特許第5925637号(P5925637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925637
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20160516BHJP
   A23G 9/04 20060101ALN20160516BHJP
【FI】
   A23D9/00 512
   !A23G9/04
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-179189(P2012-179189)
(22)【出願日】2012年8月13日
(65)【公開番号】特開2013-59324(P2013-59324A)
(43)【公開日】2013年4月4日
【審査請求日】2015年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-180792(P2011-180792)
(32)【優先日】2011年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】本間 里佳
(72)【発明者】
【氏名】麻生 佳秀
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−161471(JP,A)
【文献】 特開平4−258252(JP,A)
【文献】 特開平11−243855(JP,A)
【文献】 特表平9−510622(JP,A)
【文献】 特開平9−172966(JP,A)
【文献】 特開平2−291228(JP,A)
【文献】 特開2000−041609(JP,A)
【文献】 特開平7−313066(JP,A)
【文献】 特開2010−268749(JP,A)
【文献】 特開平11−169074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23G 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)〜(4):
(1)ジアシルグリセロール中のジ飽和ジアシルグリセロール(SS)の含有量が20〜92質量%、
(2)ジアシルグリセロール中のモノ飽和モノ不飽和ジアシルグリセロール(SU)の含有量が60質量%以下、
(3)ジアシルグリセロール中のジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)の含有量が8〜80質量%、
(4)ジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸中の炭素数10、12及び14の飽和脂肪酸の合計含有量が20質量%以上、
を満たすジアシルグリセロールを50質量%以上含有する油脂組成物。
【請求項2】
(1)ジアシルグリセロール中のジ飽和ジアシルグリセロール(SS)の含有量が30質量%以上75質量%以下、
(2)ジアシルグリセロール中のモノ飽和モノ不飽和ジアシルグリセロール(SU)の含有量が2質量%以上35質量%以下、
(3)ジアシルグリセロール中のジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)の含有量が18質量%以上60質量%以下、
(4)ジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸中の炭素数10、12及び14の飽和脂肪酸の合計含有量が50質量%以上80質量%以下、
を満たす請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
ジアシルグリセロールの含有量が70質量%以上95質量%以下である請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
5℃における固体脂含量が15〜65%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
20℃における固体脂含量が8〜40%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の油脂組成物を含有し、油相:水相の質量比率が10:90〜90:10である乳化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスクリーム等の冷菓用に好適な油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷菓には風味の付与、食感の改良、物性の改善等を目的として油脂が配合されている。
冷菓用の油脂としては、(1)冷凍温度域での口溶けを考慮した融点が極めて低い大豆油や菜種油に代表される液状油、(2)体温近傍でシャープな口溶けが特徴のSUS型トリグリセリド(2位が不飽和脂肪酸、1、3位が飽和脂肪酸からなるトリグリセリド)、(3)ヤシ油やパーム核油等のラウリン酸高含有油脂、(4)パーム油に代表される固体脂が多用されている。
しかしながら、前記(1)の液状油は低温においても結晶量が不足するために乳化安定性の点で難があり、同(2)〜(4)の固体脂は、その全ての油脂が口中で融解することなく、固体脂を含んだまま喉を通って食されてしまうため、口溶けが悪いと感じることがある。また、冷菓としてのキメや組織が不良となりやすい。
【0003】
一方、ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は、食後の血中トリグリセリド(中性脂肪)の増加を抑制し、体内への蓄積性が少ない等の生理作用を有することが知られ(特許文献1、2)、従来の油脂に代えての使用が期待される。
これまでに、ジアシルグリセロールを含有するものとして、例えば、パーム油等から合成されたジアシルグリセロールを含む半固体状の油脂等が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−300826号公報
【特許文献2】特開平10−176181号公報
【特許文献3】国際公開第2010/019598号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術のジアシルグリセロールを含む油脂は、冷菓に用いると、乳化安定性に欠け、フリージング時に解乳化し易いという性質があることがわかった。
そこで、本発明の課題は、乳化安定性、結晶性に優れ、良好な口どけ感等を有するジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、冷菓に優れた性能を付与できる油脂を求め、ジアシルグリセロール中の特定の構造を持つジアシルグリセロールの割合に着目して鋭意研究を行ったところ、飽和脂肪酸のみから構成されるジアシルグリセロール、不飽和脂肪酸のみから構成されるジアシルグリセロール、及び飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸から構成されるジアシルグリセロールをそれぞれ特定量含み、且つジアシルグリセロール中の特定の脂肪酸の割合が一定範囲であれば、冷蔵・冷凍温度域での乳化安定性、結晶性に優れ、また、体温近傍で良好な口溶け感等を有し、冷菓用油脂として好適な性能を有する油脂組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4):
(1)ジアシルグリセロール中のジ飽和ジアシルグリセロール(SS)の含有量が20〜92質量%、
(2)ジアシルグリセロール中のモノ飽和モノ不飽和ジアシルグリセロール(SU)の含有量が60質量%以下、
(3)ジアシルグリセロール中のジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)の含有量が8〜80質量%、
(4)ジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸中の炭素数10、12及び14の飽和脂肪酸の合計含有量が20質量%以上、
を満たすジアシルグリセロールを50質量%以上含有する油脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記油脂組成物を含有し、油相:水相の質量比率が10:90〜90:10である乳化物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷蔵・冷凍温度域での乳化安定性及び結晶性に優れ、キメや組織が良好で、口溶け感等に優れた冷菓とすることができる、ジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油脂組成物は、ジアシルグリセロールを50質量%(以下、「%」とする)以上含有するが、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上が更に好ましく、70%以上が更に好ましく、75%以上が更に好ましい。また、ジアシルグリセロール含有量の上限は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、88%以下が更に好ましい。具体的には、更に55〜95%、更に60〜95%、更に65〜95%、更に70〜95%、更に70〜90%、更に75〜88%含有するのが好ましい。ジアシルグリセロールの含有量が上記範囲にあると、生理効果の点、風味が良好な点で好ましい。なお、本発明において「油脂」は、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものとする。
【0010】
本発明におけるジアシルグリセロールは、次の(1)〜(4)を満たすものである。
(1)ジ飽和ジアシルグリセロール(SS)の含有量が20〜92%、
(2)モノ飽和モノ不飽和ジアシルグリセロール(SU)の含有量が60%以下、
(3)ジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)の含有量が8〜80%、
(4)ジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸中の炭素数10、12及び14の飽和脂肪酸の合計含有量が20%以上。
【0011】
ジアシルグリセロール中、構成脂肪酸が2つの飽和脂肪酸からなるジ飽和ジアシルグリセロール(SS)の含有量は20〜92%であるが、25%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、また85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下が更に好ましく、70%以下が更に好ましく、62%以下が更に好ましい。具体的には、25〜85%、更に25〜80%、更に30〜75%、更に30〜70%、更に30〜62%であるのが好ましい。SSの含有量が上記範囲にあると、キメ・組織(ざらつき)が良好な点から好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数8〜22、更に10〜14のものが好ましい。
【0012】
ジアシルグリセロール中、構成脂肪酸が飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸からなるモノ飽和モノ不飽和ジアシルグリセロール(SU)の含有量は60%以下であるが、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましく、40%以下が更に好ましく、35%以下が更に好ましく、33%以下が更に好ましい。SUの含有量の下限は0が好ましく、2%以上がより好ましく、4%以上、6%以上が更に好ましい。具体的には、0〜50%、更に0〜45%、更に0〜40%、更に2〜35%、更に4〜33%で、更に6〜33%あるのが好ましい。SUの含有量が上記範囲にあると、食感が良好な点から好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、更に16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
【0013】
また、ジアシルグリセロール中、構成脂肪酸が2つの不飽和脂肪酸からなるジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)の含有量は8〜80%であるが、10%以上が好ましく、13%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましく、18%以上が更に好ましく、また75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、50%以下が更に好ましい。具体的には10〜80%、更に13〜80%、更に18〜80%、更に18〜75%、更に18〜70%、更に18〜60%、更に18〜50%であるのが好ましい。UUの含有量が上記範囲にあると、乳化安定性が良好な点から好ましい。不飽和脂肪酸としては、前記と同様のものが好ましい。
これらジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸の位置は、グリセロールの1位と3位、又は1位と2位のいずれでもよい。
【0014】
ジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸のうち、炭素数10、12及び14の飽和脂肪酸の合計含有量は20%以上であるが、更に25%以上、更に30%以上、更に50%以上、更に60%以上、更に65%以上であるのが好ましい。また、この飽和脂肪酸の合計含有量の上限は80%以下が好ましい。具体的には20〜80%、更に25〜80%、更に30〜80%、更に50〜80%、更に60〜80%、更に65〜80%が好ましい。この飽和脂肪酸の合計量が、上記範囲にあると、口溶けが良好な点から好ましい。なお、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸は、炭素数8〜22、更に10〜14であるのが、口溶けが良好な点から好ましい。
【0015】
本発明における油脂組成物は、トリアシルグリセロールを含有するのが好ましく、その含有量は、1%以上、5%以上、10%以上、12%以上、49%以下、45%以下、40%以下、39.5%以下、35%以下、30%以下、更に好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下が好ましく、具体的には、1〜49%が好ましく、更に5〜45%、更に5〜40%、更に5〜30%、更に10〜30%、更に12〜25%が、工業的生産性の点で好ましい。
また、油脂組成物中のモノアシルグリセロールの含有量は10%以下、更に0.01〜8%であるのが好ましく、遊離脂肪酸(塩)の含有量は3.5%以下、更に0.01〜1.5%であるのが風味等の点で好ましい。トリアシルグリセロール及びモノアシルグリセロールの構成脂肪酸は、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸と同じであることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0016】
本発明の油脂組成物は、固体脂含量(Solid Fat Content)が5℃で15〜65%であるのが好ましく、更に25〜60%、更に30〜55%であるのが食感の点で好ましい。また、20℃で8〜40%であるのが好ましく、更に11〜35%、更に12〜30%であるのが、口溶けが良好である点で好ましい。
【0017】
本発明の油脂組成物は、例えば、飽和脂肪酸のみで構成されるジ飽和ジアシルグリセロール(SS)を高濃度に含む油脂、不飽和脂肪酸のみで構成されるジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)を高濃度に含む油脂等をそれぞれ調製し、ジアシルグリセロールが上記特定の組成となるように配合することで製造できる。また、必要に応じて通常の食用油脂を配合してもよい。
前記食用油脂は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、例えば、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂を挙げることができる。また、これらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を利用できる。水素添加油を利用する際には、油脂を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸量を低減させる点から、完全硬化油を用いるのが好ましい。これらの油は、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは適宜混合して用いてもよい。なかでも、使用性の点から、植物性油脂を用いるのが好ましい。
【0018】
ジアシルグリセロールを高含有する油脂は、脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのグリセロリシス反応等により得ることができる。脂肪酸組成を制御する点から、原料油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応により得るのが好ましい。
【0019】
エステル化反応及び/又はグリセロリシス反応は、アルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物もしくは炭素数1〜3のアルコキシド等の化学触媒を用いる化学法とリパーゼ等の酵素を用いる酵素法に大別される。なかでも、触媒としてリパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが風味等の点で優れており好ましい。
エステル化反応及び/又はグリセロリシス反応の後、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的には、酸処理、水洗、脱色、脱臭等の工程を挙げることができる。
【0020】
前記エステル化反応に用いられる脂肪酸の原料油脂や前記グリセロリシス反応に用いられる原料油脂は、前記食用油脂で挙げられた油脂を用いることができる。
【0021】
本発明の油脂組成物は、抗酸化剤を含有することが好ましい。抗酸化剤の油脂組成物中の含有量は、風味、酸化安定性、着色抑制等の点で0.005〜0.5%であることが好ましく、更に0.04〜0.25%、更に0.08〜0.2%であることが好ましい。抗酸化剤としては、通常食品に使用するものであれば何でも良い。例えば、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、t−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ビタミンCまたはその誘導体、リン脂質、ローズマリー抽出物等の天然抗酸化剤を用いることができる。
【0022】
本発明の油脂組成物は、水中油型乳化物又は油中水型乳化物に用いることができる。水相と油相の質量比は、特に制限されないが、好ましくは油相:水相=10:90〜90:10であり、更に好ましくは油相:水相=20:80〜80:20であり、更に好ましくは油相:水相=30:70〜70:30である。
油脂組成物を乳化物の形態とする場合、乳化剤、抗酸化剤、安定化剤、増粘剤、ゲル化剤、界面活性化剤等の通常の乳化物に用いる成分を適宜配合することができる。また、油相には、本発明の油脂組成物以外にその他の油脂を配合してもよい。その他の油脂としては、前述したような通常の食用に用いられる動植物油脂及び加工油脂を挙げることができる。
【0023】
本発明の油脂組成物は、常温(20℃)で固体状であり、食用油脂として各種飲食品に応用することができる。とりわけ、口中で優れた口溶け感を有し、冷蔵・冷凍温度域での乳化安定性及び結晶性に優れることから冷菓用として好適である。冷菓としては、保存温度や摂取温度が冷蔵又は冷凍温度域であるものであれば特に制限されないが、例えばアイスクリーム類(アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス)、氷菓(シャーベット、かき氷等)等が挙げられる。
【0024】
次に本発明の態様及び好ましい実施態様を示す。
【0025】
<1>次の(1)〜(4):
(1)ジアシルグリセロール中のジ飽和ジアシルグリセロール(SS)の含有量が20〜92質量%、
(2)ジアシルグリセロール中のモノ飽和モノ不飽和ジアシルグリセロール(SU)の含有量が60質量%以下、
(3)ジアシルグリセロール中のジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)の含有量が8〜80質量%、
(4)ジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸中の炭素数10、12及び14の飽和脂肪酸の合計含有量が20質量%以上、
を満たすジアシルグリセロールを50質量%以上含有する油脂組成物。
【0026】
<2>油脂組成物中のジアシルグリセロール含有量が、55質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であり、95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは88質量%以下である<1>の油脂組成物。
<3>ジアシルグリセロール中、構成脂肪酸が2つの飽和脂肪酸からなるジ飽和ジアシルグリセロール(SS)の含有量が、25質量%以上、好ましくは30質量%以上であり、また85質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは62質量%以下である<1>又は<2>の油脂組成物。
<4>ジアシルグリセロール中、構成脂肪酸が飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸からなるモノ飽和モノ不飽和ジアシルグリセロール(SU)の含有量が、50質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、更に好ましくは33質量%以下であり、その下限は0でもよく、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは6質量%以上である<1>〜<3>の油脂組成物。
<5>ジアシルグリセロール中、構成脂肪酸が2つの不飽和脂肪酸からなるジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)の含有量が、10質量%以上、好ましくは13質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは18質量%以上であり、また75質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である<1>〜<4>の油脂組成物。
<6>ジアシルグリセロールを構成する飽和脂肪酸のうち、炭素数10、12及び14の飽和脂肪酸の合計含有量が、25質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましく50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、その上限は80質量%以下である<1>〜<5>の油脂組成物。
<7>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸が、炭素数8〜22であり、好ましくは炭素数10〜14である<1>〜<6>の油脂組成物。
<8>ジアシルグリセロールを構成する不飽和脂肪酸が、炭素数14〜24であり、好ましくは炭素数16〜22である<1>〜<7>の油脂組成物。
<9>油脂組成物がトリアシルグリセロールを含有し、その含有量が1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であり、49質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、より好ましくは39.5質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である<1>〜<8>の油脂組成物。
<10>油脂組成物中のモノアシルグリセロールの含有量が10質量%以下、好ましくは0.01〜8質量%であり、遊離脂肪酸(塩)の含有量が3.5質量%以下、好ましくは0.01〜1.5質量%である<1>〜<9>の油脂組成物。
<11>油脂組成物の、固体脂含量(Solid Fat Content)が5℃で15〜65%であり、好ましくは25〜60%、より好ましくは30〜55%であり、20℃で8〜40%であり、好ましくは11〜35%、より好ましくは12〜30%である<1>〜<10>の油脂組成物。
<12>飽和脂肪酸のみで構成されるジ飽和ジアシルグリセロール(SS)を高濃度に含む油脂及び不飽和脂肪酸のみで構成されるジ不飽和ジアシルグリセロール(UU)を高濃度に含む油脂をそれぞれ調製し、ジアシルグリセロールが特定の組成となるように配合し、必要に応じて通常の食用油脂を配合することにより得られる<1>〜<11>の油脂組成物。
<13>更に抗酸化剤を含有し、その含有量が0.005〜0.5質量%、好ましくは0.04〜0.25質量%、より好ましくは0.08〜0.2質量%である<1>〜<12>の油脂組成物。
<14>アイスクリーム、氷菓等の冷菓用食用油脂である<1>〜<13>の油脂組成物。
<15><1>〜<14>のいずれかの油脂組成物を含有する水中油型乳化物又は油中水型乳化物であり、水相と油相の質量比が、油相:水相=10:90〜90:10であり、好ましくは油相:水相=20:80〜80:20であり、更に好ましくは油相:水相=30:70〜70:30である乳化物。
【実施例】
【0027】
〔分析方法〕
(i)油脂のグリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
<GLC条件>
(条件1)
装置:アジレント6890シリーズ(アジレントテクノジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー社製)
カラム:DB−1ht(Agilent J&W社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=320℃
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:80℃から10℃/分で340℃まで昇温、15分間保持
なお、ジアシルグリセロール中のSS、SU及びUUは、条件2にて求めた。
(条件2)
装置:アジレント6890シリーズ(アジレントテクノジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー社製)
カラム:CP,TAP for Triglyceride(VARIAN社製)
キャリアガス:1.7mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=345℃
ディテクター:FID、T=355℃
オーブン温度:220℃で12分間保持、10℃/分で305℃まで昇温、15分間保持、10℃/分で355℃まで昇温、30分間保持
【0028】
(ii)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られた油脂サンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0029】
(iii)固体脂含量(SFC)の測定
油脂の固体脂含量(SFC)は、MARAN23(レゾナンス社)にて測定した。固体脂含量の測定方法を、以下に示す。
1)試験管に詰めた試料を60℃で30分間保持する
2)試料を0℃に30分間保持し、更に26℃に移して30分間保持する
3)再び0℃に移し30分間保持した後、5℃に30分間保持して、固体脂含量を測定する
4)続いて10℃に30分間保持し、固体脂含量を測定する
5)同様にして、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃の順に測定する
【0030】
〔油脂A〜Jの調製〕
(1)油脂A〜H
やし油脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部とを混合し、酵素によりエステル化反応を行い、ジアシルグリセロール(DAG)含有油脂を得た。得られたエステル化物から、蒸留により脂肪酸とモノアシルグリセロールを除去した後、酸処理(10%クエン酸水溶液を2%添加)及び水洗(蒸留水3回)を行い、次いで、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)を接触させ、脱色油を得た。更に、水蒸気を接触させ脱臭を行い、油脂A(DAG78%)を得た。
【0031】
油脂Aと同様にして、パーム核油脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部から、油脂B(DAG78%)を得た。
【0032】
油脂Aと同様にして、パーム油脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部から、油脂C(DAG80%)を得た。
【0033】
油脂Aと同様にして、大豆油脂肪酸:菜種油脂肪酸=7:3(質量比)の混合脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部から、油脂D(DAG86%)を得た。
【0034】
油脂Aと同様にして、やし油脂肪酸:菜種油脂肪酸=8:2(モル比)の混合脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部から、油脂E(DAG79%)を得た。
【0035】
油脂Aと同様にして、やし油脂肪酸:菜種油脂肪酸=7:3(モル比)の混合脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部から、油脂F(DAG79%)を得た。
【0036】
油脂Aと同様にして、やし油脂肪酸:菜種油脂肪酸:パーム油脂肪酸=4:4:2(モル比)の混合脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部から、油脂G(DAG79%)を得た。
【0037】
油脂Aと同様にして、ヤシ硬化油脂肪酸100質量部とグリセリン20質量部から、油脂H(DAG89%)を得た。
【0038】
(2)油脂I
大豆極度硬化油(横関油脂(株))100質量部とグリセリン40質量部とを混合し、ナトリウムメチラートを触媒としてグリセロリシス反応を行い、DAG含有油脂を得た。得られたグリセロリシス反応物から、蒸留により脂肪酸とモノアシルグリセロールを除去した後、油脂Aと同様にして処理し、油脂I(DAG74%)を得た。
油脂A〜Iの分析値を表1に示す。
【0039】
(3)油脂J
油脂Jとして、表1の組成を持つ油脂(ブレンド油(サミット製油))を用いた。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1〜17及び比較例1〜6
(1)水中油型乳化物の調製
表3に示す配合割合で油脂A〜Jを混合し、油脂組成物を調製した。
この油脂組成物を80℃で融解して均一な油相とした。水相85質量部(カゼインナトリウム3質量部、マルトース液77質量部、水5質量部)を80℃に加温し、ホモミキサー(特殊機化工業性)を用いて撹拌(3000rpm)しながら、80℃に加温した油相15質量部を滴下した。滴下終了後、更に7000rpmで10分間乳化処理を行い、水中油型予備乳化物とした。得られた予備乳化物をホモゲナイザーで65℃の温度下、4×106Paの圧力で均質化処理を行った後、UHT滅菌処理(アルファラバル社製VTIS滅菌装置)を行い、70℃にて、2.5×106Paの圧力で再均質化処理をした。均質化処理後の乳化物を8℃に冷却し、水中油型乳化物を得た。
【0042】
(2)乳化安定性の評価
上記(1)で調製した水中油型乳化物100mLを乳化試験管に採取し、5℃で4時間経過した後の離水量を指標にして、次の判定基準に従って、乳化安定性を評価した。
結果を表3に示す。
〔乳化安定性〕
4:乳化安定性が非常に良好であり、乳化物から水の分離がない
3:乳化物から若干の水が分離するが、良好な乳化状態である
2:乳化物から若干の水及び油が分離するが、良好な乳化状態である
1:乳化物から水及び油が分離し、乳化状態が不良である
【0043】
(3)ラクトアイスの調製
上記(1)で調製した乳化安定性に優れた各油脂組成物を用いて、表2に示す配合割合(固形分換算での質量%で示してある)のラクトアイスを調製した。香料を除く原料を85℃で融解して均一混合物とし、パドルミキサーを使用して10分間予備乳化を行った。その後、高圧ホモゲナイザー(三和機械(株))を用いて150kg/cm2の条件で乳化した。得られた乳化物を85℃まで加温して殺菌し、直ちに5℃まで冷却した。同温にて24時間エージングを行い、水中油型乳化物を得た。得られた水中油型乳化物に香料を添加し、アイスクリームフリーザー(三菱電機(株))にてフリージングを行い、ラクトアイスを得た。なお、乳化剤はモノグリセリド(エキセルT−95、花王(株))を用い、安定剤は増粘剤(サンベストAS−1、三栄源(株))を用いた。
【0044】
【表2】
【0045】
得られたラクトアイスを容器に充填し−20℃にて固化させた後、5人のパネルにより、各人10gを食し、以下に示す判定基準に従ってラクトアイスの評価を行い、その平均値をもって評点とした。結果を表3に示す。
〔口溶け感〕
4:非常にさっぱりとして、口溶けが良い
3:さっぱりとして、口溶けが良い
2:ややもたつくが、口溶けが良い
1:もたつき、口溶けが悪い
〔食感〕
4:あっさりとして、非常にキレがよい
3:あっさりとして、キレがよい
2:やや重たい
1:重たい
〔キメ・組織(ざらつき)〕
4:非常に滑らかで、キメが細かい
3:滑らかで、キメが細かい
2:ややキメが荒い
1:ざらつき、キメが荒い
〔風味〕
4:非常にクリーミーで、風味が良い
3:クリーミーで、風味が良い
2:やや風味が良くない
1:風味が良くない
【0046】
【表3】
【0047】
表3から明らかなように、本発明の油脂組成物を用いた水中油型乳化物は、比較例のものに比べ、油分離を生じ難く、乳化安定性に優れていた。また、本発明品のラクトアイスは、キメ・組織が良好で、口溶け感、食感及び風味に優れていた。