(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925388
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】可撓性多重安定要素を作る方法
(51)【国際特許分類】
G04B 15/14 20060101AFI20160516BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
G04B15/14 Z
B81C1/00
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-532476(P2015-532476)
(86)(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公表番号】特表2015-535931(P2015-535931A)
(43)【公表日】2015年12月17日
(86)【国際出願番号】EP2013073116
(87)【国際公開番号】WO2014072317
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2015年3月20日
(31)【優先権主張番号】12192026.8
(32)【優先日】2012年11月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】シュトランツル,マルク
(72)【発明者】
【氏名】エスレ,ティエリー
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第1562207(EP,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第2407831(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/14
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性多重安定細長片(5)を作る方法であって、
− 単一部品のケイ素部材(S)のブランク(E)を作るステップであって、
このブランク(E)は、2つの端(E1、E2)の間で可撓性多重安定細長片を形成するように意図された少なくとも1つの可撓性ビーム(P)と、及び前記可撓性ビーム(P)のいずれの質量体よりも大きい質量を有し、すべての点において前記可撓性ビーム(P)のいずれよりも大きな断面を有する少なくとも1つの剛質量体(M、M1、M2)を有し、
この剛質量体(M、M1、M2)のいずれも前記可撓性多重安定細長片のいずれよりも剛性が高い構造を形成するように意図されており、
これによって、初期曲線長さ(LI)を有する前記可撓性ビーム(P)の少なくとも1つは、前記2つの端のうちの第1の端(E1)における前記剛質量体のうちの第1の剛質量体(M1)と、前記端のうちの第2の端(E2)における前記剛質量体のうちの第2の剛質量体(M2)との間で延在し、
前記第1及び第2の端(E1、E2)は、前記剛質量体(M、M1、M2)の最大の断面の領域との前記可撓性ビーム(S)の最も小さな断面の領域の境界によって形成されており、かつ、前記初期曲線長さ(Ll)以下の初期距離(Dl)で分離されており、
前記第1の剛質量体(M1)及び前記第2の剛質量体(M2)どうしで、剛質量体(M)である剛フレーム(C)を形成するステップと、
− 炉において数時間1100℃の温度を維持することによって、前記部品(S)に既知の二酸化ケイ素SiO2成長法を適用するステップと、
− 前記剛質量体(M、M1、M2)のいずれの上においても前記可撓性ビーム(P)のいずれの断面よりも大きい二酸化ケイ素SiO2の断面を得るように、前記数時間の持続時間を調整するステップと、
− 冷却時の収縮が前記ビーム(P)の収縮よりも大きい前記第1の剛質量体(M1)及び前記第2の剛質量体(M2)の冷却の間に、初期曲線長さ(Ll)を有する少なくとも前記可撓性ビーム(P)を座屈形成によって変形するように、約20℃の周囲温度まで冷却するステップであって、
これによって、前記第1及び第2の端(E1、E2)の間の最終距離(DF)は、初期曲線長さ(Ll)を有する前記可撓性ビーム(P)の最終曲線長さ(LF)よりも厳密に小さく、また、前記最終曲線長さ(LF)は、前記初期曲線長さ(Ll)以上とするステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記二酸化ケイ素SiO2成長の相の前記持続時間は、ケイ素の断面に対する二酸化ケイ素SiO2の断面の比が、前記可撓性細長片(P)のいずれにおいても、前記剛質量体(M、M1、M2) のいずれよりも高いように調整される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
可撓性多重安定細長片(5)を作る方法であって、
− ケイ素部材(S)をエッチングするステップであって、
これにおいて、小さな断面の細いビーム(P)が前記小さな断面よりも少なくとも10倍大きい大きな断面の少なくとも1つの剛質量体(MU)の2つの端(E1、E2)の間の接続を形成し、
前記少なくとも1つの剛質量体(MU)は、剛フレーム(C)を形成するステップと、
− 炉において数時間1100℃の温度を維持することによって、前記部品(S)に既知の二酸化ケイ素SiO2成長法を適用するステップと、
− ビーム(P)上で、第1の周部層(CP1)で覆われた第1のケイ素コア(A1)を得て、前記剛質量体(MU)上で、第2の周部層(CP2)で覆われた第2のケイ素コア(A2)を得るように、前記数時間の持続時間を調整するステップであって、
これによって、ケイ素で作られたビーム(P)の前記第1のコア(A1)の断面に対する二酸化ケイ素SiO2で作られた前記ビーム(P)の前記第1の周部層(CP1)の断面の第1の比(RA)が1よりも大きくなり、また、
− これによって、ケイ素で作られた前記剛質量体(MU)の前記第2のコア(A2)の断面に対する二酸化ケイ素SiO2で作られた前記剛質量体(MU)の前記第2の周部層(CP2)の断面の第2の比(RB)が、前記第1の比(RA)の100分の1未満とするステップと、
− 冷却時の収縮が前記ビーム(P)の収縮よりも大きいような前記少なくとも1つの剛質量体(MU)の冷却時に座屈形成によって前記ビーム(P)を変形するために、約20℃の周囲温度まで冷却するステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
可撓性多重安定細長片(5)を作る方法であって、
− ケイ素部材(S)をエッチングするステップであって、
これにおいて、小さな断面の細いビーム(P)が前記小さな断面より少なくとも10倍大きい大きな断面の少なくとも2つの剛質量体(M1、M2)の2つの端(E1、E2)の間の接続を形成し、前記少なくとも2つの剛質量体(M1、M2)は、剛フレーム(C)を形成するステップと、
− 炉において数時間1100℃の温度を維持することによって、前記部品(S)に既知の二酸化ケイ素SiO2成長法を適用するステップと、
− ビーム(P)上で、第1の周部層(CP1)で覆われた第1のケイ素コア(A1)を得て、前記剛質量体(M1、M2)それぞれの上で、第2の周部層(CP2)で覆われた第2のケイ素コア(A2)を得るように、前記数時間の持続時間を調整するステップであって、
これによって、ケイ素で作られたビーム(P)の前記第1のコア(A1)の断面に対する二酸化ケイ素SiO2で作られた前記ビーム(P)の前記第1の周部層(CP1)の断面の第1の比(RA)が1よりも大きくなり、また、
− これによって、ケイ素で作られた前記第2の剛質量体(M1、M2)の前記第2のコア(A2)それぞれの断面に対する二酸化ケイ素SiO2で作られた前記剛質量体(M1、M2)の前記第2の周部層(CP2)それぞれの断面の第2の比(RB)が、前記第1の比(RA)の100分の1未満とするステップと、
− 冷却時の収縮が前記ビーム(P)の収縮よりも大きいような前記少なくとも2つの剛質量体(M1、M2)の冷却時に座屈形成によって前記ビーム(P)を変形するために、約20℃の周囲温度まで冷却するステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記可撓性多重安定要素(5)は、第1の剛性を有する耐変形性の構造体(56)と、及び前記構造体(56)と単一部品であるようにされ、前記第1の剛性の10分の1未満の第2の剛性を有する可撓性弾性接続要素(500)とを有し、
前記接続要素(500)は、少なくとも2つの薄い細長片(51、91、52、92)によって形成されており、
これらの薄い細長片(51、91、52、92)は、それぞれ、第1の端において前記構造体(56)に固定され、第2の端によって前記可撓性要素(5)の本体(6)に接続されており、ともに、前記本体(6)がピボット回転することができる仮想ピボット軸(50)を前記本体(6)上の先端が定めるようなV字形を形成する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の可撓性多重安定要素(5)を製造する方法。
【請求項6】
前記可撓性細長片(51、91、52、92)の少なくとも2つは、前記フレーム(56)に対して予応力を与えられ座屈形成するようにマウントされている
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ビーム(P)は、まっすぐなビーム(9)の形に形成されており、
これにおいて、2つの区画(91、92)は、前記ビーム(9)がC字形の輪郭を有するような第1のモード又は前記ビーム(9)がS字形又はZ字形を有するような第2のモードで座屈形成するようにマウントされ、
前記ビーム(P)は、前記ビーム(9)が、中心点でノードを有し、かつ、第2のモードに従って座屈を形成させるようなピボット軸と連係するように構成する中心点の一方の側上にて位置合わせされている
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記ビーム(P)は、2つの区画(91、92)を備えたまっすぐなビーム(9)の形に形成され、
前記可撓性要素(5)は、前記ビーム(9)がS字形又はZ字形となる第2のモードに前記区画(91、92)で形成されたビーム(9)に変形させるように第3のビーム(93)が前記フレーム(56)に固定されるように形成される
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
前記区画(91、92)を形成する前記細長片において、
前記ケイ素フレーム(56)に作成された二酸化ケイ素SiO2製の袋部(54、55)の周辺に、ケイ素の酸化によって応力が付与される
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記可撓性要素(5)は、他の部分に対して、大きく異なる断面を有し、かつ、幾何学的構成が二酸化ケイ素の形成によって大きく変更されている少なくとも1つの領域を有し、
この領域は、前記ビーム(P)が延在するエッジ(B)又はヘッド(T)よりも小さな断面を有するビーム(P)又はまっすぐなビームに、座屈応力を与える
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記可撓性要素(5)は、並列の酸化ケイ素ビームのネットワーク(94)と、及び第1の端において前記構造体(56)に接続され第2の端において前記ネットワーク(94)に接続された単一のビーム(96)との間の座屈抵抗差を使用して予応力を与えられ、
前記単一のビーム(96)には、前記ネットワーク(96)の酸化の後に座屈による予応力が与えられ、
前記ネットワーク(94)の座屈抵抗は、前記単一のビーム(96)の座屈抵抗よりも大きい
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項12】
フレーム(C)の2つの開口部(F1、F2)の間に配置されたビーム(P)は、前記開口部(F1、F2)の内部及び前記ビーム(P)の側面における二酸化ケイ素SiO2の成長によって、酸化され座屈を形成し、
周囲温度までの冷却の後の前記構造体の収縮の後に、それぞれが前記ビーム(P)と並列に剛質量体(M、M1、M2)を形成し、かつ、前記ビーム(P)よりも大きく収縮するような前記フレーム(C)のサイドポスト(M1、M2)の収縮によって、酸化され座屈を形成し、
これによって、前記ビーム(P)は、ケイ素よりも実質的に低い膨脹係数を有する二酸化ケイ素で作られ、結果的に座屈応力を与えられて双安定の状態となる
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
剛質量体(M、M1、M2)の少なくとも1つは、堅固な細長片(LM)を有する構造の形態で作られており、
これらの細長片(LM)は、お互い実質的に平行で、対を形成するように溝(F)によって分離され、対を形成するようにエッジ(B)又はヘッド(T)によって接続されており、
二酸化ケイ素SiO2成長の相の前記持続時間は、前記溝(F)を充填し、かつ、共通の前記エッジ(B)又は共通の前記ヘッド(T)に対して少なくとも2つの連続する前記堅固な細長片(LM)を角度的に分離するように、前記連続する堅固な細長片(LM)に対する酸化物の成長どうしの衝突及びこれの堆積によって、調整される
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記部品は、二酸化ケイ素の成長の前に、1〜10μmの前記溝(F)の初期幅を有するように作られ、
前記連続する堅固な細長片(LM)の反対側の表面において、1〜10μmであって前記溝(F)の初期幅の半分よりも大きい厚みを有する酸化物を成長させる
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ビーム(P)は、アコーディオン状の前記構造における酸化物の成長どうしの衝突によって予応力を与えられ、
前記ビーム(P)の末端に位置するアコーディオン状又はコイル状の堅固な細長片(LM)を有する
ことを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
剛質量体(M、M1、M2)の少なくとも1つは、ジグザグ状又はZ字形の堅固な細長片(LM)を有する構造の形態で作られており、これらの細長片(LM)は、対を形成するようにエッジ(B)又はヘッド(T)において接続されており、これらの連続する堅固な細長片どうしは一定の角度を形成し、
二酸化ケイ素SiO2成長の相の前記持続時間は、前記溝(F)を充填し、かつ、共通の前記エッジ(B)又は共通の前記ヘッド(T)に対して少なくとも2つの連続する前記堅固な細長片(LM)を角度的に分離するように、前記連続する堅固な細長片(LM)に対する酸化物の成長どうしの衝突及びこれの堆積によって調整され、
前記ビーム(P)は、二酸化ケイ素の成長によって、前記ビーム(P)の末端に位置する前記ジグザグ状又はZ字形の構造の頂角を開くことによって、予応力を与えられ、
前記構造のジグザグ状又はZ字形の幾何学的構成によって変位が大きくなっている
ことを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記二酸化ケイ素SiO2成長の相の前記持続時間は、いずれの前記ビーム(P)の区画も、最終的に、10%〜100%の二酸化ケイ素を含有するように、調整される
ことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記二酸化ケイ素SiO2成長の相の前記持続時間は、いずれの前記剛質量体(M、M1、M2)の断面が、最終的に、二酸化ケイ素を0.1%〜50%含有するように調整される
ことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性双安定細長片を作る2つの方法に関する。
【0002】
本発明は、計時器用機構、特に、エスケープ機構の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
機械的な腕時計の設計者は、可能な限り大きなパワー残量が残るように努力しており、最も困難な使用条件においても、規則性、精度及びセキュリティを確保しつつ、常に、効率を改善しようとしている。規制アセンブリーとエスケープ機構は、この課題の主役である。
【0004】
具体的には、機械的な腕時計では、エスケープはいくつかの安全基準を満たさなければならない。安全装置の1つである反トリップ機構は、バランスの角度的な拡大によって正常な回転角度が超えられることを防ぐように設計されている。
【0005】
Montres Breguet SA名義の欧州特許EP1801668B1は、機構の構造がバランススタッフにマウントされたピニオンを有するような機構を提案している。このピニオンが歯車と噛み合い、その少なくとも1つのスポークは、バランスがその正常な回転角度を超えて駆動する場合に固定止めに当接する。しかし、この機構はバランスの慣性に影響し、その振動を妨げることがある。また、機構を形成するギアには摩擦があり、これも規制機構を妨げる。
【0006】
Montres Breguet SA名義の欧州特許出願EP1666990A2は、バランスばねの伸びに基づいた別の反トリップ機構を開示しており、これにおいて、バランスばねの外側コイルに固定されるロッキングアームが、バランスと一体化されたフィンガーと、バランス棒と一体化された2つのカラムの間に挿入されている。その正常な作動角度を超えてバランスばねが過度に伸びる場合にのみロックが発生する。この機構は、回転角度を一方の回転方向に制限するのみである。
【0007】
Nivarox名義の欧州特許出願EP2450756A1は、エスケープ機構用の反トリップデバイスであって、バランスと一体化されたカムパス内を運動するフィンガーを支えるピボット回転する車セットを有するものを開示している。このピボット回転する車セットは、双安定のレバー、特に、弾性的な双安定のレバーを備えたアームを有することがある。
【0008】
Enzler−Von−Gunten名義の欧州特許出願EP2037335A2は、パレット石及びパレットフォークが設けられた2つのアームを有するパレットレバーを開示しており、このアセンブリーは、2つの可撓性を有する固定用アームと単一片で作られており、この固定用アームは、パレットレバーの仮想的なピボット軸を定め、パレットレバーが曲がる際にピボット回転することを可能にし、これらの2つの細長片の中央の軸は、仮想軸線上で交差している。
【0009】
ETA名義の国際特許出願WO2007/000271は、厚いアモルファス材料、特に、厚みが50nm以上の層における二酸化ケイ素で覆われたケイ素コアを備えた強化されたマイクロ機械部品を開示している。
【0010】
Rolex名義の欧州特許出願EP2407831A1は、少なくとも1つのコイルの全長にわたって、ブリッジと互い違いのカットアウトを備えたケイ素又は石英のバランスばねを開示している。具体的には、ケイ素コアがアモルファス二酸化ケイ素の層で覆われている。
【0011】
ST Microelectronics SA名義の欧州特許出願EP562207A1は、この場合は膜である可撓性多重安定要素を作る方法を開示しており、これは、冷却の後に膜の双安定性を与える内部の圧縮応力がある窒化ケイ素層を堆積させるステップを有する。
【0012】
まとめると、既知の安全装置は、それぞれ以下のような再現することができる課題を少なくとも1つ有する。すなわち、規制メンバーの慣性が変わることによって振動が妨げられること、摩擦の影響の下で効率に悪影響を及ぼすこと、あるいは回転角度が一方の回転方向のみに制限されることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、腕時計の効率を改善し、バランスの振動をほとんど妨げず、効率の低下が無視できる程度又はゼロであり、バランスの角度的な移動を両方の回転方向において制限するようにして、前記課題を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、さらに、可撓性多重安定要素を作る方法であって、
− ビームがビームよりも少なくとも10倍大きい断面を有する剛質量体の2つの端を接続するように、ケイ素部材をエッチングするステップと、
− ビーム上で、第1のケイ素コアの断面に対するSiO
2の第1の周部層の断面の第1の比が1よりも大きく、質量体上で、第2のケイ素コアの断面に対するSiO
2の第2の周部層の断面の第2の比が第1の比の100分の1未満であるように持続時間が調整される、1100℃でSiO
2を成長させるステップと、
− 質量体がビームよりも大きく冷却され収縮する際に、座屈形成によってビームを変形するために、周囲温度まで冷却するステップと
を有するものに関する。
【0015】
具体的には、可撓性多重安定細長片を作る第1の方法は、
− ケイ素部材Sをエッチングするステップであって、
これにおいて、小さな断面の細いビームが前記小さな断面よりも少なくとも10倍大きい大きな断面の少なくとも1つの質量体の2つの端の間の接続を形成し、
前記少なくとも1つの質量体は、剛フレームを形成するステップと、
− 炉において数時間1100℃の温度を維持することによって、前記部品に既知の二酸化ケイ素SiO
2成長法を適用するステップと、
− ビーム上で、第1の周部層で覆われた第1のケイ素コアを得て、前記質量体上で、第2の周部層で覆われた第2のケイ素コアを得るように、前記持続時間を調整するステップであって、
これによって、ケイ素で作られたビームの前記第1のコアの断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で作られた前記ビームの前記第1の周部層の断面の第1の比が1よりも大きくなり、また、
− これによって、ケイ素で作られた前記質量体の前記第2のコアの断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で作られた前記質量体の前記第2の周部層の断面の第2の比が、前記第1の比の100分の1未満となるステップと、
− 冷却時の収縮が前記ビームの収縮よりも大きいような前記少なくとも1つの質量体の冷却時に座屈形成によって前記ビームPを変形するために、約20℃の周囲温度まで冷却するステップと
の一連の動作によって達成される。
【0016】
本発明は、さらに、可撓性多重安定細長片を作る別の方法に関し、これは、
− ケイ素部材をエッチングするステップであって、
これにおいて、小さな断面の細いビームが前記小さな断面より少なくとも10倍大きい大きな断面の少なくとも2つの質量体の2つの端の間の接続を形成し、前記少なくとも2つの質量体は、剛フレームを形成するステップと、
− 炉において数時間1100℃の温度を維持することによって、前記部品に既知の二酸化ケイ素SiO
2成長法を適用するステップと、
− ビーム上で、第1の周部層で覆われた第1のケイ素コアを得て、前記質量体それぞれの上で、第2の周部層で覆われた第2のケイ素コアを得るように、前記持続時間を調整するステップであって、
これによって、ケイ素で作られたビームの前記第1のコアの断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で作られた前記ビームの前記第1の周部層の断面の第1の比が1よりも大きくなり、また、
− これによって、ケイ素で作られた前記第2の質量体の前記第2のコアそれぞれの断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で作られた前記質量体の前記第2の周部層それぞれの断面の第2の比が、前記第1の比の100分の1未満となるステップと、
− 冷却時の収縮が前記ビームの収縮よりも大きいような前記少なくとも2つの質量体の冷却時に座屈形成によって前記ビームを変形するために、約20℃の周囲温度まで冷却するステップと
の一連の動作によって達成される。
【0017】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点がわかるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る計時器用リミッター又は伝達機構の概略正面図を示す。これは、本発明に係る反トリップ機構の形態で作られており、ムーブメントの構造に固定され、この図においては2つのアームであるいくつかのアームの1つを介して交互に連係しており、バランスのピンを備えている。
【
図2】
図1と同様な機構の同様な図であるが、緩衝機構が加わっている。
【
図3】組み込まれたビームの3つの状態についての概略図を示す。すなわち、
図3Aは安静モード、
図3BはC字形座屈の第1のモード、
図3CはSないしZ字形座屈の第2のモードを示す。
【
図4】可撓性ピボットの作用の下で
図3Cの第2のモードで座屈が発生している、組み込まれ予応力を与えられたビームの概略正面図を示す。
【
図5】単一片の実施形態において、ビームが中心がずれたねじによって予応力を与えられ座屈が発生するような
図4の原理による本発明の実施形態の概略正面図を示す。
【
図6】
図6は、予応力の付与がケイ素フレームにおける酸化ケイ素製のポケット状部によって達成された
図5の変種を示す。
図6A、6Bは、ケイ素の酸化の前後の断面の大きな差がある領域の詳細を示しており、二酸化ケイ素が形成された後には大きく変更されており、小さな断面のまっすぐなビームが座屈応力を与えられている。
【
図7】
図7は、並列の酸化されたケイ素ビームのネットワークと、単一の予応力を与えられた座屈が発生しているビームの間の座屈抵抗の差を使用する別の予応力を与える原理を示す。
図7A、
図7B、
図7Cは、ビームを酸化させて座屈を発生させる方法の連続ステップを示す。
【
図8】可撓性緩衝領域を有する反トリップ止めアームを有する変種を示す。
【
図9】本発明に係る反トリップデバイスを備えたムーブメントを有する腕時計の形態の計時器についての部分的な概略図を示す。
【
図10】反トリップ機構の仮想的な双安定ピボットが移動することができる構成を示す。
【
図11】バランスピンの平面において反トリップシステムのアームを保持するために少なくとも2つの高さレベルを有する反トリップ機構の詳細を示す。すなわち、アームが前記ピンと連係する上側の第1のレベルと、ガードピンがバランスの切り欠きと連係する、より低い第2のレベルである。
【
図12】
図7Aの構造の変種において、ケイ素の酸化によって変形することができる構造を示す。
【
図13】本発明に係る方法と同様な方法に従って反トリップ機構を作るための単結晶石英構造の断面図を示す。
【
図14】点線に沿った断面で垂直方向の向きに位置する磁石によって行われる反トリップ機構のバランスピンとアームの間の反発機能を有する本発明の機構を示す。
【
図15】磁場の平面を向いている同様な実施形態を示す。
【
図16】
図10と同様な概略図であるが、ムーブメントが任意の種類であって双安定である、より一般的な場合を示す図である。
【
図17】
図17A及び
図17Bは、コイルにおいて酸化物の成長との遭遇(の前及び後に)によって発生する予応力を示す。
【
図20】
図20A及び
図20Bは、非常に低い曲率半径の領域における酸化された壁の曲率半径を変えること(の前及び後)によって得られた角度変化を示す。
【
図21】単一の質量体の両端と連係する可撓性双安定細長片についての概略図である。
【
図22】計時器用リミッター又は伝達機構がバランスとエスケープ車の間のパレットレバー機構である別のアプリケーションの平面図を示す。
【
図23】
図7と同様な形態の図であって、
図23A、
図23B、
図23Cにおいて、それぞれ処置の前、二酸化ケイ素を形成する加熱時、周囲温度まで冷却した後の3つの連続する図を示しており、大きな断面の同じ質量体の2つの端の間、及び同じく大きな断面の別個の2つの質量体の間、の小さな断面のビームを備えた可撓性多重安定要素を製造する方法を示している。
【
図24】
図7と同様な形態の図であって、
図24A、
図24B、
図24Cにおいて、それぞれ処置の前、二酸化ケイ素を形成する加熱時、周囲温度まで冷却した後の3つの連続する図を示しており、大きな断面の同じ質量体の2つの端の間、及び同じく大きな断面の別個の2つの質量体の間、の小さな断面のビームを備えた可撓性多重安定要素を製造する方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、計時器用機構のための可撓性多重安定細長片、特に、可撓性双安定細長片を作る方法に関する。
【0020】
図21及び
図23A、
図23B、
図23Cに示す第1の変種において、可撓性双安定細長片5は、少なくとも1つの質量体、特に、単一の質量体MU、の両端E1、E2と連係する。本方法は、次の一連の動作を行う。
− ケイ素部材Sをエッチングするステップであって、これにおいて、小さな断面の細いビームPが大きな断面の少なくとも1つの質量体MUの2つの端E1、E2の間の接続(前記小さな断面より少なくとも10倍大きい)を形成し、前記少なくとも1つの質量体MUは剛フレームCを形成する。
− この部品Sには、炉内において数時間1100℃の温度を維持することによって、既知の二酸化ケイ素SiO
2成長法が適用される。
− この数時間の持続時間は、ビームP上で、第1の周部層CP1で覆われた第1のケイ素コアA1を得て、質量体MU上で、第2の周部層CP2で覆われた第2のケイ素コアA2を得るように調整される。これによって、ケイ素で作られたビームPの第1のコアA1の断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で形成されたビームPの第1の周部層CP1の断面の第1の比RAが1よりも大きいようにされる。
− これによって、ケイ素で作られた質量体MUの第2のコアA2の断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で作られた質量体MUの第2の周部層CP2の断面の第2の比RBが第1の比RAの100分の1未満であるようにされる。
− 約20℃の周囲温度まで冷却され、ビームPが変形する。これは、冷却時の収縮がビームPの収縮よりも大きいような少なくとも1つの質量体MUの冷却時に座屈形成によって行われる。
【0021】
図7A、
図7B、
図7C及び
図24A、
図24B、
図24Cは、少なくとも2つの質量体を伴う可撓性双安定細長片を作る方法の第2の変種実装例を示す。この方法は、次の一連の動作を行う。
− ケイ素部材Sがエッチングされる。これにおいて、小さな断面の細いビームPが、それぞれが小さな断面より少なくとも10倍大きい大きな断面を有する少なくとも2つの質量体M1、M2の間の接続を形成する。前記2つの質量体M1、M2は、これらどうしで又は他の構造要素とともに、剛フレームCを形成する。
− この部品Sには、炉において、数時間1100℃の温度を維持することによって、既知の二酸化ケイ素SiO
2成長法が適用される。
− この数時間の持続時間は、ビームP上で、第1の周部層CP1で覆われた第1のケイ素コアA1を得て、各質量体M1、M2上で、第2の周部層CP2で覆われた第2のケイ素コアA2を得るように調整される。これによって、ケイ素で作られたビームPの第1のコアA1の断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で作られたビームPの第1の周部層CP1の断面の第1の比RAが、1を超えるようにされる。
− 、これによって、ケイ素で作られた第2の質量体M1、M2の第2のコアA2それぞれの断面に対する二酸化ケイ素SiO
2で作られた質量体M1、M2の第2の周部層CP2それぞれの断面の第2の比RBが、第1の比RAの100分の1未満であるようにされる。
− 約20℃の周囲温度まで冷却され、冷却時の収縮がビームPの収縮よりも大きい2つの質量体M1及びM2の冷却時にビームPが座屈形成するようにされる。
【0022】
本発明の似た変種において、反トリップ機構1の構造は、単結晶石英で作られている。
図13に示すように、中央の単結晶石英コアの上面及び下面は、石英の係数α
x,yよりも低い係数αを有する周囲温度よりも高温で作られた堆積物で覆われる。この石英係数α
x,yは、7.5ppm/℃である。
【0023】
好ましいアプリケーションにおいて、可撓性多重安定要素を作る本方法は、計時器用ムーブメント10の車セット2000の角度的な移動を制限又は伝達する計時器用リミッター又は伝達機構1000に適用され、これにおいて、前記車セット2000は、少なくとも1つの突起ピン又は歯4000、特に、放射状に突出する歯5001又は軸方向に突起するピン4を有するものに関する。本発明によると、この計時器用リミッター又は伝達機構1000は、制限又は伝達手段6000を有し、これらは、少なくとも1つの可撓性多重安定要素、特に、双安定要素5を介して、ムーブメント10の別の部品又はムーブメント10の剛構造要素7に固定される。
【0024】
特定のアプリケーションにおいて、この計時器用リミッター又は伝達機構1000は、反トリップ機構1であり、これは、計時器用バランス2が空転することを防ぐように意図されている。計時器用バランス2は、スタッフ3及びピン4、又は前記スタッフ3から突出する同様な要素を有する。
【0025】
本発明によると、反トリップ機構1は、少なくとも1つの単一片の双安定可撓性要素を有し、これは、以下において、反トリップ止めメンバー6を支える「双安定可撓性要素5」と呼ぶ。また、可撓性で弾性的な接続要素を介して、計時器用ムーブメント10の底板、棒などの剛構造要素7に固定されている。この計時器用ムーブメント10には、バランス2を有する規制メンバーが一体化されている。
【0026】
特定の変種において、この剛構造要素7は、バランス2のスタッフとの自律アライメントのシステムを有する。
【0027】
この双安定可撓性要素5は、少なくとも1つの反トリップ止めメンバー6を支えており、その一端63又は64は、バランス2の角度的な位置に応じて、バランス2がその通常の角度的な移動から逸脱する場合に、ピン4の軌道と干渉して、止めメンバーの機能を行うことがある。
【0028】
図1は、特定の好ましいアプリケーション(これに限定されない)において、フロー図をもたらす。これにおいて、双安定可撓性要素5及び少なくとも1つの反トリップ止めメンバー6はともに、モノリシックな部品を形成する。この例(これに限定されない)において、反トリップ止めメンバー6は、2つのアーム61、62を有し、その対応する端63、64はそれぞれ、バランス2の位置に応じて、バランス2がその通常の角度的な移動から逸脱する場合に、ピン4の軌道と干渉し、止めメンバーの機能を行う。2つのアームを備えたこの実施形態は、図示したように、前記バランスの両方の回転方向においてバランス2の回転角度を制限する。
図1は、バランス2に対する干渉の位置を点線で示す。この干渉によって、バランス2の角度的な移動が制限される。
【0029】
双安定可撓性要素5は、ここにおいて、これらの可撓性を有し弾性的な接続要素を有するものとして図示しており、これは、少なくとも2つの薄い細長片51、52で形成されており、そのそれぞれは、剛構造要素7に第1の端において固定されており、第2の端を介して可撓性要素の本体に接続されている。
図1の特定の場合において、2つの薄い細長片51、52は、その第2の端を介してV字形の可撓性要素の本体に接続され、仮想ピボット50の定めて、これを中心に反トリップ止めメンバー6がピボット回転することができる。したがって、
図1及び2の場合には、本発明に係る双安定可撓性要素5は、可撓性双安定ピボットを与える。この実施形態は排他的ではなく、
図10は、反トリップ止めメンバー6が移動することができるような場合の図である。
図16は、ムーブメントが任意の種類であってもよく双安定であるような、より一般的な場合を示す。
【0030】
好ましくは、少なくとも2つの可撓性アーム51、91、52、92は、剛構造要素7に対して、あるいは双安定可撓性要素5に備えられたフレーム56に対して予応力を与えられてマウントされ、座屈が発生する。
【0031】
細長片51、52のそれぞれは、与えられる応力に応じて、いくつかの状態を占めることができる。これらの細長片のそれぞれは、座屈によって働くように構成が計算され、
図3に示すように、座屈モードに応じて、いくつかの幾何学的構成を採ってもよい。すなわち、
図3Aでは安静モード、
図3Bでは凹面又は凸面形状において第1の座屈モード、
図3CではSないしZ字形の座屈モードのようにである。双安定可撓性要素5は、本発明の範囲から逸脱せずに、ここで図示した可撓性細長片51、52とは形が異なる可撓性要素を有することができる。
【0032】
また、双安定可撓性要素5は、特定の実施形態において、剛構造要素7と単一片で作ることができる。
【0033】
図8に示す特定の実施形態において、過度な衝撃を防ぐために、反トリップ機構1の止めメンバー6のアーム61、62に可撓性要素65、66を設けることができる。
【0034】
この双安定可撓性要素5は、シリコン技術、「LIGA」、MEMSなどで作ることができ、バランス2の慣性と比べて非常に低い慣性を有し、その作動はバランス2の振動をわずかにのみ妨げる程度である。
【0035】
図2は、双安定可撓性要素5の可撓性細長片51、52を保護する緩衝機構を示す。この機構は、反トリップ止めメンバー6がバランス2の振幅を制限しなければならない場合に有用ないし必要である。その目的は、アーム61、62と当接して連係する緩衝止めメンバー81、82における衝撃を吸収することであり、これらの衝撃を可撓性アーム51、52に伝達しないようにして前記アームを折らないようにすることである。
図5は、可撓性ピボットと共軸の緩衝止めメンバー83を示す。この例の実施形態において、緩衝止めメンバー81及び82は、実質的に円筒状の突起を有し、これらは、アーム61、62内の実質的に相補的な形の溝と連係する。
【0036】
可撓性双安定ピボット5は、いくつかの法則に従って作ることができる。
図3は、この特定の場合において考えられた双安定状態の原理を紹介するものである。応力が与えられたビーム9の固有座屈モードを使用する。具体的には、
図3Cに示す第2のモードを使用する。
【0037】
図4に示すように、好ましい一実施形態において、ビーム9が第2のモードで座屈が発生するために、ピボット90は、ビーム9にその中間(追加されるピボットの回転中心)でノードをもたせる。これによって、双安定ピボット5の回転中心50は、追加されるピボット90の回転中心となる。
【0038】
図5は、この原理に従って作られた完全な反トリップ機構1を示す。可撓性双安定ピボット5は、ビーム9がSないしZ字の形をとるような第2のモードで座屈を発生させる少なくとも1つの予応力を与えられたビーム9を有し、ピボット90は、前記ビーム9に、好ましくはその中間における中央領域においてノードをもたせる。好ましくは、
図5の場合には、可撓性双安定ピボット5は、2つの予応力を与えられたビーム91、92(これらは双方でビーム9を形成する)を、ここで2つの中心がずれたねじ94及び95を使用して応力を与えることによって、座屈を発生させることによって作られる。構造7に又は双安定可撓性要素5のフレーム56に固定された第3のビーム93は、ビーム91、92で形成されたビーム9に第2のモードで変形させて、第3のビーム93は、
図4のピボット90の役割を果たす。緩衝止めメンバー83は、可撓性双安定ピボット5の回転中心50に位置する。
【0039】
図11は、反トリップシステムのアーム62、61をバランスピン4の平面において保持する少なくとも2つの高さレベルを有する反トリップ止めメンバー6を示す。すなわち、ピン4と連係するアーム61、62がある上側の第1のレベルと、バランス2の切り欠き21と連係するガードピン67がある、より低い第2のレベルである。
【0040】
いずれの接触もなくし又はいずれの接触圧力も減少させるために、本発明に係る反トリップ機構1は、好ましいことにさらに、反トリップ機構1のバランス2とアーム61、62の間で反発力又はトルクを発生させる手段をもたせることができる。
【0041】
図14は、この反発機能がピン4及びアーム61、62の端63、64上で垂直方向に位置する磁石によって行われる場合を示す。
図15は、同様な実施形態であって磁場の平面を向いているものを示す。これらの磁石のN極及びS極を示した。
【0042】
同様な場所で、磁石の代わりに、又は磁石に加えて、これらの反発力を働かせるためにエレクトレットを使用することができる(静電荷を使用する)。
【0043】
これは、反トリップ機構1の効率を増加させて、バランス2の動作の妨げを可能な限り小さくするためである。反トリップ機構1の動作は、以下のとおりである。
− 第1段階において傾く際に、バランス2は双安定可撓性要素5にエネルギーを運ぶ。
− 第2の段階において一旦平衡点を過ぎると、機構はエネルギーの一部をバランス2に戻して、小さなインパルスを作る。
【0044】
機構は、スイス式レバーのホーンと同様な方法で作動する。すなわち、リリースがあり、次に、インパルスがある。
【0045】
特定の実施形態では、バランス2及び/又は反トリップ止めメンバー6の少なくともアーム61、62、又は好ましい一実施形態において単一片である場合の反トリップ機構1全体は、酸化ケイ素を成長されるかさせないかにかかわらず、シリコン技術でシリコンウェハーから作られ、場合に応じて、一方では、磁石又は磁性粒子を、他方では、エレクトレットを含有する表面層を有する。この特定の層は、直流電気の方法、陰極スパッタ、又は他の適切なマイクロ技術的構造化方法によって達成することができる。
【0046】
双安定可撓性要素5がシリコン技術で作られる好ましい場合においては、ビーム91、92を形成する細長片における応力の発生が、ケイ素の酸化を介して発生することがある。実際に、
図6に示すように、ケイ素から成長させる場合、酸化ケイ素は大きな体積を占める、この場合は、SiO
2のポケット54、55がシリコンフレーム56において作られるからである。
図5又は
図6の例は、このフレーム56が、任意の通常の機械的な締着技術によって非常に単純な手法で、剛構造要素7を形成したり、これに接続したりすることができることを示している。
【0047】
図6A、
図6Bは、ケイ素の酸化の前後の断面に大きな違いがある領域の詳細を示しており、その断面は、ビームが延長部分を作っている頭Tよりも小さな断面のまっすぐなビームPが座屈応力を与えられるように、二酸化ケイ素が作られた後に大きく変更されている。
【0048】
図7に示すように、これらの細長片において座屈応力を達成する別の手段は、特定形状のケイ素構造の酸化による。ケイ素の酸化は、酸化されたビームの長さを増加させる効果がある表面の応力を作る。
図7は、並列の酸化ケイ素製ビームのネットワークと、単一の予応力を与えられた座屈ビームとの間で、座屈抵抗差を利用する別の予応力を利用した原理を示しており、左側部分において、並列の構造94が、並列ビーム95の群を有しており、これは、酸化の後に(点線で示すように)座屈を発生させて曲がらせるような単純な機構を示しており、右側部分において、応力を与えられる可撓性要素9を示している。この可撓性要素9は、この場合はビーム9、91、92などであり、変形することを必要とされ、並列の構造94の座屈抵抗は、応力を与えられる可撓性要素96よりもはるかに大きい。
図7A、
図7B、
図7Cは、フレームCにおける2つの開口F1、F2の間で配置されたビームPを酸化して座屈を発生させる方法の連続ステップを示す。
図7Aは、炉に置かれた時におけるケイ素エッチング形状形成に起因する基本構造を示す。
図7Bは、既知の方法で数時間1100℃で構造を維持することによる開口F1及びF2内の酸化ケイ素SiO
2の成長、したがって、ビームPの成長を示している。これにおいて、二酸化ケイ素SiO
2の成長が、部品の外部に向かって、ケイ素の部分的な消費によって生じており、結果的に、薄いビームPにおいて、この1100℃の処置時に時間とともにケイ素の割合が減少すると、二酸化ケイ素SiO
2の割合が増加する。
図7Cは、約20℃までの周囲温度まで冷やした後の構造の縮みを示している。ビームPと並列のフレームCの横方向のメンバーM1、M2は、ケイ素と少量の二酸化ケイ素で実質的に形成されており、ビームPよりも多く縮む。このビームPは、ケイ素よりも膨脹係数が低い二酸化ケイ素から実質的に作られる。結果的に、ビームPは座屈応力を与えられ、双安定状態をとる。
【0050】
また、
図17A及び17Bは、コイルにおける酸化物成長に伴って発生する予応力を示す。
【0051】
図18A及び18B(及び
図19A及び19Bにおけるその詳細)は、同じ原理に従ってジグザグ輪郭の頂角を開くことによって得られる予応力を示しており、酸化ケイ素の成長によって、これらの頂角を開かせ、ムーブメントは、この構造のZ字状ないしジグザグな幾何学的構成によって増幅される。
図20A及び20Bは、曲率半径が非常に小さい領域における酸化された壁の曲率半径を変えることによって得られた角度変動を示している。
【0052】
ここで図示した反トリップ機構1は、バランスの回転方向を両方の回転方向において制限し、バランス2の振動を非常にわずかしか妨げない。
【0053】
本発明は、反トリップ機構がない腕時計用機構においても使用することができる。
【0054】
別の特定のアプリケーションでは、この計時器用リミッター又は伝達機構1000は、具体的には、エスケープ機構用のパレットレバー機構3000であり、バランス2及びエスケープ車5000と連係する同じ原理のスイス式レバーである(これに限定されない)。このパレットレバー3000は、少なくとも1つの多重安定可撓性要素、特に、双安定要素5を有する。パレットレバー3000は、本願と同一出願人の欧州特許出願EP12183559.9に従って一定の力を有する可撓性レバーの実施形態によって作ることができる。バランス2とのこのパレットレバー3000の連係は、上記の反トリップ止めメンバー6のアーム61、62の端63、64と同様なホーン3001によって達成される。これらのホーン3001は、パレットレバー3000の第1の部分3100によって支えられており、少なくとも1つの可撓性多重安定細長片、具体的には、双安定細長片5によって、固定構造7、又は好ましくはエスケープ車5000の歯5001と連係するパレット石3002を有するパレットレバーの第2の部分3200に接続される。同様に、これらのパレット石3002は、好ましいことに、アーム61、62と同様な方法で形成され、少なくとも1つの可撓性の多重安定細長片、特に、双安定細長片5に、固定構造7又は好ましくはホーン3001を有するパレットレバーの第1の部分3100に接続されている。
【0055】
特定の好ましい手法において割合と効率を改善するために、一方におけるホーン3001とバランス2の間の相互作用と、及び/又は他方におけるパレット石3002とエスケープ車5000の間の相互作用は、非接触、又は少ない接触で達成される。この目的のために、ホーン3001及び/又はパレット石3002の影響を受けた表面は、バランス及び/又はエスケープ車の対向面との反発力で連係するように磁化又は帯電される。その対向面は、適切な材料で作られており、及び/又は、好ましいことに相補的な手法で磁化又は帯電される。Swatch Group Research and Development Ltd名義の国際特許出願PCT/EP2011/057578は、この種の非接触ないし減衰した接触伝達を開示している。その可撓性の多重安定細長片を有する機構、特にパレットレバーとの組み合わせによって、必要な利点を与えることができる。
【0056】
本発明は、さらに、バランス2を有する少なくとも1つの規制メンバーを有する計時器用ムーブメント10に関し、これは、本発明に係る計時器用リミッター又は伝達機構1000を少なくとも1つ有する。この場合には、ムーブメント10は、前記計時器用リミッター又は伝達機構1000の双安定可撓性要素5が固定される構造7を有するか、あるいは前記双安定可撓性要素5が実際にこの構造7を形成するかである。
【0057】
本発明は、さらに、特に腕時計である計時器100であって、この種のムーブメント10を少なくとも1つ有するもの、あるいはこの種の計時器用リミッター又は伝達機構1000を少なくとも1つ有するものに関する。
【0058】
可撓性双安定ピボットに対応する従来のピボット及びばねに基づく均等な機構も、本発明の一部を形成すると考えられる。
【0059】
本デバイスを作るために用いられる技術は、シリコン技術に限定されず、「LIGA」、「MEMS」及び他のミクロ製造方法をも含む。