(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ひずみ絶縁層が、金属シート、又はセラミックスシート及びそれらに樹脂コーティングを施したシート、炭素繊維シート及びそれらを用いたCFRPシート、金属織布、金網、パンチングメタルから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の電子部材固定構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の太陽電池パネルでは、建築物の屋根材の一部を構成する樹脂シートが伸縮したときに、樹脂シートの伸縮がポリエチレン樹脂層を介して太陽電池モジュールにそのまま伝達され、太陽電池モジュールが大きくひずむ。このため、太陽電池モジュールの破損や発電性能の低下が生じたり、建築物屋根の設計時に形状や使用範囲を制限する必要があった。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、下地の伸縮による電子部材のひずみを抑制すると共に、電子部材の取り付けによる下地への応力集中を抑制し、信頼性の高い電子部材固定構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1態様の発明に係る電子部材固定構造は、面外方向へ曲り、面内方向に伸縮する下地と、前記下地の上方に取り付けられるシート状の電子部材と、前記下地と前記電子部材との間に設けられ前記下地と前記電子部材に接合されると共に前記電子部材の裏面の全面に接合され、
前記下地及び前記電子部材と同等の曲げ剛性であって前記下地及び前記電子部材の曲げ変形に追従して変形する曲げ剛性を有し、かつ
前記下地より引張剛性が高く前記下地の面内方向への伸縮に応じて生ずる最大ひずみが前記電子部材の許容ひずみ以下となる引張剛性を有したひずみ絶縁層と、
前記下地と前記ひずみ絶縁層とを接合するとともに、前記電子部材及び前記下地と同等以下の曲げ剛性であって前記電子部材及び前記下地の曲げ変形に追従して変形する曲げ剛性を有し、かつ前記下地と同等以下の引張剛性であって前記下地の面内方向への伸縮に追従して変形する引張剛性を有した接合層と、を有するものである。
【0008】
第1態様の発明によれば、下地とシート状の電子部材との間に、電子部材及び下地と同等の曲げ剛性を有し、かつ、下地より引張剛性が高いひずみ絶縁層が設けられており、下地と電子部材にひずみ絶縁層が接合されている。ひずみ絶縁層が、電子部材及び下地と同等の曲げ剛性を有することで、下地が面外方向に曲がると、下地又は電子部材の曲げ変形に追従してひずみ絶縁層が変形する。また、下地が面内方向に伸縮すると、下地から電子部材へ伝達される伸びが、下地より引張剛性が高いひずみ絶縁層によって低減される。これによって、下地の伸縮による電子部材の応力・ひずみの発生が抑制され、電子部材の破損を阻止することができる。
【0012】
また、下地とひずみ絶縁層とを接合する接合層は、電子部材及び下地と同等以下の曲げ剛性を有することで、下地が面外方向に曲がると、下地又は電子部材の曲げ変形に追従して接合層が変形する。接合層は下地と同等以下の引張剛性を有することで、下地が面内方向に伸縮したときに、接合部下地の引張剛性が大きくなることに起因して下地と接合層との接合端部に生じる下地の応力集中が抑制される。これによって、下地への応力集中が小さく信頼性の高い電子部材の取付けを行うことができる。
【0013】
第
2態様の発明に係る電子部材固定構造は、請求項
1に記載の発明において、前記接合層が前記ひずみ絶縁層
の全面に設けられているものである。
【0014】
第
2態様の発明によれば、ひずみ絶縁層が電子部材の裏面
の全面に接合され、ひずみ絶縁層の全面に接合層が設けられており、下地が面内方向に伸縮したときに、接合面が全面であることにより、下地とひずみ絶縁層との変位差に接合層が耐えると共に、風によって生ずる面外への風圧力(揚力)に対して、より信頼性の高い電子部材の取り付けを行うことができる。
【0015】
第
3態様の発明に係る電子部材固定構造は、
請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記ひずみ絶縁層が、金属シート、又はセラミックスシート及びそれらに樹脂コーティングを施したシート、炭素繊維シート及びそれらを用いたCFRPシート、金属織布、金網、パンチングメタル
から選ばれる少なくとも1種であるものである。
【0016】
第
3態様の発明によれば、ひずみ絶縁層が、金属シート、又はセラミックスシート及びそれらに樹脂コーティングを施したシート、炭素繊維シート及びそれらを用いたCFRPシート、金属織布、金網、パンチングメタルであり、下地から電子部材へ伝達される伸びがひずみ絶縁層によってより効果的に低減される。
【0017】
第
4態様の発明に係る電子部材固定構造は、請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載の発明において、前記電子部材がフレキシブル性を備えた太陽電池であり、前記下地が、建物の屋根に取り付けられる膜材であるものである。
【0018】
第
4態様の発明によれば、電子部材がフレキシブル性を備えた太陽電池であり、太陽電池が建物の屋根に取り付けられる膜材に取り付けられており、膜材が面内方向に伸縮したときに、太陽電池のひずみの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子部材固定構造によれば、下地の伸縮による電子部材のひずみを抑制すると共に、下地への応力集中を抑制し、信頼性の高い電子部材固定構造を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、
図1を用いて、本発明の電子部材固定構造の第1実施形態について説明する。
【0022】
図1には、電子部材固定構造10の全体構成が断面図にて示されており、
図1(A)には膜材の伸長前の状態が、
図1(B)には膜材の伸長後の状態が示されている。この図に示されるように、電子部材固定構造10は、面外方向に曲がり、かつ面内方向に伸縮する下地としての膜材12と、膜材12の表面上方に配置されるシート状の電子部材としての太陽電池モジュール14と、膜材12と太陽電池モジュール14との間に配置されて太陽電池モジュール14の裏面に接着剤16により接合されるひずみ絶縁層18と、膜材12と太陽電池モジュール14との間に配置されてひずみ絶縁層18と膜材12の表面とを接合する接合層20と、を備えている。
【0023】
ひずみ絶縁層18は、太陽電池モジュール14の裏面のほぼ全面に接着剤16を用いて接合されており、また、接合層20はひずみ絶縁層18のほぼ全面に設けられている。
【0024】
図7に示されるように、膜材12は、建物100の屋根102に取り付けられる屋根材であり、本実施形態ではドーム型の屋根材に使用されている。太陽電池モジュール14は、膜材12の表面に複数並べて配置されており、本実施形態の電子部材固定構造10により各太陽電池モジュール14が膜材12の表面に取り付けられている。
なお、
図7では、膜材12は、ドーム型の屋根材に使用されているが、テント式の屋根材に適用することも可能である。
【0025】
膜材12は、引張荷重を負担するガラス繊維、又はポリアミド、ポリエステルなどの合成樹脂製の繊維を編みこんだ基布の表面に、耐久性・難燃性に優れた高分子材料をコーティングしたものである。高分子材料としては、撥水性に優れたフッ素樹脂や、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂などが用いられる。
【0026】
膜材12は、建物の内圧や建物の外部に吹き付ける風などの外力によって、面外方向に曲がり、かつ面内方向に伸縮するものである。膜材12は、施工時に初期張力を導入しながら施工される。また、施工後には、風、熱膨張、積雪、溜水などの外力によって張力がかかり、膜材12が面外方向に曲がったり、面内方向に伸縮したりする。膜材12は、例えば最大5%程度伸びる構成とされている。
【0027】
太陽電池モジュール14は、フレキシブル性を備えたシート状部材であり、例えば、ポリイミドなどの樹脂製のフィルムやステンレス薄板などの基板上に薄膜の太陽電池セルを形成・配置し、電極(層の場合もある)と共に太陽電池セルの表裏面を保護フィルムで被覆したものである。太陽電池セルとフィルム基材、及び太陽電池セルと保護フィルムとは接着剤で接着されている。太陽電池セルは、例えば、結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi、CIGS化合物半導体などの光発電素子で構成されている。太陽電池モジュール14は、曲げ剛性が小さく、ある程度の曲率で曲げることができるものである。本実施形態では、太陽電池モジュール14は平面視にて略長方形状に形成されており、厚さが例えば0.5〜10mmとされている。なお、太陽電池モジュール14の寸法はこれに限定されるものではない。
【0028】
ひずみ絶縁層18は、太陽電池モジュール14及び膜材12と同等の曲げ剛性を有し、かつ、膜材12より引張剛性が高いことが好ましい。ひずみ絶縁層18が、太陽電池モジュール14及び膜材12と同等の曲げ剛性を有することで、膜材12が面外方向に曲がると、膜材12又は太陽電池モジュール14の曲げ変形に追従してひずみ絶縁層18が変形する。また、膜材12が面内方向に伸縮すると、膜材12から太陽電池モジュール14へ伝達される伸びが、膜材12より引張剛性が高いひずみ絶縁層18によって低減されるようになっている。
【0029】
ひずみ絶縁層18は、膜材12が面内方向に伸縮したときに、ひずみ絶縁層18に発生する最大ひずみε
maxが、フレキシブル性を備えた太陽電池モジュール14が性能を保持するために必要な許容ひずみε
PV(−)以下となるような材料及び仕様とされている。具体的には、膜材12の最大許容応力度σ(N/cm)、ひずみ絶縁層18に用いる材料のヤング係数E(GPa),厚さをt(mm)とした場合、(1)式を満たすことが望ましい。
ε
PV≧ε
max = σ/(10t・10
3E) ・・・(1)
【0030】
また、太陽電池モジュール14と膜材12は、ともに曲げ剛性が小さく曲面を形成できることが特徴であるため、ひずみ絶縁層18も(1)式を満たす範囲において、なるべく曲げ剛性が小さくなるように設定されることが望ましい。このような要求性能を満たす材料として、各種金属シート、又はセラミックスシート及びそれらに樹脂コーティングを施したシート、炭素繊維シート及びそれらを用いたCFRPシート、金属織布、金網、パンチングメタルなどが挙げられる。ひずみ絶縁層18は、防錆性を考慮すると特に溶融亜鉛メッキシート、ガルバリウム鋼板シート、ステンレスシート、チタンシートや、その他非鉄金属に樹脂コーティングしたシートなどが望ましい。アモルファスSiタイプの太陽電池モジュール14を膜材12に設置する場合、ひずみ絶縁層18としてステンレスシート(E=195GPa)を用いたとき、ひずみ絶縁層18の厚さtは、10≦t≦1000(μm)が要求性能を満たす範囲であり、特に50≦t≦300(μm)がより好ましい。
【0031】
接着剤16は、適切な接着耐久性を有し、ひずみ絶縁層18と同じく曲げ剛性が小さくなるように設定されることの他に、太陽電池モジュール14とひずみ絶縁層18の熱膨張率差によって破壊されないものであれば何でもよい。接着剤16としては、例えば、各種弾性接着剤(ウレタン樹脂、変成シリコーン樹脂、エポキシ・変成シリコーン樹脂、シリル化ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ブチルゴム樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリサルファイド樹脂、アクリル変成シリコーン樹脂、テレケリックポリアクリレート樹脂など、ゴム状弾性を有する接着剤)の他、各種の反応硬化型の接着剤、ホットメルト型接着剤などを用いることができる。
【0032】
接合層20は、張力がかかった際に生じるひずみ絶縁層18と膜材12の変位差に耐え得る接着剤などが用いられる。接合層20は、適切な接着耐久性を有し、太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有することが好ましい。すなわち、接合層20は、ひずみ絶縁層18と同じく曲げ剛性が小さくなるよう設定されることの他に、膜材12と接合層20の接合端部に生ずる応力集中などを抑制するために、膜材12の引張剛性と同等以下の引張剛性であることが好ましい。膜材12の引張剛性Etは15000N/cm程度であり、接合層20は曲げ剛性が小さく、引張剛性がこのEt以下である必要がある。このような要求性能を満たす材料としては、各種弾性接着剤(ウレタン樹脂、変成シリコーン樹脂、エポキシ・変成シリコーン樹脂、シリル化ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ブチルゴム樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリサルファイド樹脂、アクリル変成シリコーン樹脂、テレケリックポリアクリレート樹脂など、ゴム状弾性を有する接着剤)、各種ゴムシート、熱可塑性プラスチックシートなどが挙げられる。
【0033】
太陽電池モジュール14及び膜材12は、接着剤16、接合層20との接着性の確保のために、必要に応じて適切な表面処理を行うことが望ましい。例えば、膜材12にガラス繊維にフッ素樹脂がコーティングされた膜材を用いる場合や、太陽電池モジュール14の裏面保護フィルムがフッ素樹脂である場合は、フッ素樹脂被膜は難接着性を有するため、予め被接着部の表面処理を行うことが好ましい。表面処理方法としては、重クロム酸カリウム、金属ナトリウムやナトリウム−ナフタレン錯体を用いた化学的処理方法、コロナ放電、プラズマ放電、スパッタエッチング等の放電処理による方法、フッ化アルゴンエキシマレーザーを照射して処理する方法などが用いられる。
【0034】
次に、本実施形態の電子部材固定構造10の作用並びに効果について説明する。
【0035】
図1(A)に示されるように、太陽電池モジュール14の裏面に接着剤16によりひずみ絶縁層18が接合されており、ひずみ絶縁層18と膜材12の表面が接合層20によって接合されている。接合層20が太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有すると共に、ひずみ絶縁層18が太陽電池モジュール14及び膜材12と同等の曲げ剛性を有することで、膜材12が面外方向に曲がると、膜材12又は太陽電池モジュール14の曲げ変形に追従してひずみ絶縁層18と接合層20が変形する。
【0036】
図1(B)に示されるように、建物(図示省略)の屋根に取り付けられた膜材12が、建物の内圧や風などの外力等によって面内方向に伸縮すると、膜材12から太陽電池モジュール14へ伝達される伸びが、膜材12より引張剛性が高いひずみ絶縁層18によって低減される。接合層20は膜材12と同等以下の引張剛性を有することで、膜材12が面内方向に伸縮したときに、膜材12と接合層20との接合端部に生じる膜材12の応力集中などが抑制される。これによって、膜材12の伸縮による太陽電池モジュール14のひずみの発生と、膜材12の応力集中が同時に抑制され、太陽電池モジュール14と膜材12の破損を阻止することができる。なお、
図1(B)では、膜材12が面内方向に伸長した状態が示されている。
【0037】
例えば、膜材12は最大約5%伸びる可能性があり、太陽電池モジュール14は約1%程度のひずみで発電素子が壊れ、発電能力が低下するが、本実施形態では、膜材12と太陽電池モジュール14との間にひずみ絶縁層18が設けられていることで、膜材12の伸縮による太陽電池モジュール14のひずみの発生が抑制される。このため、太陽電池モジュール14の破損や発電能力の低下を阻止することができ、信頼性の高い電子部材固定構造10を得ることができる。
【0038】
また、ひずみ絶縁層18が太陽電池モジュール14の裏面のほぼ全面に接合され、ひずみ絶縁層18のほぼ全面に接合層20が設けられている。これにより、膜材12が面内方向に伸縮したときに、膜材12とひずみ絶縁層18との変位差に接合層20が耐えると共に、下地への応力集中などが抑制され、膜材12から太陽電池モジュール14へ伝達される伸びがひずみ絶縁層18によってより効果的に低減される。さらに、接合面が全面であることにより、風によって生ずる面外への風圧力(揚力)に対して、より信頼性の高い電子部材の取り付けを行うことができる。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態の電子部材固定構造について説明する。なお、第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0040】
図2には、電子部材固定構造30の全体構成が断面図にて示されており、
図2(A)には膜材12の伸長前の状態が、
図2(B)には膜材12の伸長後の状態が示されている。この図に示されるように、電子部材固定構造30は、太陽電池モジュール14の裏面材としてひずみ絶縁層18が一体的に設けられている。ひずみ絶縁層18と膜材12は、接合層20により接合されている。
【0041】
このような電子部材固定構造30では、
図2(B)に示されるように、膜材12が面内方向に伸縮すると、膜材12から太陽電池モジュール14へ伝達される伸びが、膜材12より引張剛性が高いひずみ絶縁層18によって低減される。接合層20は膜材12と同等以下の引張剛性を有することで、膜材12が面内方向に伸縮したときに、膜材12と接合層20との接合端部に生じる下地の応力集中などが抑制される。これによって、膜材12の伸縮による太陽電池モジュール14のひずみの発生が抑制され、太陽電池モジュール14の破損を阻止することができる。
【0042】
次に、本発明の第3実施形態の電子部材固定構造について説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0043】
図3には、電子部材固定構造40の全体構成が断面図にて示されており、
図3(A)には膜材12の伸長前の状態が、
図3(B)には膜材12の伸長後の状態が示されている。この図に示されるように、電子部材固定構造40では、太陽電池モジュール14の裏面に接着剤16によりひずみ絶縁層18が接合されており、ひずみ絶縁層18と膜材12との間にはシート材44が配置され、シート材44が接着剤42、46によりひずみ絶縁層18と膜材12にそれぞれ接合されている。すなわち、
図1に示す電子部材固定構造10の接合層20をシート材44を含む複層体に変更したものである。シート材44及び接着剤46は、太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有し、膜材12と同等以下の引張剛性を有している。シート材44としては、例えば、予めシート状とした各種弾性接着材の他、ゴム製のシート、熱可塑性プラスチックシートなどが用いられる。接着剤42は、適切な接着耐久性を有し、曲げ剛性が小さくなるように設定されることの他に、ひずみ絶縁層18とシート材44の熱膨張率差によって破壊されないものであれば何でもよい。
【0044】
このような電子部材固定構造40では、
図3(B)に示されるように、膜材12が面内方向に伸縮すると、膜材12から太陽電池モジュール14へ伝達される伸びが、膜材12より引張剛性が高いひずみ絶縁層18によって低減される。また、シート材44及び接着剤42、46は膜材12と同等以下の引張剛性を有することで、膜材12が面内方向に伸縮したときに、膜材12と接着剤46との接着端部に生じる応力集中などが抑制される。これによって、膜材12の伸縮による太陽電池モジュール14のひずみの発生が抑制され、太陽電池モジュール14の破損を阻止することができる。
【0045】
次に、本発明の第4実施形態の電子部材固定構造について説明する。なお、第1実施形態〜第3実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0046】
図4には、電子部材固定構造60の全体構成が断面図にて示されており、
図4(A)には膜材12の伸長前の状態が、
図4(B)には膜材12の伸長後の状態が示されている。この図に示されるように、電子部材固定構造60では、太陽電池モジュール14の裏面に接着剤16によりひずみ絶縁層18が全面に接合されており、ひずみ絶縁層18と膜材12は、ひずみ絶縁層18の周縁部に設けられた接合層62により接合されている。すなわち、接合層62は、矩形状のひずみ絶縁層18の周縁部を膜材12に接合するものであり、ひずみ絶縁層18の中央部は、膜材12に接合されていない。接合層62は、太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有し、膜材12と同等以下の引張剛性を有している。
【0047】
このような電子部材固定構造60では、
図4(B)に示されるように、膜材12が面内方向に伸縮すると、膜材12から太陽電池モジュール14へ伝達される伸びが、膜材12より引張剛性が高いひずみ絶縁層18によって低減される。また、接合層62は膜材12と同等以下の引張剛性を有することで、膜材12が面内方向に伸縮したときに、膜材12と接合層62との接合端部に生じる下地の応力集中などが抑制される。これによって、膜材12の伸縮による太陽電池モジュール14のひずみの発生が抑制され、太陽電池モジュール14の破損を阻止することができる。
【0048】
次に
、第5実施形態の電子部材固定構造について説明する。なお、第1実施形態〜第4実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0049】
図5には、電子部材固定構造120の全体構成であって、膜材12の伸長後の状態が断面図にて示されている。この図に示されるように、電子部材固定構造120では、太陽電池モジュール14の裏面のほぼ全面が接合層122により膜材12と接合されている。接合層122としては、太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有し、膜材12と同等以下の引張剛性を有する接着剤などが用いられている。
【0050】
このような電子部材固定構造120では、接合層122が太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有することで、膜材12が面外方向に曲がると、膜材12又は太陽電池モジュール14の曲げ変形に追従して接合層122が変形する。また、接合層122は膜材12と同等以下の引張剛性を有することで、膜材12が面内方向に伸縮したときに、接合部膜材12の引張剛性が大きくなることに起因して膜材12と接合層122との接合端部に生じる膜材12の応力集中が抑制される。これによって、膜材12への応力集中が小さく信頼性の高い太陽電池モジュール14の取付けを行うことができる。さらに、接合面が全面であることにより、風によって生ずる面外への風圧力(揚力)に対して、より信頼性の高い電子部材の取り付けを行うことができる。
【0051】
次に
、第6実施形態の電子部材固定構造について説明する。なお、第1実施形態〜第5実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0052】
図6には、電子部材固定構造130の全体構成であって、膜材12の伸長後の状態が断面図にて示されている。この図に示されるように、電子部材固定構造130では、太陽電池モジュール14は、太陽電池モジュール14の裏面の周縁部に設けられた接合層132により膜材12と接合されている。すなわち、接合層132は、矩形状の太陽電池モジュール14の裏面の周縁部を膜材12に接合するものであり、太陽電池モジュール14の裏面の中央部は、膜材12に接合されていない。
【0053】
このような電子部材固定構造130では、接合層132が太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有することで、膜材12が面外方向に曲がると、膜材12又は太陽電池モジュール14の曲げ変形に追従して接合層132が変形する。また、接合層132は膜材12と同等以下の引張剛性を有することで、膜材12が面内方向に伸縮したときに、接合部膜材12の引張剛性が大きくなることに起因して膜材12と接合層132との接合端部に生じる膜材12の応力集中が抑制される。これによって、膜材12への応力集中が小さく信頼性の高い太陽電池モジュール14の取付けを行うことができる。
【0054】
接合層122、132としては、張力がかかった際に生じる膜材12と太陽電池モジュール14との変位差に耐え得る接着剤などが用いられる。接合層122、132は、適切な接着耐久性を有し、太陽電池モジュール14及び膜材12と同等以下の曲げ剛性を有することが好ましい。すなわち、接合層122、132は、曲げ剛性が小さくなるよう設定されることの他に、膜材12と接合層122、132の接合端部に生ずる応力集中などを抑制するために、膜材12の引張剛性と同等以下の引張剛性であることが好ましい。膜材12の引張剛性Etは15000N/cm程度であり、接合層122、132は曲げ剛性が小さく、引張剛性がこのEt以下である必要がある。このような要求性能を満たす材料としては、各種弾性接着剤(ウレタン樹脂、変成シリコーン樹脂、エポキシ・変成シリコーン樹脂、シリル化ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ブチルゴム樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリサルファイド樹脂、アクリル変成シリコーン樹脂、テレケリックポリアクリレート樹脂など、ゴム状弾性を有する接着剤)、各種ゴムシート、熱可塑性プラスチックシートなどが挙げられる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の電子部材固定構造の実施例について説明する。
図8(A)、(B)に示されるように、本実施例の電子部材固定構造80は、膜材12と、膜材12の表面上方に配置されたフレキシブル性を備えた太陽電池モジュール14と、太陽電池モジュール14の裏面に接着剤82により接合されるひずみ絶縁層84と、ひずみ絶縁層84と膜材12とを接合する接合層86と、を有している。電子部材固定構造80を構成する部材の使用材料は、以下の通りである。
【0056】
(使用材料)
膜材12:サンゴバン製 シィヤフィル-II(ガラス繊維を編み込んだ基布にフッ素樹脂をコーティングしたもの)
接着剤82:2成分形変成シリコーン系接着剤 横浜ゴム製 ハマタイト スーパーII
ひずみ絶縁層84:ステンレスシート SUS 304(厚さ 100μm)
接合層86:2成分形変成シリコーン系接着剤 横浜ゴム製 ハマタイト スーパーII
太陽電池モジュール14:アモルファスSi型太陽電池 富士電機製FWAVE
【0057】
(施工方法)
フッ素樹脂表面処理剤を用いて膜材12表面の表面処理を行う。次いで、膜材12の表面処理面にプライマーを塗布し、乾燥の後、2成分変成シリコーン系接着剤を約2mm厚となるよう施工する。さらに、2成分変成シリコーン系接着剤が硬化する前に、予め両面にプライマーを塗布・乾燥させたステンレスシートを貼り、硬化まで静置する。次いで、予め裏面がプラズマ処理された太陽電池モジュール14を、2成分変成シリコーン系接着剤を用いてステンレスシート面に貼り付ける。
【0058】
(試験方法・結果)
図8に示すように、230×1500mmのリード線付き太陽電池モジュール14を上記方法で膜材12に取り付け、太陽電池モジュール14及び膜材12の表面にひずみゲージ88(東京測器製:GFLA−6−70)を貼り付けたものを試験体とし、膜材12の一軸引張試験を実施した。図示しない載荷試験機に試験体をセットし、膜材12の両端部を所定の張力で引っ張ることにより実施した。この実験では、載荷前および30N/cm(初期張力に相当)、100N/cm、300N/cm、500N/cm、1300N/cm(膜材12の破断強度)を目標に載荷した後の太陽電池モジュール14の発電特性について、白熱灯を照射して開放電圧と短絡電流を測定した。白熱灯と太陽電池モジュール14の距離は40cm、太陽電池モジュール14表面における照度は1万lx程度であった。
【0059】
図9に試験体の載荷荷重と開放電圧、短絡電流との関係を示す。
図9に示されるように、試験体の載荷前後で太陽電池モジュール14の発電特性に変化は見られなかった。膜材12に500N/cm載荷した際の太陽電池モジュール14表面の伸びは最大0.19%であり、破断強度における太陽電池モジュール14表面の伸びは最大0.6%であった。また、試験体の面外剛性は、屋根に取り付けられる曲率に十分に追従できる程度に小さいものであった。
【0060】
(比較例)
図10(A)、(B)に示されるように、比較例の電子部材固定構造200として、230×230mmのリード線付き太陽電池モジュール14を膜材12に高剛性なエポキシ樹脂系接着剤202(コニシ製:ボンド クイックメンダー)で直接接着し、太陽電池モジュール14表面にひずみゲージ204を貼り付けたものを試験体とし、一軸引張試験を実施した。白熱灯と太陽電池モジュール14の距離は20cm、太陽電池モジュール14表面における照度は6万lx程度であった。
図11に比較例の試験体の載荷荷重と開放電圧との関係を示す。
図11に示されるように、太陽電池モジュール14を膜材12にエポキシ樹脂系接着剤202で直接接着した場合、75N/cm載荷したところで太陽電池の発電特性が大幅に低下することが確認された。このときの太陽電池モジュール表面の伸びは0.9%であった。
【0061】
したがって、
図8に示す実施例の電子部材固定構造80では、膜材12の短期許容応力度(≒400N/cm)において太陽電池モジュール14表面に伝わるひずみ(伸び)を0.2%以下とすることができ(比較例では0.9%程度で発電特性が低下)、発電特性の低下は見られなかった。
【0062】
なお、上記第1〜第6実施形態では、フレキシブル性を備えたシート状の太陽電池モジュール14が用いられているが、これに限定されず、LED、液晶パネル、プラズマパネル、有機ELパネル等のシート状の電子部材を固定する構造にも本発明を適用することができる。
【0063】
上記第1〜第6実施形態では、面方向に伸縮する膜材12が用いられているが、これに限定されず、面外方向へ曲がり、かつ面内方向に伸縮する下地であれば、膜材以外の下地にも本発明の電子部材固定構造を適用することができる。
【0064】
また、上記第1〜第6実施形態では、膜材12は建物の屋根に使用される屋根材であるが、これに限定されず、他の構造物等に使用される下地にも本発明の電子部材固定構造を適用することができる。