出し表面(61)に対して傾斜していること
を特徴とする、請求項6に記載の時計機構(10)。
【請求項8】
前記第2の位置出し表面(22)は、前記第1の位置出し表面(21)に対して垂直であること、及び
前記第2の相補的な位置出し表面(62)は、前記第1の平坦な相補的な位置出し表面(61)に対して垂直であること
を特徴とする、請求項6に記載の時計機構(10)。
【請求項9】
前記構造的構成部品(2)は、前記ホイールセット(5)のステム(9)の枢動をガイドするための軸線(D)に沿った少なくとも1つの穿孔(29)を有することを特徴とする、請求項2〜8のいずれか1項に記載の時計機構(10)。
【請求項10】
前記インサート(6)は、前記ホイールセット(5)のステム(9)の枢動をガイドするための少なくとも1つの穿孔(69)を含むことを特徴とする、請求項2〜9のいずれか1項に記載の時計機構(10)。
【請求項11】
前記インサート(6)の穿孔(69)及び前記構造的構成部品(2)の穿孔(29)は、前記構造的構成部品(2)上への前記インサート(6)の組み付け位置において位置合わせされることを特徴とする、請求項9又は10に記載の時計機構(10)。
【請求項12】
前記構造的構成部品(2)はチャンバ(80)を含み、
前記軸線(D)に垂直な平面において、前記ステム(9)の不在時に少なくとも前記インサート(6)を前記チャンバ(80)内に挿入可能であり、
前記チャンバ(80)内では、前記ステム(9)を前記インサート(6)の前記穿孔(69)及び前記構造的構成部品(2)の前記穿孔(29)に挿入すると、前記インサート(6)は単一の位置に固定され、これによって、前記構造的構成部品(2)内又は前記構造的構成部品(2)上への組み付け後及び前記ステム(9)の前記挿入後に、前記インサート(6)を前記構造的構成部品(2)に対して固定された状態に保持する
ことを特徴とする、請求項10又は11に記載の時計機構(10)。
【請求項13】
前記摺動表面(7)は、前記軸線(D)に対して垂直な面であることを特徴とする、請
求項9、11、12のいずれか1項に記載の時計機構(10)。
【請求項14】
前記構造的構成部品(2)は、腕時計の地板であることを特徴とする、請求項2〜3のいずれか1項に記載の時計機構(10)。
【請求項15】
前記構造的構成部品(2)は、腕時計の中央部分であることを特徴とする、請求項2〜13のいずれか1項に記載の時計機構(10)。
【請求項16】
前記構造的構成部品(2)は、腕時計のケーシングリングであることを特徴とする、請求項2〜13のいずれか1項に記載の時計機構(10)。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の時計機構(10)を含む、時計(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の表面硬度を有する時計の構造的構成部品(特に地板)内の、所定の外形によって生成される回転表面を形成するハウジングの保護のための保護用インサートであって、上記インサートは、上記所定の表面硬度より高い表面硬度を有する少なくとも1つの摺動表面を有し、上記インサートは、上記所定の外形に対して相補的な外形を有する、回転軸の周りで回転する少なくとも1つの機械加工済み回転部分を有する保護用インサートに関する。
【0002】
本発明は更に、時計ムーブメントの構造的構成部品であって、上記構造的構成部品は所定の表面硬度を有し、上記構造的構成部品は、所定の外形によって生成される回転表面を形成する少なくとも1つのハウジングを有し、上記構造的構成部品は、上記ムーブメントのホイールセットの相補的軸受け表面を、理論上の受承平面上に当接状態で受承するために設けられた保護デバイスを有する構造的構成部品に関する。
【0003】
本発明は、少なくとも1つの相補的軸受け表面を含む少なくとも1つのホイールセットと、少なくとも1つの上記ホイールセットを受承するための少なくとも1つの上記タイプの構造的構成部品及び/又はインサートとを有する、時計機構に関する。
【0004】
本発明は、また、このタイプの時計機構を含む腕時計に関する。
【0005】
本発明は、時計機構の分野に関する。
【背景技術】
【0006】
時計機構は極めて摩耗しやすく、また特に銅合金製のもの等のいくつかの構成部品は、例えば鋼鉄合金等、より硬度が高い材料製の対向する構成部品との摩擦にさらされる。
【0007】
従って、手巻き機構では、クラウンによって操作される巻き上げステムは、径方向のガイドを用いて、香箱の角穴車に回転を伝達する伝達ホイールと噛み合う巻き上げピニオンを、直接又は歯車列を介して駆動している。通常鋼鉄製である巻き上げピニオンは、通常真鍮等で作製されるムーブメントの地板の縁部上で軸方向にガイドされて支持されている。この接触領域において摩耗は短期間で発生し、地板の交換が必要になるが、これにはコストがかかる。
【0008】
DEPERYによる特許文献1は、地板に固定された袋ねじで形成された宝石孔に係合するホゾを有する天真の構成について記載しており、ここで上記ねじは、受け石として作用する軸方向ねじを受承する。
【0009】
LA CHAMPAGNEによる特許文献2は、滑らかな段差付きの衝撃吸収用宝石孔を有する衝撃吸収軸受けについて記載している。
【0010】
FELSAによる特許文献3は、地板の穿孔内に収容されたブッシュについて記載しており、このブッシュは、上記穿孔内へと突出する別個に固定されたホゾを支持している。ホイールセットのアーバと一体である円筒形肩部が上記ホゾ上へと摺動し、このアーバは、上記穿孔及び上記ホゾで形成されている凹部内に、長手方向の振動が制限された状態で嵌合する。
【0011】
ERISMANによる特許文献4は、特にクロム製の硬質金属コーティングを有するホゾについて記載している。
【0012】
KS22 SA−ECOFFETによる特許文献5は、腕時計ケースの内部に組み付けられたスリーブ上にねじ留めされる腕時計用クラウンについて記載している。
【0013】
RECORD WATCH CO SAによる特許文献6は、巻き上げ機構について記載しており、ここで巻き上げステムの軸方向の位置は、弾性変形可能な固定インサートによって決定されている。
【0014】
RAUSCHENBACHによる特許文献7は、インサートを備える巻き上げ機構について記載している。
【0015】
GISIGER UHRENFABRIKATIONSによる特許文献8は、スリーブを含む巻き上げ機構について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】フランス特許出願第880880A号
【特許文献2】スイス特許出願第188684A号
【特許文献3】スイス特許出願第201680A号
【特許文献4】フランス特許出願第1024708A号
【特許文献5】国際公開特許出願第01/40881A1号
【特許文献6】スイス特許出願第497724A号
【特許文献7】米国特許出願第420919A号
【特許文献8】スイス特許出願第131146A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、地板の材料を変更すること(これはムーブメントのコスト及び重量に影響する)ではなく、腕時計又は時計の他の構成部品と同等の寿命を確実に有するように、既存の地板を改造することを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って本発明は、所定の表面硬度を有する時計の構造的構成部品(特に地板)内の、所定の外形によって生成される回転表面を形成するハウジングの保護のための保護用インサートであって、上記インサートは、上記所定の表面硬度より高い表面硬度を有する少なくとも1つの摺動表面を含み、上記インサートは、上記所定の外形に対して相補的な外形を有する回転軸の周りで回転する少なくとも1つの機械加工済み回転部分を有する保護用インサートにおいて、上記インサートは、上記回転軸に垂直な少なくとも1つの平坦な第1の相補的位置出し表面、及び上記回転軸に平行な少なくとも1つの平坦な第2の相補的位置出し表面を有すること、並びに少なくとも1つの上記第1の相補的な位置出し表面は、上記所定の表面硬度より高い表面硬度を有する上記摺動表面を形成することを特徴とする保護用インサートに関する。
【0019】
本発明は更に、時計ムーブメントの構造的構成部品であって、上記構造的構成部品は所定の表面硬度を有し、上記構造的構成部品は、所定の外形によって生成される回転表面を形成する少なくとも1つのハウジングを含み、上記構造的構成部品は、上記ムーブメントのホイールセットの相補的軸受け表面を理論上の受承平面上に当接状態で受承するために設けられた保護デバイスを有する構造的構成部品において、上記保護デバイスは、上記平坦な摺動表面が上記理論上の受承平面と一致するように、上記ハウジング内の上記構造的構成部品上又は上記構造的構成部品内に組み付けられた少なくとも1つの上記インサートを含むことを特徴とし、また上記構造的構成部品は、上記インサートが備える相補的回転停止表面と協働するよう配設された回転停止表面を有し、上記インサートは、上記構造的構成部品内又は上記構造的構成部品上への初期設置後、上記構造的構成部品に対して固定されて保持され、これによって上記ホイールセットを、上記構造的構成部品と接触しないように、上記構造的構成部品からある距離に保ち、また上記インサートは、摩耗した場合に交換するために取り外し可能であることを特徴とする構造的構成部品に関する。
【0020】
具体的な変形例では、上記構造的構成部品は腕時計の地板である。
【0021】
具体的な変形例では、上記構造的構成部品は腕時計の中央部分である。
【0022】
具体的な変形例では、上記構造的構成部品は腕時計のケーシングリングである。
【0023】
本発明は、少なくとも1つの相補的軸受け表面を含む少なくとも1つのホイールセットと、少なくとも1つの上記ホイールセットを受承するための少なくとも1つの上記タイプの構造的構成部品及び/又はインサートとを有する、時計機構に関する。
【0024】
より具体的には、上記時計機構は腕時計用の巻き上げ機構であり、上記ホイールセットは巻き上げピニオンであり、上記構造的構成部品は、巻き上げステムの枢動をガイドするための軸に沿った穿孔を含み、この巻き上げステムは、巻き上げステムの枢動をガイドするために上記構造的構成部品上に停止する軸受け位置にある時、上記インサートの穿孔にもガイドされる。
【0025】
本発明はまた、このタイプの時計機構を含む腕時計にも関する。
【0026】
本発明の他の特徴及び利点は、添付した図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明による構造的構成部品(特に地板)のための保護デバイスの、巻き上げステムの軸を通る平面における概略断面斜視図であり、ここで上記保護デバイスは、時計巻き上げ機構内の巻き上げピニオン等のホイールセットのための軸受け面として機能する地板の縁部を、地板と上記地板の表面上に支持される上記ホイールセットとの間に特定のインサートを挿入することによって保護するための特定の応用例におけるものである。
【
図2】
図2は、
図1のデバイスを端部A方向から見た平面Pにおける概略部分断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のデバイスをB方向から見た
図1と同じ平面における概略断面図である。
【
図4】
図4は、
図1のデバイスをC方向から見た概略上面図である。
【
図5】
図5は、地板上の角度出しのための表面を有する
図1のデバイスのインサートの概略斜視図である。
【
図6】
図6は、互いに垂直な2つの角度出し面を有するインサートの実施形態の概略斜視図である。
【
図7】
図7は、互いに垂直な2つの角度出し面及びこれら2つの面のうちの一方と平行な第3の面を含むインサートの実施形態の概略斜視図である。
【
図8】
図8は、インサートが上から摺動して入るノッチを地板が含むこの機構の別の実施形態を示す
図4と同様の概略上面図である。
【
図9】
図9は、
図8の機構に適した鐙型インサートの実施形態を示す概略斜視図である。
【
図10】
図10は、ホイールセットからの摩擦によって発生する摩耗に対する保護のためのデバイスを備えた地板を有するムーブメントを含む腕時計のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は時計機構の分野に関し、この時計機構では、動作するホイールセットは理論上、別の構成部品(本明細書では「構造的構成部品」と呼ぶ)に対して、一般に平坦である理論上の基準表面上に直接的又は間接的に支持される。
【0029】
本明細書では、「ホイールセット」は、機構内に回転及び/又は並進運動可能に設けた時計構成部品を意味する。
【0030】
本発明による構造的構成部品は、様々な形態をとり得ることがわかる。構造的構成部品は、語の通常の意味での「プレート」、又は時計ムーブメントのいずれかの構成部品、又は時計で摩擦による摩耗にさらされるいずれかの外側構成部品を形成できる。本発明の目的は、構造的構成部品を保護することであり、特に例えば金製の地板又は腕時計ケース等、機械加工の複雑性及び/又は材料が原因で高価である構造的構成部品を保護することである。
【0031】
このタイプの構造的構成部品の保護を保証するために、本発明は、所定の表面硬度を有する時計の構造的構成部品2内の、所定の外形によって生成される回転表面を形成するハウジングを保護するための保護用インサート6に関する。インサート6は、上記所定の表面硬度より高い表面硬度を有する少なくとも1つの摺動表面7を有する。インサート6は、上記所定の外形に対して相補的な、回転軸Dの周りで回転する少なくとも1つの機械加工済み回転部分を含む。
【0032】
本発明によると、このインサート6は、上記軸線Dに垂直な少なくとも1つの平坦な第1の相補的位置出し表面61、及び軸線Dに平行な少なくとも1つの平坦な第2の相補的位置出し表面62を含み;少なくとも1つの第1の相補的な位置出し表面61は、上記所定の表面硬度より高い表面硬度を有する上記摺動表面7を形成する。
【0033】
本発明はまた、時計ムーブメント3の構造的構成部品2であって、構造的構成部品2は所定の表面硬度を有し、構造的構成部品2は、所定の外形によって生成される回転表面を形成する少なくとも1つのハウジング8を有する構造的構成部品2に関する。
【0034】
この構造的構成部品2は、ムーブメント3のホイールセット5の相補的軸受け表面51を理論上の受承平面上に当接状態で受承するために設けられた保護デバイス1を含む。
【0035】
本発明によると、この保護デバイス1は、平坦な摺動表面7が上記理論上の受承平面と、より具体的には上記理論上の受承表面と幾何学的に一致するように、ハウジング8内の構造的構成部品2上又は構造的構成部品2内に組み付けられた、少なくとも1つのこのタイプのインサート6を含む。
【0036】
構造的構成部品2は、インサート6が備える相補的回転停止表面と協働するよう配設された回転停止表面を含み、上記インサートは、上記構造的構成部品2内又は上記構造的構成部品2上への初期設置後、構造的構成部品2に対して固定されて保持され、これによってホイールセット5を、構造的構成部品2と接触しないように構造的構成部品2からある距離に保つ。インサート6は、摩耗した場合に交換するために取り外し可能である。動作位置において、インサート6は構造的構成部品に対して固定位置にあり、摩耗による交換のため以外にはこの固定位置から分解されることはない。
【0037】
図示した特定の変形例では、回転停止手段は少なくとも1つの平坦な第1の位置出し表面21を有し、この平坦な第1の位置出し表面21は、インサート6が備える平坦な第1の相補的位置出し表面61と当接して協働するように設けられ、相補的回転停止手段の一部である。
【0038】
インサート6は好ましくは、
図1〜4に示すように、構造的構成部品2の少なくとも1つの軸受け表面20に軸方向に当接するか若しくは軸受け表面20上に支持されるように位置決めされるか、又は
図8に示すように、構造的構成部品2のハウジング8内に位置決めされる。
【0039】
インサート6は、構造的構成部品2に連接されておらず、これによってインサート6の交換が可能となる。
【0040】
図1〜4、8に示すように、本発明の好ましい実施形態では、構造的構成部品2は少なくとも1つの第1の位置出し表面21を有し、この第1の位置出し表面21は、インサート6が備えた第1の相補的な位置出し表面61と当接して協働するよう設けられている。
図1〜4では、インサート6は単一の相補的位置出し表面61を有し、これは
図5に示すように平坦であり、従って第1の位置出し表面21は平坦部分である。従って、構造的構成部品2に対するインサート6の角度出しを容易に行うことができ、またここでは
図1のCの方向におけるインサート6の相対位置を容易に設定できる。図示したように、構造的構成部品2が穿孔29を有し、インサート6が穿孔69を有する場合、位置合わせが必要であれば、これらを互いに対して位置決めすること、特にこれらを同一平面上に配設することは容易である。
【0041】
図示した特定の非限定的な応用例、即ち巻き上げ機構への応用例では、インサート6は、ここでは巻き上げピニオンであるホイールセット5の凹部にセンタリングされる。インサート6上の上記第1の相補的な位置出し表面61を形成する平坦部分を有する凹部は、インサート6を構造的構成部品2上に角度的にロックする。保護デバイス1は垂直な挿入、即ち
図1の方向Cへの挿入に関して考案されているが、これは極めて簡単であり、インサート6を構造的構成部品2上に事前に組み付ける必要が全くない。
【0042】
インサート6の材料は、銅合金、鋼鉄合金、合成材料、合成ルビー又はその他の材料から選択してよい。
【0043】
本発明の極めて経済的な変形例では、
図1〜5に示すインサート6はワッシャの形態の回転本体6を含み、これは少なくとも1つの穿孔69と、上記本体から突出する相補的位置出し表面61を有する隆起部65とを備えている。インサート6は概ねカットワッシャの形態に製作され、ミリングによって簡単に仕上げを施され、一方では相補的位置出し表面61によって、他方では構造的構成部品2の軸受け表面20上に支持されるよう構成された相補的軸受け表面60によって、その範囲が設定される。インサート6はまた、打抜き加工又はプラスチックの射出成形によって製造してもよい。同様に、インサート6の本体6の厚さEに相当する凹部を横方向にミリング加工すること、及び構造的構成部品2が第1の位置出し表面21において平坦でない場合には第1の位置出し表面21をミリング加工することによって、既存の地板を簡単に改造することができる。
【0044】
ある変形例では、構造的構成部品2は、インサート6が備える第2の相補的な位置出し表面62と当接して協働するように設けた少なくとも1つの第2の位置出し表面22を備えている。非限定的な例示的実施形態を示す
図6に見られるように、第2の位置出し表面22は第1の位置出し表面21とは異なり、また第2の相補的な位置出し表面62は第1の相補的な位置出し表面61とは異なる。
図6の同一の実施例では、第2の位置出し表面22は平坦であり、上記第1の位置出し表面21(これもまた平坦である)に対して傾斜しており、また第2の相補的な位置出し表面62は平坦であり、第1の相補的な位置出し表面61(これもまた平坦である)に対して傾斜している。より具体的には、第2の位置出し表面22は第1の位置出し表面21に対して垂直であり、第2の相補的な位置出し表面62は第1の相補的な位置出し表面61に対して垂直である。この構成により、構造的構成部品2に対するインサート6の正確な3次元的位置決め、及びこれらがそれぞれ備えた穿孔29、69の正確な位置合わせが可能となる。
図7は、互いに垂直な2つの角度出し表面61、62と、これら2つの面のうちの一方の面62と平行な第3の面63とを有するインサート6の更に別の実施形態を示す。
【0045】
数多くの腕時計への応用例、特に図示したような、巻き上げ機構を含むムーブメント3への応用例では、構造的構成部品2は、ステム9の枢動をガイドするための軸線Dに沿った少なくとも1つの穿孔29を含む。本発明によるインサート6の採用は、構造的構成部品2の縁部表面の保護に加えて、ステム9のための少なくとも1つのガイド肩部を提供しながら、上記穿孔29の摩耗を低減するという結果をもたらす。
【0046】
この目的のために、インサート6は有利には、ステム9の枢動をガイドするための少なくとも1つの穿孔69を有する。特定の様式においては、穿孔69に耐摩耗処理又は耐摩耗コーティングを施すか、又は穿孔69を含むリングをインサート6自体に備え、ここで上記リングは適切な材料製であるか、又は耐摩耗処理若しくは耐摩耗コーティングが施されている。
【0047】
有利には、インサート6の穿孔69及び構造的構成部品2の穿孔29が、構造的構成部品2上へのインサート6の組み付け位置において位置合わせされるような機構において、保護デバイス1を使用する。
【0048】
具体的な変形例では、構造的構成部品2は腕時計の地板である。
【0049】
具体的な変形例では、構造的構成部品2は腕時計の中央部分である。
【0050】
具体的な変形例では、構造的構成部品2は腕時計のケーシングリングである。
【0051】
本発明は、少なくとも1つの相補的軸受け表面51を含む少なくとも1つのホイールセット5と、上記ホイールセット5を受承するための少なくとも1つの構造的構成部品2及び/又はインサート6とを有する時計機構10に関する。
【0052】
このタイプの時計機構10を含む時計ムーブメント3は、有利には構造的構成部品2を有し、構造的構成部品2は、組み付け中の挿入方向と同一の方向にインサート6を受承するよう設けられ、好ましくは軸線Dと垂直かつ
図1のC方向にホイールセット5を受承する。また構造的構成部品2は、(前側表面4から設けられる)チャンバ80を有し、このチャンバ80内では、ステム9の不在時に少なくともインサート6が軸線Dに垂直な平面内で可動であり、上記ステム9がインサート6の穿孔69及び構造的構成部品2の穿孔29に挿入されると、インサート6は単一の位置に固定される。
【0053】
好ましくは、インサート6の摺動表面7は軸線Dに垂直な面である。
【0054】
図示した特定の場合は、腕時計30の巻き上げ機構10を示し、ホイールセット5は巻き上げピニオンであり、構造的構成部品2は、巻き上げステム9の枢動をガイドするための軸線Dに沿った穿孔29を有し、この巻き上げステム9は、ステム9の枢動をガイドするために構造的構成部品2上に当接する軸受け位置にある時、インサート6の穿孔69にもガイドされる。
【0055】
本発明はまた、少なくとも1つの上記巻き上げ機構10、及び/又は上記保護デバイス1を備える少なくとも1つの上記構造的構成部品2を有する時計ムーブメント3であって、上記保護デバイス1は、上記ムーブメント3が備えるホイールセット5の運動中に上記構造的構成部品2を保護する時計ムーブメント3に関し、ここでインサート6は、軸線Dに沿った地板の穿孔29と、構造的構成部品2の穿孔29と位置合わせされた上記インサート6の穿孔69とに挿入されたステム9によって、構造的構成部品2内に保持されるか、又は軸線Dに垂直な平面内で構造的構成部品2に対して可動である。
【0056】
本発明は更に、このタイプの時計ムーブメント3及び/又は時計機構10を含む腕時計30に関する。
【0057】
従って、本発明は特に手動巻き上げ機構の構造的構成部品の摩耗を低減する。本発明により、極めて安価に製造できるインサートを用いて、既存の構造的構成部品(特に地板)を最小の変形コストで再利用できる。アフターサービスにおける干渉はこのインサートのみに関わるものとなり、構造的構成部品には関わらない。
【符号の説明】
【0058】
1 保護デバイス
2 構造的構成部品
3 ムーブメント
5 ホイールセット
6 保護用インサート、インサートの本体
7 摺動表面
8 ハウジング
9 巻き上げステム
10 時計機構、巻き上げ機構
20 軸受け表面
21 第1の位置出し表面
22 第2の位置出し表面
29 穿孔
30 腕時計
51 相補的軸受け表面
61 第1の相補的位置出し表面
62 第2の相補的位置出し表面
63 第3の面
65 隆起部
69 穿孔
80 チャンバ
A 端部
C 方向
D 軸線
E インサートの本体の厚さ
P 平面