(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、
前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、
前記スリーブ内に固定されたボールナットと、
該ボールナットの雌螺子部と螺合するボールねじと、
強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールねじと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、
前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、
前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する電磁石を備えた磁場形成手段と、
前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、
前記フライホイールと一体回転する界磁又は電機子からなる回転子、及び該回転子と同心状に配置された電機子又は界磁からなる固定子を有する発電機と、
前記発電機が発電した電力を蓄電する蓄電池と、を備え、
前記発電機の発電量が所定のしきい値未満の場合には前記発電機が発電した電力を前記蓄電池に蓄電し、前記発電機の発電量が所定のしきい値以上の場合には前記発電機が発電した電力を前記電磁石に供給することを特徴とする減衰装置。
先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、
前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、
前記スリーブ内に固定されたボールねじと、
該ボールねじの雄螺子部と螺合するボールナットと、
強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールナットと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、
前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、
前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する電磁石を備えた磁場形成手段と、
前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、
前記フライホイールと一体回転する界磁又は電機子からなる回転子、及び該回転子と同心状に配置された電機子又は界磁からなる固定子を有する発電機と、
前記発電機が発電した電力を蓄電する蓄電池と、を備え、
前記発電機の発電量が所定のしきい値未満の場合には前記発電機が発電した電力を前記蓄電池に蓄電し、前記発電機の発電量が所定のしきい値以上の場合には前記発電機が発電した電力を前記電磁石に供給することを特徴とする減衰装置。
前記制御手段が、定期的に前記減衰装置の磁場形成手段を駆動して前記密閉領域に磁場を形成させることを特徴とする請求項9乃至12の何れか一項に記載の構造物の制振装置。
【背景技術】
【0002】
建築構造物や各種機械装置における振動の伝達を抑制する装置として、物体の慣性を利用した制振装置が提案されている。このような制振装置として、小型化を図るために直線運動をフライホイールの回転運動に変換する機構を用い、回転するフライホイールの慣性モーメントを制振に利用するものがある。
特許文献1及び特許文献2には、ボールねじとボールナットとを使用して直線運動を回転運動に変換して、ケース内に配置したフライホイールを回転させるとともに、このフライホイールとケースとの間に例えば合成ゴム等の粘性体を配置したものが記載されている(段落0060、
図6参照)。
このような制振装置によれば、ボールねじとボールナットとの組合せによって、微少な並進運動を増幅してフライホイールを高速で回転させて、このフライホイールの慣性モーメントと、フライホイールとケースとの間の粘性抵抗とを制振に利用することができる。
【0003】
また、
減衰装置として、磁気粘性流体(MR流体)の粘性や摩擦を
減衰に利用したものが提案されている。特許文献3には、磁気粘性流体を使用した
減衰装置が記載されている。
図13は従来の
減衰装置の概略構成を示す断面図である。
減衰装置210は、磁気粘性流体211を満たしたシリンダー212と、シリンダー212内に挿通されて軸方向へ進退自在に支持されたピストンロッド213と、ピストンロッド213の中間部適所に固定されシリンダー212内を仕切るピストン214と、シリンダー212の下部に設けられたバイパス管215と、バイパス管215の軸方向に沿って配置された電磁石等の磁界形成手段216と、を備える。シリンダー212の端部とピストンロッド213の端部には夫々取付部212a、213aが設けられ、各取付部は例えば建造物の異なった部位に取り付けられる。
建造物が地震等によって振動した場合、ピストン214がシリンダー内を軸方向へ移動することにより磁気粘性流体211を付勢し、磁気粘性流体がバイパス管215内を流動する。この際、磁気粘性流体211の磁性体粒子が磁界形成手段216の磁界を受けて鎖状につながることにより磁気粘性流体211の流れに抵抗を生じさせて、前記振動を減衰させる。
このような
減衰装置210によれば、磁界形成手段である電磁石への電流を制御することにより、磁気粘性流体211による減衰特性を調整し、
減衰装置210の
減衰特性を変化させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に記載の制振装置は、加振源からの振動力の伝達と共振振幅とを回転モーメント及び粘性抵抗で抑制し、生じた振動の減衰を早めることができるものの、その減衰特性は一定である。このため、このような
制振装置は、多様な振動特性を有する地震や、複雑な構造物の挙動に柔軟に対応して、効果的な減衰特性を発揮することが難しい。
また、特許文献3に記載の
減衰装置は、磁界形成手段である電磁石に電力を供給するための外部電源が必要である。しかし、災害や事故などにより外部電源を喪失した場合には磁界を形成することができないため、磁気粘性流体による振動の減衰を早める効果が著しく低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型でかつ加えられた振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体による調整可能な抵抗力とで減衰でき、更に外部電源が存在しなくても
磁気粘性流体がその機能を発揮できる減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、前記スリーブ内に固定されたボールナットと、該ボールナットの雌螺子部と螺合するボールねじと、強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールねじと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する電磁石を備えた磁場形成手段と、前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と
、前記フライホイールと一体回転する界磁又は電機子からなる回転子、及び該回転子と同心状に配置された電機子又は界磁からなる固定子を有する発電機と、
前記発電機が発電した電力を蓄電する蓄電池と、を備え、
前記発電機の発電量が所定のしきい値未満の場合には前記発電機が発電した電力を前記蓄電池に蓄電し、前記発電機の発電量が所定のしきい値以上の場合には前記発電機が発電した電力を
前記電磁石に供給することを特徴とする減衰装置である。
【0008】
請求項2の発明は、先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、前記スリーブ内に固定されたボールねじと、該ボールねじの雄螺子部と螺合するボールナットと、強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールナットと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する電磁石を備えた磁場形成手段と、前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と
、前記フライホイールと一体回転する界磁又は電機子からなる回転子、及び該回転子と同心状に配置された電機子又は界磁からなる固定子を有する発電機と、
前記発電機が発電した電力を蓄電する蓄電池と、を備え、
前記発電機の発電量が所定のしきい値未満の場合には前記発電機が発電した電力を前記蓄電池に蓄電し、前記発電機の発電量が所定のしきい値以上の場合には前記発電機が発電した電力を
前記電磁石に供給することを特徴とする減衰装置である。
【0009】
請求項1及び請求項2に記載の減衰装置では、加振に起因するスリーブの直線運動は、ボールナット及びボールねじで回転運動に変換され、フライホイールを高速に回転させる。この回転運動を利用して発電機により発電する。また、フライホイール外周と第2のシリンダー内壁との間の密閉領域に配置された
磁気粘性流体は、磁場形成手段がフライホイールを磁気回路の一部として密閉領域を横切るように形成した磁場で粘性を備える。このため、減衰装置は、振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体でフライホイールに加えられる粘性抵抗により減衰する。
このとき、発電機が発電した電力を磁場形成手段の電磁石に供給することにより、磁場の大きさ、即ち磁気粘性流体による抵抗を調整できる。また、磁場は強磁性体であるフライホイールを磁気回路の一部として形成され、密閉領域を横切る。このため、密閉領域中の
磁気粘性流体の
磁性体粒子は、フライホイールと第2のシリンダーとの間で鎖状に連結し、この鎖状の
磁性体粒子がフライホイールの回転によるせん断を受けフライホイールに粘性抵抗力を与える。
【0010】
請求項3の発明は、前記電磁石に電力を供給する商用電源を備え、該商用電源が停止した場合に前記発電機が発電した電力を前記電磁石に供給することを特徴とする。本発明によれば、商用電源が停止した場合であっても減衰装置の抵抗を調整できる。
請求項
4の発明は、前記第2シリンダーの他端部及び前記スリーブが、外部部材に連結される連結部を備えることを特徴とする。本発明によれば、減衰装置を構造物に配置するに際して、構造物を構成する構造部材を容易に取り付けることができ、構造物の制振を図ることができる。
請求項
5の発明は、前記磁場形成手段が、永久磁石を備えて構成されることを特徴とする。本発明によれば、電磁石に加える電流を制御することにより、磁気粘性流体の粘性を調整することができ、これによりフライホイールに加わる抵抗力の大きさを制御でき、減衰装置の減衰特性を、振動特性及び制振対象に最適なものとできるとともに、永久磁石で磁気粘性流体の磁性体粒子を常時鎖状としてその沈殿を防止することができる。
【0011】
請求項
6の発明は、減衰装置において、前記磁場形成手段が、前記第2のシリンダーを磁気回路の一部として、前記密閉領域を横切る磁場を形成することを特徴とする。本発明によれば、磁場形成手段は磁気回路の一部として第2のシリンダーを使用でき、磁場形成のための構成部材の点数を減少でき、磁場形成手段の構成を簡単なものとすることができる。
請求項
7の発明は、前記密閉領域における前記第2のシリンダーの内壁と、前記フライホイールの外周面との間の寸法が、当該減衰装置の使用時における定常振動に起因する
前記フライホイールの回転によって、封入された磁気粘性流体を沈殿させない程度に攪拌するのに適した寸法であることを特徴とする。本発明によれば、減衰装置を構造物に配置したとき、常時は構造物の定常振動によるフライホイールの回転で磁気粘性流体が沈殿せず、突然の加振に対しても減衰装置は所定の性能を発揮することができる。
【0012】
請求項
8の発明は、前記磁場形成手段の磁力を調整する制御手段を備えたことを特徴とする。本発明によれば、制御手段によって磁場形成手段の磁力を調整して、磁気粘性流体がフライホイールに与える抵抗力を変更して、減衰装置の特性を調整することにより、減衰装置の減衰特性を、振動特性及び制振対象に最適なものとできる
。
【0013】
請求項9の発明は、構造物の構造部材の間に取り付けられた減衰装置と、該減衰装置の磁場形成手段の磁力を調整する制御手段とを備えることを特徴とする構造物の制振装置である。本発明によれば、制御手段によって磁場形成手段の磁力を調整して、磁気粘性流体がフライホイールに与える抵抗力を変更して、減衰装置の特性を調整することにより、構造物や構造物の振動の特性に応じた最適なものとすることができる。
【0014】
請求項10の発明は、前記建築物の構造部材に配置され、構造部材の振動の状態を検知する加速度計を備え、前記
制御手段が、前記加速度計の検出値に基づいて前記磁場形成手段を制御することを特徴とする。本発明によれば、制御手段は、加速度計が検出した構造部材の振動を減衰させるのに最適な減衰力を発揮するよう減衰装置の磁場形成手段を制御し、構造物の振動を効果的に減衰させることができる。
請求項11の発明は、前記加速度計が、前記減衰装置に対応して配置され、前記制御手段が、前記各減衰装置の磁場形成手段を対応する加速度計の検出値に基づいて制御することを特徴とする。本発明によれば、制御
手段は、各減衰装置に対応した加速度計の検出値に基づいて最適な制御を行うことができ、構造物の振動を効果的に減衰させることができる。
【0015】
請求項12の発明は、前記制御手段が、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することを特徴とする。本発明によれば、外部の地震情報に基づいて減衰装置を動作させることができ、構造物を地震波到来する以前から構造物の振動を減衰させる状態とすることができ、初期振動に対しても効果的な減衰効果を得ることができる。
請求項13の発明は、前記制御手段が、定期的に前記減衰装置の磁場形成手段を駆動して前記密閉領域に磁場を形成させることを特徴とする。本発明によれば、制御手段が磁気粘性流体の定期的に磁場形成手段を駆動するので、磁気粘性流体の磁性体粒子を鎖状としてその沈殿を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る減衰装置によれば、小型でかつ外部から加えられた振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体による調整可能な抵抗力とで所望の特性で減衰でき、更に外部電源が存在しなくても
磁気粘性流体が所定の機能を発揮する。
また、本発明に係る構造物の制振装置によれば、構造物に配置した減衰装置の減衰特性を当該構造物の特性や加振特性に応じてリアルタイムで調整することができ、構造物及び加振特性に適した制振を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態に係る減衰装置を図面に基づいて説明する。以下幾つかの例について説明するが、本発明は各実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びその趣旨の範囲内で、多様な改良、変更、変形、置換が可能である。
【0019】
図1は本発明の一つの実施形態に係る減衰装置の断面図、
図2は同じく減衰装置の一部を切り欠いて示した斜視図である。
減衰装置1は、第1のシリンダー10、第2のシリンダー20、及び第3のシリンダー30から構成されるケーシング35と、第1のシリンダー10内に配置されるスリーブ40と、第2のシリンダー20内に配置されるフライホイール50と、第2のシリンダー20内に配置される磁場形成手段60と、第3のシリンダー30内に配置される発電機32と、を概略備える。
【0020】
第1のシリンダー10は、先端(
図1中左方)に先端開口部11を有しかつ他端(同右方)に連通開口部12を有した軸方向貫通穴13を備える円筒形部材である。また、第2のシリンダー20は、第1のシリンダー10の連通開口部12に一端の開口部21を連通させた状態で、第1のシリンダー10の他端部に同一軸心状に固定された中空の部材である。第2のシリンダー20の他端には、連通開口部29を有する。第3のシリンダー30は、第2のシリンダー20の連通開口部29に一端の開口部31を連通させた状態で、第2のシリンダー20の他端部に同一軸心状に固定された中空の部材である。第3のシリンダー30の他端部には、蓋部材22を備え、蓋部材22には、本減衰装置1を設置する構造物等に接続するためのユニバーサルジョイント23が取付られている。ケーシング35は例えば鋼材で一体に構成される。
第1のシリンダー10の軸方向貫通穴13内には、先端開口部11側から先端部を突出させた中空のスリーブ40が軸方向へ進退自在に配置される。スリーブ40は、第1のシリンダー10の軸方向貫通穴13内に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持されている。即ち、スリーブ40は、第1のシリンダー10内に配置されたブッシュ14により外周面を支持されることにより、第1のシリンダー10内を軸方向に進退動可能に支持されるとともに、キー15によって回転ができないように支持される。
【0021】
スリーブ40の先端(図中左方)には、本減衰装置1を設置する構造物等に接続するための取付部材41が固着される。また、スリーブ40の他端部(同右方)の内部にはボールナット42が固着され、ボールナット42には、その雌螺子部と螺合するボールねじ43が挿通されている。ボールねじ43とボールナット42は、減衰装置1を設置した構造物等から加わる振動、衝撃によって、第1のシリンダー10とスリーブ40とが相対的に軸方向移動した時に、この直進運動を高い効率でボールねじ43の回転運動に変換する機能を有する。
ボールねじ43の他端部には、ボールねじ43と同軸に回転軸部材44が連結されている。回転軸部材44は、第2のシリンダー20内部に延長して設けられ、第2のシリンダー20の端部フランジ26(第1のシリンダー
10との境界部)の内周に配置されたベアリング24によって回転可能に軸支される。
回転軸部材44には、フライホイール50の軸心部が固定されている。これにより、フライホイール50は、ボールねじ43の回転に伴って一体的に第2のシリンダー20内で回転する。フライホイール50は、鋼鉄などの強磁性体で構成されており、両端に端部小径部51、52を形成した円柱形状部材である。減衰装置1では、フライホイール50の慣性モーメントによりユニバーサルジョイント23と取付部材41との間に負荷される振動の減衰を行う。なお、
図1中符号27は、フライホイール
50の組み付け用のナットを示している。
【0022】
また、第2のシリンダー20の内壁とフライホイール50
の外周との隙間には、密閉領域46が形成される。密閉領域46は、フライホイール50の端部小径部51、52と第2のシリンダー20との間にシール部材47、48を配置して形成される。即ち、一方のシール部材47は、第2のシリンダー20内部に設けた内フランジ部28の内周とフライホイール50の端部小径部51との間に配置され、他のシール部材48は蓋部材22とフライホイール50の他の端部小径部52との間に配置される。また、密閉領域46を形成する第2のシリンダー20の内周壁と、フライホイール50の外周壁とは可能な限り近接するよう構成される。このため、密閉領域46の容積は小さいものとなる。なお、シール部材48及び端部小径部52により、第2のシリンダー20は、端部(図中右側)において閉塞された状態となっている。
【0023】
密閉領域46には、磁気粘性流体49が満たされる。磁気粘性流体(MR流体)は、ベースオイル中に磁性体粒子を混入したものであり、磁場を受けると磁性体粒子が鎖状につながり、せん断変形を受けたり流れを生じた場合に、抵抗力を発生させるものである。この抵抗力の大きさは与える磁場の大きさにより変化し、ある程度までは強い磁場をかければかけるほど上昇する。減衰装置1では、密閉領域46の容積は小さいものであるから、封入される磁気粘性流体49はシリンダー内に磁気粘性流体を封入する従来タイプのものに比べて少量でよい。
また、第2のシリンダー20の内壁には、磁場形成手段60が配置される。磁場形成手段60は、第2のシリンダー20及びフライホイール50を磁気回路の一部として密閉領域46を横切る磁場Mを形成する電磁石である。減衰装置1では、この磁場Mにより密閉領域46内の磁気粘性流体49がフライホイール50に磁気粘性流体49のせん断による抵抗を付与するようにしている。
【0024】
回転軸部材44の他端部には、回転軸部材44と同軸に発電機回転軸33(回転体)が連結されている。発電機回転軸33と回転軸部材44とは、ジョイントにより相対回転不能に連結されている。
発電機32は、発電機回転軸33と一体に回転する複数の永久磁石を有する回転子(界磁)と、回転子の外周に非接触に設けられた複数のコイルを有し、回転子に対して同心状に配置された固定子(電機子)とを備える。
発電機32は、発電機回転軸33と一体に回転し、回転子に設けられた複数の永久磁石が回転することで、回転磁場を形成し、回転子の外周に非接触に設けられた複数のコイルを通過する磁束が回転子の回転に応じて変化するので、交流電力が発生する。
図示する発電機32は直流発電機(DCモータ)であり、発電した交流電力をダイオードブリッジによって全波整流し、コンデンサを用いて平滑化を行った直流電力を出力する。この直流電力は、磁場形成手段60に供給される。即ち、後述する磁場形成手段60のコイル61(
図3参照)の一端に発電機32のプラス端子が接続され、他端に発電機32のグランド端子が接続される。
なお発電機32は、電機子を回転子とし、界磁を固定子としたものでもよい。
【0025】
次に磁場形成手段60について説明する。
図3は実施形態に係る減衰装置の要部を拡大して示す断面図である。磁場形成手段60は、第2のシリンダー20の内周に配置された複数、例えば4つ並設されたコイル61と、各コイル61の両端に夫々配置され、磁力線を誘導するフェライト材等のヨーク部材62と、コイル61の内径側、かつヨーク部材62の間に配置され、磁力線が通過できない例えばステンレススチール製の非磁性部材63と、ヨーク部材62と非磁性部材63との間で磁気粘性流体をシールするシール部材64とを備えている。
磁場形成手段60において、各コイル61は、各コイル61への通電時に隣接する磁場Mの向きが互いに一致するよう構成されるとともに、第2のシリンダー20及び磁場形成手段60を磁気回路の一部として磁力線が通過する。このため、磁場形成手段60で密閉領域46を横切る磁場Mを形成するに際して構成部材の点数を減じることができる。また磁力線は、密閉領域46以外は強磁性体から成る部材内を通るように構成されるので、密閉領域46を横切る磁場Mを高い効率で形成することができ、少ない電力消費量で強力な磁場を形成することができる。更に、この例では、第2のシリンダー20の内周面
、即ち磁場形成手段60とフライホイール50の外周面とを接近して配置しているので、磁場Mをより効率的に密閉領域46内に形成できる。また、磁気粘性流体49による抵抗は、磁気粘性流体
49の層の厚さが小さいほど大きくなるので、フライホイール50により大きな抵抗を与えることができる。
【0026】
この減衰装置1において、両端の取付部材41とユニバーサルジョイント23とに振動が加わると、この振動の直線運動成分(ボールねじ43の軸方向に沿った運動成分)は、ボールナット42とボールねじ43で効率良く回転運動に変換されてフライホイール50及び発電機回転軸33を回転させる。この回転運動により発電機32が発電した直流電力は、磁場形成手段60のコイル61に供給される。即ち、磁場形成手段60に必要な電力の全てを発電機32が発電した電力によって賄う。磁場形成手段60のコイル61に電流が流れると、密閉領域46内の磁気粘性流体49を磁場Mが横切って磁気粘性流体49の磁性体粒子が磁場形成手段60とフライホイール50との間でつながり、フライホイール50の回転で磁性
体粒子の鎖がせん断され、フライホイール50に抵抗を与える。
従って、減衰装置1に加えられる振動は、フライホイール50の慣性モーメントと、フライホイール50の回転に対する磁気粘性流体の抵抗により効果的に減衰される。フライホイール50の磁気粘性流体による抵抗は、磁場形成手段60のコイル61に印加される電流の変化に応じて変化する。本実施形態では、減衰装置1に加えられる振動が大きいほど発電機32が発電する電力が大きくなり、コイル61に印加される電流が大きくなるので、振動の大きさに応じた減衰力を得ることができる。
【0027】
このように発電機32を、磁場形成手段60を構成する電磁石の電源に利用することで、外部電源を必要とせずに磁場を発生させ、磁気粘性流体
49に粘性を付与することができる。従って、減衰装置1の加振中は、磁気粘性流体49による振動の減衰を早める効果を維持することができる。このように、シンプルな構成で効率よく振動を減衰させることができる。
なお、発電機32が発電する電力量の増大に伴うコイル61の焼損を防止するために、発電機32とコイル61との間に過電流保護装置としての定電流回路を配置してもよい。
また、磁場形成手段60のコイル61に供給する電流の大きさは、発電機32の発電容量(発電能力)によっても変えることができる。従って、発電機32の発電容量に基づいて、磁気粘性流体49に作用する磁場の強さを変化させ、フライホイール50が受けるせん断流れの抵抗力を任意に設定して減衰力を調整することができる。
さらに、大きな減衰力を得るためにコイル61の数を増やした場合も、それに応じた発電容量の発電機32を選定する必要がある。磁場の形成に必要な電力と発電機32の発電容量との関係については、使用条件によって異なるので、実験などにより求める。
【0028】
なお、減衰装置1において、密閉領域46における第2のシリンダー20の内壁に配置した磁場形成手段60とフライホイール50の外周面との間の寸法は、減衰装置1の使用時における定常振動に起因するフライホイール
50の回転によって、封入された磁気粘性流体
49を沈殿が生じない程度に攪拌するのに十分な程度に小さい寸法であることが望ましい。例えば減衰装置1を建築物などの構造物に使用するときには、建築物に常時加わる車両の通行振動で減衰装置1のフライホイール50が微小回転する。フライホイール50の微小回転で密閉領域46内の磁気粘性流体49が攪拌され、沈殿していた磁性体粒子がベースオイルに混ざり、
磁気粘性流体
49の性能を発揮できるようになる。フライホイール50と磁場形成手段60との間隔寸法は、実際に使用する建物などの条件により異なるので、実験などにより定める。
【0029】
次に本発明の実施の形態に係る他の減衰装置について説明する。
図4は第2の実施形態に係る減衰装置の断面図である。第1の実施形態と同一部位には同一符号を付して説明する。
本実施形態に係る減衰装置71は、第1の実施形態に係る減衰装置1におけるボールナット42とボールねじ43の位置を逆にしたものである。そして、ボールナット42、ボールねじ43の位置の変化に伴う取付部材の形状等を第1の実施形態例と変更している他は第1の実施形態例と同じ構造を備える。
即ち、減衰装置71は、第1のシリンダー10と第2のシリンダー20と第3のシリンダー30とからなるケーシング35を備え、第1のシリンダー10内にスリーブ40を軸方向へ進退自在に配置している。また、スリーブ40の第2のシリンダー20側にはボールねじ43の一端部をスリーブ40と同軸に固定し、ボールねじ43の雄螺子部をボールナット42の雌螺子部内に螺合し、更にボールナット42を第2のシリンダー20内に配置されたフライホイール50の中心部に同軸状に固定している。また、第3のシリンダー30内に発電機32を配置し、発電機回転軸33をフライホイール50の中心部に同軸状に連結している。
【0030】
フライホイール50の軸方向両端外周と第2のシリンダー20との間に夫々ベアリング72、73、及びシール部材74、75を配置して、フライホイール50を第2のシリンダー
20によって回転自在に保持するとともに、第2のシリンダー20内壁とフライホイール50外周との間に密閉領域46を形成している。なお、第2のシリンダー20の他端部は蓋部材22で閉塞されている。
第2のシリンダー20
の内周には、磁場形成手段60を配置するとともに、密閉領域46内には磁気粘性流体49を封入している。磁場形成手段60の各コイルには、発電機32が発電した電力を供給する。
第2の実施形態に係る減衰装置71は、ボールナット42とボールねじ43の位置を交換しただけであるので、第1の実施形態に係る減衰装置1と同じ作用及び効果を有する。
【0031】
次に第3の実施の形態に係る減衰装置について説明する。
図5は第3の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置81は、発電機32と磁場形成手段60との間に制御手段82を備えた他は、第1の実施形態例に係るものと同じ構成を備える。
制御手段82は、発電機32が発電する電力量に基づいて、減衰装置81の磁場形成手段60に印加する電流を調整して減衰状態を制御する。例えば、発電機32による発電量が所定のしきい値以上の場合には、発電量に応じた電力を磁場形成手段60に供給し、発電量が所定のしきい値未満の場合には磁場形成手段60に電力を供給しない構成とすることができる。
このように制御手段82が、磁場形成手段60のコイルに印加する電流を変更することによってフライホイール50の磁気粘性流体による抵抗を調整できるので、減衰装置
81の減衰特性を所望のものに設定できる。
【0032】
次に第4の実施形態に係る減衰装置について説明する。
図6は第4の実施形態に係る減衰装置の断面図である。
図7は、制御手段の回路構成の一例を示す図である。減衰装置91は、発電機32が発電した電力を一時的に蓄電する蓄電池92を備えた他は、上述した第3の実施形態例と同じ構造を備える。
制御手段82は、
図7に示すように、発電機32が発電する電圧値に応じてON/OFFするコンパレータと、コンパレータがONしたときにONし、コンパレータがOFFしたときにOFFする第1スイッチ素子84及び第2スイッチ素子85と、を備える。なお、符号86、87は、逆流防止用のダイオードである。第1スイッチ素子84は、発電機32からの電力をコイル61に供給するか否かを決定するスイッチであり、第2スイッチ素子85は、蓄電池92からの電力をコイル61に供給するか否かを決定するスイッチである。
制御手段82は、発電機32が発電した電力が所定のしきい値未満の場合にはコンパレータ83がOFFしているので、第1スイッチ素子84及び第2スイッチ素子85がOFF状態となり、発電機32が発電した全ての電力がダイオード87を介して蓄電池92に供給される。また、発電機32が発電した電力が所定のしきい値以上の場合にはコンパレータ83がONするので、第1スイッチ素子84がONし、発電機32が発電した電力を磁場形成手段60のコイル61へ供給する。さらにコンパレータ83のONにより第2スイッチ素子85がONし、蓄電池92の電力を磁場形成手段60のコイル61へ供給する。
例えば減衰装置91を建築物などの構造物に使用した場合、建築物に常時加わる車両の通行振動でフライホイール50が微小回転する。このような場合には、必ずしも磁場形成手段60に電流を印加して制震する必要はないから、発電機32が発電した全ての電力を蓄電池92に供給しても構わない。
他方、建築物に大きな振動が加わった場合には、迅速に振動を減衰させる必要がある。このような場合、フライホイール50の回転により発電機32が発電した電力のみでは、制震に十分な電流を磁場形成手段60に印加することができない虞がある。このような場合には、蓄電池92を放電させることで、発電機32の発電容量を超えた電力を磁場形成手段60に印加することができ、迅速に振動を減衰させることができる。
【0033】
次に第5の実施形態に係る減衰装置について説明する。
図8は第5の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置101は、磁場形成手段102を永久磁石103とコイル104とから構成したものであり、他の構造は、上述した第1の実施形態例と同じである。減衰装置101において、磁場形成手段102を構成する永久磁石103はリング状であり、コイル104の内側に配置される。永久磁石103は、常時密閉領域46を横切る磁場を常時形成する。このため磁気粘性流体の磁性体粒子が鎖状となり、その沈殿を防止できる。また、減衰装置101では、コイル104に流す電流を調整することにより磁場形成手段102全体での磁場Mの強さを調整し、フライホイール50に加わる粘性抵抗を調整することができる。このため、制振対象に最適な制振特性を得ることができる。
図
8は、永久磁石103とコイル104とを、フライホイール50の回転軸の方向に並べた例であるが、永久磁石103とコイル104とをフライホイール50の径方向に並べて配置することで、永久磁石103の磁束をコイル104が発生させる磁束が強めるように、又は弱めるように(相殺するように)配置しても良い。
【0034】
次に本発明に係る減衰装置を使用した構造物の制振装置の実施形態例について説明する。
図9は発明の実施形態に係る構造物の制振装置を示す模式図である。この例は、建築物140に前述した第1、第2又は第5の実施形態例に係る減衰装置を設置し、制御手段121で制御するようにしたものである。なお、制御手段121は、複数の減衰装置を制御する点以外は、第3及び第4の実施形態に示した制御手段と同等の手段である。
この実施形態に係る構造物の制振装置は、地盤141、構造部材142、143に減衰装置111、112、113の一端を接続し、減衰装置111、112、113の他端を連結部材145、146、147、148、149、150に接続している。また、地盤141、構造部材142、143、144に加速度計131、132、133、134を配置し、加速度計131、132、133、134の検出値に基づいて制御手段121が減衰装置111、112、113の磁場形成手段に印加する電流を調整して減衰状態を制御する。
更に、制御手段121には、第4の実施形態に示した蓄電池を接続した構成としてもよい。また、制御手段121には商用電源を接続し、商用電源が正常なときには商用電源から制御手段121に電力を供給し、商用電源が停止したときには減衰装置111、112、113の発電機が発電した電力及び蓄電池が放電する電力を制御手段121に供給するようにしてもよい。
【0035】
この例では、加速度計131、132、133、134で検出した地盤141及び構造部材142、143、144の応答状態に基づいて、減衰装置111、112、113の減衰力を変更し、建物全体としての制振を図ることができる。
なお、減衰装置や加速度計をどのように建築物に配置するかは、適宜変更することができる。
図10乃至
図12は構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。なお、各例では、各減衰値装置は、前記例と同様に、建築物に配置した加速度計の検出値に基づいて制御手段で制御される。
【0036】
図10に示す例では、減衰装置161、162、163を建築物170の各フロアを構成する地盤171、構造部材172、173、174に対して筋交い状に配置している。
また、
図11に示す例では、減衰装置181、182、183により、建築物184の各フロアの構造部材185、186、187と、建築物188の各フロアの構造部材189、190、191をそれぞれ連結している。
更に、
図12に示す例は、建物200の免震構造に減衰装置201を使用したものである。この例では、構造物の制振装置として建物200と地盤204との間に積層ゴムアイソレータ202、203を配置し、地盤204と建物200の最下層を構成する構造部材205との間に減衰装置201を配置している。
【0037】
上記各例では、制御手段121は、建築物に配置した加速度計に基づいて減衰装置を制御しているが、制御手段121は、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することができる。これにより、あらかじめ得られる外部の地震情報に基づいて減衰装置の動作を開始し、構造物を地震波到来の以前から振動を減衰させる状態とでき、初期振動に対して効果的な減衰効果を得ることができる。
また、本発明では、実施形態例の制御手段が、定期的に磁場形成手段を駆動して減衰装置の密閉領域に磁場を形成させることができる。これにより、磁場形成手段を駆動させ磁気粘性流体の磁性体粒子を鎖状としてその沈殿を防止することができ、突発的に加えられる地震振動に対して制振装置がその制振性能を発揮できる。