特許第5925250号(P5925250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925250
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】スクエアエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   B23C5/10 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-139600(P2014-139600)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2016-16468(P2016-16468A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2015年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昭一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 望
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−292515(JP,A)
【文献】 実開昭62−117013(JP,U)
【文献】 特開2005−052924(JP,A)
【文献】 特開2008−044040(JP,A)
【文献】 西独国特許出願公告第01177904(DE,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の先端部外周に工具先端から工具基端側に向かう切り屑排出溝が複数設けられ、この切り屑排出溝のすくい面と前記工具本体の先端逃げ面との交差稜線部には夫々前記工具本体と一体に底刃が設けられ、前記底刃に外周刃が連設された刃部を複数有するスクエアエンドミルであって、前記底刃の少なくとも1つは平面切削に作用する主底刃であり、この主底刃には、工具軸方向先端側に凸となる凸状縁が形成され、この凸状縁は少なくとも、工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具先端側に上り傾斜する上り直線縁と、工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具基端側に下り傾斜する下り直線縁とを鈍角で連設した頂角を有しており、更に、この主底刃の前記上り直線縁は前記外周刃に連設され、また、前記主底刃以外の底刃は、前記主底刃に対して工具基端側に没入しその先端縁の工具中心軸周りの回転軌跡が前記主底刃の先端縁の工具中心軸周りの回転軌跡に対して工具基端側に後退するように設けられた副底刃であり、さらに、前記主底刃のすかし角−3°以上0°未満であり、且つ、すかし部の長さ0.002mm以上且つ工具外径の4分の1以下であることを特徴とするスクエアエンドミル
【請求項2】
請求項1記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃のすくい角が5°以上30°以下であることを特徴とするスクエアエンドミル
【請求項3】
請求項2記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃のすくい面が略平面で形成されており、前記すかし部を心上がり形状としたことを特徴とするスクエアエンドミル
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃を備えた刃部が複数設けられていることを特徴とするスクエアエンドミル
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記副底刃に連設されている外周刃の外周すくい角が5°以上30°以下であることを特徴とするスクエアエンドミル
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃を備えた刃部と前記副底刃を備えた刃部とが交互に同数ずつ設けられていることを特徴とするスクエアエンドミル
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記副底刃を備えた刃部の外周刃が切削作用を発揮する領域において、前記主底刃を備えた刃部の外周刃は前記副底刃に連設されている外周刃に対して工具径方向内側に没入していることを特徴とするスクエアエンドミル
【請求項8】
請求項1〜いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記複数の切り屑排出溝のうち少なくとも1つの切り屑排出溝は、工具中心軸周りに螺旋状に形成されていることを特徴とするスクエアエンドミル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクエアエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材の中でも機械構造用炭素鋼鋼材は安価のため、部品加工やモールドベースに多用されている。
【0003】
ところで、このような炭素鋼鋼材を、例えば特許文献1等に開示されるような平面切削加工及び側面切削加工が行える一般的なスクエアエンドミルにより切削加工すると、刃部の底刃と外周刃との連設部分である先端コーナ部が損傷することにより、平面加工面にむしれが生じたり、平面加工面に深い傷が生じる。
【0004】
また、各刃の切れ刃に被削材が付着し、それが切削作用を発揮する、いわゆる構成刃先によっても上記同様の不具合が生じる。具体的には、切れ刃に生成した構成刃先の成長による加工面のオーバーカット、鈍化した切れ刃となる構成刃先による加工面のむしれ、並びに、脱落した構成刃先を噛み込むことによる加工面の損傷及び工具の損傷促進等の不具合が生じる。
【0005】
上記不具合はいずれも加工面に深い傷を残す原因となるため、加工面を磨き処理する際、この深い傷の除去に多大な工数を要することになる。また、この磨き処理は手作業で実施される場合も多く、作業者の技能や熟練度等によって、加工寸法精度の悪化を招く可能性が高まる。そのため、平滑且つ光沢のある面を得ることが困難である。
【0006】
そこで、このような問題点を解決すべく、一般的には極圧添加剤入り油性切削油剤を使用したり、切削速度を上昇させたり切り込み量を増大させたりして加工点付近の温度を上昇させることで被削材を軟化させ、工具の先端コーナ部の損傷及び構成刃先の発生を抑制することとしている。
【0007】
しかしながら、一般的に常温の状態からの加工開始は避けられず、また加工プログラムによりエアーカットが組み込まれると、その際に工具と被削材とが冷却されてしまうため、上記手法によっては上記問題点は解決されていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第2557189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題点を解決したもので、工具の先端コーナ部の損傷に伴う平面加工面のむしれ等の影響を解消でき、更に、構成刃先の生成を抑制することも可能で、加工面を平滑且つ光沢のある面に仕上げることができるスクエアエンドミルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0011】
工具本体1の先端部外周に工具先端から工具基端側に向かう切り屑排出溝2が複数設けられ、この切り屑排出溝2のすくい面3と前記工具本体1の先端逃げ面4との交差稜線部には夫々前記工具本体1と一体に底刃5,6が設けられ、前記底刃5,6に外周刃10,11が連設された刃部を複数有するスクエアエンドミルであって、前記底刃5,6の少なくとも1つは平面切削に作用する主底刃5であり、この主底刃5には、工具軸方向先端側に凸となる凸状縁7が形成され、この凸状縁7は少なくとも、工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具先端側に上り傾斜する上り直線縁8と、工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具基端側に下り傾斜する下り直線縁9とを鈍角で連設した頂角を有しており、更に、この主底刃5の前記上り直線縁8は前記外周刃10に連設され、また、前記主底刃5以外の底刃6は、前記主底刃5に対して工具基端側に没入しその先端縁の工具中心軸周りの回転軌跡が前記主底刃5の先端縁の工具中心軸周りの回転軌跡に対して工具基端側に後退するように設けられた副底刃6であり、さらに、前記主底刃5のすかし角α−3°以上0°未満であり、且つ、すかし部の長さM0.002mm以上且つ工具外径の4分の1以下であることを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【0012】
また、請求項1記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃5のすくい角βが5°以上30°以下であることを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【0013】
また、請求項2記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃5のすくい面3が略平面で形成されており、前記すかし部を心上がり形状としたことを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【0014】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃5を備えた刃部が複数設けられていることを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【0015】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記副底刃6に連設されている外周刃11の外周すくい角が5°以上30°以下であることを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【0016】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記主底刃5を備えた刃部と前記副底刃6を備えた刃部とが交互に同数ずつ設けられていることを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【0017】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記副底刃6を備えた刃部の外周刃11が切削作用を発揮する領域において、前記主底刃5を備えた刃部の外周刃10は前記副底刃6に連設されている外周刃11に対して工具径方向内側に没入していることを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【0018】
また、請求項1〜いずれか1項に記載のスクエアエンドミルにおいて、前記複数の切り屑排出溝2のうち少なくとも1つの切り屑排出溝2は、工具中心軸周りに螺旋状に形成されていることを特徴とするスクエアエンドミルに係るものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上述のように構成したから、加工面を平滑且つ光沢のある面に仕上げることができるスクエアエンドミルとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施例の概略説明側面図である。
図2】本実施例の概略説明正面図である。
図3】本実施例の倒れに伴う作用角の変化を説明する概略説明図である。
図4】従来工具の倒れに伴う作用角の変化を説明する概略説明図である。
図5】従来工具による平面加工時に生じる傷等を説明する概略説明図である。
図6】底刃のすくい角を説明する概略説明図である。
図7】別例1の概略説明正面図である。
図8】別例2の概略説明正面図である。
図9】別例3の概略説明図である。
図10】別例4の概略を説明するすかし部の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0022】
底刃5に凸状縁7が存在することで、この凸状縁7部分が平面加工時に主に切削作用を果たす部位(主に平面加工面に接触する部位)となり、工具の先端コーナ部が破損しても、この破損した先端コーナ部との接触に起因する平面加工面のむしれ等が生じ難くなる。
【0023】
即ち、凸状縁7を設けた場合でも、破損はより先鋭な先端コーナ部から生じるが、凸状縁7が主に平面加工面に接触するため、破損した先端コーナ部との接触は可及的に抑制され、また、仮に破損した先端コーナ部と接触した平面加工面にむしれ等が生じても、より平面加工面側に突出する凸状縁7により、繰り広げの平面加工時に切削によって先端コーナ部による切削痕が除去されながら加工が進行する。
【0024】
従って、破損した先端コーナ部による平面加工面のむしれ等が生じ難く、また、このむしれ等が生じた場合にも凸状縁7により除去することができ、高品位の平面加工面を容易に得ることが可能となる。また、破損した先端コーナ部による影響を解消できることから、所望の加工面品位レベルを確保した切削距離が延長でき、結果的に工具寿命を延長することが可能となる。
【0025】
更に、凸状縁7は直線縁を連設させて形成でき、例えばラジアスエンドミルのように、工具の先端コーナ部にアール形状部を形成するなどの複雑な加工工程を経ることがなく、工具製作上の形状のバラつきを抑えて容易に製造可能なものとなる。
【0026】
更に、凸状縁7を有する底刃5,6を所定のすくい角に設定することにより、可及的に構成刃先の生成を抑制できる構成とすることができ、構成刃先に起因する加工面のむしれ等も抑制することが可能となる。
【実施例】
【0027】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0028】
本実施例は、工具本体1の先端部外周に工具先端から工具基端側に向かう螺旋状の切り屑排出溝2が複数設けられ、この切り屑排出溝2のすくい面3と前記工具本体1の先端逃げ面4との交差稜線部には夫々前記工具本体1と一体に底刃5,6が設けられた回転切削工具であって、前記底刃5,6の少なくとも1つには、工具軸方向先端側に凸となる凸状縁7が形成され、この凸状縁7は複数の略直線状の直線縁を連設させて形成されているものである。
【0029】
また、本実施例は、前記切り屑排出溝2と前記工具本体1の外周面21との交差稜線部には夫々前記工具本体1と一体に外周刃10,11が設けられている回転切削工具であり、本実施例では、この外周面21は前記外周刃10,11から工具回転方向後方側に向かって徐々に工具中心側に傾斜する外周逃げ面に設定されている。また、この外周逃げ面は直線的に傾斜する平面であっても良いし、曲線的に傾斜する曲面であっても良い。本実施例ではこの外周面21は、前記外周刃10,11から工具回転方向後方側に向かって徐々に工具中心側に曲線的に傾斜する曲面の外周逃げ面に設定されている。
【0030】
具体的には、本実施例は工具本体1と一体に設けられる底刃5,6に外周刃10,11が先端コーナ部12を介して連設された刃部を複数有するスクエアエンドミルであり、炭素鋼鋼材等に平面加工、側面加工及びポケット加工等を施すために使用されるものである。
【0031】
本実施例においては、前記底刃5,6のうち少なくとも1つの底刃5が前記凸状縁7を有して平面切削に作用する主底刃5であり、また、その他の底刃6が前記主底刃5に対して工具基端側に後退するように設けられた副底刃6である。即ち、前記副底刃6は前記凸状縁7を有する主底刃5に対して工具基端側に没入して一段低くなるように構成され、平面に対する切削作用を略発揮しないように構成されている。つまり、前記底刃5,6は、工具軸(工具中心軸)O周りの前記副底刃6の先端縁の回転軌跡が前記主底刃5の先端縁(切れ刃)の回転軌跡に対して一段低く工具基端側に後退するように構成されている。
【0032】
また、本実施例においては、加工側面が平滑且つ光沢のある加工面となるように、前記工具基端側に後退する副底刃6に連設されている外周刃11の外周すくい角が5°以上30°以下に設定されている。5°未満であると切削性が悪く構成刃先が発生し易くなり、30°を越えると刃物角が小さくなり過ぎ、切削抵抗に抗し得ず欠損し易くなる。
【0033】
また、主底刃5より工具基端側に所定長さ後退した前記副底刃6を備えた刃部の外周刃11が切削作用を発揮する領域において、前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部の外周刃10は、前記工具基端側に後退する副底刃6に連設されている外周刃11に対して工具径方向内側(工具中心側)に没入し、側面に対する切削作用を発揮しないように構成されている。
【0034】
具体的に図1に基づいて説明する。前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部の外周刃10は、工具先端から工具基端側へ向かってL10の長さ領域に設けられており、前記外周刃11は、前記主底刃5に対して工具基端側にSの長さだけ後退した位置、即ち前記副底刃6の先端位置から工具基端側へ向かってL11の長さ領域に設けられている。前記L10の工具軸方向長さは、前記Sと前記L11とを合わせた長さ(Lの長さ)と同じ長さであるか、若しくは短い長さに設定する。本実施例では図1に記載の通り、前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部のL10の長さは、前記Sと前記L11とを合わせたLの長さより短く設定されている。
【0035】
前記外周刃11は、工具先端から工具基端側に向かって同一の外径である(工具先端部に設けた微小なフラットランド部を除く)。具体的には、工具軸O(工具中心軸O)を中心として回転したときの当該外周刃11の回転軌跡が、工具先端から工具基端側に向かって同一の外径を成す円柱状を成すように形成されている。図1中、Tは工具回転方向(回転の向き)であり、図2図5図7及び図8においても同様である。また、前記外周刃10は、工具先端から工具基端側に向かって外径が徐々に縮径するバックテーパ形状に形成されている。つまり、前記外周刃10は、工具軸O(工具中心軸O)を中心として回転したときの前記外周刃10の回転軌跡が、工具先端から工具基端側に向かって外径が徐々に縮径するバックテーパ状に形成されている。
【0036】
また、外周刃10および外周刃11の各々の工具先端部の外径は略同一に設定されている。このため、前記外周刃10が前記外周刃11に対して工具径方向内側(工具中心側)に没入している。また、外周刃10の終端(工具基端側の一端)よりも工具基端側においては、外周刃10よりも工具径方向内側(工具中心側)に一段没入させた逃げ凹部13を設けることにより、切削作用を発揮しない構成としている。
【0037】
なお、本実施例では、前記外周刃11は、工具先端から工具基端側に向かって同一の外径であるとしたが、前記外周刃10が前記外周刃11に対して工具径方向内側(工具中心側)に没入していれば良く、前記外周刃11は、工具先端から工具基端側に向かって、前記外周刃10の縮径度合いよりも小さな縮径度合いで外径が縮径するバックテーパ形状に形成されていても良い。
【0038】
従って、本実施例は、凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部が主底刃5によって平面切削加工を担い(主底刃5に対して副底刃6が工具基端側に後退する領域S以外では、外周刃10が外周刃11に対して工具径方向内側(工具中心側)に没入していることから、外周刃10は先端側の一部を除き側面切削加工に寄与しない)、工具基端側に後退する副底刃6を備えた刃部が外周刃11によって側面切削加工を担う(副底刃6は平面切削加工にほとんど寄与しない)。このように平面切削加工を担う底刃(主底刃5)と側面切削加工を担う外周刃(外周刃11)とを連設せずに異なる工具回転位相で独立した構成とすることによって、切削加工時に前記底刃を有する刃部と前記外周刃を有する刃部とが受ける夫々の切削抵抗が他方の刃部に直接作用することがなく、切削抵抗と排出される切り屑が分散して良好な切削加工を行えることになり、平滑且つ光沢のある高品位な平面加工面及び側面加工面を得ることが可能となる。
【0039】
また、本実施例は、前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部が複数設けられている。具体的には、図1,2に図示したように、前記主底刃5に対して工具基端側に後退する副底刃6を備えた刃部と前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部とが工具の周方向に交互に同数ずつ(3つずつ)等間隔に設けられている。従って、切り屑排出溝2は6条設けられている。
【0040】
凸状縁7について詳述する。
【0041】
凸状縁7は、複数の略直線状の直線縁を連設させて形成されている。
【0042】
具体的には、工具本体1の先端に設けられた先端逃げ面4を複数の平面を連設して構成し、これらの夫々の平面と切り屑排出溝2のすくい面3との夫々の交差稜線が前記直線縁を成すように構成されている。前記複数の平面のうち少なくとも1つの平面が工具外周側(外側)に向かって下り傾斜する外側傾斜平面であって、また、前記複数の平面のうち少なくとも1つの平面が工具中心側(内側)に向かって下り傾斜する内側傾斜平面であって、前記外側傾斜平面と前記内側傾斜平面とを工具軸方向先端側に凸となる鈍角で連設する構成として、且つ、前記外側傾斜平面と前記内側傾斜平面の夫々に前記すくい面3を交差させその交差稜線が夫々略直線状の直線縁となって工具軸方向先端側に凸となる鈍角の凸状縁7を構成する。
【0043】
なお、前記先端逃げ面4を構成する前記外側傾斜平面と前記内側傾斜平面とは、1つの主底刃5につき、夫々1つずつでも良いし、夫々傾斜角度が異なる傾斜平面を複数連設して設けても良い。つまり、傾斜角度が異なる傾斜平面を複数連設して設けた場合は、傾斜角度が異なる直線縁が連設されて前記凸状縁7が構成される。
【0044】
本実施例では、前記外側傾斜平面と前記内側傾斜平面とを夫々1つ設ける構成としている。即ち、前記主底刃5のすくい面3と交差する先端逃げ面4を、工具外周側(外側)に向かって下り傾斜する外側傾斜平面17と工具中心側(内側)に向かって下り傾斜する内側傾斜平面18とを工具軸方向先端側に凸となる鈍角で連設する構成として、主底刃5のすくい面3と先端逃げ面4との交差稜線に凸状縁7が現出するようにしている。図中符号19は先端逃げ面4に更に連設する逃げ面である。
【0045】
従って、本実施例の前記凸状縁7は、前記すくい面3と前記外側傾斜平面17との交差稜線として、工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具先端側に上り傾斜する直線縁8(上り直線縁)と、前記すくい面3と前記内側傾斜平面18との交差稜線として、工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具基端側に下り傾斜する直線縁9(下り直線縁)とを連設させて工具軸方向先端側に凸となる鈍角に形成されている。なお、前記凸状縁7は主底刃5のみに設けても良いが、本実施例においては、前記主底刃5に対して工具基端側に後退する副底刃6にも同様にして凸状縁を設けている。工具軸方向の位置が異なるのみで同じ形状の凸状縁7を主底刃5と副底刃6とに設けることで工具の製造の容易性が増すこととなる。
【0046】
また、図1に示すように、凸状縁7を構成する直線縁8と直線縁9との連設角γは鈍角であって、この連設角γを145°〜175°程度とすると、先端コーナ部12より凸状縁7の切れ刃のなす角が相対的に大きくなって先端コーナ部12より十分破損し難い構成となり、先端コーナ部12より損傷の進行を遅くすることが可能となる。
【0047】
また、本実施例において、工具の軸直角方向の仮想線と工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具先端側に上り傾斜する直線縁8との成す角はすかし角αであって、後述するように所定の角度に設定される。
【0048】
なお、図1に示すように、前記連設角γや前記すかし角αは、工具の軸直角方向にして且つ直線縁を含む平面上での角度である。また、本実施例においては、このすかし角αは、前記直線縁8が工具先端側に上り傾斜する度合い(角度)が大きいほど、マイナスの数値で表示する。つまり、前記直線縁8は、工具の軸直角方向と平行のとき、すかし角αが0°であり、その他すかし角αはマイナスの数値となる。
【0049】
ここで、主底刃5の先端コーナ部12から、前記凸状縁7の凸部(工具外周側から工具中心側に向かって工具先端側に上り傾斜する直線縁8と工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具基端側に下り傾斜する直線縁9との連設点)までの領域をすかし部と定義し、その工具の軸直角方向の長さをすかし部の長さMとする。前述の通りこのすかし部の領域内で、傾斜角度が異なる工具先端側に上り傾斜する直線縁が複数連設されていても良い。図10に、傾斜角度が異なる工具先端側に上り傾斜する直線縁が2つ連設された別例4を示す。このように、凸状縁7は直線縁を連設させて形成されるため、稜線、すくい面及び逃げ面に関する形状管理は容易である。
【0050】
また、前記凸状縁7を有する主底刃5のすくい面3が略平面で形成されており、平面加工に作用する前記凸状縁7が前記主底刃5の外周寄り位置に設けられ、この主底刃5の少なくとも前記すかし部を心上がり形状としている。
【0051】
心上がり形状とは、図2図7及び図8に示したように、工具先端視で、主底刃5の直線縁8(すかし部)を工具中心側に延長した延長仮想線に対し、工具中心C(工具軸O上の点)が工具回転方向後方側に位置する形状を指す。これとは逆に、前記延長仮想線に対し工具中心C(工具軸O上の点)が工具回転方向前方側に位置する形状を心下がり形状という。主底刃5のすかし部を心上がり形状とするのは、溝加工時の中心付近に生じる円弧キズを防ぐためであり、その原因となる平面加工時の切屑の滞留とその切屑の噛み込みを防ぐためである。
【0052】
主底刃5のすかし部を心下がり形状とした場合、溝の平面加工時に主底刃5が工具進行方向に平行となるタイミングで主底刃5のすくい面方向に切屑が案内できずに、切屑がその場に滞留しやすくなる。また、その後の工具回転と送り方向の工具進行により切屑が主底刃5に噛み込んで、結果的に平面加工面の溝加工中心付近に円弧状のキズP(図5参照)が発生しやすくなる。主底刃5を心上がり形状とすることで、上述した心下がり形状のデメリットが解決でき、溝加工中心付近に生じやすい円弧キズの発生を抑えることができる。
【0053】
本実施例においては、切り屑排出溝2のすくい面3(工具回転方向前方側を向く壁面)に、平面であるギャッシュ面15を設け、このギャッシュ面15を含む切り屑排出溝2のすくい面3を主底刃5のすくい面3としている。この主底刃5のすくい面3と先端逃げ面4との交差稜線部に主底刃5が設けられる。図中符号16は、ギャッシュ面15に連設されるギャッシュ底面である。
【0054】
ここで、前記主底刃5のすかし部について詳述する。
【0055】
すかし部の長さMは、一刃当たりの送り量より長く設定されていれば良く、本実施例においては0.002mm以上且つ工具外径の4分の1以下に設定されている。具体的には、例えば、工具外径3mmの工具では0.2mm、工具外径10mmの工具では0.5mm等とすることができる。このように、すかし部の長さMを一刃当たりの送り量よりも長く設定することで、破損した先端コーナ部で切削した部分(むしれ等が生じた平面加工面)を凸状縁7により除去しながら平面の繰り広げ加工を継続することができ、高品位の平面加工面を容易に得ることが可能となる。
【0056】
また、凸状縁7を有する主底刃5のすかし角αは−5°以上0°未満に設定されている。主底刃5のすかし角αは切削抵抗による工具の倒れを考慮し、常に主底刃5のすかし角αがマイナスで作用するように設定するのが望ましいからである。なお、主底刃5のすかし角αが−5°未満であると前述の連設角γを十分大きく(鈍角に)設定することができずに凸状縁7が損傷し易くなって望ましくないことと、ワークの平面加工時の平面度の悪化を招くこととなるため、好ましくは、すかし角αは−3°以上0°未満に設定するのが良い。
【0057】
具体的には、図3は、図5のワークWを切削する際に工具Aが被削材(ワークW)から受ける切削抵抗により倒れを生じている状態を示す。即ち、Y方向に送られる工具が切削抵抗を受けると送り方向Yに対しX方向に倒れが生じることとなる。
【0058】
ここで、本実施例の主底刃5のすかし部は、工具外周側から工具中心側に向かって徐々に工具先端側に上り傾斜する直線縁8が工具の軸直角方向に対してすかし角αで形成されているため、前記直線縁8はワーク平面に対してすかし角αと同じ角度α(作用角α)で作用するものである。しかしながら実際には、前記直線縁8がワーク平面に作用する角度α’は、前記切削抵抗に起因する倒れにより、αよりプラス方向に変化し、作用角α’となる。
【0059】
具体的には、例えば、すかし角(作用角)α=−5°の工具が、倒れにより作用角α’=−3°へと作用角がプラス方向に変化しても、凸状縁7が平面加工面に作用する形態を維持しているため、破損した先端コーナ部で切削した部分(むしれ等が生じた平面加工面)を凸状縁7により除去しながら平面の繰り広げ加工を継続することができ、高品位の平面加工面を容易に得ることが可能となる。
【0060】
図4に図示したような従来の底刃を有するエンドミルでは、もともとプラス方向であるすかし角(作用角)aが倒れによりa’へと更にプラス方向に変化することになる。このため先端コーナ部20が破損した場合、上述の問題が生ずることとなる。
【0061】
このように、ワークに作用する工具のすかし角(作用角)αは工具の倒れ量により変化する、即ち、被削材種、被削材への軸方向切込み深さ、半径方向の切込み深さ、送り速度、一刃当たりの送り量、回転速度などの切削条件により工具の倒れ量が変化するため、これらを考慮して主底刃5のすかし角αを設定する。
【0062】
また、本実施例は、上述したように、略平面に切削作用する主底刃5を略直線的にするために、主底刃5のすくい面3を略平面としている。なお、図2の副底刃6として示したように、主底刃5のすくい面3を工具先端視で工具回転方向後方側に凹状に湾曲させると、心下がり形状となり主底刃5のメリットである溝中心付近の円弧状の傷防止のメリットが失われ、工具先端視で工具回転方向前方側に凸状に湾曲させると、底刃の切削領域を心上がりに設定でき望ましいが、製法の難度が増し望ましくない。従って、主底刃5のすくい面3を略平面とすることで、主底刃5の直線性だけでなく、望ましい切り屑案内を確立でき且つ平易に製造することができる構成となる。
【0063】
また、従来工具では、刃先に被削材が付着し切削作用する構成刃先が生成されることでオーバーカットによる深い傷R(図5参照)が入り易くなるが、本実施例では、構成刃先が生成し難い構成、即ち、図6に図示したように凸状縁7を有する主底刃5のすくい角(軸方向すくい角)βを5°以上30°以下に設定することで、この問題を解決している。具体的には、5°未満であると切削性が悪く構成刃先が発生し易くなり、30°を越えると刃物角が小さくなり過ぎ、切削抵抗に抗し得ず欠損し易くなる。なお、図5中符号Qは、平面加工時に切削作用を果たす部位(従来工具では先端コーナ部)により通常生じる円弧状の切削痕である。
【0064】
なお、本実施例は、工具基端側に後退する副底刃6を備えた刃部と凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部とを交互に3つずつ設けた構成としているが、凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部等の数は、適宜設定できる。例えば、図7に図示した別例1のように工具基端側に後退する副底刃6を備えた刃部と前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部とを交互に2つずつ等間隔に設けても良いし、図8に図示した別例2のように前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部のみを2つ等間隔に設けても良い。更に、図示しないが、工具基端側に後退する副底刃6を備えた刃部と前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部の数を同一にしなくても良い。具体的には、工具基端側に後退する副底刃6を備えた刃部を1つと前記凸状縁7を有する主底刃5を備えた刃部を2つ設け、前記夫々の底刃を等間隔に設けても良い。
【0065】
また、本実施例では前記主底刃5と前記副底刃6とを等間隔に設ける構成としているが、不等間隔に設ける構成としても良い。夫々の底刃を不等間隔に設けることにより、夫々の底刃に連設される前記外周刃10,11も不等間隔に設け、よって、びびりを抑制してより平滑且つ光沢のある高品位な平面加工面及び側面加工面を得ることが可能となる。
【0066】
また、先端コーナ部12に、図9に図示した別例3のように工具損傷を抑制するための微小な面(フラットランド14)を設けても良い。
【0067】
本実施例は上述のように構成したから、主底刃5に凸状縁7が存在することで、この凸状縁7部分が平面加工時に主に切削作用を果たす部位(主に加工面に接触する部位)となり、先端コーナ部が破損しても、この破損した先端コーナ部との接触に起因する加工面のむしれ等が生じ難くなる。
【0068】
従って、破損した先端コーナ部による加工面のむしれ等が生じ難く、また、このむしれ等が生じた場合にも凸状縁7により除去することができ、高品位の平面加工面を容易に得ることが可能となる。また、破損した先端コーナ部による影響を解消できることから、結果的に工具寿命を延長することが可能となる。
【0069】
更に、凸状縁7は直線縁を連設させて形成でき、例えばラジアスエンドミルのように、工具の先端コーナ部にアール形状部を形成するなどの複雑な加工工程を経ることがなく、工具製作上の形状のバラつきを抑えて容易に製造可能なものとなる。
【0070】
更に、凸状縁7を有する主底刃5のすくい面3の設定により、可及的に構成刃先の生成を抑制できる構成とすることができ、構成刃先に起因する加工面のむしれ等も抑制することが可能となる。
【0071】
よって、本実施例は、加工面を平滑且つ光沢のある面に仕上げることができるものとなる。
【符号の説明】
【0072】
1 工具本体
2 切り屑排出溝
3 すくい面
4 先端逃げ面
5 底刃(主底刃)
6 底刃(副底刃)
7 凸状縁
8 直線縁
9 直線縁
10 外周刃
11 外周刃
α すかし角
β すくい角
M すかし部の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10