(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925455
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】ガス遮断器
(51)【国際特許分類】
H01H 33/91 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
H01H33/91
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-205039(P2011-205039)
(22)【出願日】2011年9月20日
(65)【公開番号】特開2013-69414(P2013-69414A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2014年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】395002434
【氏名又は名称】東芝変電機器テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】北原 大道
(72)【発明者】
【氏名】溝口 均
(72)【発明者】
【氏名】上田 利正
【審査官】
岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−197076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/70−33/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが封入された密閉容器内に対向配置された固定接触子部および可動接触子部と、
前記固定接触子部に固定アーク接触子およびその周囲に配置された固定通電接触子と、
前記可動接触子部に可動アーク接触子およびその周囲に配置された可動通電接触子と、
前記可動接触子部に中空の操作ロッドと、
前記操作ロッドに連結されたシリンダーおよび当該シリンダーに摺動自在に配置されたピストンと、
前記シリンダー内部に前記シリンダーおよび前記ピストンの相対移動により消弧性ガスを圧縮する圧縮空間と、
前記圧縮空間に連通して配置され、前記固定アーク接触子および前記可動アーク接触子が開離した後に両アーク接触子間に点弧するアークに対し、前記圧縮空間で圧縮した消弧性ガスを吹き付けるノズルと、
前記ピストンに前記シリンダーに沿った空間を内径側と外径側とに分離するピストンスカートと、
前記ピストンスカートによって分離される内径側の空間として、前記アークの熱を受けて高温となった前記消弧性ガスを前記操作ロッドの中空部分を通過させて前記密閉容器の自由空間に排気する排気空間と、
前記ピストンスカートによって分離される外径側の空間として、前記密閉容器に存在する低温の前記消弧性ガスを前記圧縮空間に吸気する吸気空間とを有するガス遮断器。
【請求項2】
前記ピストンに配置されたピストンフランジおよび当該ピストンフランジにネジ締結されたピストン支えを有し、
ネジ締結された前記ピストンフランジと前記ピストン支えとの間に前記ピストンスカートを挟み込むことにより当該ピストンスカートを前記ピストンに固定した請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記ピストンスカートは前記ピストンに溶接部において固定されていることを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記ピストンスカートの材料は、アルミニウムの融点よりも高融点を持つ高融点素材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記ピストンにピストンフランジを配置し、このピストンフランジと前記ピストンスカートを一体的に構成し、この一体化した部分の材料は、アルミニウムの融点よりも高融点を持つ高融点素材であることを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項6】
前記ピストンは、前記ピストンスカートを前記ピストンの胴部として構成したピストン胴部と、当該ピストン胴部によって支えられるピストンフランジからなり、
前記ピストン胴部によって、前記ピストンフランジより後部の内外周空間を仕切り、前記ピストン胴部の内径側にガス排気空間を構成し、前記ピストン胴部の外径側にガス吸入空間を構成することを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項7】
前記ピストン胴部の材料は、アルミニウムの融点よりも高融点を持つ高融点素材であることを特徴とする請求項6に記載のガス遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態はアークに消弧性ガスを吹き付けて消弧するガス遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、72kV以上の高電圧電力系統には保護用開閉器としてガス遮断器が広く使用されている。ガス遮断器は事故発生時に開極動作を行って電流を遮断するが、事故が復旧すれば閉極動作を行い、通電を再開させる。ただし、閉極動作を行った際、万が一事故から完全に復旧していなければ、ガス遮断器は直ちに2回目の開極動作を行い、電流を再度遮断する必要がある。
【0003】
このような状況におけるガス遮断器の動作責務が、“O−CO”遮断である。“O−CO”遮断において、1回目の開極動作“O”と閉極動作“C”との時間的な間隔(“O−C”間)は、規格では0.3秒であり、2回目の開極動作“O”は厳しい遮断条件となる。
【0004】
特に、電圧の立ち上がりの早いSLF(Short Line Fault)遮断では、遮断条件の厳しさは増す傾向にある。したがって、“O−CO”遮断を動作責務に持つガス遮断器には、厳しい遮断条件下で優れた遮断性能を発揮することが求められる。
【0005】
優れた遮断性能を持つガス遮断器としては、アークに消弧性ガスを吹き付けて消弧するパッファ形のガス遮断器が知られている。このようなガス遮断器の概要について説明する。
【0006】
ガス遮断器には、消弧性ガスを封入した密閉容器が設けられている。密閉容器の内部には固定接触子部および可動接触子部が対向配置されている。可動接触子部には互いに相対移動するシリンダーおよびピストンが設けられている。シリンダー内部にはシリンダーおよびピストンの相対移動により消弧性ガスを圧縮する空間が形成される。また、シリンダーにおける固定接触子部側の端部には、前記圧縮空間と連通したノズルが取り付けられている。このノズルはシリンダー内部の圧縮空間で圧縮した消弧性ガスを2つの接触子部間に吹き付けるようにシリンダーに取り付けられている。
【0007】
以上のようなガス遮断器では開極動作時に2つの接触子部間にアークが点弧する。また、開極動作時に可動接触子部ではシリンダーおよびピストンが相対的に近づくように移動し、圧縮空間内の消弧性ガスを昇圧させる。このガス圧縮作用により、ノズル部にガス流が発生する。開極動作が進み、電流ゼロ点に達するとき、圧縮空間のガス圧力は高まり、前記ノズルのガス流は高速となり、2つの接触部間に発生するアークに吹き付けられる。従ってアークは効果的に冷却され消弧に至る。なお、閉極動作時に可動接触子部ではシリンダーおよびピストンが相対的に離れるように移動し、圧縮空間内の消弧性ガスを降圧させる。これにより、圧縮空間内に消弧性ガスが吸い込まれる。
【0008】
ところで、ノズルがアークに吹き付けた消弧性ガスはアークの熱に触れることで高温ガスとなる。この高温ガスは両接触部から遠ざかる方向に流れていき、最終的には接触子部から離れた密閉容器の自由空間に至る。このとき、高温ガスの一部は可動接触子部の近傍および内部を通過しながら密閉容器の自由空間に到達する。言い換えると、開極動作が完了してからしばらくの間は、アークの熱によって高温となった消弧性ガスが可動接触子部の近傍および内部に滞留することになる。
【0009】
このような高温ガスは、ある程度の時間が経過すれば、密閉容器の自由空間に存在する低温の消弧性ガスに置換される。つまり、開極動作の完了後、長い時間が経てば、可動接触子部の近傍および内部には高温の消弧性ガスが存在することはない。したがって、ガス遮断器が閉極動作を行う際、シリンダーおよびピストンが相対的に離れるように移動することにより、シリンダー内部の圧縮空間は低温の消弧性ガスを吸い込むことができる。その結果、圧縮空間内の消弧性ガスは高い消弧絶縁性能を維持することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−120876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ガス遮断器が“O−CO”遮断を実施する場合、次のような問題点が指摘されていた。上述したように、“O−CO”遮断における“O−C”間は規格では0.3秒であり、ガス遮断器は1回目の開極動作終了後、すかさず閉極動作を行わなくてはならない。このとき、1回目の開極動作時に発生したアークによる高温ガスは、閉極動作を行う時点で可動接触部の近傍に残存している。
【0012】
したがって、閉極動作に際してシリンダー内部の圧縮空間に消弧性ガスが流入するとき、吸気する消弧性ガスの温度が高くなっていた。圧縮空間内の消弧性ガスの温度が高くなれば、消弧性ガスの消弧絶縁性能は低くなる。その結果、“O−CO”遮断における2回目の開極動作を行う場合に、ガス遮断器は消弧絶縁性能の低い消弧性ガスをアークに吹き付けて電流を遮断しなければならない。すなわち、“O−CO”遮断を実施するガス遮断器では優れた遮断性能を確保することが困難となっていた。
【0013】
実施形態のガス遮断器は、上記の課題を解消するために提案されたものである。本実施形態は、開極動作直後に閉極動作を実施する場合でも、高温の消弧性ガスをシリンダー内部の圧縮空間に吸入することを防ぎ、2回目の開極動作時にも1回目の開極動作時と同様の遮断性能を確保して、“O−CO”遮断責務を達成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、実施形態のガス遮断器は、次の特徴を有する。
(a)消弧性ガスが封入された密閉容器内に対向配置された固定接触子部および可動接触子部を有する。
(b)前記固定接触子部に固定アーク接触子およびその周囲に配置された固定通電接触子を有する。
(c)前記可動接触子部に可動アーク接触子およびその周囲に配置された可動通電接触子を有する。
(d)前記可動接触子部に中空の操作ロッドを有する。
(e)前記操作ロッドに連結されたシリンダーおよび当該シリンダーに摺動自在に配置されたピストンを有する。
(f)前記シリンダー内部に前記シリンダーおよび前記ピストンの相対移動により消弧性ガスを圧縮する圧縮空間を有する。
(g)前記圧縮空間に連通して配置され、前記固定アーク接触子および前記可動アーク接触子が開離した後に両アーク接触子間に点弧するアークに対し、前記圧縮空間で圧縮した消弧性ガスを吹き付けるノズルを有する。
(h)前記ピストンに前記シリンダーに沿った空間を内径側と外径側とに分離するピストンスカートを有する。
(i)前記ピストンスカートによって分離される内径側の空間として、前記アークの熱を受けて高温となった前記消弧性ガスを前記操作ロッドの中空部分を通過させて前記密閉容器の自由空間に排気する排気空間を有する。
(j)前記ピストンスカートによって分離される外径側の空間として、前記密閉容器に存在する低温の前記消弧性ガスを前記圧縮空間に吸気する吸気空間を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係るガス遮断器の開極状態と閉極状態を示した断面図。
【
図2】第1の実施形態に係るガス遮断器の電流遮断動作時の状態を示した断面図。
【
図3】第1の実施形態に係るガス遮断器の閉極動作時の状態を示した断面図。
【
図4】第2の実施形態に係るガス遮断器の開極状態と閉極状態を示した断面図。
【
図5】第3の実施形態に係るガス遮断器の開極状態と閉極状態を示した断面図。
【0016】
(1)第1の実施形態
[構成]
図1〜
図3を用いて、第1の実施形態に係るガス遮断器について説明する。
図1〜
図3においてガス遮断器の各部品は基本的に同軸円筒形状である。なお
図1では、中心線上部が開極状態を示し、中心線下部が閉極状態を示している。
【0017】
第1の実施形態は、密閉容器(図示せず)内部に消弧性ガスが封入されたパッファ形のガス遮断器である。密閉容器は内径の小さい円筒状の容器とする。つまり、本実施形態のガス遮断器は、碍子型遮断器など、小さい容器径が必要とされるガス遮断器が対象である。密閉容器の内部には固定接触子部1および可動接触子部2が互いに対向して配置されている。
【0018】
固定接触子部1と可動接触子部2の位置関係は固定接触子部1側の方向を前方、可動接触子部2側の方向を後方と定義する。そのため、可動接触子部2の移動動作に関しては、固定接触子部1側に近づく方向(
図1の左方向)に移動することを前進、可動接触子部2が固定接触子部1から離れる方向(
図1の右方向)に移動することを後退とする。
【0019】
(固定接触子部)
固定接触子部1は密閉容器の所定の位置に絶縁固定される固定部である。固定接触子部1においては、保持部6に、固定アーク接触子3と、固定通電接触子4と、シールド5が取り付けられている。
【0020】
更に保持部6の中心部に固定アーク接触子3が取り付けられている。また、保持部6の周縁部に固定通電接触子4およびシールド5が設置されている。シールド5はその先端部(
図1中の右端部)が固定通電接触子4の先端部(
図1中の右端部)を囲む形状となっている。
【0021】
(可動接触子部)
可動接触子部2は軸方向(
図1の左右方向)に移動可能な可動部である。可動接触子部2には、ピストン7、操作ロッド8、シリンダー9、可動アーク接触子10、ノズル11、可動通電接触子12およびピストンスカート17が設けられている。
【0022】
(ピストン)
ピストン7はシリンダー9内部に摺動自在に配置されている。ピストン7は可動接触子部2を構成する部材の中で、操作ロッド8からの駆動力を受けることなく、密閉容器の内壁側に固定されている。ピストン7は円筒形状のピストン支え7aと、ピストン支え7aの前端部に締結されるピストンフランジ7bとから構成される。
【0023】
ピストン支え7aの前端部内周面には雌ネジが設けられ、ピストンフランジ7bの外周部には雄ネジが設けられている。ピストン支え7aの雌ネジとピストンフランジ7bの雄ネジとが締結されることで、ピストン7が組み立てられている。
【0024】
ピストン支え7aの後端部付近には後方通気穴73が貫通されている。一方、ピストンフランジ7bには円周方向に沿って前方通気穴74が開口されている。前方通気穴74の前端面側には当該前方通気穴74を開閉するためのバルブ13が取り付けられている。バルブ13の前方にはバルブ13の位置を規制する止め輪14が設けられている。
【0025】
さらにピストンフランジ7bの中心部には挿通穴7cが開口され、この挿通穴7cに操作ロッド8のロッド部分が挿通されている。挿通穴7cには操作ロッド8と接するように摺動リング16aが固定されている。また、シリンダー9内周面の後端部にはピストン7外周面に接するように摺動リング16bが設置されている。この摺動リング16a、16bに接しながら、操作ロッド8およびシリンダー9とピストン7とが相対的に移動する。
【0026】
(操作ロッド)
操作ロッド8は中空部材からなる。操作ロッド8には後端部に駆動装置(図示せず)が連結されている。操作ロッド8は駆動装置から駆動力を受けて軸方向に往復運動する。
【0027】
操作ロッド8前端部にはフランジ部8aが設置されている。フランジ部8aにはフランジ部8aを貫通する通気穴8bが開口されている。通気穴8bはシリンダー9内部の圧縮空間Aに面している。また、操作ロッド8のロッド部分の中央付近には排気穴8cが開口されている。この排気穴8cは、閉極時にはシリンダー9内部の圧縮空間Aに位置し(
図1の中心線下部の状態)、開極動作に伴い操作ロッド8が閉極時の位置から後退するとピストン7の内部空間に位置する(
図1の中心線上部の状態)。
【0028】
(シリンダー)
シリンダー9はその前端面に操作ロッド8のフランジ部8aが連結されている。またシリンダー9内部にはピストン7が摺動自在に取り付けられている。シリンダー9内部には圧縮空間Aが形成されている。圧縮空間A内部の消弧性ガスは、シリンダー9およびピストン7が相対的に近づくように移動すると圧縮されてガス圧が上がり、反対にシリンダー9およびピストン7が相対的に遠のくように移動すると膨張してガス圧が下がる。圧縮空間Aはピストン7の前端面、シリンダー9の内壁面および操作ロッド8のフランジ部8aによって囲まれている。さらにシリンダー9前端部の前側には、可動アーク接触子10、ノズル11および可動通電接触子12が同心円状に連結されている。
【0029】
(可動アーク接触子)
可動アーク接触子10は固定接触子部1側の固定アーク接触子3と対向し、この接触子3に対して接離自在に配置されている。可動アーク接触子10は指状の中空部材からなり、前端部に開口部を有している。一般に可動アーク接触子10の内径寸法は操作ロッド8のそれより小さく設定されている。
【0030】
可動アーク接触子10と操作ロッド8とは両者の中空部分が一致するように連結されている。
図1中の符号Dは操作ロッド8および可動アーク接触子10の内部空間を示している。また、可動アーク接触子10の後端部にはフランジ部10bが設けられている。フランジ部10bには連通穴10aが開口されている。連通穴10aは操作ロッド8の通気穴8bと同一径であり、両者は一致している。
【0031】
(ノズル)
ノズル11は可動アーク接触子10の連通穴10aを囲むようにして可動アーク接触子10のフランジ部10bの外周部に接続されている。前述したように連通穴10aは操作ロッド8の通気穴8bに連通し、通気穴8bはシリンダー9内部の圧縮空間Aに面している。
【0032】
そのため、圧縮空間Aは通気穴8bおよび連通穴10aを介してノズル11と可動アーク接触子10とに挟まれた空間と連通している。したがって、ノズル11内部の空間は圧縮空間Aで圧縮した消弧性ガスが流れるガス吹き付け流路Eとなる。
【0033】
(可動通電接触子)
可動通電接触子12はノズル11の外周部に設置されている。可動通電接触子12は固定通電接触子4と対向して、この接触子4に接離自在に配置されている。
【0034】
(ピストンスカート)
ピストンスカート17は、ピストンフランジ7bにおいてシリンダー9内部の圧縮空間Aと向き合う面と反対側の面(
図1の右側の面)に取り付けられている。ピストンスカート17は軸方向に延びる略円筒形状の部材であり、高融点性を考慮して、鉄鋼材料とされる場合が多い。ピストンスカート17はピストン7の内部空間を内径側の空間と外径側の空間に分離する仕切り部材である。ピストンスカート17の前端部付近には円盤状の保持部17aが設置されている。保持部17aには通気穴17bが貫通されている。
【0035】
ピストンスカート17の後端部17cは外径側に直角に折れて形成されている。この後端部17cはピストン支え7aの後方通気穴73の後部寄りに配置されている。また、ピストンスカート17の後端部17cにおいて略円筒形状の開口部分が排気口17eとなっている。
【0036】
前記ピストンスカート17はピストン7の内部に対し次のように固定される。まず、ピストンスカート17はピストン支え7aの内部に挿入され、ピストンスカート17の保持部17aがピストン支え7aの内径部分から雌ネジに切り替わる境目の箇所に当接される。
【0037】
その上で、ピストン支え7aの雌ネジとピストンフランジ7bの雄ネジとが締結されることによりピストン7が組み立てられる。ピストン支え7aとピストンフランジ7bとのネジ締結が完了した時点で、ピストン支え7aとピストンフランジ7bとの間にピストンスカート17の保持部17aが挟み込まれ、ネジの締結力によりピストンスカート17がピストン7内部に固定される。
【0038】
以上のようにしてピストンスカート17がピストン7に固定されるとき、ピストンスカート17の前端部17dはピストンフランジ7bの内径部右側の突起外径部に対しガス漏れが起きないように隙間なく嵌合される。また、ピストンスカート17の後端部17cはピストン支え7aの内径部に対し、やはりガス漏れが起きないように隙間なく嵌合される。
【0039】
ピストンスカート17によって分離されるピストン7の内部空間のうち、内径側の空間を消弧性ガスの排気空間B、外径側の空間を消弧性ガスの吸気空間Cとする。排気空間Bはピストンスカート17の内周面と操作ロッド8の外周面とによって囲まれている。
【0040】
排気空間Bは操作ロッド8の排気穴8cを介して操作ロッド8および可動アーク接触子10の内部空間Dに連通されている。また、排気空間Bはピストンスカート17の排気口17eを介して密閉容器の自由空間に連通されている。つまり排気空間Bは、操作ロッド8および可動アーク接触子10の内部空間Dと密閉容器の自由空間とをつなぐ空間である。
【0041】
一方、吸気空間Cはピストン支え7aの内周面とピストンスカート17の外周面とによって囲まれている。吸気空間Cはピストン支え7aの後方通気穴73を介して密閉容器の自由空間に連通されている。また、吸気空間Cはピストンフランジ7bの前方通気穴74を介してシリンダー9内部の圧縮空間Aに連通されている。
【0042】
ただし、前方通気穴74はバルブ13によって開閉される。つまり吸気空間Cは、バルブ13が前方に移動して前方通気穴74が開口状態にあるとき、密閉容器の自由空間とシリンダー9内部の圧縮空間Aとをつなぐ空間となる。このような吸気空間Cは低温の消弧性ガスが流れる低温ガス吸入路となる(
図3にガス流21を図示)。
【0043】
[作用]
以上のような構成を有する第1の実施形態の“O−CO”遮断動作について、
図2、
図3を用いて説明する。
【0044】
(1回目の開極動作)
図2に示すように、第1の実施形態が、“O−CO”遮断における1回目の開極動作を開始すると、操作ロッド8は駆動装置から駆動力を受けて、
図2の右方向(矢印X1方向)に後退する。これに伴い、操作ロッド8に連結されたシリンダー9、可動アーク接触子10、ノズル11、可動通電接触子12は一体的に矢印X1方向に後退する。
【0045】
開極動作が進むと、2つの通電接触子4、12が開離し、さらには2つのアーク接触子3、10が開離する。アーク接触子3、10が開離すると、これら接触子3、10間にアーク18が点弧する。また、開極動作時には、後退するシリンダー9と、密閉容器に固定されたピストン7との相対的な距離が縮まる。そのため、機械的な圧縮作用によって圧縮空間A内の消弧性ガスが昇圧し、圧縮空間A内からノズル11内のガス吹き付け流路Eを通って密閉容器の自由空間に消弧性ガスが噴出する。
【0046】
さらに開極動作が進み、電流ゼロ点に達すると、昇圧されて高圧力となった圧縮空間A内の消弧性ガスが通気穴8bおよび連通穴10aから圧縮空間Aを出て、ノズル11内部のガス吹き付け流路Eに流れる。なお、圧縮空間A内部の圧力が高いため、バルブ13は前方通気穴74を閉塞している。この結果、ノズル11が高圧力の消弧性ガスをアーク18に強く吹き付ける。この消弧性ガスの吹き付けによってアーク18は消弧され、電流が遮断される。
【0047】
圧縮空間Aから流出し、ガス吹き付け流路Eを通るガス流19は、アーク18の熱を受けて高温ガスとなる。この高温ガスはノズル11内部を固定接触子部1向きに流れる高温ガス流19aと、可動アーク接触子10と操作ロッド8の内部空間Dを流れる高温ガス流19bとなる。これらの高温ガスは接触子部1、2から遠ざかり、最終的には密閉容器の自由空間に至る。ノズル11内部を流れる高温ガス流19aは、ノズル11の先端部から固定アーク接触子3側に向かい、アーク接触子3、10から遠ざかるように
図2中の左方向に向かう。また、開極動作時、操作ロッド8の後退に伴って排気穴8cはシリンダー9内の圧縮空間Aからピストン7内径側の排気空間Bに移動していることから、可動アーク接触子10と操作ロッド8の内部空間Dを流れる高温ガス流19bは、ピストンスカート17の高温ガス排出空間Bを通り、更に、ピストンスカート17の排気口17eを通って、密閉容器内の自由空間に排出される。
【0048】
(閉極動作)
次に
図3を用いて、“O−CO”遮断における閉極動作について説明する。閉極動作では、操作ロッド8は駆動装置から駆動力を受けて、
図3に示した左方向(矢印X2方向)に前進する。これに伴い、操作ロッド8に連結されたシリンダー9、可動アーク接触子10、ノズル11、可動通電接触子12は一体的に矢印X2方向に前進する。このとき、前進するシリンダー9と密閉容器に固定されたピストン7とは相対的に離れるように移動する。そのため、圧縮空間Aの容積は大きくなり、内部の消弧性ガスは膨張して降圧する。
【0049】
圧縮空間A内部の圧力が低くなると、バルブ13は前方に移動し(バルブ13の位置は止め輪14が規制する)、前方通気穴74は開口している。したがって、ピストンスカート17外径側の吸気空間Cとシリンダー9内部の圧縮空間Aとは連通し、ピストン支え7aの後方通気穴73から、吸気空間Cを通って流れる低温の消弧性ガス流21は、前方通気穴74を抜けて圧縮空間Aに流入し、次の開極動作前に圧縮空間Aの圧力を密閉容器内の自由空間の圧力と等しくする。
【0050】
以上述べたように、第1の実施形態が開極動作を実施するとき、可動アーク接触子10内から操作ロッド8内に通ずる空間Dを流れる高温ガス流は、ピストンスカート17内の高温ガス排気空間Bを通る高温ガス流19bとなって、密閉容器の自由空間に至る。また第1の実施形態が閉極動作を実施するときは、低温ガスが密閉容器の自由空間からピストンスカート17外径側の吸気空間Cを通って圧縮空間Aに入る。
【0051】
[効果]
このような第1の実施形態では、ピストンスカート17の前端部17dおよび後端部17cがピストンフランジ7bおよびピストン支え7aに隙間なく嵌合しており、排気空間Bと吸気空間Cとの間でガス漏れが起きることがほとんどない。すなわち、ピストンスカート17がピストン7の内部空間を2つに仕切る隔壁となっており、高温ガス流出用の排気空間Bと低温ガス流入用の吸気空間Cとの間で消弧性ガスが混じる懸念がない。
【0052】
そのため、第1の実施形態が“O−CO”遮断を実施する際、1回目の開極直後に閉極動作を行ったとしても、排気空間B側に存在する温度の下がりきっていない消弧性ガスが、吸気空間C側に混入することがなく、シリンダー9内部の圧縮空間Aに高温の消弧性ガスを流れこむ心配がない。
【0053】
以上の第1の実施形態によれば、閉極動作に際して、密閉容器の自由空間から低温の消弧性ガスのみを圧縮空間Aに吸入することができ、圧縮空間A内の消弧性ガスの消弧絶縁性能を維持することが可能である。したがって、“O−CO”遮断における2回目の開極動作を行う際、ガス遮断器は消弧絶縁性能の高い(つまり低温の)消弧性ガスを圧縮空間Aからアーク18に吹き付けて、電流を遮断することができる。これにより、“O−CO”遮断における2回目の開極動作であっても、1回目の開極動作と同様、優れた遮断性能を発揮することができる。
【0054】
しかも、第1の実施形態では、ピストン支え7aの内部にシリンダー状のピストンスカート17を取り付けるだけで、排気空間Bと吸気空間Cとの分離を実現している。そのため、碍子型遮断器のような内径の小さい密閉容器を使用するガス遮断器であっても、“O−CO”遮断における2回目の開極動作における遮断性能を確実に発揮することができる。
【0055】
(2)第2の実施形態
[構成]
続いて、第2の実施形態について
図4を用いて説明する。
図4は第2の実施形態に係るガス遮断器を示している。第2の実施形態ではピストンスカート17が設けられている。ピストンスカート17は保持部17aを省いており、ピストンスカート17の左方先端が、溶接部17fにおいて、ピストンフランジ7bに溶接されている。すなわち、第2の実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様である。
【0056】
[作用および効果]
以上の構成を有する第2の実施形態は、上記第1の実施形態に加えて、次のような作用効果がある。すなわち、第2の実施形態では、ピストンスカート17とピストン7とを溶接部17fによって溶接している。このため、ピストン支え7aとピストンフランジ7bとのネジ締結が不要であり、ネジ締結時の間隙にピストンスカート17を挟み込むといったピストンスカート17の固定作業を省略することができる。したがって、第2の実施形態では上記第1の実施形態と比べて、組立性が向上する。
【0057】
さらに、第2の実施の形態においては、溶接部17fによってピストンスカート17をピストンフランジ7bに対し溶接するので、溶接部分からガスが漏れる心配がない。したがって、吸気空間Cに吸入した低温の消弧性ガスは排気空間Bを流れる高温ガスの影響を受けることなく、高い消弧絶縁性能をより確実に維持することが可能である。
【0058】
(3)第3の実施形態
[構成]
次に
図5を参照して第3の実施形態を説明する。
図5に示した第3の実施形態は、碍子型遮断器のような内径の小さい密閉容器ではなく、比較的径の大きい密閉容器を使用したガス遮断器である。第3の実施形態における基本的な構成は第1の実施形態のそれと同様である。
図5では中心線上部が開極状態を示し、中心線下部が閉極状態を示している。
【0059】
(ピストン)
ピストン70は略釣り鐘状のピストン胴部70aと、ピストンフランジ70bとから構成される。ピストン胴部70aの後端部が保持フランジ23にボルト固定されている。なお、保持フランジ23には排気穴75が設けられ、かつ、この排気穴75は、ピストン胴部70aの内周より内側に位置して構成される。
【0060】
ピストンフランジ70bはピストン胴部70a前端部に一体的に設けられている。ピストンフランジ70bの内径部には操作ロッド8と接するように摺動リング16aが固定されている。この摺動リング16aに接しながら、操作ロッド8とピストン70とが相対的に移動するようになっている。また、ピストンフランジ70bには円周方向に沿って前方通気穴74が開口されている。
【0061】
ピストン70のピストン胴部70aはピストンフランジ70bをシリンダー9に対して固定的に支持する部材であるとともに、ピストンフランジ70bより後部の空間を、排気空間B1とピストン胴部70a外部の吸気空間C1とに分離する部材である。つまり、ピストン胴部70aは前記ピストンスカート17をピストン70の胴部とした部材であり、その内径側が排気空間B1、外径側が吸気空間C1となっている。
【0062】
排気空間B1はピストン胴部70aの内周面と操作ロッド8の外周面と保持フランジ23とによって囲まれている。排気空間B1は操作ロッド8の排気穴8cを介して操作ロッド8および可動アーク接触子10の内部空間Dに連通されている。また、排気空間Bは保持フランジ23の排気穴75を介して密閉容器の自由空間に連通されている。
【0063】
一方、吸気空間C1はピストン
胴部70aの外周面とシリンダー9の内周面によって囲まれ、シリンダー9の後端部で密閉容器の自由空間に開放されている。また、吸気空間C1はピストンフランジ70bの前方通気穴74を介してシリンダー9内部の圧縮空間Aに連通されている。
【0064】
[作用]
以上のような構成を有する第3の実施形態の“O−CO”遮断動作について、
図5を用いて説明する。
【0065】
(1回目の開極動作)
第3の実施形態が“O−CO”遮断における1回目の開極動作を行うと、操作ロッド8は駆動装置から駆動力を受けて、
図5の右方向(矢印X1方向)に後退する(
図5の中心線上部参照)。開極動作開始からの時間が経過して、大電流遮断が可能となったとき、操作ロッド8の排気穴8cはピストン70内径側の排気空間B1に位置する。
【0066】
そのため、操作ロッド8および可動アーク接触子10の内部空間Dを流れる高温ガスは操作ロッド8の排気穴8cから排気空間B1に抜け、排気空間B1から密閉容器の自由空間に流れ出る(
図5の中心線上部参照)。
【0067】
(閉極動作)
上記の開極動作に続き“O−CO”遮断の閉極動作に移行すると、操作ロッド8は駆動装置から駆動力を受けて、
図5の左方向(矢印X2方向)に前進する(
図5の中心線下部参照)。このとき、前進するシリンダー9と密閉容器に固定されたピストン70とは相対的に離れるように移動する。そのため、圧縮空間Aの容積は大きくなり、内部の消弧性ガスは膨張して降圧する。
【0068】
また、圧縮空間A内のガス圧が低下したことに伴い、バルブ13は前方に移動し(バルブ13の位置は止め輪14が規制する)、前方通気穴74は開口している。したがって、ピストン胴部70a外径側の吸気空間C1と圧縮空間Aとは連通し、吸気空間C1に存在した消弧性ガスは前方通気穴74を抜けて圧縮空間Aに流入する。従って、“O−CO”動作の2回目の開極動作に先立ち、圧縮空間Aのガス量(密度)は密閉容器内の自由空間と同じ状態が確保される。
【0069】
[効果]
上述した第3の実施形態によれば、上記第1の実施形態と同じく、閉極動作に際して、密閉容器の自由空間から低温の消弧性ガスのみをシリンダー9内部の圧縮空間Aに吸入することができる。これにより、“O−CO”遮断における2回目の開極動作であっても、1回目の開極動作と同様、優れた遮断性能を発揮することができる。
【0070】
また、第3の実施形態は密閉容器の内径寸法の大きいガス遮断器に適用している。そのため、排気空間B1および吸気空間C1の容量は大きくなり、ノズル11は十分な量の消弧性ガスを吹き出すことができるので、安定した遮断性能を確保することが可能である。
【0071】
(4)他の実施形態
なお、上記の実施形態は、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0072】
具体的な他の実施形態としては、下記のような他の実施形態も包含する。
(a)ピストンスカート17やピストン70のピストン胴部70aの形状は、前端部が窄まっていなくてもよく、単純な円筒形状など、適宜選択可能である。
【符号の説明】
【0073】
7、70…ピストン
7a…ピストン支え
70a…ピストン胴部
7b、70b…ピストンフランジ
7f…溶接部
70a…ピストン胴部
73…後方通気穴
74…前方通気穴
8…操作ロッド
8b…通気穴
8c…排気穴
9…シリンダー
10…可動アーク接触子
10a…連通穴
11…ノズル
12…可動通電接触子
17…ピストンスカート
17a…保持部
17e…排気口
19a、19b…高温ガス流
A…圧縮空間
B、B1…排気空間
C、C1…吸入空間
D…操作ロッドおよび可動アーク接触子の内部空間
E…ガス吹き付け流路