(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2等に開示されている製造方法のように、黒錆微粒子を得るには、化学反応などの特別な処理が必要になる。このため、黒錆微粒子をより効率良く得られる製造方法の登場が望まれている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、効率良く製造することができる黒錆微粒子の製造方法、製造装置及び黒錆微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る黒錆微粒子の製造方法は、
鋳鉄を、切削油をかけながら、切削工具により切削する切削工程と、
前記切削油から切削屑を回収する回収工程と、
回収された前記切削屑から黒錆微粒子を分離する分離工程と、
を含む。
【0009】
前記切削工程は、
前記鋳鉄の部品加工により行われる工程である、
こととしてもよい。
【0010】
前記鋳鉄は、球状黒鉛鋳鉄である、
こととしてもよい。
【0011】
前記鋳鉄は、ネズミ鋳鉄である、
こととしてもよい。
【0012】
この場合、前記切削工程における前記ネズミ鋳鉄の切削速度は、
300m/min以上である、
こととしてもよい。
【0013】
本発明の第2の観点に係る黒錆微粒子の製造装置は、
鋳鉄を、切削油をかけながら、切削工具により切削する切削部と、
前記切削油を回収する回収部と、
回収された前記切削油から黒錆微粒子を分離する分離部と、
を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、切削油を充てながら鋳鉄を切削することにより得られる切削屑から、黒錆微粒子を容易に得ることができる。これにより、化学反応などの特別な処理を行うことなく、例えば、鋳鉄の部品加工で行われる切削工程を行うことにより、黒錆微粒子を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
【0019】
図1には、本実施の形態1に係る黒錆微粒子の製造装置100の構成が示されている。
図1に示すように、製造装置100は、切削部1と、回収部2と、分離部3と、を備える。切削部1と、回収部2との間には、切削油の循環系10が設けられている。循環系10は、ポンプにより、切削油を切削部1と回収部2との間で循環させることができるようになっている。
【0020】
切削部1は、切削油をかけながら、鋳鉄を切削工具により切削する。鋳鉄は、炭素を2.14〜6.67%含み、ケイ素を約1〜3%の範囲で含む鉄の三元合金である。
【0021】
切削油は、摩擦抑制と冷却のために使用される。切削油としては、油性切削油を用いてもよいし、水溶性切削油を用いてもよい。油性切削油には、鉱物油に切削性能を向上させる目的で添加剤を加えたものが用いられる。水溶性切削油には、油を溶剤によって水に溶かして使用される。水溶性切削油は、冷却が優先される加工に使用される。水溶性切削油は、廃棄時の環境負荷が低いため、現在、金属加工で使用される切削油の主流となっている。
【0022】
切削部1としては、例えば、マシニングセンタ又は旋盤などを用いることができる。すなわち、鋳鉄を切削して部品加工又は金型加工を行う切削加工装置を、切削部1として用いることができる。このようにすれば、鋳鉄を切削加工して、加工された部品を得るとともに、通常は廃材となるその切削加工で得られた切削屑に含まれる金属微粒子の中から、黒錆微粒子を得ることができる。
【0023】
なお、切削部1としては、部品加工を行う切削装置でなく、黒錆微粒子を得るために切削を行う切削装置であってもよい。この場合にも、部品加工又は金型加工に用いられるマシニングセンタ又は旋盤などを用いることができる。
【0024】
切削部1の構成についてさらに詳細に説明する。例えば、
図2に示すように、切削部1内には、加工対象となる部品を回転させる主軸モータが設けられている。主軸モータは、加工対象となる部品を取り付ける取り付け部(チャック)を回転させる。チャックには、円柱状のワーク(鋳鉄)Wが取り付けられる。
【0025】
チャックに取り付けられたワークWは、主軸モータにより、指令された回転速度で矢印の方向に回転する。そして、循環系10を介して送られた切削油がノズルNからワークWにかけられる。この状態で、切削工具Tの刃部がワークWの外縁に接し、ワークWを切削する。
【0026】
ワークWを切削すると、切削屑が生じる。この切削屑は、一部は、長細くらせん状に延びる長屑となるが、残りの切削屑は、細かい微粒子となる。この微粒子には、ミリメートルサイズのものからナノメートルサイズのものまで様々である。長屑又は微粒子の切削屑は、切削油Oとともに、切削部1の下部から排出される。なお、ここで、微粒子を除く比較的大きな切削屑については、フィルタにより、切削油Oから分離される。
【0027】
切削屑が含まれる切削油Oは、再び循環系10を通って、回収部2に至る。回収部2は、切削油Oから切削屑を回収する。回収部2において切削屑を回収する方法としては、例えば、永久磁石を用いて、切削屑を回収する方法を採用することができる。例えば、回収部2の中に、切削油Oが流れる細く長い流路を形成し、その流路の周囲に磁石を配置して、その磁石により、切削屑を吸着して切削油Oと分離するようにしてもよい。また、フィルタ等を用いて切削油Oを濾過する方法を採用することも可能である。
【0028】
回収部2で回収された切削屑は分離部3へ送られる。分離部3としては、例えば、遠心分離機を用いることができる。分離部3は、回収された切削屑から黒錆微粒子を分離する。
【0029】
本実施の形態では、ワークWとして用いられる鋳鉄は、球状黒鉛鋳鉄である。球状黒鉛鋳鉄とは、ダクタイル鋳鉄又はノジュラー鋳鉄とも呼ばれ、一般に焼き入れ前(鋳放し状態)で黒鉛が球状に晶出している鋳鉄をいう。球状黒鉛鋳鉄では、黒鉛が球状に析出させるようにしているので、球状黒鉛鋳鉄では、靭性が向上している。
【0030】
切削部1では、切削油OをワークWにかけながらワークWの切削が行われる。この切削油Oは、通常、切削時の鋳鉄又は切削工具Tを冷却し、加工を滑らかに行うために用いられるが、本実施の形態では、切削された鋳鉄が熱により酸化する際に必要以上に酸素が供給されることのないように、酸素を遮断する機能を有している。すなわち、切削油Oは、切削される鋳鉄が接触する酸素量を調節する役割を果たしており、黒錆微粒子を効率良く製造するために必要不可欠なものとなっている。この点において、切削油としては、冷却が優先される水溶性切削油よりも油性切削油を用いるのが望ましい。
【0031】
次に、本実施の形態1に係る黒錆微粒子の製造装置100を用いた黒錆微粒子の製造方法について説明する。
図3には、黒錆微粒子の製造方法のフローチャートが示されている。
【0032】
まず、
図3に示すように、切削部1が、鋳鉄のワークWを、切削油Oをかけながら、切削工具Tにより切削する(ステップS1)。これにより、切削時による熱で、黒錆微粒子が生成され、切削屑として、切削油Oに含まれるようになる。切削屑は、切削油Oとともに、循環系10を介して、回収部2へ送られる。
【0033】
続いて、回収部2が、切削油Oから切削屑を回収する(ステップS2)。回収部2は、金属の網目のフィルタを有し、その網目で大きい切削屑を回収した後、磁石等を用いて切削屑を吸着させることにより、切削屑を回収する。これにより、黒錆微粒子を含む切削屑は、切削油Oから回収され、分離部3へ送られる。切削油は、再び循環系10を介して、切削部1へ戻り、鋳鉄の切削に利用される。
【0034】
続いて、分離部3は、遠心分離により、切削屑から、黒錆微粒子を分離する(ステップS3)。これにより、金属微粒子の中から、さらに黒錆微粒子が抽出される。
【0035】
抽出された黒錆微粒子は、例えば、様々な粒径の黒錆微粒子に分級され、工業系材料として利用される。
【0036】
この実施の形態に係る製造方法において、球状黒鉛鋳鉄をワークWとして用いた場合の黒錆微粒子の生成効率について検討を行った。
【0037】
切削部1において、今回は、切削速度150m/min、175m/min、200m/min、225m/min、250m/min、275m/min、300m/minでワークWの切削を行い、それぞれの切削速度で切削された切削屑から、黒錆微粒子がどの程度回収できるかという評価実験を行った。なお、ワークWの主とする鉄成分については、α−鉄であるものとした。
【0038】
回収部2では、網目を通過した各切削油に対して磁石を当てることにより、切削屑を回収した。分離部3において分離抽出された金属微粒子は、付着したオイルを取り除くためにヘキサンが用いられた後洗浄され、濾過をへてオーブン内で乾燥が行われた。乾燥後、分級により63μm以下の金属微粒子が回収され、X線回折装置(XRD;X‐ray diffraction)を用いて分析を行った。
【0039】
XRD分析により得られた各スペクトルは、α−鉄の含有率が一定であるという仮定の下、α−鉄に由来する2θ=45℃のピーク強度を一定にして、黒錆微粒子(Fe
3O
4)の成分に由来するピークと、他の成分(例えばFe
2O
3)に由来するピークとの比較が行われた。
【0040】
図4では、下から、Fe
2O
3、Fe
3O
4、150m/min、50m/min、175m/min、200m/min、225m/min、250m/min、275m/min、300m/minの順でX線回折スペクトルが示されている。
図4に示すように、XRD分析より全切削速度を通じて黒錆微粒子(Fe
3O
4)の存在が認められた。しかしながら、Fe
2O
3に特徴的なピークは、僅かに認められるだけであった。これにより、球状黒鉛鋳鉄の切削により主として生成されるのは、切削速度に関わらず、Fe
2O
3ではなく、黒錆微粒子(Fe
3O
4)であることが明らかになった。
【0041】
このように、球状黒鉛鋳鉄から得られたFe
3O
4のピーク面積と切削速度からは関係性は認められなかった。このことは、切削速度に関わらず、球状黒鉛鋳鉄を切削すれば黒錆微粒子を効率良く製造することができることを示している。
【0042】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、切削油Oを充てながらワーク(鋳鉄)Wを切削することにより得られる切削屑から、黒錆微粒子を容易に得ることができる。これにより、特別な条件で行われる化学反応などの特別な処理を行うことなく、例えば、鋳鉄の部品加工で行われる切削工程を行うことにより、黒錆微粒子を効率良く製造することができる。
【0043】
また、部品加工における部品の切削で廃材となる切削屑から、黒錆微粒子を抽出することができるので、廃材のリサイクルが可能となり、資源の効率的な活用が可能となる。
【0044】
実施の形態2.
まず、本発明の実施の形態2について説明する。
【0045】
本実施の形態に係る黒錆微粒子の製造装置の構成は、
図1に示す上記実施の形態1に係る製造装置100の構成と同一である。また、本実施の形態に係る黒錆の製造方法は、
図3に示す上記実施の形態1に係る製造方法と同一である。本実施の形態では、ワークWに用いた材料が、球状黒鉛鋳鉄ではなく、ネズミ鋳鉄である点が上記実施の形態1と異なる。
【0046】
上記実施の形態では、切削工程における切削工具TとワークW(ネズミ鋳鉄)との間の切削速度を、300m/min以上とする。ネズミ鋳鉄では、300m/minを下回る切削速度では、黒錆微粒子の生成割合が低下するためである。
【0047】
一般に、ネズミ鋳鉄は、球状黒鉛鋳鉄よりも柔らかく、切削時の熱が球状黒鉛鋳鉄よりも低くなる。このため、ネズミ鋳鉄では、生成時に高温であることが要求される黒錆微粒子が、球状黒鉛鋳鉄よりも生成されにくい状況となる。このため、高速な切削速度で切削し、切削時の熱を高くすることが要求される。
【0048】
この実施の形態に係る製造方法において、球状黒鉛鋳鉄をワークWとして用いた場合の黒錆微粒子の生成効率について検討を行った。
【0049】
切削部1では、上記実施の形態1と同様に、切削速度150m/min、200m/min、250m/min、300m/minで切削を行い、それぞれの切削速度で得られた切削屑から、黒錆微粒子がどの程度回収できるか評価実験を行った。この評価実験でも、ワークWの主とする鉄成分をα−鉄とした。
【0050】
図5では、下から、Fe
2O
3、Fe
3O
4、150m/min、200m/min、225m/min、250m/min、300m/minの順でX線回折スペクトルが示されている。
図5に示すように、XRD分析より、各切削速度において、Fe
2O
3およびFe
3O
4の存在が認められた。
【0051】
Fe
2O
3とFe
3O
4とでは、共に特徴的なピークが重なる。このため、Fe
2O
3にのみ特徴的なピーク2θ=33°周辺のピーク1(
図6参照)とFe
3O
4に特徴的なピーク2θ=62.5周辺のピーク2(
図7参照)の面積と面積比を計算することによって、各切削速度における成分変化の有意差を示した。
【0052】
図8には、各切削速度とピーク1とピーク2との面積比との関係が示されている。また、
図9には、切削速度に対するピーク1とピーク2との面積比の変化が示されている。
図8、
図9に示すように、切削速度が150m/min、200m/min、250m/min、300m/minと上昇することによって、ピーク1(Fe
2O
3)に対するピーク2(Fe
3O
4)との面積比(Fe
3O
4/Fe
2O
3)の変化が指数関数的に増加している。これにより、好ましくは300m/min以上である場合に、Fe
2O
3の形成が抑制され、黒錆微粒子(Fe
3O
4)が優位に形成されることが明らかになった。
【0053】
なお、上記各実施の形態に係る製造方法によれば、様々な大きさの黒錆微粒子を得ることができる。黒錆微粒子の用途はその大きさによって異なるので、これらの黒錆微粒子をその大きさによってふるい分け又は分級することは極めて有用である。
【0054】
ナノオーダやマイクロオーダの粒径を有する黒錆(マグネタイト)微粒子は、磁気記録媒体、磁性トナー、化粧品又は細胞の磁気標識用の粒子などの用途に適用することができ、今後特に利用範囲が広がっていくものと予想される。
【0055】
なお、上記実施の形態では、球状黒鉛鋳鉄又はネズミ鋳鉄を切削する場合について説明したが、本発明はこれには限られない。例えば、白鋳鉄、まだら鋳鉄、強靱鋳鉄、可鍛鋳鉄(黒心可鍛鋳鉄(FCMB)、白心可鍛鋳鉄(FCMW)、パーライト可鍛鋳鉄(FCMP))、合金鋳鉄(高クロム鋳鉄、高ケイ素鋳鉄、ニレジスト(Ni-Cr-Cu鋳鉄))を用いるようにしてもよい。
【0056】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【解決手段】鋳鉄を、切削油をかけながら、切削工具により切削する(ステップS1)。続いて、切削油を回収する(ステップS2)。回収された切削油から黒錆微粒子を分離する(ステップS3)。鋳鉄としては、球状黒鉛鋳鉄又はネズミ鋳鉄が用いられる。ネズミ鋳鉄を用いる場合には、切削中の切削工具とネズミ鋳鉄との間の切削速度は、300m/min以上であるのが望ましい。