(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記保持部材の上記長手軸心方向と垂直な方向に対する幅が、上記弾性変形部が弾性変形していない状態における上記溝の幅より大きく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の気化器のパイロットスクリュ調整角度規制装置。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンなどを燃料とする燃焼機関において、燃料を霧状にして空気に混合するための装置として、キャブレタ(気化器)が用いられている。通常、キャブレタには、パイロットアウトレット孔が開けられており、その開口面積をパイロットスクリュで螺動調整することにより、空気に混合する燃料の量を調節することが可能となっている。すなわち、パイロットスクリュを締め込んでパイロットアウトレット孔の開口面積を小さくすれば、混合気中の燃料を薄くすることができる。一方、パイロットスクリュを開けてパイロットアウトレット孔の開口面積を大きくすれば、混合気中の燃料を濃くすることができる。
【0003】
ただし、パイロットアウトレット孔の開口面積を無制限に調整可能にすると、ガソリンを燃焼させた後の排ガスが所定の規制値を超えてしまう場合がある。そのため、排ガスの規制内でのみパイロットアウトレット孔の開口面積を調整可能とするために、パイロットスクリュの調整角度(回転可能範囲)に規制を設けることが必要となる。
【0004】
従来、このパイロットスクリュの調整角度を規制するための手段として、パイロットスクリュに対してタンパーキャップを設けることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、タンパーキャップを回転させたときに、タンパーキャップの突出部がキャブレタ本体のストッパ部材で係止されることにより、タンパーキャップと同期的に回転するパイロットスクリュの調整角度が所定範囲内に規制される。
【0005】
タンパーキャップを用いる場合、排ガス規制を確実に守るために、タンパーキャップがパイロットスクリュに固定されて容易に脱落しないようにすることが必要となる。ところが、上記特許文献1を含む多くの従来技術では、樹脂製のタンパーキャップが使われている。樹脂製の場合、過大な力を加えるとタンパーキャップが破壊され易く、パイロットスクリュが無制限に回転可能な状態となってしまう可能性があった。
【0006】
一方、金属製のタンパーキャップも提供されている。金属製のタンパーキャップを用いる場合には、一般的にパイロットスクリュへの固定手段として接着剤が用いられる。タンパーキャップを金属製とした場合、樹脂製のタンパーキャップと比べて、過大な力によって破壊されてしまう恐れが少なくなるというメリットがある。
【0007】
しかしながら、金属製のタンパーキャップ自体の非破壊性が樹脂製に比べて向上するとは言っても、接着剤の接着強度以上の過大な力が加えられると、タンパーキャップがパイロットスクリュから離脱し、パイロットスクリュが無制限に回転可能な状態となってしまうという問題があった。また、接着不良や経年劣化により、タンパーキャップがパイロットスクリュから離脱してしまうこともあるという問題があった。
【0008】
なお、タンパーキャップを用いる構造ではなく、パイロットスクリュに対して盲栓を施す構造を採用した従来技術も存在する。しかしながら、盲栓式の構造では、パイロットスクリュの角度調整が全くできなくなってしまうという短所も持ち合わせていた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、気化器(キャブレタ)に装着されたパイロットスクリュにタンパーキャップを嵌着させた状態を示す縦断面図である。
図2は、
図1の一部拡大図であり、本実施形態によるパイロットスクリュ調整角度規制装置の構成例を示す縦断面図である。
図3は、本実施形態によるパイロットスクリュ調整角度規制装置の構成例を示す上部平面図である。
図4は、本実施形態のパイロットスクリュの構成例を示す図である。
【0015】
図1に示すように、キャブレタ10は、ガソリン等の流体が流れる流体通路11を有し、当該流体通路11の端部にはパイロットアウトレット孔12が形成されている。当該キャブレタ10に対してパイロットスクリュ20が螺着され、パイロットスクリュ20の末端部にタンパーキャップ30が嵌着されている。さらに、パイロットスクリュ20の末端部に形成された溝(詳しくは後述する)の中に球形状の保持部材40が圧入されている。パイロットスクリュ20は、例えば真鍮などの金属で構成される。また、タンパーキャップ30は、例えば亜鉛などの金属で構成される。
【0016】
図4に示すように、パイロットスクリュ20の先端は、テーパ形状の針弁部21となっている。また、パイロットスクリュ20の長手軸心方向の中ほどにはネジ溝22が形成されている。また、
図1および
図2に示すように、パイロットスクリュ20の外周部にはコイルスプリング13が巻回されている。そして、針弁部21はキャブレタ10のパイロットアウトレット孔12に挿入され、当該パイロットアウトレット孔12の開口面積を螺動調整することができるようになされている。
【0017】
パイロットスクリュ20の長手軸心方向の末端部には、中心部に溝24が形成されるように立設され長手軸心方向と垂直な方向(矢印Aで示す)に弾性変形可能な2つの弾性変形部25
−1,25
−2を設けている。弾性変形部25
−1,25
−2の横断面形状は、
図3に示すように、一定幅を有する環形状から一部を切り取ったような形状を有している。これら2つの弾性変形部25
−1,25
−2は、一定の距離を空けて互いに対向する位置に設けられている。これにより、2つの弾性変形部25
−1,25
−2の間に形成される溝24は、その横断面形状が略マイナス文字(−)の形状となっている。
【0018】
この弾性変形部25
−1,25
−2には、パイロットスクリュ20とタンパーキャップ30とを係合させるための係合部26
−1,26
−2を設けている。この係合部26
−1,26
−2は、タンパーキャップ30がパイロットスクリュ20(具体的には、その末端部にある弾性変形部25
−1,25
−2の部分。以下同様)に組み付けられたときに、タンパーキャップ30の内側に形成された係合部33(
図2および
図3を参照)と互いに係合する。
【0019】
すなわち、パイロットスクリュ20の係合部26
−1,26
−2の縦断面形状は、アローヘッドがΛ形の半分だけとなった矢印形状をしており、当該アローヘッドに相当する部分がパイロットスクリュ20の外周側に向けて突出している。一方、タンパーキャップ30の係合部33は、内径の違いを利用した段差構造により形成されている。すなわち、パイロットスクリュ20にタンパーキャップ30が嵌着されたときに、係合部26
−1,26
−2の上記矢印形状のシャフトに相当する部分が位置する箇所の内径r1と、アローヘッドが位置する箇所の内径r2とに違いを設け、内径r2よりも内径r1を小さくすることによって、その段差部分に係合部33を形成している。
【0020】
ここで、タンパーキャップ30の小さい方の内径r1は、弾性変形部25
−1,25
−2が弾性変形していない状態、すなわち、パイロットスクリュ20の長手軸心方向に直立している状態におけるシャフト間の幅(一方の弾性変形部25
−1のシャフト部の外面から、他方の弾性変形部25
−2のシャフト部の外面までの幅)と同じか、それよりも若干大きく設定する。
【0021】
また、タンパーキャップ30の大きい方の内径r2は、弾性変形部25
−1,25
−2が弾性変形していない状態におけるアローヘッド間の幅(一方の弾性変形部25
−1のアローヘッド部の外面から、他方の弾性変形部25
−2のアローヘッド部の外面までの幅)よりも若干大きく設定する。若干大きく設定するのは、弾性変形部25
−1,25
−2が外周側に広がる余地を残しておくためである。
【0022】
このように構成することにより、パイロットスクリュ20にタンパーキャップ30を嵌める際には、パイロットスクリュ20の係合部26
−1,26
−2とタンパーキャップ30の係合部33とが係合する前の段階では、弾性変形部25
−1,25
−2のアローヘッド部がタンパーキャップ30の2つの内径r1,r2の差分だけ内側に弾性変形する。その後、係合部26
−1,26
−2と係合部33とが係合した段階では、弾性変形部25
−1,25
−2が弾性変形していない状態(パイロットスクリュ20の長手軸心方向に直立している状態)に戻る。
【0023】
弾性変形部25
−1,25
−2の根元部には、
図4に示すようにネジ溝27が形成されている。このネジ溝27は、パイロットスクリュ20にタンパーキャップ30が嵌着されたときに、タンパーキャップ30がパイロットスクリュ20から脱落しにくくなるように抵抗力を与えるためのものである。より大きな抵抗力を与えるために、ネジ溝27が形成されている部分の外径は、タンパーキャップ30の小さい方の内径r1よりも若干大きく形成されている。ただし、当該ネジ溝27が形成されている部分の外径は、タンパーキャップ30の大きい方の内径r2よりは小さい。
【0024】
タンパーキャップ30は、上述したように、その内側に設けられた係合部33と、パイロットスクリュ20の弾性変形部25
−1,25
−2に設けられた係合部26
−1,26
−2とが係合した状態でパイロットスクリュ20に嵌着される。また、ネジ溝27により与えられる抵抗力によって、嵌着状態が強固になる。この状態で、操作者が手動によりタンパーキャップ30を回転させると、パイロットスクリュ20はタンパーキャップ30と同期的に回転する。
【0025】
タンパーキャップ30は、
図3に示すように、略円筒形状の本体部31に対して突出部32が形成された構造となっている。この突出部32の横断面形状は、一定幅を有する環形状から一部を切り取ったような形状を有している。一方、
図2および
図3に示すように、キャブレタ10には、タンパーキャップ30の突出部32を係止させて当該タンパーキャップ30の回転角度を一定範囲内に規制するストッパ部材14が設けられている。そして、タンパーキャップ30の突出部32とキャブレタ10のストッパ部材14とにより、タンパーキャップ30と同期的に回転するパイロットスクリュ20の回転角度を一定範囲内に規制することができるようになされている。
【0026】
保持部材40は、タンパーキャップ30がパイロットスクリュ20に嵌着された後、パイロットスクリュ20の末端部に形成された溝24に圧入することにより、パイロットスクリュ20とタンパーキャップ30との係合状態を保持するためのものである。本実施形態では、保持部材40を球形状としている。そして、保持部材40の直径、つまりパイロットスクリュ20の長手軸心方向と垂直な方向に対する幅が、弾性変形部25
−1,25
−2が弾性変形していない状態における溝24の幅w(
図3および
図4参照)より若干大きく形成している。
【0027】
上述したように、2つの弾性変形部25
−1,25
−2を内側に弾性変形させながらパイロットスクリュ20にタンパーキャップ30を組み付けて両者を嵌着させると、係合部26
−1,26
−2と係合部33とが係合した状態で、弾性変形部25
−1,25
−2は弾性変形していない状態に戻る。この状態で、2つの弾性変形部25
−1,25
−2の中心部に形成されている溝24に保持部材40を圧入する。保持部材40の直径は溝24の幅wより若干大きく形成されているので、保持部材40を溝24に圧入すると、2つの弾性変形部25
−1,25
−2はアローヘッド部が外側に弾性変形する。これにより、弾性変形部25
−1,25
−2の内側への弾性変形は不能となる。よって、係合部26
−1,26
−2と係合部33との係合状態が解かれることはない。
【0028】
本実施形態では、保持部材40の直径、つまりパイロットスクリュ20の長手軸心方向に対する高さを、溝24の深さd(
図4参照)と略同じとなるように形成している。すなわち、溝24の中に保持部材40を圧入した状態において、弾性変形部25
−1,25
−2の端部と保持部材40の端部とが同じ高さで揃うようにしている。
【0029】
以上詳しく説明したように、本実施形態による気化器のパイロットスクリュ調整角度規制装置によれば、金属製のタンパーキャップ30を用いているので、樹脂製のタンパーキャップと比べて、過大な力によって破壊されてしまう恐れを低減することができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、パイロットスクリュ20とタンパーキャップ30とが接着剤によって固定されるのではなく、弾性変形部25
−1,25
−2に設けられた係合部26
−1,26
−2とタンパーキャップ30に設けられた係合部33とによって固定される。さらに、弾性変形部25
−1,25
−2の中心部に形成された溝24に保持部材40が挿入されることによって、係合状態が強固に保持される。そのため、過大な力によりタンパーキャップ30がパイロットスクリュ20から離脱してしまう不都合を防止することができる。また、接着不良や経年劣化により、タンパーキャップ30がパイロットスクリュ20から離脱してしまう不都合も防止することができる。
【0031】
以上により、本実施形態のパイロットスクリュ調整角度規制装置によれば、パイロットスクリュ20の回転角度を一定の規制範囲内で調整可能としつつも、タンパーキャップ30がパイロットスクリュ20に確実に固定されて脱落しないようにすることができる。
【0032】
また、本実施形態では、保持部材40の直径を溝24の幅wより若干大きく形成しているので、パイロットスクリュ20とタンパーキャップ30とが係合した状態で保持部材40を溝24に圧入することにより、2つの弾性変形部25
−1,25
−2が外側に弾性変形する。これにより、弾性変形部25
−1,25
−2の内側への弾性変形が全くできない状態となり、係合部26
−1,26
−2と係合部33との係合状態を強固なものとすることができる。なお、保持部材40の直径を溝24の幅wより若干大きく形成することは必須ではないが、そのようにすることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態では、保持部材40の直径を溝24の深さdと略同じに形成したので、溝24に保持部材40を圧入することにより、溝24にドライバーなどを挿入して過大なトルクを与えることを行いにくくすることができる。すなわち、本実施形態のような係合構造を採用した場合、係合部26
−1,26
−2が内側に撓めるように溝24を設ける必要がある。本実施形態では、この溝24を、これと高さを揃えた保持部材40によって塞ぐことにより、溝24にドライバーなどを挿入してパイロットスクリュ20を回転させることを行えないようにすることができる。
【0034】
また、本実施形態では、パイロットスクリュ20とタンパーキャップ30とを接着剤によって固定しているわけではないので、タンパーキャップ30の非破壊性に大きな影響を与える接着剤の塗布量を生産現場で管理するといった作業は必要がない。また、接着剤によって固定する場合は、接着剤の塗布工程の後に乾燥工程が必要となるが、本実施形態ではこのような複数の作業工程は不要である。すなわち、パイロットスクリュ20に対するタンパーキャップ30の組み付けと、パイロットスクリュ20の溝24に対する保持部材40の圧入だけで作業は終了する。これにより、同じ金属製のタンパーキャップを用いていた従来技術に比べて、生産効率が向上するというメリットも有する。
【0035】
なお、上記実施形態では、弾性変形部25
−1,25
−2が2つで、当該2つの弾性変形部25
−1,25
−2の間における溝24を略マイナス文字形状に形成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、弾性変形部は3つ以上であってもよい。例えば、弾性変形部を4つとし、4つの弾性変形部の中心部に略プラス文字(+)の形状に溝24を形成するようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、保持部材40を球形状としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、保持部材40の形状を溝24の形状と同じとしてもよい。このようにすれば、溝24に保持部材40を圧入することによって溝24を完全に塞ぐことができるので、溝24にドライバーなどを挿入してパイロットスクリュ20を回転させることを全く行えないようにすることができる。
【0037】
また、上記実施形態では、矢印形状の係合部26
−1,26
−2と段差構造の係合部33とによってパイロットスクリュ20とタンパーキャップ30とを係合させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、弾性変形部25
−1,25
−2のシャフト部の外側面に設けた凹部または凸部と、タンパーキャップ30の内壁面に設けた凸部または凹部とによって係合部を構成するようにしてもよい。ただし、上記実施形態で説明した構造の方が、係合状態が強固で、タンパーキャップ30がパイロットスクリュ20から脱落しにくくなる点で、より好ましい。
【0038】
また、上記実施形態では、タンパーキャップ30に設けた突出部32の横断面形状を、一定幅を有する環形状から一部を切り取ったような形状とする例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、棒状の突起部を2つ設ける構造としてもよい。
【0039】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。