特許第5926287号(P5926287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5926287電気音響デバイス及び電気音響デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926287
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】電気音響デバイス及び電気音響デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   H03H9/17 F
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-546638(P2013-546638)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(65)【公表番号】特表2014-502814(P2014-502814A)
(43)【公表日】2014年2月3日
(86)【国際出願番号】EP2011070709
(87)【国際公開番号】WO2012089416
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年8月20日
【審判番号】不服2015-13316(P2015-13316/J1)
【審判請求日】2015年7月13日
(31)【優先権主張番号】102010056572.5
(32)【優先日】2010年12月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】シュミットハマー,エドガー
(72)【発明者】
【氏名】ヘン,グドラン
【合議体】
【審判長】 加藤 恵一
【審判官】 丸山 高政
【審判官】 梅本 章子
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102008001000(DE,A1)
【文献】 M.Dragoman,High performance thin film bulk acoustic resonator covered with carbon nanotubes,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,AMERICAN INSTITUTE OF PHYSICS,2006年10月 6日,Volume89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/00 - H03H 3/10
H03H 9/00 - H03H 9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
第一電極(10)と、
第二電極(20)と、
前記第一電極(10)と前記第二電極(20)との間に設けられて電気的にカップリングされた活性領域(30)とを含み、基板(40)上に、前記第一電極(10)が当該基板(40)側に向いて設けられている層配列を備えた電気音響デバイスであって、
前記第一電極(10)および/または前記第二電極(20)は、グラーフェンからなる層を含み、
前記活性領域(30)は、圧電層を備える電気音響デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の電気音響デバイスにおいて、
前記層配列は、前記第一電極(10)と前記基板(40)との間に更に反射層(51,52)を備える電気音響デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の電気音響デバイスにおいて、
前記第一電極(10)及び/または前記第二電極(20)及び/または前記反射層(52)が、少なくとも一部の領域にグラーフェンからなる層を含んでいる電気音響デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気音響デバイスにおいて、
前記第一電極(10)及び/または前記第二電極(20)が、複数の上下に重なった層を備え、そのうちの少なくとも一つの層がグラーフェンからなる層を含んでいる電気音響デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の電気音響デバイスにおいて、
前記第一電極(10)及び/または前記第二電極(20)の、グラーフェンからなる層を少なくとも1つ含む層が、Ti,Mo,TiとMoの混合物,Ru,Pt,W,Al,Cu,AlとCuの混合物、を含む群から選ばれた材料を含む少なくとも一つの層と組み合わされている電気音響デバイス。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の電気音響デバイスにおいて、
高い音響インピーダンスを有する少なくとも一つの第一反射層(51)と、低い音響インピーダンスを有する少なくとも一つの第二反射層(52)と、基板(40)とを含み、前記少なくとも一つの第一反射層(51)と前記少なくとも一つの第二反射層(52)とが、前記基板(40)と前記第一電極(10)との間に配設されている電気音響デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の電気音響デバイスにおいて、
少なくとも一つの第二反射層(52)が酸素が付加されたグラーフェンを有している電気音響デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載の電気音響デバイスにおいて、
前記第二反射層(52)が電気的に絶縁されている電気音響デバイス。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の電気音響デバイスにおいて、
少なくとも一つの第一反射層(51)がタングステンを含んでいる電気音響デバイス。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の電気音響デバイスにおいて、
第二反射層(52)が前記第一反射層(51)と前記第一電極(10)との間に配設されている電気音響デバイス。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電気音響デバイスにおいて、
前記電気音響デバイスは、体積波デバイスとして成されている電気音響デバイス。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の電気音響デバイスの製造方法であって、
グラーフェンが、化学気相成長、物理気相成長、溶液塗布及び表面化学反応を含む群から選ばれた一つの方法を用いて設けられる電気音響デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子デバイス及び電子デバイスの製造方法を示す。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、例えば電気音響デバイスの基幹的構成部分は、電極及び、必要な場合反射層である。電極の材料として幾多の金属材料、例えばモリブデンやタングステンが既に研究されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の少なくとも一つの実施形態の課題は、より優れた特性を持つ材料を有する電子デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は請求項1に記載の電子デバイスにより解決される。本発明の別な実施形態の別の課題は、この種の電子デバイスの製造方法を提供することである。この課題は請求項15に記載の方法により解決される。更に別な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0005】
一実施形態によれば、少なくとも第一電極、第二電極、及び第一電極と第二電極との間に設けられて電気的にカップリングされた活性領域を含層配列を有する電気音響デバイスが示される。この層配列は基板上に配設されており、第一電極はこの基板側に向いて配設されている。この第一電極および/または第二電極はグラーフェンからなる層を含み、活性領域は圧電層を備える。

【0006】
「電気的にカップリングされている」とは、ここでは、オーミック接触または電磁接触を意味する。
【0007】
「層配列」は、幾つかの上下に重なった層を意味し得るが、例えば第三の層の上に横に並べて配設された二層をも意味し得る。
【0008】
電子デバイスの層配列は、一実施形態によれば更に反射層を含んでいてもよい。更に、第一電極及び/または第二電極及び/または反射層は、少なくとも一部の領域に単原子炭素層を含んでいてもよい。
【0009】
その場合第一電極、第二電極及び反射層のうち少なくとも一つは、少なくとも一部の領域に単原子炭素層を含む。
【0010】
こうして、全体または一部の領域が単原子炭素層、つまり合成材料を含む少なくとも一つの電極及び/または少なくとも一つの反射層を有する電子デバイスが示される。
【0011】
単原子炭素層はグラフェンを含んでいてもよく、以下、少なくとも一部で、単原子炭素層はグラフェンと呼ばれる。
【0012】
こうして電子デバイスの一方または両方の電極及び/または反射層には、例えばモリブデンやタングステンのような重い金属は使用されず、それに代わる合成材料が使用される。
【0013】
発明者らは、グラフェンが、電子デバイスが課し得る高い電気的並びに音響的要求を満たすことに気づいた。グラフェンは特にそうした力学的安定性と導電性とを有する。力学的安定性は鋼鉄に勝り、導電性は銅に勝る。
【0014】
グラフェンとはSP2混成炭素の単原子の厚さの層の名前である。グラフェンの合成は様々な仕方で行われ得る。例えば、グラファイトを酸素で酸化し、一つおきの炭素原子上に酸素原子を配し、堆積した酸素を通して個々のグラファイト層が互いに反対側に押し合うことにより、個々のグラフェン層を単離することができる。別な合成方法は、炭化ケイ素の1500(Cでの加熱である。
【0015】
グラフェンは官能化も可能な多環芳香族炭化水素の一種である。グラフェンの基本構造は、ほとんどの溶媒に不溶のヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に基づく。この基本構造は例えばアルキル鎖により置換可能で、置換後のグラフェンは溶媒中に可溶となる。
【0016】
結晶の形でも溶液中でもグラフェンは柱状に並び得る。その際芳香族核は直接上下に並び得る。柱状配列は自己組織化と呼ばれ、溶液中で配列が生じる場合は、グラフェンの置換基、温度及び濃度に依存して構成される。溶液中での柱状配列により、例えば、欠陥のない理想的な場合、秩序の整った層を持ち、高い電荷キャリア移動性を持つ薄い表面膜を生成することができる。
【0017】
円柱状に配列されたグラフェンは、いわゆる真横向きに、例えば基板上に設けられていてもよい。その場合個々の柱は基板に平行に配されている。あるいはグラフェンは、いわゆる正面向きの柱状配列で、基板上に設けられてもよい。その場合個々の柱は基板に垂直に配されている。これら二種類の配置は共にグラフェン層内部の高い秩序を特徴とする。
【0018】
グラフェンつまり単原子炭素層は、電子デバイス中に複数の単層として配設されていても、多層構造として配設されていてもよい。こうして炭素層は、高い秩序をもち得る単離された層として、あるいは上下に重なった層として、電子デバイス中、例えば第一または第二電極中、または反射層中に存在し得る。
【0019】
電子デバイスは電気音響デバイスであってもよく、その場合活性領域は圧電層を含む。圧電層は例えば窒化アルミニウムを含んでいてもよい。
【0020】
第一及び第二電極は圧電層の一つの面に配設されていてもよい。こうして電気音響デバイスは例えば表面波デバイスであってもよい。あるいは第一及び第二電極は圧電層の対向する面に配設されていてもよい。例えばこの実施形態では体積波デバイスとなる。
【0021】
単原子炭素層つまりグラフェンを、第一及び/または第二電極の材料として、及び/または反射層として電子デバイスに使用できるためには、グラフェンはその音響的特性、電気的特性並びに応力に対する反応についての特定の要求を満たさなければならない。
【0022】
例えば電極については、電極が電気音響デバイスに使用される場合、できるだけ高い音響インピーダンスが必要である。これによりデバイスの良好なQ値を実現することができる。グラフェンは高い音響インピーダンスを有するので、電気音響デバイスにおける電極として使用可能である。
【0023】
高い導電性は、グラフェンを例えば電子デバイスの電極に使用するのに必要な、もう一つの特性である。グラフェンの導電性は108S/mにもなり得るもので、従ってグラフェンは例えば銀よりも高い導電性をもち、電極材料として使用可能である。
【0024】
電極材料の選択に当たって考慮すべき別の要素は、電気音響デバイスに生じる応力を圧電層内で保つ能力である。応力挙動または応力分散は、特に体積波デバイスについて重要である。グラフェンはこの点で、例えばモリブデンやタングステンのような従来の電極材料に比肩する値を示す。
【0025】
電子デバイスにて、第一及び/または第二電極は、いくつかの上下に重なった層を含み、そのうちの少なくとも一つの層が、単原子炭素層を含んでいてもよい。こうして、第一及び/または第二電極は、全体が単原子炭素層から構成されていてもよいし、単原子炭素層を含む一つの層と、別の材料を含む層から成るサンドイッチ構造を有していてもよい。
【0026】
第一及び/または第二電極の、少なくとも一つの単原子炭素層を含む層は、Ti,Mo,TiとMoの混合物,Pt,Ru,W,Al,Cu,AlとCuの混合物を含む群からから選ばれた材料を含む少なくとも一つの層と組み合わされてもよい。
【0027】
例えば以下の構造:Ti,Al/Cu,W を有するサンドイッチ構造が形成されていてもよく、その場合、単原子の炭素を含む層は、TiとAl/Cuとの間、またはAl/CuとWとの間、または Wの上に配設可能である。
【0028】
別の可能なサンドイッチ構造は以下の構造:Mo,Ti/Mo,Ruをもつ。この場合もグラフェンはMoと Ti/Moとの間、またはTi/MoとRuとの間に配設可能である。この種のサンドイッチ構造は例えば、体積波デバイスの電極を構成することができるが、この体積波デバイスでは、圧電層が基板上に、第一電極が基板と圧電層の間に、第二電極が圧電層の上に基板とは反対側の面に配設されている。ここでサンドイッチ構造は、例えばデバイスの第一電極を形成し得る。
【0029】
サンドイッチ構造の別の例は、AlまたはAl/Cu層と結合された一つの単原子炭素層である。この種の電極は、例えば表面波デバイスの第一及び/または第二電極を構成することができ、表面波デバイスでは、第一、第二電極とも圧電層の一方の面に配設されている。
【0030】
表面波デバイスの両電極が、いわゆる櫛構造を有し、第一、第二電極の櫛のフィンガーが圧電基板上に交互に前後に並んで配設されていてもよい。その場合第一電極と第二電極との間のそれぞれの領域に力線が形成され得る。
【0031】
表面波デバイスの場合、特にグラフェンの力学的安定性が、グラフェンを電極の材料として使用するのに有利である。体積波デバイスの場合、グラフェン層の高い導電性と良好に決め易い層厚は、電極として使用するのに有利である。どちらの場合もグラフェンを電極材料として用いることにより、デバイスの特性を高めることができる。更にデバイスのサイズを小さくすることもできるが、これは、導電性または力学的安定性が高められるので、適用されている他のすべての電極材料の層厚を減らすことができるからである。
【0032】
電子デバイスは更に、高い音響インピーダンスを有する少なくとも一つの第一反射層と、低い音響インピーダンスを有する少なくとも一つの第二反射層と、基板とを含んでいてもよく、その場合、第一反射層と第二反射層は基板と第一電極との間に配設されている。二つの第一反射層と二つの第二反射層とが交互に上下に重ねられていてもよい。こうして例えば基板と圧電層との間に、圧電層で生じた波が基板を通って逃げないようにするブラッグミラーが構成されていてもよい。第一、第二反射層は(/4ミラー層であってもよい。
【0033】
少なくとも一つの第一反射層はタングステンを含んでいてもよい。第一反射層は導電性を有していてもよい。
【0034】
少なくとも一つの第二反射層は化学修飾された単原子炭素層を有していてもよい。例えば、絶縁性を有する、酸素が付加されたグラフェンを用いることができる。
第二反射層は、電気的に絶縁されてもよい。
【0035】
こうしてグラフェンは、ブラッグミラーの一部として、非導電性材料としても、電子デバイス例えば体積波デバイスに用いることができる。単原子炭素層を含む第二反射層は、第一反射層と第一電極との間に配設可能である。こうしてグラフェンが絶縁体として用いられことで、短絡を避けるために従来必要とされた構造は不要になり、積層形成をプロセス技術的に簡単にすることができる。
【0036】
こうしてグラフェンは絶縁体としても導電体としても実施可能である。絶縁体を得るための酸素の添加は力学的特性を損なうことなく行うことが出来る。
【0037】
電子デバイスは表面波デバイスとして、または体積波デバイスとして、または微小電気機械デバイスとして構成されていてよい。表面波デバイスはSAWデバイス(SAW:surface acoustic wave)とも呼ばれ得る。体積波デバイスはBAWデバイス(BAW:bulk acoustic wave)とも呼ばれ得る。
【0038】
こうして例えばSAWまたはBAWフィルタ、共振器またはセンサや、電子デバイスを備えた導波路や遅延路を提供することができる。更に電子デバイスはいわゆるガイドバルク音響波に基づくデバイスを構成し得る。フィルタから更にデュプレクサを構成することができ、他の複雑なモジュールを構成することもできる。この種の電気音響デバイスは例えば移動通信に使用できる。
【0039】
こうしてグラフェンはその電気的特性に応じて、電極材料として及び/または反射層として、例えば電気音響デバイスに用いることができる。
【0040】
更に、上述の実施形態による電子デバイスの製造方法を示す。ここで単原子炭素層は、化学気相成長、物理気相成長、溶液塗布及び表面化学反応を含む群から選ばれた一つの方法を用いて設けられてもよい。こうして電子デバイスの所望の箇所にグラフェン層を単純な仕方で設けることができる汎用的な方法が提供される。
【0041】
本発明を図面と実施例を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】グラフェンの音響インピーダンスを他の材料と比較して図形的に示す図である。
図2】電極の三次元的概略側面図である。
図3】a)〜c)は、様々な層配列の応力分布を示す図である。
図4】体積波電気音響デバイスの概略側面図である。
図5】デバイスの分散曲線である。
図6a】表面波電気音響デバイスの概略側面図である。
図6b】表面波電気音響デバイスの概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は様々な材料の音響インピーダンスを図形的に示す図である。
【0044】
音響特性については、いわゆるヤング係数(弾性係数)Y(グラフェンでは0.5乃至1.2TPa)、密度((グラフェンでは約3000乃至4000kg/m3)、及びポアソン比((グラフェンでは0.04乃至0.11)を考慮すべきである。これらの値から音響パラメタを推定することができ、グラフェンの製造方法と合わせて正確な音響パラメタが得られる。極値を用い、等方性材料を仮定すると、いわゆるコンプライアンス行列の関係

を評価することで、推定値を得ることができる。これらのパラメタから、以下のように定義される音響基準パラメタを導出することができる。
音響インピーダンス(長手方向):
音響インピーダンス(剪断):
【0045】
ここでvL及びvSはそれぞれ長手方向の速度と剪断速度である。これらのインピーダンスから対応する伝播速度を導出できる。
【0046】
図1のx軸上に速度(単位はkm/s)を、y軸上に密度(単位はg/cm3)を示す。各バブルの大きさは、それぞれの材料の音響インピーダンスを表す。ここでGを付したバブルはグラフェンの音響インピーダンスを表している。このバブルの大きさが、電気音響デバイスの電極の従来の幾つかの材料、例えばPt,W,UまたはMoと比較される。
【0047】
例えば体積波デバイスでは、できるだけ良いQ値を得るために、電極の音響インピーダンスは極めて高くなければならない。こうして音響インピーダンスがバブルの半径によって示されている図1にて、適した材料をできるだけ大きな円の半径を基準に選び出すことができる。ここでグラフェンはほぼモリブデンやウランの大きさである。こうして電極のQ値を維持または改善するためにグラフェンを使用することができる。電極が幾つかの層を備え、そのうち少なくとも一つがグラフェンを備えるなら、グラフェンはモリブデンやタングステンを代替または補完することができる。
【0048】
様々な材料の剪断波も同様に表すことできるであろう(ここでは図示せず)。そうした図示から、合成グラフェンがモリブデンやタングステンの優れた代替であることも見て取れるであろう。
【0049】
図2は直方体の形をした電極の三次元的概略図である。この直方体に電極のサイズd1,d2,tが表されている。ここでd1は電極の長さ、d2は電極の幅、tは電極の厚みである。
【0050】
電子デバイス、例えば体積波デバイスの幾何学的構造に基づいて、電気抵抗Rを算出することができる。関係
により、電気抵抗を定めることができる。ここで(elは導電率、Aは例えば電極の面積、d1=lは長さ、d2は幅、tは厚みである。グラフェンの導電率は例えば108S/mにもなり得るもので、従ってグラフェンは例えば銀よりも高い導電率をもつ。電極の厚さtが200μmで面積Aが200μm×200μmである場合、選択された材料については、例えば以下の抵抗値となる。
【0051】
【0052】
ここから、グラフェンがその電気的特性からしても、電極材料として電気音響デバイスに使用可能であることがわかる。
【0053】
図3a乃至3cは様々な層配列における応力分布のグラフである。ここではそれぞれx軸上に層厚の逆数(単位は1:nm)が、y軸上に応力分布DSが示されている。図3a乃至cにて、上側のx軸上に電極Eの領域と圧電層Pの領域が示されている。描かれた線は応力Sを表している。電気音響デバイスに生じる応力を圧電層内で保つ能力が、特に体積波デバイスでは重要である。グラフェンはこの点で、例えばモリブデンやタングステンのような従来の電極材料に比肩する値を示す。
【0054】
図3aには層配列AlCu.AlN,AlCuの応力分布が示される。AlCuはそれぞれ第一、第二電極、AlNは圧電層である。図3bでは両電極ともグラフェンに代えられている。図3cでは両電極ともモリブデンMoに代えられている。
【0055】
3つの図3a乃至3cを比較すると、グラフェンを電極材料として用いた場合、AlCuまたはMo電極を用いた場合に比べ応力分布が極わずかに小さくなることがわかる。グラフェンの密度はほぼAlNの密度の領域にあるので、グラフェン−AlN−グラフェンのサンドイッチの応力挙動も、AlCu−AlN−AlCuのサンドイッチの応力挙動に著しく類似している。こうしてグラフェンは、生じた応力を圧電層内で保つ能力の点でも、従来の電極材料を代替または補完することができる。
【0056】
図4は体積波電気音響デバイスの概略側面図である。このデバイスは基板40、それぞれ二つの第一反射層51、第二反射層52と、1つの第一電極10、第二電極20及び圧電層30を備える。反射層はブラッグミラーを構成し、第一反射層51は高い音響インピーダンスを、第二反射層は低い音響インピーダンスを有している。高い音響インピーダンスは材料の高い導電率を伴うことがあり得るのに対し、低い音響インピーダンスはしばしば材料の絶縁性を伴い得る。
【0057】
第一反射層51は例えばタングステンを、第二反射層52はSiO2を含んでいてもよい。第二反射層は代わりにグラフェンを含んでいてもよいが、その場合はグラフェンが絶縁性を有するように、例えば酸素で処理されている。
このように設けられた反射層は長手方向の波に対しても剪断波に対しても高い反射率をもつ。こうして、これらの波は圧電層に戻されるように反射される。
【0058】
基板40は例えばSiまたはSiO2を含んでいてもよい。実際の共振器は反射層の上にあり、第一電極10、第二電極20及び圧電層30を備える。圧電層は例えばAlNを含んでいてもよく、両電極は、Ti,Mo,TiとMoの混合物,Ru,Pt,W.Al,Cu、AlとCuの混合物のような金属を含んでいてもよい。電極は、上下に重なった複数の、上に挙げたものから選ばれ得る他の材料を含む部分層を含んでいてもよい。ここで、これらの部分層のうち一つはグラフェンであってよい。第一電極10や第二電極20もこのようであってよく、両電極ともこのようであってもよい。両電極10,20とも全体がグラフェンで形成されていてもよい。
【0059】
例えば電極はサンドイッチ構造Ti,Al/Cu,Wを備えていてもよく、その場合、グラフェンを含む層は、TiとAl/Cuとの間、またはAl/CuとWとの間、またはWの上に配設可能である。
【0060】
他の可能なサンドイッチ構造はMo,Ti/Mo,Ruの構造を備え、この場合グラフェンはMoとTi/Moとの間、またはTi/MoとRuとの間に配設されている。
【0061】
図4に示されているような積層体の上に、更に、封止する酸化物層がパッシベーションとして設けられていてもよい(ここでは図示せず)。
反射層51,52から成る層配列は、平坦な分散が得られるような寸法で形成されていてもよい。
【0062】
図5は電気音響体積波デバイス、例えば共振器の分散曲線fR(kx)を示す。ここで波数kx(単位は1/(m)に対して周波数fR(単位はMHz)がプロットされている。分散曲線は、kx=0の場合勾配がなくなる。分散は常に、単調な上昇かまたは極めて平坦であるように選ばれるべきである。平坦または単調な上昇の分散は、音響波のエネルギー損失がわずかであることを示す。図5中の水平方向の両矢印は単調な上昇のkx領域を示す。垂直方向の両矢印は、TE(厚み拡大、thickness extensional)モードとTS(厚み剪断、thickness shear)モードの間の間隔を示す。円は分散曲線の分岐点を示す。
【0063】
分散曲線は、一方の、角周波数すなわち体積波の周波数と、他方の、波数ベクトルすなわち体積波の波数との関係を表す。ここで周波数−波数ベクトル図中の様々な分岐は、共振器の異なる振動モードを示す。長手方向の主モードの付近の様々な種類のモードの間の間隔をできるだけ大きく選ぶと、音響損失を最小にすることができる。
【0064】
図6aは表面波デバイスの概略側面図である。このデバイスは圧電層30、第一電極10及び第二電極20を含む。図6bにはこのようなデバイスの概略上面図が示されている。この図により、第一電極10と第二電極20とがそれぞれ櫛状構造を有しており、各々の櫛はそれぞれ短いフィンガーと長いフィンガーとを交互に備えていることがわかる。異なる櫛のフィンガーは、圧電層30の長手軸に沿って交互に相前後するように、圧電層上に配されている。このことは図6aの概略側面図でも見て取れる。こうして電極10,20の個々のフィンガーの間で電磁波が形成され、該電磁波は圧電層により力学的な波に変換可能で、逆もまた可能である。
【0065】
ここで両電極10,20のうち少なくとも一つはグラフェンから形成されている。ここで電極は全体がグラフェンから形成されていてもよいし、上下に重なった層から成る層配列を有していて、それらの層の少なくとも一つがグラフェンを材料として含んでいてもよい。例えば一方または両方の電極が、一つの単原子炭素層がAl層またはAl/Cu層と結合されたサンドイッチ構造を有していてもよい。
【0066】
グラフェンの高い力学的安定性及び高い導電性のために、これにより、グラフェンを含む電極をもつデバイスの性能を高めることができる。
【0067】
図4及び6に概略的に示されているようなデバイスを覆って、更にハウジング構造が設けられていてもよく(ここでは図示せず)、該ハウジング構造はキャビティを備えていてもよい。
【0068】
本発明は実施例に基づく記載によって限定されない。それ以上に本発明は、各々の新規な特徴およびあらゆる特徴の組み合わせを含むものであり、とりわけ請求項に含まれる特徴のあらゆる組み合わせを、たとえこれらの特徴や組み合わせがそれ自体として露わに請求項または実施例に示されていなくとも、含むものである。
【符号の説明】
【0069】
10 第一電極
20 第二電極
30 圧電層
40 基板
51 第一反射層
52 第二反射層
t 厚み
S 応力分布
1 長さ
2
v 速度
D 密度
E 電極の領域
P 圧電層の領域
R 周波数
kx 波数
TE モード
TS モード
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6a
図6b