(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925387
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】波動発生器および波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-526014(P2015-526014)
(86)(22)【出願日】2013年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2013004272
(87)【国際公開番号】WO2015004693
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】張 新月
(72)【発明者】
【氏名】清澤 芳秀
【審査官】
中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−015191(JP,A)
【文献】
特開2009−299765(JP,A)
【文献】
特開平11−351341(JP,A)
【文献】
米国特許第3667320(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車(4)を、楕円状に撓めて、剛性の第1内歯歯車(2S)および当該第1内歯歯車(2S)の隣に同軸に配置された剛性の第2内歯歯車(2D)の双方に部分的にかみ合わせる、波動歯車装置(1)の波動発生器(5)において、
前記外歯歯車(4)の歯筋方向の一方の側の第1外歯歯車部分(4S)を、楕円状に撓めて前記第1内歯歯車(2S)に部分的に噛み合わせる第1波動発生器部分(5S)と、
前記外歯歯車(4)の歯筋方向の他方の側の第2外歯歯車部分(4D)を、楕円状に撓めて前記第2内歯歯車(2D)にかみ合わせる第2波動発生器部分(5D)と、
を有し、
前記第1内歯歯車(2S)の歯数が、nを正の整数とすると、前記外歯歯車(4)の歯数よりも2n枚多く、前記第2内歯歯車(2D)の歯数が前記外歯歯車(4)の歯数と同一であるとすると、
前記第1波動発生器部分(5S)は第1楕円状曲線(C1)によって規定される楕円状輪郭を備え、前記第2波動発生器部分(5D)は第2楕円状曲線(C2)によって規定される楕円状輪郭を備え、
前記第1楕円状曲線(C1)の周長は、前記第2楕円状曲線(C2)の周長と同一であり、
前記第1楕円状曲線(C1)の長径は、前記第2楕円状曲線(C2)の長径と同一であり、
前記第1楕円状曲線(C1)の短径は、前記第2楕円状曲線(C2)の短径より短いことを特徴とする波動歯車装置(1)の波動発生器(5)。
【請求項2】
前記第1波動発生器部分(5S)は、前記第1楕円状曲線(C1)によって規定される第1楕円状外周面(6S)を備えた第1波動発生器プラグ(6)と、当該第1波動発生器プラグ(6)の前記第1楕円状外周面(6S)に装着されて楕円状に撓められている第1波動発生器ベアリング(7S)とを備え、
前記第2波動発生器部分(5D)は、前記第2楕円状曲線(C2)によって規定される第2楕円状外周面(6D)を備えた第2波動発生器プラグ(6)と、当該第2波動発生器プラグ(6)の前記第2楕円状外周面(6D)に装着されて楕円状に撓められている第2波動発生器ベアリング(7D)とを備えている請求項1に記載の波動歯車装置(1)の波動発生器(5)。
【請求項3】
剛性の内歯歯車(2S、2D)、前記内歯歯車(2S、2D)の内側に配置された半径方向に撓み可能な外歯歯車(4)、および、前記外歯歯車(4)を楕円状に撓めて前記内歯歯車(2S、2D)に対して部分的にかみ合わせる波動発生器(5)を有し、
前記内歯歯車は、第1内歯歯車(2S)および当該第1内歯歯車(2S)の隣に同軸に配置された第2内歯歯車(2D)を備え、
前記外歯歯車(4)は、その歯筋方向の一方の側に前記第1内歯歯車(2S)にかみ合い可能な第1外歯歯車部分(4S)を備え、前記歯筋方向の他方の側に前記第2内歯歯車(2D)にかみ合い可能な第2外歯歯車部分(4D)を備え、
前記第1内歯歯車(2S)の歯数は、nを正の整数とすると、前記外歯歯車(4)の歯数よりも2n枚多く、前記第2内歯歯車(2D)の歯数は、前記外歯歯車(4)の歯数と同一であり、
前記波動発生器(5)は、請求項1または2に記載の波動発生器であることを特徴とする波動歯車装置(1)。
【請求項4】
前記第1内歯歯車(2S)は回転しないように固定される静止側内歯歯車であり、
前記第2内歯歯車(2D)は回転可能な駆動側内歯歯車である請求項3に記載の波動歯車装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楕円状輪郭の波動発生器によって、円筒状の外歯歯車が楕円状に撓められて第1、第2内歯歯車に部分的にかみ合っている波動歯車装置に関する。さらに詳しくは、波動発生器の楕円状輪郭の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
フラット型の波動歯車装置は、一般に、回転しないように固定された静止側内歯歯車と、回転駆動可能な駆動側内歯歯車と、半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車と、外歯歯車を楕円状に撓めている波動発生器を備えている。波動発生器によって楕円状に撓められた外歯歯車は、楕円形状の長径方向の両端部において、その歯筋方向の一方の側の外歯部分が静止側内歯歯車にかみ合い、その歯筋方向の他方の側の外歯部分が駆動側内歯歯車にかみ合う。外歯歯車の歯数は駆動側内歯歯車の歯数と同一であり、静止側内歯歯車の歯数よりも2枚少ない。
【0003】
回転入力要素である波動発生器が回転すると、外歯歯車と静止側内歯歯車のかみ合い位置、および外歯歯車と駆動側内歯歯車のかみ合い位置が円周方向に移動する。波動発生器が1回転すると、外歯歯車は、静止側内歯歯車に対して歯数差に対応する量だけ回転する。駆動側内歯歯車は外歯歯車と同一歯数であるので、外歯歯車と一体となって回転する。波動発生器の回転は歯数差に応じて減速され、減速回転出力要素である駆動側内歯歯車から減速回転が出力される。
【0004】
フラット型の波動歯車装置の波動発生器は、楕円状輪郭の剛性体からなる波動発生器プラグを備え、この波動発生器プラグの外周面には、可撓性の内外輪を備えた波動発生器ベアリングが装着されている。特許文献1には、静止側内歯歯車および駆動側内歯歯車のそれぞれに対応する外歯歯車の部分を支持している2列のボールを備えた波動発生器ベアリングが記載されている。
【0005】
特許文献2には、波動発生器プラグが軸線方向に分割された一対の楕円体から形成され、各楕円体がそれぞれ波動発生器ベアリングを介して外歯歯車を楕円状に撓めている波動発生器が記載されている。一対の楕円体は、同一形状であるが、所定角度だけ相互に回転した状態に設定されている。
【0006】
特許文献3には、同一形状の第1カムおよび第2カムから波動発生器プラグが構成され、第1、第2カムが相互の90度回転した状態に組み付けられている波動発生器が記載されている。
【0007】
特許文献4には、本発明者等によって、波動発生器プラグの楕円状輪郭を規定するプラグ形状曲線が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−132292号公報
【特許文献2】実開平1−122543号公報
【特許文献3】特開2013−15191号公報
【特許文献4】特開平11−351341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のフラット型の波動歯車装置では、波動発生器の楕円状の輪郭形状を規定する形状曲線として単一の曲線が用いられている。すなわち、外歯歯車は、歯筋方向の各部分において同一の楕円形状に撓められて、静止側内歯歯車および駆動側内歯歯車の双方にかみ合わされる。あるいは、特許文献2、3に記載されているように、同一の楕円形状の位相を変えた状態で、外歯歯車を静止側および駆動側内歯歯車にかみ合わせるようにしている。
【0010】
相対回転する静止側内歯歯車および外歯歯車と、一体となって回転する駆動側内歯歯車および外歯歯車とでは、それらの間のかみ合い状態、応力発生状態等の機械的あるいは力学的な特徴が相違する。これらの相違を考慮せずに、外歯歯車をその歯筋方向において同一の楕円状曲線となるように撓めた場合には、静止側内歯歯車にかみ合う外歯歯車の部分に発生する応力分布状態、発生応力の大きさ、変形状態は、駆動側内歯歯車にかみ合う外歯歯車の部分に発生する応力分布状態、発生応力の大きさ、変形状態とは大きく相違する。
【0011】
このため、波動発生器において、静止側内歯歯車にかみ合っている外歯歯車の部分を支持している波動発生器ベアリングと、駆動側内歯歯車にかみ合っている外歯歯車の部分を支持している波動発生器ベアリングとの間では、ボール荷重分布が大きく異なり、ボール荷重の最大値も大きくなる。この結果、波動発生器ベアリングの寿命が低下するおそれがある。
【0012】
従来においては、このような点については考慮されていない。波動発生器の輪郭形状を規定する形状曲線として、静止側内歯歯車にかみ合わせるために外歯歯車を撓めるのに適した形状曲線と、駆動側内歯歯車にかみ合わせるために外歯歯車を撓めるのに適した形状曲線とを備えた波動発生器を用いることについては何ら着目されておらず、そのような提案もない。
【0013】
本発明の課題は、静止側内歯歯車とのかみ合いに適した形状に外歯歯車を撓めることができ、かつ、駆動側内歯歯車とのかみ合いに適した形状に外歯歯車を撓めることのできる輪郭形状を備えた、波動歯車装置の波動発生器を提供することにある。
【0014】
また、本発明の課題は、かかる新しい波動発生器を備えた波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車を、楕円状に撓めて、剛性の第1内歯歯車および当該第1内歯歯車の隣に同軸に配置された剛性の第2内歯歯車の双方に部分的にかみ合わせる、波動歯車装置の波動発生器において、
前記外歯歯車の歯筋方向の一方の側の第1外歯歯車部分を、楕円状に撓めて前記第1内歯歯車に部分的に噛み合わせる第1波動発生器部分と、
前記外歯歯車の歯筋方向の他方の側の第2外歯歯車部分を、楕円状に撓めて前記第2内歯歯車にかみ合わせる第2波動発生器部分と、
を有し、
前記第1内歯歯車の歯数が、nを正の整数とすると、前記外歯歯車の歯数よりも2n枚多く、前記第2内歯歯車の歯数が前記外歯歯車の歯数と同一であるとすると、
前記第1波動発生器部分は第1楕円状曲線によって規定される楕円状輪郭を備え、前記第2波動発生器部分は第2楕円状曲線によって規定される楕円状輪郭を備え、
前記第1楕円状曲線の周長は、前記第2楕円状曲線の周長と同一であり、
前記第1楕円状曲線の長径は、前記第2楕円状曲線の長径と同一であり、
前記第1楕円状曲線の短径は、前記第2楕円状曲線の短径より短いことを特徴としている。
【0016】
一般的には、前記第1波動発生器部分は、第1楕円状外周面を備えた第1波動発生器プラグと、当該第1波動発生器プラグの前記第1楕円状外周面に装着されて楕円状に撓められている第1波動発生器ベアリングとを備えている。同様に、前記第2波動発生器部分は、第2楕円状外周面を備えた第2波動発生器プラグと、当該第2波動発生器プラグの前記第2楕円状外周面に装着されて楕円状に撓められている第2波動発生器ベアリングとを備えている。この場合には、第1楕円状曲線によって第1波動発生器部分の第1楕円状外周面が規定され、第2楕円状曲線によって第2波動発生器部分の第2楕円状外周面が規定される。
【0017】
次に、本発明の波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車、前記内歯歯車の内側に配置された半径方向に撓み可能な外歯歯車、および、前記外歯歯車を楕円状に撓めて前記内歯歯車に対して部分的にかみ合わせる波動発生器を有し、
前記内歯歯車は、第1内歯歯車および当該第1内歯歯車の隣に同軸に配置された第2内歯歯車を備え、
前記外歯歯車は、その歯筋方向の一方の側に前記第1内歯歯車にかみ合い可能な第1外歯歯車部分を備え、前記歯筋方向の他方の側に前記第2内歯歯車にかみ合い可能な第2外歯歯車部分を備え、
前記第1内歯歯車の歯数は、nを正の整数とすると、前記外歯歯車の歯数よりも2n枚多く、前記第2内歯歯車の歯数は、前記外歯歯車の歯数と同一であり、
前記波動発生器は、その軸線方向の一方の側に前記第1外歯歯車部分を楕円状に撓めて前記第1内歯歯車に部分的に噛み合わせている第1波動発生器部分を備え、前記軸線方向の他方の側に前記第2外歯歯車部分を楕円状に撓めて前記第2内歯歯車に部分的にかみ合わせている第2波動発生器部分を備え、
前記第1波動発生器部分は第1楕円状曲線によって規定される楕円状輪郭を備え、前記第2波動発生器部分は第2楕円状曲線によって規定される楕円状輪郭を備え、
前記第1楕円状曲線の周長は、前記第2楕円状曲線の周長と同一であり、
前記第1楕円状曲線の長径は、前記第2楕円状曲線の長径と同一であり、
前記第1楕円状曲線の短径は、前記第2楕円状曲線の短径より短いことを特徴としている。
【0018】
波動歯車装置を減速機として用いる場合には、一般に、波動発生器は回転入力要素とされ、前記第1内歯歯車は回転しないように固定される静止側内歯歯車とされ、前記第2内歯歯車は回転可能な駆動側内歯歯車である減速回転出力要素とされる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の波動発生器は第1楕円状曲線に沿うように第1外歯歯車部分を撓め、第2楕円状曲線に沿うように第2外歯歯車部分を撓めるようにしている。これにより、第2内歯歯車と第2外歯歯車部分の間のかみ合い位置が、第1内歯歯車と第1外歯歯車部分の間のかみ合い位置に比べて、楕円状曲線の長径位置の側に移動する。
【0020】
同一の楕円状曲線に沿うように第1、第2外歯歯車部分を撓める場合には、第1内歯歯車と第1外歯歯車部分のかみ合い状態が良好であっても、第2内歯歯車と第2外歯歯車部分の間のかみ合いにおいて、歯先干渉などの不具合が生ずるおそれがある。本発明によれば、このような弊害を防止あるいは抑制できるので、第1内歯歯車と第1外歯歯車部分の間のかみ合い状態、および、第2内歯歯車と第2外歯歯車部分の間のかみ合い状態の双方を、良好な状態に維持できる。
【0021】
また、本発明によれば、単一の楕円状曲線によって輪郭形状が規定される波動発生器を用いる場合に比べて、第1内歯歯車にかみ合う第1外歯歯車部分を支持する第1波動発生器ベアリングの荷重分布と、第2内歯歯車にかみ合う第2外歯歯車部分を支持する第2波動発生器ベアリングの荷重分布との差異を抑制できる。これに加え、双方の荷重分布を均一化でき、最大発生応力も低減できる。これにより、波動発生器ベアリングの寿命の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明を適用したフラット型の波動歯車装置を示す斜視図である。
【
図2】(a)は
図1の波動歯車装置の縦断面図であり、(b)はその分解斜視図である。
【
図3】(a)は
図1の波動歯車装置の波動発生器プラグの楕円状外周面を規定する第1、第2楕円状曲線の一例を示すグラフであり、(b)は波動発生器プラグの楕円状外周面形状を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したフラット型の波動歯車装置の実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態に係るフラット型の波動歯車装置を示す斜視図である。
図2(a)はその縦断面図であり、
図2(b)はその分解斜視図である。これらの図を参照して、フラット型の波動歯車装置の全体構成を説明する。
【0024】
波動歯車装置1は、円環状をした剛性の第1内歯歯車2Sおよび円環状をした剛性の第2内歯歯車2Dを備えている。第1、第2内歯歯車2S、2Dは、中心軸線1aの方向に僅かの隙間を開けて、同軸状態で並列配置されている。第1内歯歯車2Sは回転しないように不図示の固定側部材に固定される静止側内歯歯車である。第2内歯歯車は回転可能な駆動側内歯歯車である。
【0025】
静止側の第1内歯歯車2Sおよび駆動側の第2内歯歯車2Dの内側には、同軸状態で、半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車4が配置されている。外歯歯車4は楕円状に撓められると、その楕円形状の長径位置の両端部分において第1内歯歯車2Sおよび第2内歯歯車2Dにかみ合い可能である。第1内歯歯車2Sの歯数は、nを正の整数とすると、外歯歯車4の歯数よりも2n枚多く、第2内歯歯車2Dの歯数は、外歯歯車4の歯数は同一である。一般的には、第1内歯歯車2Sの歯数は外歯歯車4の歯数よりも2枚(n=1)多い。
【0026】
外歯歯車4において、その歯幅方向(中心軸線1aの方向)における中心位置を境にして、第1内歯歯車2Sの内歯3Sに対峙している部分が第1外歯歯車部分4Sであり、第2内歯歯車2Dの内歯3Dに対峙している部分が第2外歯歯車部分4Dである。換言すると、外歯歯車4の各外歯4aは、その歯幅方向における中心位置を境にして、第1内歯歯車2Sの内歯3Sに対峙している外歯部分と、第2内歯歯車2Dの内歯3Dに対峙している外歯部分を備えている。
【0027】
外歯歯車4の内側には波動発生器5が装着されている。外歯歯車4は波動発生器5によって楕円状に撓められて、その楕円形状の長径方向の両端部において、第1内歯歯車2Sおよび第2内歯歯車2Dにかみ合っている。
図2(a)の縦断面図は、中心軸線1aおよび楕円状に撓められた外歯歯車の長径を含む平面で切断した場合のものである。
【0028】
波動発生器5は、中心軸線1aの方向における一方の側に配置した第1波動発生器部分5Sと、他方の側に配置した第2波動発生器部分5Dを備えている。第1波動発生器部分5Sは、第1外歯歯車部分4Sの内側に装着され、当該第1外歯歯車部分4Sを楕円状に撓めて第1内歯歯車2Sに対して部分的に噛み合わせている。第2波動発生器部分5Dは、第2外歯歯車部分4Dの内側に装着され、当該第2外歯歯車部分4Dを楕円状に撓めて第2内歯歯車2Dに対して部分的にかみ合わせている。
【0029】
第1波動発生器部分5Sは、第2波動発生器部分5Dと共通の剛性の波動発生器プラグ6と、この波動発生器プラグ6の楕円状外周面に装着した第1波動発生器ベアリング7Sを備えている。同様に、第2波動発生器部分5Dは、波動発生器プラグ6と、この楕円状外周面に装着した第2波動発生器ベアリング7Dとを備えている。波動発生器プラグ6の楕円状外周面は、中心軸線1aの方向における中心位置を境として、一方の側が第1楕円状曲線C1(
図3(a)参照)によって規定される第1楕円状外周面6Sとなっており、他方の側が第2楕円状曲線C2(
図3(a)参照)によって規定される第2楕円状外周面6Dとなっている。
【0030】
第1波動発生器ベアリング7Sは、半径方向に撓み可能な内輪8aおよび外輪8bと、これらの間に形成された円環状の軌道内に転動可能な状態で装着された複数個のボール8cを備えている。第1波動発生器ベアリング7Sは波動発生器プラグ6の第1楕円状外周面6Sに装着されて楕円状に撓められている。楕円状に撓められた外輪8bによって、第1外歯歯車部分4Sが略第1楕円状曲線C1に沿って楕円状に撓められている。
【0031】
同様に、第2波動発生器ベアリング7Dは、半径方向に撓み可能な内輪9aおよび外輪9bと、これらの間に形成された円環状の軌道内に転動可能な状態で装着された複数個のボール9cを備えている。第2波動発生器ベアリング7Dは波動発生器プラグ6の第2楕円状外周面6Dに装着されて楕円状に撓められている。楕円状に撓められた外輪9bによって、第2外歯歯車部分4Dが略第2楕円状曲線C2に沿って楕円状に撓められている。
【0032】
次に、
図3を参照して、第1楕円状曲線C1および第2楕円状曲線C2について説明する。
図3(a)は波動発生器の第1、第2楕円状曲線C1、C2を示すグラフである。図示のグラフにおいて、横軸は波動発生器プラグ6のプラグ長径位置からの角度を示し、縦軸は、波動発生器プラグ6の動径Rを、プラグ長径RLに対する割合で示してある。
図3(b)は、これらの曲線C1、C2によって規定される波動発生器プラグ6の第1、第2楕円状外周面6S、6Dを模式的に示す説明図である。
【0033】
これらの図から分かるように、本例では、波動発生器プラグ6の第1、第2楕円状外周面6S、6Dの長径位置が同一位置となるように設定されている。長径位置が異なる位置となるようにすることも可能である。例えば、特許文献3に記載されているように、第1楕円状外周面6Sの長径位置が第2楕円状外周面6Dの短径位置となるようにすることも可能である。
【0034】
第1楕円状外周面6Sを規定している第1楕円状曲線C1と、第2楕円状外周面6Dを規定している第2楕円状曲線C2は、次の条件1〜3を満足するように設定されている。
(条件1)第1、第2楕円状曲線C1、C2の周長は同一である。
(条件2)第1、第2楕円状曲線C1、C2の長径RL1、RL2は同一のRLである。
(条件3)第1楕円状曲線C1の短径寸法RS1は第2楕円状曲線C2の短径寸法RS2より短い。
【0035】
例えば、これらの条件を満足するように、特許文献4に記載されている波動発生器プラグの形状曲線を規定している各係数を設定することで、第1、第2楕円状曲線C1、C2を規定することができる。具体的な第1、第2楕円状曲線C1、C2は、波動歯車装置1の型番、減速比、作用負荷などに応じて、ボール荷重分布のバラツキおよび等価ボール荷重が最小となるように、個別に設定することができる。
【0036】
このように構成したフラット型の波動歯車装置1を減速機として用いる場合には、一般に、波動発生器5は回転入力要素とされ、不図示のモーター軸等に固定される。第2内歯歯車
2Dは不図示の被駆動部材に固定される減速回転出力要素とされる。波動発生器5が回転すると、第1外歯歯車部分4Sと第1内歯歯車2Sのかみ合い位置、および第2外歯歯車部分4Dと第2内歯歯車2Dのかみ合い位置が円周方向に移動する。波動発生器5が1回転すると、外歯歯車4は、第1内歯歯車2Sに対して歯数差に対応する角度だけ回転する。第2内歯歯車2Dは外歯歯車4と同一歯数であるので、外歯歯車4と一体となって回転する。したがって、波動発生器5の回転が歯数差に応じた減速比で減速され、第2内歯歯車2Dから減速回転が出力される。なお、第1内歯歯車を駆動側内歯歯車とし、第2内歯歯車を静止側内歯歯車とすることもできる。
【0037】
本例の波動歯車装置1では、波動発生器5の第1波動発生器部分5Sおよび第2波動発生器部分5Dの楕円状外周面の形状が規定されている。従来における単一の楕円状曲線によって規定される外周面を備えた波動発生器を用いた場合に比べて、第1内歯歯車2Sと第1外歯歯車部分4Sの間のかみ合い状態、および、第2内歯歯車2Dと第2外歯歯車部分4Dの間のかみ合い状態の双方を、良好な状態に維持できる。
【0038】
また、第1、第2波動発生器部分の波動発生器ベアリング7S、7Dのボール分布荷重の均一化および等価ボール荷重の低減化を図ることができる。これにより、波動発生器ベアリング7S、7Dの寿命を延ばすことができ、波動発生器5の長寿命化、したがって、波動歯車装置1の長寿命化を達成できる。
【0039】
なお、上記の例は波動発生器ベアリングとしてボールベアリングを用いているが、ニードルベアリング、ローラーベアリング等を用いた場合についても本発明を同様に適用可能である。