(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて、本発明に係る変速伝動装置をコンバインに装備した場合について説明する。
図1に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走するように構成され、かつ乗用型の運転部2を装備された走行機体と、走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り部4と、機体フレーム3の後部側に刈取り部4の後方に配置して設けられた脱穀装置5と、機体フレーム3の後部側に脱穀装置5の横側方に配置して設けられた穀粒タンク6とを備えて構成してあり、稲、麦などの収穫作業を行う。
【0030】
すなわち、刈取り部4は、機体フレーム3の前部から前方向きに上下揺動自在に延出する刈取り部フレーム4aを備え、この刈取り部フレーム4aが昇降シリンダ7によって揺動操作されることにより、刈取り部4の前端部に設けられた分草具4bが地面近くに下降した下降作業位置と、分草具4bが地面から高く上昇した上昇非作業位置とに昇降する。刈取り部4を下降作業位置に下降させて走行機体を走行させると、刈取り部4は、分草具4bによって刈取対象の植立穀稈を引起し経路に導入し、引起し経路に導入した植立穀稈を引起し装置4cによって引起しながらバリカン型の刈取装置4dによって刈取り、刈取り穀稈を供給装置4eによって脱穀装置5に供給する。脱穀装置5は、供給装置4eからの刈取り穀稈の株元側を脱穀フィードチェーン5aによって挟持して機体後方向きに搬送し、刈取り穀稈の穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理し、脱穀穀粒を穀粒タンク6に送り込む。
【0031】
運転部2に備えられた運転座席2aの下方にエンジン8を設け、エンジン8が出力する駆動力を、機体フレーム3の前端部に設けたミッションケース11を備えた伝動構造10によって左右一対の走行装置1,1に伝達するように構成してある。
【0032】
図2は、伝動構造10の概略構造を示す正面図である。この図に示すように、伝動構造10は、エンジン8の出力軸8aからのエンジン駆動力を、伝動ベルト12aが備えられた伝動機構12を介してミッションケース11の上端部の横側に設けられた変速伝動装置20に入力し、この変速伝動装置20の出力を、ミッションケース11に内装された走行ミッション13に入力して走行ミッション13が備える左右一対の操向クラッチ機構14,14の左側の操向クラッチ機構14から左側の走行装置1の駆動軸1aに伝達し、右側の操向クラッチ機構14から右側の走行装置1の駆動軸1aに伝達する。
【0033】
伝動構造10は、ミッションケース11に内装された刈取りミッション15を備え、変速伝動装置20の出力を、刈取りミッション15に入力して刈取り出力軸16から刈取り部4の駆動軸4fに伝達する。
【0034】
変速伝動装置20について説明する。
図3に示すように、変速伝動装置20は、ミッションケース11の上端側に横側部が連結される変速ケース21を備えた遊星変速部20Aと、変速ケース21のミッションケース11に連結する側とは反対側の横側部にケーシング31が連結された油圧式無段変速機30とを備えて構成してある。
【0035】
変速ケース21は、遊星伝動部40及び前後進切換え機構50を収容する主ケース部21aと、入力軸22及び伝動軸23と油圧式無段変速機30の連結部を収容し、かつ変速ケース21とケーシング31のポートブロック34を連結する連結ケース部21bとを備えて構成してある。変速ケース21は、主ケース部21aの出力回転体24
(本発明の「出力軸」に相当する)が位置する下部側面の横外側に膨出形成された膨出部分21cでミッションケース11に連結される。連結ケース部21bの走行機体上下方向での大きさが主ケース部21aの走行機体上下方向での大きさよりも小になっている。主ケース部21aを、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、ケーシング31を、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、遊星変速部20Aと油圧式無段変速機30が機体横方向に並びながら、変速伝動装置20全体としての機体横方向幅が小となり、変速伝動装置20は、横外側に突出しないように走行機体左右方向ではコンパクトな状態でミッションケース11の横側部に連結されている。ケーシング31の上面には上向きにオイルフィルタ20Fが配設され、オイルフィルタ20Fの横外側への突出を回避して更なるコンパクト化が図られている。
【0036】
遊星変速部20Aは、変速ケース21の上端側に回転自在に支持された機体横向きの入力軸22と、変速ケース21の下端側に入力軸22と平行又はほぼ平行に回転自在に支持された伝動軸23及び回転軸型の出力回転体24と、伝動軸23に支持された遊星伝動部40と、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた前後進切換え機構50とを備えている。
【0037】
入力軸22は、油圧式無段変速機30のポンプ軸32aに対して同軸芯状に並ぶよう配置されている。入力軸22は、変速ケース21から横外側に突出している側で伝動機構12を介してエンジン8の出力軸8aに連結するように構成され、エンジン8に連結される側とは反対側でジョイント22aを介して油圧式無段変速機30のポンプ軸32aに一体回転自在に連結されており、伝動機構12を介してエンジン駆動力を入力し、エンジン駆動力によって駆動されて油圧式無段変速機30の油圧ポンプ32を駆動する。
【0038】
出力回転体24は、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に油圧式無段変速機30のモータ軸33aと同軸芯状に並ぶように配置されている。出力回転体24は、変速ケース21から横外側に突出している側で走行ミッション
13の入力部に連動するよう構成されており、遊星伝動部40及び油圧式無段変速機30からの駆動力を走行ミッション13を介して左右一対の走行装置1,1に出力する。
【0039】
油圧式無段変速機30は、ケーシング31の上端側にポンプ軸32aが回転自在に支持されている油圧ポンプ32と、ケーシング31の下端側にモータ軸33aが回転自在に支持されている油圧モータ33とを備えて構成してある。油圧ポンプ32は、可変容量形のアキシャルプランジャポンプによって構成し、油圧モータ33は、可変容量形のアキシャルプランジャモータによって構成してある。油圧モータ33は、油圧ポンプ32によって吐出され、ポートブロック34の内部に形成された油路を介して供給される圧油によって駆動される。油圧式無段変速機30には、入力軸22のエンジン連結側に装備されたチャージポンプ90によって補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、入力軸22に一体回転自在に連結したロータ90a、及び変速ケース21に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
【0040】
したがって、油圧式無段変速機30は、油圧ポンプ32が備える斜板32bの角度変更操作が行なわれることにより、前進伝動状態と後進伝動状態と中立状態とに切り換わる。油圧式無段変速機30は、前進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を前進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、後進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を後進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、前進伝動状態と後進伝動状態のいずれにおいても、エンジン駆動力を無段階に変速して出力する。油圧式無段変速機30は、中立状態に切換え操作されると、モータ軸33aからの出力を停止する。
【0041】
遊星伝動部40は、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に、モータ軸33aと出力回転体24の間に位置する状態で配置されている。遊星伝動部40は、伝動軸23に支持されるサンギヤ42と、サンギヤ42に噛合う複数個の遊星ギヤ43と、各遊星ギヤ43に噛合うリングギヤ44と、複数個の遊星ギヤ43を回転自在に支持するキャリヤ41とを備えている。キャリヤ41は、遊星ギヤ43を延出端部で回転自在に支持するアーム部41aと、複数本のアーム部41aの基端側が連結している筒軸部41bとを備え、筒軸部41bで伝動軸23にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0042】
伝動軸23とモータ軸33aとは、ジョイント23aを介して一体回転自在に連結し、伝動軸23とサンギヤ42とは、スプライン構造を介して一体回転自在に連結しており、サンギヤ42は、モータ軸33aに対して一体回転自在に連動している。
【0043】
リングギヤ44と出力回転体24とは、伝動軸23に対してこれの軸芯方向に並んで相対回転自在に外嵌した環状の遊星側連動体26及び環状の出力側連動体27
(本願発明の「連動体」に相当する)によって一体回転自在に連動している。すなわち、遊星側連動体26は、遊星側連動体26の外周部から放射状にかつ一体回転自在に延出する複数本の係合アーム部26aを備えている。複数本の係合アーム部26aは、リングギヤ44の複数箇所に係合しており、遊星側連動体26は、リングギヤ44に対して一体回転自在に連動している。出力側連動体27は、遊星側連動体26に対して係合爪27aによって一体回転自在に係合し、出力回転体24に対してスプライン構造によって一体回転自在に係合しており、遊星側連動体26と出力回転体24とを一体回転自在に連結している。遊星側連動体26は、伝動軸23にベアリングを介して相対回転自在に支持されている。出力側連動体27は、変速ケース21にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0044】
前後進切換え機構50は、入力軸22にニードルベアリングを介して回転自在に支持される前進伝動ギヤ51と、前進伝動ギヤ51と入力軸22に亘って設けた前進クラッチ52と、入力軸22と平行又はほぼ平行な配置で変速ケース21に回転自在に支持された後進伝動軸53と、入力軸22に一体回転自在に支持された伝動ギヤ54に噛合った状態で後進伝動軸53に相対回転支持された逆転用の入力ギヤ55と、入力ギヤ55と後進伝動軸53に亘って設けた後進クラッチ56と、後進伝動軸53に一体回転自在に設けた後進伝動ギヤ57とを備えて構成してある。
【0045】
前進伝動ギヤ51及び後進伝動ギヤ57は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合っている。入力ギヤ55及び伝動ギヤ54は、遊星伝動部40に対して前進伝動ギヤ51及び後進伝動ギヤ57が位置する側とは反対側に位置している。前進伝動ギヤ51及び後進伝動ギヤ57は、サンギヤ42に対して入力ギヤ55及び伝動ギヤ54が位置する側とは反対側に位置する遊星伝動部40の入力ギヤ41cに噛合っている。
【0046】
前進クラッチ52は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持された前進クラッチ体52aと、前進クラッチ体52aの一端側と前進伝動ギヤ51の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体52bとを備えて構成してある。前進クラッチ体52aは、前進クラッチ体52aの端部に内嵌された油圧ピストン58によって摺動操作される。クラッチ機構本体52bは、前進クラッチ体52aに設けた噛合い爪と前進伝動ギヤ51に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0047】
後進クラッチ56は、後進伝動軸53に一体回転及び摺動操作自在に支持された後進クラッチ体56aと、後進クラッチ体56aの一端側と入力ギヤ55の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体56bとを備えて構成してある。後進クラッチ体56aは、後進クラッチ体56aの端部に内嵌された油圧ピストン59によって摺動操作される。クラッチ機構本体56bは、後進クラッチ体56aに設けた噛合い爪と入力ギヤ55に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0048】
前後進切換え機構50は、前進クラッチ52が入り状態に切換え操作され、後進クラッチ56が切り状態に切換え操作されることにより、前進伝動状態になり、入力軸22のエンジン連結側と油圧
式無段変速機連結側の間に位置する前進クラッチ体52aから入力軸22の駆動力を入力し、入力軸22の駆動力を前進駆動力に変換して前進伝動ギヤ51から遊星伝動部40のキャリヤ41に伝達する。
【0049】
前後進切換え機構50は、前進クラッチ52が切り状態に切換え操作され、後進クラッチ56が入り状態に切換え操作されることにより、後進伝動状態になり、入力軸22のエンジン連結側と油圧
式無段変速機連結側の間に位置する伝動ギヤ54から入力軸22の駆動力を入力し、入力軸22の駆動力を後進駆動力に変換して後進伝動ギヤ57から遊星伝動部40のキャリヤ41に伝達する。
【0050】
前後進切換え機構50は、前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切り状態に切換え操作されることにより、中立状態になり、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41との連動を絶つ。
【0051】
遊星伝動部40のサンギヤ42と遊星側連動体26とに亘り、伝動軸23に外嵌されたクラッチ体61を備えた出力側のクラッチ機構60を設けてある。
【0052】
クラッチ体61は、クラッチ体61の内周側に形成してある油室に圧油が供給されることにより、入り付勢ばね62
(本発明の「付勢ばね」に相当する)に抗してサンギヤ42に向けて摺動操作されて切り位置に切り換わり、油室から圧油が排出されることにより、入り付勢ばね62によって遊星側連動体26に向けて摺動操作されて入り位置に切り換わる。
即ち、クラッチ体61は、不図示の油圧機構による圧油の給排によって伝動軸23に沿ってスライド移動する。クラッチ体61は、入り位置に切り換わると、クラッチ体61に設けてあるクラッチ爪61a
(本発明の「第二係合爪」に相当する)と遊星側連動体26に設けてあるクラッチ爪とが係合して、遊星側連動体26に対して一体回転自在に連結する。クラッチ体61は、サンギヤ42に対して係合爪61b
(本発明の「第一係合爪」に相当する)によって一体回転自在に係合した状態を維持しながら摺動操作され、サンギヤ42に対する係合状態を維持しながら入り位置になる。
つまり、係合爪61bは、伝動軸23に沿ってサンギヤ42側に向けて突出され、サンギヤ42との係合を常時維持する。クラッチ体61は、切り位置に切り換わると、クラッチ爪61aによる遊星側連動体26に対する係合を解除する。
つまり、クラッチ爪61aは、伝動軸23に沿って遊星側連動体26側に向けて突出され、クラッチ体61のスライド移動によって遊星側連動体26と係合可能である。係合爪61b及びクラッチ爪61aは、クラッチ体61の外周部に設けられている。係合爪61bとクラッチ爪61aとは、クラッチ体61のうち、伝動軸23の外周部から径方向に略同じ距離離れた位置に設けられている。入り付勢ばね62は、係合爪61bの内周側部分と伝動軸23の外周部との間に形成された空間Sに、サンギヤ42とクラッチ体61とに亘る状態で設けられている。
【0053】
したがって、出力側のクラッチ機構60は、クラッチ体61が切り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26の連動を絶つことで、モータ軸33aの出力回転体24に対する連動を絶ち、この状態において遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24が一体回転自在に連動する第1伝動状態を現出し、遊星伝動部40の合成駆動力の出力回転体24からの出力を可能にする。
【0054】
出力側のクラッチ機構60は、クラッチ体61が入り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26を一体回転自在に連動させることで、モータ軸33aを出力回転体24に一体回転自在に連動させる第2伝動状態を現出し、油圧
式無段変速機30による出力の出力回転体24からの出力を可能し、かつ、サンギヤ42と伝動軸23が一体回転自在に連動し、リングギヤ44と遊星側連動体26が一体回転自在に連動していることにより、遊星ギヤ43の自転が発生しないように、サンギヤ42と遊星ギヤ43とリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転することを可能にする。
【0055】
したがって、遊星伝動部40は、前後進切換え機構50が前進伝動状態に切換え操作され、出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22から前後進切換え機構50を介して前進駆動力をキャリヤ41に入力し、油圧
式無段変速機30のモータ軸33aからの出力を伝動軸23を介してサンギヤ42に入力し、入力軸22からの前進駆動力と油圧
式無段変速機30の出力とを合成して前進側の合成駆動力を発生させ、発生させた前進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に出力する。
【0056】
遊星伝動部40は、前後進切換え機構50が後進伝動状態に切換え操作され、出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22から前後進切換え機構50を介して後進駆動力をキャリヤ41に入力し、油圧
式無段変速機30のモータ軸33aからの出力を伝動軸23を介してサンギヤ42に入力し、入力軸22からの前進駆動力と油圧
式無段変速機30の出力とを合成して後進側の合成駆動力を発生させ、発生させた後進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に出力する。
【0057】
遊星伝動部40は、前後進切換え機構50が中立状態に操作されることにより、入力軸22に対する連動を絶たれた状態になる。
【0058】
図6は、油圧式無段変速機30、前進クラッチ52、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60の操作状態と変速伝動装置20の伝動形態との関係を示す説明図である。
図6に示す「前進」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態を示し、「後進」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態を示す。
図6に示す「切」は、前進クラッチ52、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60の切り状態を示し、「入」は、前進クラッチ52、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60の入り状態を示す。
図3は、HSTモード伝動を現出する状態での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。
【0059】
図3は、HSTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。
図3,6に示すように、変速伝動装置20は、前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に切換え制御されると、HSTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、HSTモード伝動の状態になると、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を遊星伝動部40に伝達せず、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を油圧式無段変速機30によって変速し、変速後の駆動力をモータ軸33aから伝動軸23、サンギヤ42、クラッチ体61、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0060】
図4は、前進側のHMTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。
図4,6に示すように、変速伝動装置20は、前進クラッチ52が入り状態に切換え制御され、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御されると、前進側のHMTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、前進側のHMTモード伝動になると、入力軸
22によって入力されたエンジン駆動力を前後進切換え機構50によって前進駆動力に変換して遊星伝動部40に伝達し、遊星伝動部40によって前後進切換え機構50からの前進駆動力と油圧式無段変速機30のモータ軸33aからの出力とを合成して前進側の合成駆動力を発生させ、発生した前進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0061】
図5は、後進側のHMTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。
図5,6に示すように、変速伝動装置20は、後進クラッチ56が入り状態に切換え制御され、前進クラッチ52及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御されると、後進側のHMTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、後進側のHMTモード伝動になると、入力軸
22によって入力されたエンジン駆動力を前後進切換え機構50によって後進駆動力に変換して遊星伝動部40に伝達し、遊星伝動部40によって前後進切換え機構50からの後進駆動力と油圧式無段変速機30のモータ軸33aからの出力とを合成して後進側の合成駆動力を発生させ、発生した後進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0062】
図7は、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態における油圧式無段変速機30の変速状態と変速伝動装置20の出力回転体24による出力速度との関係を示す説明図である。
図7の横軸は、油圧式無段変速機30の変速状態を示し、「n」は、油圧式無段変速機30の中立位置を示し、「−max」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態での最高速位置を示し、「+max」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態での最高速位置を示す。
図7の縦軸は、出力回転体24による出力速度を示す。
図7に示す実線RL及び実線FLは、前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切リ状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20がHSTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。
図7に示す実線FM,FHは、前進クラッチ52が入り状態に切り換え制御され、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20が前進側のHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。
図7に示す実線RM,RHは、後進クラッチ56が入り状態に切り換え制御され、前進クラッチ52及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20が後進側のHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。
【0063】
図6に示すように、かつ
図7の実線FLで示すように、前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切り状態に制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に制御された状態において、油圧式無段変速機30が中立位置「n」に操作されると、出力が零「0」になる。
【0064】
前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されると、前進駆動力が出力される。前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力が無段階に増速する。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力速度が前進の中間速度「FV1」になる。
【0065】
図6に示すように、かつ
図7の実線FM,FHで示すように、油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、前進クラッチ52が入り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御され、前進クラッチ52が入り状態に維持されながら、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に維持されながら、油圧
式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力が中間速度「FV1」から無段階に増速する。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、出力が前進の最高速度「FV2」になる。
【0066】
図6に示すように、かつ
図7の実線RLで示すように、前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されると、後進駆動力が出力される。前進クラッチ52及び後進クラッチ56が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力が無段階に増速する。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、出力速度が後進の中間速度「RV1」になる。
【0067】
図6に示すように、かつ
図7の実線RM,RHで示すように、油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、後進クラッチ56が入り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御され、後進クラッチ56が入り状態に維持されながら、前進クラッチ52及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に維持されながら、油圧
式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力が中間速度「RV1」から無段階に増速する。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力が後進の最高速度「RV2」になる。
【0068】
図7に示す「N」は、実線FH,FMを油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」を超えて出力回転が零「0」となる点まで延長したときの横軸の値を示す。油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」の横軸の値を1とすると、N=1.6〜2.2となる。つまり、N=1.6〜2.2となるように、油圧式無段変速機30における油圧ポンプ32及び油圧モータ33の容量、並びに遊星伝動部40の伝動ギヤ比を設定してある。
【0069】
図8は、変速伝動装置20を変速操作する変速操作装置71を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置71は、油圧式無段変速機30の変速操作部30a、並びに前進クラッチ52、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60の操作部52c,56c,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された変速検出センサ73、エンジン回転数センサ74、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76とを備えている。
【0070】
変速操作部30aは、油圧式
無段変速機30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう電動アクチュエータ又は油圧アクチュエータによって構成してある。前進クラッチ52の操作部52cは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン58に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン58を操作して前進クラッチ体52aを摺動操作することにより、前進クラッチ52を切り換え操作する。後進クラッチ56の操作部56cは、後進伝動軸53の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン59に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン59を操作して後進クラッチ体56aを摺動操作することにより、後進クラッチ56を切り換え操作する。出力側のクラッチ機構60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作して出力側のクラッチ機構60を切り換え操作する。
【0071】
変速検出センサ73は、変速レバー77の操作位置を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。変速機出力回転数センサ75は、油圧式無段変速機30の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数センサ76は、変速伝動装置20の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
【0072】
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78を備えている。変速制御手段78は、変速検出センサ73及び変速機出力回転数センサ75による検出情報を基に、油圧式無段変速機30の変速状態が変速レバー77の操作位置に対応したものになるように、変速操作部30aを操作して油圧式無段変速機30を変速制御する。
【0073】
変速制御手段78は、油圧式無段変速機30を変速制御するに加え、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果、変速検出センサ73、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76による検出情報を基に、
図6,7に示す如く変速伝動装置20がHSTモード伝動、前進側のHMTモード伝動及び後進側のHMTモード伝動を現出して伝動するように、操作部52c、操作部56c及び操作部60aを操作して前進クラッチ52、後進クラッチ56及び出力側のクラッチ機構60を所定のタイミングで切り換え制御する。
【0074】
〔別実施構造〕
図9は、別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、別実施構造を備えた変速伝動装置20では、油圧式無段変速機30に補充用の作動油を供給するチャージポンプ90を、ポンプ軸32aの端部に装備してある。チャージポンプ90は、ポンプ軸32aに一体回転自在に連結したロータ90a、及びケーシング31に脱着自在に連結したポンプケーシング90bを備えている。
【0075】
〔別実施例〕(1)上記した実施例では、前進伝動状態における入力軸22からキャリヤ41への伝動比と、後進伝動状態における入力軸22からキャリヤ41への伝動比とが同じ又はほぼ同じになるよう前後進切換え機構50を構成した例を示したが、前進伝動状態における入力軸22からキャリヤ41への伝動比と、後進伝動状態における入力軸22からキャリヤ41への伝動比とが異なるよう構成した前後進切換え機構を採用して実施してもよい。この場合、後進側のHMTモード伝動での出力速度を示す実線RM,RHと、前進側のHMTモード伝動での出力速度を示す実線FM,FHとの横軸に対する傾斜角が同一になるとか異なることになり、後進出力の最高速度と前進出力の最高速度が同一になるとか異なることになる。
【0076】
(2)上記した実施例では、後進クラッチ56を入力ギヤ55と後進伝動軸53とに亘って設けた例を示したが、入力ギヤ55を後進伝動軸53に一体回転自在に支持し、後進伝動ギヤ57を後進伝動軸53に相対回転自在に支持し、後進伝動ギヤ57と後進伝動軸53とに亘って後進クラッチ56を設けて実施してもよい。
【0077】
(3)上記した実施例では、前進クラッチ52、後進クラッチ56、出力側のクラッチ機構60を噛合い式のクラッチによって構成した例を示したが、摩擦式のクラッチによって構成して実施してもよい。
【0078】
(4)上記した実施例では、前後進切換え機構50からの前進駆動力及び後進駆動力を遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、遊星伝動部40のリングギヤ44の駆動力を出力回転体24に伝達するよう構成した例を示したが、前後進切換え機構50からの前進駆動力及び後進駆動力を遊星伝動部40のリングギヤ44に入力し、遊星伝動部40のキャリヤ41の駆動力を出力回転体24に伝達するよう構成して実施してもよい。
【0079】
(5)上記した実施例では、油圧モータ33を可変容量形に構成した例を示したが、固定容量形に構成して実施してもよい。