(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5925344
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】エネルギー吸収型支承
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20160516BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20160516BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 331E
F16F15/04 D
F16F7/08
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-4257(P2015-4257)
(22)【出願日】2015年1月13日
【審査請求日】2016年2月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祐一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐樹
【審査官】
佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−55117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RC造もしくはSRC造の支持架構と、該支持架構に支持されるS造の屋根架構と、を繋ぐエネルギー吸収型支承であって、
切欠きを備え、屋根架構と繋がって該屋根架構の重量を支持するベースプレートと、
切欠きに収容されるとともに、ベースプレートに比して支持架構との間の摩擦抵抗力が大きな摩擦抵抗プレートと、
ベースプレートに開設されている第1の孔に挿通されて該ベースプレートと支持架構を繋ぐ第1のアンカー部材と、
摩擦抵抗プレートに開設されている第2の孔に挿通されて該摩擦抵抗プレートと支持架構を繋ぐ第2のアンカー部材と、からなり、
第2のアンカー部材に軸力調整部材が取り付けられており、該軸力調整部材を介して摩擦抵抗プレートを支持架構に対して所定の圧縮力で押さえ付けているエネルギー吸収型支承。
【請求項2】
前記軸力調整部材が、皿ばねもしくはコイルばねのいずれか一種からなる請求項1に記載のエネルギー吸収型支承。
【請求項3】
ベースプレートの切欠きの側面と摩擦抵抗プレートの側面が当接した状態でエネルギー吸収型支承が形成されており、
ベースプレートと支持架構の間に摩擦抵抗低減層が介在している請求項1または2に記載のエネルギー吸収型支承。
【請求項4】
第1の孔と第2の孔がともに長孔であり、ベースプレートと摩擦抵抗プレートが長孔の長手方向に水平移動自在となっており、
前記第1、第2の長孔の長手方向が、支持架構の構面に対して直交する方向に向くようにしてエネルギー吸収型支承が支持架構に取り付けられている請求項1〜3のいずれかに記載のエネルギー吸収型支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RC造もしくはSRC造の支持架構と、該支持架構に支持されるS造の屋根架構とを繋ぐエネルギー吸収型支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2011年に発生した東日本大震災においては、体育館を構成するS造の屋根架構とこれを支持するRC造の支持架構の支承部が損傷を受けるといった被害が多かった。地震波が支持架構に入力された際に、支持架構には、その水平剛性が低い方向に過大な構面外応答が生じ、この構面外応答が屋根架構に伝播した結果、交番荷重が支承部に齎されたことがその原因の一つである。
【0003】
体育館のような収容人数の大きな公共施設は、室内運動エリアという本来の機能のほかにも、大地震のみならず、台風や土砂災害といった自然災害時の避難施設としての重要な役割を担っている。したがって、自然災害時に損傷することなく、自然災害後の地域インフラや破損家屋の復旧、復興期間において、避難施設としての役割、機能を継続することが極めて重要である。
【0004】
現在、体育館の屋根等のRC片持架構支承部に弾塑性型のエネルギー吸収支承を用いることにより、地震時の応答低減効果を図る研究もおこなわれている。この技術では、支承の初期剛性を高くし、降伏耐力が限定的な範囲の場合により高い応答低減効果が予想されることから、初期剛性が高く、降伏耐力を自由に制御できる弾塑性エネルギー吸収型支承の開発が当該技術分野において望まれるところである。
【0005】
ここで、公開技術に目を転じるに、特許文献1には、屋根架構と支持構造との間に、両者間の相対水平変位を許容する機能と、相対水平変位時に減衰力を発生する機能を有する免震装置を設置し、支持構造の水平剛性が低い方向には屋根架構と支持構造との間の少なくとも一定量の相対変位を生じさせ、水平剛性が高い方向には屋根架構と支持構造との間の相対変位を許容しながら、免震装置に水平力を負担させ、減衰力を発生させる免震構造物が開示されている。そして、この免震構造物においては、鋼棒ダンパーや湾曲した鋼板ダンパーをエネルギー吸収材として適用するとしている。
【0006】
特許文献1に開示される免震構造物によれば、支持構造に入力する水平剛性の低い方向の水平力の屋根架構への伝達を低減し、屋根架構への強制変形を回避することができるとしている。
【0007】
しかしながら、エネルギー吸収材として適用する鋼棒ダンパーや湾曲した鋼板ダンパーの剛性や耐力は、ダンパーの形状に密接に関連している。そのため、上記する課題、すなわち、初期剛性が高いという条件下で降伏耐力を自由に制御するのは極めて難しい。
【0008】
また、特許文献2には充填材を含むポリアミド樹脂が保持板に挿嵌されてなるすべり材と、コーティングされたすべり板とから構成されたすべり支承が開示されている。
【0009】
特許文献2に開示されるすべり支承によれば、摩擦係数を最適範囲内に制御することができ、耐震性が良好になるとしている。
【0010】
ところで、上記するすべり支承は当該支承が分担する鉛直荷重によって摩擦力を発生させ、この摩擦力にて地震エネルギーを吸収するものであるところ、すべり支承に載荷されるたとえば上記体育館等の屋根架構による鉛直荷重は地震応答によって大きく変動することから、地震時に安定的な摩擦力を生じさせ、地震エネルギーを安定的に吸収することは難しく、設計値と実際のエネルギー吸収性能との間には大きな乖離が存在していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−344508号公報
【特許文献2】特開2006−161840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、高い初期剛性と降伏耐力の自由な制御を可能とし、さらには、地震等の際に屋根架構からの鉛直荷重が大きく変動した場合にも所望のエネルギー吸収効果を期待することのできるエネルギー吸収型支承を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明によるエネルギー吸収型支承は、RC造もしくはSRC造の支持架構と、該支持架構に支持されるS造の屋根架構と、を繋ぐエネルギー吸収型支承であって、切欠きを備え、屋根架構と繋がって該屋根架構の重量を支持するベースプレートと、切欠きに収容されるとともに、ベースプレートに比して支持架構との間の摩擦抵抗力が大きな摩擦抵抗プレートと、ベースプレートに開設されている第1の孔に挿通されて該ベースプレートと支持架構を繋ぐ第1のアンカー部材と、摩擦抵抗プレートに開設されている第2の孔に挿通されて該摩擦抵抗プレートと支持架構を繋ぐ第2のアンカー部材と、からなり、第2のアンカー部材に軸力調整部材が取り付けられており、該軸力調整部材を介して摩擦抵抗プレートを支持架構に対して所定の圧縮力で押さえ付けているものである。
【0014】
本発明のエネルギー吸収型支承は、屋根架構と繋がって該屋根架構の重量を支持するベースプレートと、支持架構との間で摩擦抵抗力を期待する摩擦抵抗プレートを縁切りした構成とし、それぞれのプレートを固有のアンカー部材を介して支持架構に固定するとともに、摩擦抵抗力を期待する摩擦抵抗プレートのアンカー部材に軸力調整部材が取り付けられ、この軸力調整部材にて支持架構に対する摩擦抵抗プレートの圧縮力を制御自在に構成したものである。ここで、RC造とは鉄筋コンクリート造のこと、SRC造とは鉄骨鉄筋コンクリート造のこと、S造とは鉄骨造のことを意味しており、S造の屋根架構には鋼製、金属製等の板材や各種素材のシート材が敷設されて屋根が構成される。また、これらの構造を備えた本発明のエネルギー吸収型支承の設置対象構造体としては、既述する体育館をはじめ、図書館、自治体の公舎や、各種アミューズメント施設等が挙げられる。
【0015】
本発明のエネルギー吸収型支承の上記構成によれば、地震時に大きく変動する屋根架構による鉛直荷重を摩擦抵抗力のための圧縮力として考慮しないことから、実際の地震等の際に一定の摩擦抵抗力を期待することが可能になる。
【0016】
また、軸力調整部材にて支持架構に対する摩擦抵抗プレートの圧縮力を所望に調整することにより、高い初期剛性と降伏耐力の自由な制御が可能なエネルギー吸収型支承となる。なお、このように、高い初期剛性を備えた弾性挙動と、降伏耐力以降は摩擦抵抗力を発揮しながら水平移動してエネルギーを吸収する塑性挙動をおこなうことから、本発明のエネルギー吸収型支承は、高い初期剛性を有する弾塑性型ダンパー、もしくは剛塑性型ダンパーなどと称することもできる。
【0017】
本発明のエネルギー吸収型支承は、たとえば鋼製のベースプレートに切欠きを設けておき、この切欠きに同様に鋼製の摩擦抵抗プレートが収容された構成を備えている。
【0018】
地震時にエネルギー吸収型支承に対して構面外応答が生じた際には、屋根架構の重量を支持するベースプレートとこの切欠き内に収容されている摩擦抵抗プレートがともに支持架構の振動に呼応して振動する。この際、エネルギー吸収型支承は、摩擦抵抗力の降伏耐力までのいわゆる弾性域においてはわずかな水平移動のみが生じ、降伏耐力以降のいわゆる塑性域においては摩擦抵抗プレートが動摩擦力を生じながら水平移動し、摩擦抵抗プレートを縁切りした状態でその切欠きに収容しているベースプレートはこの摩擦抵抗プレートの水平移動に呼応して同じく水平移動することになる。すなわち、縁切りされているベースプレートと摩擦抵抗プレートから構成されるエネルギー吸収型支承は、弾性域から塑性域に亘って支承全体が一体に挙動する。
【0019】
ここで、軸力調整部材には、皿ばねやコイルばね等が適用でき、これらの部材を適用することで、比較的安価な部材コストにて高性能なエネルギー吸収型支承を製作することが可能になる。
【0020】
また、本発明によるエネルギー吸収型支承の好ましい実施の形態は、ベースプレートの切欠きの側面と摩擦抵抗プレートの側面が当接した状態でエネルギー吸収型支承が形成されており、ベースプレートと支持架構の間に摩擦抵抗低減層が介在しているものである。
【0021】
ベースプレートの切欠きの側面と摩擦抵抗プレートの側面が当接した状態(双方のプレートがともに鋼製の場合はメタルタッチした状態)でエネルギー吸収型支承が構成されていることにより、支承全体の一体的な挙動をより一層高い精度で保証することができる。
【0022】
また、ベースプレートと支持架構の間に摩擦抵抗低減層を介在させたことにより、降伏耐力を変動させるベースプレートを地震等の際に滑り易くすることができる。このことにより、地震等の際に屋根架構から受ける重量の変動が激しく、エネルギー吸収型支承が発揮する摩擦抵抗力に対して、激しい重量変動に起因した不安定な摩擦抵抗要素が入り込むのを解消することができ、エネルギー吸収型支承に対して一定の摩擦抵抗力を安定的に発揮させることが可能になる。
【0023】
また、本発明によるエネルギー吸収型支承の好ましい実施の形態は、第1の孔と第2の孔がともに長孔であり、ベースプレートと摩擦抵抗プレートが長孔の長手方向に水平移動自在となっており、前記第1、第2の長孔の長手方向が、支持架構の構面に対して直交する方向に向くようにしてエネルギー吸収型支承が支持架構に取り付けられているものである。
【0024】
支持架構の構面方向は水平剛性が高いことから、ベースプレートや摩擦抵抗プレートの水平移動はなく、エネルギー吸収型支承は支持架構に対して構造上はピン支承となっている。これに対して、支持架構の構面直交方向は水平剛性が低いことから、この方向には摩擦抵抗プレートによる摩擦力にて降伏耐力まではわずかな水平移動のみが生じ、降伏耐力以降はエネルギー吸収型支承を水平移動させることによって効果的にエネルギー吸収を図ることが可能になる。
【0025】
そして、ベースプレートと摩擦抵抗プレートがともに、支持架構の構面に対して直交する方向に長手方向が向いている長孔を具備することにより、降伏耐力以降の構面直交方向へのエネルギー吸収型支承の水平移動を保障することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明のエネルギー吸収型支承によれば、地震時に大きく変動する屋根架構による鉛直荷重を摩擦抵抗力のための圧縮力として考慮しないことから、実際の地震等の際に一定の摩擦抵抗力を期待することが可能になる。さらに、基礎架構との間で摩擦抵抗力が期待される摩擦抵抗プレートを、軸力調整部材にて所望の圧縮力で基礎架構に対して押さえ付けた構成を適用したことにより、高い初期剛性と降伏耐力の自由な制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のエネルギー吸収型支承が適用される体育館の外観構造図である。
【
図2】(a)は体育館の妻面における構面方向、構面直交方向を説明した模式図であり、(b)は体育館の桁行き面における構面方向、構面直交方向を説明した模式図である。
【
図3】本発明のエネルギー吸収型支承の分解斜視図である。
【
図4】支持架構の基礎フーチングにエネルギー吸収型支承が取り付けられた構造の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明のエネルギー吸収型支承の実施の形態を説明する。なお、図示例はエネルギー吸収型支承を体育館の支持架構と屋根架構の間に適用したものであるが、本発明のエネルギー吸収型支承は体育館以外の構造物、特に広範な屋根架構を有する各種の公共施設、競技施設、アミューズメント施設に適用可能である。
【0029】
(エネルギー吸収型支承の実施の形態)
まず、
図1,2を参照して本発明のエネルギー吸収型支承が適用される構造物として、体育館の構造を説明する。
【0030】
図示する体育館は、妻面に6本のRC柱C(SRC柱でもよい)を有し(
図1において、1〜6の番号箇所)、各RC柱Cに直交する水平方向に2本のRC梁B(SRC梁でもよい)を有し、これら複数のRC柱CとRC梁Bから複数の矩形開口を備えたRCフレームが構成され、そのうちのいくつかの矩形開口には耐震壁Wが配設された構造を呈しており、RC柱CとRC梁B、および耐震壁Wにて妻面の支持架構BFを構成している。
【0031】
一方、体育館の桁行き面には両端の妻面(に位置するRC柱C)の間に、所定の間隔を置いて8本のRC柱C’(SRC柱でもよい)を有し(
図1において、B〜Iのアルファベット箇所)、各RC柱C’に直交する水平方向に2本のRC梁B(SRC梁でもよい)を有し、これら複数のRC柱C’とRC梁Bから複数の矩形開口を備えたRC−RCフレームが構成され、そのうちのいくつかの矩形開口にも耐震壁Wが配設された構造を呈しており、RC柱C’とRC梁B、および耐震壁Wにて桁行き面の支持架構BFを構成している。
【0032】
このように、体育館において、屋根架構RFを支持する支持架構BFは、RC造もしくはSRC造からなる。なお、図示する体育館は、一階フロア(1FL)と二階フロア(2FL)にそれぞれRC造の床が配設される。
【0033】
そして、
図1,
図2aで示すように、妻面においては、その構面方向の水平剛性が高く(
図1のX方向)、構面直交方向の水平剛性が低くなっており(
図1のY方向)、桁行き面においては、
図1、
図2bで示すように、その構面方向の水平剛性が高く(
図1のY方向)、構面直交方向の水平剛性が低くなっている(
図1のX方向)。
【0034】
一方、支持架構BFに支持される屋根架構RFは、鉄骨の大梁BBや鉄骨の小梁SBから複数の矩形開口を備えたS造フレームが構成され、各矩形開口内には鉄骨のブレースBRが取り付けられており、S造の大梁BB、小梁SBおよびブレースBRにて屋根架構RFを構成している。なお、図示を省略するが、屋根架構RFには鋼板やシート材が敷設されて屋根が構成される。このように、屋根架構はS造のフレーム構造ゆえに比較的軽量である。
【0035】
図1、
図2a、bで示すように、エネルギー吸収型支承は、支持架構BFの妻面と桁行き面を構成する屋根架構RFのRC梁B上に設置される。
【0036】
次に、
図3〜7を参照して、本発明のエネルギー吸収型支承の実施の形態を説明する。ここで、
図3は本発明のエネルギー吸収型支承の分解斜視図であり、
図4は支持架構の基礎フーチングにエネルギー吸収型支承が取り付けられた構造の縦断面図である。また、
図5〜7はそれぞれ、
図4のV−V矢視図、
図4のVI−VI矢視図、および
図4のVII−VII矢視図である。
【0037】
図3で示すように、エネルギー吸収型支承10は、鋼製で切欠き3を備え、破線で示す屋根架構RFと繋がって屋根架構RFの重量(一つの支承10が分担する鉛直荷重)を支持するベースプレート1と、切欠き3に収容されるとともに、ベースプレート1に比して支持架構との間の摩擦抵抗力が大きな鋼製の摩擦抵抗プレート4から大略構成されている。
【0038】
ベースプレート1に開設されている4箇所の第1の孔2にはそれぞれ第1のアンカー部材6が挿通され、これが支持架構BFの基礎フーチングFT(
図4参照)に埋設されて、ベースプレート1と支持架構BFを繋いでいる。
【0039】
また、摩擦抵抗プレート4に開設されている第2の孔5には第2のアンカー部材7が挿通され、これが支持架構BFの基礎フーチングFTに埋設されて、摩擦抵抗プレート4と支持架構BFを繋いでいる。
【0040】
ベースプレート1において第1の孔2が開設されている箇所には同様に第1の孔2が開設されているステンレスプレート1aが固定されている。
【0041】
第1の孔2と第2の孔5はいずれも長孔であり、
図5で示すように、この長孔2,5の長手方向が構面直交方向に向くようにしてエネルギー吸収型支承10が基礎フーチングFT上に設置される。
【0042】
図3に戻り、第1のアンカー部材6は上端にワッシャー6’を備え、下端には支圧板6”を備えており、第1のアンカー部材6が基礎フーチングFTに埋め込まれた際に、第1のアンカー部材6の埋め込み長に起因する摩擦抵抗力と支圧板6”による支圧抵抗力にて屋根架構RFから作用する引き抜き力に抗するように設計されている。
【0043】
一方、第2のアンカー部材7は上端にはワッシャー7’と皿ばねから構成される軸力調整部材8が装着されており、
図4で示すように、第2のアンカー部材7の先端が基礎フーチングFTに埋め込まれた状態において、軸力調整部材8を調整することにより、摩擦抵抗プレート4の基礎フーチングFTに対する圧縮力Qを所望に調整することができ、このことが支持架構BFに対するエネルギー吸収型支承10の摩擦抵抗力を決定する。
【0044】
図5で示すように、ベースプレート1の切欠き3に摩擦抵抗プレート4が配設された状態において、切欠き3の側面と摩擦抵抗プレート4の側面はメタルタッチしている。
【0045】
エネルギー吸収型支承10は、構面直交方向において、屋根架構RFの重量を直接支持するベースプレート1と基礎フーチングFT上に設置した敷プレートFTaの間の摩擦抵抗力に期待せず、ベースプレート1に縁切りされながらその切欠き3に収容されてメタルタッチしている摩擦抵抗プレート4と基礎フーチングFT上に設置した敷プレートFTaの間の摩擦抵抗力のみをエネルギー吸収型支承10の発揮する摩擦抵抗力として設計するものである。
【0046】
この設計思想により、地震時に大きく変動する屋根架構RFによる鉛直荷重を摩擦抵抗力のための圧縮力として考慮しないことから、実際の地震等の際に一定の摩擦抵抗力を期待することが可能になる。
【0047】
そして、摩擦抵抗プレート4と基礎フーチングFT上に設置した敷プレートFTaの間の摩擦抵抗力は、軸力調整部材8を調整することで所望の圧縮力Qを生じさせ、この圧縮力Qに起因した摩擦抵抗力にて滑り耐力が決定される。
【0048】
なお、
図4、
図6で示すように、ベースプレート1の下面には、ベースプレート1を地震等の際に滑り易くするために、ポリテトラフルオロチレン(PTFEで、市販材料としてはテフロン(登録商標、デュポン社製))等を素材とする摩擦抵抗低減層9が装着されている。また、
図7で示すように、基礎フーチングFT上に設置した敷プレートFTaにおける摩擦抵抗低減層9と対向する箇所にはステンレスプレートFT1が取り付けられている。
【0049】
ベースプレート1と基礎フーチングFT上に設置した敷プレートFTaの間に摩擦抵抗低減層9を介在させたことにより、降伏耐力を変動させるベースプレート1を地震等の際に滑り易くすることができる。このことにより、地震等の際に屋根架構RFから受ける重量の変動が激しく、支承10が発揮する摩擦抵抗力に対して、激しい重量変動に起因した不安定な摩擦抵抗要素が入り込むのを解消することができ、支承10に対して一定の摩擦抵抗力を安定的に発揮させることが可能になる。
【0050】
一方、
図6,7で示すように、摩擦抵抗プレート4には基礎フーチングFTとの間で高い摩擦抵抗力を発揮させるべく、摩擦抵抗プレート4の下面にはステンレスプレート4aを取り付け、基礎フーチングFT上に設置した敷プレートFTaのステンレスプレート4aに対向する箇所には摩擦シートFT2が取り付けられている。
【0051】
支持架構BFの構面方向はベースプレート1と摩擦抵抗プレート4双方の孔が長孔となっていないことから、ベースプレート1と摩擦抵抗プレート4の基礎フーチングFT上での水平移動はなく、エネルギー吸収型支承10は支持架構BFに対して構造上はピン支承となっている。
【0052】
これに対し、支持架構BFの構面直交方向はベースプレート1と摩擦抵抗プレート4双方の孔が長孔2,5となっていることから、この方向には摩擦抵抗プレート4による摩擦力にて降伏耐力までは水平移動せず、降伏耐力以降はエネルギー吸収型支承10を水平移動させることによって効果的にエネルギー吸収を図ることが可能になる。
【0053】
そして、ベースプレート1と摩擦抵抗プレート4がともに、支持架構BFの構面に対して直交する方向に長手方向が向いている長孔2,5を有している(既述するように、長孔2,5が構面直交方向に向くようにして支承10を設置する)ことにより、水平剛性の低い方向へのエネルギー吸収型支承10の水平移動、すなわち支承10が降伏耐力に相当する摩擦抵抗力を維持したまま水平移動することができ、塑性域での挙動を保障することができる(
図5におけるベースプレート1の水平移動X,摩擦抵抗プレート4の水平移動X)。
【0054】
エネルギー吸収型支承10によれば、地震時に大きく変動する屋根架構RFによる鉛直荷重を摩擦抵抗力のための圧縮力として考慮しないという従来にはない新規な設計思想および技術思想を採用し、この技術思想を実現可能な構成を適用したことによって、実際の地震等の際に一定の摩擦抵抗力を期待することが可能になる。さらに、摩擦抵抗を期待する摩擦抵抗プレート4の基礎フーチングFTへの圧縮力Qを軸力調整部材8を調整することで実現、このことによって高い初期剛性を容易に設定できるとともに、降伏耐力の自由な制御が可能なエネルギー吸収型支承10となる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1…ベースプレート、2…第1の孔(長孔)、3…切欠き、4…摩擦抵抗プレート、5…第2の孔(長孔)、6…第1のアンカー部材、7…第2のアンカー部材、8…軸力調整部材(皿ばね)、9…摩擦抵抗低減層、10…エネルギー吸収型支承(支承)、RF…屋根架構、BF…支持架構
【要約】
【課題】高い初期剛性と降伏耐力の自由な制御を可能とし、地震等の際に屋根架構からの鉛直荷重が大きく変動した場合にも所望のエネルギー吸収効果を期待できるエネルギー吸収型支承を提供すること。
【解決手段】支持架構BFと屋根架構RFを繋ぐエネルギー吸収型支承10であって、切欠き3を備え、屋根架構RFの重量を支持するベースプレート1、切欠き3に収容されるとともにベースプレート1に比して支持架構との間の摩擦抵抗力が大きな摩擦抵抗プレート4、ベースプレート1の第1の孔2に挿通されてベースプレート1と支持架構BFを繋ぐ第1のアンカー部材6、摩擦抵抗プレート4の第2の孔5に挿通されて摩擦抵抗プレート4と支持架構BFを繋ぐ第2のアンカー部材7からなり、第2のアンカー部材7に軸力調整部材8が取り付けられ、これを介して摩擦抵抗プレート4を支持架構BFに対して所定の圧縮力Qで押さえ付けている。
【選択図】
図3