(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の一実施形態による掘削機の一例であるショベルの全体構成及び駆動系の構成について説明する。
図1は本発明の一実施形態による掘削機の一例であるショベルを示す側面図である。
【0016】
図1に示すショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端に、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にバケット6が取り付けられている。ブーム4,アーム5及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
【0017】
図1に示すショベルはハイブリッド型ショベルであり、サーボ制御ユニット60を備えている(
図4参照)。サーボ制御ユニット60は、旋回機構2を駆動するための旋回用電動機21(交流電動機)、及びエンジン11をアシストするための電動発電機12の駆動を制御する。また、サーボ制御ユニット60は蓄電装置120の蓄電器(キャパシタ)の充放電を制御する。サーボ制御ユニット60は、直流電力を交流電力に変換して交流電動機や電動発電機を駆動するためのインバータユニット、バッテリの充放電を制御する昇降圧コンバータユニットといった複数のドライバユニットと、該複数のドライバユニットを制御するためのコントロールユニットとを備えている。
【0018】
図2は、
図1に示すショベルの電気系統や油圧系統等の駆動系を示すブロック図である。
図2において、機械的に動力を伝達する系統を二重線で、油圧系統を太い実線で、操縦系統を破線で、電気系統を細い実線でそれぞれ示されている。
図3は、
図2における蓄電装置120の回路図である。
【0019】
図2に示すように、ショベルは電動発電機12および変速機13を備えており、エンジン11及び電動発電機12の回転軸は、共に変速機13の入力軸に接続されることにより互いに連結されている。エンジン11の負荷が大きいときには、電動発電機12がエンジン11を作業要素として駆動することによりエンジン11の駆動力を補助(アシスト)し、電動発電機12の駆動力が変速機13の出力軸を経てメインポンプ14に伝達される。一方、エンジン11の負荷が小さいときには、エンジン11の駆動力が変速機13を経て電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が発電を行う。電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet)モータによって構成される。電動発電機12の駆動と発電との切り替えは、ショベルにおける電気系統の駆動制御を行うコントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
【0020】
変速機13の出力軸にはメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されており、メインポンプ14には高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。コントロールバルブ17は、ショベルにおける油圧系の制御を行う装置である。コントロールバルブ17には、
図1に示した下部走行体1を駆動するための油圧モータ1a及び1b、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が、高圧油圧ライン16を介して接続されている。コントロールバルブ17は、これら油圧機器に供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御する。
【0021】
電動発電機12はインバータ回路18Aに接続されている。インバータ回路18Aの入力端には、蓄電装置120が接続されている。蓄電装置120は、
図3に示すように、直流母線であるDCバス110、昇降圧コンバータ(直流電圧変換器)100及びキャパシタ19を備えている。即ち、インバータ回路18Aの入力端は、DCバス110を介して昇降圧コンバータ100の入力端に接続されている。昇降圧コンバータ100の出力端には、蓄電器としてのキャパシタ19が接続されている。キャパシタ19は、例えば電気二重層コンデンサ(EDLC)によって構成される。キャパシタ19の一例としては、電圧2.5V、容量2400Fのキャパシタセルが144個直列に接続されキャパシタ(すなわち、端子間電圧360V)が用いられる。
【0022】
インバータ回路18Aは、コントローラ30からの指令に基づき、電動発電機12の運転制御を行う。すなわち、インバータ回路18Aが電動発電機12を力行運転させる際には、必要な電力をキャパシタ19と昇降圧コンバータ100からDCバス110を介して電動発電機12に供給する。また、電動発電機12を回生運転させる際には、電動発電機12により発電された電力をDCバス110及び昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に充電する。なお、昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧値、バッテリ電圧値、及びバッテリ電流値に基づき、コントローラ30によって行われる。これにより、DCバス110を、予め定められた一定電圧値に蓄電された状態に維持することができる。
【0023】
更に、蓄電装置120には、インバータ回路20Aを介して、作業用電動機としての旋回用電動機(交流電動機)21が接続されている。すなわち、インバータ回路10Aの一端は蓄電装置120のDCバス110に接続されており、他端は旋回用電動機21に接続されている。旋回用電動機21は、上部旋回体3を旋回させる旋回機構2の動力源である。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24が接続される。作業中は、蓄電装置120は目標値として設定された充電率になるように、コントローラ30により制御される。
【0024】
旋回用電動機21が力行運転を行う際には、旋回用電動機21の回転駆動力の回転力が旋回変速機24にて増幅され、上部旋回体3が加減速制御され回転運動を行う。また、上部旋回体3の慣性回転により、旋回変速機24にて回転数が増加されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させる。旋回用電動機21は、PWM(Pulse Width Modulation)制御信号によりインバータ回路20Aによって交流駆動される。旋回用電動機21としては、例えば、磁石埋込型のIPMモータが好適である。
【0025】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転位置及び回転角度を検出するセンサである。レゾルバ22は、旋回用電動機21に機械的に連結されることで回転軸21Aの回転角度及び回転方向を検出する。レゾルバ22が回転軸21Aの回転角度を検出することにより、旋回機構3の回転角度及び回転方向が導出される。メカニカルブレーキ23は、機械的な制動力を発生させる制動装置であり、コントローラ30からの指令によって、旋回用電動機21の回転軸21Aを機械的に停止させる。旋回変速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転速度を減速して旋回機構2に機械的に伝達する減速機である。
【0026】
なお、DCバス110には、インバータ回路18A及び20Aを介して、電動発電機12、及び旋回用電動機21がそれぞれ接続されている。したがって、電動発電機12で発電された電力が旋回用電動機21に直接に供給される場合もあり、逆に、旋回用電動機21で回生された電力が電動発電機12に供給される場合もある。
【0027】
インバータ回路18A及び20Aは大電力を制御するので、発熱量が極めて大きい。また、昇降圧コンバータ100に含まれるリアクトル101(
図3参照)における発熱量も大きい。したがって、インバータ回路18A及び20A、並びに昇降圧コンバータ100を冷却する必要がある。そこで、本実施形態のショベルは、エンジン11用の冷却液循環システムとは別に、昇降圧コンバータ100、インバータ回路18A及び20Aを冷却するための冷却液循環システムを備えている。
【0028】
図4は冷却液循環システム70のブロック図である。冷却液循環システム70は、昇降圧コンバータ100、インバータ回路18A及び20A等に供給される冷却液を循環させるためのポンプ(冷却液循環用ポンプ)72と、ポンプ72を駆動するポンプモータ(冷却用電動機)71とを有している。
図2に示すように、ポンプモータ71は、インバータ回路20Cを介して蓄電装置120に接続されている。インバータ回路20Cは、本実施形態における冷却用電動機駆動回路に相当する。インバータ回路20Cは、コントローラ30からの指令に基づき、昇降圧コンバータ100を冷却する際にポンプモータ71へ要求された電力を供給する。本実施形態による冷却液循環システム70は、昇降圧コンバータ100、インバータ回路18A及び20A、並びにコントローラ30を冷却する。加えて、冷却液循環システム70は、旋回用電動機21、電動発電機12、及び変速機13を冷却する。
【0029】
図2に戻り、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続されている。操作装置26は、旋回用電動機21、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6を操作するための操作装置であり、操作者によって操作される。操作装置26には、油圧ライン27を介してコントロールバルブ17が接続され、また、油圧ライン28を介して圧力センサ29が接続される。操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を操作者の操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。ここでは、作業用電動機としての旋回用電動機21を挙げているが、さらに、下部走行体1の駆動機構を作業用電動機として電気駆動させても良い。
【0030】
圧力センサ29は、操作装置26に対して旋回機構2を旋回させるための操作が入力されると、この操作量を油圧ライン28内の油圧の変化として検出する。圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。この電気信号は、コントローラ30に入力され、旋回用電動機21の駆動制御に用いられる。
【0031】
コントローラ30は、本実施形態における制御部を構成する。コントローラ30は、CPU及び内部メモリを含む演算処理装置によって構成され、内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムをCPUが実行することにより実現される。また、コントローラ30の電源は、キャパシタ19とは別のバッテリ(例えば、24V車載用バッテリ)である。コントローラ30は、圧力センサ29から入力される信号のうち、上部旋回体3を旋回させるための操作量を表す信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。また、コントローラ30は、電動発電機12の運転制御(アシスト運転及び発電運転の切り替え)、並びに、昇降圧コンバータ100を駆動制御することによるキャパシタ19の充放電制御を行う。
【0032】
また、本実施形態によるコントローラ30は、ショベルのメンテナンス等を実施するときにDCバス110の電圧を低下させるためのDCバス電圧低下モード(母線電圧低下モード)を有している。具体的には、DCバス電圧低下モードでは、DCバス110に接続された平滑用コンデンサ等に蓄積された電荷を消費させることで、DCバス110の電圧を低下させる。
【0033】
コントローラ30は、このDCバス電圧低下モードにおいて、インバータ回路18A及び20A、並びに昇降圧コンバータ100を全て停止させ、昇降圧コンバータ100とキャパシタ19との間に設けられたスイッチ(後述する)を非接続状態とする。その後、コントローラ30は、インバータ回路20Cを駆動してポンプモータ71に電力を消費させることによりDCバス110の電圧を低下させる。DCバス電圧低下モードは、ショベルの運転が停止された際(具体的には、操作者のキー40の操作によりエンジン11が停止しようとするとき)に開始される。或いは、DCバス電圧低下モードは、キャビン10の運転室(
図1参照)内の操作パネルを介して作業者によりDCバス電圧低下モードの開始に関する入力が為された際に開始される。
【0034】
ここで、本実施形態における昇降圧コンバータ100について詳細に説明する。
図3に示すように、昇降圧コンバータ100は、昇降圧型のスイッチング制御方式を備えており、リアクトル101、トランジスタ100B及び100Cを有する。トランジスタ100Bは昇圧用のスイッチング素子であり、トランジスタ100Cは降圧用のスイッチング素子である。トランジスタ100B及び100Cは、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)によって構成され、互いに直列に接続されている。
【0035】
具体的には、トランジスタ100Bのコレクタとトランジスタ100Cのエミッタとが相互に接続される。トランジスタ100Bのエミッタはスイッチ100Fを介してキャパシタ19の負側端子およびDCバス110の負側配線に接続される。トランジスタ100CのコレクタはDCバス110の正側配線に接続される。そして、リアクトル101の一端はトランジスタ100Bのコレクタ及びトランジスタ100Cのエミッタに接続され、他端はスイッチ100Eを介してキャパシタ19の正側端子に接続される。トランジスタ100B及び100Cのゲートには、コントローラ30からPWM電圧が印加される。スイッチ100E及び100Fは、コントローラ30からの指令によりその接続状態が制御される。
【0036】
なお、トランジスタ100Bのコレクタとエミッタとの間には、整流素子であるダイオード100bが逆方向に並列接続されている。同様に、トランジスタ100Cのコレクタとエミッタとの間には、ダイオード100cが逆方向に並列接続されている。トランジスタ100Cのコレクタとトランジスタ100Bのエミッタとの間(すなわち、DCバス110の正側配線と負側配線との間)には、平滑用のコンデンサ110aが接続される。コンデンサ110aは、昇降圧コンバータ100からの出力電圧、電動発電機12からの発電電圧や旋回用電動機21からの回生電圧を平滑化する。DCバス110の正側配線と負側配線との間には、DCバス110の電圧を検出するための電圧センサ110bが設けられる。電圧センサ110bにより検出した電圧はコントローラ30へ供給される。
【0037】
上述のような構成を有する昇降圧コンバータ100において、電力をキャパシタ19からDCバス110へ供給する際には、スイッチ100E,100Fが接続された状態で、コントローラ30からの指令によってトランジスタ100BのゲートにPWM電圧が印加される。そして、トランジスタ100Bのオン/オフに伴ってリアクトル101に発生する誘導起電力がダイオード100cを介して伝達され、この電力がコンデンサ110aにより平滑化される。また、直流電力をDCバス110からキャパシタ19へ供給する際には、スイッチ100E,100Fが接続された状態で、コントローラ30からの指令によってトランジスタ100CのゲートにPWM電圧が印加されるとともに、トランジスタ100Cから出力される電流がリアクトル101により平滑化される。
【0038】
図4を参照すると、冷却液循環システム70は、ポンプモータ71によって駆動されるポンプ72と、ラジエター73と、サーボ制御ユニット60とを含んでいる。ポンプ72によって循環された冷却液はラジエター73において放熱され、サーボ制御ユニット60へ送られる。サーボ制御ユニット60は、昇降圧コンバータ100、インバータ回路18A及び20A、並びにコントローラ30を冷却するための配管を有しており、冷却液はこの配管内を循環する。サーボ制御ユニット60の配管を通過した冷却液は、旋回用電動機21、電動発電機12、及び変速機13をこの順に冷却したのち、ポンプ72からラジエター73へ戻される。なお、サーボ制御ユニット60の入口には、冷却液の温度を検出するための温度センサ77が設けられることが好ましい。更に、検出した温度を表示する表示装置を備えるとなお良い。これにより、ラジエター73が詰まり冷却性能が低下した場合には、温度検出値に基づいて旋回用電動機21及び電動発電機12(または、これらのうち一方)の出力を制限することができる。その結果、連続的な運転を可能とすることができ、ショベルの運転を停止させることなく継続的な作業が可能となる。
【0039】
本実施形態では、以上のような構成のショベルにおいて、ショベルの運転を停止する際に、キャパシタ19の端子間電圧(以下、キャパシタ電圧と称する)を低下させる処理を行う。すなわち、エンジン11の駆動が停止された時点で、キャパシタ19に蓄えられている電力を放電することで、キャパシタ電圧を所定の電圧値以下まで低下させる。このキャパシタ電圧を低下させる処理を「電圧抜き」と称する。
【0040】
すなわち、ショベルでの作業が終了し、ショベルの運転が停止されたときには、キャパシタ19には運転時に必要な電力が蓄積されており、キャパシタ電圧は高い状態となっている。ここで、ショベルの運転を停止するために、エンジン11のキー40がOFFとされると、ショベルの運転が再開されるまでの間は、キャパシタ電圧が高いままに維持される。例えば、電気二重層コンデンサ(EDLC)よりなるキャパシタ19は、キャパシタ電圧が高いほど劣化度(劣化の進み具合)が大きいと言われている。したがって、ショベルの運転が停止された状態においてキャパシタ19の劣化を抑制するために、上述の「電圧抜き」を行ってキャパシタ電圧を低下させる。また、上述では、冷却液循環システムのポンプモータ71を駆動して電圧抜きを行なう事例を示したが、その他、電動発電機12を駆動して電圧抜きを行なってもよい。さらに、シリンダからの戻り油を用いて回生発電機により回生発電を行なう場合には、回生発電機を駆動して電圧抜きを行なうこともできる。
【0041】
キャパシタの劣化度は、キャパシタの内部抵抗の変化率から推測することができる。すなわち、キャパシタが劣化すると、劣化度に比例して内部抵抗が上昇するので、内部抵抗を劣化度の指標とすることができる。
【0042】
ここで、本発明者は、電気二重層コンデンサ(EDLC)の劣化度に関して調査した結果、電気二重層コンデンサの各セルの電極材料や製造工程等の条件によっては、キャパシタ電圧を低くすればするほど内部抵抗変化率(すなわち、劣化度)が小さくなるわけでは無いという知見を得た。すなわち、ある電気二重層コンデンサにおいて、各セルのセル電圧が高い状態と低い状態との間で、セルの内部抵抗変化率(すなわち、劣化度)が小さくなる電圧範囲が存在することがわかった。なお、一般的に、電気二重層コンデンサは、端子間電圧が2〜3Vのセルを複数個直列に接続して構成され、複数のセルを合わせた全体の端子間電圧(すなわち、キャパシタ電圧)が数百ボルトとなるように設計されている。
【0043】
図5は、そのような電気二重層コンデンサのセルのうち一つのセルの内部抵抗変化率を示すグラフ(実験式)である。
図5において、横軸はキャパシタ電圧(V)を示し、縦軸は内部抵抗変化率(%)を示す。内部抵抗変化率は、セルをある時間放置した後のセルの内部抵抗と、そのセルを有る時間放置する前の初期内部抵抗との比率で表される。例えば、内部抵抗が変化しないときには、内部抵抗変化率は100%となり、内部抵抗が2倍になったときには、内部抵抗変化率は200%となる。
【0044】
図5に示すグラフは、セルを所定の蓄電状態にしてから1000時間そのまま放置した際のセルの内部抵抗変化率を示しており、蓄電状態を変えたときに(すなわち、セル電圧を変えたときに)内部抵抗変化率がどのように変化するかを示している。このセルの通常使用時の電圧は、例えば1.5V〜2.5Vであり、
図5において「通常使用範囲」として示されている。また、1.8〜2.3Vが「適正範囲」として示されている。
【0045】
図5において、セルの内部抵抗変化率を示す曲線は、2.0Vで最小値となる下に閉じた曲線となっている。セル電圧が2.0Vより高くなるにつれ、セルの内部抵抗変化率は大きくなっていき、セル電圧が2.0Vより低くなるにつれ、セルの内部抵抗変化率は大きくなっていく。さらに、セル電圧を小さくした0.3Vでも180%と高い値となってしまう。これは、セル電圧が2.0Vのときが、1000時間放置後のセルの内部抵抗が最も小さく、劣化度が最も小さいことを意味する。そして、セル電圧が2.0Vより低くなるほど、1000時間放置後のセルの内部抵抗は大きくなり、劣化度が大きくなっていく。以上のように、セルの内部抵抗変化率を示す曲線は、通常使用範囲において、一つの極小値をもつ曲線を形成する。また、セルの内部抵抗変化率を示す曲線の曲率は、蓄電セルの温度や使用時間によって変化する。
【0046】
図5に示すセルの特性を考慮すると、
図5に示す特性を有するセルは、作業終了時のセル電圧を適正範囲内にすることで、エンジン停止中においてセル電圧が低下しても、セル電圧を通常使用範囲内に維持することができる。具体的には、本実施の形態においては、セル電圧を2.0Vに維持しておくことで、セル電圧に起因した劣化が抑制され、セルを劣化させないようにすることができることがわかる。すなわち、
図5に示す特性を有するセルを用いて構成したキャパシタをショベルの蓄電装置120のキャパシタ19として用いた場合、ショベルの運転を停止している間は、セル電圧が2.0Vとなるキャパシタ電圧となるように電圧抜きを行なっておけば、運転停止中におけるキャパシタ19の劣化を抑制することができる。
【0047】
なお、
図5に示す劣化度の特性は、ある特定の電極材料をセルの電極材料として用いたときの劣化度を示しているものであり、全てのキャパシタのセルに当てはまるものでは無い。
【0048】
ここで、ショベルの運転停止中のキャパシタ19の各セルのセル電圧の変化について考察する。
図6はセル電圧の変化を示すグラフである。
図6において、時刻t1まではショベルが運転しており、キャパシタ19は運転中の充電状態に維持されており、セル電圧は2.5Vが維持されるように制御されている。
【0049】
時刻t1において、ショベルの運転が停止され、キー40がOFFとされる。ここで、本実施形態では、キャパシタ19の電圧抜きが行なわれ、セル電圧が2.0Vとなるまでキャパシタ19の放電が行なわれる。このときにキャパシタ19から放出される電力は、上述の冷却液循環システム70のポンプモータ71に送られ、ポンプモータ71で消費される。すなわち、キャパシタ19に蓄積された余分な電力で冷却液循環システム70を駆動することで、電圧抜きが行なわれる。冷却液循環システム70は、ショベルの運転が停止された後も、しばらくの間駆動される。したがって、キャパシタ19の電圧抜きで放出される電力を冷却液循環システム70の駆動に充当することは、省電力化につながる。
【0050】
時刻t1は、例えば、一日のショベルでの作業が終了した17時(午後5時)である。時刻t1にいてショベルのキー40がOFFとなると、電圧抜きが開始される。電圧抜きでは、キャパシタ19に蓄積されている電力が冷却液循環システム70に供給され、ポンプモータ71により消費される。したがって、キャパシタ19の電力は減少し、これによりキャパシタ電圧(すなわち、セル電圧)も減少する。
【0051】
時刻t1からセル電圧が減少していき、時刻t2においてセル電圧が2.0Vとなると、電圧抜きは終了される。時刻t2は例えば18時(午後6時)であり、電圧抜きはちょうど一時間行なわれたこととなる。時刻t2以降はキャパシタ19の電力授受は行なわれず、キャパシタ19は放置された状態となる。このとき、セル電圧は2.0Vとなっているので、キャパシタ19の劣化は最小限となっている。ここで、作業終了時のセル電圧が2.0Vより小さい場合には、キャパシタ19へ充電を行ない、セル電圧を第1の所定の電圧値である2.0Vにする。
【0052】
時刻t2以降は、キャパシタ19が蓄積している電力は、自然放電により徐々に減少していき、それに伴ってセル電圧も徐々に低下していく。しかし、自然放電によるセル電圧の低下は僅かであり、セル電圧は2.0Vから急激に低下することはないので、セル電圧は継続してほぼ2.0Vに維持される。そして、次の日にショベルの作業を行なうためにキー40がONとされる時刻t3となるまで、セル電圧は2.0Vに近い値に維持される。時刻t3におけるセル電圧は例えば1.8V程度であり(自然放電で0.2Vだけセル電圧が低下したこととなる)、この電圧値におけるキャパシタの劣化度は小さい。
【0053】
時刻t3は、例えば翌日にショベルの作業を開始するためにキー40がONとされる9時(午前9時)である。時刻t3でキー40がONとされ、エンジン11の運転が開始されると、キャパシタ19への充電が開始され、キャパシタの蓄電量は増大し、したがって、セル電圧は上昇していく。時刻t4になるとキャパシタが十分に充電された状態となり、このときのセル電圧は2.5Vとなる。
【0054】
以上のように、本実施形態による掘削機では、エンジン11の駆動が停止されたら、キャパシタ19の電圧が第1の所定の電圧値となるまで電圧抜きを行い、エンジン11の駆動停止中にキャパシタ19の電圧が第2の所定の電圧値より高い状態が維持される。ここで、第1の所定の電圧値は、キャパシタ19の各セルのセル電圧が、劣化度が最小となるときのセル電圧である2.0Vとなるようなキャパシタ電圧である。また、第2の所定の電圧値は、キャパシタ19の各セルの電圧がほぼ2.0Vに維持されるようなキャパシタ電圧であり、本実施形態では、例えばセル電圧が1.75Vとなるようなキャパシタ電圧とする。
図5から分るように、セル電圧が1.75Vのときは、内部抵抗変化率は125%程度であり、セル電圧が1.75Vのときに劣化度は、セル電圧が2.0Vのときの劣化度とほとんど変わらず、実質的にセル電圧が2.0Vのときの劣化度が維持される。このように、本実施形態では、少なくとも、定格電圧(2.5V)の50%以下の電圧にならないように維持される。
【0055】
なお、本実施形態において、キャパシタ19の通常使用時のキャパシタ電圧は、セル電圧が2.0Vとなるようなキャパシタ電圧である。したがって、第1の所定の電圧値はキャパシタ19が通常使用時のキャパシタ電圧となるようなセル電圧(2.5V)よりもはるかに低い値である。したがって、電圧抜きによりキャパシタ19から放出される電力は、冷却液循環システム70を駆動するのに十分な電力である。
【0056】
本実施形態では、キャパシタ19の各セルの電極材料で決まるキャパシタ19の劣化特性から、劣化度が最小となるセル電圧(2.0V)を求め、このセル電圧を第1の所定の電圧値として設定している。すなわち、キャパシタ19の各セルの電極材料に起因する劣化度の変化に基づいて第1の所定の電圧値が決定される。
【0057】
また、本実施形態では、蓄電装置120の蓄電器としてキャパシタ19を用いている。通常、蓄電器はバッテリ等の蓄電池と異なり、通常の使用条件でキャパシタ電圧が0Vとなるまで放電することができる。
【0058】
以上の実施形態では水冷ポンプで電力を消費することで電圧抜きを行なっているが、電圧抜きに用いる電気負荷は、水冷ポンプに限られることなく、例えば、電動発電機などの他の電気負荷を用いて電圧抜きを行なってもよい。また、ブーム回生発電用の発電機が設けられている場合には、ブーム回生発電用の発電機を用いて電圧抜きを行なってもよい。
【0059】
なお、上述の実施形態では旋回機構2が電動式であったが、旋回機構2が電動ではなく油圧駆動の場合がある。
図7は
図2に示すショベルの旋回機構を油圧駆動式とした場合の駆動系の構成を示すブロック図である。
図7に示すショベルでは、旋回用電動機21の代わりに、旋回油圧モータ2Aがコントロールバルブ17に接続され、旋回機構2は旋回油圧モータ2Aにより駆動される。このような構成のショベルであっても、上述の実施形態のようにして、エンジン11の駆動停止中に、キャパシタ19の電圧を第2の所定の電圧値より高い状態に維持することにより、掘削機の運転停止中におけるキャパシタ19の劣化を抑制することができる。
【0060】
本発明は具体的に開示された上述のショベルを一例とする実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変形例及び改良例がなされるであろう。
【0061】
本出願は、2012年3月28日出願の優先権主張日本国特許出願第2012−074434号に基づくものであり、その全内容は本出願に援用される。