特許第5925870号(P5925870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5925870フラボノイド化合物、フラボノイド化合物の製造方法およびHMG−CoA還元酵素阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5925870
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】フラボノイド化合物、フラボノイド化合物の製造方法およびHMG−CoA還元酵素阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07H 17/07 20060101AFI20160516BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20160516BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20160516BHJP
   A61K 36/70 20060101ALI20160516BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20160516BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160516BHJP
   A61P 39/06 20060101ALN20160516BHJP
【FI】
   C07H17/07CSP
   A61K31/7048
   A61K31/36
   A61K36/70
   A61P3/06
   A61P43/00 111
   !A61P39/06
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-250522(P2014-250522)
(22)【出願日】2014年12月11日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】593006836
【氏名又は名称】寿スピリッツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080001
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100093023
【弁理士】
【氏名又は名称】小塚 善高
(74)【代理人】
【識別番号】100117008
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 章子
(72)【発明者】
【氏名】木村 英人
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】石原 朋恵
(72)【発明者】
【氏名】小川 智史
(72)【発明者】
【氏名】横田 一成
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 HEO,B. et al,Anticancer and antioxidant effects of extracts from different parts of indigo plant,Industrial Crops and Products,2014年 3月,Vol.56,pp.9-16
【文献】 HEO,B. et al,Partial characterization of indigo (Polygonum tinctorium Ait.) plant seeds and leaves,Industrial Crops and Products,2013年,Vol.42,pp.429-439
【文献】 KIM,K. et al,Assessment of Indigo (Polygonum tinctorium Ait.) water extracts' bioactive compounds, and their antioxidant and antiproliferative activities,LWT Food Science and Technology,2012年,Vol.46, No.2,pp.500-510
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 1/00− 99/00
A61K 31/33− 33/44
A61K 36/00− 36/9068
A61P 1/00− 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(化学式1)に示す化学構造体を有するフラボノイド化合物。
【化1】
【請求項2】
(化学式2)に示す化学構造体を有するフラボノイド化合物。
【化2】
【請求項3】
(化学式3)に示す化学構造体を有するフラボノイド化合物。
【化3】
【請求項4】
タデアイ(Polygonum tinctorium Lour.)の葉を、搾汁する、または、水、アルコール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、またはクロロホルムで抽出することにより得られるフラボノイド化合物であって、(化学式1)、(化学式2)および(化学式3)のいずれかに示す化学構造体を有するフラボノイド化合物の製造方法
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項5】
請求項4に記載のフラボノイド化合物において、
前記搾汁により得られた搾汁液、または、前記抽出により得られた抽出液を、溶出し、精製することにより得られ、
前記溶出は、カラムを用いたアルコール溶出であり、
前記精製は、逆相カラムを用いて行われる、フラボノイド化合物の製造方法
【請求項6】
(化学式1)、(化学式2)、(化学式3)、(化学式4)および(化学式5)のいずれかに示す化学構造体を有するHMG−CoA還元酵素阻害剤。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド化合物およびHMG−CoA還元酵素阻害剤、抗酸化剤に関し、特に、タデアイを利用して得られたフラボノイド化合物およびHMG−CoA還元酵素阻害剤、抗酸化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タデアイは、東南アジア原産の一年生植物で、古くから藍染めの染料原料として用いられてきた。また、タデアイは古くから薬用植物として、解毒、解熱、消炎などの目的で利用されていた(非特許文献2参照)。また、日本の一部の地方では、タデアイはタデ酢などの食品原料としても利用されている。タデアイの成分の機能性については、抗癌作用(非特許文献2〜4参照)、抗炎症作用(非特許文献5参照)、抗酸化作用(非特許文献4、6参照)、抗アレルギー作用(非特許文献7参照)、抗菌作用(非特許文献8参照)、抗血液凝固作用(非特許文献1参照)などの様々な報告がある。
【0003】
また、タデアイの機能性を示すポリフェノール成分として、没食子酸〔gallic acid〕、ケンペロール〔kaempferol〕、カフェイン酸〔caffeic acid〕、6-メトキシケンペロール〔6-methoxykaempferol〕、3,5,4'-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン〔3,5,4'-trihydroxy-6,7-methylenedioxyflavone〕、3,5,4'-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-β-D-グルコピラノシド〔3,5,4'-trihydroxy-6,7-methylenedioxyflavone-3-O-β-D-glucopyranoside〕などが確認されている(非特許文献2参照)。
【0004】
なお、非特許文献9は、タデアイの葉茎からポリフェノール類を抽出し、精製した本発明者の報告である。また、非特許文献10は、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル基〔3-hydroxy-3-methylglutaryl基〕が結合している炭素原子のシグナルについての報告である。また、非特許文献11は、ルチンの性質についての報告である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kohda, H., Niwa, A., Nakamoto, Y. and Takeda, O., Flavonoid glucosides from Polygonum tintorium. Chem. Pharm. Bull. 38, 523-524(1990).
【非特許文献2】Iwaki,K. and Kurimoto, M., Cancer preventive effects of the indigo plant, Polygonum tinctorium. Recent Res. Devel. Cancer, 4, 429-437 (2002).
【非特許文献3】Koya-Miyata, S., Kimoto, T., Micallef MJ., Hino, K., Taniguchi, M., Ushio, S., Iwaki, K., Ikeda, M. and Kurimoto, M., Preventioon of azoxymethane-induced intestianal tumors by a crude ethyl acetate-extract and tryptanthrin extracted from Polygonum tinctorium Lour., Anticancer Res.,21, 3295-3300 (2001).
【非特許文献4】Jang, H.G., Heo, B.G., Park, Y.S., Namiesnik ,J., Barasch, D., Katrich, E., Vearasilp, K., Trakhtenberg, S. and Gorinstein S., Chemical composition, antioxidant and anticancer effects of the seeds and leaves of indigo (Polygonum tinctorium Ait.) plant. Appl Biochem Biotechnol. 167,1986-2004(2012).
【非特許文献5】Micallef, M.J., Iwaki, K., Ishihara, T., Ushio, S., Aga, M., Kunikata, T., Koya-Miyata, S., Kimoto, T., Ikeda, M., Hino, K. and Kurimoto, M., The natural plant product tryptanthrin ameliorates dextran sodium sulfate- induced colitis in mice. Int.Immunopharmacol. 2, 565- 578 (2002).
【非特許文献6】Kimoto, T., Koya, S., Hino, K., Yamamoto, Y., Aga, H.,Hashimoto, T., Masaki, N., Hanaya, T., Micallef, MJ., Iwaki, K., Ishihara, T., Ushio, S., Aga, M., Kunikata, T.,Arai, S., Ikeda, M., Fukuda, S. and Kurimoto, M., Protection by Indigo plant (Polygonum tinctorium Lour.) ageinst renal oxidative damage in mice treated with ferric nitrilotriacetate., Natural Medicines., 53, 291-296 (1999).
【非特許文献7】Kunikata, T., Takefuji, T., Aga, H., Iwaki, K., Ikeda, M. and Kurimoto, M., Indirbin inhibits inflammatory reactions in delayed-type hypersensitivity. Eur. J. Pharmacol. 410, 93-100 (2000).
【非特許文献8】Hashimoto, T., Aga, H., Chaen, H.: Fukuda, S. and Kurimoto, M., Isolation and identification of anti- helicobacter pyrori compounds from Polygonum tinctorium Lour. Natural Medicines., 53, 27-31 (1999).
【非特許文献9】Kimura, H., Ishihara, T., Michida, M., Ogawa, S., Akihiro, T. and Yokota, K., Identification and quantitative analysis of polyphenolic compounds from indigo plant (Polygonum tinctorium Lour)., Nat. prod. Res. 7, 492-495 (2014).
【非特許文献10】Wang, S-S., Zhang, X-J., Que, S., Tu, G-Z., Wan, D., Cheng, W., Liang, H., Ye, J., and Zang, Q-Y., 3-hydroxy-3-methylglutaryl flavonol glycosides from Oxytropis falcata. J. Nat. Prod., 75, 1359-1364(2012).
【非特許文献11】Fale, P.L., Ferreira, C., Maruzzella, F., Helena Florencio, M., Frazao, F.N., and Serralheiro, M.L., Evaluation of cholesterol absorption and biosynthesis by decoctions of Annona cherimola leaves. J. Ethnopharmacol., 150, 718-723 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、上記のタデアイの有効成分に関する研究開発に従事しており、例えば、タデアイの葉茎からポリフェノール類を抽出、精製し、カフェイン酸〔caffeic acid〕、クロロゲン酸〔chlorogenic acid〕、ケンペロール〔keampferol〕、ケルセチン〔quercetin〕、ケルセチン-3-O-グルクロニド〔quercetin-3-O-glucronide〕などの検出に成功している(非特許文献9参照)。なお、成分分析には、超高速液体クロマトグラフ質量分析計およびガスクロマトグラフ質量分析計を用いた。
【0007】
しかしながら、タデアイ抽出物には、多くの有機化合物が含まれており、未だ化学構造が不明の物質が数多くある。このような物質は、薬用植物として利用されてきたタデアイの機能と深く関係するものであり、その解明が望まれる。
【0008】
そこで、本発明者は、上記のタデアイの有効成分に関し、鋭意研究を重ね、タデアイ中に含まれている新規物質を含むフラボノイド化合物を確認し、その機能や有効性の検証を重ねた。
【0009】
本発明の目的は、新規フラボノイド化合物(以下の(化学式1)(化学式2)(化学式3)参照)を提供することにある。また、既知物質(以下の(化学式4)(化学式5)参照)を含むフラボノイド化合物(以下の(化学式1)−(化学式5)参照)のHMG−CoA還元酵素阻害剤、抗酸化剤としての新たな用途を提供することにある。
【0010】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
本願において開示される一実施の形態に示されるフラボノイド化合物は、以下の(化学式1)に示す化学構造体を有する。
【0013】
【化1】
本願において開示される一実施の形態に示されるフラボノイド化合物は、以下の(化学式2)に示す化学構造体を有する。
【0014】
【化2】
本願において開示される一実施の形態に示されるフラボノイド化合物は、以下の(化学式3)に示す化学構造体を有する。
【0015】
【化3】
本願において開示される一実施の形態に示されるフラボノイド化合物は、タデアイ(Polygonum tinctorium Lour.)の葉を、搾汁する、または、水、アルコール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、またはクロロホルムで抽出することにより得られるフラボノイド化合物であって、上記(化学式1)、上記(化学式2)および上記(化学式3)のいずれかに示す化学構造体を有する。
【0016】
例えば、上記フラボノイド化合物は、前記搾汁により得られた搾汁液、または、前記抽出により得られた抽出液を、溶出し、精製することにより得られ、前記溶出は、カラムを用いたアルコール溶出であり、前記精製は、逆相カラムを用いて行われる。ここで、溶出とは、タデアイの有効成分を溶媒に溶かし出すことをいい、精製は、タデアイの有効成分以外の成分を含む溶出液から有効成分の濃度を向上させることをいう。
【0017】
本願において開示される一実施の形態に示されるHMG−CoA還元酵素阻害剤、または、抗酸化剤は、上記(化学式1)、上記(化学式2)、上記(化学式3)、以下の(化学式4)および以下の(化学式5)のいずれかに示す化学構造体を有する。
【0018】
【化4】
【0019】
【化5】
【発明の効果】
【0020】
本発明者により初めて見出されたフラボノイド化合物(上記の(化学式1)(化学式2)(化学式3)参照)は、HMG−CoA還元酵素阻害作用、抗酸化作用という有用な機能を有する。また、既知物質(以下の(化学式4)(化学式5)参照)を含み、これらのフラボノイド化合物(以下の(化学式1)−(化学式5)参照)は、HMG−CoA還元酵素阻害剤、抗酸化剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】タデアイのダイヤイオンHP−20カラムでのメタノール溶出フラクションを超高速液体クロマトグラフ-質量分析計で分析した結果を示すチャートである。
図1B】タデアイのダイヤイオンHP−20カラムでのメタノール溶出フラクションの酸加水分解物を超高速液体クロマトグラフ-質量分析計で分析した結果を示すチャートである。
図2A】成分1のハイレゾリューションモードでの超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析結果を示す図である。
図2B】成分1のハイレゾリューションモードでの超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施の形態1)
(実施例1)
(1.実験材料)
タデアイ(Polygonum tinctorium Lour.)の種子は、タキイ種苗(株)(京都)から購入し、栽培したものを用いた(標本番号14001)。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)用のアセトニトリルと、HMG−CoA還元酵素アッセイキット〔HMG-CoA reductase assay kit〕は、シグマ社(Sigma,セントルイス、ミズーリ州、アメリカ)から得た。N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド〔N,O-Bis(trimethylsilyl) acetamide〕と、N-トリメチルシリルイミダゾール(TMSI)-C〔N-trimethylsilylimidazole(TMSI)-C〕は、ジーエルサイエンス(東京)のものを使用した。3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸〔3-hydroxy-3-methylglutaric acid〕、ロバスタチン〔lovastatin〕、ルチン〔rutin〕およびその他の試薬は和光純薬(大阪)から購入した。
【0023】
(2.実験機器)
NMR(核磁気共鳴;Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルは、JEOL社(東京)のJNM A400 FT−400FT−NMR(400MHz)を使用した。2次元NMRのHMBC〔Heteronuclear Multiple Bond Correlation spectroscopy〕分析は、日立化成テクノサービス(株)に依頼し、Bruker BioSpin社(神奈川)のAV400M(400MHz)を用いて測定した。赤外吸収スペクトル(ATR−FT−IR〔Attenuated Total Reflection-Fourier Transform-Infrared Spectorophotometer〕)の分析には、島津製作所(京都)の MIRacle10 (ATR)を接続したIR Affinity−1を使用した。紫外吸収スペクトルの分析には、日本分光(東京)のV−530を使用した。融点測定には、(株)ヤナコ機器開発研究所(京都)のモデルMP−S3を使用した。超高速液体クロマトグラフ-質量分析(UPLC−ESI−TOF/MS)には、ウォーターズ(Waters Corporation(ミルフォード、マサチューセッツ州、アメリカ)のACQUITY Ultra Performance Liquid Chromatography(UPLC)システムとSYNAPT G2 HDMS システムを使用した。高速液体クロマトグラフ(HPLC、逆相クロマトグラフィー)による分析には、島津製作所(京都)のLC−2010AとクロマトパックC−R8Aを使用した。ここで、逆相クロマトグラフィーはHPLCの一般的な方法である。HPLCでの分離(精製)は、移動相と固定相の極性に差が必要である。移動相の極性が低く、固定相の極性が高い場合は順相クロマトグラフィーと呼ばれ、逆に移動相の極性が高く、固定相の極性が低い場合を逆相クロマトグラフィーと呼ばれる。
【0024】
ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)には、島津製作所(京都)製の2008年版のNISTライブラリがインストールされたガスクロマトグラフ質量分析計用ワークステーションであるGCMSsolutionを接続した質量分析計GCMS−QP2010を使用した。GCキャピラリーカラムは、RESTEK(ベルフォント〔Bellefonte〕、ペンシルベニア州、アメリカ)製のRtx−5MS(内径0.25mm×長さ30m,膜厚0.25μm)を使用した。HMG−CoA還元酵素阻害活性試験に使用したマイクロプレートリーダーは、サーモフィッシャーサイエンティフィック〔Thermo Fisher Scientific K.K.(神奈川)〕のMultiskan GOである。親水性酸素ラジカル吸収能(H−ORAC)法による抗酸化活性の測定に使用した蛍光マイクロプレートリーダーは、TECAN(川崎)製のinfinite F 200を用いた。
【0025】
(3.抽出と精製)
タデアイの葉を、80%のメタノールで抽出した。具体的には、タデアイの葉を細かく刻み、80%のメタノールを加え攪拌した後、濾過し、溶媒を減圧留去し、抽出物を得た。抽出物を30%メタノールに溶解してカラムに供した。具体的には、抽出物に30%のメタノールを添加し、ダイヤイオンHP−20カラム(三菱化学製,東京)に通して溶出した。この後、50%のメタノール、70%のメタノール、100%のメタノールを用いて、同様に溶出したところ、本実施例に係る物質は、主に100%のメタノールを用いた溶出フラクションに回収されることが判明した。
【0026】
次いで、100%のメタノールを用いた溶出フラクションを、クロマトレックスODS1024Tカラム(富士シリシア化学、春日井、逆相カラム)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、個々の成分を精製した。
【0027】
HPLCは、島津製作所(京都)のLC−2010AとクロマトパックC−R8Aを用いた。カラム(逆相カラム、逆相のオクタデシルシリカ(ODS)カラム)は、ワイエムシィ(YMC(京都))のODS−AM(150×6.0mmi.d.,粒径3μm)を用いた。カラム温度は40℃、流速は1.0ml/分に設定した。移動相は、0.1%のギ酸とアセトニトリルとの75:25(v/v)の混合溶液を用いて溶出した。検出は、340nmの吸収をモニターした。
【0028】
(4.目的物質の構造決定)
(4.1)超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析
超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析カラムは、ウォーターズのWaters ACQUITY UPLC BEH C18(100×2.1mmi.d.,粒径1.7μm)を使用した。カラム温度は40℃、流速は0.3ml/分、検出は、フォトダイオードアレイ検出器〔PDA detector〕を用いて340nmで行った。移動相は、0.1%のギ酸とアセトニトリルとの混合溶液を用い、10分で、ギ酸:アセトニトリル比を、90:10(v/v)から50:50(v/v)まで直線的に変化させた状態で溶出した。即ち、直線的濃度勾配法を用いて溶出した。質量分析(MS)は、負イオンモード〔negative mode〕で測定し、以下の条件で行った。測定感度は、センシティブモード〔sensitive mode〕あるいはハイレゾリューションモード〔high resolution mode〕で測定した。
電圧:キャピラリー…2.5kV、サンプリングコーン…50V、エクストラクションコーン…4.0V
温度:ソース…150℃、デソルベイション…500℃
ガス流速:コーンガス…50L/時、デソルベイションガス…1000L/時
スキャンタイム:0.5秒
コリジョンエネルギー:
ファンクション1、[低エネルギー]
トラップコリジョンエネルギー…ON、6V
トランスファーコリジョンエネルギー…OFF
ファンクション2、[高エネルギー]
ランプトラップコリジョンエネルギー…ON、6−45V
トランスファーコリジョンエネルギー…OFF
【0029】
(4.2)アルカリ分解
各成分(成分1、成分2、成分3)の各1.0mgを、50%メタノール(1ml)に溶解し、20%の水酸化カリウム水溶液(1ml)を加え、1晩、室温にて反応させた。塩酸で中和後、Grace(コロンビア、メリーランド州、アメリカ)製のオルテックC18マキシクリーンカートリッジカラム〔Alltec C18 Maxiclean cartridgeカラム〕に注入後、20%メタノール5mlで溶出後(20%メタノール溶出フラクション)、100%のメタノール5mlで溶出した。このメタノール溶出フラクションを、前述の(4.1)の欄で説明した超高速液体クロマトグラフ-質量分析計により分析した。また、20%メタノール溶出フラクションは、減圧乾固した後、1晩、真空デシケーターで乾燥させた。このサンプルをジメチルスルホキシド0.3mlに溶解し、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド〔N,O-Bis(trimethylsilyl) acetamide〕と、N-トリメチルシリルイミダゾール(TMSI)-C〔N-trimethylsilylimidazole(TMSI)-C)〕とを各100μl加えて、70℃で、1時間反応させた後、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて分析した。分析条件は、以下の通りである。
カラム:Rtx−5MS(内径0.25mm×長さ30m、膜厚0.25μm)
カラム温度:150℃から250℃まで(5℃/分)
キャリアガス:ヘリウム、全流量58.1ml/分、カラム流量1.08ml/分
インジェクター温度:250℃
イオン源温度:200℃
インターフェイス温度:250℃
スプリット比1:50
【0030】
(4.3)酸分解
タデアイの80%メタノール抽出物を、ダイヤイオンHP−20カラムにかけ100%メタノールで溶出したフラクション1.0mgを、100%のメタノール(1ml)に溶解し、2.4Mの塩酸水溶液(1ml)を加え、90℃で2時間、加熱還流を行った。反応後、5mlの蒸留水を加えた後、オルテックC18マキシクリーンカートリッジカラムに注入し、20%メタノール5mlで洗浄後、メタノール5mlで溶出した。このサンプルを前述の(4.1)の欄で説明した超高速液体クロマトグラフ-質量分析計(UPLC−ESI−TOF/MS)により分析した。
【0031】
成分3の糖部を分析するために、同様に酸分解を行った。成分3(1.0mg)を、100%のメタノール(1ml)に溶解し、2.4Mの塩酸水溶液(1ml)を加え、90℃で2時間、加熱還流を行った。反応後、5mlの蒸留水を加えた後、オルテックC18マキシクリーンカートリッジカラムに注入し、20%メタノール5mlで溶出し、メタノール5mlで溶出した。注入液と、20%メタノールで溶出した液を、炭酸カリウムで中和後、ロータリーエバポレーターで減圧乾固し、1晩、真空デシケーターで乾燥させた。このサンプルをジメチルスルホキシド0.3mlに溶解し、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド〔N,O-Bis(trimethylsilyl) acetamide〕と、N-トリメチルシリルイミダゾール(TMSI)-C〔N-trimethylsilylimidazole(TMSI)-C)〕とを各100μl加えて、70℃で、1時間反応させた後、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて分析した。分析条件は、以下の通りである。
カラム:Rtx−5MS(内径0.25mm×長さ30m、膜厚0.25μm)
カラム温度:150℃から300℃まで(5℃/分)
キャリアガス:ヘリウム、全流量58.1ml/分、カラム流量1.08ml/分
インジェクター温度:250℃
イオン源温度:200℃
インターフェイス温度:250℃
スプリット比1:50
【0032】
(4.4)構造決定
タデアイの80%メタノール抽出物を、ダイヤイオンHP−20カラムにかけて100%メタノール溶出フラクションを回収し、超高速液体クロマトグラフ-質量分析計で分析した。その結果を、表1および図1A図1Bに示す。図1Aおよび図1Bの横軸は、保持時間(分)であり、縦軸は、AU(任意単位)である。図1Aは、上記フラクションの分析結果であり、図1Bは、上記フラクションを加水分解したものの分析結果である。
【0033】
図1Aに示すように、5つのピーク(成分1−成分5)が確認され、これらの成分(化合物)が、このフラクションに回収されたことが分かった。このフラクションを、塩酸を用いて酸加水分解し、超高速液体クロマトグラフ-質量分析計にかけたところ、図1Bに示すように、成分1−成分4のピーク位置は成分5のピーク位置にシフトした。この結果から、成分1−成分4は、成分5をアグリコンとして有することが明らかとなった。表1に、成分1−成分5の保持時間(分)と、同定した物質名と、分子イオンおよびフラグメントイオンのm/z(m/z値ともいう)とをまとめた。
【0034】
【表1】
成分5の融点は、300℃以上(>300℃)であり、カーボン核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)、プロトン核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)、紫外吸収スペクトル(UV)、赤外吸収スペクトル(IR)、質量分析(MS)の結果が、前記の非特許文献1と一致した。これにより、成分5は、3,5,4'-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン〔3,5,4'-trihydroxy-6,7-methylenedioxyflavone〕と同定した。
【0035】
成分4の融点は、297℃であり、カーボン核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)、プロトン核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)、紫外吸収スペクトル(UV)、赤外吸収スペクトル(IR)、質量分析(MS)の結果が、前述の非特許文献1と一致した。これにより、成分4は、3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-β-D-グルコピラノシド〔3,5,4'-trihydroxy-6,7-methylenedioxyflavone-3-O-β-D- glucopyranoside〕と同定した。
【0036】
成分1は、ハイレゾリューションモード〔high resolution mode〕での超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析で、分子イオンピークm/zは、619.1273[M−H](計算値619.1297)であった。赤外吸収スペクトルの分析結果は、成分4と酷似していた。
【0037】
図2Aおよび図2Bに、成分1のハイレゾリューションモード〔high resolution mode〕での超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析結果を示す。図2Aは、低エネルギー(6V)の場合の結果であり、図2Bは、高エネルギー(45V)の場合の結果である。横軸は、m/z、縦軸は、相対強度である。図2Aに示すように、低エネルギー(6V)で測定することにより、分子をなるべく壊さず、分子イオンピークが明確に判別できる。この結果、分子イオンピークm/zは、619.1273[M−H](計算値619.1297)であった。図2Bに示すように、フラグメントイオンとして、m/zが475.0852の[(M−H)-3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル]〔[(M-H)-3-hydroxy-3-methylglutaryl]〕を検出した。3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルを以下にHMGとして示す。また、m/zが313.0361の[(M−H)−HMG−グルコース]〔[(M−H)−HMG−glucose]〕を検出した。
【0038】
また、グルコースに結合しているアシル基を分析する目的で、成分1を前述の(4.2)の欄で説明したアルカリ分解して中和した後、オルテックC18マキシクリーンカートリッジカラム〔Alltec C18 Maxiclean cartridgeカラム〕での20%メタノール溶出フラクションを、トリメチルシリル化〔trimethylsilyl化〕して、ガスクロマトグラフ質量分析計で分析したところ、試薬の3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸〔3-hydroxy-3-methylglutaric acid〕とリテンションタイム(7.9分)およびMSスペクトルが一致した。
【0039】
さらに、オルテックC18マキシクリーンカートリッジカラム〔Alltec C18 Maxiclean cartridgeカラム〕での100%メタノール溶出区を、超高速液体クロマトグラフ-質量分析で分析したところ、成分4と同じリテンションタイムを示し、分子イオンピークm/zが、475.08[M−H]となり、アグリコンのm/zである313.03を検出した。この結果から、成分1は、成分4に3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル基〔3-hydroxy-3-methylglutaryl基〕が結合した物質であることが明らかとなった。13C−NMR、H−NMRの結果は、表2、表3に示すとおりである。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
13C−NMRのDEPT〔Distortionless Enhancement by Polarization Transfer〕135による分析で、アグリコンのメチレン基(−O−CH−O−)を示す「δ102.8」、グルコースのC6’’位のメチレン基を示す「δ63.1」、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル基〔3-hydroxy-3-methylglutaryl基〕のC2’’’とC4’’’のメチレン基を示す「δ45.1と45.2」のシグナルが検出された。
【0042】
2次元NMRのHMBCによる分析でグルコースのC6’’のプロトンと3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル基〔3-hydroxy-3-methylglutaryl基〕のC1’’’とに相関が見られるとから、グルコースの6位に3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル基が結合していることが明らかとなった。
【0043】
また、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル基が結合している炭素原子のシグナルは、2−3ppm低磁場側にシフトするとの報告がある(非特許文献10参照)。今回の分析結果でも、成分4のグルコースのC6’’の「δ60.8」が、成分1では3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル基が結合したことにより、「δ63.1」にシフトした。このことから、成分1は、3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[6''-(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル)-β-D-グルコピラノシド]〔3,5,4'-trihydroxy-6,7-methylenedioxyflavone-3-O-[6''-3-hydroxy-3-methylglutaryl)-β-D-glucopyranodside〕と同定した。
【0044】
成分2のハイレゾリューションモード〔high resolution mode〕での超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析で、分子イオンピークm/zは、517.0994[M−H](計算値517.0980)であった。フラグメントイオンとして、アセチル基が脱離したm/zが475.08の[(M−H)-アセチル]([(M-H)-acetyl])、アグリコンのm/zが313.0の[(M−H)-アセチル-グルコース]〔[(M-H)-acetyl-glucose]〕を検出した。
【0045】
成分2を前述の(4.2)の欄で説明したアルカリ分解して中和した後、超高速液体クロマトグラフ-質量分析計により分析したところ、このアルカリ分解物は、成分4であることが確認された。
【0046】
13C−NMRによる分析で、アセチル基を示すシグナル(C1’’’「δ170.0」、C2’’’「δ20.0」)と、H−NMRによる分析でのシグナル(C2’’’−H「δ1.75s」)が検出された。
【0047】
2次元NMRのHMBCによる分析でグルコースのC6’’のプロトンとアセチル基のC1’’’に相関が見られるとから、グルコースの6位にアセチル基が結合していることが明らかとなった。以上の結果から、成分2は、3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[6''-(アセチル)-β-D-グルコピラノシド]〔3,5,4'-trihydroxy-6,7-methylenedioxyflavone-3-O-[6''-(acetyl)-β-D-glucopyranoside〕と同定した。
【0048】
成分3のハイレゾリューションモード〔high resolution mode〕での超高速液体クロマトグラフ-質量分析計による分析で、分子イオンピークm/zは、531.0774[M−H](計算値531.0775)であった。
【0049】
成分3を前述の(4.2)の欄で説明したアルカリ分解して中和した後、超高速液体クロマトグラフ-質量分析計により分析したところ、分子イオンピークはm/zが489.07[M−H]となり、m/zが313.03の[M-グルクロン酸]〔[M-glucuronic acid]〕を検出した。
【0050】
また、成分3を、前述の(4.3)の欄で説明した酸分解して、トリメチルシリル化〔trimethylsilyl化〕して、ガスクロマトグラフ質量分析計で分析したところ、リテンションタイム15.9のピークが確認された。NISTライブラリとの照合により、酸分解物は、グルクロン酸と推定された。さらに、試薬のグルクロン酸をトリメチルシリル化〔trimethylsilyl化〕して、同様の条件で分析したところ、リテンションタイムは15.9であった。これにより、成分3のアグリコンにグルクロン酸が結合していることが明らかとなった。
【0051】
13C−NMRによる分析で、アセチル基を示すシグナル(C1’’’「δ169.9」、C2’’’「δ20.9」)と、H−NMRによる分析でのシグナル(C2’’’−H「δ2.00s」)が検出された。
【0052】
2次元NMRのHMBCによる分析で、C1’’のアノメリックプロトン(δ5.56)とC3(δ133.0)に相関が見られたことにより、グルクロン酸はC1’’位でアグリコンのC3位に結合していることが明らかとなった。また、アセチル基は、グルクロン酸のC2’’のプロトン(δ4.76)とアセチル基のC1’’’(δ169.9)に相関が見られ、アセチル基のC2’’’のプロトン(δ2.00)とC2’’のカーボン(δ74.0)に相関が見られたことにより、グルクロン酸のC2’’に結合していることが明らかとなった。以上の結果より、成分3は3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[2''-(アセチル)-β-D-グルクロニド]〔3,5,4'-trihydroxy-6,7-methylenedioxyflavone-3-O-[2''-(acetyl)-β-D-glucronide]〕と同定した。
【0053】
(機器分析データ)
以下に、成分1−成分5の機器分析データを示す。
【0054】
(成分1)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[6''-(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル)-β-D-グルコピラノシド]について
結晶:黄色アルモファス結晶、
融点(mp):208−210℃、
紫外吸収スペクトル(UV)λmax(メタノール溶媒):339,279,240sh,218nm、
赤外吸収スペクトル(IR)νmax:3300,2924,1717,1680,1610,1556,1481,1344,1271,1224,1182,1062,1014cm−1
13C−NMRとH−NMR(ジメチルスルホキシドd6溶液)のデータ:表2、表3に示すとおり。
超高速液体クロマトグラフ-質量分析計での分析データ:表1に示すとおり。
成分1の構造:以下の(化学式1)で示すとおり。
【0055】
【化1】
(成分2)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[6''-(アセチル)-β-D-グルコピラノシド]について
結晶:淡黄色アルモファス結晶、
融点(mp):218−220℃、
紫外吸収スペクトル(UV)λmax(メタノール溶媒):340,278,240sh nm
赤外吸収スペクトル(IR)νmax:3312,2908,1728,1681,1610,1553,1472,1344,1269,1227,1179,1058,1009cm−1
13C−NMRとH−NMR(ジメチルスルホキシドd6溶液)のデータ:表2、表3に示すとおり。
超高速液体クロマトグラフ-質量分析計での分析データ:表1に示すとおり。
成分2の構造:以下の(化学式2)で示すとおり。
【0056】
【化2】
(成分3)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[2''-(アセチル)-β-D-グルクロニド]について
結晶:黄色アルモファス結晶、
紫外吸収スペクトル(UV)λmax(メタノール溶媒):343,274,240sh nm、
赤外吸収スペクトル(IR)νmax:3356,2920,1732,1682,1611,1562,1471,1348,1223,1180,1028cm−1
13C−NMRとH−NMR(ジメチルスルホキシドd6溶液)のデータ:表2、表3に示すとおり。
超高速液体クロマトグラフ-質量分析計での分析データ:表1に示すとおり。
成分3の構造:以下の(化学式3)で示すとおり。
【0057】
【化3】
(成分4)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-β-D-グルコピラノシドについて
結晶:白色アルモファス結晶、
融点(mp):297℃、
紫外吸収スペクトル(UV)λmax(メタノール溶媒):340,278,239sh nm、
赤外吸収スペクトル(IR)νmax:3393,3236,2891,1678,1610,1550,1468,1335,1275,1173,1051,1010cm−1
13C−NMRとH−NMR(ジメチルスルホキシドd6溶液)のデータ:表2、表3に示すとおり。
超高速液体クロマトグラフ-質量分析計での分析データ:表1に示すとおり。
成分4の構造:以下の(化学式4)で示すとおり。
【0058】
【化4】
(成分5)3,5,4'-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボンについて
結晶:淡緑色針状結晶、
融点(mp):>300℃、
紫外吸収スペクトル(UV)λmax(メタノール溶媒):354,273,241sh nm
赤外吸収スペクトル(IR)νmax:3292,1681,1624,1607,1553,1495,1362,1269,1238,1157,1099,1074,1012cm−1
13C−NMRとH−NMR(ジメチルスルホキシドd6溶液)のデータ:表2、表3に示すとおり。
超高速液体クロマトグラフ-質量分析計での分析データ:表1に示すとおり。
成分5の構造:以下の(化学式5)で示すとおり。
【0059】
【化5】
(実施例2)
(HMG−CoA還元酵素阻害活性試験)
HMG−CoA還元酵素〔ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(hydroxymethylglutaryl-CoA reductase, HMG-CoA reductase, HMGR)または3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAレダクターゼ(3-hydroxy-3-methyl-glutaryl-CoA reductase)〕は、コレステロールや他のイソプレノイドを合成するメバロン酸経路の律速酵素の一つである。
【0060】
タデアイの葉の80%メタノール抽出物のHMG−CoA還元酵素阻害活性をHMG−CoA還元酵素アッセイキット〔HMG-CoA reductase assay kit〕を用いて測定したところ、活性が確認された(表4参照)。そこで、ダイヤイオンHP−20カラムで分画した、50%、70%および100%のメタノールで溶出したフラクションを用いた抽出物(分画物)について、HMG−CoA還元酵素阻害活性を測定した。表4に、タデアイ葉の80%メタノール抽出物およびダイヤイオンHP−20カラムで分画した分画物のHMG−CoA還元酵素に対する阻害作用を示す。80%メタノール抽出物とダイヤイオンHP−20の分画物は20μgを試験に用いた。表4に示すように、100%のメタノール溶出フラクションを用いた場合に強い活性が確認された。
【0061】
【表4】
次いで、上記フラクションに含まれている主要な成分1−成分5(化学式1−化学式5)についてHMG−CoA還元酵素阻害活性を測定した。表5に、成分1−成分5(化学式1−化学式5)のHMG−CoA還元酵素に対する阻害作用を示す。ポジティブコントロールとして、HMG−CoA還元酵素アッセイキットに含まれているプラバスタチン(比較例1)、プラバスタチン〔pravastatin〕よりHMG−CoA還元酵素阻害活性が低い阻害剤であるロバスタチン(比較例2)、過去にHMG−CoA還元酵素阻害活性が報告されているフラボノイドであるルチン(比較例3、例えば、非特許文献11参照)についても、HMG−CoA還元酵素阻害活性を測定した(表5参照)。
【0062】
表5に、成分1−成分5(化学式1−化学式5)、プラバスタチン、ルチンおよびロバスタチンのHMG−GoA還元酵素に対する阻害作用を示す。なお、データは平均±標準誤差(n=3)で示した。
【0063】
【表5】
表5に示すように、成分1−成分5(化学式1−化学式5)には、いずれも阻害活性が確認された。そして、阻害剤無添加のHMG−CoA還元酵素の活性を100%とした場合、ポジティブコントロールのプラバスタチン(比較例1)を0.25μM添加したとき、HMG−CoA還元酵素活性は、23.1±5.6%であった。ロバスタチン(比較例2)では、200μMで、57.5±3.4%であった。今回単離した成分1(化学式1)は、これらとほぼ同じ活性(60.0±3.7%)を示した。
【0064】
そして、成分2(化学式2)、成分3(化学式3)および成分4(化学式4)の50%阻害濃度は、それぞれ177.2μM、183.3μM、151.1μMであった。また、ルチン(比較例3)については、今回の反応系においては、200μMの濃度では、阻害活性は確認できなかった。成分5(化学式5)については、反応系での溶解度が低いため50μMまでの濃度で測定した。
【0065】
以上詳細に説明したように、今回同定した成分1−成分5(化学式1−化学式5)である3,5,4'-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン配糖体〔3,5,4'-trihidroxy-6,7-methylenedioxyflavone配糖体〕は、タデアイの葉のポリフェノール成分の主要な物質群で有り、かつ、HMG−CoA還元酵素阻害活性を有すことが明らかとなった。
【0066】
(まとめ)
以上の実施例1、2から、成分1−成分3に係る新規フラボノイド化合物である(上記化学式1−化学式3)に示す化学構造体を明らかにすることができた。
【0067】
また、この新規フラボノイド化合物(上記化学式1−化学式3)と既知物質(上記化学式4、化学式5)について、HMG−CoA還元酵素阻害剤としての新たな用途を見出すことができた。
【0068】
なお、上記実施例1、2においては、タデアイの葉を、アルコールで抽出し、成分1−成分5を得たが、タデアイの葉を搾汁することにより、成分1−成分5を得てもよい。また、アルコールの他、水、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、またはクロロホルムなどを用いて抽出してもよい。
【0069】
(応用例)
近年、高脂血症、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病が社会問題となっている中、健康維持を目的とした植物由来の物質や、また、それを利用した健康食品等が注目されている。日本人の死因として悪性新生物(癌)に続き多く見受けられる心疾患や脳血管疾患などの血管疾患と関わりが深い動脈硬化の原因の一つとして、高脂血症が考えられ、この予防として、コレステロールの低減を効果的に図ることが望まれる。
【0070】
このようなコレステロールを低減させる手段として、コレステロール合成に係わるHMG−CoA還元酵素を阻害することが有効であり、HMG−CoA還元酵素阻害剤として、実施例1、2で説明したフラボノイド化合物(成分1−成分5)を用いることができる。
【0071】
タデアイの葉から得られたフラボノイド化合物(成分1−成分5)は、各成分を精製して個別にHMG−CoA還元酵素阻害剤として用いてもよいし、また、上記成分1−成分5のうちのいずれかの混合物をHMG−CoA還元酵素阻害剤として用いてもよい。例えば、食品に添加する場合には、タデアイの葉の搾汁液やアルコールなどによる抽出液をそのまま使用してもよい。精製したもの、搾汁液や抽出液を乾固したものを食品に加えてもよい。
【0072】
また、菓子、パン、茶、ジュースなどの飲料、清酒、ビール、豆腐、麺類、調味料等の食品には、100gあたり、乾固したものを、例えば0.001μg以上、100mg以下の範囲で添加すればよい。表5の結果より、成分1−成分5はロバスタチンと同等もしくはそれ以上のHMG−CoA還元酵素阻害活性を有している。したがって、ロバスタチンが使用されている投与量(1日あたり10−80mg)から考えて100gあたり、乾固したものを0.7mg以上添加した場合には、ロバスタチンと同等の効果が確保できる。
【0073】
また、100mg以下であれば食品自体に対する食味の低下を抑制することができる。飲料(例えば、黒豆茶、ハーブティー、紅茶、黒豆茶、プーアル茶、ヤーコン茶、緑茶など)へも、同様の割合で添加することで、風味を害することなく、HMG−CoA還元酵素阻害効果を確保できる。
【0074】
また、健康食品への添加も当然に考えられる。例えば、ドリンク剤や錠剤、カプセル等サプリメントなどの健康食品への添加が考えられる。かかる健康食品の添加に際しては、例えば、1日摂取量が0.1mg以上、100mg以下となるように添加すればよい。
【0075】
実施例1、2で説明したフラボノイド化合物(成分1−成分5、混合物を含む)を、医薬品として使用してもよい。HMG−CoA還元酵素を阻害し、コレステロールを低減させる薬として、錠剤およびドリンク剤などの形態で医薬品として利用してもよい。この場合、例えば、1日摂取量が0.1mg以上、100mg以下となるように添加すればよい。
【0076】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、実施の形態1で検討した成分1−成分5の抗酸化活性について検討した。
【0077】
(実施例)
(親水性酸素ラジカル吸収能(H−ORAC)法による抗酸化活性の確認試験)
親水性酸素ラジカル吸収能(H−ORAC)法による成分1−5の抗酸化活性の確認は、「非特許文献:沖智之,竹林純,山崎光司,食品機能性評価マニュアル集第II集,「ORAC法」,食品機能性評価支援センター技術普及資料等検討委員会編,(社団法人日本食品科学工学会,つくば), pp.79−86 (2008).」の方法にしたがって行った。H−ORAC値は、トロロックス(TE)相当量(molTE/mol)で表した。
【0078】
成分1−5のH−ORAC値はそれぞれ6.50±0.15、5.67±0.08、5.37±0.15、6.03±0.06、3.95±0.41molTE/molであった。
【0079】
このように、新規フラボノイド化合物(上記化学式1−化学式3)と既知物質(上記化学式4、化学式5)について、抗酸化剤としての新たな用途を見出すことができた。
【0080】
(応用例)
実施の形態1においても説明した動脈硬化について、その発症には活性酸素やフーリーラジカルなどの酸化ストレスによるLDLの酸化が深く関わっていると考えられている。この酸化を抑えるためには抗酸化物質の摂取が有効であり、抗酸化剤として実施例1、2で説明したフラボノイド化合物(成分1−成分5)を用いることができる。
【0081】
タデアイの葉から得られたフラボノイド化合物(成分1−成分5)は、各成分を精製して個別に抗酸化剤として用いてもよいし、また、上記成分1−成分5のうちのいずれかの混合物を抗酸化剤として用いてもよい。例えば、食品に添加する場合には、タデアイの葉の搾汁液やアルコールなどによる抽出液をそのまま使用してもよい。精製したもの、搾汁液や抽出液を乾固したものを食品に加えてもよい。
【0082】
具体的な用法、容量については、例えば、前述したHMG−CoA還元酵素阻害剤と同様の用法(例えば、食品、健康食品や医薬品)、容量にて用いることができる。
【0083】
また、抗酸化作用を有する成分1−成分5については、化粧品などに用いることができる。例えば、化粧水、クリームなどに0.001μg以上、100mgの範囲で添加してもよい。
【0084】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【要約】
【課題】タデアイの葉から得られた新規フラボノイド化合物を提供する。また、タデアイの葉から得られたフラボノイド化合物(既知物質を含む)の新たな用途を提供する。
【解決手段】新規フラボノイド化合物は、(成分1)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[6''-(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル)-β-D-グルコピラノシド]、(成分2)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[6''-(アセチル)-β-D-グルコピラノシド]、(成分3)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-[2''-(アセチル)-β-D-グルクロニド]である。既知物質は、(成分4)3,5,4’-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボン-3-O-β-D-グルコピラノシドと、(成分5)3,5,4'-トリヒドロキシ-6,7-メチレンジオキシフラボンである。これらのフラボノイド化合物は、いずれもHMG−CoA還元酵素阻害活性が確認された。
【選択図】なし
図1A
図1B
図2A
図2B