(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス転移点が−80℃以上−55℃以下であるジエン系ゴム(A)のラテックスと、ガラス転移点が−55℃超−30℃以下であるジエン系ゴム(B)のラテックスと、オイルと、水中にシリカを分散させたシリカスラリーと、を混合してなる混合液を乾燥させる、シリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法であって、前記ジエン系ゴム(A)の含有量が全ゴム成分に対する乾燥質量比で5〜30質量%であり、前記ジエン系ゴム(B)の含有量が全ゴム成分に対する乾燥質量比で70〜95質量%であり、前記オイルの含有量が全ゴム成分100質量部に対して3〜20質量部であり、前記シリカの含有量が全ゴム成分100質量部に対して20〜200質量部であるシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
前記オイルがエステル結合及び/又はヒドロキシル基を構造の一部に有するオイルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態に係るシリカ含有ゴムマスターバッチは、ガラス転移点が−80℃以上−55℃以下のジエン系ゴム(A)のラテックスと、ガラス転移点が−55℃超−30℃以下のジエン系ゴム(B)のラテックスと、オイルと、シリカスラリーと、を混合してなる混合液を、乾燥させることで得られるウェットマスターバッチであり、シリカとジエン系ゴムとの複合体である。このようにウェットマスターバッチ化に際して上記特定のゴムラテックスをブレンドし更にオイルを添加することにより、ドライ混練で同様のガラス転移点が異なるゴムをブレンドする場合に対してはもちろんのこと、上記特許文献2のように一方のジエン系ゴムをウェットマスターバッチ化し、これに他方のジエン系ゴムをドライ混練する場合に比べても、ゴム成分に対するシリカの混合均一性が向上されて、転がり抵抗性能とウェット性能との両立においてより高い効果が得られる。
【0013】
ここで、ジエン系ゴムのガラス転移点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:−150℃〜50℃)測定される値である。
【0014】
上記ジエン系ゴム(A)としては、ガラス転移点(Tg)が−80℃以上かつ−55℃以下のものを用いる。このような比較的ガラス転移点の低いゴムを用いることにより、転がり抵抗性能を向上させることができる。ガラス転移点が−80℃未満では、ウェット性能の低下を招き、逆に、−55℃を超えると、転がり抵抗性能の向上効果が損なわれる。ジエン系ゴム(A)のガラス転移点は、−70〜−60℃であることがより好ましい。ジエン系ゴム(A)の具体例としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられ、これらの中でも、SBR、NRが好適である。これらのジエン系ゴムは、分子内にエポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシシリル基等の官能基が導入されたものであってもよい。
【0015】
ジエン系ゴム(A)の量は、シリカ含有ゴムマスターバッチ中に含まれる全ゴム成分に対する乾燥質量比で5〜30質量%である。すなわち、乾燥後の全ゴム成分100質量部中、ジエン系ゴム(A)を5〜30質量部含有する。ジエン系ゴム(A)の含有量が少なすぎると、転がり抵抗性能の改善効果が小さくなり、逆に、該含有量が多すぎると、ウェット性能の悪化を招くおそれがある。ジエン系ゴム(A)のより好ましい含有量は10〜30質量%であり、更に好ましくは15〜25質量%である。
【0016】
上記ジエン系ゴム(B)としては、ガラス転移点が−55℃よりも高く、かつ−30℃以下であるものを用いる。このような比較的ガラス転移点の高いゴムを用いることにより、ウェット性能を向上させることができる。ガラス転移点が−55℃以下では、高Tgのジエン系ゴム(B)を用いることによる効果が得られず、逆に−30℃よりも高いと、転がり抵抗性能が悪化するおそれがある。ジエン系ゴム(B)のガラス転移点は、−50〜−30℃であることがより好ましい。ジエン系ゴム(B)の具体例としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられ、これらの中でも、SBR、ENRが好適である。これらのジエン系ゴムは、分子内にエポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシシリル基等の官能基が導入されたものであってもよい。ジエン系ゴム(A)との好ましい組合せの具体例としては、例えば、(A)及び(B)ともにSBRの例、(A)がNRで(B)がSBRの例、(A)がNRで(B)がENRの例、等が挙げられる。
【0017】
ジエン系ゴム(B)の量は、シリカ含有ゴムマスターバッチ中に含まれる全ゴム成分に対する乾燥質量比で70〜95質量%である。すなわち、乾燥後の全ゴム成分100質量部中、ジエン系ゴム
(B)を70〜95質量部含有する。ジエン系ゴム(B)の含有量が少なすぎると、ウェット性能が悪化するおそれがあり、逆に、該含有量が多すぎると、転がり抵抗性能の改善効果が不十分となる。ジエン系ゴム(B)のより好ましい含有量は70〜90質量%であり、更に好ましくは75〜85質量%である。
【0018】
ジエン系ゴム(B)は、ジエン系ゴム(A)とのガラス転移点の差の絶対値が10℃以上であることが好ましく、このような差を設けることで、転がり抵抗性能とウェット性能のバランスをより効果的に両立させることができる。この差の絶対値は15〜40℃であることが好ましく、より好ましくは20〜35℃である。
【0019】
シリカ含有ゴムマスターバッチ中に含まれるゴム成分には、本実施形態の有利な効果を損なわない範囲内で、第3成分として、上記ジエン系ゴム(A)及びジエン系ゴム(B)以外のゴムを含有してもよい。
【0020】
これらジエン系ゴム(A)及び(B)のラテックスとしては、乳化重合法により合成された合成ゴムラテックスの他、天然ゴムラテックス(例えば、フィールドラテックス、濃縮ラテックス等)や、あるいはまた、溶液重合法により合成されたゴムを水中に乳化分散させたラテックス等、各種のゴムラテックスを用いることができる。ラテックス中におけるゴム成分(ゴムポリマー)の含有率は、特に限定されないが、一般には10〜70質量%のものを用いることができる。
【0021】
上記オイルとしては、親水性のオイルを用いることが好ましく、すなわち、エステル結合及び/又はヒドロキシル基を構造の一部に有するオイルが好適である。該ヒドロキシル基には、カルボキシル基の一部として存在する場合も含まれる。オイルを添加することにより、乾燥後のゴム粘度を低下させて、加工性を高めることができる。特に、エステル結合及び/又はヒドロキシル基を含有することにより、弱親水性となってラテックスとシリカの混合均一性に優れた状態となる。このようなエステル結合及び/又はヒドロキシル基を構造の一部に有するオイルの具体例としては、ヒマシ油、菜種油、大豆油、ごま油、トール油(トール油脂肪酸)、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、コーン油、サフラワー油、桐油、こめ油などの植物油、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ピノレン酸等の炭素数10〜24の不飽和脂肪酸などが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記混合液に加えるオイルの量は、上記ゴム成分(乾燥質量)100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましい。オイル量が少なすぎると、得られたゴムマスターバッチを用いてゴム組成物を混練する際に、粘度低下の効果がなく、加工性を改善することができない。逆に、オイル量が多すぎると、ゴム組成物の強度低下を招く。オイル量は、より好ましくは5〜15質量部である。
【0023】
上記シリカスラリーは、シリカを水中に分散させてなるシリカの水分散液である。該シリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)でも乾式シリカ(無水ケイ酸)でもよいが、好ましくは破壊特性の改良効果並びに低発熱性の改良効果が良好な湿式シリカである。該シリカの窒素吸着比表面積(BET比表面積)は、特に限定されないが、80〜300m
2/gであることが好ましく、より好ましくは100〜250m
2/gである。なお、シリカのBET比表面積はISO 5794に記載のBET法の一点値により測定される。
【0024】
シリカスラリーの調製は、公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ハイシアーミキサー、コロイドミルなどの公知の分散機を用いて、シリカを水中に分散させることができる。シリカスラリー中におけるシリカの濃度は特に限定されず、例えば1〜20質量%とすることができる。
【0025】
上記混合液に加えるシリカの量は、上記ゴム成分(乾燥質量)100質量部に対して20〜200質量部であることが好ましい。シリカ量が少なすぎると、得られたシリカ含有ゴムマスターバッチを用いてゴム組成物を調製する際に、マスターバッチ由来のシリカ量が少なくなって、ウェットマスターバッチ化による分散性向上等の有利な効果が不十分となる。逆に、シリカ量が多すぎると、ゴム成分が少なくなって粉末状のマスターバッチとなり、ドライ混合において加工性が悪化する。シリカ量は、より好ましくは20〜100質量部であり、更に好ましくは30〜80質量部である。
【0026】
上記混合液には、その他にシランカップリング剤や界面活性剤が含まれてもよい。シランカップリング剤としては、後述する公知の種々のシランカップリング剤を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの各種界面活性剤が挙げられる。
【0027】
上記混合液の調製に際しては、(1)ジエン系ゴム(A)のラテックスとジエン系ゴム(B)のラテックスとオイルを混合してなるゴム含有液にシリカスラリーを混合してもよく、(2)ジエン系ゴム(A)のラテックスとジエン系ゴム(B)のラテックスからなるゴム含有液にシリカスラリーを混合してからオイルを加えてもよく、あるいはまた、(3)シリカスラリーに予めオイルを添加しておいて、ジエン系ゴム(A)のラテックスとジエン系ゴム(B)のラテックスからなるゴム含有液に該シリカスラリーを混合してもよい。更には、(4)ジエン系ゴム(A)のラテックスとジエン系ゴム(B)のラテックスからなるゴム含有液とシリカスラリーの双方に予めオイルを添加しておいて両者を混合してもよい。これらの中でも、ゴム中へのシリカ粒子の均一分散の観点から、上記(1)のように、ジエン系ゴム(A)とジエン系ゴム(B)のラテックスにオイルを予め加えておいて、これにシリカスラリーを加えて混合することが好ましい。
【0028】
ゴム含有液とシリカスラリーとの混合は、公知の混合機を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、ホモミキサー中でシリカスラリーを攪拌しながらゴム含有液を滴下する方法、ホモミキサー中でゴム含有液を攪拌しながらシリカスラリーを滴下する方法、所定の流速を持つシリカスラリー流とゴム含有液流とを合流させて混合する方法などを用いることができる。
【0029】
このようにして得られた混合液を乾燥させてシリカ含有ゴムマスターバッチを得る手法としては、(i)混合液を、通常のウェットマスターバッチ化に従い、凝固、乾燥させてもよく、あるいはまた、(ii)混合液を噴霧乾燥してもよい。好ましくは、後者の噴霧乾燥することであり、その場合、ゴムマスターバッチ中にオイルをより効果的に取り込むことができる。
【0030】
上記(i)において、ゴムをシリカとともに凝固(共凝固)させるには、公知の方法を用いることができ、例えば、ギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩の凝固剤を用いて凝固させてもよく、あるいはまた凝固剤を添加せずに凝固がなされるものであってもよい。凝固後、固液分離して凝固物を回収した後、凝固物を洗浄し、脱水してから乾燥を行う。乾燥は公知の方法を用いて行うことができ、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤーなどの通常の乾燥機を用いて行うことができ、また混練機を用いて機械的せん断力をかけながら乾燥させてもよい。
【0031】
上記(ii)における噴霧乾燥は、公知の噴霧乾燥機を用いて行うことができる。噴霧乾燥方式としては、ノズル式、ディスク式等を挙げることができるが、ノズル式の噴霧乾燥機が好ましい。噴霧乾燥は、混合液を凝固させずに実施することが好ましく、そのため、例えば、上記ゴム含有液とシリカスラリーとを、それぞれの原料供給経路から別々に供給し、これを一本の経路に合流させて混合液とした後、直ちに噴霧ノズルから乾燥室に噴射して、噴霧乾燥させることが好ましい。該乾燥室内の温度は特に限定されないが、50〜170℃程度であることが好適である。これにより、瞬時に乾燥させて、シリカ含有ゴムマスターバッチが得られる。
【0032】
以上のようにして得られる本実施形態のシリカ含有ゴムマスターバッチにおいて、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して20〜200質量部であり、より好ましくは20〜100質量部、更に好ましくは30〜80質量部である。また、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して3〜20質量部であり、より好ましくは5〜15質量部である。
【0033】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記で得られたシリカ含有ゴムマスターバッチ(すなわち、ウェットマスターバッチ)を含むものである。該ゴム組成物において、ゴム成分は、上記シリカ含有ゴムマスターバッチ由来のゴムポリマーのみからなるものであってもよいが、該シリカ含有ゴムマスターバッチから配合されるものとは別に、通常の天然ゴムやジエン系合成ゴム(例えば、上記のIR、BR、SBR、CR、NBR等)などの各種ゴムポリマーを含むものであってもよい。ゴム組成物中のゴム成分全体に対する上記シリカ含有ゴムマスターバッチ由来のゴム成分は30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。
【0034】
該ゴム組成物には、更にシランカップリング剤が配合されることが好ましい。シランカップリング剤としては、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランなどが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは4〜15質量部である。
【0035】
該ゴム組成物には、上記の他、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、活性剤、滑剤、加硫剤、加硫促進剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、該ゴム組成物には、カーボンブラック等の他の充填剤を添加してもよく、また、ウェットマスターバッチ化したシリカを用いるという本実施形態の上記効果を損なわない範囲内で、追加的にシリカを添加してもよい。
【0036】
該ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダー、ロールなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。このようにして得られるゴム組成物は、例えば、トレッドやサイドウォール、ベルトやプライのトッピングゴム、ビードフィラー、リムストリップ等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種用途に用いることができるが、好ましくは、空気入りタイヤに用いることである。特には、空気入りタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜200℃で加硫成形することにより、トレッド部を形成することができる。空気入りタイヤのトレッド部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、好ましい態様として接地面を構成するゴムに用いる場合、単層構造のものであれば、トレッド部の全体が上記ゴム組成物からなることが好ましく、また2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[シリカ含有ゴムマスターバッチの調製]
以下のようにして実施例及び比較例のマスターバッチを調製した。各マスターバッチの構成は、表1に示す通りである。なお、表1中におけるphrは、ゴム成分100質量部中又は該100質量部に対する各成分の質量部を示す。
【0039】
・マスターバッチa(実施例):
ジエン系ゴム(A)としては、天然ゴムラテックス(Tg=−64℃、株式会社レジテックス製「LAラテックス」)を用い、ジエン系ゴム(B)としては、SBRラテックス(Tg=−31℃、JSR株式会社製「SBラテックス0545」)を用い、シリカとしては、デグサ社製「Ultrasil VN3」(BET=175m
2/g)を用い、オイルとしては、トール油脂肪酸(ハリマ化成株式会社製「ハートールFA−1」)を用いた。
【0040】
上記シリカを5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーS1を得た。一方、ジエン系ゴム(A)とジエン系ゴム(B)の両ラテックスを、乾燥質量比でA/B=20/80となるようにブレンドした上で、トータルのゴム濃度が20質量%となるように希釈した後、オイルをゴム成分100質量部に対して5質量部となるように添加し攪拌して、ゴム含有液R1を作製した。得られたゴム含有液R1と上記シリカスラリーS1を、ゴム成分100質量部に対するシリカ量が50質量部となる割合で混合し、得られた混合液を噴霧乾燥機(ヤマト科学株式会社製スプレードライヤー「ADL311−A」)を用いて噴霧乾燥(チャンバー内温度=160℃)させて、シリカ含有ゴムマスターバッチaを得た。
【0041】
・マスターバッチ(比較例):
ジエン系ゴム(B)、シリカ及びオイルは、マスターバッチaと同じものを用いた。ジエン系ゴム(B)のラテックスをゴム濃度が20質量%となるように希釈した後、オイルをジエン系ゴム(B)100質量部に対して5質量部となるように添加し攪拌して、ゴム含有液R2を作製した。得られたゴム含有液R2と上記シリカスラリーS1を、ジエン系ゴム(B)100質量部に対するシリカ量が50質量部となる割合で混合し、得られた混合液をマスターバッチaと同様にして噴霧乾燥させて、シリカ含有ゴムマスターバッチbを得た。
【0042】
・マスターバッチc(実施例):
オイルとして、ひまし油(伊藤製油株式会社製「LAV」)を用い、その他はマスターバッチaと同様にして、マスターバッチcを得た。
【0043】
・マスターバッチd(比較例),e(実施例),f(比較例):
オイルの配合比を、表1のように変更し、その他はマスターバッチaと同様にして、マスターバッチd,e,fを得た。
【0044】
・マスターバッチg(実施例):
上記ゴム含有液R1とシリカスラリーS1を、ゴム成分100質量部に対するシリカ量が50質量部となる割合で混合し、混合後、凝固剤として蟻酸を加えて凝固させ、固液分離して凝固物を回収した後、凝固物を洗浄し脱水した。更に、オーブンにて80℃×150分間乾燥してマスターバッチgを得た。
【0045】
・マスターバッチh(比較例),i(実施例),j(実施例),k(比較例),l(比較例):
ジエン系ゴム(A)及びジエン系ゴム(B)の配合比を、表1のように変更し、その他はマスターバッチaと同様にして、マスターバッチh,i,j,k,lを得た。
【0046】
・マスターバッチm(比較例):
ジエン系ゴム(B)としてSBRラテックス(Tg=−15℃、日本ゼオン株式会社製「Nipol LX206」)を用い、その他はマスターバッチaと同様にして、マスターバッチmを得た。
【0047】
・マスターバッチn(実施例):
ジエン系ゴム(A)としてSBRラテックス(Tg=−66℃、JSR株式会社製「SBラテックス2108」)、及び、ジエン系ゴム(B)としてSBRラテックス(Tg=−31℃、JSR株式会社製「SBラテックス0545」)を用い、その他はマスターバッチaと同様にして、マスターバッチnを得た。
【0048】
・マスターバッチo(実施例):
ジエン系ゴム(A)としてSBRラテックス(Tg=−66℃、JSR株式会社製「SBラテックス2108」)、及び、ジエン系ゴム(B)としてSBRラテックス(Tg=−47℃、日本ゼオン株式会社製「Nipol Lx110」)を用い、その他はマスターバッチaと同様にして、マスターバッチoを得た。
【0049】
【表1】
【0050】
[ゴム組成物の調製]
上記で得られたマスターバッチa〜oを用い、下記表2に示す配合(質量部)に従って、常法に従い、バンバリーミキサーを使用してゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第1混合段階で硫黄及び加硫促進剤を除く成分を混練し、次いで、得られた混合物に、第2混合段階で硫黄及び加硫促進剤を添加し混練してゴム組成物を調製した。なお、表2中の各マスターバッチの配合量についての括弧内の数値はオイルの量である。また、ゴム成分は各ゴム組成物につきトータルで100質量部であり、シリカは各ゴム組成物につきトータルで50質量部である。表2中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0051】
・SBR1502:JSR株式会社製「JSR1502」(Tg=−66℃)
・天然ゴム:天然ゴムラテックス(Tg=−64℃、株式会社レジテックス製「LAラテックス」)を、蟻酸を用いて凝固乾燥させた乾燥ゴム
・SBR0545:SBRラテックス(Tg=−31℃、JSR株式会社製「SBラテックス0545」)を、蟻酸を用いて凝固乾燥させた乾燥ゴム
・シリカ:デグサ社製「Ultrasil VN3」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si75」
・オイル:トール油脂肪酸、ハリマ化成株式会社製「ハートールFA−1」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油入微粉末硫黄」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0052】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分間で加硫した所定形状の試験片を用いて、耐摩耗性、転がり抵抗性能、ウェット性能を測定・評価した。結果を表2に示す。なお、各測定方法は以下の通りである。
【0053】
・耐摩耗性:JIS K6264に準拠し、岩本製作所製のランボーン摩耗試験機を用いて、荷重40N、スリップ率30%の条件にて、摩耗減量を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
【0054】
・転がり抵抗性能:上島製作所製粘弾性試験機を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み±1%、温度60℃における損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、転がり抵抗性能(即ち低燃費性)に優れることを示す。
【0055】
・ウェット性能:上島製作所製粘弾性試験機を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み±0.2%、温度0℃における損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほどtanδが大きく、ウェット性能に優れることを示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、特定のジエン系ゴムラテックスのブレンドにオイルを添加するとともにシリカスラリーと混合してウェットマスターバッチ化してなるマスターバッチを用いた実施例1〜8であると、耐摩耗性を損なうことなく、転がり抵抗性能とウェット性能を高度に両立させることができ、また、ゴム組成物を調製する際の加工性にも優れていた。特に、実施例1と実施例4とを比較すると分かるように、噴霧乾燥によりマスターバッチ化することで、シリカの分散性に優れており、転がり抵抗性能の向上がより効果的であった。
【0058】
これに対し、ジエン系ゴム(A)とジエン系ゴム(B)とをブレンドし、かつオイルを添加しているものの、バンバリーミキサーによる通常のドライ混合を行った比較例2では、転がり抵抗性能の向上効果が不十分であり、耐摩耗性についても改善効果はほとんど得られなかった。また、ジエン系ゴム(B)を単独でシリカとともにウェットマスターバッチ化し、これにジエン系ゴム(A)をドライ混合した比較例3でも、転がり抵抗性能と耐摩耗性の向上効果が不十分であった。
【0059】
比較例4では、ウェットマスターバッチ化に際してオイルを添加せずに、ドライ混合にてオイルを添加した。この場合、得られたマスターバッチが乾燥してまとまりがなく、そのため、バンバリーミキサーを用いたゴム組成物の混合時間が実施例3の2倍必要であり、加工性に劣っていた。また、転がり抵抗性能の向上効果が不十分であった。比較例5では、ウェットマスターバッチ化に際してのオイル量が多すぎたため、加硫ゴムの強度が低下して、摩耗試験時にゴム片の脱落が見られ、耐摩耗性が大幅に悪化した。比較例6では、ジエン系ゴム(A)の比率が少なすぎて転がり抵抗性能の向上効果が不十分であった。比較例7では、ジエン系ゴム(A)の比率が多すぎてウェット性能の向上効果が不十分であった。比較例8では、低Tgのジエン系ゴム(A)単独であったため、ウェット性能に劣っていた。比較例9では、ジエン系ゴム(B)のガラス転移点が高すぎて、転がり抵抗性能に劣っていた。