特許第5925839号(P5925839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925839
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20160516BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   H01T13/20 C
   F02P13/00 301J
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-110755(P2014-110755)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2015-225793(P2015-225793A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100096817
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 和浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治樹
(72)【発明者】
【氏名】黒野 啓一
(72)【発明者】
【氏名】本田 稔貴
【審査官】 高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−151735(JP,A)
【文献】 米国特許第3882341(US,A)
【文献】 米国特許第4186712(US,A)
【文献】 国際公開第2014/060162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/00−13/60
H01C 7/22
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の一端側で保持される中心電極と、前記軸孔の他端側で保持される端子金具と、前記軸孔内で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する電気的接続部と、前記絶縁体を収容する主体金具と、を備えたスパークプラグにおいて、
前記電気的接続部は、螺旋構造部分を有する金属線とセラミックス相とを含む導電体を有し、
前記金属線は、線径が0.1mm以上0.5mm以下であり、
前記金属線の前記螺旋構造部分は、外径が1.0mm以上3mm以下、ピッチが0.3mm以上1mm以下、高さが8mm以上30mm以下である、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
前記金属線が、Zn,Fe,Ni,Ag,Cr,Sn,Cuの一種以上の元素を含む金属又は合金である、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスパークプラグであって、
前記セラミックス相は、アルカリ金属の酸化物と、Si,B,Pの一種以上の元素の酸化物とを含有するアルカリ含有相を含む、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項4】
請求項3に記載のスパークプラグであって、
前記セラミックス相における前記アルカリ金属の含有割合が、酸化物換算で0.1重量%以上6.5重量%以下の範囲にある、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記セラミックス相は、Fe含有酸化物を含む、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項6】
請求項5に記載のスパークプラグであって、
前記Fe含有酸化物は、フェライトを含む、ことを特徴とするスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に使用されるスパークプラグは、一般に、筒状の主体金具と、この主体金具の内孔に配置される筒状の絶縁体と、この絶縁体の先端側軸孔に配置される中心電極と、他端側軸孔に配置される端子金具と、主体金具の先端側に一端が接合され、他端が中心電極と対向して火花放電間隙を形成する接地電極とを備える。さらに、エンジンの動作に伴って発生する電波ノイズを防止することを目的として、軸孔内における中心電極と端子金具との間に抵抗体が設けられたスパークプラグも知られている。
【0003】
近年では、内燃機関の高出力化に伴って、スパークプラグの放電電圧の上昇が要求されている。スパークプラグの放電電圧が上昇すると、放電時に発生する高周波ノイズが大きくなり、車両の電子制御装置に悪影響を与えることが懸念されている。このため、スパークプラグの高周波ノイズを低減させたいという要望がある。
【0004】
スパークプラグの放電時の高周波ノイズを低減させるために、従来から各種の技術が提案されている。例えば、特許文献1では、点火プラグの内部を貫通する導体の周囲を取り囲むように、円筒状のフェライトで形成されたノイズ低減部材を設けた構成が提案されている。また、特許文献2では、点火プラグの内部に巻線を設けた構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−159475号公報
【特許文献2】特開平02−284374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らは、軸孔内において中心電極と端子金具との間を電気的に接続する導電部材の材質や形状について、高周波ノイズを低減するために更なる工夫の余地があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の一端側で保持される中心電極と、前記軸孔の他端側で保持される端子金具と、前記軸孔内で前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続する電気的接続部と、前記絶縁体を収容する主体金具と、を備えたスパークプラグが提供される。前記電気的接続部は、螺旋構造部分を有する金属線とセラミックス相とを含む導電体を有し、前記金属線は、線径が0.1mm以上0.5mm以下であり、前記金属線の前記螺旋構造部分は、外径が1.0mm以上3mm以下、ピッチが0.3mm以上1mm以下、高さが8mm以上30mm以下である、ことを特徴とする。
このスパークプラグによれば、金属線が螺旋構造部分を有するのでインダクタンス成分としてのノイズ低減効果を有しており、かつ、印刷された電極や、金属粉末、炭素粉末などと比較して経時的にノイズ低減効果が低下してゆく心配が無い。また、金属線のみでは振動などにより断線を発生する可能性があるのに対して、セラミックス相によって金属線が固定されるので断線の可能性を低減できる。金属線の線径を0.1mm以上にすれば断線を発生し難くすることができる。一方、金属線の線径が0.5mmより大きな場合には金属線の表面に酸化被膜が生成された時に線材同士が接触を起こす可能性が高くなるのでインダクタンス成分としてのノイズ低減効果が十分得られない可能性がある。螺旋構造部分の外径を1.0mm以上にすれば加工がより容易となるとともにコストが低下し、また、3mm以下にすれば絶縁体の軸孔に入れることが容易である。また、螺旋構造部分のピッチを0.3mm以上とすれば、螺旋構造金属線の容量成分を十分小さくすることが可能であり、また、1mm以下とすれば十分な巻数が得られるのでインダクタンス成分としてのノイズ低減効果を十分に得られる。螺旋構造部分の高さを8mm以上とすれば、インダクタンス成分としてのノイズ低減効果を十分得ることができ、また、30mm以下とすれば作製が容易で低コストに抑えることができる。
【0009】
(2)上記スパークプラグにおいて、前記金属線が、Zn,Fe,Ni,Ag,Cr,Sn,Cuの一種以上の元素を含む金属又は合金であるものとしてもよい。
このような材質の金属線を用いるようにすれば、耐ノイズ特性が経時的に劣化することを抑制できる。
【0010】
(3)上記スパークプラグにおいて、前記セラミックス相は、アルカリ金属の酸化物と、Si,B,Pの一種以上の元素の酸化物とを含有するアルカリ含有相を含むものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、アルカリ含有相は、セラミックス相に形成され得る多数の空孔を埋めて緻密化させる機能を有するので、ノイズの低減効果を高くすることができる。
【0011】
(4)上記スパークプラグにおいて、前記セラミックス相における前記アルカリ金属の含有割合が、酸化物換算で0.1重量%以上6.5重量%以下の範囲にあるものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、アルカリ金属の含有割合を酸化物換算で0.1重量%以上とすることによって、セラミックス相の緻密化の効果を高めることができ、スパークプラグが振動をうけた際の振動によって螺旋構造金属線の断線が発生してしまう可能性を低減できる。また、アルカリ金属の含有割合を6.5重量%以下とすることにより、アルカリ金属が金属線と化学反応を起こしてノイズ減衰効果を低下させてしまう現象を抑制することができる。
【0012】
(5)上記スパークプラグにおいて、前記セラミックス相は、Fe含有酸化物を含むものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、導電体のインダクタンス成分としてのノイズ低減効果を更に高めることができる。
【0013】
(6)上記スパークプラグにおいて、前記Fe含有酸化物は、フェライトを含むものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、フェライトによってノイズ低減効果を更に高めることができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、スパークプラグ、スパークプラグの製造方法、スパークプラグの製造装置、製造システム等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態としてのスパークプラグの全体構成を示す説明図。
図2】本発明の第2実施形態としてのスパークプラグの全体構成を示す説明図。
図3】電気的接続部の形成方法を示すフローチャート。
図4】工程T120における充填処理の一例を示す説明図である。
図5A】各種サンプルの構成及びノイズ試験と振動試験の結果を示す図。
図5B】各種サンプルの構成及びノイズ試験と振動試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.スパークプラグの構成
図1は、本発明の第1実施形態としてのスパークプラグ1の全体構成を示す説明図である。図1の下側(発火部側)をスパークプラグ1の先端側と呼び、上側(端子側)を後端側と呼ぶ。このスパークプラグ1は、軸線O方向に延在する軸孔2を有する絶縁体3と、軸孔2の先端側で保持される中心電極4と、軸孔2の後端側で保持される端子金具5と、軸孔2内で中心電極4と端子金具5とを電気的に接続する電気的接続部60と、絶縁体3を収容する主体金具7と、一端が主体金具7の先端面に接合されると共に他端が中心電極4と間隙を介して対向するように配置された接地電極8とを備える。
【0017】
主体金具7は、略円筒形状を有しており、絶縁体3を収容して保持するように形成されている。主体金具7における先端方向の外周面にはネジ部9が形成されており、このネジ部9を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。
【0018】
絶縁体3は、主体金具7の内周部に滑石10及びパッキン11を介して保持されている。絶縁体3の軸孔2は、軸線Oの先端側で中心電極4を保持する小径部12と、電気的接続部60を収容し、小径部12の内径よりも内径が大きい中径部14とを有する。また、小径部12と中径部14との間に後端側に向かって拡径するテーパ状の第一段部13を有する。絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具7の先端面から突出した状態で、主体金具7に固定されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気的強度等を有する材料であることが望ましく、このような材料として、例えば、アルミナを主体とするセラミック焼結体が挙げられる。
【0019】
中心電極4は、小径部12に収容され、第一段部13に中心電極4の後端に設けられた径大のフランジ部17が係止され、先端が絶縁体3の先端面から突出した状態で主体金具7に対して絶縁保持されている。中心電極4は、熱伝導性及び機械的強度等を有する材料で形成されることが望ましく、例えば、インコネル(商標名)等のNi基合金で形成される。中心電極4の軸心部は、Cu又はAgなどの熱伝導性に優れた金属材料により形成されてもよい。
【0020】
接地電極8は、一端が主体金具7の先端面に接合され、途中で略L字に曲げられて、その先端部が中心電極4の先端部と間隙を介して対向するように形成されている。接地電極8は、中心電極4を形成する材料と同様の材料により形成される。
【0021】
中心電極4と接地電極8とが対向する面には、白金合金及びイリジウム合金等により形成される貴金属チップ29,30が設けられている。各貴金属チップ29,30の間に火花放電間隙gが形成されている。なお、中心電極4及び接地電極8の一方又は両方の貴金属チップを省略してもよい。
【0022】
端子金具5は、中心電極4と接地電極8との間で火花放電を行なうための電圧を外部から中心電極4に印加するための端子である。端子金具5の先端部20は凹凸状の表面を備え、この態様においては先端部20の外周面にローレット加工が施されている。先端部20の表面がローレット加工により形成された凹凸構造を有すると、端子金具5と電気的接続部60との密着性が良好になり、その結果、端子金具5と絶縁体3とが強固に固定される。端子金具5は、例えば、低炭素鋼等で形成され、その表面にNi金属層がメッキ等で形成されている。
【0023】
電気的接続部60は、軸孔2内で中心電極4と端子金具5との間に配置され、中心電極4と端子金具5とを電気的に接続する。電気的接続部60は、螺旋構造金属線63Lとセラミックス相63Cとを含む導電体63を有しており、この導電体63により電波ノイズの発生を防止する。電気的接続部60は、更に、導電体63と中心電極4との間に第1シール層61を、導電体63と端子金具5との間に第2シール層62を有し、第1シール層61と第2シール層62とは、絶縁体3と中心電極4、また絶縁体3と端子金具5とを封着固定している。
【0024】
第1シール層61及び第2シール層62は、ホウケイ酸ソーダガラス等のガラス粉末と、Cu、Fe等の金属粉末とを含むシール粉末を焼結して形成することができる。第1シール層61及び第2シール層62の抵抗値は、通常数100mΩ以下である。
【0025】
導電体63は、後に詳述するように、導電性の金属で形成された螺旋構造金属線63Lの周囲をセラミックス相63Cで固定した焼成体である。螺旋構造金属線63Lは、導電性の金属線材で形成される。セラミックス相63Cは、FeO,Fe,Al,及びフェライトなどの各種のセラミックス材料を焼成したものである。すなわち、導電体63は、螺旋構造金属線63Lを形成したのち、螺旋構造金属線63Lの周囲にセラミックス相63Cの材料を充填して焼結することによって形成される。螺旋構造金属線63Lとセラミックス相63Cとを含む導電体63を設けることによって、放電時の高周波ノイズを低減することができる。なお、螺旋構造金属線63Lの両端は、第1シール層61及び第2シール層62と直接接していることが好ましい。こうすれば、導電体63の抵抗値を過度に大きくすることを防止できる。
【0026】
<好ましい螺旋構造金属線63Lの構成>
螺旋構造金属線63Lを形成する金属線材としては、Zn,Fe,Ni,Ag,Cr,Sn,Cuの一種以上の元素を含む金属又は合金で形成された線材を用いることができる。特に、パーマロイ(Fe−Ni合金)や、インコネル(Ni−Cr−Fe合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)などの合金線材を用いることができる。これらの材質の螺旋構造金属線63Lを使用すれば、耐ノイズ特性が経時的に劣化しにくい点で好ましい。螺旋構造金属線63Lの線材の線径は、0.1mm以上0.5mm以下とすることが好ましい。螺旋構造金属線63Lの寸法は、螺旋構造部分の外径が1.0mm以上3mm以下、ピッチが0.3mm以上1mm以下、高さが8mm以上30mm以下とすることが好ましい。螺旋構造金属線63Lは、螺旋構造部分を有するのでインダクタンス成分としてのノイズ低減効果を有しており、かつ、印刷された電極や、金属粉末、炭素粉末などと比較して経時的にノイズ低減効果が低下してゆく心配が無い。また、金属線のみでは振動などにより断線を発生する可能性があるのに対して、セラミックス相63Cによって螺旋構造金属線63Lが固定されるので、螺旋構造金属線63Lの断線の可能性を低減できる。螺旋構造金属線63Lの線径を0.1mm以上にすれば断線を発生し難くすることができる。一方、螺旋構造金属線63Lの線径が0.5mmより大きな場合には、螺旋構造金属線63Lの表面に酸化被膜が生成された時に線材同士が接触を起こす可能性が高くなるのでインダクタンス成分としてのノイズ低減効果が十分得られない可能性がある。螺旋構造金属線63Lの外径を1.0mm以上にすれば加工がより容易となるとともにコストが低下し、また、3mm以下にすれば絶縁体3の軸孔2に入れることが容易である。また、螺旋構造金属線63Lのピッチ0.3mm以上とすれば、螺旋構造金属線63Lの容量成分を十分小さくすることが可能であり、また、1mm以下とすれば十分な巻数が得られるのでインダクタンス成分としてのノイズ低減効果を十分に得られる。螺旋構造金属線63Lの高さを8mm以上とすれば、インダクタンス成分としてのノイズ低減効果を十分得ることができ、また、30mm以下とすれば作製が容易で低コストに抑えることができる。
【0027】
<好ましいセラミックス相63Cの材料>
セラミックス相63Cの材料としては、以下の各種の粉末材料から選ばれた一種以上の粉末材料を用いることができる。
・FeO,Fe等の酸化鉄
・Al,AlSi13,AlSi10等のアルミニウム含有酸化物
・MgSi10,CaMg(CO,MgSiO,MgO等のマグネシウム含有酸化物
・BaCO,CaCO,CaSiO等のアルカリ土類金属含有酸化物・ZrO,ZrO,ZrB等のジルコニウム含有化合物
・TiO,TiC,TiB等のチタン含有化合物
・Y,Cr等の他の金属酸化物
・パーマロイ等の強磁性鉄合金
・Ni−ZnフェライトやMn−Znフェライト等の各種のフェライト
【0028】
セラミックス相63Cは、フェライトなどのような強磁性を有するFe含有酸化物を含むことが好ましい。強磁性を有するFe含有酸化物を含有すれば、導電体63のインダクタンス成分としてのノイズ低減効果を更に高めることができる。セラミックス相63Cは、更に、アルカリ金属の酸化物と、Si(シリコン),B(ホウ素),P(リン)の一種以上の元素の酸化物とを含有するアルカリ含有相を含むことが好ましい。このアルカリ含有相は、典型的にはホウケイ酸ソーダガラス等のガラスで形成された形態を取り得る。アルカリ含有相は、セラミックス相63Cに形成され得る多数の空孔を埋めて緻密化させる空孔充填材としての機能を有するので、ノイズの低減効果を高くすることができる。なお、セラミックス相63Cにおけるアルカリ金属の含有割合は、酸化物換算で0.1重量%以上6.5重量%以下の範囲にあることが好ましい。アルカリ金属の含有割合を酸化物換算で0.1重量%以上とすれば、セラミックス相63Cの緻密化の効果を高めることができ、スパークプラグ1の振動試験によって螺旋構造金属線63Lの断線が発生してしまう可能性を低減できる。また、アルカリ金属の含有割合を6.5重量%以下とすれば、アルカリ金属が螺旋構造金属線63Lと化学反応を起こしてノイズ減衰効果を低下させてしまう現象を抑制することができる。
【0029】
図2は、本発明の第2実施形態としてのスパークプラグ1aの全体構成を示す説明図である。図1に示した第1実施形態のスパークプラグ1との違いは、第2実施形態のスパークプラグ1aの電気的接続部60aが、第1シール層61と第2シール層62と導電体63の他に、抵抗体64を有している点だけであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
【0030】
抵抗体64は、例えば、ホウケイ酸ソーダガラス等のガラス粉末、ZrO2等のセラミック粉末、カーボンブラック等の非金属導電性粉末、及び/又は、Zn、Sb、Sn、Ag、Ni等の金属粉末等を含有する抵抗体組成物を焼結して形成された抵抗材により形成することができる。導電体63に加えて抵抗体64も設けるようにすれば、抵抗体64によるノイズ低減効果も得られるため、ノイズ低減効果を更に向上させることができる。
【0031】
なお、図1及び図2において、電気的接続部60の第1シール層61と第2シール層62の一方又は両方を省略してもよい。但し、これらのシール層61,62は、導電体63(及び抵抗体64)とその両端にある端子金具5及び中心電極4との間の熱膨張係数差を緩和できるので、より強固な接続状態を得ることができる。なお、端子金具5と中心電極4との間の抵抗値は、ノイズ低減効果の観点から、例えば3.0kΩ以上20.0kΩ以下の範囲とすることが好ましい。
【0032】
B.電気的接続部の形成方法
図3は、スパークプラグ1の電気的接続部60の形成方法を示すフローチャートである。工程T110では、金属線材を用いて螺旋構造金属線63Lを上述した好ましい寸法・形状に合わせて形成する。工程T120では、金型を用いて、螺旋構造金属線63Lの周囲にセラミックス相63Cの粉末材料を充填する。
【0033】
図4は、工程T120における充填処理の一例を示す説明図である。まず、導電体63に適した円柱形状のキャビティを有する金型300を準備し、金型300にセラミックス相63Cの粉末材料を充填する(図4(A))。この際、ホウケイ酸ソーダガラス等のガラス粉末やガラス原料(珪砂、ソーダ、石灰石、ホウ砂等)などのアルカリ含有相の粉末材料と、セラミックスの原料粉末とを混合した混合粉末材料を、セラミックス相63Cの粉末材料として用いても良い。この粉末材料の上に螺旋構造金属線63Lを載置したのち(図4(B))、更にセラミックス相63Cの粉末材料を追加して螺旋構造金属線63Lの周囲が粉末材料で隠れる程度まで充填する(図4(C))。その後、金型300を用いて、30〜120MPaの圧力で円柱状に成形する。工程T130では、この成形体を、850〜1350℃の範囲で焼成することによって、導電体63を形成する。なお、導電体63の両端に螺旋構造金属線63Lが露出していない場合には、導電体63の両端を研磨して螺旋構造金属線63Lを露出させることが好ましい。
【0034】
工程T140では、絶縁体3の軸孔2内に中心電極4を挿入する。工程T150では、第1シール層23を形成するシール粉末材料と、導電体63と、第2シール層24を形成するシール粉末材料と、をこの順に絶縁体3の軸孔2の後端側から充填し、プレスピンを軸孔2内に挿入して圧縮する。なお、図2のように、電気的接続部60aが抵抗体64を含む場合には、抵抗体64を形成するための粉末材料を工程T150において充填する。工程T160では、絶縁体3の軸孔2内に端子金具5を挿入し、端子金具5によって軸孔2内に充填された材料を先端側に向かって押圧しながら、絶縁体3全体を加熱炉内に配置して700〜950℃の所定温度に加熱し、焼成する。この結果、第1シール層61と第2シール層62が焼結し、これらの間に導電体63が封着固定される。
【0035】
工程T150の後は、中心電極4及び端子金具5等が固定された絶縁体3が、接地電極8が接合された主体金具7に組み付けられる。そして、最後に、接地電極8の先端部を中心電極4側に折り曲げることによって、スパークプラグ1の製造が完了する。
【実施例】
【0036】
図5A,5Bは、本発明の実施例としてのスパークプラグのサンプルS01〜S28と、比較例としてのスパークプラグのサンプルS31〜S40に関して、導電体63の構成と各種試験結果を示す図である。これらの図の左側の欄には、各サンプルで使用した螺旋構造金属線63Lの寸法及び材質と、セラミックス相63Cの材質と、セラミックス相63Cがアルカリ含有相を含む場合のアルカリ金属含有量及びSi,B,Pの有無と、が示されている。
【0037】
螺旋構造金属線63Lの寸法としては、螺旋構造の全体の外径と、螺旋のピッチと、線径と、螺旋構造の高さと、をそれぞれ設定した。金属線の材質としては、Mo,W,Ti,Al,Zn,Ag,Fe,Ni,Cr,Sn,Cu等の単体金属や、パーマロイ(Fe−Ni合金),センダスト(Fe−Si−Al合金),インコネル600(Ni−Cr−Fe合金),SUS316,SUS405等の合金を用いた。なお、単体金属の純度はそれほど高くなくてもよく、典型的には95%以上の純度の金属線材を使用できる。
【0038】
セラミックス相63Cの材質としては、上述した各種のセラミックスを使用した。実施例のサンプルS14〜S28では、セラミックス相63Cが、アルカリ金属(Li,Na,K,Rbの一種以上)とSi,B,Pの一種以上とを含むアルカリ含有相を含んでいる。セラミックス相63Cにおけるアルカリ金属含有量の値は、導電体63を粉砕した試料を用いたICP発光分光分析を10回行って得られた含有量の平均値を用いた。なお、比較例の最後の2つのサンプルS39,S40では、セラミックス相63Cの無い螺旋構造金属線63Lを用いた。
【0039】
図5A,5Bの右半分には、実施例のサンプルS01〜S28と比較例のサンプルS31〜S40について、放電耐久試験前後のノイズ試験の結果と、振動試験の結果とを示している。放電耐久試験は、スパークプラグ1を放電電圧10kVで100時間放電させることによって実施した。ノイズ試験は、JASO D−002−2(日本自動車技術会伝送規格D−002−2)の「自動車−電波雑音特性−第2部 防止器の測定方法 電流法」に従って行った。また、高周波ノイズの測定対象としては、30MHz,100MHz,200MHzの3種類の周波数のノイズを対象とした。振動試験では、JIS−B8031の「7.4耐衝撃性テスト」に従って行い、スパークプラグ1を固定して20Hzの振動を1時間与えた後に、端子金具5と中心電極4との間の抵抗値を測定した。振動試験後の抵抗値が50kΩ以上の場合には不合格とした。図5A,5Bの振動試験の欄の「NG率」は、100個のサンプルについて不合格となった割合を示している。なお、振動試験前の端子金具5と中心電極4との間の抵抗値は、いずれも3.0kΩ以上20.0kΩ以下の範囲内にあった。
【0040】
図5A,5Bに示す試験結果から、以下のことが理解できる。
(1)実施例のサンプルS01〜S28の螺旋構造金属線63Lは、線径が0.1mm以上0.5mm以下、螺旋構造の外径が1.0mm以上3mm以下、ピッチが0.3mm以上1mm以下、高さが8mm以上30mm以下である。これらのサンプルS01〜S28では、放電耐久性試験前のノイズが高々56dBであって過度に大きくなく、十分なノイズ低減効果が得られている。また、放電耐久試験後においても、ノイズはそれほど増加しておらず、十分なノイズ低減効果を維持することができる。
【0041】
(2)比較例のサンプルS31〜S40のうちで、サンプルS31〜S38は螺旋構造金属線63Lの寸法のいずれかが上述した好ましい範囲から外れている。すなわち、サンプルS31,S32は、外径が好ましい範囲(1.0〜3mm)からはずれている。サンプルS33,S34は、ピッチが好ましい範囲(0.3〜1mm)から外れている。サンプルS35,S36は、線径が好ましい範囲(0.1〜0.5mm)から外れている。サンプルS37,S38は、高さが好ましい範囲(8〜30mm)から外れている。これらのサンプルS31〜S38では、放電耐久試験前のノイズが62dB以上と大きく、ノイズ低減効果が不十分である。また、これらのS31〜S38は、振動試験後の抵抗値の不合格率が24%であり、実施例のサンプルS01〜S28に比べて耐振動性の点でも劣っている。なお、比較例のサンプルS39,S40は、セラミックス相63Cを有していないので、特に耐振動性が低い点で好ましくない。この理由は、セラミックス相63Cが存在しない場合には、振動によって螺旋構造金属線63Lが破損してしまうからであると推定される。
【0042】
(3)実施例のサンプルS09〜S28は、螺旋構造金属線63Lの材質がZn,Fe,Ni,Ag,Cr,Sn,Cuの一種以上の元素を含む金属又は合金であり、螺旋構造金属線63Lの材質がMo,W,Ti,AlであるサンプルS01〜S08よりも、耐久試験後のノイズの増加率が低い点で好ましい。
【0043】
(4)実施例のサンプルS14〜S28は、セラミックス相63Cにアルカリ金属とSi(シリコン),B(ホウ素)及びP(リン)を含んでおり、これらの成分を含まないサンプルS01〜S13よりも、耐振動性が高い点で好ましい。アルカリ金属とSi,B,P等の元素は、主に、導電体63の空孔を埋めるガラス成分に含まれているものと考えられる。セラミックス相63Cに形成され得る空孔がガラス成分等によって充填されることにより、セラミックス相63Cが緻密化されるので、振動試験においてセラミックス相63Cが螺旋構造金属線63Lをより強固に支持できると推定される。
【0044】
(5)サンプルS17〜S28は、セラミックス相63Cにおけるアルカリ金属含有量が0.10重量%以上で6.50重量%以下の範囲内にあり、アルカリ金属含有量がこの範囲外であるサンプルS14〜S16よりもノイズが小さい点、及び、耐振動性がより優れている点で好ましい。特に、これらのサンプルS17〜S28では、振動試験によってスパークプラグ1の抵抗値が過度に増大することが無く、極めて優れた耐振動性を示している。なお、セラミックス相63Cにおけるアルカリ金属含有量の範囲は、0.90重量%以上6.50重量%以下とすることが更に好ましく、3.20重量%以上6.50重量%以下とすることが最も好ましい。
【0045】
(6)サンプルS22〜S28は、セラミックス相63CがFeO,Fe,フェライ
ト等の一種以上のFe含有酸化物を含んでおり、Fe含有酸化物を含まないサンプルS01〜S21よりもノイズが小さい点で好ましい。なお、導電体63のインダクタンス成分としての機能を高めるという観点では、セラミックス相63Cは、強磁性を有するFe含有酸化物を含むことが更に好ましい。
【0046】
(7)サンプルS25〜S28は、セラミックス相63Cがフェライトを含んでおり、フェライトを含まないサンプルS01〜S24よりもノイズが小さい点で好ましい。フェライトはインダクタンス成分として機能するので、フェライトを含むセラミックス相63Cを使用すれば、ノイズ低減効果を更に高めることが可能である。
【0047】
C.変形例
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0048】
・変形例1:
上記実施形態では、螺旋構造金属線63Lの全体が螺旋構造を有するものとしていたが、螺旋構造金属線63Lの一部に螺旋構造でない部分(例えば直線棒状部分)を有していてもよい。すなわち、螺旋構造金属線63Lは、少なくとも一部に螺旋構造部分を有するものとしても良い。但し、螺旋構造金属線63Lの全体を螺旋構造とすれば、ノイズ低減効果が最も大きくなる点で好ましい。
【0049】
・変形例2:
スパークプラグとしては、図1図2に示したもの以外の種々の構成を有するスパークプラグを本発明に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1,1a…スパークプラグ
2…軸孔
3…絶縁体
4…中心電極
5…端子金具
7…主体金具
8…接地電極
9…ネジ部
10…滑石
11…パッキン
12…小径部
13…第一段部
14…中径部
17…フランジ部
20…先端部
23…第1シール層
24…第2シール層
29…貴金属チップ
60…電気的接続部
60a…電気的接続部
61…第1シール層
62…第2シール層
63…導電体
63C…セラミックス相
63L…螺旋構造金属線
64…抵抗体
300…金型
O…軸線
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B