特許第5925668号(P5925668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925668
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/68 20060101AFI20160516BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20160516BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20160516BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   B01J23/68 AZAB
   B01D53/86 222
   F01N3/10 A
   F01N3/24 E
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-259002(P2012-259002)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-104418(P2014-104418A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 進
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 彦睦
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 雄一
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 晶子
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−112962(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/093600(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
F01N 3/10
F01N 3/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaMn(x≧2)で表され且つAgを含有する複酸化物を含むことを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
Agの少なくとも一部が前記複酸化物の結晶に固溶している請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Agが担持されている請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Pt、Au、Pd及びRhから選択される少なくとも一種の元素が担持されている請求項1〜3の何れか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために使用される排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガス中には、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等の有害成分が含まれている。
【0003】
また、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスはパティキュレート(PM;粒子状物質)を含んでおり、これらの物質がそのまま大気中に放出されると大気汚染の原因になる。パティキュレートを取り除くための有効な手段として、ススを捕集するためのディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)を用いたディーゼル排ガストラップシステムがある。
【0004】
一方、ディーゼル排ガスの効率的な浄化のために、ディーゼル酸化触媒(DOC)をエンジンのできるだけ近傍に設置し、エンジンの熱を利用してガス浄化反応を促進することが試みられている。しかしながら、エンジン室内のスペースには限度があるため、DOCは小型化する必要があり、温度による効率向上と小型化することによる絶対的反応面積減少とのトレードオフが生じるという問題がある。
【0005】
この解決策の一つとして、DPFにPM燃焼のみならず、ガス浄化性能の機能をも付加し、排ガス浄化システム全体でのパフォーマンスを向上することが考えられている。例えば、パティキュレートを燃焼浄化し、同時にNOxを還元浄化するパティキュレート酸化剤が提案されている(特許文献1参照)が、さらなる性能向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−334443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は自動車等の内燃機関から排出される排気ガスのパティキュレートを燃焼浄化すると共にガス浄化性能にも優れた排気ガス浄化用触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成するために種々の物質を用いて種々の実験を行った結果、LaMn系複酸化物が、LaMnOと比較してガス浄化性能に優れ、特に、Laに対してMnが過剰、すなわち、Mn/La比を2より大きくした複酸化物は硫黄被毒性に優れ、パティキュレートを燃焼浄化すると共にガス浄化性能にも優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の排気ガス浄化用触媒の第1の態様は、LaMn(x≧2)で表され且つAgを含有する複酸化物を含むことを特徴とする。
【0010】
ここで、Agの少なくとも一部が前記複酸化物の結晶に固溶しているのが好ましい。
【0011】
また、触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Agが担持されているのが好ましい。
【0012】
また、触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Pt、Au、Pd及びRhから選択される少なくとも一種の元素が担持されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の排気ガス浄化用触媒はパティキュレートを燃焼浄化すると共にガス浄化性能にも優れているので、自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1、2および比較例1の排ガス浄化用触媒のXRDを示すチャートである。
図2】実施例2のXRDのピークシフトを示す拡大図である。
図3】実施例1、2および比較例1の排ガス浄化用触媒のXRDのAgのピークの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の排気ガス浄化用触媒について説明する。
【0016】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、LaMn(x≧2)で表され且つAgを含有する複酸化物を含むことを特徴とする。
【0017】
LaMnは、LaMnOと比較してガス浄化性能に優れるものである。La及びMnを含む複酸化物は、通常、LaMnOの結晶構造になりやすいが、本発明では、結晶化の際にAgを存在させることによりLaMnとしている。
【0018】
また、LaMnは、DyMn構造をとる結晶であることが好ましい。
【0019】
ここで、DyMn構造をとる結晶からなる複酸化物とは、XRDパターンが、空間群Pbamに含まれる、マンガン酸ジスプロシウム構造(DyMn構造、ICSD(Inorganic crystal structure database)参照)をとる結晶として同定されることをいう。また、DyMn構造をとる結晶からなる複酸化物は、一般式ABとして示される。
【0020】
LaMnのうち、化学量論比のLaMnはDyMn構造をとる結晶としてのXRDパターンのピークが比較的弱い、すなわち、xが2より大きい場合と比較してDyMn構造をとりにくいが、xが2より大きい場合、すなわち、Laに対してMnが過剰、すなわち、Mn/La比を2より大きくした複酸化物LaMnは、DyMn構造をとりやすく、DyMn構造の結晶としてのXRDパターンのピークが比較的強い。
【0021】
ここで、過剰分のMnは、LaMnの結晶中に固溶している。ここで、Mnが結晶に固溶しているものとは、Mnが化学量論比からずれて過剰となっているが、XRDパターンでは、DyMn構造のピークが観察され、且つAサイト元素であるLaと比較してイオン半径が小さいBサイト元素であるMnが固溶していることによって、XRDピークの2θにずれが見られるものをいう。このとき、Mnを含み且つDyMnに帰属できないピークが観測された場合も、DyMnに帰属されるXRDピークの2θのずれが見られれば、過剰分のBサイトの元素の少なくとも一部が結晶の格子内に固溶しているとみなされる。
【0022】
なお、本発明の排気ガス浄化用触媒は、このようなMnが過剰となった複酸化物と共に、Mnの酸化物、例えば、酸化マンガンが共存していてもよく、これも本発明に包含される。
【0023】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、Agを含有している。Agを含有するとは、前記複酸化物と共にAgが共存していることをいうが、Agの少なくとも一部が前記複酸化物の結晶に固溶しているのが望ましい。また、上述したとおり、結晶化の際にAgが共存すると、LaMnの結晶となりやすいが、結晶化の際に共存させたAgの少なくとも一部は、複酸化物の結晶に固溶することになる。
【0024】
ここで、Agの少なくとも一部が前記結晶に固溶しているとは、XRDパターンにおける金属Agのピーク強度が、含有量の絶対値から推定される強度よりも明らかに小さいことを示す。
【0025】
このような本発明の複酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0026】
製造方法の一例としては、LaとMnとを含む溶液に沈殿剤を添加して、LaとMnとが原子比Mn/La≧2で含有される沈殿物を得て、これを乾燥、焼成することにより複酸化物LaMnを得る方法を挙げることができる。ここで、化学量論比のLaMnの他、化学量論比からずれた組成のものも総称してLaMnと表記するものとする。
【0027】
また、複酸化物の製造をMn/Laの比を化学量論比で行い、その後に過剰分のMnを担持処理してもよい。
【0028】
Agの担持は、硝酸銀塩などを用いた蒸発乾固か金属Agを用いた乾式混合などの方法で実施してもよい。
【0029】
本発明の複酸化物は、触媒支持体上に担持されている触媒層として用いるのが好ましい。
【0030】
ここで、触媒支持体は、例えば、セラミックス又は金属材料からなる。また、触媒支持体の形状は、特に限定されるものではないが、一般的にはハニカム形状、板、ペレット、DPF等の形状であり、好ましくはハニカム又はDPFである。また、このような触媒支持体の材質としては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト(3Al−2SiO)、コージェライト(2MgO−2Al−5SiO)、チタン酸アルミニウム(AlTiO)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスや、ステンレス等の金属材料を挙げることができる。
【0031】
また、Ag、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素を触媒層に担持することにより、パティキュレートの燃焼浄化性能とガス浄化性能がより向上する。また、担持された金属元素の量が金属元素+担体の合計質量基準で0.01〜50%好ましくは0.1〜20%とすることにより、排気ガス浄化性能が向上する。
【0032】
また、Ag、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素を担持した触媒層を上記の触媒支持体の表面に設けることもできる。即ち、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている複酸化物と、該複酸化物に担持されているAg、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素とを有する構成のパティキュレートの燃焼浄化性能とガス浄化性能に優れた排気ガス浄化用触媒とすることもできる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0034】
実施例1
金属濃度が既知の、硝酸ランタン溶液と、硝酸マンガン溶液をLaとMnとがMn/La=2となるようにそれぞれ混合し、最終的に得られるLaMnが50g/Lとなるようにイオン交換水で濃度調整したものを原料液とした。2.5%NH水溶液26.59mLと、30%過酸化水素水11.33mLを加えてイオン交換水を用いて265.9mLに調整し沈殿剤とした。その後原料液に沈殿剤を滴下し沈殿を生成し、得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、加熱して粉末を得た。
【0035】
硝酸銀0.124gに水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液とし、上記で得られた粉末を1.5g投入し、加熱して、実施例1の排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0036】
実施例2
金属濃度が既知の、硝酸ランタン溶液と、硝酸マンガン溶液を調製し、LaとMnとがMn/La=2.66(x=2.66)の割合となるようにそれぞれ混合し、最終的に得られるLaMnが50g/Lとなるようにイオン交換水で濃度調整したものを原料液とした。一方、2.5%NH水溶液32.44mLと、30%過酸化水素水15.07mLとを混合した水溶液にイオン交換水を加えて265.9mLに調製し、沈殿剤とした。
【0037】
その後、原料溶液に沈殿剤を滴下し、沈殿を生成し、沈殿物をろ過し、洗浄した後、加熱して粉末を得た。
【0038】
硝酸銀0.124gにイオン交換水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液としたものに、上記粉末を1.5g投入し、加熱して実施例2の排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0039】
比較例1
金属濃度が既知の、硝酸ランタン溶液と、硝酸マンガン溶液をLaとMnとがMn/La=1となるように混合し、最終的に得られるLaMnOが50g/Lとなるようにイオン交換水で濃度調整したものを原料液とした。2.5%NH水溶液15.43mLと、30%過酸化水素水6.53mLを加えて265.9mLに調整し沈殿剤とした。その後原料液に沈殿剤を滴下し沈殿を生成し、得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、加熱して粉末を得た。
【0040】
硝酸銀0.124gにイオン交換水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液としたものに、上記粉末を1.5g投入し、加熱して実施例2の排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0041】
<XRD測定>
実施例1、2および比較例1の排ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った後のXRDパターンを図1に示す。
【0042】
この結果、酸化マンガンが見られないことから実施例1の排ガス浄化用触媒は、結晶性のLaMnOとアモルファス成分のLaMnが含まれていると考えられる。また、Mn/La比が2.66の実施例2では、DyMn構造をとることがわかった。
【0043】
また、図2に示す通り実施例2では、過剰分のMnに起因するピークが観察されず、且つDyMn構造に起因するピークがシフトしていることから、過剰分のMnはすべて結晶に固溶していることが確認された。
【0044】
さらに、図3に示す通り実施例2では、Agに帰属されるピークが同一量のAg量である比較例1のピークに比較して小さくなっていることも確認されており、これから、Agの少なくとも一部が結晶に固溶していると判断される。
【0045】
<固定床模擬ガス浄化性能評価試験>
実施例1、2および比較例1の排ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った後の排気ガス浄化用触媒の触媒活性を以下のようにして評価した。
【0046】
まず、固定床流通型反応装置を用い、反応管に触媒粉を0.1gセットし、下記表2の組成から成る模擬排気ガスを1L/minで流通させ、500℃まで昇温後10分間保持し、前処理を行った。その後、一旦冷却後、100℃〜500℃まで10℃/minで昇温し、100〜500℃における出口ガス成分をCO/HC/NO分析計を用いて測定した。得られた浄化性能評価結果より、CO及びHCの50%浄化率に到達する温度(T50)及び400℃におけるNOの浄化率を求めた。その結果は表1に示す通りであった。なお、浄化されたNOのほとんどはNOに転化していることがわかった。
【0047】
表1に、耐久処理後の比表面積(BET法で測定)をあわせて示す。
【0048】
<硫黄被毒試験後の固定床模擬ガス浄化性能評価試験>
実施例1、2の排ガス浄化用触媒を、SO200ppm、O10%、HO7%、N残部の混合ガスを1L/minで導入する雰囲気で、10℃/minで250℃まで昇温後、250℃で20時間保持することで硫黄被毒した後、上述した固定床模擬ガス浄化性能評価試験と同様な試験を行った。
【0049】
この結果も表1に併せて示す。
【0050】
これらの結果、実施例1、2の排気ガス浄化用触媒は、比較例1と比較して触媒活性が高いことがわかった。また、Mnが過剰な実施例2の排気ガス浄化用触媒は、実施例1と比較してさらに触媒活性が高いことがわかった。
【0051】
また、硫黄被毒試験後の浄化性能に関しては、Mn/La比が2の実施例1と比較して、Mn/La比が2.66の実施例2の方が、硫黄被毒による触媒性能の低下が小さく、硫黄被毒性耐性に優れることがわかった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
図3
図1
図2