特許第5925981号(P5925981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5925981表面処理銅箔及びその製造方法、プリント配線板用銅張積層板、並びにプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5925981
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】表面処理銅箔及びその製造方法、プリント配線板用銅張積層板、並びにプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20160516BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20160516BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20160516BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20160516BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   C23C14/14 A
   C23C14/34 M
   B32B15/08 J
   H05K1/03 650
   H05K1/09 A
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-500418(P2016-500418)
(86)(22)【出願日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2015075080
【審査請求日】2016年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-191240(P2014-191240)
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
(72)【発明者】
【氏名】西川 丞
(72)【発明者】
【氏名】栗原 宏明
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−311328(JP,A)
【文献】 特開2005−219258(JP,A)
【文献】 特開平05−279870(JP,A)
【文献】 特開2007−098732(JP,A)
【文献】 特開2010−201620(JP,A)
【文献】 特開2010−149294(JP,A)
【文献】 特開2007−030326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B32B 15/08
H05K 1/03
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔と、
前記銅箔の少なくとも片面に設けられ、水素濃度1〜35原子%及び炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層と、
を備えた、表面処理銅箔。
【請求項2】
前記表面処理銅箔がプリント配線板用銅張積層板の製造に用いられるものであり、該製造において、前記表面処理層に樹脂層が積層されることになる、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記表面処理層が0.1〜100nmの厚さを有する、請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記銅箔の前記表面処理層側の表面が、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、100nm以下の算術平均粗さRaを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
前記表面処理層の水素濃度が10〜30原子%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
前記表面処理層の炭素濃度が3〜13原子%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
前記銅箔が50〜1000nmの厚さを有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔と、該表面処理層に密着して設けられる樹脂層とを備えた、プリント配線板用銅張積層板。
【請求項9】
樹脂層と、水素濃度1〜35原子%及び炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる層と、銅層とがこの順に積層された層構成を含む、プリント配線板。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔の製造方法であって、
銅箔を用意する工程と、
前記銅箔の少なくとも片面に、水素濃度1〜35原子%及び炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層を物理気相成膜又は化学気相成膜により形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記表面処理層が物理気相成膜により形成され、該物理気相成膜がスパッタリングにより行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記物理気相成膜が、シリコンターゲット及び/又はシリコンカーバイドターゲットを用い、非酸化性雰囲気下、炭素源及び水素源を含む少なくとも1種の添加成分とともに行われる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記添加成分が、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン、及びテトラエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のガスを原料とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔及びその製造方法、プリント配線板用銅張積層板、並びにプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯用電子機器等の電子機器の小型化及び高機能化に伴い、プリント配線板には配線パターンの更なる微細化(ファインピッチ化)が求められている。かかる要求に対応するためには、プリント配線板製造用銅箔には従前以上に薄く且つ低い表面粗度のものが望まれている。
【0003】
一方、プリント配線板製造用銅箔は絶縁樹脂基板と張り合わせて使用されるが、銅箔と樹脂絶縁基板との密着強度を如何にして確保するかが重要となる。というのも、密着強度が低いとプリント配線板製造時に配線の剥がれが生じやすくなるため、製品歩留まりが低下するからである。この点、通常のプリント配線板製造用銅箔では、銅箔の張り合わせ面にの粗化処理を施して凹凸を形成し、この凹凸をプレス加工により絶縁樹脂基材の内部に食い込ませてアンカー効果を発揮させることで、密着性を向上している。しかしながら、この粗化処理を用いた手法は、上述したようなファインピッチ化に対応するための、従前以上に薄く且つ低い表面粗度の銅箔とは相容れないものである。
【0004】
粗化処理を施さずに銅箔と絶縁樹脂基材の密着性を向上するプリント配線板用銅箔も知られている。例えば、特許文献1(特開2010−18855号公報)には、絶縁樹脂基材と張り合わせて銅張積層板を製造する際に用いる銅箔の張り合わせ面に表面処理層を設けた表面処理銅箔であって、清浄化処理を施した前記銅箔の張り合わせ面に、乾式成膜法で融点1400℃以上の高融点金属成分と炭素成分を付着させて形成した表面処理層を備える表面処理銅箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−18855号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、銅箔の少なくとも片面に、所定の濃度で水素及び/又は炭素を添加したシリコン系表面処理層を形成することにより、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層付き銅箔を提供できるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層を備えた銅箔を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、銅箔と、
前記銅箔の少なくとも片面に設けられ、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層と、
を備えた、表面処理銅箔が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、上記態様による表面処理銅箔と、該表面処理層に密着して設けられる樹脂層とを備えた、プリント配線板用銅張積層板が提供される。
【0010】
本発明の更に別の一態様によれば、樹脂層と、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる層と、銅層とがこの順に積層された層構成を含む、プリント配線板が提供される。
【0011】
本発明の更に別の一態様によれば、上記態様による表面処理銅箔の製造方法であって、
銅箔を用意する工程と、
前記銅箔の少なくとも片面に、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層を物理気相成膜又は化学気相成膜により形成する工程と、
を含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】例1〜15におけるキャリア付銅箔の製造工程を示す流れ図である。
図2】例1〜15における銅張積層板の製造工程を示す流れ図である。
図3】例1〜15における剥離強度測定用サンプルの製造工程を示す流れ図である。
図4】例1〜15における微細配線パターンの形成工程を示す流れ図である。
図5】例5で観察された微細配線パターンのSEM写真である。
図6A】例5で得られた銅張積層板における、極薄銅箔層18、表面処理層20及びプライマー樹脂層20の界面をSTEM−EDSにより観察した画像である。
図6B図6Aにおける拡大画像で示される界面部分のSi元素マッピング画像である。
図6C図6Aにおける拡大画像で示される界面部分のCu元素マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
表面処理銅箔
本発明の表面処理銅箔は、銅箔と、この銅箔の少なくとも片面に設けられる表面処理層とを備えてなる。所望により、表面処理層は銅箔の両面に設けられてもよい。そして、表面処理層は、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる層である。このように所定の濃度で水素及び/又は炭素を添加したシリコン系表面処理層を形成することにより、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層を備えた銅箔を提供することができる。
【0014】
特に、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm、10μm/10μm、5μm/5μm、2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンの形成には、これまで無い程に薄い極薄銅箔(例えば厚さ1μm以下)の使用が望まれる。しかし、このような極薄銅箔を電解製箔の手法により製造しようとすると、薄すぎる厚さに起因して、ピンホール形成等の問題が生じやすくなる。また、厚さ3μm以下の極薄銅箔を従来の電解製箔の手法ではなくスパッタリングにより製造する技術も提案されているが、こうして形成される極薄銅箔にあっては、極めて平坦な銅箔表面(例えば算術平均粗さRa:200nm以下)を有するため、銅箔表面の凹凸を活用したアンカー効果は期待できず、かかる極薄銅箔と樹脂層との高い密着強度を確保することは困難を極めていた。この点、本発明の表面処理銅箔にあっては、従来の極薄銅箔のような上記アンカー効果のような物理的手法による密着性確保ではなく、表面処理層の組成を制御することによる化学的手法を採用することで樹脂層との密着性の向上を実現可能としたものである。すなわち、銅箔の少なくとも片面に、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層を形成することで、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現することができる。しかも、上記組成の表面処理層にあっては、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗をも実現することができ、それによりファインピッチ化された配線パターンにおける配線間のリーク電流の発生を防止ないし低減することができる。
【0015】
したがって、本発明の表面処理銅箔は、プリント配線板用銅張積層板の製造に用いられるのが好ましく、この製造において、表面処理層には樹脂層(典型的には絶縁樹脂層)が積層されることになる。
【0016】
本発明の表面処理銅箔を構成する銅箔は、いかなる方法で製造されたものでよい。したがって、銅箔は、電解銅箔や圧延銅箔であってもよいし、銅箔がキャリア付銅箔の形態で準備される場合には、無電解銅めっき法及び電解銅めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相成膜法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成した銅箔であってよい。特に好ましい銅箔は、極薄化(例えば厚さ3μm以下)によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や及び真空蒸着等の物理気相成膜により製造された銅箔であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された銅箔である。また、銅箔は、無粗化の銅箔であるのが好ましいが、プリント配線板製造時の配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化が生じたものであってもよい。銅箔の厚さは特に限定されないが、上述したようなファインピッチ化に対応するためには、50〜3000nmが好ましく、より好ましくは75〜2000nm、さらに好ましくは90〜1500nm、特に好ましくは100〜1000nm、最も好ましくは100〜700nmである。このような範囲内の厚さの銅箔はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性や、シート状やロール状での生産性の観点で好ましい。
【0017】
本発明の表面処理銅箔を構成する銅箔の表面処理層側の表面は、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、200nm以下の算術平均粗さRaを有するのが好ましく、より好ましくは1〜175nm、さらに好ましくは2〜180nm、特に好ましくは3〜130nm、最も好ましくは5〜100nmである。このように算術平均粗さが小さいほど、表面処理銅箔を用いて製造されるプリント配線板において、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm〜2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンの形成を形成することができる。なお、このように極めて平坦な銅箔表面にあっては、銅箔表面の凹凸を活用したアンカー効果は期待できないが、本発明の表面処理銅箔にあっては、上記アンカー効果のような物理的手法による密着性確保ではなく、表面処理層の組成を制御することによる化学的手法を採用することで樹脂層との密着性の向上を実現することができる。
【0018】
上述のとおり、本発明の表面処理銅箔は、キャリア付銅箔の形態で提供されてもよい。極薄銅箔の場合には、キャリア付銅箔とすることでハンドリング性を向上することができる。特に、スパッタリング法等の真空蒸着により銅箔を製造する場合には、キャリア付銅箔の形態を採用することで望ましく製造可能となる。図1(a)に示されるように、キャリア付銅箔10は、キャリア12上に、剥離層16、極薄銅箔層18及び表面処理層20をこの順に備えてなるものであってよく、キャリア12と剥離層16の間には耐熱金属層14が更に設けられてもよい。また、キャリア12の両面に上下対称となるように上述の各種層を順に備えてなる構成としてもよい。キャリア付銅箔は、上述した極薄銅箔層18及び表面処理層20を備えること以外は、公知の層構成を採用すればよく特に限定されない。キャリアの例としては、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔、アルミニウム箔等の金属箔に加えて、PETフィルム、PENフィルム、アラミドフィルム、ポリイミドフィルム、ナイロンフィルム、液晶ポリマー等の樹脂フィルム、樹脂フィルム上に金属層コート層を備える金属コート樹脂フィルム等が挙げられ、好ましくは銅箔である。キャリアとしての銅箔は圧延銅箔及び電解銅箔のいずれであってもよい。キャリアの厚さは典型的には210μm以下であり、キャリア付銅箔の搬送性とキャリア剥離時の破れ防止の観点から好ましくは10〜210μmである。耐熱金属層14を構成する金属の好ましい例としては、鉄、ニッケル、チタン、タンタル及びタングステンが挙げられ、中でもチタンが特に好ましい。これらの金属は高温プレス加工等された際の相互拡散バリアとしての安定性が高く、特に、チタンは、その不働態膜が非常に強硬な酸化物で構成されるため、優れた高温耐熱性を呈する。この場合、チタン層はスパッタリング等の物理気相成膜により形成するのが好ましい。チタン層等の耐熱金属層14は換算厚さ1〜50nmであることが好ましく、より好ましくは4〜50nmである。耐熱金属層14(特にチタン層)上には剥離層16として炭素層及び金属酸化物層の少なくとも一つを設けるのが好ましく、より好ましくは炭素層である。炭素はキャリアとの相互拡散性及び反応性が小さく、300℃を超える温度でのプレス加工等を受けても、銅箔層と接合界面との間での高温加熱による金属結合の形成を防止して、キャリアの引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。この炭素層もスパッタリング等の物理気相成膜を用いて形成するのが好ましい。炭素層の換算厚さは1〜20nmが好ましい。なお、「換算厚さ」とは、単位面積あたりの成分付着量を化学的に定量分析し、その分析量から算出した厚さのことである。
【0019】
本発明の表面処理銅箔を構成する表面処理層は、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなるシリコン系表面処理層である。シリコン系表面処理層を構成するシリコンは典型的には非晶質シリコンである。水素及び炭素の少なくともいずれか一方を上記量でシリコン系表面処理層に含有させることで樹脂層と密着性及び絶縁抵抗の両方を実現することができると考えられるが、シリコン系表面処理層は水素濃度1〜35原子%及び炭素濃度1〜15原子%を有するのが好ましい。また、表面処理層を構成するシリコン系材料は原料成分や成膜工程等に起因して不可避的に混入する不可避不純物を含んでいてもよい。例えば、スパッタリングターゲットにDCスパッタリングを可能とするためのホウ素等の導電性ドーパントを微量添加した場合、そのようなドーパントが不可避的に表面処理層に微量に混入しうるが、そのような不可避不純物の混入は許容される。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内においてシリコン系表面処理層は他のドーパントを含んでいてもよい。また、シリコン成膜後には大気に暴露されるため、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。
【0020】
また、シリコン系表面処理層におけるシリコン原子含有率は、50〜98原子%であることが好ましく、より好ましくは55〜95原子%、さらに好ましくは65〜90原子%である。このような範囲内であると、非晶質シリコンの絶縁性及び耐熱性を有意に機能させることができる。なお、このシリコン元素の含有率は、高周波グロー放電発光表面分析装置(GDS)で測定されるものである。
【0021】
シリコン系表面処理層の水素濃度は、1〜35原子%であるのが好ましく、より好ましくは10〜31原子%、さらに好ましくは15〜30原子%、特に好ましくは20〜30原子%、最も好ましくは22〜26原子%である。シリコン系表面処理層の炭素濃度は、1〜15原子%であるのが好ましく、より好ましくは3〜13原子%、さらに好ましくは4〜12原子%、特に好ましくは5〜12原子%、最も好ましくは6〜11原子%である。炭素濃度及び/又は水素濃度、好ましくは炭素濃度及び水素濃度が上記範囲内であると、樹脂層との密着性及び絶縁抵抗を有意に向上することができる。
【0022】
シリコン系表面処理層の水素濃度及び炭素濃度の測定は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)、水素前方散乱分析法(HFS)又は核反応解析法(NRA)により深さ分布の測定を行うことにより実施することができる。このような測定に用いる装置としてはPelletron 3SDH(National Electrostatics Corporation製)等が挙げられる。この濃度測定は銅箔上に成膜した直後のシリコン系表面処理層から行うことが可能である。また、後述する本発明の表面処理銅箔を用いて製造されたプリント配線板や電子部品の形態においても、表面処理銅箔に由来する配線パターンが露出するまで表面から研磨を行い、その後に配線パターンをエッチングして表面処理層を露出させた状態とすることで、上述した濃度測定を行うことが可能である。
【0023】
表面処理層は0.1〜100nmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは2〜100nm、さらに好ましくは2〜20nm、特に好ましくは4〜10nmである。このような範囲内であると、樹脂層との密着性及び絶縁抵抗を有意に向上することができる。
【0024】
製造方法
本発明による表面処理銅箔は、上述した銅箔を用意し、該銅箔の少なくとも片面に、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層を物理気相成膜又は化学気相成膜により形成することにより製造することができる。所望により表面処理層を銅箔の両面に形成してもよいのは前述したとおりである。
【0025】
本発明の製造方法に用いる銅箔はいかなる方法で製造されたものでもよく、その詳細については上述したとおりである。したがって、特に好ましい銅箔は、極薄化(例えば厚さ1μm以下)によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法等の物理気相成膜により製造された銅箔であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された銅箔であり、そのような銅箔はキャリア付銅箔の形態で用意されるのが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、表面処理層の形成は物理気相成膜又は化学気相成膜により形成される。物理気相成膜又は化学気相成膜を用いることで、水素及び/又は炭素の含有量を制御しやすくなるとともに、表面処理層に望まれる極めて薄い厚さ(0.1〜100nm)に成膜を行うことができる。したがって、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%のシリコン系表面処理層を好ましく製造することができる。
【0027】
表面処理層は物理気相成膜により形成されるのが好ましい。物理気相成膜の例としては、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法が挙げられるが、最も好ましくはスパッタリング法である。スパッタリング法によれば銅箔表面の平坦性(好ましくは算術平均粗さRa:200nm以下)を損なうことなく極めて薄い表面処理層を極めて良好に形成することができる。また、図1(a)に示されるようなキャリア付銅箔10の構成を採る場合、キャリア12上に設けられる、耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18及び表面処理層20の全ての層をスパッタリング法により形成できる点で製造効率が格段に高くなるといった利点もある。
【0028】
物理気相成膜は、シリコンターゲット及び/又はシリコンカーバイドターゲットを用い、非酸化性雰囲気下、炭素源及び水素源を含む少なくとも1種の添加成分とともに行われるのが好ましい。このとき、添加成分は、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン、及びテトラエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のガスを原料とするのが好ましい。これらの原料はいずれも1つの成分で炭素源及び水素源の両方としての役割を果たすことができるので好都合である。
【0029】
物理気相成膜は公知の物理気相成膜装置を用いて公知の条件に従って行えばよく特に限定されない。例えば、スパッタリング法を採用する場合、スパッタリング方式は、マグネトロンスパッタリング、2極スパッタリング法等、公知の種々の方法であってよいが、マグネトロンスパッタリングが、成膜速度が速く生産性が高い点で好ましい。また、スパッタリングはDC(直流)及びRF(高周波)のいずれの電源で行ってもよいが、DCスパッタリングを行う場合にはシリコンターゲットには導電性を付与するため導電性ドーパントを微量(例えば0.01〜500ppm)添加するのが製膜効率を向上させる観点で望ましい。この導電性ドーパントの例としては、ホウ素、アルミニウム、アンチモン、リンなどが挙げられるが、成膜速度の効率、毒性回避、スパッタリング成膜の耐湿性能等の観点からはホウ素が最も好ましい。また、スパッタリングを開始する前のチャンバ内の到達真空度は1×10−4Pa未満とするのが好ましい。スパッタリングに用いるガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスとともに、添加成分の原料となるべきガス(好ましくはメタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン、テトラエトキシシラン又はそれらの任意の組合せ)を併用するのが好ましい。最も好ましいガスはアルゴンガスとメタンガスの組合せである。アルゴンガスの流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定すればよく特に限定されない。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良なく、連続安定製膜性を保つ観点から製膜時の圧力は0.1〜2.0Paの範囲で行うことが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、製膜電源の定格容量等に応じ、製膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定すればよい。また、スパッタリング電力は製膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり0.05〜10.0W/cmの範囲内で適宜設定すればよい。
【0030】
プリント配線板用銅張積層板
本発明の好ましい態様によれば、本発明の表面処理銅箔と、該表面処理層に密着して設けられる樹脂層とを備えた、プリント配線板用銅張積層板が提供される。表面処理銅箔は樹脂層の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。
【0031】
樹脂層は、樹脂、好ましくは絶縁性樹脂を含んでなる。樹脂層はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂層には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、タルク、アルミナ等の各種無機フィラー等が含有されていてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、1〜1000μmが好ましく、より好ましくは2〜400μmであり、さらに好ましくは3〜200μmである。樹脂層は複数の層で構成されていてよく、例えば内層プリプレグの両面に外層プリプレグを片面につき1枚ずつ(両面で計2枚)設けて樹脂層を構成してもよく、この場合、内層プリプレグも2層又はそれ以上の層で構成されていてもよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の樹脂層は予め銅箔表面に塗布されるプライマー樹脂層を介して表面処理銅箔に設けられるのが銅箔の接着強度の安定性、銅箔表面の傷防止等の観点から好ましい。
【0032】
プリント配線板
本発明の表面処理銅箔はプリント配線板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明によれば、表面処理銅箔に由来する層構成を備えたプリント配線板も提供される。この場合、プリント配線板は、樹脂層と、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる層と、銅層とがこの順に積層された層構成を含んでなる。主としてシリコンからなる層は本発明の表面処理銅箔のシリコン系表面処理層に由来する層であり、銅層は本発明の表面処理銅箔の銅箔に由来する層である。また、樹脂層については銅張積層板に関して上述したとおりである。いずれにしても、プリント配線板は、本発明の表面処理銅箔を用いること以外は、公知の層構成が採用可能である。プリント配線板に関する具体例としては、プリプレグの片面又は両面に本発明の表面処理銅箔を接着させ硬化した積層体(CCL)とした上で回路形成した片面又は両面プリント配線板や、これらを多層化した多層プリント配線板等が挙げられる。また、他の具体例としては、樹脂フィルム上に本発明の表面処理銅箔を形成して回路を形成するフレキシブル・プリント配線板、COF、TABテープ等も挙げられる。さらに他の具体例としては、本発明の表面処理銅箔に上述の樹脂層を塗布した樹脂付銅箔(RCC)を形成し、樹脂層を絶縁接着材層として上述のプリント基板に積層した後、表面処理銅箔を配線層の全部又は一部としてモディファイド・セミアディティブ(MSAP)法、サブトラクティブ法等の手法で回路を形成したビルドアップ配線板や、半導体集積回路上へ樹脂付銅箔の積層と回路形成を交互に繰りかえすダイレクト・ビルドアップ・オン・ウェハー等が挙げられる。より発展的な具体例として、上記樹脂付銅箔を基材に積層し回路形成したアンテナ素子、接着剤層を介してガラスや樹脂フィルムに積層しパターンを形成したパネル・ディスプレイ用電子材料や窓ガラス用電子材料、本発明の表面処理銅箔に導電性接着剤を塗布した電磁波シールド・フィルム等も挙げられる。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0034】
例1〜15
(1)キャリア付銅箔の作製
図1に示されるように、キャリア12としての電解銅箔上に耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18及び表面処理層20をこの順に成膜してキャリア付銅箔10を作製し、さらにキャリア付銅箔10にプライマー樹脂層22を形成してキャリア付銅箔24を得た。このとき、表面処理層20の成膜は表1及び2に示される各種条件に従い行った。具体的な手順は以下のとおりである。
【0035】
(1a)キャリアの準備
厚さ18μm、算術平均粗さRa60〜70nmの光沢面を有する電解銅箔(三井金属鉱業株式会社製)をキャリア12として用意した。このキャリアを酸洗処理した。この酸洗処理は、キャリアを硫酸濃度150g/l、液温30℃の希硫酸溶液に30秒間浸漬して表面酸化被膜を除去し、水洗後、乾燥することにより行った。
【0036】
(1b)耐熱金属層の形成
酸洗処理後のキャリア12(電解銅箔)の光沢面側に、耐熱金属層14として10nm換算厚さのチタン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:300mm×1700mmサイズのチタンターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ スパッタリング圧PAr:0.1Pa
‐ スパッタリング電力:30kW
【0037】
(1c)剥離層の形成
耐熱金属層14(チタン層)の上に、剥離層16として2nm換算厚さの炭素層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:300mm×1700mmサイズの炭素ターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ スパッタリング圧PAr:0.4Pa
‐ スパッタリング電力:20kW
【0038】
(1d)極薄銅箔層の形成
剥離層16(炭素層)の上に、膜厚250nmの極薄銅箔層18を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。得られた極薄銅箔層は、算術平均粗さ(Ra)46nmの表面を有していた。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)の銅ターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
‐ スパッタリング圧:0.45Pa
‐ スパッタリング電力:1.0kW(3.1W/cm
【0039】
(1e)表面処理層の形成
極薄銅箔層18の上に、表面処理層20としてシリコン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成して、キャリア付銅箔を作製した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のホウ素を200ppmドープしたシリコンターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
メタンガス(流量:0〜3.0sccm)
‐ スパッタリング圧:0.45Pa
‐ スパッタリング電力:250W(0.8W/cm
【0040】
このとき、例1〜8では、表1に示されるように、表面処理層の膜厚を一定(6nm)とした上で、ガス中のメタンガス流量を制御して、シリコン層中の水素濃度及び炭素濃度を変化させた。一方、例9〜15では、表2に示されるように、メタンガス流量を一定(1.5sccm)とした上で、シリコン層の膜厚を0〜100nmの範囲で変化させた。いずれの例においても、表面処理層の形成は以下の条件で行った。
【0041】
表面処理層20(シリコン層)中の水素濃度及び炭素濃度を測定した。この測定は、Pelletron 3SDH(National Electrostatics Corporation製)を用いて、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)、水素前方散乱分析法(HFS)又は核反応解析法(NRA)により行った。また、高周波グロー放電発光表面分析装置(GDS)を用いて表面処理層20(シリコン層)中のシリコン元素含有率を測定した。これらの結果は表1及び2に示されるとおりであった。
【0042】
(1f)プライマー樹脂層の形成
評価サンプルとして、表面処理層上にプライマー樹脂層を形成したサンプルと、表面処理層上にプライマー樹脂層を形成しないサンプルを用いた。プライマー樹脂層を形成したサンプルの作製は次のように行った。まず、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、YDCN−704)、溶剤に可溶な芳香族ポリアミド樹脂ポリマーと溶剤との混合ワニス(日本化薬株式会社製、BPAM−155)を原料として用意した。この混合ワニスに、硬化剤としてのフェノール樹脂(大日本インキ株式会社製、VH−4170)及び硬化促進剤(四国化成工業株式会社製、2E4MZ)を添加して、以下に示される配合割合を持つ樹脂組成物を得た。
<樹脂組成物の配合割合>
‐ o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:38重量部
‐ 芳香族ポリアミド樹脂ポリマー:50重量部
‐ フェノール樹脂:18重量部
‐ 硬化促進剤:0.1重量部
【0043】
この樹脂組成物にメチルエチルケトンを添加して樹脂固形分が30重量%になるように調整することで、樹脂溶液を得た。図1に示されるように、得られた樹脂溶液21を、グラビアコーターを用いて、キャリア付き銅箔10の表面処理層20(シリコン層)上に塗布した。そして、5分間の風乾を行い、その後140℃の大気加熱雰囲気中で3分間の乾燥処理を行い、半硬化状態の厚さ1.5μmのプライマー樹脂層22を形成した。
【0044】
(2)銅張積層板の作製
図2に示されるように、上記キャリア付銅箔24と樹脂基材26とを用いて、銅張積層板28を以下のようにして作製した。
【0045】
(2a)樹脂基材の作製
ガラスクロス入りビスマレイミド・トリアジン樹脂からなるプリプレグ(三菱ガス化学社製、GHPL−830NS、厚さ45μm)を4枚積層し樹脂基材26を作製した。
【0046】
(2b)積層
上述の樹脂基材26の両面(図2では簡略化のため片面の積層のみを示した)をキャリア付銅箔24で挟み、プレス温度:220℃、プレス時間:90分、圧力:40MPaの条件で樹脂基材26とキャリア付銅箔24とを積層した。こうしてキャリア付銅張積層体25を得た。
【0047】
(2c)キャリアの剥離
キャリア付銅張積層体25の剥離層16から、キャリア12を手動で剥離して、極薄銅箔層18の表面を露出させた。なお、耐熱金属層14および剥離層16はキャリア12(電解銅箔)側に付着された状態で剥離された。こうして銅張積層板28を得た。
【0048】
(3)評価
こうして得られた銅張積層板について、(3a)剥離強度の評価、(3c)微細配線パターン形成の評価、及び(3d)STEM−EDSによる界面観察及び元素マッピング測定を行った。また、上記銅張積層板が有する表面処理層と同等の表面処理層を別途作製して(3b)表面処理層の絶縁抵抗の評価も行った。具体的には以下のとおりである。
【0049】
(3a)剥離強度の評価
図3に示されるように、銅張積層板28から剥離強度測定用サンプル32を作製し、極薄銅箔18の表面処理層20とプライマー樹脂層22の剥離強度を評価した。剥離強度測定用サンプル32は、銅張積層板28に硫酸銅めっき液を用いて厚さ18μmの電気銅めっき30を形成し、その後パターン形成して作製した。また、パターン形成は、形成した電気銅めっきを10mm幅でマスキングし、塩化第二銅水溶液でエッチングすることにより行った。
【0050】
剥離強度の測定は、サンプルの引き剥がし強度を角度90°、速度50mm/分の条件で3点測定し、その平均値を採用することにより行った。また、こうして得られた剥離強度(平均値)を以下の基準に従いA、B及びCの3段階で評価した。結果は表1及び2に示されるとおりであった。
<評価基準>
A:400gf/cm以上
B:300gf/cm以上400gf/cm未満
C:300gf/cm未満
【0051】
(3b)表面処理層の絶縁抵抗の評価
例1〜15の各々に対応した表面処理層の絶縁抵抗測定用サンプルを作製して、絶縁抵抗の評価を行った。絶縁抵抗測定用サンプルの作製は、ガラス基板(コーニング社製、#1737)上に、上述した「(1e)表面処理層の形成」に記載される条件と同様の条件で厚さ100nmの表面処理層(シリコン層)を形成することにより行った。こうして得られた測定用サンプルを、半導体デバイス・アナライザ(アジレントテクノロジー社製、B1500A)を用いて四端子法による測定に付し、得られた比抵抗値ρ(Ω・cm)を6nmの膜厚に換算した、(ρ×100/6)なるシート抵抗値(Ω・□)を絶縁抵抗の評価指標として採用した。また、得られたシート抵抗値を以下の基準に従いA、B及びCの3段階で評価した。結果は表1及び2に示されるとおりであった。
<評価基準>
A:1.0×1012Ω/□以上
B:1.0×1010Ω/□以上1×1012Ω/□未満
C:1.0×1010Ω/□未満
【0052】

【表1】
【表2】
【0053】
(3c)微細配線パターン形成の評価
図4に示されるように各例で得られた銅張積層板28に微細配線パターン38を形成して、パターン加工性の評価を行った。まず、微細配線パターン評価用サンプルを以下のようにして作製した。
【0054】
(i)フォトレジスト塗布
銅張積層板28の極薄銅箔層18上にポジ型フォトレジスト(東京応化工業社製、TMMRP−W1000T)を塗布した。
【0055】
(ii)露光処理
フォトレジストを塗布した銅張積層板28を以下の条件で露光処理した。
‐ パターン:Line/Space=2/2μm、パターン長2mm
‐ ガラスマスク:クロム蒸着マスク
‐ 露光量:180mJ/cm(波長:365nm換算値、水銀スペクトル線)
【0056】
(iii)現像
露光処理した銅張積層板28を以下の条件で現像処理して、フォトレジスト34を図4
(a)に示されるようにパターニングした。
‐ 現像液:TMAH水溶液(東京応化工業社製、NMD−3)
‐ 温度:23℃
‐ 処理方法:ディップ1分×2回
【0057】
(iv)電気銅めっき
現像処理によりパターニングが施された銅張積層板28の極薄銅箔層18上に図4(b)に示されるように電気銅めっき36を硫酸銅めっき液により2μmの厚さで形成した。
【0058】
(v)フォトレジストの剥離
電気銅めっき36が施された銅張積層板28から以下の条件でフォトレジスト34を剥離して図4(c)に示される状態とした。
‐ 剥離液:ST106水溶液(東京応化工業社製)
‐ 温度:60℃
‐ 時間:5分
【0059】
(vi)銅エッチング(フラッシュエッチング)
フォトレジスト34を剥離した銅張積層板28を以下の条件で銅エッチングを行い、図4(d)に示されるように微細配線パターン38を形成した。
‐ エッチング液:硫酸過水系エッチング液(メック社製、QE7300)
‐ 処理方法:ディップ
‐ 温度:30℃
‐ 時間:30秒
【0060】
(vii)顕微鏡観察
得られた微細配線パターンの外観を光学顕微鏡(1750倍)にて観察して、配線の剥がれの不良発生率を確認した。不良発生率を以下の評価基準に従って評価した。
<評価基準>
A:不良発生率5%未満(最良)
B:不良発生率6〜10%(良)
C:不良発生率11〜20%(許容可)
D:不良発生率21%以上(不良)
【0061】
得られた評価結果を表1及び2に示す。また、例5(実施例)で観察された微細配線パターンのSEM写真を図5に示す。
【0062】
(3d)STEM−EDSによる界面観察及び元素マッピング測定
例5(実施例)で作製された、プライマー樹脂層22の塗布されたキャリア付銅張積層板25において、キャリア12、極薄銅箔層18、表面処理層20及びプライマー樹脂層22の界面をSTEM−EDSにより観察したところ、図6Aに示される画像が得られた。図6Aの上側にある画像が、下側にある写真の円で囲った界面部分の拡大画像である。この拡大画像で示される界面部分のSi元素マッピング画像を図6Bに、この界面部分のCu元素マッピング画像を図6Cに示す。これらの画像の比較から明らかなように、極薄銅箔層18の表面にはシリコン系表面処理層20が形成されていることが分かる。
【要約】
銅箔と、銅箔の少なくとも片面に設けられ、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層とを備えた、表面処理銅箔が提供される。この表面処理銅箔は、銅箔を用意し、この銅箔の少なくとも片面に、水素濃度1〜35原子%及び/又は炭素濃度1〜15原子%の主としてシリコンからなる表面処理層を物理気相成膜又は化学気相成膜により形成することにより製造することができる。本発明によれば、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層を備えた銅箔を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C