【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は請求項1に記載の電子デバイスにより解決される。本発明の別な実施形態の別の課題は、この種の電子デバイスの製造方法を提供することである。この課題は請求項15に記載の方法により解決される。更に別な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0005】
一実施形態によれば、少なくとも第一電極、第二電極、及び第一電極と第二電極と
の間に設けられて電気的に
カップリングされた活性領域を含
む層配列を有する
電気音響デバイスが示される。
この層配列は基板上に配設されており、第一電極はこの基板側に向いて配設されている。この第一電極および/または第二電極はグラーフェンからなる層を含み、活性領域は圧電層を備える。
【0006】
「電気的にカップリングされている」とは、ここでは、オーミック接触または電磁接触を意味する。
【0007】
「層配列」は、幾つかの上下に重なった層を意味し得るが、例えば第三の層の上に横に並べて配設された二層をも意味し得る。
【0008】
電子デバイスの層配列は、一実施形態によれば更に反射層を含んでいてもよい。更に、第一電極及び/または第二電極及び/または反射層は、少なくとも一部の領域に単原子炭素層を含んでいてもよい。
【0009】
その場合第一電極、第二電極及び反射層のうち少なくとも一つは、少なくとも一部の領域に単原子炭素層を含む。
【0010】
こうして、全体または一部の領域が単原子炭素層、つまり合成材料を含む少なくとも一つの電極及び/または少なくとも一つの反射層を有する電子デバイスが示される。
【0011】
単原子炭素層はグラフェンを含んでいてもよく、以下、少なくとも一部で、単原子炭素層はグラフェンと呼ばれる。
【0012】
こうして電子デバイスの一方または両方の電極及び/または反射層には、例えばモリブデンやタングステンのような重い金属は使用されず、それに代わる合成材料が使用される。
【0013】
発明者らは、グラフェンが、電子デバイスが課し得る高い電気的並びに音響的要求を満たすことに気づいた。グラフェンは特にそうした力学的安定性と導電性とを有する。力学的安定性は鋼鉄に勝り、導電性は銅に勝る。
【0014】
グラフェンとはSP
2混成炭素の単原子の厚さの層の名前である。グラフェンの合成は様々な仕方で行われ得る。例えば、グラファイトを酸素で酸化し、一つおきの炭素原子上に酸素原子を配し、堆積した酸素を通して個々のグラファイト層が互いに反対側に押し合うことにより、個々のグラフェン層を単離することができる。別な合成方法は、炭化ケイ素の1500(Cでの加熱である。
【0015】
グラフェンは官能化も可能な多環芳香族炭化水素の一種である。グラフェンの基本構造は、ほとんどの溶媒に不溶のヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に基づく。この基本構造は例えばアルキル鎖により置換可能で、置換後のグラフェンは溶媒中に可溶となる。
【0016】
結晶の形でも溶液中でもグラフェンは柱状に並び得る。その際芳香族核は直接上下に並び得る。柱状配列は自己組織化と呼ばれ、溶液中で配列が生じる場合は、グラフェンの置換基、温度及び濃度に依存して構成される。溶液中での柱状配列により、例えば、欠陥のない理想的な場合、秩序の整った層を持ち、高い電荷キャリア移動性を持つ薄い表面膜を生成することができる。
【0017】
円柱状に配列されたグラフェンは、いわゆる真横向きに、例えば基板上に設けられていてもよい。その場合個々の柱は基板に平行に配されている。あるいはグラフェンは、いわゆる正面向きの柱状配列で、基板上に設けられてもよい。その場合個々の柱は基板に垂直に配されている。これら二種類の配置は共にグラフェン層内部の高い秩序を特徴とする。
【0018】
グラフェンつまり単原子炭素層は、電子デバイス中に複数の単層として配設されていても、多層構造として配設されていてもよい。こうして炭素層は、高い秩序をもち得る単離された層として、あるいは上下に重なった層として、電子デバイス中、例えば第一または第二電極中、または反射層中に存在し得る。
【0019】
電子デバイスは電気音響デバイスであってもよく、その場合活性領域は圧電層を含む。圧電層は例えば窒化アルミニウムを含んでいてもよい。
【0020】
第一及び第二電極は圧電層の一つの面に配設されていてもよい。こうして電気音響デバイスは例えば表面波デバイスであってもよい。あるいは第一及び第二電極は圧電層の対向する面に配設されていてもよい。例えばこの実施形態では体積波デバイスとなる。
【0021】
単原子炭素層つまりグラフェンを、第一及び/または第二電極の材料として、及び/または反射層として電子デバイスに使用できるためには、グラフェンはその音響的特性、電気的特性並びに応力に対する反応についての特定の要求を満たさなければならない。
【0022】
例えば電極については、電極が電気音響デバイスに使用される場合、できるだけ高い音響インピーダンスが必要である。これによりデバイスの良好なQ値を実現することができる。グラフェンは高い音響インピーダンスを有するので、電気音響デバイスにおける電極として使用可能である。
【0023】
高い導電性は、グラフェンを例えば電子デバイスの電極に使用するのに必要な、もう一つの特性である。グラフェンの導電性は10
8S/mにもなり得るもので、従ってグラフェンは例えば銀よりも高い導電性をもち、電極材料として使用可能である。
【0024】
電極材料の選択に当たって考慮すべき別の要素は、電気音響デバイスに生じる応力を圧電層内で保つ能力である。応力挙動または応力分散は、特に体積波デバイスについて重要である。グラフェンはこの点で、例えばモリブデンやタングステンのような従来の電極材料に比肩する値を示す。
【0025】
電子デバイスにて、第一及び/または第二電極は、いくつかの上下に重なった層を含み、そのうちの少なくとも一つの層が、単原子炭素層を含んでいてもよい。こうして、第一及び/または第二電極は、全体が単原子炭素層から構成されていてもよいし、単原子炭素層を含む一つの層と、別の材料を含む層から成るサンドイッチ構造を有していてもよい。
【0026】
第一及び/または第二電極の、少なくとも一つの単原子炭素層を含む層は、Ti,Mo,TiとMoの混合物,Pt,Ru,W,Al,Cu,AlとCuの混合物を含む群からから選ばれた材料を含む少なくとも一つの層と組み合わされてもよい。
【0027】
例えば以下の構造:Ti,Al/Cu,W を有するサンドイッチ構造が形成されていてもよく、その場合、単原子の炭素を含む層は、TiとAl/Cuとの間、またはAl/CuとWとの間、または Wの上に配設可能である。
【0028】
別の可能なサンドイッチ構造は以下の構造:Mo,Ti/Mo,Ruをもつ。この場合もグラフェンはMoと Ti/Moとの間、またはTi/MoとRuとの間に配設可能である。この種のサンドイッチ構造は例えば、体積波デバイスの電極を構成することができるが、この体積波デバイスでは、圧電層が基板上に、第一電極が基板と圧電層の間に、第二電極が圧電層の上に基板とは反対側の面に配設されている。ここでサンドイッチ構造は、例えばデバイスの第一電極を形成し得る。
【0029】
サンドイッチ構造の別の例は、AlまたはAl/Cu層と結合された一つの単原子炭素層である。この種の電極は、例えば表面波デバイスの第一及び/または第二電極を構成することができ、表面波デバイスでは、第一、第二電極とも圧電層の一方の面に配設されている。
【0030】
表面波デバイスの両電極が、いわゆる櫛構造を有し、第一、第二電極の櫛のフィンガーが圧電基板上に交互に前後に並んで配設されていてもよい。その場合第一電極と第二電極との間のそれぞれの領域に力線が形成され得る。
【0031】
表面波デバイスの場合、特にグラフェンの力学的安定性が、グラフェンを電極の材料として使用するのに有利である。体積波デバイスの場合、グラフェン層の高い導電性と良好に決め易い層厚は、電極として使用するのに有利である。どちらの場合もグラフェンを電極材料として用いることにより、デバイスの特性を高めることができる。更にデバイスのサイズを小さくすることもできるが、これは、導電性または力学的安定性が高められるので、適用されている他のすべての電極材料の層厚を減らすことができるからである。
【0032】
電子デバイスは更に、高い音響インピーダンスを有する少なくとも一つの第一反射層と、低い音響インピーダンスを有する少なくとも一つの第二反射層と、基板とを含んでいてもよく、その場合、第一反射層と第二反射層は基板と第一電極との間に配設されている。二つの第一反射層と二つの第二反射層とが交互に上下に重ねられていてもよい。こうして例えば基板と圧電層との間に、圧電層で生じた波が基板を通って逃げないようにするブラッグミラーが構成されていてもよい。第一、第二反射層は(/4ミラー層であってもよい。
【0033】
少なくとも一つの第一反射層はタングステンを含んでいてもよい。第一反射層は導電性を有していてもよい。
【0034】
少なくとも一つの第二反射層は化学修飾された単原子炭素層を有していてもよい。例えば、絶縁性を有する、酸素が付加されたグラフェンを用いることができる。
第二反射層は、電気的に絶縁されてもよい。
【0035】
こうしてグラフェンは、ブラッグミラーの一部として、非導電性材料としても、電子デバイス例えば体積波デバイスに用いることができる。単原子炭素層を含む第二反射層は、第一反射層と第一電極との間に配設可能である。こうしてグラフェンが絶縁体として用いられことで、短絡を避けるために従来必要とされた構造は不要になり、積層形成をプロセス技術的に簡単にすることができる。
【0036】
こうしてグラフェンは絶縁体としても導電体としても実施可能である。絶縁体を得るための酸素の添加は力学的特性を損なうことなく行うことが出来る。
【0037】
電子デバイスは表面波デバイスとして、または体積波デバイスとして、または微小電気機械デバイスとして構成されていてよい。表面波デバイスはSAWデバイス(SAW:surface acoustic wave)とも呼ばれ得る。体積波デバイスはBAWデバイス(BAW:bulk acoustic wave)とも呼ばれ得る。
【0038】
こうして例えばSAWまたはBAWフィルタ、共振器またはセンサや、電子デバイスを備えた導波路や遅延路を提供することができる。更に電子デバイスはいわゆるガイドバルク音響波に基づくデバイスを構成し得る。フィルタから更にデュプレクサを構成することができ、他の複雑なモジュールを構成することもできる。この種の電気音響デバイスは例えば移動通信に使用できる。
【0039】
こうしてグラフェンはその電気的特性に応じて、電極材料として及び/または反射層として、例えば電気音響デバイスに用いることができる。
【0040】
更に、上述の実施形態による電子デバイスの製造方法を示す。ここで単原子炭素層は、化学気相成長、物理気相成長、溶液塗布及び表面化学反応を含む群から選ばれた一つの方法を用いて設けられてもよい。こうして電子デバイスの所望の箇所にグラフェン層を単純な仕方で設けることができる汎用的な方法が提供される。
【0041】
本発明を図面と実施例を用いてより詳細に説明する。