(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926061
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】密封型転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/80 20060101AFI20160516BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20160516BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20160516BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C33/76 A
F16J15/32 311U
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-21581(P2012-21581)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-160280(P2013-160280A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光浩
【審査官】
久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−127157(JP,A)
【文献】
特開平11−051069(JP,A)
【文献】
特開2006−161860(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/144785(WO,A1)
【文献】
特開2008−255489(JP,A)
【文献】
特開平09−196066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/80
F16C 33/76
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側軌道輪である内輪と固定側軌道輪である外輪との間の軸受空間を、内側と外側の2つのシールで密封した二重シール構造の密封型転がり軸受において、前記内側シールと外側シールをいずれも前記内輪に嵌合し、前記内側シールを、前記外輪の内周面に摺接するシールリップを有する接触シールとし、前記外側シールは、前記外輪の内周面との間にラビリンス隙間を形成する非接触シールであり、前記内輪に嵌合される嵌合部と、その嵌合部の一端部から径方向に延びる環状部と、その環状部の外周部から軸受外側へ向かって拡径していくテーパ部と、そのテーパ部の外周部から前記外輪の内周面と平行に軸受外側へ延びて前記ラビリンス隙間を形成する先端部とからなるものとしたことを特徴とする密封型転がり軸受。
【請求項2】
前記外側シールを溶融亜鉛めっき鋼板で形成したことを特徴とする請求項1に記載の密封型転がり軸受。
【請求項3】
前記外側シールを合成樹脂で形成したことを特徴とする請求項1に記載の密封型転がり軸受。
【請求項4】
自動車の等速ジョイント軸の支持部に用いられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の密封型転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪と外輪の間の軸受空間を内側と外側の2つのシールで密封した二重シール構造の密封型転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
泥水等の飛散を受ける厳しい環境で使用される転がり軸受、例えば、自動車の床下部位に配設され、ドライブシャフトの等速ジョイント軸を支持する転がり軸受(以下、「CVJサポート軸受」と称する。)等には、泥水等の異物が内輪と外輪の間の軸受空間へ侵入するのを防止するために、シールで軸受空間を密封した密封型転がり軸受が用いられている。
【0003】
この種の密封型転がり軸受には、軸受空間の両側に1対の接触シールを装着し、これらの接触シールの外側に1対の非接触シールを装着した二重シール構造のものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記特許文献1に記載された密封型転がり軸受は、その内側の接触シールが、外輪に嵌合され、ゴム等の弾性部材で形成されたシールリップを内輪外周面に摺接させるものであり、金属板で形成された外側の非接触シールが、内輪に嵌合され、外輪内周面との間にラビリンス隙間を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2−93571号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような二重シール構造の密封型転がり軸受では、内外のシールの一方を内輪に、他方を外輪にそれぞれ嵌合しているので、2つのシールが相対回転する。このため、回転側の軌道輪(CVJサポート軸受の場合は内輪)がミスアライメント等のガタにより軸方向に移動したり軸受の軸心に対して傾いたりしても内側シールと外側シールが接触しないように、両シールの間の隙間を確保することが必要となり、軸受の軸方向寸法が大きくなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、内輪を回転側軌道輪とする二重シール構造の密封型転がり軸受を軸方向にコンパクト化することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、回転側軌道輪である内輪と固定側軌道輪である外輪との間の軸受空間を、内側と外側の2つのシールで密封した二重シール構造の密封型転がり軸受において、前記内側シールと外側シールをいずれも前記内輪に嵌合し、前記内側シールを、前記外輪の内周面に摺接するシールリップを有する接触シールとし、前記外側シールを、前記外輪の内周面との間にラビリンス隙間を形成する非接触シールとした構成を採用した。
【0009】
すなわち、二重シールを構成する内側シールと外側シールをいずれも回転側軌道輪である内輪に嵌合して、2つのシールが相対回転しないようにすることにより、内輪が軸方向に移動したり傾いたりしても両シールが接触するおそれがなく、両シールの間の隙間を小さく設定できるようにして、軸受の軸方向のコンパクト化を可能としたのである。そして、その内側シールを接触シールとし、外側シールを非接触シールとすることにより、両方のシールを接触シールとする場合よりも、内輪回転に必要なトルクの増大を抑えられるようにした。また、内側シールは、内輪回転時の遠心力によりシールリップの締め代が大きくなってシール性が向上するので、外側シールを非接触のものとしても、二重シール全体としてはシール性を十分に確保することができる。
【0010】
ここで、前記外側シールは、前記内輪に嵌合される嵌合部と、その嵌合部の一端部から径方向に延びる環状部と、その環状部の外周部から軸受外側へ向かって拡径していくテーパ部と、そのテーパ部の外周部から前記外輪の内周面に沿って軸受外側へ延びて前記ラビリンス隙間を形成する先端部とからなるものとするとよい。外側シールの形状をこのようにすれば、その外側面に付着した泥水等の異物を、内輪回転時の遠心力によって滞留させることなく軸受外側へはじき飛ばして、異物の軸受内部への侵入を防止できるので、シール性の向上を図ることができる。
【0011】
また、前記外側シールは、溶融亜鉛めっき鋼板または合成樹脂で形成するとよい。
【0012】
上述した本発明の密封型転がり軸受は、自動車の等速ジョイント軸の支持部に特に有効に用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の密封型転がり軸受は、上述したように、二重シールを構成する内側シールと外側シールをいずれも回転側軌道輪である内輪に嵌合して、2つのシールが相対回転しないようにしたものであるから、両シールが接触するおそれがなく、両シールの間の隙間を小さく設定して軸方向にコンパクト化することができる。また、その内側シールを接触シールとし、外側シールを非接触シールとしたので、内輪回転に必要なトルクの増大も抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の密封型転がり軸受の要部の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1に基づき、本発明の実施形態を説明する。この密封型転がり軸受は、自動車の等速ジョイント軸の支持部に用いられるCVJサポート軸受であり、回転側軌道輪である内輪1と固定側軌道輪である外輪2との間でボール3を保持器4によって保持し、その内輪1と外輪2の間の軸受空間を内側と外側の2つのシール5、6で密封した二重シール構造の玉軸受である。
【0016】
前記内側シール5は、芯金5aと弾性部材5bとからなり、その弾性部材5bの内周側に形成された基端部5cが内輪1の外周面に設けられた係止溝1aに嵌合され、弾性部材5bの外周側に形成されたシールリップ5dを外輪2内周面に摺接させる接触シールである。
【0017】
前記外側シール6は、溶融亜鉛めっき鋼板で形成され、内輪1外周面に嵌合される嵌合部6aと、その嵌合部6aの内側の一端部から径方向に延びる環状部6bと、その環状部6bの外周部から軸受外側へ向かって拡径していくテーパ部6cと、そのテーパ部6cの外周部から外輪2の内周面に沿って軸受外側へ延びて、外輪2内周面との間にラビリンス隙間7を形成する先端部6dとからなる非接触シールである。
【0018】
この密封型転がり軸受は、上記の構成であり、二重シールを構成する内側シール5と外側シール6がいずれも回転側軌道輪である内輪1に嵌合されており、2つのシール5、6が接触するおそれがないので、内側シールを外輪に嵌合し外側シールを内輪に嵌合した従来の転がり軸受に比べて、両シール5、6の間の隙間が小さく設定され、軸方向にコンパクトなものとなっている。
【0019】
また、内側シール5を接触シールとし、外側シール6を非接触シールとしているので、両方のシールを接触シールとする場合よりも、内輪1の回転に必要なトルクの増大が抑えられている。
【0020】
しかも、内側シール5は、内輪1回転時の遠心力によりシールリップ5dの締め代が大きくなってシール性が向上するうえ、外側シール6は、その外側面に付着した泥水等の異物を、内輪1回転時の遠心力によって滞留させることなく軸受外側へはじき飛ばして、異物の軸受内部への侵入を防止する形状に形成されているので、外側シール6を非接触のものとしても、二重シール全体としては優れたシール性が得られる。
【0021】
なお、外側シール6を形成する材質としては、実施形態のような溶融亜鉛めっき鋼板のほかに、合成樹脂を採用することもできる。いずれの材質を選定しても、外側シール6を比較的安価で耐食性の高いものとすることができる。
【0022】
また、本発明は、実施形態のようなCVJサポート軸受として使用される玉軸受に限らず、内輪を回転側軌道輪とし、泥水等の飛散を受ける厳しい環境で使用される二重シール構造の密封型転がり軸受であれば、ころ軸受等の他の種類の転がり軸受にも有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 内輪
1a 係止溝
2 外輪
3 ボール
4 保持器
5、6 シール
5a 芯金
5b 弾性部材
5c 基端部
5d シールリップ
6a 嵌合部
6b 環状部
6c テーパ部
6d 先端部
7 ラビリンス隙間