特許第5925292号(P5925292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925292
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】新規衝撃補強アクリル系材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20160516BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20160516BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20160516BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   C08L53/00
   C08K3/00
   C08L33/04
   B32B27/30 A
【請求項の数】32
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-503196(P2014-503196)
(86)(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公表番号】特表2014-511921(P2014-511921A)
(43)【公表日】2014年5月19日
(86)【国際出願番号】FR2012050745
(87)【国際公開番号】WO2012136941
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】1101046
(32)【優先日】2011年4月7日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブテイイエ,ジヤン−マルク
(72)【発明者】
【氏名】デイソン,ジヤン−ピエール
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−274131(JP,A)
【文献】 特表2003−528750(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0226872(US,A1)
【文献】 特表2011−506653(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0272960(US,A1)
【文献】 特開2010−143132(JP,A)
【文献】 特開2003−277574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08F6−246、293、297
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーで構成されるマトリックス、および
少なくとも1種の高度架橋アクリル系コポリマー
を含むクリル系材料であって、
前記少なくとも1種の高度架橋アクリル系コポリマーは40から70ミクロンの平均サイズを有するポリマー粒子からなり、前記高度架橋アクリル系コポリマーおよび前記ブロックコポリマーの粒子の屈折率の差が20℃にて0.02単位を超え、前記材料は半透明およびフロスト状外観を呈する、材料
【請求項2】
シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、酸化チタンから選ばれる無機充填剤および顔料をさらに含む、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
60重量%から99重量%マトリックスを、40重量%から1重量%高度架橋コポリマーに対して含む、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
70重量%から97重量%のマトリックスを、30重量%から3重量%の高度架橋コポリマーに対して含む、請求項3に記載の材料。
【請求項5】
75重量%から90重量%のマトリックスを、25重量%から10重量%の高度架橋コポリマーに対して含む、請求項4に記載の材料。
【請求項6】
マトリックスが一般式(A)Bを有する少なくとも1種の熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーで構成され、式中:
nは、1以上の整数であり、
Aは:50℃を超えるTgを有するアクリル系もしくはメタクリル系ホモもしくはコポリマー、またはポリスチレン、もしくはアクリル系/スチレンもしくはメタクリル系/スチレンコポリマーであり、
Bは、20℃未満のTgを有するアクリル系またはメタクリル系ホモまたはコポリマーである
請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
ブロックAが、80℃を超えるTgを有するアクリル系もしくはメタクリル系ホモもしくはコポリマーである、請求項6に記載の材料。
【請求項8】
ブロックBのアクリル系またはメタクリル系ホモまたはコポリマーが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレートまたはブチルメタクリレートから成る、請求項6または7に記載の材料。
【請求項9】
ブロックBのアクリル系またはメタクリル系ホモまたはコポリマーが、ブチルアクリレートから成る、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
ブロックAがメチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートまたはイソボルニルメタクリレートである、請求項6から9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
ブロックAがPMMAまたは、アクリル系またはメタクリル系コモノマーによって修飾されたPMMAである、請求項6から10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
マトリックスが熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーに加えて、PMMA、ABSおよびTPUから選ばれる少なくとも1つの他の熱可塑性ポリマーを含む、請求項1から11の一項に記載の材料。
【請求項13】
熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーが以下のトリブロックコポリマー:pMMA−pBuA−pMMA、p(MMAcoMAA)−pBuA−p(MMAcoMAA)およびp(MMAcoAA)−pBuA−p(MMAcoAA)から選ばれる、請求項から12の一項に記載の材料。
【請求項14】
さらに、少なくとも1つのアクリル系ポリマー添加剤を含み、3重量%から30重量%の高度架橋アクリル系コポリマーおよび92重量%から30重量%のマトリックスに対して、5重量%から40重量%の前記アクリル系ポリマー添加剤から成り、ここで、前記アクリル系ポリマー添加剤は、20%から80%のMMA、20%から80%のBMAおよび0%から15%のMAAまたはAAから成り、40000から100000g/molの間の重量平均分子量を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の材料。
【請求項15】
10重量%から25重量%の高度架橋アクリル系コポリマーおよび85重量%から55重量%のマトリックスに対して、5重量%から20重量%のアクリル系ポリマー添加剤から成る、請求項14に記載の材料。
【請求項16】
アクリル系ポリマー添加剤が、50%から80%のMMA、50%から20%のBMAおよび0%から15%のMAAまたはAAから成る、請求項14または15に記載の材料。
【請求項17】
少なくとも1種の高度架橋アクリル系コポリマーが、99.9重量%から50重量%のMMA、0重量%から50重量%のラジカル経路によってMMAと共重合することができるコモノマーおよび0.1重量%から2.5重量%の架橋剤を含むポリマーの粒子から成る、請求項1から16のいずれか一項に記載の材料。
【請求項18】
60°の角度で測定して、20未満の光沢を呈する、請求項17に記載の材料。
【請求項19】
60°の角度で測定して、10未満の光沢を呈する、請求項18に記載の材料。
【請求項20】
500MPaから1800MPa未満の曲げ弾性率、およびEN ISO179−1規格に従って23℃にて測定して、少なくとも6kJ/mのノッチ付きシャルピー衝撃強度を呈する、請求項17または18に記載の材料。
【請求項21】
1500MPa未満の曲げ弾性率を呈する、請求項20に記載の材料。
【請求項22】
高度架橋アクリル系コポリマーが45から55ミクロンの平均サイズを有するポリマー粒子から成る、請求項1から21のいずれか一項に記載の材料。
【請求項23】
請求項1から22の一項に記載のアクリル系材料を含む物品であって、フィルム、部品、プロファイル加工要素、シートまたはパネルの形である、物品。
【請求項24】
請求項23に記載の物品を製造する方法であって、射出成形、押出、同時押出しまたは押出/ブロー成形から選ばれる操作を含む、方法。
【請求項25】
基材コーティングとしての請求項1から22の一項に記載のアクリル系材料の使用であって、前記材料と基材とを同時押出する段階または基材上に前記材料から成るフィルムを積層する段階を含む、使用。
【請求項26】
基材が高衝撃性であるしくは高衝撃性でないPMMA;PET、PETgもしくはPBTから選択される飽和ポリエステル;ABSSANASA結晶性もしくは高衝撃性PS;ポリプロピレンもしくはポリエチレンから選択されるPO;ポリカーボネートPPOTPOポリスルホン;PVC、CPVCもしくは発泡PVCから選択される塩化ビニルをベースとするポリマー;PUTPUまたはポリアセタールから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含む、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
間層がアクリル系材料と前記基材との間に位置している、請求項25または26に記載の使用。
【請求項28】
基材が高衝撃性PS、TPOおよびPOで作られている場合に、中間層がアクリル系材料と前記基材との間に位置している、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
請求項1から22の一項に記載の材料から成る第1層および熱可塑性ポリマー材料で作られた少なくとも1つの基材を含む第2層を含む多層構造体。
【請求項30】
本発明による材料が全厚の1%から20%相当する、請求項29に記載の多層構造体。
【請求項31】
本発明による材料が全厚の2%から15%に相当する、請求項30に記載の多層構造体。
【請求項32】
基材が高衝撃性であるしくは高衝撃性でないPMMA;PET、PETgもしくPBTから選択される飽和ポリエステル;ABSSANASA結晶性もしくは高衝撃性PS;ポリプロピレンポリエチレンポリカーボネートPPOTPOポリスルホン;PVC、CPVCもしくは発泡PVCから選択される塩化ビニルをベースとするポリマー;PUTPUまたはポリアセタールから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含む、請求項29から31のいずれか一項に記載の多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、半剛性または可撓性低光沢衝撃補強アクリル系材料である。該材料の低光沢性は、繻子様またはつや消し質感フロスト状外観を該材料に与えることによって得られる。本材料は、高度架橋アクリル系コポリマーが分散されているナノ構造アクリル系ブロックコポリマーをベースとするマトリックスを含む。これらの粒子は、懸濁重合法によって製造されるときには、場合によりビーズと呼ばれる。本発明は、柔感触を有する多様な物品の製造における、および他の材料のコーティングとしての前記材料の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに、フロスト状またはつや消し外観を有するアクリル系材料は、わずかに修飾されていてもよいPMMAから:
可撓性コア/剛性シェル構造を有する衝撃改質剤の導入;または
例えば熱安定性を改善することを可能にするアクリレート、もしくは温度安定性を改善することを可能にするアクリル酸もしくはメタクリル酸などのコモノマーの包含のどちらかによって、常に得られてきた。
【0003】
EP 1 022 115は、PMMAベースマトリックスおよび高度架橋MMAベースポリマー粒子を含む、つや消し外観および質感仕上げを有する押出ポリマー物品について記載している。
【0004】
EP 2 089 473は、架橋MMAベース熱可塑性ポリマーの粒子が分散されているMMAホモポリマーまたはコポリマーを含むメタクリル系組成物の調製について記載している。
【0005】
これらの材料は、架橋アクリル系ビーズを溶融状態のPMMAマトリックスに分散させること(調合)によって製造される。得られた材料は、光を散乱すると同時に、光を通過させる(例えばフロスト状外観を有するシャワー室)。該材料は、UV放射にも高耐性である。しかし、これらの材料は非常に剛性であり、衝撃強度が不十分であるという欠点を有する。さらに、架橋アクリル系ビーズのサイズは、最終生成物の粗度に直接影響を及ぼす。
【0006】
このため光導波管の分野または他の材料のコーティングの分野におけるアクリル系材料の開発は、現行の材料の剛性および脆性によって制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1022115号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2089473号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、低光沢アクリル系材料に、これの衝撃強度を改善することによって、またはなお「可撓性」のアクリル系材料を製造することによって、新規特性を導入することが望ましい。この種の材料は、材料の設計(照明)およびコーティングの分野で新規用途を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明の主題は、第1の態様により:
少なくとも1種の熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーで構成されているナノ構造化マトリックス、および
少なくとも1種の高度架橋アクリル系コポリマーを含む、半剛性または可撓性アクリル系材料である。
【0010】
この組合せが一群の新規特性を示す材料を生成する効果を有するのは、該材料が同時に可撓性、高い衝撃耐性、非光沢性およびUV放射耐性であり、予想外であるが、ひとたび処理されると、軟質材料(ナノ構造化マトリックス)と別の超硬質材料(高度架橋アクリル系コポリマー)との間で産生されたブレンドにより、非常に快適であり、多かれ少なかれ顕著である柔感触を有する表面を有するためである。
【0011】
これらの材料は、射出成形、押出、同時押出または押出/ブロー成形によって、例えば部品、プロファイル加工要素、シートまたはフィルムの作製のために変形することができる。
【0012】
該生成物は、有利にはコーティングまたは他の材料として使用できる。例えば、同時押出またはフィルムの基材上への積層の技法を使用してもよい。例えば、光学用途で使用できるプロファイル加工要素を生産することも可能である。
【0013】
本発明によるアクリル系材料から成る第1層および熱可塑性ポリマー材料で作られた少なくとも1つの基材を含む第2層を含む多層構造体を製造することも可能である。
【0014】
本発明をここで詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1990年代初めにかけて、アニオン重合および制御ラジカル重合によってアクリル系ブロックコポリマー、例えばポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレート(PMMA−pBuA)もしくはポリメチルメタクリレート−ポリブタジエン型のジブロックを、またはポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレート−ポリメチルメタクリレートもしくはポリスチレン−ポリブタジエン−ポリメチルメタクリレート型のトリブロックをも合成することが可能となった。
【0016】
ランダムコポリマーと比較して、ブロックコポリマーによって、特にブロックそれぞれによって形成された多様な相の2、3ナノメートルのドメイン中の組織を用いて、新規の形態を得ることが可能になる。これらの組織は例えばMacromolecules,Vol.13,No.6,1980,pp.1602−1617に、またはMacromolecules,vol.39,No.17,2006,pp.5804−5814にも記載されている。この種の組織は「ナノ構造化」と呼ばれる。
【0017】
本発明は、第1の態様により:
少なくとも1種の熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーを含むナノ構造化マトリックス、および
少なくとも1種の高度架橋アクリル系コポリマー
を含む、半剛性または可撓性アクリル系材料に関する。
【0018】
予想外であるが、軟質粘着性材料と架橋アクリル系コポリマーとの、ならびに場合により無機充填剤との組合せにより、この材料から得られた完成生成物には、独自の一群の特性が、特に柔感触効果を与える特定の表面粗度と共に付与される。従来技術より公知の標準高衝撃性PMMAと比べて、本発明による生成物は、これの高いメルトフローのために加工も非常に容易であるという利点を呈する。
【0019】
マトリックスは、少なくとも1種の熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーを含む。第1の実施形態により、前記マトリックスは、一般式(A)Bを有する少なくとも1種の熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーで構成され、式中:
nは、1以上の整数であり、
Aは:50℃を超える、好ましくは80℃を超えるTgを有するアクリル系もしくはメタクリル系ホモもしくはコポリマー、またはポリスチレン、もしくはアクリル系/スチレンもしくはメタクリル系/スチレンコポリマーである。好ましくは、Aは、メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートまたはイソボルニルメタクリレートである。好ましくは、ブロックAは、アクリル系またはメタクリル系コモノマーによって修飾されたPMMAまたはPMMAであり;
Bは、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレートまたはブチルメタクリレート、より好ましくはブチルアクリレートから成る、20℃未満のTgを有するアクリル系またはメタクリル系ホモまたはコポリマーである。
【0020】
さらに、ブロックAおよび/またはBは、当業者に公知の多様な化学官能基、例えば酸、アミド、アミン、ヒドロキシル、エポキシまたはアルコキシ官能基を持つ、他のアクリルまたはメタクリルコモノマーを含むことができる。ブロックAは、ブロックAの温度安定性を向上させるために、アクリル酸またはメタクリル酸などの基を含むことができる。
【0021】
好ましくは、前記マトリックスは:ABA、AB、ABおよびABから選ばれる構造を有する。
【0022】
好ましくは、熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーは、以下のトリブロックコポリマー:pMMA−pBuA−pMMA、p(MMAcoMAA)−pBuA−p(MMAcoMAA)およびp(MMAcoAA)−pBuA−p(MMAcoAA)から選ばれる。好ましい実施形態において、ブロックコポリマーはMAM型(PMMA−pBuA−PMMA)のものである。
【0023】
当業者には、PMMA型のポリマーが、これの温度安定性を改善するために少量のアクリレートコモノマーを含有可能であることが公知である。
【0024】
ブロックBは、ブロックコポリマーの総重量の25%から75%、好ましくは40%から65%に相当する。
【0025】
ブロックBは、10000g/molから300000g/molの間の、好ましくは20000g/moから150000g/molの重量平均モル質量を有する。
【0026】
別の実施形態により、前記マトリックスは、上記の一般式(A)Bを有する熱可塑性アクリル系ブロックコポリマーに加えて、PMMA、ABSおよびTPUから選ばれる少なくとも1種の他の熱可塑性ポリマーを含む。特に好ましいマトリックスは、5重量%から90重量%のPMMA、好ましくは10重量%から50重量%の、および有利には10重量%から30重量%のPMMAを含む、MAMおよびPMMAの組合せである。
【0027】
マトリックスの組成に関与するブロックコポリマーは、制御ラジカル重合(CRP)またはアニオン重合によって得ることができる;製造されるコポリマーの種類に従って最も好適な方法が選ばれる。好ましくは、この方法は、(A)B型のブロックコポリマーでは、特にニトロオキシドの存在下でのCRPとなり、ABA型の構造、例えばトリブロックコポリマーMAMでは、アニオンまたはニトロオキシドラジカル重合となる。
【0028】
前記アクリル系マトリックスはさらに、少なくとも1種の架橋アクリル系コポリマーを含む。
【0029】
高度架橋アクリル系コポリマーの粒子は、懸濁重合によって、特にラジカル懸濁重合によって調製され、球形状または実質的に球形状をもたらす。この調製によって、粒子のサイズおよびこれの形状を制御することと、これのサイズ分布を狭くすることとが可能となる。
【0030】
高度架橋アクリル系コポリマーは、単独のモノマーとしてまたは主要なモノマーとしてMMAを含み、即ち高度架橋アクリル系コポリマーは50重量%を超える、有利には65重量%を超えるMMAを含む。前記アクリル系コポリマーはこのため、PMMAまたはMMAおよびラジカル経路によってMMAと共重合することができる少なくとも1種のコモノマーのコポリマーのどちらかである。該コモノマーはビニル芳香族、例えばスチレンもしくはアルファ−メチルスチレンおよび/または(メタ)アクリル系モノマーであることができる。コモノマーが存在する場合、コモノマーの含有率は、最大でアクリル系コポリマーの重量の50%に達する。
【0031】
架橋は、例えばアリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンまたはジもしくはトリメタクリレート、例えばポリエチレングリコールジメタクリレートであることができる、少なくとも1種の架橋剤を使用することによって得られる。アクリル系コポリマーの粒子は、アクリル系マトリックスとの調合中に粒子の完全性を維持するために、高度に架橋されている。「高度架橋された」という用語は、本明細書において、アクリル系コポリマーの粒子が極性溶媒、例えばテトラヒドロフランまたは塩化メチレンに不溶性であることを意味する。
【0032】
アクリル系コポリマー中の架橋モノマーの重量含有率は、前記コポリマーの重量の少なくとも0.5%、好ましくは0.8%を超えて2.5%にまで及ぶ。
【0033】
ASTM D 1921法に従って測定した高度架橋アクリル系コポリマーの粒子は、10から500マイクロメートルの間の、好ましくは10から70ミクロンの間の平均サイズを有する。これらの粒子は、ブロックアクリル系コポリマーのマトリックス中に分散する間にこれの完全性を保持する個々の粒状物、または処理される間にこれの基本サイズまで分割される基本粒状物の凝集体のどちらかから成ることができる。この基本サイズは例えば、出発粒子または最終物質に対する顕微鏡による技法によって確認できる。これらの基本粒状物のサイズは、1から100μmまで、好ましくは3から50μmまで変化することができる。
【0034】
前記少なくとも1種の高度架橋アクリル系コポリマーは:0から50重量%の(複数の)コモノマー、99.9から50重量%のMMAおよび0.1から2.5重量%の架橋剤を含むポリマーの粒子から成る。
【0035】
本発明によるアクリル系材料は、60重量%から99重量%の、有利には70重量%から97重量%の、好ましくは75重量%から90重量%のマトリックスを、40重量%から1重量%の、有利には30重量%から3重量%の、好ましくは10重量%から25重量%の高度架橋アクリル系コポリマーに対して含む。
【0036】
この材料は、高度架橋アクリル系ビーズを溶融状態の前記ナノ構造化マトリックス中に分散させること(調合)によって得られる。この段階は、熱可塑性化合物を製造するための、当業者に公知の技法、例えば内部ミキサー、単軸もしくは2軸押出またはカレンダー加工の使用によって行うことができる。
【0037】
本発明による材料の弱光沢外観は、これの表面の光沢によって特徴付けることができる。相互に対して平行に反射される入射光線が少ないほど、物質は光沢が弱くなる。入射光線が全方向に反射される場合、表面外観はつや消しであり、実際にはフロスト状でさえである。本発明によるアクリル系材料は、60°の角度で測定して、20未満の、好ましくは10未満の光沢を呈する。
【0038】
所与の方法および処理条件では、ならびに所与のブレンドでは、本発明によるアクリル系材料の外観は、粒子のサイズおよび種類に、ならびにブロックコポリマーの組成に応じて変わる。
【0039】
このため、可撓性に関しては、ブロックB中のアクリル系コポリマーが多いほど、またはブロックアクリル系コポリマー中のPMMA/ブロックアクリル系コポリマーが多いほど、材料はより可撓性となる。粗度およびゆえに「感触」の側面に関しては、高度架橋アクリル系コポリマーの粒子が大きいほど、および/または20℃未満のTgを有するアクリル系もしくはメタクリル系ホモもしくはコポリマー中のブロックコポリマーが多いほど、本発明による材料は、より高い表面粗度を呈する。
【0040】
本発明による材料は、高度架橋アクリル系コポリマーの粒子の基本粒状物が1から40μm、好ましくは3から30μm、より好ましくは10から25μmのサイズを有する場合に、半透明およびつや消し外観を呈する。本発明による材料は、高度架橋アクリル系コポリマーの粒子が40から70μm、好ましくは45から55μmのサイズを有し、アクリル系コポリマーおよびブロックコポリマーの粒子の屈折率の差が20℃にて0.02単位を超える場合に、半透明およびフロスト状外観を呈する。これらの屈折率は、ISO 489試験により測定する。
【0041】
本発明によるアクリル系材料は、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、酸化チタンから選ばれる無機充填剤を、および材料を着色するために使用する顔料をも含むことができる。それにもかかわらず、無機充填剤は強い不透明化を引き起こすことが多く、このため、本発明による材料においてある程度の(接触)透明性を保持することが望ましい場合は、無機充填剤の使用が回避される。
【0042】
上述のベース構成要素には、関係するナノ構造化PMMAマトリックスに適した他の添加剤を追加することができる。これらの添加剤は、抗酸化剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、UV吸収剤または静電気防止剤であることができる。添加剤がポリマー、例えばPVDFまたはPEBAX型のポリエーテル/ポリアミドブロックを含むコポリマーであることは除外されない。添加剤は特に、20%から80%のMMA、80%から20%のBMAおよび0%から15%のMAAまたはAAを含む少なくとも1つのアクリル系コポリマーであることができる。好ましくは、このアクリル系コポリマーは、50%から80%のMMAおよび5%から20%のBMAで構成される。このアクリル系コポリマーは、40000から300000の間の、好ましくは40000から100000の間の分子量を有する。アクリル系コポリマーが組成物に添加される場合、ここで本発明による材料は、5重量%から40重量%のアクリル系コポリマー、好ましくは5重量%から20重量%の、3重量%から30重量%の、好ましくは10重量%から25重量%の高度架橋アクリル系コポリマーおよび92重量%から30重量%の、好ましくは85重量%から55重量%の、ナノ構造化アクリル系ブロックコポリマーで構成されたマトリックスを含む。アクリル系コポリマーは好ましくは、前記組成物のスチレン基材、例えば結晶PS(ポリスチレンホモポリマー)もしくは高衝撃性PSまたはこれらの2種類のPSnブレンドへの接着を改善するために、組成物に添加される。高衝撃性PSは、PSマトリックス中に一般にノジュールと呼ばれる粒子の形で分散されているのが見出されるゴム、例えばポリブタジエンまたはEPDMの添加により、衝撃に対して補強されているPSを意味すると理解される。
【0043】
有利には、本発明によるアクリル系材料は、半剛性の、実際には可撓性でさえある性質を呈し、同時に非常に良好な衝撃強度および非常に良好なUV放射耐性を保持している。本発明に関連して、半剛性材料は500MPaから1800MPa未満の、好ましくは1500MPa未満の曲げ弾性率を特徴とするのに対して、可撓性材料は、ISO 178規格に従って測定された、10から500MPa未満の曲げ弾性率を呈する。
【0044】
本発明によるアクリル系材料は、EN ISO 179−1規格に従って23℃にて測定したように、少なくとも6kJ/mのノッチ付きシャルピー衝撃強度も特徴とする。
【0045】
これらの材料は、射出成形、押出、同時押出または押出/ブロー成形によって、例えば部品、プロファイル加工要素、シート、パネルまたはフィルムの作製のために変形することができる。
【0046】
該生成物は有利には、他の材料上へのコーティングとして使用できる。例えば、基材上へのフィルムの同時押出または積層の技法を使用することができる。例えば、光学用途で使用できるプロファイル加工要素を生産することも可能である。
【0047】
本発明によるアクリル系材料から成る第1層および熱可塑性ポリマー材料で作られた少なくとも1つの基材を含む第2層を含む多層構造体を製造することも可能である。これらの構造体において、本発明による材料は、全厚の1%から20%、好ましくは2%から15%に相当する。
【0048】
本発明による材料が基材上に同時押出または積層される場合、基材は例えば飽和ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート、PETもしくはPETgもしくはポリブチレンテレフタレートPBT、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー)、SAN(スチレン/アクリロニトリルコポリマー)、ASA(アクリル/スチレン/アクリロニトリルコポリマー)、ポリスチレンPS(結晶性もしくは高衝撃性)、TPO(熱可塑性ポリオレフィン)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシドPPO、ポリスルホン、塩化ビニルのポリマー、例えばPVC、塩素化PVC(CPVC)もしくは発泡PVC、PU、TPU、ポリアセタールまたは高衝撃性PMMAであるもしくは高衝撃性PMMAではないPMMAであることができる。基材は、上のリストからの2種以上の熱可塑性ポリマーのブレンドであることもできる。例えば基材はPPO/PSまたはPC/ABSブレンドであることができる。基材が結晶性または高衝撃性PSである場合、本発明による材料は、有利には添加剤として、20%から80%のMMA、20%から80%のBMAおよび0%から15%のMAAまたはAAで構成される、5%から40%のアクリル系コポリマーを含むことができる。
【0049】
特に結晶性または高衝撃性PS、TPOおよびPOで作られた基材の場合は、接着性を改善するために、別のポリマーが基材と本発明による生成物との間に存在することができる。
【0050】
本発明はここで、本発明の範囲を限定しない実施例によって例証される。
【実施例】
【0051】
低光沢系は、後述するコポリマーおよび手順から調製した。
【0052】
[実施例1]
ポリマーおよびコポリマー
【0053】
【表1】
【0054】
ナノ構造化アクリル系ブロックコポリマーは、制御ラジカル重合により、アルケマが販売しているアルコキシアミンであるブロックビルダー(登録商標)MAを使用して得た。コポリマーは、コポリマーの組成に応じて、1.48から1.485の間の屈折率を呈する。
【0055】
使用した高度架橋アクリル系コポリマーのビーズは、アルトグラスインターナショナルによって、参照番号BS110およびBS130で販売されている製品である。ビーズBS130は平均サイズ20μmを呈し、粒子の90%が30μm未満のサイズを有し、1.49の屈折率を呈する。ビーズBS110は35から60μmの間の平均サイズを呈し、1.52の屈折率を呈する。これらは、単一の粒状物の形の粒子であって、より細かい粒状物の凝集体ではない。
【0056】
[実施例2]
ブロックアクリル系コポリマーおよび高度架橋コポリマーのビーズを含むブレンドまたは化合物の調製
表2に記載するようなブロックコポリマーおよび架橋ビーズまたは無機充填剤をベースとする組成物を、所望の割合の細粒をウェルナー40押出機に導入することによって得た。温度は200℃である。
【0057】
この表において:
−「PMMA−1」および「PMMA−2」という用語は、アルトグラスインターナショナルによって、それぞれ参照符号DRTおよびHFI−10で販売されているPMMAを指す;
−パラメータ「MFI」は、メルト・フロー・インデックス(ISO 1133)、230℃/3.8kg、g/10分;
−引張強度(ISO 527−2)、23℃(MPa);
−破断時引張伸び(ISO 527−2)23℃(%);
−曲げ弾性率(ISO 178)、23℃(MPa);
−ノッチ付きシャルピー衝撃強度(ISO 179−1eU)、23℃(kJ/m);
−視感透過率(ASTM D−1003)(%);
−ヘイズ(ASTM−D1003)(%);
−ビカット軟化温度(VST−50)(ISO 306)、50N(℃);
−ビカット軟化温度(VST−10)(ISO 306)、10N(℃);
−熱たわみ温度HDT(ISO 75−2)、1.80MPa(℃);
−ビーコによるデックタック8機械式プロフィルメータを使用して測定した、算術平均粗度;
−屈折率:ISO 489;
−60°光沢:ASTM D523。
【0058】
[実施例3]
押出フィルムの調製
調合後に得た細粒を直径40mmのAndouartブランド押出機に導入する。およそ300μmの厚さを有するフィルムを、MAMブロックアクリル系コポリマーは200℃の温度にて、その他は230℃にて押出す。
【0059】
[実施例4]
細粒および押出フィルムの特徴
得られた特徴を下の表2に示す。
【0060】
実施例1A、1B、2Aおよび2Bの生成物はすべて、比較例1Cおよび2Cの修飾PMMA(より低い弾性率値)よりもはるかに高い可撓性を有することが認められ得る。さらに、光沢が弱い外観を有するMAMも、繻子様またはつや消しのPMMAよりもはるかに良好な衝撃強度を有している。
【0061】
光散乱効果は、高いヘイズ値によって示されている。
【0062】
柔感触効果は、より低い弾性率と表面に付与された粗度との組合せによって得られる。
【0063】
【表2】
【0064】
[実施例5]
ブロックアクリル系コポリマー、高度架橋コポリマーのビーズおよびアクリル系コポリマーを含むブレンドまたは化合物およびフィルムの調製
72%のナノストレングスM53、18%のBS110ビーズならびに60%のMMAおよび40%のBMAを含む、10%のコポリマーから成るブレンドを、200℃まで加熱したウェルナー40押出機に導入する。得られた細粒を続いて直径40mmのAndouartブランド押出機に導入する。およそ300μmの厚さを有するフィルムを200℃の温度にて押出す。
【0065】
[実施例6]
PS型の基材への押出フィルムの接着試験
トータルペトロケミカルズによって参照符号7240で販売されている、高衝撃性PS細粒85gを200℃まで予熱したDarragonプレス内の厚さ3mmのフレーム中に導入する。続いて、およそ3mmの厚さのシートを作製するために、細粒を200℃のプレス内で200バールの圧力下にて2分間保持する。
【0066】
第2段階では、表2の実施例1Aに従って押出したフィルム(即ちブロックアクリル系コポリマーおよび高度架橋コポリマーのビーズを含むフィルム)をプレスのフレームに相当する寸法に切断して、高衝撃性PSのシート上に置き、該構造体をプレス内に200℃、200バールの圧力下にて2分間保持する。構造体が冷えたら、押出フィルムを手ではがしてみて、フィルムが非常に容易に剥離することが見出されれば、このことはフィルムのPSシートへの接着が非常に不十分であるという証拠である。
【0067】
上と同じ手順を、ただし上の実施例5に従って得た押出フィルム、即ちブロックアクリル系コポリマー、高度架橋コポリマーのビーズおよびアクリル系コポリマーから成るフィルムを使用して再現する。押出フィルムを手ではがしてみて、フィルムが剥離できないことが見出されれば、このことはフィルムとPSシートとの接着が非常に良好であるという証拠である。
【0068】
省略形:
Tg ASTM E1356規格に従ってDSCによって測定した、ポリマーのガラス転移温度
DSC 示差走査熱量測定
PMMAまたはpMMA ポリメチルメタクリレート
MMA メチルメタクリレート
PBuAまたはpBuA ポリブチルアクリレート
MAM pMMA−pBuA−pMMAトリブロックコポリマー
MAA メタクリル酸
AA アクリル酸
BMA ブチルメタクリレート
EPDM エチレン/プロピレン/ジエンモノマー
ABS アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンターポリマー
TPU 熱可塑性ポリウレタン
PU ポリウレタン
PS ポリスチレン
PVC ポリ塩化ビニル
TPO 熱可塑性ポリオレフィン
PO ポリオレフィン
PE ポリエチレン
PP ポリプロピレン
PC ポリカーボネート
MFI メルト・フロー・インデックス
VST ビカット軟化温度
HDT 熱たわみ温度
GU 光沢単位
PVDF ポリフッ化ビニリデン
PET ポリエチレンテレフタレート
PETg ポリエチレンテレフタレートグリコール修飾
PBT ポリブチレンテレフタレート
SAN スチレン/アクリロニトリルコポリマー
ASA アクリル系/スチレン/アクリロニトリルブロックコポリマー
PPO ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)
CPVC 塩素化PVC