(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
病気を患った対象者を治療するための経口薬剤の製造におけるN−メチロール移動剤の使用であって、前記薬剤の経口投与により、前記対象者の体内において、病気を治療するために有効な前記N−メチロール移動剤の血液中レベル、血清中レベル、または血漿中レベルがもたらされ、前記経口薬剤は、N−メチロール移動剤と標的型放出担体とを含有し、前記標的型放出担体は、前記病気を治療するために、所定用量の前記薬剤を経口投与した後に、前記対象者に有効な前記N−メチロール移動剤の血液中レベル、血清中レベル、または血漿中レベルをもたらし、前記経口投与の後、前記担体は、
(a)前記薬剤を無傷の状態で前記対象者の胃袋を通って運び、前記薬剤を前記対象者の十二指腸または空腸に放出し、前記薬剤は前記十二指腸または空腸を通じて対象者の血流に入り込み、前記用量は、少なくとも4μg/mlの血液中レベル、血清中レベル、または血漿中レベルを実現する、または、
(b)5.4から6.5のpHにおいて前記薬剤を放出し、前記薬剤は対象者の血流に入り込み、前記用量は、少なくとも4μg/mlの血液中レベル、血清中レベル、または血漿中レベルを実現する、または
(c)両方を行うものであり、ここにおいて、
前記N−メチロール移動剤は、タウロリジン、タウルルタム、(7−オキサ−2[λ]6−チア−1,5−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−2,2−ジオン)、N−メチロールタウリンアミド、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され、
前記病気は、腫瘍性疾患または感染症であり、
前記経口薬剤はカプセルを含み、
前記腫瘍性疾患は、癌腫、肉腫、およびリンパ腫からなる群から選択される、使用。
前記腫瘍性疾患は、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、中皮腫、黒色腫、腎臓癌、肝臓癌、膵癌、胃癌、食道癌、膀胱癌、子宮頸癌、噴門癌、胆嚢癌、皮膚癌、骨肉腫、頭部の癌、頸部の癌、中枢神経系の癌、神経膠腫、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、星状細胞腫、癌性髄膜炎、白血病、リンパ腫、リンパ肉腫、腺癌、線維肉腫、およびそれらの転移癌からなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
腫瘍性疾患、感染症および他の病気に対し、長期間にわたる危険で不便な静脈内投与または他のより侵襲的な投与法を要することなく、治療に有効な化合物の適正な血液中濃度を経口投薬によってもたらすことができる経口治療を可能とする、新たな製剤が必要とされ続けている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明の実施形態は、N−メチロール移動剤を対象者の血流に導入するための経口組成物を提供する。この組成物を経口投与することにより、病気の治療に有効なN−メチロール移動剤の血液中レベル、血清中レベル、または血漿中レベルが対象者の体内にもたらされる。たとえば、組成物は、薬学上許容される遅発性放出担体と組み合わせた薬剤を含むことができる。経口投与がなされると、担体は、(a)上記対象者の胃袋を通って薬剤を運び、上記対象者の十二指腸または空腸(たとえば、空腸上部)に薬剤を放出することによって、十二指腸もしくは空腸を通じて対象者の血流に薬剤を入り込ませる、または(b)約5.4から約6.5のpHにおいて薬剤を放出する、または(c)これら両方を行う。これに加えて、さらなる実施形態は、タウロリジン、タウルルタム、1183B(シクロタウロリジン)、N−メチロールタウリンアミド、およびこれらの任意の組み合わせなど、少なくとも1つのN−メチロール移動剤またはその誘導体を含む。特定の実施形態によれば、薬剤は、タウロリジン、タウルルタム、またはこれらの組み合わせを含む。特定の実施形態によれば、特定の経口組成物は、対象者の十二指腸または空腸に薬剤を放出する担体を用いる。
【0007】
本発明に係る経口組成物は、錠剤またはカプセルとして製剤することができ、標的型放出担体を使用してもよい。標的型放出担体は、胃袋を通過した後まで活性薬剤の放出を遅らせる腸溶コーティングを含んでもよい。このような腸溶コーティングは、メタクリル酸と酢酸メチルとの共重合体、またはメタクリル酸とアクリル酸エチルとの共重合体を含むことができる。
【0008】
本発明の特定の実施形態は、少なくとも約2μg/mL、少なくとも約4μg/mL、少なくとも約5μg/mL、少なくとも約10μg/mL、または少なくとも約20μg/mLから約80μg/mLの濃度で薬剤を対象者の血流に導入することに適しており、これを可能とする。特定の実施形態においては、約2μg/mLから約80μg/mL、約2μg/mLから約40μg/mL、約2μg/mLから約30μg/mL、約2μg/mLから約20μg/mL、約4μg/mLから約80μg/mL、約4μg/mLから約40μg/mL、約4μg/mLから約30μg/mL、約4μg/mLから約20μg/mL、約5μg/mLから約80μg/mL、約5μg/mLから約40μg/mL、約5μg/mLから約30μg/mL、約5μg/mLから約20μg/mL、約10μg/mLから約80μg/mL、約10μg/mLから約40μg/mL、約10μg/mLから約30μg/mL、約10μg/mLから約20μg/mL、約20μg/mLから約80μg/mL、約20μg/mLから約40μg/mL、または約20μg/mLから約30μg/mLの範囲内の濃度で薬剤を対象者の血流に導入することができる。
【0009】
本発明の実施形態においては、体内における薬剤の有効な血清中レベルまたは血漿中レベルをもたらすために、経口薬剤の製造にN−メチロール移動剤が使用される。病気を治療する方法、または対象者の血流に医薬剤を導入する方法も含まれ、方法は、1つ以上の上記の経口組成物を対象者に経口投与することを含む。病気は、腫瘍性疾患であり得る。特定の方法において、薬剤は、タウロリジン、タウルルタム、1183B(シクロタウロリジン)、N−メチロールタウリンアミド、N−メチロールタウリンアミドを形成する物質、またはこれらのいずれかの組み合わせなどのN−メチロール移動剤である。特定の実施形態によれば、薬剤は、タウロリジン、タウルルタム、またはこれらの組み合わせである。
【0010】
本発明の実施形態においては、たとえば、腫瘍性疾患または感染症などの病気を治療するための薬剤の製造に薬剤が使用される。薬剤は、患者の十二指腸または空腸において薬剤が放出されるように、または約5.4から約6.5のpH、たとえば約5.5以上のpHで薬剤が放出されるように製剤される。特定の用途においては、薬剤は、タウロリジン、タウルルタム、1183B(シクロタウロリジン)、N−メチロールタウリンアミド、またはこれらのいずれかの組み合わせなどのN−メチロール移動剤である。
【0011】
本発明のさらなる実施形態においては、対象者の血流に薬剤を導入する方法が提供され、方法は、薬学上許容される標的型放出担体と組み合わせた薬剤を対象者に経口投与することを含み、経口投与がなされると、担体は、(a)対象者の胃袋を通って薬剤を運び、対象者の十二指腸もしくは空腸に薬剤を放出することによって、十二指腸または空腸を通じて対象者の血流に薬剤を入り込ませる、または(b)約5.4から約6.5のpHにおいて薬剤を放出する、または(c)これら両方を行う。
【0012】
このタイプの特定の方法には、腸溶コーティングを含む標的型放出担体が用いられる。特定の方法は、上記対象者の十二指腸または空腸(たとえば、空腸上部)に薬剤を放出する標的型放出担体を使用する。特定の方法は、タウロリジン、タウルルタム、1183B(シクロタウロリジン)、N−メチロールタウリンアミド、またはこれらのいずれかの組み合わせなどのN−メチロール移動剤である薬剤を用いる。
【0013】
特定の方法において、組成物は、少なくとも約2μg/mL、少なくとも約4μg/mL、少なくとも約5μg/mL、少なくとも約10μg/mL、少なくとも約20μg/mLから約80μg/mLの濃度で薬剤を対象者の血流に導入する。組成物は、約2μg/mLから約80μg/mL、約2μg/mLから約40μg/mL、約2μg/mLから約30μg/mL、約2μg/mLから約20μg/mL、約4μg/mLから約80μg/mL、約4μg/mLから約40μg/mL、約4μg/mLから約30μg/mL、約4μg/mLから約20μg/mL、約5μg/mLから約80μg/mL、約5μg/mLから約40μg/mL、約5μg/mLから約30μg/mL、約5μg/mLから約20μg/mL、約10μg/mLから約80μg/mL、約10μg/mLから約40μg/mL、約10μg/mLから約30μg/mL、約10μg/mLから約20μg/mL、約20μg/mLから約80μg/mL、約20μg/mLから約40μg/mL、または約20μg/mLから約30μg/mLの範囲内の濃度で薬剤を対象者の血流に導入し得る。
【0014】
特定の実施形態においては、経口組成物およびその使用が提供され、組成物は、コルチコステロイドを含む。例示的な組成物は、タウロリジンおよび/またはタウルルタムのようなN−メチロール移動剤などの薬剤とコルチコステロイドとの組み合わせを含む。対象者の血流に薬剤を導入する方法、またはこれらの組成物を投与することを含む病気を治療する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好ましい実施形態の詳細な説明
血流中の医薬剤の濃度は、体内で戦うように設計された薬剤の病気治療に係る有効性をもたらすには重要である。しかし、一部の薬剤は、経口で投与されない。なぜなら、このような薬剤は、経口で服用されて胃液または他の要因に接触した場合、劣化しやすい、または他の有害効果の影響を受けやすい。たとえば、一部の化合物は、効果をもたらすためには最低限の血清中レベルまたは血漿中レベルを満たさねばならず、経口薬を用いてこのレベルを満たすことは難しい。一般に、患者の体内において十分に高い薬剤の血液中濃度を得るためには、このような化合物は異なる投与法によって投与しなければならない。これらの代替的な投与法、たとえば静脈内注射もしくは静脈内注入、または他の注射形態などは、特に自宅での使用において、経口の投与法ほど便利ではなく、患者には好まれない。本発明の組成物および方法によれば、特定の医薬剤を経口投与することができ、かつ適度に高い効果的な血液中濃度または血漿中濃度が実現される。
【0017】
タウロリジンおよび他のN−メチロール移動剤は、細菌や菌類を含む微生物細胞、ならびに他の既知の化学療法剤による細胞毒性に対して耐性を有する腫瘍細胞を含む腫瘍細胞の成長を鎮静化、縮小、阻止、または遅滞させる効果があるが、正常細胞および幹細胞はこの移動剤に対して良好な耐性を有することが分かった。タウロリジンなどのN−メチロール含有化合物またはN−メチロール供給化合物は、標準的な化学療法剤または抗生物質とは異なる構造によって細胞毒性活性を発揮する。これらのN−メチロール移動剤は、不可逆的にメチロール基を細胞表面に移動させることにより、腫瘍細胞のアポトーシスを引き起こす、または微生物細胞を死滅させることができる。化合物自体、または化合物によって作られるメチロール分子は、細胞表面のポリペプチド配位子または他の細胞表面部分などの構成体に結合し、たとえばアポトーシスなどによる細胞の死滅で終焉する細胞内情報伝達カスケードを開始する。タウロリジンは、3つのメチロール基を作用箇所に移動させることによって作用する。タウルルタムは、タウロリジンの中間代謝産物であり、非常に耐性の高いタウリンアミド化合物の遊離ならびにタウリンおよび二酸化炭素への生体内変化を伴って、単一のメチロール基を移動させる。このため、メチロール移動は、毒性の強い多くの抗腫瘍薬物の特徴であるメチル移動の構造とは異なる。タウロリジンおよびタウルルタムは、毒性が小さく、正常細胞に対する細胞毒性を有さない。
【0018】
「N−メチロール移動剤」および「N−メチロール供給化合物」の用語ならびにこれらと同じ語源を有する用語は、生理条件下でメチロール分子を含有する、またはメチロール分子を生成することが可能な化合物を示す。N−メチロール移動剤は、タウロリジンやタウルルタムなどの化合物、およびこれらの誘導体を含む。誘導体は、タウリンアミドおよび尿素の誘導体を含む。タウロリジンおよびタウルルタムの化合物は、引用によりここに援用される米国特許第5,210,083号に開示されている。
【0019】
特定のN−メチロール移動剤は、タウロリジン、タウルルタム、およびこれらの混合物である。他の適切なN−メチロール含有化合物には、タウリンアミド誘導体および尿素誘導体が含まれ、これらの例はここに記載され、図面に示される。本発明において有用となり得るタウロリジン、タウルルタム、タウリンアミド、および尿素の誘導体の具体例は、国際特許出願公開第01/39763A2号にも開示されており、その開示内容は引用によりここに援用される。
【0020】
タウロリジンまたはタウルルタムの「誘導体」とは、タウロリジンまたはタウルルタムのそれぞれの腫瘍に対する作用の少なくとも10%を有するスルホンアミド化合物をいう。このような化合物の一部の例には、1,3,−ジメチロール−5,5−ジメチルヒダントイン、ヘキサメチレンテトラミン、またはノキシチオリンが含まれるが、これらに限定されるものではない。例示的な化合物の構造については、
図2〜
図5を参照されたい。本発明での使用に適したN−メチロール移動剤には、タウロリジンおよび関連するタウルルタム化合物が含まれるが、本発明によれば、任意の活性N−メチロール移動剤を使用することができる。本発明での使用が考えられる他のN−メチロール移動剤としては、シクロタウロリジンまたはN−メチルタウリンアミドが挙げられる。
【0021】
N−メチロール移動剤は、有効な血液中濃度、血漿中濃度、または血清中濃度を実現するために以前は一般的にまたは上手く経口投与されなかった医薬剤の例である。特に、N−メチロール移動剤は、主に静脈内注射または静脈内点滴によって体腔内に投与されていた、または腫瘍もしくは腫瘍箇所の近辺に対して直接注射によって投与されていた。今日に至るまで患者がN−メチロール移動剤療法の恩恵を受けるために必要とされてきたこのような侵襲的な投与方法の不快さおよび不便さをなくすことが、患者にとっては望ましい。このため、本発明は、N−メチロール移動剤を含む抗腫瘍性および/または微生物性組成物の投与に有用と考えられる。しかしながら、ここに記載される本発明の組成物および方法と併せて、任意の適切な医薬剤を有利に用いてもよい。さらなる組成物は、コルチコステロイドおよび/または抗腫瘍性薬剤とN−メチロール移動剤との組み合わせであってもよい。
【0022】
驚くべきことに、たとえばタウロリジン、タウルルタム、および他のN−メチロール移動剤は、経口投与により、たとえば感染症および腫瘍性疾患などの病気の治療に上手く使用できることが分かった。特に、本発明に係るカプセルまたはマイクロカプセルなどの標的型放出経口投与の形態は、患者の体内における薬物の血液中濃度、血漿中濃度、または血清中濃度について、たとえば20μg/mLを実現するために使用することができる。この濃度は、腫瘍細胞をアポトーシスにより死滅させるのに適した範囲内にあり、たとえば細菌感染などの微生物感染を治療する、または血管形成および細管形成を阻止するために必要な範囲以上となる。これにより、患者は自宅での経口投与による抗腫瘍性治療、または細菌感染または菌類感染などの微生物感染の治療を受ける機会を得られる。この経口治療は、腫瘍もしくは膿瘍手術の際の静脈内注入および/または腹腔内点滴と併せて、または手術後に行うことができる、または、手術が選択肢にない場合および/もしくは従来の抗腫瘍性化学治療薬が有効でなくなった場合の腫瘍患者への一時的な治療としても行うことができ、侵攻性の腫瘍の成長および転移形成を少なくとも止め、腫瘍性疾患を安定させる。
【0023】
ここで使用される「治療する」または「治療」の用語は、腫瘍細胞および/または微生物細胞の成長を縮小する、阻止する、遅滞させる、または停止させることを含む。「治療する」または「治療」の用語は、このような細胞を死滅させること、ならびに悪性腫瘍を含む腫瘍の成長を縮小する、阻止する、遅滞させる、または停止させること、またはこのような腫瘍の大きさを縮小することを含む。
【0024】
本発明の実施形態は、経口投与のための医薬剤の製剤を提供する。特定の実施形態においては、経口投与のためのタウロリジンおよび/またはタウルルタムが含まれ、化合物の放出を遅滞または遅延させ、十二指腸、空腸への移行部、または空腸(たとえば、空腸上部)など、pHレベルが約5.4〜6.5、たとえば5.5〜6.0となる上部腸管に化合物を放出することができる。本発明の製剤は、タウロリジン、タウルルタム、化合物1183B(シクロタウロリジンという場合もある)、N−メチロールタウリンアミド、もしくは任意のN−メチロール供給化合物、またはこれらの混合物、または任意の適切な薬剤と併せて使用してもよい。シクロタウロリジンは、水媒体では安定せず、タウロリジンおよびメチレングリコールに変換される。しかし、ここに記載の本発明によれば、この化合物は経口投与することができ、たとえば癌などの治療に適した血清中濃度のレベルを実現することができる。
【0025】
本発明は、コルチコステロイドなどの他の医薬を投与することがさらに組み込まれる実施形態を含む。他の医薬は、本発明に係る組成物の投与前、投与中、または投与後に投与することができる。本発明において使用することができる例示的なコルチコステロイドは、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、モメタゾン、フルオシノロン、ベタメサゾン、デキサメサゾン、フルオコルトロン、クロベタゾン、プレドニカルベート、ハルシノニド、ブデソニド、デソニド、およびフルプレドニデンを含む。
【0026】
経口投薬製剤は、腸溶コーティングなどの標的型放出担体を有し得る。この標的型放出担体は、胃袋への薬物の放出を避けるように作用する。胃袋への薬物の放出は、胃酸逆流、胃袋の局所炎症、または胃袋の低pH環境で薬物が望ましくない反応を起こすなどの有害事象をもたらし得る。胃袋に見られるようなpH範囲が1〜4の場合において、タウロリジンおよび他の薬物は、少なくとも部分的に加水分解され得て、結果として生物学的利用能の損失が起こる。一般に、十二指腸のpHは約5.5であり、まして厳しい環境でもない。このため、製剤は、主として、または実質的に、たとえば十二指腸または空腸(たとえば、空腸上部)のような上部腸管など、胃袋を通過した後にのみ有効量の薬剤を放出し、薬物を最大限に吸収させる。薬物が結腸または下部小腸において放出された場合、吸収前に腸内細菌叢と反応して薬剤が除去される、減少する、または劣化する可能性があり、薬物の全身生物学的利用能の損失および血液中濃度、血漿中濃度、または血清中濃度の低下が潜在的に起こる可能性がある。
【0027】
このため、本発明の組成物および方法は、化合物が経口投与された場合に患者の血液中、血漿中、または血清中の活性化合物の濃度を高めることができる、薬剤の標的型放出製剤および投与方法に関する。組成物は、十二指腸または空腸(たとえば、上部空腸)など、胃袋の後の上部腸管において、約pH5.4〜6.5またはこれに近いpH、たとえば約pH5.5〜6.0で、活性化合物を放出し得る。この薬物放出位置では、経口投与された薬剤の生物学的利用能が最大となり、胃酸による化合物の劣化、および腸内細菌叢による早発性の除去または作用への接触可能性による化合物の劣化を回避することができる。本発明は、細菌の数が少ない腸の領域に活性薬剤を放出することを目標としている。
【0028】
ここに記載される所望の位置において薬剤を放出するように製剤または処理された、コーティング錠剤、カプレット、および硬カプセル剤または軟カプセル剤などを含む任意の経口投与の形態が本発明と併せて使用するのに適している。錠剤は、加圧およびコーティングにより形成され得る。適切な放出形態をもたらすための一つの方法としては、錠剤、カプセル、または他の経口投与の形態など、胃液に耐性を持つ投与形態をもたらすために、コーティングを使用することが挙げられる。既知のコーティングの例としては、コリコート(登録商標)またはオイドラギット(登録商標)など、メタクリル酸/アクリル酸エチルまたはメタクリル酸/アクリル酸メチルをベースとした共重合体が含まれる。特定の投与形態は、適切な腸溶コーティングが施された、270mgの体積充填量を有する単一opacで0(ゼロ)号サイズの硬ゼラチンカプセル、または体積充填量を10%増大させる細長いベース部分を有する0号サイズのカプセルなどがある。しかし、活性化合物の少なくとも大部分を十二指腸または空腸に放出する任意の医薬製剤を使用することができる。結晶が大きければ、同じ容量で大きな投薬量が可能となり、結晶は圧縮することができるため、300〜400mgまたはそれ以上の投薬量を実現することができる。
【0029】
従来の、もしくは簡便な錠剤またはカプセルの形態のなかで任意の適切なものを使用してもよい。たとえば、硬ゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)のカプセルが適しており、特定の投薬形態においては、0号サイズの細長いカプセルが便利である。硬ゼラチンカプセルは、内容物をpH5.5で投与、または十二指腸で投与するためには、オイドラギット(登録商標)Lアクリルポリマでコーティングすると有利である。HPMCカプセルは、胃液に対して約30分間は耐性を有し、十二指腸において、または5.5のpH値において解放される。胃液中での生成物の安定性を高めるために、HPMCカプセルにはコーティングを施してもよい。HPMCカプセルに適したコーティングとしては、架橋ポリメタクリレートまたは架橋ポリビニルアセテートフタレートなどが挙げられる。
【0030】
特定の実施形態において、pHに依存してカプセルまたは錠剤から薬物を放出させるために、オイドラギット(登録商標)Lパウダが10%〜15%のアセトンまたはイソプロパノールなどの有機溶媒に溶解され、浸漬法によって投薬形態にコーティングされる。充填されたカプセルまたは錠剤は、短時間浸漬される。その後、たとえばブロードライヤを用いて、または真空乾燥棚において乾燥させることにより、有機溶媒が取り除かれる。この方法と併せて使用される任意の適切なコーティング法が考えられる。たとえば、既知の手順を用いた水分散液としてオイドラギット(登録商標)L 30 D−55を用いたスプレーコーティング法も実施することができる。
【0031】
活性医薬剤の血液中濃度を適切なものとするために、経口投与が可能な投薬形態をもたらすことが望まれるような任意の病気の治療において、本発明の製剤および方法が有用となることが期待される。しかし、本発明による大きな恩恵は、N−メチロール移動剤などの注入可能な薬剤が従来より投与されてきた、菌類もしくは細菌による感染、または癌腫、肉腫、もしくはリンパ腫のような癌性疾患など、感染症または腫瘍性疾患の治療においても享受することができる。
【0032】
菌類または細菌による感染などの感染症が、本発明を用いた治療の対象として考慮される。膿の有無に関わらず、重いグラム陰性およびグラム陽性の細菌または菌類(すなわち、カンジダ属)を伴う重度の微生物感染、菌血症、および敗血症の治療は、非常に複雑であり、従来の方法で治療することは難しい。このような感染は、ここに記載される方法および組成物を用いて治療され得る。例示的な感染としては、院内感染、外科感染、腹膜炎、膵炎、胆嚢蓄膿症、および胸膜蓄膿症などの重度の腹部感染、骨髄炎などの骨感染、または任意の感染が挙げられるが、これらに限定されるものではない。免疫抑制剤、癌化学療法、放射線療法、汚染された点滴液、出血性ショック、虚血、外傷、癌、免疫欠損、ウイルス感染、および糖尿病、ならびに留置カテーテル、呼吸装置、腎臓透析ポート、または任意のインプラント、管、もしくはカテーテルの必要性などに起因する、またはこれらの使用により引き起こされる感染症である腐血症、敗血症、および敗血性ショックの治療が特に考えられる。グラム陰性およびグラム陽性の細菌生物への接触による感染症または敗血症は、本発明の組成物および方法、またはこれらの使用により、治療され得る。
【0033】
本発明を用いることが考えられる細菌感染および/または菌類感染、特に院内感染などの微生物感染の具体例には、大腸菌、クレブシエラ種、エンテロバクター種、プロテウス種、霊菌、緑膿菌、および黄色ブドウ球菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌などを含むブドウ球菌属、腸球菌種、肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌、バクテロイデス属、アシネトバクター属、ヘリコバクター属、カンジダ種などに起因する感染症などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。たとえば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)およびバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などの耐性菌が含まれる。
【0034】
特に、ステノホモナス・マルトフィリアに起因する細菌性感染症の例に対して、本発明使用が考えられる。ステノホモナス・マルトフィリアは、好気性、非発酵性、かつグラム陰性の細菌であり、治療が困難な感染を人間にもたらす。感染は、免疫不全の患者、および呼吸管、中心静脈ラインもしくはシャント、または任意の留置カテーテル、シャント、もしくは管を必要とする患者に多く発症し得る。この細菌による感染としては、一般に肺炎、尿路感染症、または敗血症などがある。
【0035】
結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、中皮腫、黒色腫、腎臓癌、肝臓癌、膵癌、胃癌、食道癌、膀胱癌、子宮頸癌、噴門癌、胆嚢癌、皮膚癌、骨肉腫、頭部および頸部の癌、神経膠腫、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、星状細胞腫、および癌性髄膜炎などの中枢神経系の癌、白血病、リンパ腫、リンパ肉腫、腺癌、ならびに線維肉腫などの癌、およびこれらの転移癌は、たとえば、本発明の実施形態に係る治療が考えられる疾患である。薬物耐性腫瘍、たとえば多剤耐性の(MDR)腫瘍もまた、本発明の組成物を用いた治療方法の使用が考えられ、固形腫瘍、非固形腫瘍、およびリンパ腫などの薬物耐性腫瘍が含まれる。現時点では、いかなる腫瘍細胞も、ここに記載される方法を用いて治療できると考えられる。
【0036】
本発明の組成物および方法は、併用両方において使用することができる。併用治療においては、たとえばN−メチロール含有化合物などの薬剤が、他の化学療法薬剤、または放射線治療、手術、もしくは他の任意の治療態様の前、後、または併せて投与される。このため、本発明の製剤は、化学療法または放射線治療、ならびに特に併用療法がよく行われる癌や腫瘍性疾患の治療においては、手術などの任意の従来の治療法と組み合わせて(順次、同時または別個に)投与され得る。本発明と組み合わせて使用される薬物には、抗腫瘍性化学療法薬剤が含まれる。コルチコステロイドもまた、病気の治療のためにN−メチロール移動剤と組み合わせて投与され得る。併用される化合物は、N−メチロール移動剤を伴う単一の投薬形態、または同時または異なるタイミングで別個に投与される別個の投薬形態で製剤される。
【0037】
併用される薬剤または療法は、N−メチロール移動剤を用いる腫瘍性疾患の治療で使用された場合、N−メチロール移動剤とは異なるメカニズムによって腫瘍または腫瘍細胞を治療および/または死滅させ得る。たとえば、代謝拮抗物質、プリンもしくはピリミジン類似体、アルキル化薬剤、5−FU、架橋剤(たとえば、白金化合物)、挿入剤、腫瘍特異的モノクローナル抗体(たとえば、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、テモゾラミド(テモダール(登録商標))、ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標))など)、抗血管形成剤、および/または抗生物質が、併用療法において投与され得る。併用される薬物は、N−メチロール移動剤の前、後、または同時に投与してもよい。本発明の組成物および製剤は、特にこれらの治療に対する抵抗が現れた場合、または抵抗が現れる可能性が懸念される場合に抗腫瘍性抗体療法とともに使用してもよい。
【0038】
本発明のさらなる実施形態には、N−メチロール移動剤とコルチゾンやプレドニゾロンなどを含み得るコルチコステロイドとを併用することが含まれ、これにより、腫れの大きさの縮小に役立つ。併用は、N−メチロール移動剤投与の前、後、または同時に行われ得る。
【0039】
本発明の製剤は、重病の犬のリンパ肉腫(リンパ腫)の治療に上手く利用されおり、病気の治療に有効なN−メチロール移動剤の血漿中レベルまたは血清中レベルを経口薬がもたらすことを示している。実施例10を参照されたい。犬は、3ヶ月にわたって毎日2つのタウロリジン標的型放出カプセルを用いて治療され、明らかな副作用が起こることはなかった。犬のリンパ肉腫に対する従来技術の治療法には、3つの抗腫瘍化学療法にプレドニゾロンが加えられ、複雑なスケジュールによって6ヶ月の期間にわたって静脈投与が行われた。省略された手順については、比較のために引用によりここに援用される2004年9月発行のDiavet:aus dem Labor fuer die Praxisを参照されたい。多くの場合、このような長期にわたる犬に対する静脈治療を患者に対して行うことは不可能に近く、手間がかかる。このため、本発明は、以前には利用できなかった経口投与による治療法を可能とすることにより、先行技術から得られる生成物および方法を向上させるものである。
【実施例1】
【0041】
実施例1 タウロリジン/タウルルタムゼラチンカプセル
表Iまたは表IIに示される製剤を含有するカプセルは、以下のとおりに製造される。タウロリジンおよび/またはタウルルタム化合物の通常の結晶または微結晶の形態は、上記の製剤のいずれと合わせても用いることができる。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
タルク、マグネシウムステアリン酸塩、およびアエロジル−200が、ジムホイールで10分間混ぜ合わされ、0.1mmの篩器でふるいにかけられ、さらに再度10分間混ぜ合わされる。タウルルタムまたはタウロリジン/タウルルタムが加えられ、ジムホイールでさらに10分間混ぜ合わされる。この混合物は、0.5mmの網目サイズを有する篩器でふるいにかけられ、混合物は再度10分間混ぜ合わされる。製剤は、アプロファーム(登録商標)カプセル装置を用いて0号サイズのカプセルに充填され、10回のパウンディング、再充填、閉包、および封止が行われる。
【実施例2】
【0045】
実施例2 記録用病院サンプルの製造,タウロリジンカプセル,270mg
カプセル製剤は、実施例1に記載の方法で、以下の表IIIに示される製剤を用いて製造された。
【0046】
【表3】
【実施例3】
【0047】
実施例3 メチロール移動剤の製造、化合物1183B
300グラムのタウロリジン(ガイストリヒ(登録商標))、3000mLのメチレングリコール(36%の純度)、および500mLの蒸留水が、ほぼ透明な溶液が得られるまで、室温で合わせて攪拌された。溶液は濾過され、透明な濾液が、冷蔵庫内において5℃から8℃で夜通し、または少なくとも14時間置かれた。生成物1183B(シクロタウロリジン)は結晶化した。この固体は、サイフォンを用いた吸引によって除去され、アルコールから再結晶化した。回収、220g、融点149℃〜150℃。赤外線スペクトル解析により、この生成物(1183B)がケネディ(Kennedy)らによるアクタクリスタログラフィカ,C55:232−234,1999年で報告されたもの(7−オキサ−2[λ]
6−チア−1,5−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−2,2−ジオン)と同じであることが確認された。
【実施例4】
【0048】
実施例4 ゼラチンカプセルの製造、化合物1183B
ゼラチンカプセルは、実施例1に記載の方法で、以下の表IVに示される製剤を用いて製造される。450mgの1183Bを含有する同じカプセルを用いて、さらなるカプセルが製造される。これは、化合物の異なる結晶サイズにより可能となり、同じカプセルのサイズに対して異なる充填重量が得られる。
【0049】
【表4】
【実施例5】
【0050】
実施例5 0号サイズの細長いカプセルへの充填重量の決定
HPMCカプセル(カプスゲル(登録商標))には、以下の製剤によるFST複合体と名付けられた担体におけるタウロリジン、微粒化タウロリジン、またはタウルルタムが充填された。表Vを参照されたい。FST複合体は、8割がタルク(タルク Eu.Ph.)からなり、1割がマグネシウムステアリン酸塩(Eu.Ph.)からなり、1割がアエロジル200(登録商標)(Eu.Ph.)からなる。10グラムの混合物が各試験番号について製造され、カプセルに充填され、実重量が決定された。カプセルごとに含まれるタウロリジンの有効量は、この情報から算出される。試験2c(微粒化タウロリジンおよび2割のFST複合体)では、タウロリジンのみの製剤において、最大量のタウロリジン(377.3mg)が提供された。タウロリジンにタウルルタムを加えた製剤に関しては、試験5a(タウロリジン75、タウルルタム25、およびFST複合体2)により、最大量のタウロリジン(394.5mg)が提供された。この製剤に微粒化タウロリジンを用いると、381.8mgという若干少ない量がもたらされた。
【0051】
【表5】
【実施例6】
【0052】
実施例6 コルチコステロイドを含む投薬形態
カプセルまたは錠剤は、製剤にコルチコステロイド(たとえば、ヒドロコルチゾンまたはプレドニゾロン)を含む上記の実施例のいずれかにより製造される。プレドニゾロンの適切な服用量は1日あたり5〜80mgであり、ヒドロコルチゾンの適切な服用量は1日あたり5〜250mgである。
【実施例7】
【0053】
実施例7 浸漬コーティングによる遅延放出投薬形態
十二指腸への薬物投与のための投薬形態をもたらすために、オイドラギット(登録商標)L100−55パウダーがアセトンまたはイソプロパノールの10〜15%溶液に溶解される。錠剤または充填されたカプセルは、短時間の浸漬、および浸漬された錠剤またはカプセルを乾燥させることにより、この溶液中でコーティングされる。ブロー乾燥法もしくは真空乾燥法、または任意の適切な方法を用いて、有機溶媒を除去してもよい。
【実施例8】
【0054】
実施例8 スプレーコーティングによる遅延放出投薬形態
オイドラギット(登録商標)L30 D−55水分散液は、コーティングパンにおいて適切な機器を用いて、メチロール移動剤の錠剤またはカプセル投薬形態に対してスプレーコーティングされる。
【実施例9】
【0055】
実施例9 硬ゼラチンカプセルのためのコーティング浸漬処理
以下の表VIに示されるタウロリジン(タウロリン(登録商標))または化合物1183Bを含むカプセルは、示されるように、1〜4の浸漬コーティングによってオイドラギット(登録商標)コーティングを用いてコーティングされる。表VIにおけるカプセルAについて、カプセルはオイドラギット(登録商標)S(アセトンに溶解される)の浴槽に10分間浸漬され、ホットエアガンにより乾燥され、再度オイドラギット(登録商標)溶液に10分間浸漬された。カプセルは、乾燥棚において、50℃で夜を通して再度乾燥され、硬化および乾燥のために置かれた。
【0056】
コーティングの理想的な量を見つけるために、カプセルは異なる回数に分けてオイドラギット(登録商標)溶液に浸漬された。表VIのカプセルBについては、10個のカプセルの各々が、1、2、3、または4回の別個の浸漬により、カプセルAについて記載したようにコーティングされ、異なる量のコーティングが付与された。各乾燥ステップの後、カプセルは最終的な乾燥のために、夜を通して硫酸紙の上に置かれた。活性成分を十二指腸または空腸に放出するための最高の結果は、2回のコーティングステップによって実現された。
【0057】
1183Bを含むカプセルもオイドラギット(登録商標)液を用いてコーティングされた(以下の表VIのCを参照されたい)。これらのカプセルも最終的な乾燥のために夜を通して硫酸紙の上に置かれた。
【0058】
表VIにおけるDのカプセルについては、12.5%溶液を得るために60分間強めに攪拌しながら、イソプロピルアルコールにオイドラギット(登録商標)L 100−55を溶解させることによって、オイドラギット(登録商標)L−55溶液が作られた。カプセルは、上記のようにこの溶液に一度浸漬させることによってコーティングされ、硫酸紙の上で夜を通して乾燥される。カプセルに対しては、真空棚ドライヤーにおける最終乾燥が40℃および20〜25mbarで24時間行われる。コーティングを除いた10個のカプセルの重量は6426mgであり、コーティングを含めると6466mgとなり、カプセルごとのコーティング材料は平均で4mgとなる。コーティングされていないカプセルの直径(500mm)を所与として、与えられる量(mg/cm
2)は、4mg/500mm
2=8mg/1000mm
2=8mg/10cm
2=0.8mg/cm
2として算出される。これにより、与えられる量は、(500mm
2×0.8mg/cm
2)/642.6mg=0.62%となる。
【0059】
これらのカプセルは、0.1 N HCIにおいて36.2℃〜36.8℃で分解についての分析が行われ、胃液に対する持続性が判定された。270mgのタウロリジンを含む2つの処理されていないカプセルが、1000mLのフラスコに入れられた。36.6℃に温められた500mLの0.1 N HCLが一定の温度で低速回転させながら加えられた。4分後にカプセルが溶解した。オイドラギット(登録商標)のSタイプでコーティングされた2つのカプセルは、同じ条件下に2.5時間置かれた。この後でも、カプセルは未だ無傷の状態であった。つぎに溶液はNaOHによって中和され、pH7.5に調整された。カプセルは、2時間後に内容物を放出した。
【0060】
二度の浸漬によってオイドラギット(登録商標)のSタイプで腸溶コーティングが施された、270mgのタウロリジンを含む1つのカプセルは、1000mLのフラスコに入れられた。pH7.4で36.6℃の500mLの水が加えられ、36.6℃でゆっくりと攪拌し続けられた。1.25時間後には、溶液による攻撃の効果がカプセル殻に表れ、2時間後には、カプセルが開いた。
【0061】
腸溶コーティングが施されていない、270mgまたは450mgの1183Bを含む2つのカプセルが、36.5℃の温度下において500mLの0.1 N HCI溶液と併せて1000mLのフラスコに入れられ、この温度でゆっくりと攪拌し続けられた。カプセルは、4〜7分で溶解された。イソプロピルアルコールにおいてオイドラギット(登録商標)のタイプLによるコーティングが施された同じカプセルについては、36.6℃の温度下において2度の浸漬が同じ処理に適用された。1時間後、カプセルには、溶液による攻撃の効果が若干現れただけである。
【0062】
【表6】
【0063】
酸性、中性、またはアルカリ性の胃液または腸液に対するカプセルの安定性は、オイドラギット(登録商標)のアセトン溶液またはイソプロピルアルコール溶液にさらに浸漬させることで高まる。これにより、カプセルが十二指腸または空腸に活性成分を放出できるようになる、または腸(結腸)の下部のみに放出できるようになる。特定のカプセルは、2回の浸漬によってコーティングされた。
【実施例10】
【0064】
実施例10 生体内リンパ肉腫の治療
体重22kgの6歳の雌のホファヴァルト犬には、小さく触知可能な腫瘤が直腸に見られ、肛門周囲に出血を伴っていた。腫瘍の組織学的検査によれば、2つのサンプルにおいて、腸粘膜の残余部分はごく小さなものであった。残りの領域は潰瘍化していた。円形細胞の特有の個体群が広範囲にわたって拡散した状態で悪性増殖し、主に非常に密集した状態で蓄積していたため、腸壁は既に識別できない状態であった。細胞は、円形で部分的に丸い扇型の縁を持つ細胞核を有しており、多くは突起した核小体を有していた。細胞質は不明瞭に制限され、おそらく狭まっていた。異常増殖に対する制限は識別することができなかった。リンパ節の過形成およびリンパ節の腫れも見られた。この動物は通常の健康状態が非常に悪く、頻脈、呼吸過多、および黒色便を伴っていた。血液検査では、好中球、桿状顆粒白血球、およびリンパ球の数に上昇が見られ、アルカリホスフォターゼおよび乳酸脱水素酵素の上昇も見られた。ホルモンレベルを活性化させる甲状腺も若干低下していた。放射線写真では、広範囲にわたる縦隔リンパ節の病変および肺への転移癌が示された。潜血が便の中に見つかった。不利な予後を伴うリンパ肉腫と診断された(空間要求を伴う縦隔腫瘍)。
【0065】
この犬は、経肛門ポリープ切除、14日前のパンチ生検、および段階的な粘膜下切除による直腸ポリープの除去によって治療された。これに続き、プレドニゾロン(リンパ細胞に対する細胞毒性薬剤として)を用いた化学療法が第0日に始められ、14日間は最大投与量の1mg/kgが与えられ、その後に服用量が減らされた。第6日には、腸溶コーティングを有する、実施例2によって作られたタウロリジンカプセルの投与が開始され、1つのカプセルを1日に2回経口投与された。タウロリジンを用いた経口治療は、3ヶ月続けられた。
【0066】
治療の開始から41日後には、この動物の通常の健康状態が大幅に改善され、安定し、挙動が目立たなくなり、体重が2kg増えた。試験により、以下の結果が得られた。好中球および桿状顆粒白血球の数が大幅に降下し、他の血液値結果も正常の範囲内となった。乳酸脱水素酵素のレベルは若干上がった程度にとどまり、便の潜血は陰性であった。放射線写真では、縦隔領域および肺には何も見当たらなかった。治療による副作用も見られなかった。
図6および
図7は、治療を行う前(左)と行った後(右)の胸部における前後方向の放射線写真(
図6)、および治療を行う前(上)と行った後(下)の胸部における側部方向の放射線写真(
図7)である。治療前は、大きな腫瘍の塊によって引き起こされた縦壁が拡張して広がっている状態が
図6に見られ、胸骨後空間が完全に閉塞した状態が
図7に見られる。治療後は、腫瘍の塊は見られなかった。
【実施例11】
【0067】
実施例11 有効な血液中レベルを実現するための経口投与
例えば上記の実施例1〜9に見られるような本発明に係る経口投与形態は、対象者に投与され、血液中、血清中、または血漿中のN−メチロール移動剤のレベルが約2〜80マイクログラム/mLの範囲内となる。治療の適切な対象は、たとえば腫瘍性疾患または細菌もしくは菌類による感染など、N−メチロール移動剤が提示される任意の病気に苦しむ動物および人間が含まれる。